丹波山名の八卦衆『火の巻』

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月08日〜06月13日

リプレイ公開日:2005年06月14日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「こんにちは。冒険者ギルドの若い衆こと、西山一海です。まだちょっと本調子じゃありませんけど、ギルドには依頼がひっきりなしに来るので、休んでもいられません」
 いつもはもっとテンションが高いのだが、悩み事があるせいかイマイチ歯切れが悪い。
 だがそれを汲んでいつまでも休ませてくれるほど世の中の仕事というものは甘くないのである。
「うむッ! 特に今回は大きな場所からの依頼だ‥‥休むのはむしろ惜しいというものッ!」
 同じく冒険者ギルドの職員で、常に虎覆面を着用しているマント男、大牙城。
 今日は珍しく一海の変わりに彼が依頼の紙を持って、説明をするようである。
「各々方は丹波の国の城主、『山名豪斬様』をご存知だろうかッ!? そして、その配下にいる屈強な武士団と、『八卦衆』の存在を知っておるかッ!」
 八卦衆。
 山名豪斬が組織した、魔法戦に特化した8人の男女からなる特殊部隊。
 特に神皇家の許可を得ているわけではないが、八卦衆の半数である四人は志士の家の出らしい。
 その魔法技術は一人一人が一騎当千と噂される程。その名声は丹波の外まで聞こえている。
 実際、京都に押し寄せていたアンデッド軍団の一部が丹波方面へ迷い込んだ時も、この8人であっさりと鎮圧してしまったぐらいである。
「なんと今回、山名豪斬様直々にギルドへ依頼を寄せていただいたッ! 『最近の不死者の進軍を見事跳ね除け、反撃に転ずるほどの冒険者が京に多数在るは喜ばしきことなり。ついては、我が八卦衆の任に力添えをいただきたい』とのことッ! これは千載一遇の好機とも言えようッ!」
 要は山名豪斬の部下である八卦衆が行っている任務に手を貸してくれ、ということだろう。
 もちろん、名の知れた勇士の集まりである八卦衆と轡を並べて戦うのは名誉なことだろうし、もしかしたら戦功を称えられて丹波藩の藩士に取り立ててもらえることもあるかもしれない。
「で、ですね。流石に八卦衆の方々と現地でお会いするんじゃ色々やりづらいかなと思いまして、今回の依頼でご同行する方を一人だけお呼びしました。どうぞ〜」
 そう一海が奥へ呼びかけると、どう見ても勇士と呼べなさそうな、ぼーっとした感じのする青年が顔を出した。
 細い目が特徴的な、温和そうな男である。
「あ〜、どうも初めまして〜。僕、八卦衆の一人で、火の『炎夜(えんや)』っていいます〜。今回は、大勢の方にご協力をお願いしますね〜」
 ごごごごごごごご! ←空気の重みが増した音
「‥‥つかぬ事を伺うがッ! 本当におぬしが八卦衆のお一人かッ!?」
「やだなぁ〜大牙城さん〜。その質問、もう5回目ですよ〜? 間違いなく、僕が八卦衆の『火』を受け持ってます〜」
 ほんわりと言うかふんにゃりと言うか、間延びした炎夜の台詞回しに、大牙城は何度も同じことを聞いたらしい。
 一方の一海も、納得がいかないように頭を掻く。
「少なくとも『火』っていう単語からは想像できない性格してますよね、炎夜さんって‥‥。『火』って言うよりは『風』って感じがします」
「あは〜、よく言われます〜」
 すっとぼけたキャラではあるが、彼が凄腕の火系精霊魔法の使い手であることは事実。
 そして今回、彼に協力して戦地に赴くというのもまた変わらない。
「とにかく〜、細かいことは依頼の紙に書いてありますんで〜、よく読んで奮ってご参加くださいね〜。丹波藩士のお仲間になってくれる方、大歓迎ですよ〜」
 にこにこ笑いながらの台詞からは、その力の片鱗さえ見出せない。
 彼の実力は、一緒に戦ってみないと決してわからないだろう―――

●今回の参加者

 ea1257 神有鳥 春歌(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4173 十六夜 桜花(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035

●リプレイ本文

●炎夜の魔法事情
「‥‥は? す、スモークフィールドがご使用になれないのですか?」
「あは〜、すいません〜」
 冒険者8人と炎夜は、足軽舞台が展開している(というかキャンプを張っている)平原近くで落ち合い、最後の調整を行っていた。
 その中で、十六夜桜花(ea4173)が、魔法で煙幕を張って数に勝る足軽舞台を撹乱しよう、という意見を出したのだが‥‥結果はお聞きの通りである。
「いや〜、僕、数多く魔法使えないんですよ〜。必要最低限の魔法だけ習って、後は基礎を磨いただけですから〜」
 これは他の八卦衆のみんなも同じですけどね〜、などと付け加える。
「むぅ、私とは逆だな。私は数多くの魔法を思う存分使いたい派だが」
「‥‥少しばかり不安材料が増えたな。おまえに頼り切るつもりはなかったが」
「まぁいいんじゃないか? 伊達に八卦衆なんてご大層な名前で呼ばれてるわけじゃないんだろうからなぁ!」
 丹波家家臣になることを希望した二名、黒畑緑太郎(eb1822)と紅闇幻朧(ea6415)は、少々不満気(不安気?)な声を上げる。
 それをかき消すように豪快に笑ったのは、虎魔慶牙(ea7767)だ。
 確かに八卦衆などと呼ばれて有名な人物が大した実力もないのでは、同じ家臣として先行き不安だろう。
「あは〜、まぁ見ていただければ分かりますよ〜。僕も死にたくないですから、多少自信がないとこんな作戦取れません〜」
 ちなみに『こんな作戦』とは、事後治療役の僧侶が一名と、捕縛した足軽を移送するための十名ほどの若手家臣しか連れてこず、後は自分と冒険者だけでなんとかしようという、至極単純かつ穴だらけな作戦のことである。
 流石の8人も、詳細を聞いたときには半分呆れたようだが。
「お、揃ってるな? 作戦は決まったのかい?」
 物見に出ていた日比岐鼓太郎(eb1277)が戻ってきて、十六夜と同じように煙幕魔法のことを尋ねる。
「それでしたら、炎夜さんがその魔法を使えないので没になりました」
 神有鳥春歌(ea1257)の疲れたような声に続き、すいません〜、と気の抜けたような声を出す炎夜。
 これには流石の日比岐も頭を抱えるしかない。
 しかし、こうなると話し合いなど意味を成さないような気がしてくる。
「名高い八卦衆の炎の使徒と共に戦線を駆けられるとは‥‥光栄ですね。同じ属性の精霊使いとしても、学ばせていただくことも多いでしょう。任務はなかなかに困難を伴いますが‥‥尽力致します」
「ところで‥‥炎夜さんはどのように戦うのでしょう‥‥?」
 一方、緋神一閥(ea9850)と雨宮零(ea9527)は、作戦云々もそうだが炎夜の戦い方の方に興味があるらしい。
 実際問題、9対40でどうするつもりなのだろうか。
「‥‥さて‥‥じゃあ、いつまでも喋っていても仕方ありませんし〜、行きましょうか〜」
「はい? え、炎夜様、行くとは‥‥?」
「勿論、あそこに陣取ってる人たちを倒しに、ですよ〜」
 あくまでにこやかに十六夜の問いに答える炎夜。
 それは、つまり‥‥。
「真正面から行こうってわけかぁ! いいねぇ、俺は好きだぜぇ、そういうのは!」
「で、でも炎夜さん、流石に多勢に無勢というか‥‥」
 虎魔と雨宮の反応は対照的だが、炎夜はにこっと笑って歩を進める。
「大丈夫ですよ〜。なんとかなりますって〜」
 それはまさに、不安を覚えるなと言う方が無理なくらい、気の抜けた笑顔であった―――

●魔法特化の可能性
「よ、よりによって炎夜様か!? 全員散れっ!」
「くそっ、本気で八卦衆までけしかけてくるとはな!」
 昼下がりの平原は見通しがいい。
 すたすたと散歩でもするかのように歩いてくる炎夜の姿を見つけた足軽部隊は、総じて悲鳴に近い号令を発して戦闘体制を取る。
 勿論炎夜の後ろに冒険者8人が居ることにも気付き、更に顔を引きつらせた。
「‥‥で? どうするのだ、炎夜」
「フッフッフッ‥‥魔法が使える‥‥と言いたいところだが、昼間では私には色々不都合なんだが」
「あは〜、こうするんですよ〜」
 紅闇と黒畑の台詞に、炎夜が右手を突き出したかと思うと‥‥。
 ぼぅっ‥‥‥‥‥‥‥‥ずごぅんっ!
「なっ‥‥!? こ、高速詠唱‥‥これが炎夜さんの実力ですか!?」
「ファイヤーボム‥‥しかも、この威力でですか‥‥!」
 足軽部隊の左方面に高威力のファイヤーボムが炸裂し、一気に中傷の人間を量産する。
 同じ火の魔法を使う緋神だからこそ脅威が分かる。
 高速詠唱を以ってこの威力を平然と打ち出されては正直たまらない。
「それでは〜、右方面にも〜」
 言葉どおりもう一発ファイヤーボムを炸裂させる炎夜。
 随分軽装で現れたのは、高速詠唱で魔法を連発するためらしい。
「これでよし‥‥と。ではみなさん、後はお願いします〜」
 そう言うと、刀を持ち直してそそくさと後退する。
「‥‥もしや炎夜様お一人だけで全滅できるのでは‥‥。なんだかやる気が‥‥」
「おいおい、これ以上美味しいところを持っていかれてたまるかよ。さぁて行くか! 俺は戦さ人、虎魔慶牙! 我こそと思わん者はかかってきなぁ!」
「‥‥はっ!? いけないけない、呆けちゃいました。気を取り直して‥‥。一度抜けば迷いはあらず‥‥闇路への道を歩みたいものから、参られよ!」
 神有鳥は短弓、虎魔は朱槍、雨宮は日本刀で攻撃を開始する。
 特に神有鳥が弓で戦う姿は、長い黒髪が映えて特徴的だ。
「あれだけの魔法だ‥‥精神力が続かないんだな。まぁいい、私も魔法で攻撃させてもらおう! おとなしく投降すれば命までは取らぬが、逃がす訳にはいかん」
「俺たちは疾走の術で仕掛けようぜ、紅闇!」
「承知。忍術は作戦行動において十分役に立ってくれるはずだ」
「40名のうち、無傷の人間もかなりいるはずです。油断せず行きましょう」
 黒畑はムーンアローを中心に、日比岐と紅闇は忍術でスピードを上げ、格闘を試みる。
 十六夜は派手さはないが、堅実に当てていく戦法を取っている。
「私には炎夜殿程の魔法はございませんが‥‥剣技については勝っているはず。焔宿りし刀での業、御覧あれ!」
 緋神はバーニングソードを発動し、中傷状態の足軽たちに追撃をかけて動きを止める。
 足軽部隊は炎夜の魔法はもちろん、手錬の冒険者たちに戦列を乱され、思うように戦闘が出来ない!
 中には逃げ出そうとする者も居たのだが、日比岐と紅闇が疾走の術で回り込み、攻撃を仕掛けるので逃げ切れない。
 黒畑が長射程のムーンアローを使えるのもいい牽制になっている。
「まだだ、まだ足りないぜ! さぁもっと掛かってきなぁ!!」
「虎魔さん、出すぎです! 孤立しますよ!?」
「っ、一人抜かれました! 炎夜様!」
 少数精鋭が大人数に勝つ場合、戦線は必ず混乱する。
 いくら炎夜の先制攻撃で怪我人が多数出ていても、手数が足りないからだ。
 それでも半数以上が無力化・投降したころ、一人の足軽が冒険者8人を突破し、炎夜に特攻をかけてきた!
「あは〜、僕、接近戦は苦手です〜。『焔雲雀』〜!」
 十六夜の叫びに、炎夜はまたしても高速詠唱で魔法を発動する。
 軽やかに飛翔する炎の鳥‥‥ファイヤーバードの魔法だ。
「命までは取りませんから〜」
 4回連続の体当たりで、足軽を一気に重傷まで追い込む炎夜。
 格闘・回避はからっきしでも、魔法が2種類しか使えなくても、特定の技を特化させて伸ばせば充分脅威ということか。
「かぁー、魔法使いってのは怖いねぇ。けど俺は、やっぱり武器で戦うのが性に合ってるけどなぁ!」
「いや、虎魔さんは武器以外似合わないと思いますよ‥‥」
 ひきつった笑いを浮かべてまた一人行動不能に追い込んだ雨宮。
 数が減っていく度に士気が下がり、足軽部隊は統率が取れず、どんどん一方的になっていく。
 そして神有鳥の矢を受けた足軽が投降の意思を示し、40名全てが行動不能及び投降となったのであった―――

●丹波家の事情
「一つお聞きしたいんですが‥‥一体彼等は何故貴方達と戦っているのですか?」
「家臣になれるのであれば私も聞きたいな。特に悪政を行っているようにも見えぬが、なぜ内乱が?」
 戦闘終了後、神有鳥と黒畑を筆頭に、十六夜、紅闇が炎夜に説明を求めた。
 依頼だからと足軽たちを倒し、ふん縛ったが、それで納得しろと言うのも無理な話である。
「あは〜。そうですねぇ、皆さんにならお話してもいいかもしれません〜。実は今、丹波藩は二つに割れているんです〜。現主君であり、僕たち八卦衆が味方をしている『山名豪斬』様の一派と、豪斬様の弟君の『山名烈斬』様を擁立しようとする一派に、ね」
 炎夜によると、豪斬と烈斬は実の兄弟で、二人が若い頃からすでに烈斬は家督を狙っていたのだそうだ。
 剣の腕も知力も互角なのに、後から生まれたというだけで何故自分は家臣に甘んじなければならんのか、と。
「まぁよくある家督争いなんですけどね〜、烈斬様もご人徳のあるお方ですから、予想以上に味方が多かったんですよ〜。ただでさえ今は京都に不死者の群れが押し寄せてきてごたごたしてましたから、豪斬様も不意を突かれまして〜。国内の砦や城のいくつかは烈斬様派に占拠されてしまっていますしね〜」
 あまり大事にすれば諸外国の付け入る隙を与えかねないし、かといって家臣が3分の1強も烈斬に付いてしまっては鎮圧もままならないのが現状なのだ。
「あ、一応この話は機密事項ということでお願いします〜。もっとも、鼻の効く国にはとっくにバレてるでしょうけどね〜」
 聞けば今回捕縛した足軽たちは説得の末、豪斬派に戻ればお咎めなしにする予定だとか。
 仕置きはすでに冒険者に行ってもらったし、山名家の行く末を憂いてくれたことには違いないから、と。
 豪斬と烈斬‥‥丹波の国で起きた家督争いは、そこに住む人々に、近隣の国々にどういった影響を及ぼすのだろうか―――