京都への誘い 〜真の漢を求めて〜
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月16日〜03月26日
リプレイ公開日:2005年03月20日
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●オープニング
「諸君! いま京都は大変な危機に陥っている! このことには家康公も心底、心を痛めておられるのだ‥‥いまこそ我らの志を無駄にはせず‥‥」
「ああ、あれですか‥‥何でも、京都へ向かう有意の者たちを集めているんだそうです」
冒険者ギルドの一室で熱弁を振るう一人の武士。それを見ながら、冒険者ギルドの係のものはつぶやいた。
「あのお侍様‥‥何でも、清河八郎、って方らしいんですけどね。どうやら、京都の危機に、神皇様をお助けに参ろうと、そういう話らしいですよ?」
後ろで続いている檄の声を背負いながら、係は興味を持った一同に声をかけると、資料を手にその続きをまくしたてる。
「先年、家康様が京都より戻られたのは、ただ江戸の町を妖狐に襲われた、という理由だけじゃないらしくてね。風の噂じゃ、京都でも妖怪どもが大きな顔をしてるらしいんだよねえ」
そんな話を聞いている最中、清河の熱弁は一通り終わったようだった。改めて自分が人を集めていることを語り、一礼して去る武士に向けて、ギルドのものは愛想の拍手を送ったりしている。
「あっと、話がずれてましたね‥‥京都のほうも不穏で、新撰組や京都守護だけじゃ手が回らないってことだそうですね。そこで、江戸から力の余っている浪人者や冒険者を集めて、京都の警備にあたらせたり、あっちでできたばかりのギルドの仕事を任せてみようという話になったそうなんですよ」
そこまで告げると、係ににこりと微笑んで、依頼の内容を指差した。
「‥‥一旗揚げようという気があるのなら、この話に一枚噛んで、ぜひ上洛してみてはいかがですかね?」
さて、ここからが本題である。
「今、京都は混沌の渦中にあるッ! 右京は荒廃し、魑魅魍魎が徘徊‥‥志士を騙る偽志士もその数を増してきているのだぁッ!」
だんっ! と机を叩き、一人の男が冒険者ギルド内で熱弁を振るっている。その横では、振動で茶がこぼれないようしっかりと湯飲みを握り締めている西山一海の姿があった。
本来ギルド職員の一海が依頼の紹介をするのが筋なのだが、何故か今日は違っていた。
「そう‥‥本来日本の首都であるはずの京都は、今や江戸に比べれば寂れてしまっているッ! 京都冒険者ギルドは殆ど開店休業状態‥‥このままでは京都付近の治安にも支障が出る可能性もあるッ! 京都は、真の漢を求めているのであるッ!」
あれだけ叫んでいるのに息一つ乱さず、男はマントを翻すようにポーズをとる。なんだなんだと周りの職員も振り返っているが、当の本人は全く意に介していない。
「‥‥もういいですか、城さん」
「うむ、我が魂は存分に伝えた。後は君に任せよう」
「それはどーも。えっと、多分城さんの弁舌だけじゃ分かりにくかったでしょうから、僕からも説明しますね」
一海は湯飲みを机に置くと、太刀を帯びた男の後を続ける。
「この人は大牙城(たいが じょう)さんといいまして‥‥僕の古い友人なんです。京都ギルドの職員なのに自ら妖怪退治もする、蝶・武闘派の浪人です。今回、京都ギルドから応援要請が来まして‥‥京都のために手練の冒険者さんを紹介して欲しいそうなんです」
掻い摘んで言うと、今回は京都への移住の誘いも兼ねた、京都ギルドからの依頼である。
途中腕試しとして、とある棄てられた山村に住み着いている怨霊4匹を退治して欲しい、とのことだ。それが終われば、そのまま京都へ入ってもらってかまわない。
「この大牙城‥‥真の漢を目指し、また求めているッ! さぁ、共に目指そう‥‥遥かなる高みをッ! そして、京を救おうではないかッ!」
「え、えーっと‥‥とまぁ、こんな人です。勿論、京都ギルドの職員全員がこんな人じゃありませんから、安心してください」
江戸から離れ、新天地京都へ。
京都を救う真の漢(つまりは猛者?)は、あなたかもしれない―――
●リプレイ本文
●船上の一時
空は快晴と言っていい程済み渡り、太陽は暖かい光を地上に降り注いでいる。
とは言っても三月の風は冷たく‥‥特に琵琶湖上の船は、風を防ぐ術がないのだから尚更である。
「帰ってきたのね‥‥皆、生きていれば良いのですが‥‥」
「あ、あの‥‥どうか、したんですか‥‥? その‥‥先程、お酒を琵琶湖に流して‥‥」
船の上で物思いに耽っていた天道狛(ea6877)に、水葉さくら(ea5480)が話しかける。水葉のほうは寒いのでまるごとネズミーを着ているので、イマイチ緊張感は出ないが。
「あたしは延暦寺の僧兵でね‥‥江戸に居る弟子のところへ言ってたんだけど‥‥新年会で延暦寺が復活した酒呑童子に占拠されって聞いて、この機会に帰ることにしたのよ」
箱根を通り、木曽川を渡り、琵琶湖を船で往く‥‥箱根ではグリューネ・リーネスフィール(ea4138)や鷹神紫由莉(eb0524)が温泉に入ると主張して時間を取ったし、気分屋の殊未那乖杜(ea0076)や心配性の菊川旭(ea9032)も、理由は違えどあちこちで歩を止めたりしていたため、どちらかといえば今回の旅は物見遊山のような雰囲気になっていた。
それでも、天道のように深い想いを抱いて参加している者もいるのである。
「ご家族、ご無事だといいですね」
「大丈夫だよ、京都に向かう人も結構多いみたいだし、延暦寺だって救えるよ!」
ふと見れば、縁雪截(ea0252)とテリー・アーミティッジ(ea9384)もやって来ていて、微笑んでいた。天道は少しびっくりした様子だったが、すぐに微笑んで応える。
「そうね‥‥希望は捨てちゃいけないわ。行く前からこれじゃ、お話にならないものね」
「そ、そうですよ‥‥が、頑張りましょう‥‥!」
そのためにも、この先の廃村の怨霊ごときに負けていられないのである。4人は決意も新たに、すでに目視出来る範囲まで近づいた対岸を見つめる。
「‥‥んー‥‥俺ら、もしかして脇役扱いか?」
「俺たちは戦闘で活躍しよう。いつまでも兄上の心配ばかりしていられないしな」
「半ばタイガー殿に乗せられただけの私も、少々肩身が狭いです‥‥」
「っていうか私たち、物陰に隠れる必要あるのかしら?」
殊未那、菊川、縁、鷹神は、何故か物陰から天道たちの様子を観察していたのだった―――
●戦場の一時
「ラ、ライトニングサンダーボルト‥‥!」
「よしっ、クリスタルソードで続く!」
水葉の放った雷光が怨霊の一体を直撃し、菊川が魔法で作り出した剣で追撃を仕掛ける。中傷(実体がないのに傷、と言うのも変だが)に陥った怨霊は、その動きをさらに鈍くする。
件の廃村にたどり着いた一行は、テリーとグリューネのミミクリーズ(命名・殊未那)が変身して偵察し、仕入れてきた情報を元に行動を開始していた。
即ち、怨霊は昼にも行動しているが、動きはバラバラかつ不規則。かと言って夜になったら廃村の中を4体まとまって行動すると言うわけでもないので、待ち伏せは厳しい。
よって、どちらかと言えば視認しやすい夜になるまで待ち、全員固まって行動、出くわした怨霊を片っ端から潰していこう‥‥という作戦になったのである。今までのタイムロスを鑑みると、あまり時間の余裕がないのも理由の一端だが。
「痛ぅっ! 野‥‥郎っ!」
予めオーラパワーを纏っていた殊未那は、長巻+スマッシュで怨霊の一体を重傷に追い込む。先に怨霊の接触攻撃を受けたため、いくら気分屋の彼でもやる気を出さざるを得なくなったのである。
そう‥‥最初の怨霊と出くわした直後、申し合わせたかのように他の3体の怨霊が集まってきてしまったのだ。
やはり成仏できない幽霊が怨霊となるのだから、生者の気配を敏感に察知して襲いに来るのかも知れない。
幸い最初の怨霊を発見した時点、距離がある状態で各々魔法を詠唱したため準備は万端。さらに、誰も詠唱に失敗しなかったのも大きい。
「ライトニングアーマーはこういう使い方も出来るのですわ!」
魔法で帯電し、小太刀も魔法のダメージを与えられるようにした鷹神は、スマッシュも重ねて小太刀を振り下ろす。電撃と剣撃により、怨霊その3も中傷となる。
「OK、あいつの動きはアグラベイションで抑えたよ!」
「縁殿、天道殿、準備はよろしいでしょうか!? 撃ちます!」
「了解だよ!」
「任せなさい! ブラックホーリー!」
テリーの魔法で動きを鈍らせられた怨霊その4。グリューネの合図で、縁と天道を含めた三人がホーリーもしくはブラックホーリーを一斉射撃! しかし、魔法の攻撃力だけではかすり傷相当のダメージしかないようだ。
「も、持ちこたえて‥‥ください‥‥。こ、こちらも終わり次第、援護を‥‥!」
「魔法の効果は今一つのようだ‥‥といったところか。問題ない、こっちにはクリスタルソードがある!」
「蹴、蹴、オーラパワー。鍛え上げろよオーラパワー‥‥ってか。安心しろ、こっちはもう片が付いた」
水葉と菊川はまだ怨霊その1を相手にしているが、殊未那はすでに怨霊その2を屠っていた。長巻とスマッシュの威力は、オーラパワーでダメージを与えられるようになれば怨霊をあっさり葬れるものらしい。
「あ、あらら‥‥こっちも手伝っていただきたいものですわ‥‥きゃあっ!?」
鷹神は一人で怨霊その3を相手にしているため、何度か接触ダメージをもらい、中傷になっている。回復役の縁が戦闘中のため、動きは鈍くなっていく一方だ。
もっとも、ライトニングアーマーを発動している鷹神に触れた怨霊その3は、勝手に電撃ダメージを受けて重傷状態なのだが。
「僕が支援するよ! アグラベイション!」
重傷状態の怨霊その3にアグラベイションをかけ、さらに動きを鈍らせるテリー。派手さや破壊力はないが、かなり重要な役回りである。
怨霊は移動速度自体も速いが、攻撃回数という点でもある程度の装備をした人間と大差がない。言うなれば機動性と運動性を兼ね備えた相手‥‥と言った所だろうか。そんな怨霊相手なので‥‥。
「がふっ‥‥! くっ、こ、こいつっ!」
「天道さん! 今回復するよ!」
「いらない! それより、コアギュレイトで呪縛したほうがいいわ!」
「り、了解っ!」
「ブラックホーリーでダメなら、こちらで! ビカムワース!」
中傷になった天道は、痛みをこらえて縁に指示を与える。グリューネはそれを支援するため、魔法を放って足止めを試みた。元々アグラベイションで鈍っている怨霊その4は、中傷状態であるにも関わらず、ふらふらと頼りない。
「も、もう一度‥‥ラ、ライトニングサンダーボルト! ‥‥あら?」
「し、失敗か!? 水葉さくら殿、集中を‥‥ぐっ!?」
ちょっと目を逸らした隙に、怨霊その2は菊川に接触ダメージを与える。接近戦を仕掛けているので被弾率はどうしても高まるが‥‥触れれば必ず軽傷と言うのは、安いと見るか高いと見るかはその人次第。
「だが、この程度で俺は負けん。心配する側が心配される側になんてなってたまるか!」
菊川は痛みを押さえ込み、クリスタルソードで反撃する。怨霊以上の行動回数を誇る菊川の連続攻撃で、ついに怨霊その1も消滅した。
「‥‥あと2匹。もっとも、一匹は勝手に電撃を喰らって瀕死。もう一匹はコアギュレイトで動けないでござる‥‥無念、ってか」
殊未那はいつものようにぼーっと状況を分析する。言っていることは正しいが、鷹神もがりがりダメージを喰らっている事を考えてはいないのが難ではあるが。
ともかく、戦況は決した。多少の苦戦はしたが、怨霊は見事全滅。回復の出来る縁や天道が居たため、全員無傷まで回復することも出来ている。
京都はもうすぐそこ‥‥激動の京都への前哨戦としては、まずまずだったのではないだろうか―――
●千城の一時
さて、ついにたどり着いた京都。羅生門の前に差し掛かった一行は、その門前に仁王立ちしている見覚えある人物を発見した。‥‥即ち。
「うむ、よくいらっしゃったッ! どうやら依頼を完遂し、また一歩真の漢へと近づいたようだなッ! この大牙城‥‥そして千年城下、京都が諸君を歓迎しようッ!」
人通りが無いのをいいことに、いつもより大仰にマントを翻して叫ぶ大牙城。
「あ、あの‥‥ど、どうして、ここで待っていらっしゃったんですか‥‥?」
「そうだよ、僕たちが別の方角から入ってきたらどうするつもりだったの?」
水葉とテリーの疑問に、大牙城はあっさり答える。
「無論、『勘』だッ! 漢としての勘が、こちらから京都入りすると教えてくれたのだッ!」
「うぅっ‥‥私、タイガー殿は苦手です‥‥」
頭を抱えるグリューネ。彼の話を聞いていると、また頭が真っ白になりそうな気がするのだ。
「ともあれ、真の漢にも休息は必要ッ! 情勢が不安定な京都にあって、どれだけの安息が得られるかは保証せぬが‥‥今は休むがよろしかろうッ!」
一行は深い溜息をついた後、羅生門をくぐり‥‥晴れて京都へと正式に到着したのだった―――