銀世界からの迷い子
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月29日〜04月03日
リプレイ公開日:2005年04月03日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「さてッ、現在京都南部、奈良方面から死人の群れが大挙して押し寄せているのはご存知の通りッ! しかし、冒険者ギルドに舞い込む依頼はそれだけでは当然無いッ!」
ばさぁっ、とマントを翻し、ポーズを取る大牙城。京都ギルドの職員であるにも拘らず、自ら妖怪退治もする変り種だ。
最近京都ギルドに依頼が多く寄せられるようになり、忙しさから漢を磨くための時間を取れないことが悩みだとか。
「京都北部の山‥‥とは言っても1日強離れたところにある山だが、最近そこに『雪狼』が現れるようになったと言うッ! すでに春の足音も聞こえてきそうな今日この頃に、一匹だけはぐれたようにうろつく雪狼‥‥なんとも不可思議ッ! 今回の依頼は、この雪狼を駆除するのが目的であるッ!」
またしてもマントを翻し、違うポーズをとる大牙城。むしろこれだけバサバサやっても埃が舞い散らない京都ギルドの清掃具合を褒めるべきだろうか。
本人は無意識のうちにこれでストレス解消しているのでは、というのは彼の同僚の談だ。
「どうやらこの雪狼と言う種類の狼は事の他凶暴らしく、通りかかる旅人や付近の山村の村人にも襲い掛かるというッ! 群に戻してやるのが漢の道というものではあるが‥‥どこにいるかも分からぬ群を探すのも、はぐれ雪狼を捕縛するのも困難ッ! ならばせめて、これ以上の被害が出ぬよう、退治するしかないッ! この大牙城‥‥未だ真の漢には遠いかッ!」
自分の不甲斐無さを憤るかのように、拳を天に突き上げる。さらに男泣きまでしているのだから、色々始末に終えなかった。
「話によれば、雪狼はかなりの戦闘力を有していると言うッ! 動きも速く、耐久力も決して侮れぬとのこと‥‥用心されよッ!」
普段は雪山に現れるという雪狼‥‥一応件の山にも雪はあるが、それは雪山と呼称できるほどの量ではない。
気まぐれか、神のいたずらか‥‥どちらにせよ、このまま放って置く訳にも行かないのである―――
●リプレイ本文
●襲撃‥‥以前の問題
冬の山。
漢字含めて三文字、平仮名なら五文字。口で言うのは簡単だが、その実体は海よりも深く厳しい。
彼らにとって不運だったのは‥‥ここ一週間ほど、三月にしては珍しいくらいの寒さである、ということだ。勿論極寒とまでは言わないが、普段着でいられるほど生易しくは無い。
「うぅ‥‥つ、つかぬ事を伺いますが‥‥も、もう四月‥‥ですよね‥‥?」
がたがた震えながら雪の残る山に挑むとは思えない格好で呟くのは、雨宮零(ea9527)。旅装束でも着込んでいればまた別だったかもしれないが、今回の彼の格好は自殺行為に等しい。京都付近の山は、この時期まだまだ寒いのだ。
「そ、そうですわね‥‥もうそろそろ、四月ですわね。で、でもこの寒さ‥‥着物をきちんと着なおしても寒いですわ‥‥」
「わ、わたくしも、冬の山を侮っておりました‥‥。ふ、麓の村で山の地形や雪狼の情報を収集したのはいいのですが‥‥こ、この寒さでは集中が‥‥」
鷹神紫由莉(eb0524)と桂照院花笛(ea7049)も防寒服を準備しなかったらしく、雪狼の前に寒さという敵に屈服しそうだった。
「こ、これで半数は寒さで行動に制限が掛かるわけかよ。お、お前ら、寒さ対策はしたか、とか言ってくれりゃいいのによ!」
旅装束を着込んではいるが、片桐弥助(eb1516)もがたがた震えているたちである。
「と、言われましても‥‥雪、冬、山とくれば、寒いという答えは容易に導き出せると思いまして」
「そうだよ。こういうときのためにエチゴヤで防寒服を売ってるんだし‥‥」
「困りましたね‥‥鷹神殿は馬をギルドに預けてしまったのでしょう? それにまるごとなんとかを入れたままでは‥‥」
緋神一閥(ea9850)、縁雪截(ea0252)、グリューネ・リーネスフィール(ea4138)はきちんとバックパックに防寒服を用意していたため、凍えるようなことは無い。無論、寒くないわけは無いが、防寒服を着ているのと着ていないのとでは雲泥の差がある。
「‥‥すまない、俺も寒さ対策をしていないクチだ。それほど険しくないこの山でもこの寒さか‥‥ジャパンの山も意外と侮れないな。どうする、どこかで焚き火でも起こすか?」
今回の攻撃の要と目されるデュランダル・アウローラ(ea8820)も寒さ対策を失念していたようで、行動にいくばくかの支障が出そうだ。彼は一応馬に防寒服を持たせているのだが、山には不適当と、他の参加者同様麓の村に置いてきてしまったのである。
一同は寒さに耐えかね、桂照院が聞いてきたというこの山でも数少ない開けた場所で、休息を取ることになったのだった―――
●カウンター・アタック
「さーて、どうするよ。多少暖は取れたけど、これじゃ囮もくそもない。天気も曇りで、下手すると荒れる可能性もある。ちょっと焚き火から離れればまた寒さに震えることになるんじゃないか?」
開けたとは言っても、半径7〜8メートルの空間でしかない場所で、8人は焚き火で暖を取っていた。
辺りにはまだ雪も残っており、片桐の言うように防寒服のない面々には厳しい状況であることに変わりは無い。
「そうですね‥‥バーニングソードも無駄撃ちできませんし、ここで暖を取りながら待ち構えるのが上策かと思います」
「それはいいけど‥‥もし雪狼が来なかったら、私たちはただ無為にここにいることにならないかな?」
緋神の提案も縁の危惧も、この場では当然のことのように思える。
今回はあまりにも不足の事態‥‥普通の依頼ならあまり問題にならないことが大問題なのだから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。
「しっ。‥‥どうやら縁さんの心配は取り越し苦労に終わりそうですよ」
「だな。いるぞ‥‥殺気をひしひしと感じる」
「暖かいうちにライトニングアーマーを詠唱しておきますわ‥‥!」
雨宮とデュランダルが武器を取り、木々の一角を睨み付ける。雪狼がいるのだということに気づいた一同は、魔法をメインとするものは詠唱を開始し、近接戦闘をメインとするものは武器を取って迎撃する‥‥はずだった。
「えっ‥‥?」
それは、桂照院が漏らした疑問符のような呟き。他の7人が桂照院の方を向いたとき、何故その呟きが吐き出されたのか判明する。‥‥即ち。
「雪狼!? は、速い‥‥いや、速いし、視認し難い!」
本能なのかは分からないが、雪狼は真っ白な自分の体躯を点在する雪でカモフラージュするかのような機動を見せる。
殺気は感じた。だがそのスピードと雪に紛れる移動方法で、反応が遅れたのだ。
「桂照院殿! くっ、こ、こちらに!?」
噛み付かれた桂照院は中傷。人から人へ移動したので、グリューネは何とか重装備にガードを加え、かすり傷程度で済ませる。
「‥‥せめて、この焔が冥途への炬灯とならんことを‥‥ぐっ、うあっ!?」
今度はバーニングソードを詠唱していた緋神が噛み付かれ、発動が中断される。
不意を突かれたとはいえ、あのスピードは侮れない!
「ぐっ、寒さくらいでへこたれていらないんだ! 他の人達が大技を狙いやすいように、隙を作ることが僕のすること!」
「くそっ、俺も肉を切らせて骨を断つつもりで挑むぜ!」
雨宮がブラインドアタックで雪狼に中傷を与え、片桐がダメージ覚悟で突っ込む。雪狼は片桐に牙で中傷を与えると、さも当然のように片桐のカウンターアタックを回避!
「大丈夫!? 桂照院殿の怪我は私が治しますから、雪狼をこちらに近づけないようにして!」
「私が護衛に回りますわ! ライトニングアーマーを纏っていますから、例え噛み付かれても相手にも傷を負わせられます!」
鷹神が縁、桂照院の前に立ちふさがって防衛に回る。
一方、攻撃の要であるはずのデュランダルはというと‥‥。
「装備が重い‥‥スピードについていけん‥‥!」
ただでさえ防具で重たいのに、偃月刀という超重量級武器を装備しているため、動きが制限される。寒さで再びかじかみ始めた手も、本来の彼の戦闘能力を確実に下げていく。
「ぼ、僕のつけた傷がもう回復した‥‥! 本当にどういう体の構造してるんだ!?」
「やはり私のバーニングソードで着実に傷を与えるか‥‥それとも、デュランダル氏の一撃にかけるか‥‥!」
見れば雪狼の傷はもうすっかり消えてなくなっており、その白い身体はまるで新雪のようにまっさらだ。
「来る‥‥こちらに向かってくれば、当てられるはずだ」
雪狼は獰猛な性質の全てを発揮するように、目に付くあらゆる敵めがけて攻撃を仕掛けている。
今度の狙いはデュランダル。彼の狙いはカウンターアタックとスマッシュの複合技だ‥‥これはむしろ好機!
「今だ‥‥ブラストセイバー・クロス!」
交差気味に繰り出すデュランダルの一撃‥‥当たれば雪狼といえど即死の威力! だが!
「‥‥避ける‥‥だと!?」
余裕は無いにしろ、雪狼はデュランダルにかすり傷を与えてその一撃を回避し、次の目標へと疾駆する!
その目標は‥‥片桐!
「こんなところで負けていては‥‥いつまでたってもタイガー殿の呪縛から逃れられません!」
「わたくしたちのコアギュレイトで、動きを何とか止めないと‥‥!」
縁に回復してもらってすっかりよくなった桂照院も戦列に復帰し、桂照院、縁はコアギュレイトの詠唱に入る。
「駄目だ、陣形がバラバラだ! そのまんまじゃ狙い撃ちにされ‥‥うおっ!?」
「片桐さん! お二人なら私が守っておりましたのに‥‥!」
鷹神が叫んでももう遅い。片桐は背後から噛み付かれ、噛まれどころが悪かったのか大量の血が舞い散る‥‥!
ドクンッ‥‥!
血。赤。敵のものならどうということは無いのに‥‥何故だろう。何故、味方の血が流れると‥‥彼は‥‥!
「う‥‥うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
獣のような咆哮を上げ、いつもは冷静沈着なはずのデュランダルが目の色を変えて武器を振り上げる!
「な‥‥デュランダル殿、何を!?」
グリューネの言葉もまったく届かない。狙っている対象こそ雪狼だが、その殺気はいとも簡単に他の7人に移りそうな危うさを感じさせていた。
その殺気を感じ取ってか、雪狼は動きを止めて慎重に周りを気にしだす。
「どうしますか? 流石にコアギュレイトの射程距離には入ってくださいそうにもありませんが‥‥」
「参りましたね‥‥デュランダル氏も攻撃が目茶苦茶です。寒さで鈍っている上に我を忘れたようなあの攻撃‥‥あれでは素早い雪狼に当てられないでしょう」
桂照院も緋神も冷静なようでいて、やはり焦っている。相手はたった一匹‥‥いくら強いと言っても、たかが一匹なのだ。
「‥‥撤退を進言いたしますわ。このままではジリジリとこちらが消耗する一方です。精神力も限度がありますわ」
「確かにな‥‥けど、デュランダルはどうするんだよ。あそこまで暴れられると、近づきたくても‥‥」
「僕が桂照院さんを抱えて移動します。桂照院さんは魔法だけに集中して準備を。それなら、遅くても移動しながら魔法が使えるんじゃありませんか?」
鷹神の言葉に、回復してもらった片桐、雨宮が続く。確かに素早く動き回る雪狼にかけるよりは、可能性はかなり高い。
「じゃあ、片桐殿が手裏剣で雪狼を牽制、デュランダル殿から引き離す。その隙に雨宮殿が彼に近づき、抱えられた桂照院殿がコアギュレイト‥‥という手順で頼めるかな?」
「おいおい、俺ビンボーなんだぜ? 手裏剣は回収したいんだけど」
「それは私が拾っておきましょう。後で治してくだされば、殿役として多少足を止めますが」
縁の支持に、緋神が補足を入れる。
それならばと頷いた片桐は、雪狼めがけて手裏剣を投げ放つ―――
結局、一同はデュランダルの動きを封じて撤退した。殿役を演じた緋神が多少の怪我を負ったが、それも縁たちが回復させたようだったが。
今回の教訓。山登りはその土地・気候をよく考えて、よく準備をしてからにしましょう―――