丹波山名の八卦衆『地の巻』
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月22日〜06月27日
リプレイ公開日:2005年06月29日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「各々方、本日も息災だろうかッ!? 私はまさに『川にて流れてきた葉を振りもせずに両断する刀』といった具合ッ!」
「分かり辛っ! 絶好調なのはわかりましたけど、もう少し分かりやすく言ってください」
「むぅ‥‥申し訳ないッ! 私の中の『漢』の血がこう言えと言ったのだッ!」
今日も無意味にハイテンションな京都ギルド職員の二人組み‥‥虎覆面の大牙城と、平凡な顔の西山一海。
どうやら一海は完全に復調したらしく、表情も生き生きとしていた。
「っと、冗談はこのくらいにして‥‥今日の依頼の説明です。今回の依頼は、以前にも一度依頼を寄せていただいた丹波藩城主、山名豪斬様からのお仕事です。このまま常連さんになっていただけたら嬉しいですよね♪」
「うむッ! しかも今回も、依頼に同行する八卦衆にご足労願っているッ! 忙しいであろうに、わざわざ来ていただける辺り誠意を感じると言うものよッ!」
一応、八卦衆について説明しておくと‥‥現山名家当主である山名豪斬が保有する、魔法戦に特化した8人の男女からなる特殊部隊のことである。
神皇家の許可を得ているわけではないので、平織虎長や神皇家の受けはそんなによろしくない。
半数の四人が志士の家の出らしいが、 何か事情でもあるのだろうか。
冒険者ギルドに依頼を寄越したこともあり、最近京都でも知名度が上がってきた‥‥ような気がする。
「では、早速お呼びしようッ! お出でませいッ!」
大牙城が奥へ呼びかけると、男物の着物を身に着けた髪の長い若い女性が歩み出てきた。
ポニーテール状の髪を揺らし、薄い紅で彩った唇を開く。
「あ、あぁぁぁぁあのっ! わ、私、八卦衆の一人で、地の『砂羅鎖(さらさ)』っていいますっ! よ、よろしくお願いします!」
ごごごごごごごご! ←空気の重みが増した音
「‥‥‥‥頼りなっ!?」
「はうっ!? ご、ごごごごごめんなさぃぃぃっ!?」
怯えたようにびくっと震え、目の端に涙まで溜める始末。
炎夜とは違った意味で、丹波藩が誇る歴戦の勇士とは思えない性格をしているようだ。
例の虎覆面で表情は伺えないが、大牙城も勿論腑に落ちない様子。
「むぅ‥‥またしても予想を裏切られたような気がするなッ! よもや八卦衆の方々は、全員が意外な性格をしているのだろうかッ!? それはそれで面白いがッ!」
「ふぇっ!? そ、そんなことは‥‥そんなことは‥‥ないんじゃないかなー、と‥‥。た、多分‥‥」
意外な性格と言うか別な意味でひねた性格と言うか‥‥少なくともこの砂羅鎖は押しが弱く、非常に頼りなさ気だ。
まぁ前例を考える限りでは、彼女も凄腕の魔法の使い手なのだろうが。
「ところで、砂羅鎖さんは地の精霊魔法の使い手さんなんですよね? 志士なのに剣技磨かなくていいんですか?」
「え‥‥あ、あのっ、私は‥‥その、志士じゃありませんっ! 地の精霊魔法を使うのは他の人ですぅっ!」
「なんとッ!? では『地の』と言うのには語弊がないかねッ!? というか君の職業はッ!?」
「あぅぅ、さ、侍ですっ! お、オーラ特化型の侍ですぅっ! 剣技怠けていてすいませんんんんっ!?」
埒が明かない上に他の職員から五月蝿いとのクレームがついたので、一海がなんとか二人を鎮めた。
「くすん‥‥えっと、ではそういうことでよろしくお願いします。く、詳しいことは別紙に記してありますので。そ、それから、丹波藩ではまだまだ家臣を募集していますので、腕に覚えのある方は大歓迎します。それじゃ、わ、私はこれで‥‥」
そう言って、とぼとぼと帰っていく砂羅鎖。
その背中になんだか哀愁が漂っているような気がするのは何故だろう。
「‥‥あ。砂羅鎖さん、結局ろくすっぽ説明していきませんでしたね」
「‥‥むぅッ!? 仕方あるまい、一海殿ッ! 説明をッ!」
「はいはい、そう来ると思ってましたよ。えっと‥‥今回は妖怪が相手みたいですね。丹波藩のとある森で確認された『人喰樹』の滅殺が目的らしいです。普通のものより大型で、力も強く、生半可な実力じゃ返り討ちにあってしまうとか。蔦や枝を使って攻撃するので、手数が多いのも厄介、と書いてあります」
ごたごたしているという丹波藩の実情から、人手が足りていないのだろう。
また、冒険者の中から実力者・希望者を募って家臣の増強を図る意味も込められているのかもしれない。
「しかし、随分と待遇がいいなッ! 食事や怪我の心配をしなくてもいいとはッ!」
依頼の紙を覗き込み、大牙城が言う。
その台詞にはなんとなく、『自分も行きたい』というようなニュアンスが感じられるのが恐いところだ。
「それだけ切羽詰ってるのでは? それに食事はともかく、怪我の方は戦闘中の回復は範疇外らしいですし」
何はともあれ、静かに波乱を巻き起こしている丹波藩‥‥その行く末は、一体どこに向かうのだろうか―――
●リプレイ本文
●いざ、退治へ
「丹波のく〜にの人喰樹〜、八卦の砂羅鎖と退治しよ〜。掴まり食べられオーラアルファー?♪」
「ベンベン〜楽しく行きましょうよ〜ベンベン」
「炎夜殿といい、砂羅鎖殿といい、見た目の印象に反して、その類稀なる才。八卦衆の方々はなかなかに個性的であられるようですね(微笑)。縁があれば、全ての方と会い見えてみたいものです」
丹波藩、某所。
問題の人喰樹が根を下ろしているという森に向かう道筋を辿りながら、一行は様々な会話をしていた。
主に八卦衆・地の砂羅鎖への質問が多かったのだが、緋神一閥(ea9850)がしたような普通の挨拶もあれば、日比岐鼓太郎(eb1277)や天道椋(eb2313)のように歌を歌いながら機嫌よく歩く人間もいる。
「ここまで意外な人物が揃っているとなると、『水』なのに暑苦しかったり、『天』なのに酷く地味で影が薄いとか、そんな感じなのでござるか?」
「八部衆八人ってコトは、地水火風に陽月に闘気と忍術かしら? もしくは‥‥陽月が無くて白黒とか」
「はうっ!? え、えっとですね‥‥八卦衆は精霊魔法6種の使い手が一人ずつと、忍術とオーラ魔法の使い手が一人で合ってます。ざ、残念ながら神聖魔法の達人は居ません」
七枷伏姫(eb0487)と十文字優夜(eb2602)の質問に、おどおどしながら答えるのが八卦衆の砂羅鎖。
一応オーラ魔法の達人らしいのだが、いまいちそんな風に見えない。
「それじゃ私も聞いておきたいことがあるんだけれど‥‥いいかしら。人喰樹の場所はさっき聞いたからいいんだけれど、あなたの使う魔法よ。一口にオーラ魔法って言っても色々あるでしょう?」
「ふむ‥‥お持ちの技は、遠距離からの攻撃技を1つ、防御又は待避技を1つという所ですか?」
南雲紫(eb2483)と黒畑緑太郎(eb1822)は、砂羅鎖の使う魔法に興味があるようだ。
それもそうだろう、これから強敵と戦おうという時に味方の魔法を把握して居ないのでは困る。
特に丹波家家臣となることを希望した黒畑は、魔法マニアという趣味の上でも知りたいだろう。
「べ、別に隠してるわけじゃないんです、けど‥‥わ、私は、オーラショットとオーラアルファーしか使えません! 役立たずでごめんなさぃぃぃっ!?」
「誰もそんなこと言ってませんって(汗)。その二つだけでも凄い威力なんでしょうし、俺にアイスブリザードのスクロールまで貸してくれたじゃないですか」
「そうそう、自分を卑下するのはよくないぞ。鍛え足りなきゃ、もっと鍛えればいいじゃないか」
「くすん‥‥こ、これでも頑張ってるんですよ‥‥私‥‥」
天道と日比岐が励ますが、あまり効果は無いようだ。
元々沈みやすい性格をしているのだろうが、中々難儀である。
「ガゥ‥‥もり、みえた。おまえたち、ゆだんするな」
ルゥナ・アギト(eb2613)の言葉に、一行は前方に広がる森を見据えた。
鬱蒼と茂り、木々が密集する深い森‥‥。
「ここから先は、何処から蔦やら根やらが飛んでくるか分からない人喰樹のテリトリー、長引けばどんどん危険になって行くから、できる限り速攻で倒しましょうね」
「『人喰樹』は攻撃の手数が多く、移動できんが攻撃範囲は広いそうだ。援護の人は近寄りすぎるなよ!」
十文字と黒畑が号令を送り、場の緊張感が高まっていく。
森に入ってすぐ戦うというわけではないが‥‥それでも、危険度は大きく増すのである―――
●脅威の耐久力
「いた‥‥ルゥナ、たてになる。おまえたち、じゅんびいいか?」
「いつでもどうぞ。希望された方々へのバーニングソードの付与は終わっています」
「さて、まずは露払い、だな」
「時間は掛かったが、なんとか高威力のオーラソードを発動できたでござる。後は切り結ぶのみ!」
人喰樹の攻撃範囲ギリギリのところで準備を終えた一同は、目の前にどっしりと生えている大樹を見やった。
一見ただの木にも見えるが、樹齢を重ねたであろうその巨木の付近には、根や蔦が不気味に蠢いている。
攻撃範囲に入ってきたら、一斉にそれらで攻撃し、一同を捕食する気なのだろう。
「も、目標確認しました。みなさん、私がオーラショットで先制攻撃しますから、つ、続けてお願いします。わ、私も接近戦苦手なので、一度撃ったら後方から援護しかできません、けど‥‥」
「両手持ちの太刀‥‥烈火剣を試してみるさ。疾走の術もあるから大丈夫」
「我が焔は、汝らが弔いの炎。邪悪に染まる大地の御手を、清め祓え 葬送の炎舞!」
「い、いきます! オーラショット!」
高速詠唱でなお成功率はほぼ100%。高威力のオーラショットを撃ち出す。
体力が無い者なら一撃で重傷まで持っていく恐るべきオーラ弾が、人喰樹へ直撃する!
‥‥だが。
「馬鹿な、あれだけの威力の魔法が殆ど効いてない!?」
「ガゥゥ‥‥がんじょうなやつ‥‥!」
「ちっ、化け物め‥‥! 接近戦で行くぞ!」
黒畑、ルゥナ、南雲が驚愕して毒づくが、現状は好転しない。
こうなれば南雲の言うとおり、接近戦で叩き伏せるほかあるまい。
「うぇぇぇん、わ、私、ホントの本気で役立たずですぅぅぅっ!?」
「砂羅鎖さん、泣くのは後にして援護してください! スクロール発動‥‥アイスブリザード!」
「聞かせてやる‥‥月光の旋律。弾けろ、黒き映し身よ! シャドウボム!」
援護班である天道、黒畑が術で援護を開始する。
「くっ、意外と攻撃の精度が高い!? 蔦の耐久力はさしてありませんが‥‥!」
「グゥッ‥‥! ち、ちからも、つよい‥‥!」
「まずい、私でも避けるのがやっとだ‥‥!」
人喰樹の攻撃を引き付け、本体を攻撃する面々を護衛する囮班の三人が予想外に苦戦している。
ルゥナは一撃で中傷までもっていかれたし、緋神と南雲は攻撃を捌くので手一杯の様子。
「守ってもらった分の働きはするわよ! いくら頑丈でも、この一撃ならっ! 焔刃・神威!!」
「烈火剣‥‥鍛えた力を見せてやる!」
「高威力版のオーラソードもおまけにつけるでござるよ!」
なんとか猛攻をかいくぐり、攻撃班が人喰樹の本体に攻撃を当てる!
しかしそれも、シュライクEXを織り交ぜた十文字の攻撃が中傷クラスのダメージを与えただけ。
比岐、七枷の攻撃はかすり傷程度に留まってしまう!
「なんて胡散臭さだ!? ってまずい、離れないと攻撃が飛んでくる!」
「も、もう一発斬れば相手もかなり弱るでしょう!? 私は続けるわ!」
「無茶でござるが、それしかないでござろう‥‥がっ!?」
日比岐が一旦離れることを提案したが、十文字と七枷は応じなかった。
応じなかったが故に、七枷が地中からの根の攻撃で中傷を負う羽目になったのだが。
「駄目です、前衛組みを巻き込んじゃいます! 俺じゃこれ以上援護が出来ません!」
「くそっ、シャドウボムでも手数が足りない! 木の葉が邪魔で思ったような影が出来ん‥‥!」
アイスブリザードのスクロールでは当然味方にも被害が出るし、枝やら蔦やら根やらがうねうねしているため、シャドウボムでも落としきれないのが現状だ。
砂羅鎖も初級のオーラショットを高速詠唱で発動して撃ち落しに回っていたが、精神力が尽きはじめていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥! み、みなさん‥‥ごめんなさい、私が力不足なばっかりに‥‥こんなんじゃ、八卦衆失格です‥‥!」
「しかく? しかくってうまいのか!?」
「美味しくは無いと思いますが‥‥なんですか、急に!」
ルゥナが突然素っ頓狂なことを言うので、思わず緋神が聞き返す。
「なんだ、うまくないか。うまくないもの、気にしてもしかたない」
「ふん、いいことを言うじゃないか。資格とか我執なんてもんはドブにでも捨てておけ! 全力を尽くせば他人がどう言おうが構うことなどない! 地位とか名声は後からついてくるんだから、今現在を生き抜くことだけ考えろ!」
その、南雲の叱責が。
後ろ向きですぐに腰を引いてしまう砂羅鎖の心に、何かをもたらした。
「‥‥はい! みなさん、申し訳ないんですが少し我慢してください! 纏めて‥‥吹き飛ばします!」
そう言って、砂羅鎖は人喰樹に向かって突撃する。
戦闘準備の時点で日本刀を地面に突き刺して身軽になっていたため、魔法を発動するのはそれこそすぐだ。
「地よ揺れろ‥‥束縛の鎖を解き放て! 『大蛇咆』っ!」
ゴゥゥゥゥゥンッ!
襲い来る枝や蔦に対し、高速詠唱を用いての高威力版オーラアルファー。
無論味方も巻き込んでいるわけだが、蔦や枝を殆ど吹き飛ばすことに成功している!
「あたた‥‥これはきついわね。こんなもの平然と撃たれたら、そりゃたまらないわ」
「緋神、こいつを使ってくれ!」
怪我の大きい日比岐が、バーニングソードが効いたままの太刀を緋神に渡す。
「心得ました。我が渾身の一撃で、この戦いに終止符を! 『浄炎剛断』!」
スマッシュEXで振り下ろした太刀は、さしもの人喰樹も重傷状態に陥り、根の動きも大分鈍くなる。
それで、勝負は決まったようなものだった。
あとは十文字と緋神、人喰樹に有効打を与えられる二人が攻撃を続け、やがて人喰樹は二度と動かなくなる。
「あ、あは‥‥みなさん‥‥怪我させちゃって、ごめ‥‥ん、なさ‥‥」
それを確認した砂羅鎖は、笑顔で呟いてゆっくりと倒れて寝息を立て始めてしまった。
「うーーー。無事終わったわ。でも、丹波藩も色々大変ね」
「やれやれ‥‥魔法力を使い切った上に緊張の糸が切れたのか。頼り甲斐があるんだか無いんだかわからない先輩だな」
「眠らせてあげるのね。内乱が収まるまでの、しばしの戦士の休息なんだから」
十文字と黒畑の言葉をさらりと受け流して‥‥南雲は優しく、砂羅鎖の髪を撫でてやったのだった―――