羽虫王者無視キング
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月04日〜06月09日
リプレイ公開日:2005年06月09日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「はい、というわけで現場復帰な西山一海です。まだ藁木屋さんの容疑が完全に晴れたわけじゃありませんが、偽者と分かれば私もふさぎ込んではいられませんからね」
流石に本調子とまでは行かないようだが、わりとしっかりした様子で言う一海。
辛い状況でも冒険者ギルドの職員としての立場を忘れていなかったのは評価してあげたいところである。
「うむ、それでこそ一海殿ッ! 人は時として傷つき、悩むこともある‥‥しかし、それを乗り越えてこそ真の漢に近づこうというものぞッ!」
同じく冒険者ギルドの職員である大牙城も、そこはかとなく嬉しそうに一海の肩をたたいた。
いや、虎覆面をつけているので本当にそこはかとなく、だが。
「いや、私は別に真の漢とか興味ないので(汗)。それはともかく、今日の依頼は害虫駆除です。もちろん冒険者ギルドに依頼を寄越してくるくらいですから、普通の害虫駆除じゃありませんけどね」
なんでも京都北部の森にスズメバチが大量発生したらしく、北の海側へ出る道筋で襲われたという被害届けが続出。
近隣の住人が有志を募って駆除に乗り出したのはいいが、いかんせん巣の数が多く、相手がスズメバチという凶悪な部類の蜂であるため、作業が中々捗らない。
挙句の果てには全長二尺(60センチメートル)近い体格の大蜂まで出現したということで、有志の人間には最早手に終えない状況となってしまったのである。
「むぅ‥‥よもや2尺とは、また大きいなッ! しかもスズメバチである以上、毒も強烈と見たッ!」
「大きい分、単純に針の一撃も結構きついんじゃないでしょうか。それに蜂ですから、動きも速いでしょうしねぇ」
有志の人間でその大蜂に刺された者はいないが、普通のサイズのスズメバチでさえ二度刺されれば人が死ぬこともあるというのに、大蜂だとどうなるのだろうか。
とりあえず京都ギルドにある資料では、一回刺されたくらいでは死にはしないだろう、とのことだが‥‥。
「とりあえず、街道を封鎖されては困る人が多いので、出来るだけ速やかに駆除をお願いします。多分毒消しの準備は忘れずにしたほうがいいですよ」
「ふむふむ‥‥大蜂の邪魔が入ったせいで普通のスズメバチの駆除も完了してはいないのかッ! 各々方、決して油断などされぬよう注意するのだぁッ!」
普通のスズメバチ多数+大蜂一匹。
戦法を吟味しなくてはならない害虫駆除など聞いたことがないが、今回がいいテストケースになるかもしれない。
ただ生きるために巣を作る蜂たちと冒険者との、生死をかけた害虫駆除が今始まる―――?
●リプレイ本文
●出発‥‥したはいいが
某月某日、晴れ。
程よく陽光が降り注ぐ空模様は、夏に向けて暑くなってくる季節の移ろいを体現しているかのようだった。
この陽気なら、問題のスズメバチの活動も活発であろう。
‥‥しかし、である。
「‥‥人が少ないのう。まぁ初めから集まった人数が人数なのじゃが」
三月天音(ea2144)は一同を見回して軽くぼやいた。
そう‥‥現在蜂退治に向かっているのは、たった4人なのである。
元々5人しか集まらなかった上に、ギリギリになって一人欠員が出てしまったのが痛い。
「仕方あるめぇよ。なーに、いざとなったら雑魚は俺が一掃するぜ。いくら素早くても、オーラの爆発は避けようがあるめぇ」
「戦力が少ないなら少ないなりの戦い方があるものでござる。この人数でも、最低限の戦術は取れるでござるよ」
今回の主力になるであろうオーラ魔法の使い手、バーク・ダンロック(ea7871)。
そして新陰流の新鋭、阿阪慎之介(ea3318)。
この二人は前向きにものを考えているようだが、厳しいと言う事実に変わりはないような気もする。
「なんにせよ、今から逃げ出すわけにも行きません。京都から遠いわけでもありませんし、すぐに退治してすぐに帰りましょう」
陰陽師の字冬狐(eb2127)。字は苗字ではなく、便宜上表記しているだけだとか。
本人は『冬狐』とだけ呼ばれるのを希望しているようだ(何)。
それはさておき、阿坂のサポートとして参加した鬼堂剛堅(ea8693)が依頼開始前に現地に赴き、少しなりと蜂の数を減らしてくれたらしいが‥‥それでもまだまだ蜂はいると言う。
この人数で、獰猛なスズメバチとどう戦うのか‥‥目的の森は、すぐそこまで迫っている―――
●爆裂!
さて‥‥いよいよ問題の森に差し掛かった矢先、一行は数匹のスズメバチを目撃した。
集団行動をしているわけではないが、森に入った途端に蜂を見かけるようでは、先が思いやられると言うものだ。
「囲まれなければ所詮虫でござるな」
「まったくです」
もちろんその場で駆除してしまったわけだが‥‥感じとしては阿坂が言ったとおり、群れなければただの虫だろう。
「よーし、そんじゃいくか。俺は先行して雑魚をひきつけるから、大蜂のほうは任せるぞ」
「ふむ‥‥ではわらわもフレイムエリベイションで準備しておくかのう」
バークはオーラボディを纏うと、鎧兜で重武装した状態で森へと分け入っていく。
しかもハチミツを染み込ませた布を手にしているため、しばらく歩けばあっさりとスズメバチが寄って来ていた。
三月、阿坂、冬狐はバークから少し離れて移動しているが‥‥。
「‥‥なんというか‥‥段々気分が悪くなってきますね‥‥」
「むぅ‥‥なんというか、自分があの状況に陥ったらと思うとぞっとしないでござるな‥‥」
「‥‥気持ち悪くないのかのう」
バークの身体中にスズメバチがたかり、どんどんその数を増していく。
もちろんそれだけたかられていれば多少刺されているわけだが、重武装の上からオーラボディ、さらにデッドorライブを併用しているため、実際はダメージも毒も受けていないのは驚嘆の一言である。
しかし、今は魔法をを纏っているからいいが、それが切れた途端に鎧や兜の隙間から侵入されそうで恐い。
「これぞ防御の心・技・体ってやつよ! それじゃここらで一発撃っておくか!」
仲間が充分離れていることを確認したバークは、激しく身震いしてスズメバチたちを引き剥がす。
当然蜂は怒って攻撃を仕掛けてくるが、魔法や鎧に阻まれて針は届かない。
やがてバークの術が完成し、彼を中心にオーラが爆裂し、スズメバチを吹き飛ばしていく。
「ほぅ‥‥威力を抑えているとはいえ、普通のスズメバチには充分なようじゃのう」
「しかし‥‥足の踏み場もないほどスズメバチだらけですね‥‥」
まさに一掃と言うに相応しく、今まで散々バークにたかっていた蜂たちは、地面に落ちて動かなくなっていた。
15メートルという範囲は意外と広く、たまたま範囲外にいたスズメバチも、三月、阿坂がたたき落としてしまったため、現状では見渡す限り蜂は見えない。
一同はこの隙に補助魔法をかけなおし、巣の除去に乗り出したのである―――
●真打登場
「これで三つ目ですね。まだあるんでしょうか?」
「どうでござろう。それよりも肝心の大蜂が見当たらないのが気になるでござるな」
冬狐の言葉どおり、三つ目のスズメバチの巣を持参した風呂敷に詰め込むと、一同は少し息をついた。
大概の蜂はバークのオーラアルファーで吹き飛んでしまったので、巣の付近にもさして蜂はおらず、巣の除去も簡単で、しっかりと蜂対策の格好をしてきたため、刺されることもなかった。
‥‥阿坂を除いて。
阿坂の場合、顔の防御が甘かったのが災いして、不意に突っ込んできた一匹のスズメバチに刺されてしまったのだ。
もっとも、解毒剤を持っていたので問題はなかったのだが。
「そうじゃ、冬狐殿。ブレスセンサーのスクロールで大蜂の位置を探れんかのう?」
「そうだな。このままだと雑魚の方だけ全滅しちまうぞ」
十手でべしっとスズメバチを叩き落し、バークも言う。
確かに今回の依頼の趣旨は大蜂の駆除であり、普通のスズメバチなら一般人でも駆除できるのだ。
やれるに越したことはないとはいえ、主目的を達成できなければ意味はない。
「分かりました、やってみます。いざ、神楽の如く‥‥!」
ばさっとスクロールを広げ、精霊碑文を読み上げる冬狐。
舞いながらの詠唱は、森の中でさえ芸術的に見えるから不思議なものである。
「‥‥!? 凄いスピードで突っ込んでくる物体が‥‥!」
「ヤツか! 冬狐殿の正面!」
「避けて見せましょう!」
阿坂の言葉を受け、正面から突っ込んでくる大鉢の攻撃をひらりと回避する冬狐!
その体捌きは、およそ陰陽師とは思えないくらい卓越している。
「本命のお出でじゃな。一気に叩くぞ!」
「しかし速いな!? 三月、行ったぞ!」
「も、もう転進したのか!?」
大蜂は物凄いスピードで森の中を飛び回り、一同を撹乱する。
三月は回避も受けも出来ないと判断し、右腕をかざして針を甘んじて受ける!
「うぐぁっ‥‥!? かっ、ぐぅっ‥‥!」
針の傷自体は中傷で、まだなんとかならなくもないレベルだ。
だが針から流し込まれた毒がまずすぎる。一気に重傷まで持っていかれるほどの強烈な毒は、三月の思惑を軽く打ち砕いてしまう!
針を受け、硬直した一瞬で左手の短刀を用い、大蜂の羽を切り裂くつもりだったのだが‥‥とてもではないが身体が上手く動かない!
「三月殿!」
阿坂が援護に入ろうとした時には、大蜂はもう三月から離れてしまっていた。
三月は急いで解毒剤を使い、毒を中和したが‥‥身を持ってなんども刺されるわけには行かないと実感したのである。
「仕方ねぇな‥‥俺と阿坂も参加して引き付けるから、冬狐はコンフュージョンのスクロール頼むぜ!」
「承知! オーラシールドが役に立つだろう」
そう言って、三人が冬狐を囲むようにガードに回り、冬狐は先ほどとは違うスクロールを手に再び舞い始めた。
そして、運良く詠唱の終了と、バークが大蜂の攻撃をデッドorライブで無傷にした瞬間が重なる!
「惑え、夏の森の中に。コンフュージョン‥‥!」
『‥‥!?』
大蜂が声を出すわけはないが、一同は確かに感じた。
彼(彼女?)の精神が乱れ、困惑した気配を。
「‥‥どうやらわらわたちを味方だと思い込んだようじゃのう」
「なるほど、確かに今の大蜂にはそれが一番強い思い込みでござろうからな」
「味方だと思ってるやつを攻撃するのは気が引けるけどよ、ここは心を鬼にしねぇとな」
所在なさげにその場に滞空する大蜂に、少しの祈りを奉げ‥‥4人は、大蜂に止めを刺したのであった―――