激走! サバイバル鬼ごっこ!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月13日〜05月18日

リプレイ公開日:2005年05月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さて‥‥皆さんもご存知の通り、現在京都はアンデッドモンスター等の襲撃でごたごたしています。しかし、そんな時だからこそ遊び心は必要なのではないでしょうか?」
 やたらニコニコしながら、冒険者ギルドの若い衆こと、西山一海は依頼の紙を机の上に置いた。
 彼が上機嫌に依頼を紹介する時は、大概何かしらひねくれている場合が多い。
「ズバリ、今回の依頼は『鬼ごっこ』です! 勿論子供がやるようなお遊びじゃないですよ‥‥皆さんは鬼から逃げる役になって、山一つを使って鬼ごっこをするんです♪」
 依頼の紙を参照すると、この依頼は京都の貴族が出したものらしい。
 その貴族のお抱え武士団の訓練を兼ねてとのことだが、どちらかというとレクリエーションに近いもののようだ。
「場所は京都西にある、山の一つみたいですね。歩いたって一日掛からない近場ですから、便利といえば便利かも知れません。あ、どうやら規定時間逃げ切れば賞品も貰えるみたいですね♪」
 とりあえず、根本となるその鬼ごっこのルールをご紹介しよう。

一つ:山一つを舞台とし、丸ごと全域をフィールドとする。一歩でも山から出たら失格となる。
二つ:冒険者が出発してから一時間後に鬼役のお抱え武士団が捜索に出かける。冒険者は山の中を移動するなり隠れるなりして、24時間逃げ切れば賞品がもらえる。
三つ:疾走の術や馬等、移動スピードを上げる術や道具は禁止。飛行またはそれに属する魔法も禁止。ただし、シフールの参加者の飛行は地上2メートルの高さくらいまでは許可される。
四つ:例え鬼役と相対しても、攻撃してはならない。冒険者は逃げる事だけを念頭に置き、もし鬼役を攻撃して逃げた場合、露見次第失格とする。
五つ:24時間逃げ切って貰える賞品は、逃げ切った人数が少なければ少ないほど豪華なものになる。

「大まかなところは以上ですね。追加事項としては、武器や盾を持っていっても遊戯開始前に係員に預けてもらうことになるそうです。荷物袋の中身も確認されるようですので、不正は出来ません。あとは知恵と体力を振り絞って、山の中で丸一日をどう逃げ切るかですよ♪」
 鬼役は冒険者の参加数と同じに調整されるので、最大でも8人。ただし、その中には忍者もいれば浪人もいるし、シフールまでいるらしいから注意が必要だ。
 戦闘依頼ではないので、出来るだけ軽装かつバックパックも軽い方がサバイバリティが上がるのではないだろうか。
「むむッ!? 一海殿、何やら面白そうな依頼を紹介しているようだなッ! 是非私にも聞かせて欲しいッ!」
「すいません城さん、もう終わってます。ややこしくなるんで、今回は城さんの出番は無しって事でー」
「ぬおッ!? か、一海殿、何故ッ!?」
「ご自分の胸に聞いてください♪」
 ふと顔を出した虎覆面の男‥‥同じく冒険者ギルドの職員である大牙城を裏手へ押しやりながら、一海は去っていく。
 ‥‥わりと正しい判断かもしれない。
 それはともかく‥‥寝る場所、隠れる場所、逃げやすい場所‥‥山の中でのポイント選びが、最大の分かれ道となるだろう―――

●今回の参加者

 ea0238 玖珂 刃(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)

●リプレイ本文

●楠木麻(ea8087)の場合
「ウォールホール!」
 楠木が魔法を唱えると、頑丈そうな岩肌にぽっかりと穴が開く。
 続けてグラビティーキャノンでその穴を掘削し大きくした楠木は、胸を張ってその穴の中へ入り込み、用意してあった竹筒を空気穴としてセットする。
 逃げる役であるところの参加者8名は、規定どおり遊戯開始前に武器類を全て預かられ、鬼役より1時間前に山の中へと踏み入っていた。
 楠木は開始地点から離れるのもそこそこに、作戦通り穴を掘って隠れることにしたようだ。
「『果報は寝て待て』です」
 穴の中に毛布を敷き詰め、入り口が塞がり、空気の出入りがしっかりしていることを確認した上で楠木はさっさと就寝することにした。
 これならば見つかることはまずないだろうし、見つかっても手を出し辛い。
 しかも動き回らなくてもいいから体力も使わなくていいという徹底振りだ。
 ただしこの戦法は、多大な欠点を抱えていたわけだが‥‥それはまた後ほど―――

●クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)の場合
「‥‥退屈だな」
 持ち前の森林に対する土地勘を活かし、比較的なだらかな地点の森を拠点としていたクリスティーナは、非常に退屈していた。
 勿論回りに対する警戒は怠っていないし、定期的に場所を変えたりはしているが、やはり24時間という長期にわたって逃げるだけというのは、退屈との戦いでもあるわけだ。
 人間、手持ち無沙汰や退屈を堪えるには、それなりの訓練や暇を潰せる物がなければ難しい。
「しっかし、よく考えたら鬼役が必ずしもこっちを見つけるとは限らないんだよな。山一つってのは意外とでかいフィールドだぜ」
 事前にこの山に入り込み、草を結ぶといったトラップを配置していたため、当日はそれこそやることがない。
「じゃあ終わりにしてやろう」
「っ!?」
 不意に背後から聞こえた声に振り返ったときには、もう腕を掴まれていた。
 木の上にいるというのも油断を誘う一因になったのか、気配を殺して近づいてきた忍者を察知できず、クリスティーナは開始から6時間でアウトとなったのであった―――

●ヘルヴォール・ルディア(ea0828)の場合
『‥‥ふむ、鬼役を攻撃してはならない、か‥‥要するに、私が攻撃しなきゃ‥‥いいんだよね?』
 遊戯開始前に、進行役の男にヘルヴォールが投げかけた質問。
 男は困ったような顔をしたが、一応頷いてはいた。
「‥‥今後、堕天狗党と闘っていく為にも、自分を鍛え直さないとね」
 確かに山登りは身体を鍛える上でも有効だし、周りに気を配りながらなら空気を読む力も養えるかもしれない。
 ポツリと呟いた彼女は、山林部分を、頂上を目指して歩いていた。
 ヘルヴォール曰く、このルートを通るのはシフールの鬼役から発見されるのを避けるため‥‥だとか。
 更に移動する先々で草の輪だのロープを使った逆さ吊りトラップだのを仕掛けて回っているのだから恐ろしい。
 ‥‥が。
「待て待てぇ〜!」
「‥‥ちっ、シフールが追手とはね‥‥罠が殆ど無駄になるじゃないか‥‥!」
 追いかけてきたのはシフールで、やはり飛んでいるだけあって動きが速い。
 上空から見つけたというわけでなく、ただ単に偶然ヘルヴォールを見つけただけらしいが。
 舌打ちして蜘蛛の巣が多そうな道を選び、突き進んだものの、そうそう都合よく蜘蛛の巣が群生はしていなく‥‥。
「‥‥闘いは‥‥虚しいよね」
 頭の上にシフールを乗せたまま、夕日を眺めてヘルヴォールが呟いた―――

●玖珂刃(ea0238)&三月天音(ea2144)の場合
「よぅ、お互い見つかったクチか」
「め、珍しいのう、山の中で‥‥ばったり、出くわすとは」
 二人は共に迷彩色じみた服を予め用意し、隠れ場所を探して潜む作戦だったらしい。
 息を潜めること十数時間、ついに鬼役に発見され、追いかけっこを開始し、走り回っているところで遭遇したのである。
 追っているのは浪人と志士が一人ずつで、余裕があるのは韋駄天の草履を履いている玖珂だけだ。
「惜しいよなー。あともうちょっと見つからなけりゃこんな苦労しなかったのに」
「と、というかじゃのう、その、草履は‥‥は、反則では、ないのか‥‥?」
「こいつは速度は上がらないから平気だろ。持ち物検査に引っかからなかったんだし大丈夫大丈夫」
「ひ、卑怯じゃ‥‥!」
 鬼役も段々スピードが落ちていっているが、三月も当然疲労していく。
 並走して走ることもできなくなったのか、玖珂だけが他の三人を突き放して行った。
「悪いな。持久力の勝負になったらこっちが有利‥‥どあ!?」
 ぐん! と玖珂の身体が浮き、何故か逆さ吊り状態になってぶらぶら空中で揺れていた。
 落ち着いて周りを見回すと、誰かが仕掛けたと思わしきロープのトラップが‥‥。
「天罰覿面じゃ。悪いが、見捨てさせてもらうの‥‥じゃっ!?」
 今度は三月が妙な声を上げ、地面に突っ伏する。
 その足元には、やはり誰かが結んだと思われる草の輪があった。
 二人は勿論知らないが、二つとも先に捕まってしまったヘルヴォールのお土産である。
「だ、誰だよ、こんなところにこんな罠仕掛けたのは!?」
「もう限界じゃ‥‥長距離走は、一旦走るのを止めてしまうと、動く気力がなくなるのじゃ‥‥」
 玖珂と三月がトラップに引っかかったのを見ていた追手二人は、自分たちは引っかからないように注意して、玖珂と三月を捕まえたのであった―――

●八幡伊佐治(ea2614)&太丹(eb0334)の場合
「オヤビン〜、退屈っす〜」
「我慢するんじゃよ〜」
 二人は知り合い‥‥というかオヤビンと子分といった間柄だそうで、二人揃って協力する作戦らしい。
 フトシたん(太丹のあだ名)を踏み台に木の上に登り、古今和歌集を読んで暇を潰している八幡。
 開始からすでに21時間経過しようとしている現状、鬼役は一人たりとも現れていない。
「運がいいのはいいんっすけど、こうすることがないとパイロン(愛馬の名前)が心配っす〜」
「あー、随分荷物載せてたもんな〜。報酬が出たら美味い野菜でも喰わせてやるといいじゃなかろうか〜」
 木の上と地面で会話しているため、どうしても声が大きめ&伸ばし気味になるのがちょっと愉快だ。
「ところでオヤビン〜、樽樽坊主ってどういう意味なんっすかね〜?」
「僕が聞きたいわい!?」
「あだっ!? ひ、ひどいっす〜!」
 脳天に古今和歌集が直撃し、フトシたんがちょっと涙目になる。
 と、ふと見ると遠目に二人組みの男が近づいてくるのが見て取れた。間違いなく鬼役であろう。
「オヤビン、鬼が来たっす! 作戦通り、自分が囮になるっす!」
「頑張るんじゃよ〜。僕は精神力の限界までホーリーフィールドで粘ってみよう」
 正確な時を刻む時計がない以上、残り時間はカンで推し量る以外にない。
 大量に買い込んだ小柄も取り上げられてしまったので、八幡は木の上で魔法のバリアを張り、逃げ切る作戦のようだ。
「それじゃ、行ってくるっす! ひゃっほ〜い!」
 今まで暇だったことの鬱憤を晴らすかのように、フトシたんは爽やかな笑顔で走り去っていった(顔をお見せできないのが非常に残念です)。
 鬼役も一人はフトシたんを追い、もう一人は八幡を捕まえるべく木の下に移動していた。
「さぁ、四時間の我慢大会といこうじゃないか」
 結局、素手の攻撃方法しか持たない浪人は、木の上でバリアを張り続ける八幡を捕まえることが出来ず、八幡は逃げ切り成功となったのである。
 ちなみに、フトシたんはというと‥‥。
「お、オヤビン‥‥、自分の分も生き延びてくれっす‥‥」
 流石に体力が続かなかったのか、韋駄天の草履装備の鬼役から逃げ切れず、終了間際に捕まってしまったのである―――

●天城烈閃(ea0629)の場合
「鬼ごっこか‥‥。なかなか面白い余興じゃないか。貴族のお抱え武士団が相手となれば、こちらとしてもいい訓練になる」
「このっ! あぁもう、アタシは接近戦苦手なのよっ!?」
 時間終了間際、天城は追手であるシフールのウィザードの攻撃をひらりひらりと回避し、捕まる気配はない。
 水場付近を選び、足跡や近辺に注意しながら行動していた上、夜に一回このシフールに見つかった時も、素早い判断で夜の闇を駆け抜けたのである。
 そして一度見つかった場所に戻るという裏をかいた行動で、23時間強を過ごしていた。
「捕まらなければいいんだろう? 相手にも恵まれたな‥‥」
 保存食を頬張りながらも回避し続けられるのだから、天城の回避能力は凄まじい。
 ‥‥いや、シフールのウィザードに格闘能力を求めるのは酷かも知れないが。
「今までにも隠密のような真似は散々してきたからな。まあ、今回はその経験が役に立ったようだ」
 終了の合図である法螺貝が鳴り響いたのを確認してから、天城はシフールを逆に捕まえた。
 基本に確実に、堅実に。そんなスタイルが、天城の強さの秘訣なのかもしれない―――

●ところで?
 結局、今回のこの企画で逃げ切ったのは、八幡と天城の2名。それぞれ万葉集と誠の鉢金を貰って帰っていった。
 ちなみに、楠木はというと?
「ふにゅ‥‥ん〜‥‥」
 隠れるのが上手すぎた上、時間の分からない穴の中で眠ってばかりいた結果、終了のオリエンテーリングに戻ってこられなかったのだ。
 主催者はある程度は待っていたのだが、業を煮やして逃げる役の面々にも協力して捜索した。
 それでも見つからなかったのは驚異的といってもいいだろう。
 もっとも、そのせいで賞品も貰えず、失格扱いになってしまったのは残念であるが。
 教訓。何事もやりすぎはよくない、ということで―――