続・森の奥の蜘蛛屋敷 〜黄泉返る恐怖〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月01日〜03月06日

リプレイ公開日:2005年03月06日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さてさて、今日のオモシロ企画はですね、題して『等身大双六』! その名の通り、今流行の絵双六を人間が直接コマとして参加する体感式遊戯です♪」
 テンション高めで依頼の紙を置く、冒険者ギルドの若い衆こと西山一海。
 オモシロ依頼になると途端にテンションが高くなるのは、なんとかして自分もそういったオモシロ企画に参加しようと企んでいるからに他ならないのだが。
「また珍妙な依頼だな‥‥。というか、誰が企画するのだね、そういうのは」
「私に聞かないでくださいよ。とりあえず説明しますと―――」
 今日も今日とて冒険者ギルドで茶を啜りながらツッコミを入れるのは、奉行所同心、藁木屋錬術である。うかつに江戸を離れられない彼は、江戸内の見回りもかねて捜査に勤しんでいる‥‥はず(汗)
 と、そこに長い黒髪の女性が入ってくる。藁木屋の情報提供者、アルトノワール・ブランシュタッドだ。彼女は藁木屋の姿を見つけると、溜息を一つついて言葉を投げる。
「‥‥またここにいるのね。まぁ夕方にはちゃんと帰ってきてくれるからいいんだけど」
「おや、アルトではないか。どうしたのかね、今日は特に頼み事もしていないが」
「‥‥ついさっき、家で退屈してたら情報が入ってきたのよ。私はどうでもいいけど、錬術には知らせておかないとまずいかなって思って」
「それはありがたいが‥‥嫌な予感がするな。私が帰ってから伝えたのでは遅いということだろう?」
「‥‥流石。ちょっと前、江戸の西ギリギリのところに女郎蜘蛛が現れたでしょ? 結構な被害が出たアレ」
「あぁ、よく覚えてます。土蜘蛛を引き連れた女郎蜘蛛‥‥恐ろしく強かったんだなって、報告書作ってて思いましたもん。けどあれって、トドメは刺せませんでしたけど、向うも瀕死だったんじゃ‥‥?」
 一海が口を挟むと、アルトはじろりと一海をにらみつける。もっとも、藁木屋が飲んでいた茶を一口啜って話を続けたのだが。
「‥‥私は錬術に言ってるんだけど‥‥まぁいいわ。とにかく、その『トドメを刺せなかった』っていうのと、『後詰を自警団に任せた』っていうのが災いしたみたいね」
「‥‥まさか‥‥!」
「‥‥そう、そのまさか。いくら強いとは言っても、瀕死状態の女郎蜘蛛じゃ、大勢に囲まれたら流石に生き残れなかった。でも、自警団には退治後のノウハウがなさ過ぎたのよ。‥‥死亡確認、じゃあもういいかって放置した結果、女郎蜘蛛はズゥンビ化。アンデッドとして復活しちゃったってわけ」
「くっ‥‥奉行所の専門家が来るまで待てなかったのか‥‥!」
「まぁ宿場町の人にしてみれば、一刻も早く倒しておきたかったんでしょうねぇ。大みみずの報告書を書く時にズゥンビ化の怖さはよく知ってます」
 アンデッドとして生まれたものではない妖怪がアンデッド化する時、その力は驚異的なものとなる。ただでさえ強い女郎蜘蛛がズゥンビ化した今、その戦闘力はいかほどのものか‥‥?
「すまないが一海君、緊急の依頼としてこの場で急募させてもらう。後日奉行所から正式な依頼として通達するから、双六の依頼はまた今度と言うことで頼む」
「了解です。流石にこの状況で遊びの話はやめときましょう」
「目標、ズゥンビ化した女郎蜘蛛の撃破。手段は問わないが、場所が場所だけに火事は御法度。相手はとにかく頑丈だろうから、怪我がない様気をつけてくれたまえ」
 相手は一匹、今回は部下を連れていない。しかしその力は前回の報告書を読めば一目瞭然‥‥さらに、ある意味パワーアップしているとも言える。
 さらに凶暴化・見境をなくして暴れる女郎蜘蛛騒動に、今度こそ終止符を―――

●今回の参加者

 ea0404 手塚 十威(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5694 高村 綺羅(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1012 ペペロ・チーノ(37歳・♂・ウィザード・ドワーフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

大隈 えれーな(ea2929

●リプレイ本文

●目視、完了
「厄介な敵であるし、こちらも只では済まなそうだが‥‥大きな被害になる前に何としても倒さねばな」
「準備に余裕が出来るから遠目で確認出来たらいいよねー♪」
 すっかりかさかさに干からびている木の葉を踏みしめ、一同は件の宿場町の近くにある森を捜索していた。そんな中、飛鳥祐之心(ea4492)と風月明日菜(ea8212)がふと口を開く。
 ペペロ・チーノ(eb1012)の『江戸の森に、ズゥンビ女郎蜘蛛は実在したでござる!!』というボケはあっさり流されていたが。
「今回の件は、俺の‥‥俺達の力不足が招いた事です。今度は必ず‥‥」
 手塚十威(ea0404)の言葉には、前回女郎蜘蛛を相手にした人間全員が頷く。御神楽澄華(ea6526)も雨宮零(ea9527)も女郎蜘蛛の恐ろしさを体験しているので、さらに強力になったかも知れないと言われては緊張せざるを得ないというものだ。
「確かペペロ殿の協力者のお話では、今はこの辺りの生物を襲っているとか」
「そのとおりでござる。空からでも木々が揺れることで場所が分かるとのことでござるから、地上にいる我輩たちにならすぐ見えるでござろう」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)がボケを流されて落ち込んでいるペペロに確認すると、ペペロはあっさり元のテンションに戻って答えた。
 そして、さらに森に踏み入り‥‥今日何度目かの猪の死体を見かけた瞬間。
「‥‥敵、来る。今のうちに態勢を‥‥」
 高村綺羅(ea5694)がぼそりと呟いた後、疾走の術を発動しに掛かる。
 高村の視線の先を見た風月も、ズゥンビ女郎蜘蛛の姿を確認して魔法の準備をする。幸い向うは何かしらの獲物を追っているようで、こちらには気づいていない。
 ‥‥今は。
「っ、気づかれた! 明日菜ちゃん、急げ!」
「えぇーっ!? そ、そんなこと言われてもー!」
 丁度半分‥‥手塚、高村、御神楽、雨宮の武器にオーラパワーを付与し終わったところで、飛鳥が女郎蜘蛛の接近を知らせる。どうやら追っていた獲物を仕留めたので、一番近くにある生物の気配を感じてやってきたらしい。
「こちらも間に合いません‥‥ご容赦を」
 御神楽がバーニングソードを付与できたのは、飛鳥、風月、自分だけ。フレイムエリベイションを唱えていたのがタイムロスだったのだろう。
 そしてやってくる。恐ろしい破壊力を持った、黄泉返りし恐怖が―――

●恐怖、終わるとき
「蜘蛛神よ。死した後まで苦しむな。土に還るがいい」
 一行はズゥンビ女郎蜘蛛を取り囲むように陣形を組む。女郎蜘蛛の真正面に立って野太刀を構えるのはデュランダルである。
 女郎蜘蛛の大きさは以前と変わりないが、外見は大きく違っている。あちこち傷らしきものや腐食が始まっているところも見受けられていた。そんな状況でどれだけの知能があるものだろうか?
「なっ‥‥そちらではない、こっちだ! なぜ背を向ける!?」
 にらみ合っていたはずのズゥンビ女郎蜘蛛が突然向きを変え、標的を御神楽に変更したのである。これには流石のデュランダルも声を上げた。
「くっ! 先手必勝です!」
 動きの鈍いズゥンビ女郎蜘蛛を先制して攻撃する御神楽。だがバーニングソードをかけた霞刀ですら、かすり傷程度にしかならない! 続いての女郎蜘蛛の攻撃を受け流す御神楽だったが、その一合だけで充分に伝わったのだ。その脅威が‥‥。
「向きを変えた!? 今度は‥‥飛鳥さん、気をつけて!」
「やいやいやいっ、出やがったなこの死霊蜘蛛が! 死んでもまだうろつきやがるたぁ迷惑千万! 俺らが引導渡してやっから覚悟しやがれっ!」
 やたら威勢のいい江戸っ子口調に変わった飛鳥が斬馬刀を構える。どうやらこのズゥンビ女郎蜘蛛は『知能が低いから目標に固執する』というわけではなく、『知能が低いからすぐに目標から興味を失う』タイプらしい。
 飛鳥が斬馬刀で一閃すると、女郎蜘蛛は軽傷を負って金切り声を上げた。反撃を避けきれず中傷に陥った飛鳥だが、リカバーポーションを使用してすぐに回復する。
「アイスチャクラ‥‥牽制くらいにはなるでござろう!」
「生憎、僕はまだ‥‥死ぬわけにはいかないから」
 ペペロの武器創造系魔法と、オーラパワーのかけられた雨宮の攻撃が女郎蜘蛛にさらなる軽傷を与え、動きを奪っていく。
「時間が無いから自分にはオーラパワー使えてないけど、僕も牽制くらいはねー♪ 前回は酷い目にあったけど、今回はそうは行かないよー!」
「‥‥綺羅も、陽動‥‥」
 風月と高村も攻撃を仕掛けはするが、威力のある武器を持っているわけでもなく、オーラパワーも付与されていないので、かすり傷で怯ませるのが精一杯である。だが、それに続く手塚は‥‥!
「風月さんの魔法、無駄にはしませんよ! オーラパワーがあれば、僕だって!」
 装備品の重量が嵩んでいる為、連続攻撃は無理だが‥‥日本刀を使っての攻撃が、すでに中傷となっている女郎蜘蛛を捉え、さらなる軽傷を与えた。
 基本的にズゥンビ化した生物は回避力が無いに等しくなるため、問題はその耐久力をどう打ち破るかに掛かってくる。今回のようにオーラパワーが使える人間がいれば、よほどのことが無い限り負けは無い。
 だが、それも‥‥。
「ぐぅぅっ! こ、この装備でこの傷だと‥‥!? なんという馬鹿力だ!」
 手盾で吐き出された糸を受け止め、放り出してしまったデュランダルは、続けて突撃してきた女郎蜘蛛の牙をギリギリのところで避けきれず、もらってしまったのである。
 大鎧、鬼面、烏帽子兜、レザーマントと身に纏うタイプの装備も大充実しているにもかかわらず、軽傷を受けている。幾分か出血しているが、仲間の血でないため狂化はしないようだ。
「みんな下がってくれ! 俺に考えがある‥‥うまくいけば、一撃で仕留められる!」
「む、無茶を言わないでくださいよデュランダルさん! 確かに女郎蜘蛛は傷を負ってますけど、デュランダルさんも‥‥!」
「雫くん、ここは任せたほうがいい。我々が遠ざかれば、それだけやつの注意もデュランダル君に向きやすい」
「‥‥しくじったら助けに行けばいい。あの装備なら、いきなり死にはしない」
「飛鳥様、高村様‥‥仰りたいことは分かりますが、いくらデュランダル様でもあの化け物相手に一人は‥‥」
「じゃあ御神楽さん、念のために準備しようよー。もしデュランダルさんが失敗しても補佐出来るようにねー♪」
「‥‥承知しました」
 結局話がまとまって、デュランダルを除く7人が一端女郎蜘蛛から距離を取る。
 目の前に獲物が一人だけのせいか、女郎蜘蛛が目標を変更しようとする気配は無い。ただ一直線に、牙をむき出しにしてデュランダルに向かうのみ‥‥!
「その傷で、これに耐えられるか‥‥!?」
 じゃぐぅっ! 嫌な音が響き、デュランダルが再び噛み付かれ、中傷となる。だが、その勢いを利用してのカウンターアタック+スマッシュEXの複合技を発動する‥‥!
 あれだけの耐久力を誇るズゥンビ女郎蜘蛛が一撃で重傷。戻ってきた手塚が一撃、飛鳥が一撃加えて、女郎蜘蛛は動かなくなった。
「すごいでござるなぁ。余程の度胸がないとできんでござるよ、あんな戦法は」
「仮に『ブラストセイバー・クロス』とでも名づけておこうか。装備に助けられた感は否めないが」
「それでも凄いですよ。あの攻撃なら小鬼程度なら一撃即死もありえます」
 ペペロも手塚も感心しきりである。
「何とか死なずに済んだな‥‥俺達も‥‥宿場町の人達も‥‥良かった」
 高村の提案で女郎蜘蛛の身体を完全にバラバラにし、埋めて供養した一行。もうこれで二度と蘇生する事も無いだろう。
 見回せば各々大した傷も無く‥‥森をうろつく恐怖は、今討ち取られたのである―――

●謎
「しかし我輩の知る限り、生物が自然にズゥンビ化する可能性というのは無くは無いが、かなり低いはずでござる。たまたま運悪くズゥンビ化しただけか‥‥それとも」
「どういうことー? 誰かがわざわざズゥンビ化させるのを手伝ったとかー?」
「確か、クリエイトアンデッドの魔法ではどんなに優れた術者でも1日が限界と聞き及んでいます。自然のズゥンビ化を助長させる手段などあるのですか?」
「どうなんでしょうね‥‥ただ、もしこれが人の手によるものだったとしたら、僕はその人を許せません。女郎蜘蛛だって、死んだ後に誰かの駒にされるなんて思っても見なかったでしょうし」
「‥‥憶測に過ぎないけど‥‥注意したほうがいいかもね」
 帰りしなに、ペペロがふと口にした疑問。風月にも、御神楽にも、雨宮にも真相を知る術は無い。
 高村が何気なく空を見上げた先には、儚く輝く一番星が―――