チキチキ! 朧車猛レース

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月27日〜07月02日

リプレイ公開日:2005年07月03日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「あ、藁木屋さん、そっちのお団子取ってくれますか?」
「これかね。人の嗜好にケチをつけるつもりはないが‥‥私は煎餅の方が好みだな」
「なかなか通だな、藁木屋殿ッ! やはり茶の共には煎餅に限るッ!」
「‥‥京都の酒場じゃお茶飲めないから、ここって貴重よね」
 冒険者ギルドの一角に、やたら賑やかな卓があった。
 机の上には、団子、煎餅、アラレ等々、茶のお供になりそうな菓子類が所狭しと並んでいる。
 京都冒険者ギルドの職員、西山一海と、同じくギルド職員で、虎覆面が特徴の大牙城は、見慣れぬ二人と茶を啜っていた。
「あ、どうもどうも、皆さんも食べます? 大丈夫ですよ、依頼の紹介はちゃんとしますから」
「そして紹介しようッ! 疑いもすっかり晴れ、私たちの紹介する依頼への協力者となっていただけることになった、藁木屋錬術殿ッ! そしてその相方、アルトノワール・ブランシュタッド殿だぁッ!」
 大仰に紹介されたマント着用の青年が、藁木屋。
 元江戸奉行所の同心だったが、諸々の事情により退職。現在は冒険者として京都で暮らしている。
 そして、紹介などされなかったかのように黙々と煎餅をかじっているのがアルトノワール。
 藁木屋に素早く正確な情報を伝えるのが役目で、性格は破綻しているが容姿端麗。
「では、そろそろ本腰を入れて説明と行きましょうか。今回の依頼は京都内、右京の一角に居を構える、とある貴族さんからのお仕事です。最近、その貴族さんの屋敷の周りを夜な夜な『朧車』が走り回って困っているそうです。しかも、何故か2台いて、速さを競うように激走するんだとか。屋敷内に進入してくるわけではないそうですが、あまり気持ちのいいものじゃないでしょう? ですから、冒険者ギルドへ依頼をよこした、と」
「確かに自分の家の周りを走られてはたまったものではないッ! 夜の間は出かけられなくなる上、客も呼べんッ! 朧車は目に付いた生物を片っ端からひき殺そうと向かってくるため、通行人にも大迷惑だッ!」
 朧車。
 引く牛もついていない牛車の姿で走り回っており、その姿は朧げ。
 正面には目を光らせた、恐ろしい形相の鬼の顔が浮かぶという妖怪だ。
 しかもその名にふさわしく、通常の武器が通用しない身体をしているのが厄介である。
「補足させてもらうとだ、朧車は貴人‥‥特に女性の怨念がとりついたとされる妖怪だ。それが2台、しかも速さを競うようにとなると‥‥私には貴族の方の自業自得のように思えてならないな」
 一海、大牙城の説明に続き、藁木屋も口を挟む。
 つまり、依頼人の貴族が浮気相手としていた女性二人が不幸にも亡くなり、朧車になってまで依頼人を慕って屋敷の周りを疾走している‥‥というのが藁木屋の見立てなのだろう。
 実際問題、例の『黄泉人』に指揮されているわけでもない限り、街中に突然朧車が現れるのは不自然だ。
「‥‥出現場所がピンポイント過ぎるものね。ま、依頼じゃ仕方ないでしょ」
「アルトノワールさん、相変わらず興味なさそうですねぇ」
「無いわ。全然全くさっぱりこれっぽっちも」
「さいですか。とにかく、依頼だから仕方ないって言うのは事実です。本当に貴族さんの浮気が原因だとしても確かめる術はありませんし、実際困ってるみたいですから、助けないわけには行きません」
「その通りだッ! 京都内の治安のためにも、是非撃破を頼みたいッ!」
 仕事は仕事、私情は私情。
 この二人に限ってそう割り切っていると言うことはありえないが、京都の治安維持案じているのは間違いない。
 藁木屋たちがサポートするので、情報には困らないであろうこの依頼‥‥是非、完遂していただきたい―――

●今回の参加者

 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb0921 風雲寺 雷音丸(37歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 eb1624 朱鳳 陽平(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1842 北宮 明月(24歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1900 縹 弦露(58歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb2936 役 紫(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

蒼眞 龍之介(ea7029)/ デュランダル・アウローラ(ea8820

●リプレイ本文

●依頼初日
「チキチキ朧車〜チキチキ朧車〜猛レェ〜ス〜、ってか」
 口に手をあて、イシシシシシシシと笑うのは朱鳳陽平(eb1624)。
 とりあえず意図が分からないためか、誰もツッコまなかったが。
「馬鹿なことやってないでさっさと準備しなよ。あいつら、すぐに戻ってくるよ」
 にべもなく呟いて作業に戻った役紫(eb2936)。
 風雲寺雷音丸(eb0921)が打ち込んでいる足止め用の縄を掛ける杭の手伝いに回っているようだ。
「来た‥‥隠れるぞ」
「むー、思ったよりも一周してくるのが速いのだ」
 風雲寺と玄間北斗(eb2905)がそう言うと、今まで響いていたガラガラという音が一層大きくなり、屋敷の角から二台の朧車がコーナーリングしてきた。
 いまいちどっちがどっちだか判別がつかないが、今日は右側を走る朧車のほうが先頭を行っている。
「困ったな。奴らが回ってくる度にこうやって屋敷の中に逃げ込まなければならないのは不便で仕方ない」
「仕方ないだろ。堀もなければ隠れるところも無い‥‥京都の町ってのは見通しが悪いようでいいんだからさ」
 縹弦露(eb1900)と黒畑緑太郎(eb1822)の陰陽師二人組みも依頼人の屋敷内へと逃げ込み、一旦朧車をやり過ごす。
 一行は依頼初日である今日、情報収集と罠作りに専念していた。
 朧車の行動パターン、速度、軌道‥‥それらを計測し、後日のための仕掛けを施しているのだが‥‥。
「やれやれ‥‥『無作為』というのがこれほど面倒だとは。前情報と違って実体があるのはいいが、シャドウバインディングをかける機をうかがい難い」
「視界は良好になりますけれど‥‥。不意に速度を落としたりします‥‥。朧車も疲れるんでしょうか‥‥」
 北宮明月(eb1842)と柳花蓮(eb0084)は塀の上に陣取り、朧車が周回する様子を眺めていた。
 聞き込みを含めて確認した結果、朧車の速度などは『これだ』と簡単に結論付けられないものだった。
 確かにコース自体は依頼人の屋敷の周りだけだが、右側が速かったり左側が速かったりと、二台が真剣に勝負しているのかか日によって動きはまちまち。
 ドライビングテクニックも向上しているのか、そのうちドリフトでもかましそうな気配だ。
「ガルル‥‥今日はここまでにしておこう。決戦は後日だ」
 風雲寺の音頭に従い、一同は今日のところは作業を切り上げることにした。
 帰るときもいちいち朧車の動向を気にしなければいけないのが面倒だが‥‥。
「さて‥‥冗談は今日だけにしておこうか。次に会ったら‥‥悪いけど、容赦しないぜ」
 返り際、朱鳳は真面目な顔になって一人呟いた。
 今日何度も聞いた、朧車たちの魂の叫びに真っ向から立ち向かうために―――

●朧月夜の決戦
 愛しい、愛しい、愛しい―――
 憎い、憎い、憎い―――
 朧車が走る時、一台は愛しいと叫び、もう一台は憎いと叫んでいた。
 自分たちの想いの強さを競うかのように、屋敷の周りを走り続ける朧車たち。
 彼女たちに非は無いのかもしれない。
 だが、不幸にも死んでしまい、人々の迷惑になってしまっているのであれば―――
「‥‥倒すしかない‥‥よなぁ」
「ん? どうした、朱鳳殿。何か不安なことでもあるのか?」
「いんや、別に」
 縹の言葉を軽く受け流した朱鳳だったが、気分的にはそんなに清清しくは無いが。
 夕暮れ時の依頼人の屋敷の前は、事前に人払い及び通行止めを示唆してあった為、猫の子一匹いない。
「準備を始めるぞ。各々所定の位置につき、足止め用の罠の最終調整だ。というかほぼ力押しで行くことになるが」
「分かりました‥‥。玄間さん、お手伝いお願いしますね‥‥」
「了解なのだ。美人さんの御手伝いは大歓迎なのだぁ」
 北宮の言葉で、一同は早速準備に掛かる。
 柳と玄間、北宮、黒畑は屋根に。
 役、朱鳳、風雲寺、縹は罠設置の後、依頼人の屋敷の門内に退避した。
 やがて、ガラガラガラと車輪音が鳴り響き始め、門の前を二台の朧車が通過する!
「確か一週してくるまでの平均は一分くらいだったね。大ガマの術、いつでもいけるよ」
「引っかかった気配が無い‥‥やはり縄だけでは駄目か。アイスコフィンのスクロールを頼む」
「任せろ。すでにバキュームフィールドが使い終わったところだ」
「ムーンフィールドも張ってみよう。フッフッフッ‥‥魔法が使える‥‥」
 役、雷音丸、縹、黒畑が先陣を切り、朧車たちが戻ってくるまでに術を完成させる。
 そして朧車二台が、一回りしてその姿を現す!
 まずぶつかるのは、縹が仕掛けたスクロールのバキュームフィールド!
「駄目だ、かすり傷程度にしか効いてない! ならば大ガマで受け止める!」
 すでに展開された黒畑のムーンフィールドと並ぶように、役の呼び出した大ガマが出現する。
 日が暮れきった今、月光の下で淡い光の結界と大ガマが朧車の前に立ちはだかるが‥‥。
「‥‥いともあっさり突破されたな、黒畑様は」
「さ、流石にパワーがダンチなのだ」
 塀の上で様子を見ていた北宮と玄間が呟くが、結界を突破された黒畑はそのまま朧車に体当たりされ、一撃で重傷になってしまっている。
 一方、大ガマの方は意外と頑張っていて、ダメージを受けたものの突破はされず、なんとか抑えている。
 最後の砦とも言うべきアイスコフィンがけの縄のトラップは有効だったようで、黒畑をはねた朧車は何度も縄トラップに体当たりしながらその場に留まっていた。
 地面に杭を打ち、その間に縄を張り、その縄部分にアイスコフィンのスクロールをかけた罠。
 魔法で強化されているため、縄トラップ自体は破壊されないかも知れないが、それを繋ぎとめる『杭』の方がいつまで保つか。
「ブラックホーリー‥‥。いきます‥‥」
「機を逃す手は無いな。ムーンアローも追加してやる」
 柳と北宮の魔法もかすり傷程度のダメージにしかならないのは仕方ないが、それも注意を逸らすことにはなる。
「よし、玄間、降りて来い! あとはお前だけだぞ!」
「わかったのだ!」
 朱鳳が自分と風雲寺にオーラパワーをかけており、塀から降りてきた玄間にも付与する。
 その間に風雲寺が縄トラップに引っかかっている朧車に野太刀でのスマッシュEXで斬りかかる!
「グルルル‥‥グォォォォォォォォッ!」
 それは正に、獅子の咆哮。
 風雲寺の気合の一撃は、なんと一撃で朧車を再び黄泉路へと送り返してしまったのである。
 アンデッドに有効なオーラパワーが付与されたいたとはいえ、この威力は尋常ではない。
「流石だなぁ。俺は俺で自分の歩幅でやるけどな!」
 オーラパワー+ソニックブームの一撃を放ち、役の大ガマと力比べをしていた二台目の朧車へ攻撃する朱鳳。
 朱鳳によって重傷に追い込まれた朧車に、再び塀の上に登った玄間がオーラパワーを追加された、『八握剣』という特殊な手裏剣で追撃する!
 これは普通の状態でもアンデッドモンスターに対しダメージを増加させる効果があり、それにオーラパワーが加わると‥‥!
「遠心力でぱわーあーっぷ! なのだ〜!」
 1メートルほどの紐をつけ、遠心力を用いさらにダメージの増加を狙ったらしい。
 二段階で有効な武器に、よく考えられた武器の使用法。
 この二つの融合で、玄間の攻撃を喰らった二台目の朧車は最早動くこともままならない。
 大ガマに力負けし、とうとうひっくり返されてしまったのである。
「やっぱり、とどめを刺すんですか‥‥? なんだか、可愛そうです‥‥」
「依頼の主旨を考えろ。私も気は進まんが、見逃すわけには行かない」
「あ痛たた‥‥そ、それに、そもそも見逃すのはこいつにとってよくないぞ。成仏する方がよっぽど幸せなはずだ」
 柳の言葉に、縹、黒畑が返答する。
 ちなみに黒畑はこの後、依頼人が用意した薬で回復している。
「まったく‥‥これが依頼人の勝手の成れの果てかと思うと腹が立つね。大ガマの一匹でも屋敷内に放り込んでやろうかしら」
「まあ何が原因なのかということはあえて聞きはしないが、自分のしたことに責任ぐらいは持ってほしいものだな。少しは行動を改めなければまた同じことが起こる可能性だってないとはいえないのだから」
 役と北宮も、当然気分がいいはずは無い。
 依頼だし右京の治安維持のためと言えば聞こえはいいが、結局人の業から生じた事件だ。
「悲しいのだ‥‥けど、せめてこうすることが、彼女の悲しみを止めることだと信じたいのだ」
「ガルル‥‥哀れむなら、とどめが正しい」
「なら俺に任せてくれ。損な役回りだが、引き受ける」
 玄間、風雲寺が武器を構えたのをそっと制したのは、朱鳳だった。
 まだオーラパワーが効いているので、ダメージを与えるのに問題はない。
「つまんねぇ事にしがみ付かず成仏してくれ。生まれ変わったら‥‥祭りに行ったり野を駆け回ったり、自由に、賑やかに生きられる環境であることを祈るよ。‥‥こいつが俺に出来る、精一杯の贈り物だ」
 掲げられた日本刀。
 横転してカラカラと車輪を空回りさせている朧車。
 その二つが交差する時‥‥悲劇は、終わりを告げた。
 事件を起こすのが人ならば、それを治めたのも人。
 世に人がある限り、物語は星の数ほど紡がれる―――