丹波山名の八卦衆『月の巻』

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月03日〜07月08日

リプレイ公開日:2005年07月10日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「みなさんこんにちは。『京都冒険者ギルドの若い衆』こと、西山一海です♪」
「同じくッ! 京都冒険者ギルドの職員で、『真の漢を目指すもの』こと大牙城だッ!」
 今日も今日とてテンション高い二人組み‥‥虎覆面の男と平凡な青年。
 その横で茶を啜りながら他人の振りをしているのは‥‥。
「どうした藁木屋殿ッ!? 君も思う様自己紹介するがいいッ!」
「‥‥い、いえ、私は遠慮しておきます」
 現在は京都の便利屋と化した、藁木屋錬術という青年だ。
 今日は珍しく一人らしい。
「ノリが悪いですねぇ。まぁいいです、私たちは仕事しちゃいましょう。今日の依頼は、丹波藩城主、山名豪斬様からの依頼です。まだ三回目ですけど、常連さんになっていただけたというところでしょうか♪」
「名誉なことよッ! しかも例によって、依頼に同行する八卦衆のお一人がいらっしゃっているッ! いらっしゃってはいるが‥‥なんとも言えんのであえて何も言うまいッ!」
 歯に物が挟まったような言い回しをする大牙城。
 その台詞から察するに、またイメージ違いのキャラクターなのだろうか。
 一応、八卦衆について説明しておくと‥‥現山名家当主である山名豪斬が保有する、魔法戦に特化した8人の男女からなる特殊部隊のことである。
 冒険者ギルドへの依頼が続き、京都でもそこそこ噂になっているようだ。
「言いたいことは充分分かりますけど‥‥(汗)」
「私は会っていないから知らないな。待たせては失礼に当たるだろうから、速く呼んだ方がいいと思うがね」
 藁木屋に促されて、一海と大牙城はバツが悪そうに奥へ声をかけた。
 先ほどまでのノリのよさをどこに放り出してきたんだと思うくらいのローテンション具合である。
 そうして歩み出てきたのは、髪をツインテール式に結った女の子。
「やっほー! あたし、八卦衆・月の『宵姫(よいひめ)』だよ♪ 姫ちゃんって呼んでくれると嬉しいなぁ。悪い人は、月に代わって成敗よ♪」
 どどどどどどどど! ←空気の張り具合が増した音
「軽いな!?」
 思わず藁木屋が即ツッコミしてしまうほどのテンション。
 およそ厳かな雰囲気を持つ『月』という言葉からは想像し難い性格である。
「うにゃ? 軽いなんて失礼だよ、元気って言って♪」
「いや、世間一般じゃ『うざったい』って言うと思います、多分」
「というか君は何歳だッ!?」
 一海と大牙城の言葉をまるで気にしない様子の宵姫。
 笑顔全開で質問に答える。
「やだもうー、女の子に年齢聞くなんて失礼なトラさんだね。別に秘密にしてるわけじゃないから言っちゃうけど、十ごにょごにょ歳だよー♪」
「はい? えっと‥‥よく聞こえなかったんですけど」
「だからぁ、十ごにょごにょ歳♪」
「何故正確な年齢を伝えようとしないのだッ!?」
「だってー、倫理委員会に引っかかって規制されちゃうの嫌だもん。春画同人どんと来い♪」
「誰が作りますかそんなもん!?」
「あれば見てみたい気もするが、そんな物好きはおらぬわッ!」
「やーん、結構本気で募集中なのに〜!」
「話が進まないだろう!? 一海君も大牙城殿も宵姫嬢も、いい加減真面目にやりたまえ!」
 藁木屋が放った鶴の一声で、三人はしばし固まる。
 生真面目な藁木屋の存在を一番喜んでいるのは、回りで働いている他のギルド職員なのではないだろうか。
「そうだね、これ以上遊んでると豪斬様に怒られちゃうかもしれないしね。んーとね、今回のお仕事は、とある輸送部隊の積荷を奪取もしくは破壊することだよ。詳しいことはここじゃ言えないけど、輸送を完了させちゃうと厄介なんだ。ちなみに積荷の内容は、刀や鎧とかの武具類って聞いてる」
 暗に内乱の敵方による輸送作戦を阻止せよ、ということなのだろう。
 日取りや輸送隊の道筋は調べがついているそうで、依頼の参加者だけに公開するとか。
「それから、例によって食事と怪我の心配は要らないから安心してね♪ まだまだ家臣も募集中だから、気軽に希望していいよ。家臣って言っても、今までの生活を変えなくてもいいみたいだし♪」
「何かあれば私が宵姫嬢との繋ぎ役になるから、好きなだけ質問してくれ」
 藁木屋がいることで、今まで以上に綿密な作戦が練れることになるだろう。
 敵の数もそこそこ多いとのことだが‥‥さて、陰陽師である宵姫の実力や如何に―――
「個人的に、砂羅鎖ちゃんの春画同人とか見てみたいかなー♪」
「やめいと言うに!?」
 ‥‥本当に実力なんてものがあるのだろうか―――(汗)

●今回の参加者

 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4522 九印 雪人(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8099 黒眞 架鏡(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8428 雪守 明(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

夜十字 琴(ea3096)/ 馬場 奈津(ea3899

●リプレイ本文

●待ち伏せの合間に
 某月某日、快晴。
 すでに作戦決行場所である岩の多い山道で待機している一同は、輸送隊が来るまでに宵姫と自己紹介を行っていた。
「俺で最後か。俺は陰陽師の黒畑緑太郎(eb1822)だ。同じ陰陽師として、魔法の威力では適わないが、種類と使い方で役に立ってみせる‥‥っと!?」
「にゃははー、知ってるよー。炎夜君や砂羅鎖ちゃんの時も協力してくれた人でしょー?」
 黒畑の台詞が終わるか終わらないかの内に、宵姫が黒畑の背後に回って抱きつく。
「ごめんねぇ、折角何回も家臣志願してくれてたのに、しっかりした答えしてあげられなくてー。黒畑さんに限らず、今まで希望してくれた人たちはみんな名簿作って記録してあるから、仮所属扱いさせてもらってるよー♪」
「ほー。モテモテじゃないか、黒畑」
「うん、いいじゃないか。鍛えてるやつはさ、ほら、魅力的なもんだよ。うん」
 九印雪人(ea4522)と日比岐鼓太郎(eb1277)が横から茶化し、場がなんとなく和む。
 命を懸けた戦いの前の、ちょっとした憩いの一時である。
「しかし、輸送部隊の襲撃とは穏やかでは有りませんね。内乱鎮圧の一環と言う所でしょうか。何れに非が有っての乱かは分かりませんが、長引けば民草の苦しみも増すと言う物。少しでも乱を早く終わらせるという事であれば、意義の有る事でしょうか」
「目標の積荷は刀や鎧でござるか。破壊するのは惜しいでござるな。しかし宵姫殿、いくら相手が敵といえどやりすぎてはいけないでござるぞ。物には限度がござる」
 とはいえ、ずっと和やかムードでいるわけにもいかない。
 神木祥風(eb1630)と香山宗光(eb1599)が話を戻し、最終調整を開始する。作戦決行場所ということは、ここも戦場なのだ。
「‥‥ホントは終わった後に聞くつもりだったけど‥‥今でもいいかな‥‥。この戦い‥‥いつまで、続く‥‥?」
「なるべく殺さずに説得‥‥か。口説いて寝返るような奴がアテになるかぁ? こういうのは金だろう」
「みゅ? さぁ‥‥いつまでかなぁ。とりあえず烈斬様を討っちゃえば終わるだろうけど、今はまだ厳しいよ。家督争いって、そんな簡単なものじゃないらしいしー。ついでに言うと、あたしも疑問なんだよね。説得されてほいほい寝返っちゃうような人に、後ろを任せたくないけどー」
 国の総兵力のうち、三分の二が現城主側、三分の一が反乱軍側になってしまうというのは尋常ではない。
 二人とも内乱自体は手早く終わらせたいが、なまじ戦力比が近いだけにそう簡単に事が運ばないのだ。
 幽桜哀音(ea2246)や雪守明(ea8428)の言いたいことも勿論分かるが、宵姫は言わば一介の陰陽師。
 八卦衆という重役にあっても、所詮家臣の一人でしかないため、主君の命には従わざるを得ない。
「今戻った。そろそろここからでも連中が見える頃だ‥‥準備しろ」
 疾走の術で偵察に出ていた黒眞架鏡(ea8099)が不意に現れ、一同に告げた。
 戦いの時が、近づいていることを‥‥。
「はいはーい。それじゃ、仕方ないから始めよっかー」
 宵姫はひょいっと岩から降りると、静かに笑って見せた。
 やっと見せた真面目な顔は、八卦衆の名に恥じない戦士の顔であったという。
「行くよ‥‥豪斬様のために―――」

●真昼の月
「ちょおっと待ったぁ! その装備は送らせないよ! 八卦衆・月の宵姫ちゃん、参上♪」
 こけっ。
「こらこらこらっ! 戦士の顔はどうした戦士の顔はっ!?」
「ごめーん、あの顔疲れるんだよねぇ。やっぱ笑ってたほうが、あたしらしくない?」
 1分も保たずにいつものノリに戻ってしまった宵姫が、谷状の地形の下方に居る輸送部隊に叫ぶ。
 九印にツッコまれても、コケたその他7人を見ても、宵姫はにゃははと笑うだけだった。
「くっ‥‥八卦衆が動いているとは聞いていたが、まさか冒険者を呼んでいたとは」
 輸送部隊の隊長らしき鎧武者が、苦虫を噛み潰したかのような声と表情でうめく。
 それと同時に、足軽たちが口々にざわめき始めた。
「お、おいおい、八卦衆だってよ!?」
「わいはまだ死にとうないで!?」
「間違いねぇよ、あのノリは宵姫様だ!」
「あれが本物か‥‥可愛い子だなぁ‥‥」
 流石に地元では有名らしく、足軽たちにさえ宵姫は顔を知られている。
 かなり動揺が広がっているようだが、本職の武士であろう一部の人間は冷静だった。
「怯むな! 如何に冒険者が護衛に居ようが、強力な範囲攻撃を持つ八卦衆は一人のみ! 隊列を整え、迎撃しろ!」
 大八車をその場で止め、輸送部隊はわたわたと戦闘準備をする。
「あくまで戦うつもりらしいぞ。足軽は気乗りがしていないようだがな」
「ふん、腐ってるな。あの足軽ども、こちらが殺しまではしないだろうって思ってるような顔だ」
 黒眞と雪守が武器を構え、下方の部隊を見やって呟いた。
「仕方ないでしょう。彼らは本職の武士ではなく、殆どが民草‥‥戦場の恐ろしさなど知らないかと思いますよ」
 神木の言葉を合図にしたかのように、足軽たちが駆け上がってくる。
 それを見た宵姫は‥‥。
「ごめんねー。『玄影衝』! ついでにもう一つ!」
 どごんっ! どがんっ!
 高速詠唱で、2連続の高威力版シャドウボムを二発続けて炸裂させる。
 しかもそれは足軽たちをなるべく多く巻き込むように狙い済ました場所であり、大きく展開して移動できない谷という地形を最大限利用したものだった。
「というわけで、後はよろしく♪ あたし陰陽師だから、炎夜くんたち以上に格闘苦手なんだー」
「‥‥言われるまでも、なく‥‥そのつもり‥‥。さぁ‥‥誰か‥‥私を、殺して‥‥くれる‥‥?」
「手加減はするでござるが、怪我は覚悟してもらうでござるよ!」
「フッフッフッ‥‥魔法が使える‥‥」
 幽桜、香山も愛用の武器を用い、すぐに数人の足軽を重傷にしてしまう。
 黒畑はシャドウボムやムーンアローなどで確実な後方援護に努めていた。
 魔法で予め中傷クラスのダメージを追った相手とはいえ、やはり冒険者と足軽ではレベルが違う。
「よっ(すちゃっ、と手で挨拶)。こっちにも回り込ませてもらってるぜ」
「降参しとけよ。家族に心配させたくないだろ?」
「私も、あまり手荒なことはしたくないのですが‥‥」
 いつの間にやら輸送隊の後方へ移動していた日比岐、九印、神木、雪守の四人が、早速とばかりに挟撃を開始。
 マグナブローのスクロールで火柱を立たせる神木、スタンアタックで気絶させる日比岐、オーラパワーのかかった日本刀で攻撃する九印。そして‥‥。
「ちぇーーぃっ!」
 オーラパワー+チャージングで、正規の武士の一人を叩き伏せる雪守と、後方組みの活躍も目覚ましい。
 陣形が崩れ、さらにこうまで力の差を見せられれば、足軽たちの戦意はガタ落ちである。
 武具も大八車を放り出して逃げ出す者が多数発生していた。
「逃げたければ逃げろ。この武器さえ置いていけば殺しはしない‥‥」
「おのれ‥‥所詮足軽などあてにできんということか‥‥!」
 黒眞の台詞に安心したのか、動ける足軽はどんどん逃げ出していく。
 部隊の指揮をしていたらしい初老の鎧武者は、苦々しげに吐き捨てて刀を構えた。
「まだやる気でござるか。もう貴殿しか残っておらぬでござるというのに」
「我々には武士としての誇りがある! 豪斬様より烈斬様の方がよりよく丹波藩を導ける‥‥そう信じたからこそ決起した! ならばこの命‥‥ここで果てるも本望よ!」
「‥‥羨ましい‥‥だからこそ、手加減しない‥‥。‥‥咲き散り果てよ、命血華‥‥音式夢想流・瞬斬散華刃」
「ぐぉぉっ‥‥! よ、鎧が防ぐ! まだ倒れぬ!」
「‥‥!」
 幽桜のブラインドアタック+シュライクを見切れなかった指揮官は、まともに攻撃を喰らった。
 だが鎧を着込んでいたおかげか、反撃する余力がある!
「援護する! 火遁の術だ!」
「巻き込んだのならご容赦を。マグナブローを今一度!」
 忍術とスクロールでの援護が飛び、指揮官は攻撃を中断せざるを得ない‥‥はずだった。
 傷を負いながら、ただ前に‥‥一番近い幽桜に肉薄して止まないその執念。
「まだだ! 武士道とは‥‥死ぬことと見つけたりぃ!」
 熟練の技を持つこの指揮官なら、中傷状態であっても、優れた回避力を持つ幽桜にも下手をすれば当ててくる!
「させないよ。『乱月夜』」
 後方から聞こえた宵姫の声と、コンフュージョンの魔法。
 魔法抵抗し切れなった指揮官は、本来の目標であった幽桜を攻撃できず、その場に立ち尽くしてしまった。
「その隙‥‥貰う!」
 雪守のオーラパワー+チャージングを喰らい、流石に指揮官も倒れ伏す。
 混乱した意識も元に戻ったようだが、立ち上がるので精一杯らしい。
「‥‥殺せ‥‥」
「やだ」
「殺せぇ!」
「やだってば。あたしは陰陽師だから、武士道がどうとか知ったことじゃないし。でもね‥‥」
 少し間を空けて、真面目モードからいつもの笑顔に戻る。
「もっと楽しく生きた方がいいよー。お昼に月が見えたっていい‥‥自由ってきっと、そういうことだと思うから♪」
 分かったような分からないような例えを残し、一行は輸送部隊の運んでいた物資をまるまる奪取することに成功した。
 宵姫の独断で、冒険者にこっそりお裾分けがあったらしいが‥‥勿論真相は闇の中。
 丹波家の未来に瞬く月は、果たして美しく輝いているのだろうか―――