●リプレイ本文
●始めに
「さぁいよいよやってきました、第一回又の名コンテスト! 分かりやすく言うと品評会! 雪で順延になっていましたが今日開催です! 決して龍玉乙参に現を抜かしていたわけではありません!?」
よく分からない叫びを言葉尻に残し、審査員の一人であるはずの西山一海が司会進行まで受け持っている。天気は快晴‥‥楽しみにしていた観客も思いの外集まっており、神社は人でごった返していた。
「よくもまぁ、あそこまでノれるものだ‥‥」
「‥‥五月蝿いから殺しちゃおうかしら」
半ば無理やりに審査員を押し付けられた藁木屋錬術と、その密偵役のアルトノワール・ブランシュタッドは全然乗り気ではないようだが。
「では、厳正なる抽選(アミダ籤)によって決定した対戦表はこちらです!」
後ろから聞こえてくる怨嗟の声をキッパリと無視し、一海は備え付けてあった掲示板に掛かっていた布を取り去る。
そこには参加者全員の名前と、トーナメント表。詳細は以下の通りである。
第一試合:トマス・ウェスト(ea8714)VS 潤美夏(ea8214)
第二試合:白河千里(ea0012)VS 氷川玲(ea2988)
第三試合:雨宮零(ea9527)VS 南天輝(ea2557)
第四試合:鷲尾天斗(ea2445)VS 大隈えれーな(ea2929)
第五試合(シード枠):音羽でり子(ea3914) VS 八幡伊佐治(ea2614)
第六試合(シード枠):夜神十夜(ea2160)VS 大宗院鳴(ea1569)
この順で試合(?)をし、トーナメント表を勝ち上がっていけ、ということらしい。まぁ論より証拠、やってみたほうが早い。
今、このわけの分からない大会の火蓋が切って落とされる―――
●第一試合
「それではっ! 選手入場です! ご自分の又の名と、そのアピールをどうぞ!」
一海がそう叫ぶと、舞台の上手からドクターウェストが、下手から潤が登場して観客と向き合う。
どうやら上手側から出てきたほうが先攻のようである。
「けひゃひゃひゃ。我が輩のことは『ドクター』と呼びたまえ〜。又の名は『マッド・ドクター』だね〜。特に医者らしいことをしたわけではない時につけられた名前なのだよ〜」
独特の笑い声を上げるドクターに、よせば良いのに藁木屋がツッコむ。
「ドクター? 確か参加用紙には、トマ―――」
「我が輩のことは『ドクター』と呼べと言っただろ〜。君の頭は南瓜かね〜?」
そういうリアクションに慣れているのか、完璧なタイミングで逆にツッコむドクター。その妙な迫力の前に、藁木屋もあっさり負けを認める。
「ところで、『マッドドクター』というのはどういう意味なのだ?」
「簡単に言うと、『トチ狂ったお医者さん』でしょうか♪」
「‥‥『危ない医者』でしょ?」
「‥‥どっちにしても聞こえがよくないな‥‥(汗)」
一海に聞いた後の返答や、アルトの言葉に思わず冷や汗を掻く藁木屋。医者としてどうよ、といった感じなのだろう。
「けひゃひゃ。そういえば、君の『又の名』を考えてきたのだよ〜。『貧乏くじ同心』というのはどうかね〜?」
「‥‥断固お断りします」
「けひゃひゃ、だろうね〜」
とりあえず一段落したところで、今度は潤のアピールタイムである。
「競えと言うのなら競って勝つ。それが私のじゃすてぃすですわ。誰が呼んだが知りませぬが、人は私をこう呼ぶですわ、『毒舌料理人』と!」
愛用の調理器具を手に持って、ビシっとドクターに向ける潤。とりあえず直接殴りあうような催し物ではないので、あんまり意味はない。
「とりあえずあなた! ドクターなんて呼ばせるということは、自分に自信のない証拠ですわ! そんなあなたが又の名で勝負しようだなんて、十年早いですわ!」
「あのー、潤さん。大会の趣旨から離れちゃうんで、相手への攻撃は止めてもらえますか?」
「‥‥っていうか‥‥あれがアピールなんでしょ。『毒舌料理人』なわけだし」
「迷惑な料理人だな」
「けひゃひゃ、余計なお世話だね〜。医者がドクターと名乗って何が悪いのかね〜」
「うっ、本格的な喧嘩が始まる前に判定に行きましょう! 私は『超ウェスト無敵観音弐拾八号絢爛』の完成を祈願して、ドクターに!」
「どう審査しろというのだ、こんなもの。だが上からの命令もあるしな‥‥真面目に考えるしかないか」
「‥‥私は潤。他人に向けられる毒舌なら聞いてて面白いもの。‥‥私に言ってきたら殺すけど」
「アルト、公共の場でそういう発言は止めような。私は‥‥トマ、いや、ドクターにしよう。なんとなくマッド・ドクターのほうが響きが良いような気がする」
「ということは、勝者、ドクター! 二回戦進出です!」
会場から歓声が巻き起こり、潤が審査員に吐いた毒をかき消す。
藁木屋は気になったのだ。又の名より何より、潤の口元にある、容姿に合わない『ヒゲ』が―――
●第二試合
「続いて第二試合! どうぞ!」
第一試合の二人と入れ替わるように、上手側から白河、下手側から氷川が登場する。観客は一気に静まり、二人の言動を見守っている。
「私は白河千里。我が称号は『お茶目さん』。酒場に行っては茶ばかり頼むのでな『茶に目がない』が転じてこうなったのだ。松之屋の茶は絶品だからな♪」
と、何故か会場からブーイングが飛ぶ。『そんなわきゃねーだろ!』というような野次まで飛ぶ始末である。
「‥‥すまん、嘘だ(何と無く目逸らし)。いや何、ちょっと友人に食いすぎると腹を下す山菜を大量に盛った
だけなんだが。志士としてはもう少し凛々しい又の名が欲しい。せめて『さすらいの甘味志士』とか『必殺★両手に団子串』とか‥‥」
「へぇ〜‥‥」←メモを取る一海
「頼むから本気にするなよ。戯言だ」
「ふふふふふふ(邪笑)」
「おいっ!?」
「一海君の冗談に付き合っていると命を縮めるぞ。申し訳ないがとっとと続けてくだされ、氷川殿」
一海が白河をからかって楽しんでいると分かっている藁木屋が、さっさと場を進める。
「おぉ。しかしな‥‥一体どうしろと。とりあえず呼ばれてるのは‥‥『暗殺者』、『誇り高き大工』、『佐之の魂の友』くらいなんだけどな」
「‥‥『暗殺者』って‥‥こんな大衆の前に出てきていいの?」
「そう呼ばれてるだけだ。どっちかっていうと喧嘩屋に近いからな‥‥後ろから敵を狩ったら勝手に付けられたんだよ」
「‥‥ふぅん。佐之っていうのも確か喧嘩屋よね。魂の友ってうのはよくわからないけど」
「男は魂で分かり合うもんなんですよ、アルトノワールさん」
「‥‥魂、ね‥‥」
「あ、あ、なんで指をゴキゴキ鳴らすんですか?」
「‥‥魂だけになったほうが分かり合えるんじゃない?」
「は、判定ー! 判定に行きましょう! 私は白河さんに一票! 藁木屋さんは!?」
「逃げたな。私は氷川殿かな。数の上でも、内容的にも」
「‥‥私も氷川。今度、家でも建ててもらおうかしら」
「では、勝者は氷川玲さんということで!」
冷や汗を必死に押し隠して宣言をする一海。意外そうな顔をする氷川のリアクションも、また一興―――
●第三試合
一海のコールをかっ飛ばして、第三試合。上手から雨宮が、下手から南天が登場し、アピールを開始する。
雨宮は何故か薄く紅を塗っており、いつもの一枚着ではなく、女物のしっかりした着物である。
「えっと‥‥僕の又の名は、『片紅眼の芍薬』です。‥‥えっと‥‥他に何したらいいんでしょう。い、居合い斬りでもしましょうか?」
「せんでいい。というか、その格好は何かね? 新年会で会った時はそんな趣味があるとは思わなかったが」
「‥‥『片紅眼の芍薬』だから‥‥じゃない? 片方の眼が赤いのは見れば分かるけど、芍薬って女を例える言葉らしいから。女装しなくてもいいと思うけどね」
「いや、それは私も承知しているが‥‥見たまえ、会場のちょっと特殊なお姉さま方に大好評だぞ」
「え!?」
雨宮が観客席を見ると、その中に目をギラつかせた女性がちらほらと‥‥。
「あ、いや、僕はそんなつもりじゃ‥‥どうしましょうか、藁木屋さん!?」
「私に訊かれても。襲われないように注意して帰ってくれ、くらいしか」
「‥‥ただでさえ紛らわしいのに、そんなカッコしてくるあなたが悪いのよ」
雨宮がオロオロする様も、お姉さま方を喜ばせるだけである。気を利かせた一海が場を進め、雨宮を下がらせた。
「さて、では俺の番か。俺は『頼りになる兄貴分』、『巳忍』、『喧嘩屋兄弟(兄)』の3つだ。3番目がよく分からないだろうから補足すると、喧嘩屋、結城佐之と義兄弟になったからこう呼ばれるようになった」
「また佐之さん関連ですか。氷川さんと南天さんがここに集まったのが奇遇だったのか、佐之さんっていう人が有名なのか‥‥」
「しかし、ずいぶん対照的な二人だな。『男!』という感じの南天殿と、『女!』という感じの雨宮君」
「‥‥どっちも男なんだけど‥‥判定は?」
アルトノワールが聞き返すまでもなく、三人一致で南天輝に軍配が上がった。その後、雨宮がお姉さま方の包囲網を掻い潜って無事に帰れたかどうかは、定かではない―――
●第四試合
「さぁ、通常枠最後の一戦です! 上手側から鷲尾さん! そして下手側から大隈さんの入場〜!」
次からは優先枠の戦いになるのである。アミダとはいえ、運も実力の内‥‥ということか。
「関西ヨゴレ芸人に江戸の笑いをコテコテにはさせん! 音羽さんを倒して江戸は俺が守る!」
と、何故か音羽でり子をビシッと指差す鷲尾。なんでもお笑い芸人のライバルだとか。そして、天斗あ俯き加減で呟き始める。
「天斗です‥‥名前を見ると皆「てんと」と間違えるとです‥‥タカトです。天斗です‥‥又の名が『ヌシ釣り』なんですが、ヌシがかかった竿は俺のじゃありませんでした‥‥天斗です」
「切なっ!」
「どうしてそれでそんな又の名が付くんだ‥‥」
「天斗です‥‥藩士なのですが素行が悪いせいか藩士段位は仲間内で一番下です‥‥天斗です」
「‥‥藩士って段位で計るものなの?」
自分の世界に入っている天斗はとりあえず放っておいて‥‥次は大隈の番である。
「ジャパン人の父、イギリス人の母を両親に持つ忍者です。昨年より母の故郷イギリスを拠点にメイド業の傍ら冒険者として活躍。その甲斐あって(?)『メイド忍者』を名乗らせて戴いてます♪ 他にも『2つの故国持つ忍びの者』、『冒険者養成学校の英雄』、『賛歌に語られる者』等もありますよ♪」
この大会に一番乗り気な参加者である大隈。又の名の数も全参加者中最多である。
「メイド‥‥とは何かね?」
「‥‥ジャパン風に言うと女中ね。ご飯の用意したり、掃除したり、夜の―――」
「そこから先は禁句ですよっ! 私をクビにするつもりですか!(汗)」
「‥‥ちぇ。まぁ女中と違うのは、メイド服を着れば人目で誰でもメイドってわかるところかしら」
「私とあまり年齢差がないのに立派なことだな」
判定は、1対2で大隈の勝利。最後に大隈に入れたアルトノワール曰く‥‥『‥‥会場の男どもの目が鬱陶しかった』とのことである―――
●第五試合(シード枠)
「さぁ、ここからは優先枠! 幸運にも一試合少なく決勝までいける、運のいい方々の戦いです! まずは音羽さんと八幡さん!」
上手側が音羽、下手側が八幡という配置で登場する。ちなみに、いつの間にか審査員席の後ろに陣取っていた白河が、『伊佐はただのエロ坊主なだけだぞ』等の茶々を入れていたりした。
「ちょえーっす! 笑わせ師の音羽でり子参上! 今回、ウチが使用する又の名は『ヨゴレ笑わせ師』と『芸の為なら金をも忘れる』この二つや。他にもあるんやけど、それは秘密っちゅうことで!」
「‥‥ヨゴレって‥‥別に泥だらけってわけでもなさそうだけど」
「そういう意味ではないさ。なんというか‥‥羞恥心を乗り越えた人というか、なんというか」
「二つ目も容易に想像できますねぇ。音羽さんも有名人ですから、彼女の豪快っぷりは私もよく知ってます」
アルトノワールへの答えに窮する藁木屋と、何故か男泣きしながらうんうん頷く一海。
「‥‥ふぅん。でも、お金は忘れないほうがいいと思うわよ。どうでもいいけど」
「キツッ! そない素で返されたら、ボケが死んでやないの!」
「‥‥は?」
「あー、アルトは天然だからな、言うだけ無駄だ。おとなしく次へ行こう」
音羽がちょっと恨めしそうにアルトをにらんだ後、ブツブツ何かを呟いている。天然で返せないようなボケを模索しているのかもしれない。
「僕の又の名は結構地味なんだが‥‥『熊殺し』と『蜜柑坊主』。以上」
「なんで蜜柑やねん!」
ビシッと音羽のツッコミが入る。それはまさに完璧なタイミングのツッコミ‥‥!
「いや、何でって言われても。ある依頼のときに蜜柑を持って行ったら、そう呼ばれたわけで‥‥蜜柑と坊主、前半後半あまり噛み合ってないし。どうなんでしょうね、藁木屋殿」
「私に訊かないでくれたまえ」
「無視かいっ!」
またも音羽のツッコミ。本来ボケ側であるはずの音羽だが、アルトに巣で返されて調子が狂っているのかもしれなかった。
「お坊さんが熊殺しって言うのも引っかかりますけど‥‥やっぱり私は音羽さんに一票ですかね。あの切れのいいツッコミ‥‥只者じゃありません」
「‥‥私は八幡かしら。蜜柑食べたくなっちゃった」←どーゆー理屈だ
「むぅ‥‥私は音羽嬢だな。何かやってくれそうな気がする」
会場の反応を見ても、妥当な判断のようだった。もしかしたら八幡の敗因は、樽やらひょっとこやらに隠れてしまったことなのでは―――(ぉぃ)
●第六試合(シード枠)
ざわ‥‥ ざわ‥‥
会場がそんなどこかで聞いたようなざわめきを発している理由。それは一重に、下手側から出てきた大宗院の所為に他ならない。巫女服に身を包み、上品な仕草と出で立ちが、観客席の男は勿論、女性陣にも溜息をつかせるからである。
「‥‥やりにくいな。本当は上手側の俺からのはずなんだが、そっちが先で頼む」
と、対戦相手夜神が言うが‥‥。
「ん〜、そうですか? わたくしの又の名は『天然お嬢様』というらしいのですが‥‥そういえば、わたくしの又の名ってどういう意味なのでしょうか? よく云われる『天然お嬢様』って変ですよね。天然の意味は人工物でないと云うことですが、人はすべて、一人では生きられなくすべての人々の愛を受けて成長するものですわ。そう考えると『天然お嬢様』と云うのは間違えで、正確には『人工お嬢様』となるのではないでしょうか。いや、わたくし今は神に仕える者なので『神工お嬢様』になるのではないでしょうか」
「俺に訊くなっ。それに、俺の前ではそんなことはどうでもいいことなのさ」
ふっ、と軽く笑い、夜神は向き合っていた大宗院から観客側へと向き直る。そして、息を大きく吸い込むと‥‥!
「乳は好きかー!? 俺は大好きだー!」
しぃぃぃぃぃん‥‥
「あっちゃあ‥‥とーや、そっちでいくんかいな‥‥」
音羽と夜神は夫婦らしく、一瞬でその意図を見抜いた音羽が頭を抱えていた。会場はというと、クールな外見の夜神からそんな台詞が飛び出そうとは考えもしなかったらしく、ぼーぜんと固まっている。
「俺の又の名は『乳愛好家』‥‥巨乳や貧乳等の差別は乳に失礼、それが偉い人にはわからんのです。乳は全て平等なのです、はい!」
「あ、あの‥‥すいません、それくらいにしておいていただけると‥‥」
「でり子! 俺の勝利のために、ちょっとばかり協力してくれるか!?」
「駄目です、助っ人は認めません! というか、認めたら私がクビになりそうな気がするんで勘弁してください!?」
「む‥‥では仕方ない、熱弁だけで我慢しよう。俺の妻でり子は貧乳だ、だが! 俺は貧乳でも好きだぞ、乳愛好家の前では貧乳も巨乳もない、ただ乳があるだけだ! 乳愛好家の妻の乳が巨乳じゃないと驚く奴も多いが、こいつの貧乳だって最高だ!」
「とーや‥‥勘弁したってや‥‥」
「勘弁して欲しいのはこっちです‥‥」
男泣きする一海の隣で女泣きする音羽。自分でも自分の胸のことをネタにすることを考えていたらしいが、そんな気はすっとんでいってしまったらしい。
「‥‥江戸でも名うての実力者じゃなかったっけ‥‥あの夜神ってやつ」
「‥‥頼むから私に訊かないでくれ‥‥」
終始疑問符を浮かべていた大宗院を尻目に、審査員3人は泣く泣く(一人はホントに泣いていたが)夜神の勝利とした。
観客席からは夜神に賛同するような、それでいて大宗院の負けを惜しむような、奇妙な男どもの声が響いていた―――
●栄光は誰の手に!?
大分趣旨がズレてきたような気もするが、この大会は『どちらの方が自分に相応しい又の名を持っているか』という点を競う大会である。よって組み合わせの時点で随分勝敗が分かれてしまうはずだが、それはそれ、これはこれである。
二回戦第一試合、ドクターVS氷川の試合はドクターの勝利に終わる。
ドクターの『治療院の庭になぜか紅天狗茸が自生しているのだよ〜』とか『そういえば新年会の席で、摂政殿に『藩主殿』と言いまくって困らせたこともあったね〜』等々、マッドな自分を存分にアピールしたのが効いたのだろう。
残念ながら氷川はどうアピールしていいものか分からない派のようだったが、安心して欲しい。それが普通である(ぉぃ)。
二回戦第二試合、南天VS大隈。
お互い自分らしい又の名と生き方をしている二人であり、藁木屋が南天、アルトノワールが大隈に入れ、まさに実力(?)は伯仲。しかし悩んでいた一海に観客の男衆が半ば怒声に似た野次を飛ばし続けたため、一海はなさけなくも大隈に一票を投じたのである。
南天は笑って許してくれたが、なんとなくいたたまれない一海であった。
二回戦第三試合、音羽VS夜神。
夫婦対決となったこの組み合わせだったが、音羽が先の夜神の言動で完全にペースを崩壊させたことと、再び乳について熱く語りだした夜神が音羽にじりじりとにじり寄り始めた瞬間に、藁木屋と一海が羽交い絞めにして制止させたことで最早勝負ありである。
半分トランス状態の夜神は、音羽どころか参加者の潤、大隈、大宗院辺りにまで手を出すんじゃないか!?と男審査員二人組みは思ったのだ。この報告書が上げられなくなる前にとっとと夜神を勝ちにしてしまおう、ということだろうか。
第三回戦、ドクターVS大隈。
正直、一海はまた観客の言うままに大隈に入れなければならないんじゃないかと怯えていた。しかしそこはマッドドクター、『最近冒険者長屋、特に箱崎町付近でネズミを見かけなくなったという噂は聞いたことないかね〜?』と、意味深な台詞と薄ら笑い。ドクターの範疇は動物に止まらないと察知した男衆は沈黙。そんな助け舟の効果もあってか、2対1でドクター・ウェストの勝利であった。
決勝、ドクターVS夜神。
激戦であった。いや、端折っておいて難だが、そう言うしかない。ドクターは超ウェスト無敵観音改・漢の浪漫バージョンの構想を語りだすわ、夜神は三度乳について語り、音羽が駄目そうなのでアルトノワールに手を出そうとして返り討ちにあうわと、収拾の付かないお祭りであった。
しかし、その混沌を制した又の名は‥‥!
『トマス・ウェスト‥‥又の名を、マッド・ドクター』であった。
「『乳愛好家』が優勝じゃ、なんだか他の参加者さんが報われないじゃないですかぁぁぁぁ!?」
数々の名勝負(?)と又の名を生んだこの大会を締めたのは、一海の半泣きの叫びであったとか―――