丹波山名の八卦衆『山の巻』

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月26日〜07月31日

リプレイ公開日:2005年07月31日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「皆さんこんにちは、今日は丹波藩城主、山名豪斬様からの依頼が舞い込んでますよ〜」
「うむ、それはいいが‥‥どうやら切羽詰っている様子ッ! ここへ来るはずの八卦衆の方々も遅れているようだしなッ!」
 京都ギルドの職員コンビ、西山一海と大牙城。
 一国一城の主からの依頼といえど、彼らにとってはあまねく依頼と同価値であるらしく、気負いも引け目もない。
「あ、最近知名度が上がってきたとはいえ、八卦衆の皆さんのことを知らない方もいらっしゃると思うので説明しますね。八卦衆というのは、丹波藩が誇る魔法戦に特化した8人の男女からなる部隊です。各々達人級の魔法と高速詠唱を収めた、日本では稀有な戦闘スタイルですね」
 と、そんな時だ。
「失礼する。一海君、ここに来る途中で八卦衆と名乗る方が道に迷っていたのを見かけたのだが‥‥」
 京都の便利屋、藁木屋錬術という青年がギルドに顔を出していた。
 一海や大牙城の友人であり、依頼の補助などをすることが多い。
「おお、藁木屋殿ッ! して、お連れいただけたのかなッ!?」
「え? あ、あぁ‥‥まぁ、案内はしてきたが‥‥」
「珍しく歯切れが悪いですね。大丈夫ですよ、八卦衆の人は変わった人が多いですから、どんな人でも驚きませんって」
「うむッ! 今日いらっしゃる予定なのは『山』の方のはずッ! 恐らくその名に似合わぬ軽い人柄と予想するッ!」
 藁木屋は溜息をつくと、入り口に待機しているしていた人物に声をかけた。
 それに呼応して歩み出たのは、藁木屋より少し年上かと思われる、端整な顔立ちの青年。
 そんな彼が、今口を開く‥‥!
「ハァーイ、エヴリバディ! マイネーム・イズ・ガンテツ! 八卦衆・山の『岩鉄』ネ! 京都は道が複雑でまるでラビリンス! 思わず迷っちゃったヨ、HAHAHA!」
 ずっきゅぅぅぅぅぅんッ! ←何か衝撃的な場面に遭遇した音
「‥‥‥‥よ、予想の斜め上だなッ!」
「は、八卦衆がどうとか以前に、日本人としてどうか‥‥ってレベルですよね‥‥(滝汗)」
 岩鉄と名乗った男は、どう見ても日本人である。
 その彼が、口を開けば非常に胡散臭いイギリス語交じりの喋り方なのだから妙な感じだ。
「‥‥山名豪斬様という方は、随分と度量が広いのだろうなぁ‥‥」
 藁木屋も思わず視線を逸らして溜息などついていた。
「ノンノン、ミーは異文化コミュニケイションを大事にしてるだけネ! 小さい頃イギリスに住んでたから、ジャパンにもイギリス語を広めたくてこの喋り方してるヨ!」
「逆にイギリス語を馬鹿にしてると思います!」
「ホワイ!? っと、そんなトークしてる場合じゃなかったヨ! エマージェンシーでスクランブルネ! 実は他の八卦衆が守ってた砦の一つがレベリオンに奪われちゃったヨ! そのせいで炎夜や宵姫が怪我しちゃったネ!」
「むぅ‥‥反乱軍が一気に攻勢に出た、ということかッ! しかし炎夜殿や宵姫殿が負傷するような場面が想像できんがッ!」
「ンー、それがネ‥‥サプライズアタックっていうこともあったんだけど、敵部隊にデンジャラスなのがいたらしいヨ。なんでも堕天狗党の荼毘削岩鬼とかいう重武装武者が協力してたらしくて、士気も高かったらしいネ」
「堕天狗党が丹波の反乱軍に味方だと‥‥? そんな情報は聞いたことがないが」
「でも、確かに削岩鬼相手じゃ炎夜さんたちはきついでしょうね。魔法をあっさり耐えそうです」
「レベリオンは今回の砦奪取にかなりの戦力を割いてたから、これを何とかできれば豪斬様派はかなり楽になるヨ! 炎夜や宵姫の部隊が結構ダメージ与えたみたいだし、砂羅鎖の別働隊も動いてる! ユーたちはミーと一緒に、遊撃班としてレッツバトル!」
 何やらきな臭い予感がするが、この一戦は丹波藩の情勢に大きな一石を投じるだろう。
 今回反乱軍を撃退できれば、戦力比は現城主側に大きく傾き、反乱鎮圧へ一歩も二歩も近づくはず。
「ふむ、堕天狗党の一員が関わっているとなれば私も協力せざるを得まい。いざとなれば雑魚の相手をしてもいい」
「センキュー! 頼りにしてるヨ!」
 敵は駆け出しの侍が多い分、士気が高い。
 江戸に居た頃より更に腕を上げたであろう荼毘削岩鬼の猛攻を、冒険者はどう耐えるのであろうか―――

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2535 フィーナ・グリーン(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

キルト・マーガッヅ(eb1118)/ ティッチ・ミレフィ(eb1305)/ 李 春栄(eb3139)/ 庄新 美禰(eb3140

●リプレイ本文

●突入前
「ということでやってきたよバック・ザ・フォートレス! 後は砂羅鎖の合図を待つだけもがもが」
「‥‥岩鉄さん‥‥うるさい‥‥。敵に気付かれる‥‥」
 八卦衆・山の岩鉄が作戦前に大声を出すので、いつの間にかその後ろに立っていた幽桜哀音(ea2246)がその口を塞ぐ。
「‥‥まったく、この男は‥‥。この際だから言わせて貰うよ‥‥私はノルマン出身だけど‥‥一時期イギリスに居たから言える‥‥‥‥あんた、イギリス人に喧嘩売ってる?」
「‥‥私が生まれる前のイギリスって、ああいう言葉を使っていたんです‥‥ね‥‥は、初めて知りましたです」
「いや、いくら何でも騙されすぎでしょ。故郷の言葉くらい覚えててよ」
 ヘルヴォール・ルディア(ea0828)が岩鉄にツッコミを入れると、岩鉄の喋り方を真に受けた水葉さくら(ea5480)が素っ頓狂なことを言い始める。
 水葉はイギリスからの帰国子女らしいのだが、南雲紫(eb2483)が言うように帰国子女だからこそ間違いをしてきて欲しかったような気がする。
「しかしあれじゃのう。同行している八卦衆がこれじゃからか、緊張感がまるでないのじゃ」
「仕方がないでしょうね、これですから。にしても今回は大変なお方がお相手のようですね。作戦が始まったら気を引き締めて参りましょう」
 すでに三月天音(ea2144)やフィーナ・グリーン(eb2535)にも『これ』呼ばわりの岩鉄だが、本人は特に気にしていない様子で、小さめにHAHAHAと笑っていた。
「情報では堕天狗党員だと。厄介な‥‥」
「あぁ、厳しい相手だ。僕も久々に鎧なんて着込んでいるよ(苦笑)」
 新進の丹波家家臣、黒畑緑太郎(eb1822)と、堕天狗党追跡の第一人者、蛟静吾(ea6269)。
 黒畑はウォールホールのスクロールで砦内への道を開く重要な役を担うし、蛟は別働隊と合流し、万が一に備えて別働隊の護衛に回るつもりらしい。
「さて‥‥ではそろそろ配置に就いたほうがいいのではないだろうか。私たちは岩鉄殿の護衛だったな」
「‥‥そうだっけ?」
 京都の便利屋、藁木屋錬術とその相棒、アルトノワール・ブランシュタッドも依頼に同行し、作戦の一翼を担う予定だが‥‥。
「‥‥この前はあんたの我侭に付き合ったんだからね‥‥今度はちゃんと指示通り動いてもらうよ」
「‥‥そんな義理も義務もないけどね。まぁ錬術に怒られるの嫌だから、今回は大人しくしておいてあげる」
 静かにアルトノワールに視線を送るヘルヴォール。
 それをさらっと受け流し、あくまでマイペースにアルトノワールは言ってのけていた。
「噂以上に奔放ね、あなた。もうちょっと協調性ってものを大事にした方がいいと思うわよ?」
「‥‥私は私の生きたい様に生きてるだけ。私にとっては錬術が何より大事‥‥それだけよ」
 引きつった笑顔を浮かべた南雲と涼しい顔のアルトノワールが険悪な雰囲気になっているのを、藁木屋が止めていた。
 アルトの場合、人付き合いとかそういう問題以前の性格をしているような気がする。
「オゥ‥‥南雲さん恐いヨ(汗)。‥‥と、合図の法螺貝の音が聞こえるネ! そろそろオペレーションスタート!」
「‥‥三月さん、今回の作戦について率直に一言貰いたい」
「‥‥不安じゃ‥‥身内のほうがな」
 黒畑と三月が同時に溜息をつき‥‥一同はいそいそと準備にかかったのである―――

●別働隊にて
「み、みなさん頑張ってください! こ、ここを死守されて、拠点にされるわけにはいかないんですー!」
「よし、敵が出てきた! 徐々に後退しながら敵を引き付けるんだ!」
 急造とはいえ砦奪還のための別働隊を指揮している、八卦衆・地の砂羅鎖。
 単身その部隊と合流し、蛟は前衛での戦いを展開していた。
「‥‥! 敵の数が少ない!? 20人もいないじゃないか!」
 ざっとみて、砦から迎撃に出てきた武者たちはおよそ15人ほど。
 砦の戦力の半分程度と思われるが、その装備がまずい。
「ふぇぇ!? あ、あんなに重装備なんですか!? あ、あれじゃ私の魔法も‥‥!」
 そう‥‥砦にあった物なのか、鎧やら兜やら、やたら装備が充実しているのである。
 これは後でわかったことだが、以前反乱軍が装備を輸送し損ねたため、急遽この砦を占拠し、物資の充実を図ったらしい。
「くっ! 砂羅鎖君、オーラショットで足止めを! 動きが鈍くなってるだろうから、引くには困らない!」
「は、はいっ!」
 約半数が残った砦内‥‥果たして、岩鉄たちの方は無事なのだろうか―――

●砦の内部は
「ファイヤーボムじゃ!」
「フッフッフッ‥‥魔法が使える‥‥。俺からはシャドウボムをくれてやる!」
 砦内に残っていた反乱軍は、装備の数が足りなかったのか、外の連中に比べると悲しいくらい軽装であった。
 三月と黒畑の魔法で先制攻撃を受け、すでに出鼻をくじかれている。
「す、すいません‥‥ど、退いていただけると‥‥嬉しいです‥‥」
「‥‥雑魚じゃ‥‥相手にならない‥‥」
「ふん‥‥悪いが今の私は機嫌が悪い。邪魔をするなら容赦せん!」
 水葉、幽桜、南雲の奮戦で、パラパラと現れる反乱軍をもぐらたたき式に各個撃破していく。
 勿論敵のほうが数が多いわけだから、時には危ない場面もあったのだが‥‥。
「ヘイ、危ないヨ! グラビティーキャノンでサポートネ!」
 味方が攻撃されそうになると、岩鉄が高速詠唱で魔法を放ち、それをシャットアウトしていた。
 本人曰く、『山をも削り、山をも動かすと言われるのが山の岩鉄の由来ネ!』とのことだが。
 打ち合わせどおり黒畑のスクロールで抜け道を作り、砦の裏側から侵入した一同は、比較的楽に事を運んでいる。
「圧倒的じゃないか俺たちは。魔法も使い放題だ」
「油断は禁物だぞ。外で敵の足止めをしている蛟たちも気になる」
 そう、思ったより砦内に残っている敵の数が多いということは、敵が少数で外の別働隊の相手をしていることになる。
 指揮官級が中に残っていることからも、別働隊に対する自信の程がうかがえる。
「すいません、お仕事ですから。後は‥‥」
 もっとも、その指揮官級と思わしき人物もフィーナに叩き伏せられたところだが。
 指揮官といえども、流石に達人級のフィーナの攻撃を捌ききれるほどの腕はなかったようだ。
「脆いな‥‥あれだけ頭数が居てこの有様か。情けないものよ」
 ずん、という派手な音を立て、一人の男が戦場に立つ。
 大鎧、武者兜、レザーマント、重斧、手盾‥‥更には守護の指輪を4つ所持していると言うとんでもぶりだ。
「‥‥やっと出てきた‥‥。大座武‥‥今までで‥‥最も、私を‥‥死に近づけて‥‥くれた人‥‥」
「‥‥? だ、だいざむって‥‥な、なんですか?」
「やつの通り名じゃ。座して大きく動かぬ武人と言う意味で大座武らしいのぅ」
「む? おぉ、いつぞや会ったことのある連中がいるではないか。がっはっは、久しぶりだな!」
 水葉の疑問に答えた三月と、自分をしっかり見据えていた幽桜を見つけ、荼毘削岩鬼は豪快に笑った。
 どうやらこちらのことを覚えているらしい。
「そうか、冒険者が相手か。ならば俄仕込みの半端な腕では統制が取れんと厳しいな。まぁ守護の指輪を貰った恩義もある‥‥一人二人は地獄に叩き込んでやらんといかんか?」
 そう言って構える削岩鬼。
 お世辞にも広いと言えない砦内の戦場‥‥仕掛けるのにも勇気が要る。
 相対してわかる、その圧力。その破壊力。真っ向から挑んで無事に済むとは到底思えない。
「そういう時はミーの出番ネ! 行くよー、ハッハー!」
「むん? ぬぉぉっ!?」
 突如天地が逆転したかのような感覚に襲われる削岩鬼。
 高速詠唱で放たれた長射程版のローリンググラビティで、装備も追加されて重いはずの削岩鬼が宙に浮く!
「‥‥その隙‥‥逃がさない‥‥。あなたになら‥‥殺されるとも、本望‥‥それ故に‥‥」
「い、今です‥‥! た、倒れていたら、威力の高い攻撃‥‥できません‥‥!」
「ぬぅっ、魔法とはこしゃくな真似を! 返り討ちにしてくれるわ!」
 幽桜と水葉がタイミングを合わせ、削岩鬼に肉薄する!
 守護の指輪の追加で魔法での落下ダメージを中傷にまで抑えたとはいえ、流石に何度も攻撃を喰らいたくはない。
「‥‥悪いね。私は別に動いてたんだ」
「何‥‥うおっ!?」
 がつん、と後ろから衝撃。ダメージはかすり傷程度。
 振り返れば大凧で砦内に潜入していたヘルヴォールが、多少の傷を負いながらも立っていた。
「ふん‥‥だがな」
「‥‥う‥‥ぐっ‥‥!」
 そのまま幽桜を迎撃した削岩鬼は、水葉の攻撃を手盾で防ぎ、言葉を吐く。
「折角の再会で悪いが、俺はこんなところで死ねんのでな。親切で言っておくが‥‥外の連中は危険だぞ。重装備の兵士十数人相手だからな。また相応しい舞台で会おう!」
「ワッツ!? それはまたヘビーだネ‥‥みんな、砂羅鎖の援護に行くヨ!」
「それが決定なら従うが‥‥この男はどうする気だ?」
「今脅威でないなら放っておくネ! これ以上八卦衆から怪我人出せないヨ!」
「わっはっは、いい判断だ! 仲間は大切にせんとな!」
「‥‥ちょっと癪だけどね‥‥赤い流星‥‥安綱牛紗亜によろしくね」
 一同は削岩鬼を放置し、かなり後退して苦戦していた別働隊の救援に向かった。
 いくら重武装といえど、こうまで囲まれてはどうにもならず、砦の戦力は壊滅‥‥反乱軍の目論みを崩すことに成功。
 戦力比的に不利な反乱軍がさらに劣勢となったわけだが‥‥さて、これからの戦局や如何に―――