命がけの肝試し

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月24日〜08月29日

リプレイ公開日:2004年08月25日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「いやはや、夏も真っ盛りですねぇ‥‥。暑い日が続きますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか? 今日はですね、そんな暑さを永遠に和らげてくれるかも知れない依頼が入ってるんですよ」
 吹き出る汗を手拭で拭きながら、依頼内容の紙を差し出してくるギルドの若い衆。
 色々謎の多い人物であるが、勧めてくる依頼はさらに謎なものが多いと有名だ。
「江戸近郊に小さな村が多数あるのはご存知ですよね? そのうちの一つの山間の村で、肝試しに出かけた村の者が帰ってこないという事件が多発しまして‥噂を聞きつけた江戸の物好きが面白半分で確かめに行き、またしても帰ってこない始末で」
 江戸の人間はいざ知らず、地元の村の人間には慣れた山道。さらに山はそんなに険しいわけでもないのだから、遭難という可能性は低いだろう。肝試しに使うような道筋で遭難する人間は、村には居ない。
「そうそう、命からがらというかなんというか、なんとか江戸に戻ってきた人が居たそうなんです。しかし体中傷だらけで散々魘された挙句、『ほ、本物だ! 幽霊が‥‥白骨が!』と意味深な言葉を残して事切れたらしくて‥‥いやはや、恐いですねぇ」
 そんなこともあってか、村長から今回の依頼が舞い込んだわけである。
 かなりの死人が出ているこの依頼‥‥やはり高い危険が伴うであろう。冗談交じりではあるが、若い衆の顔も心なしか真剣だ。
「もちろん強制じゃありません。私だって皆さんに死んで欲しくなんてありませんからね。ただ‥‥罪のない村人たちを、助けてあげてはいただけないでしょうか‥‥?」
 行方不明になった人間が生存している可能性は極めて低い。更に言うなら、探す余裕もないかも知れない。
 命がけの肝試し‥‥鬼が出るか、邪が出るか―――

●今回の参加者

 ea0269 藤浦 圭織(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0501 神楽 命(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea5694 高村 綺羅(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6149 白霧 真名(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●暗闇の七人! ‥‥ん?
 生温い風が吹きすさぶジャパンの夜‥‥鬱蒼と茂る森を前にして、一行は表情を引き締めた。
 暗い闇を照らすのは提灯とたいまつだけ。昼間とはまるで姿を変えた森の木々は、冒険者たちを別の世界へ連れて行く異世界の使者のようにさえ見えてくるから不思議だ。
 さて、その闇に挑むその一行とはすなわち‥‥
「肝試しは本気でやっちゃいけないわよ、やっぱ。楽しく涼しく素早くやんないと」
 意味不明な台詞を真顔で呟くのは、藤浦圭織(ea0269)。
「どんなやつが居るのかな‥‥昼間は特に何も見つからなかったけど」 
 何気にワクワクしたように目を輝かせる、神楽命(ea0501)。
「肝試しねぇ‥‥さて、何が出て来るのやら‥‥」
 愛用のキセルをくるくる回して弄ぶ、壬生天矢(ea0841)。
「さぁーて、鬼が出るか蛇が出るか‥‥お楽しみといこうか」
 にやりと笑って刀を鯉口付近で出したり戻したりしている、秋村朱漸(ea3513)。
「お兄様‥‥見ていてくださいね‥‥さ、さくら、がんばります!」
 微妙に震えたりしながらも夜空を仰いで拳をぐっと握るのは、水葉さくら(ea5480)。
「無茶はしちゃ駄目‥‥無理で止めて」
 静かに、しかし毅然とした態度で呟く、高村綺羅(ea5694)。
「いきましょう‥‥哀れな死者に、安らぎを与えるために」
 秋村から預かった提灯を揺らし、闇を見据える、白霧真名(ea6149)。
 以上七人であった。勇気あるこの面々によって、事件は解決を見るのだろうか―――
「‥‥をい。ちょっと待て、一人足んなくねぇか?」
 しっかりと気付いていたらしく、秋村はこめかみに怒りマークなど浮かべつつその他6人を見回した。
 さっと目を逸らす者、冷や汗交じりでため息をつく者等、反応は様々であるが‥‥そう、今回の依頼を受けた人数は8人。この場にいるのは、7人‥‥。
「あ、あの‥‥子供、だから‥‥」
「昼間の下見で疲れておねんねか‥‥まぁ仕方ないだろう。十歳に多くは望むまい」
 水葉と壬生のフォローも今は虚しいだけではあるが‥‥いないものは仕方ないので、一行は一人欠けた状態でも依頼を完遂することにした。
 その欠員が、難しいこの依頼をさらに厳しいものにすることなど知るよしもなく―――

●運を味方につけたのは
 紆余曲折はあったものの、一行は再び森へと踏み入った。
 昼間のうちに予め肝試しのルートを下見し、下調べをしてあるため道に迷うことはないだろう。
 もっとも、秋村に『ちったぁ融通利かせろや。これから俺等は地獄の亡者どもとタマの取り合いすんだからよ‥‥』と言われた案内役の村人は少々泣きが入っていたようだが。
 それはさておき‥‥調査の方には少し問題があったようだ。水葉のステインエアーワードは流れる空気の下では効果がなく、特に何もわからないという結果に終わる。
 白霧のデティクトアンデッドはというと、昼間はモンスターがどこかに隠れているのか、肝試しのルートをなぞってみても反応は一切なかった。もしかすると、夜になったらどこからかこの近辺へとやってくるのかもしれない。
 それでも分かったことが三つある。
 敵は怪骨(スカルウォーリアー)と怨霊(レイス)が各々一匹づづであることと、行方不明になった人々は遺体の判別がつかないくらいバラバラにされてしまったということ‥‥。そして、敵は主に夜に活動しているということである。
 暗い森を進む一同は、辺りを警戒しながら陣形を組んでいた。いつ襲われてもいいように‥‥明かりを持っているというデメリットもデティクトアンデッドによって相殺しているという徹底振りだ。
「‥‥来た。わざわざ魔法で探知する必要もなかったみたいだね」
 高村の言葉に全員が歩を止める。ざざざ、と風鳴りをする葉の音に混じって、妙な音が‥‥。
「この乾いた音‥‥怪骨のものみたいね。早速お出ましといったところかしら」
 日本刀を抜刀し、藤浦は音のするほうへと構えを取る。各々が戦闘態勢を取る間も、からっ、からっという音はどんどん近づいてきていた。
「生意気に刀持ってるんだよね? それに死人が出ている以上、手加減はしてあげられないよ」
 白霧のグッドラックを最後にかけられた神楽は、暗闇の中で怪骨の姿を確認すると一気に駆け出す。
 相手は刀や鎧で武装した白骨。退屈は、しなさそうだ‥‥!
「土に還る前に覚えときな。壬生の若獅子とは俺のことよ」
 不敵な笑みを浮かべて、怪骨に一番に斬りかかったのは壬生。いや‥‥割りかかったというほうが正解か。刀の背を使い、粉砕に回る気らしいが‥‥!
「外した!? 何やってるのよ、今度は私が‥‥!」
 必殺を狙った壬生のスマッシュEXは、意外なほど俊敏な怪骨に回避されてしまう。さらに藤浦のバーストアタックEXまでも回避する!
「手強い! あたしたちも!」
「ちっ、面倒なヤローだ!」
 神楽と秋村も怪骨に向かって駆け出した。カカカ、と笑っているかのような髑髏が忌々しい‥‥!
「ど、どうしましょう‥‥あ、あの骸骨さん強いです‥‥!」
「‥‥私たちも加勢に‥‥」
「駄目です。もう一匹来ました!」
 白霧の言葉に、それを護衛していた水葉と高村が後ろを振り向く。青白い炎のようなものが、ふわりふわりとこちらに近づいてきていた。もう一匹のアンデッド‥‥例の、怨霊。
「挟み撃ちされた‥‥? 白霧、ピュアリファイを‥‥!」
「わ、私たちがお守りします‥‥!」
 二人が構えを取ると同時に、怨霊はスピードを上げて接近してきた。切り払おうとした高村の忍者刀をすり抜けて、接触によるダメージを与える!
「くっ‥‥!」
「高村様!? っきゃあ!?」
 続けて水葉も接触ダメージを受け、一旦距離をとる。白霧を守れているのは救いだが‥‥そう何度も接触されるわけには行かないようだ。
「ピュアリファイ!」
 白霧が放った浄化の光で、怨霊も軽傷程度のダメージは受けているようだが‥‥果たして、倒す前に水葉と高村が保つかどうか。怨霊には通常の武器攻撃は一切通用しない。
「野郎! おいどうする、後方組みがやばいことになってんぞ!?」
「こ、こっちだって手一杯だよ! 何コイツ‥‥滅茶苦茶強いよ!?」
「ちっ、運が悪いだけだと思いたいな‥‥!」
 一方、怪骨と死闘を繰り広げている前衛四人は大苦戦を強いられていた。神楽のブラインドアタックをライトシールドで受け流したり(どこから拾ってきたのやら)、秋村のポイントアタックを回避したりと、鬼のような強運がこの怪骨に舞い降りていたのである。
「これじゃ一般人に死人が多発するわけよね‥‥下手するとこっちも‥‥!」
 グッドラックをかけられていなければもっと酷いことになっていたかもしれないが、今のところ全員軽傷程度で済んでいるのが救いだ。
 だがこれ以上こいつに手間取っていては後衛に死人が出かねない。時は一刻を争うのだ。
「この骨野郎だってなんだかんだでダメージはあるんだ‥‥このまま一気にケリをつけようじゃんか!」
「そうしよう。流石に俺もこれ以上無様な戦いはしたくないからな」
「ここでへこたれたら私たちもこいつらの仲間入りしかねないしね‥‥脅かす側には回りたくないわ」
「モンスターに刀を持たせておくなんて、刀への冒涜だしね!」
 秋村、壬生、藤浦、神楽。今まで数多くの冒険を潜り抜けてきた彼らに、諦めはなかった。
 一斉に怪骨へと攻撃を仕掛ける四人‥‥そしてその後方では、怨霊相手に四苦八苦する三人。
 すでに肝試しなどという域を遙かに出ているこの状況‥‥君は、生き延びることができるか―――(ぉぃ

●僕らはみんな生きている
「うわー‥‥それはまた、壮絶な死闘だったんですねぇ‥‥」
 話を聞いた冒険者ギルドの若い衆は、冷や汗をかきながらもそう呟くことしかできなかった。
「は、はいぃ‥‥おかげで、もうどんな怪骨さんや怨霊さんと出くわしても動じないような気がします‥‥」
 中傷の人間がかなり出たものの、何とか全員生きたまま二匹とも倒すことに成功した一行は、村への報告も終えてギルドに戻ってきていた。もっとも、報告に残ったのは水葉、高村、白霧だけだったが。
「‥‥酷い目に会った‥‥。たった二匹にあそこまで苦戦するなんて‥‥」
 前衛組みが中傷を負ってなお嘘のような回避を見せる怪骨をしとめた後、後衛組みの援護のため怨霊に向かったが、事態はあまり好転しなかった。通常武器がまるで効かない怨霊に対し、前衛組みは白霧が唱えるピュアリファイを撃たせるための盾になることしかできず、被害は増える一方だったのだ。
 触れるだけでダメージを被る怨霊に対し、ダメージを与える方法がピュアリファイしかない一行が犠牲者を一人も出さなかったのは、運がよかったと言うほか無い。特に神楽と高村の回避力は大きな助けだった。
「でも、皆さんのおかげで不死者は全て浄化できましたし‥‥死んでしまった行方不明の方々の弔いもできましたし、よかったんだと思います」
 白霧のリカバーを筆頭に、手当てをできる人間がちゃんと居たことも幸いして、各々派手な怪我はもうない。さらに今回の手強いアンデッド二体のおかげで、それに対する得意意識も生まれたようだ。気持ちの上ではどんな怪骨や怨霊が出てきても負けない‥‥かも知れない。
「まぁなんにせよ、無事でよかったです。私の斡旋した依頼で死人が出たら凹んじゃいますから」
「そ、そうですよね。依頼も無事完了しましたし、あの村ではもうこんな事件は起こらないでしょう」
「‥‥二度三度起きても困るけど‥‥まぁ、今回は色々勉強になったよね」
「村人たちのあの笑顔‥‥命あるものを守れたことを、誇りに思います」
 笑顔を交わせる喜び。今生きている証。ギルドの若い衆が出したお茶と菓子を平らげながら、三人は息をつく。
 他の四人もさらに腕を磨くために行動を開始したとのことで、事件は完全な解決と言っていいだろう。
 命がけの肝試しは、冒険者たちの心に『確かな何か』を残したらしかった―――