新撰組七番隊録 〜賭け事は程ほどに〜
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月01日〜08月06日
リプレイ公開日:2005年08月08日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「こんにちは〜。大牙城さん、いらっしゃいます〜?」
夏にしては比較的穏やかな気候の、某月某日午後。
京都冒険者ギルドに、やたらにこにこした30代くらいの男が顔を出した。
虎覆面と暑苦しい言動で有名なギルド職員、大牙城を名指しで呼ぶこの人物は一体?
「むッ! これはこれは谷三十郎殿ッ! お久しぶりですな‥‥お変わりないようでッ!」
「あっはっは、大牙城さんも相変わらずやねぇ。暑くないん? その覆面」
「ふははははッ、心頭滅却すれば火もまた涼しッ! 暑さなど、己が魂で吹き飛ばして見せようぞッ!」
「無茶やなぁ(笑)」
谷三十郎。
新撰組七番隊の組長にして、新撰組でも有数の昼行灯と有名な男である。
どうやら大牙城とは昔馴染みのようで、お互いよく知った間柄のようだ。
「して、わざわざ谷殿自らがギルドまでやってきたと言うことは‥‥アレですかなッ!?」
「せや。アレですねん」
「承知ッ! では早速茶を淹れ、思う様打ちましょうぞッ!」
「そうそう、今日は飛車との相性が良さそうな気が‥‥ってなんでやねん」
あくまでさわやかに穏やかに、大牙城にツッコミを入れる谷。
そこはかとなく余裕が見られるのは、やはり二人が友人だからなのだろうか?
「将棋やのうて依頼や依頼。ちょっと手数が要る任務やから、応援頼もか思うて」
「なるほどッ! しかし隊士不足故に冒険者に依頼とは‥‥難しいものですなッ! して、内容は!?」
「それがやねー、七番隊って元々諜報活動が得意な隊なんよ。その情報網に妙なのが引っかかってな。何でもとある賭場に恨みを持ったどこぞの連中が、その賭場を襲撃しようとしてるんやて」
賭場とは言わずもがな、ヤクザや的屋が開く非合法の賭け事をする場である。
庶民の娯楽の一面はあるものの、いつの世も賭博はご法度である。
「むぅ、それはまたッ! しかし何故恨みなどッ!」
「あっはっは、聞いたら笑うでぇ? ほら、賭場っちゅーからには当然負ける人間も出てくるわけや。賭けに負けすぎて貧乏になってもうたごろつきとかチンピラが、妙な仲間意識持ったらしくてなぁ。『イカサマ賭場なんざいてこましたれー!』みたいな勢いで結託したらしいわ(笑)」
「ぬぅッ! 気持ちはわかるが襲撃はいかんなッ! では依頼内容はその連中の撃破でよろしいかッ!?」
「それでお願いします。あ、もちろん俺や七番隊の隊士も何人か連れてくさかい、注記したってや。賭場の方は七番隊の別働隊用意して検挙するんで、気にせんでもえぇよ」
「むッ!? ということは、谷殿も戦われるのかッ!」
「しゃーないやん、お仕事やし。まぁ本気で戦わんでも済むやろし、鈍っても嫌やしー(笑)」
「委細承知ッ! では、御武運を願っておりますぞッ!」
黄泉人の脅威を退け、一先ずの平穏を勝ち得た京都。
だからこそ忙しくなってきた新撰組七番隊だが‥‥さて、そのユルい組長に協力してくれる冒険者は居るのだろうか?
民草の平穏を守るためにも、是非ご協力を―――
●リプレイ本文
●日本の夏、緊張の夏
某月某日、曇り。
カンカンと日光が照り付けているわけではないのでいくらかマシだが、やはり日本の夏は暑い。
今もじめじめとした湿気が体中にまとわりついて、実に嫌な汗を流す羽目になっている。
「あぅ‥‥イギリスのあのカラッとした暑さが懐かしいよ。日本の夏は湿気で溺れそう‥‥」
「同感だな。まぁ誰が悪いわけでなし‥‥住んでいる日本人も苦労しているようだ」
湿気が少ないだけで、暑さと言うのは随分体感温度が違うらしい。
イギリス出身のテリー・アーミティッジ(ea9384)とキク・アイレポーク(eb1537)は、やはりというか何と言うか、気候の違いで酷い目にあっている様だ。
ちなみに彼らがいるのは、境内の奥まったところにある雑木林である。
「しかし、今日はいつにも増して湿気が多いでござるな‥‥」
「ちぇ。外が曇ってる分、社殿の中にいても風が通らないだけ暑いぜ‥‥」
勿論日本人である七枷伏姫(eb0487)と朱鳳陽平(eb1624)も、この暑さには参っている。
第一陣に組み込まれている二人は、社殿の中で息を潜めてごろつきたちを待ち伏せていた。
「お、そろそろ集まってきやがったな。ごろつきにしちゃあ時間に正確じゃねぇか」
「その正確さを他のところで使えば、賭け事などせずとも普通に稼げると思うんですけれどね‥‥」
一方、こちらはお守り売り場の陰に隠れている竜造寺大樹(ea9659)と日下部早姫(eb1496)だ。
竜造寺は2メートル以上ある巨漢のため、体重やら諸々のことを考慮に入れて外配置になったのだが、今回の作戦が包囲戦なのだからさして問題はあるまい。
「十四、十五、十六、‥‥そ、そろそろ全員集まったみたいですね」
「大丈夫? キミ、震えてるけど」
「あ、あはは‥‥い、いつものことですから。いざ戦闘になれば、多分大丈夫です」
最後に登場となるのは九十九刹那(eb1044)と緋神那蝣竪(eb2007)の二人。
普通の参拝客を装って手洗い場辺りをうろうろした後、第二陣の役目を果たすため雑木林へと移動していた。
そして、依頼主である新撰組七番隊組長、谷三十郎は。
「暑い‥‥ものごっつぅ暑ぅてかなわんわ。とっとと終わらせて冷たい麦茶でも飲みたいもんやね」
汗の滲み出る額を手ぬぐいで拭きながら、愛用の十文字槍を持ち直していた。
そして背後に控える七番隊隊士の一人に合図を送り、高らかに法螺貝の音を鳴り響かせた―――
●楽
「な、なんだなんだ!?」
「畜生、誰か裏切りやがったな!?」
そんな罵声と怒号が飛び交う中、冒険者たちはささっと配置を完了する。
事前に待ち伏せていたおかげで準備は万端だ。
「すまないが戦闘配置される前に削らせてもらうでござるよ」
七枷は隠れている最中に高威力版のオーラソードが二本作れるまで詠唱し続けていたので、実質二刀流。
もっとも、思った以上に時間が掛かったので正々堂々と戦っていたらすぐに時間切れになってしまうので、早速とばかりに攻撃を開始していた。
「冒険者だ!」
「野郎! 応戦するぞ!」
七枷に二人ほどが叩き伏せられてしまったので、ごろつきたちは慌てて戦闘態勢をとり始める。
だがその得物はよくて小太刀だったり小柄だったり、素手の者も多数いる。
「冒険者は一人じゃないぜ。こちとらチンピラ剣術とは違うんだよ!」
小太刀を持ったごろつきにソニックブームを仕掛けながら、刀の刃を返した朱鳳も戦場に突っ込んでくる。
流石に攻撃力は落ちるが、斬らない分捕獲に向いた戦法だ。
「イカサマに気づかねぇてめーらが悪いんだろ? 賭場なんだから、凌ぎを削って勝つ! そんなもん、当然じゃねぇか。気づかなりゃそれも一つの技って奴だ、イカサマもな!」
ごんっ、と鈍い音を立て、竜造寺が手にしたロングロッドがごろつきの一人を地面に転がす。
一旦攻撃させてからのカウンターアタックであるが故、一撃で重傷までもっていけるのである。
2メートル35センチの体躯‥‥それはまるで襲い来る壁のようでもあった。
「‥‥ほぉ。それは手加減が要らないと言う意味ですよね?」
笑顔の中に怒りマークを内包した日下部は、わざと石畳の上を狙ってスープレックスを仕掛け、ごろつきを叩きつける。
『おい見ろ、女もいるぞ!』『女のクセに生意気な!』等々、彼女が嫌いな台詞を吐いた連中が悪いのは間違いないが、見てる方からすれば身震いがするほど痛そうな光景だ。
嘘だと思うなら、『他人が石畳の上に一本背負いを受身なしで綺麗に決められる場面』を一度見てみて欲しい。
「じょ、冗談じゃねぇ、話が違うぜ! 俺は逃げ‥‥」
「ダメだよ。仲間見捨てて逃げるなんて、卑怯だよね」
「うおっ!? か、身体が‥‥!」
16対4の乱戦の中では、当然あらぬ方向に逃げるやつも当然出てくる。
上空から戦場の動きを観察していたテリーは、そのはぐれごろつきに接近し、アグラベイションで動きを鈍らせていた。
「おう、悪ぃな。流石に討ち漏らしも出ちまうか」
「お仕置きもほどほどにね〜」
竜造寺にずるずると戦場に戻されていったごろつきがどうなったかは言うまでもない。
「だ、駄目だ、このままじゃまずい! 手薄な方へ逃げろ!」
ごろつぎの一人がそう叫ぶと、我先にとまだ元気な連中が雑木林の方へ向かっていく。
完全に作戦通りの行動を取ってくれるごろつきたちに、冒険者たちも拍子抜けだ。
「‥‥できればこのまま大人しく捕まってください。そうでないと‥‥痛い目にあってもらうかもしれませんから‥‥」
「こっちにもいやがるのか!? くそっ、突破だ!」
九十九をはじめ、キク、緋神が立ちふさがり、挟み撃ちされる格好となったごろつきたち。
さらに雑木林の中には谷率いる新撰組七番隊の隊士も何人かいる。
それでやけになったのか、前方の三人の方が組し易いと思ったのか‥‥ごろつきたちはそのまま突っ込んできた!
「行きます‥‥いつまでも震えていられません‥‥!」
がすっと小気味のいい音がして、九十九のスマッシュでの一撃が炸裂する。
装備が小太刀のため大した威力はないが、なるべく捕縛が望ましいので問題ない。
「‥‥あらあら。乱暴な殿方は嫌いですよ〜?」
身軽さを活かして攻撃を回避しながら、短弓から矢を放つのは緋神である。
彼女が仕掛けたブービートラップも、そこそこ敵の足止めに役立っている。
「さて‥‥では私も行くか」
「退け、女!」
「私は男だが?」
そう言い返した次の瞬間、キクに急接近していたごろつきがもんどりうって苦しみだす。
キクが高速詠唱で使ったディストロイが、ごろつきに直撃したのである。
予想していなかったタイミングでの痛みに、男は激しく地面を転がっていた。
「あー‥‥おキクさん、直撃はさせんのとちゃうん?」
「その呼び方は止めてくれ。なに、はずみだ。言っただろう? 私は手加減できないと」
「‥‥意外とカチンと来てたんやね」
一気に致死ダメージが入らなければバラバラにならないとはいえ、ディストロイはかなり痛い魔法らしい。
谷三十郎のツッコミをさらりとかわし、キクは今度こそ木や地面を狙って魔法を使っていた。
この間に第一陣も追いついてきて、ごろつきたちは最早壊滅状態。
数が多いのは有利に違いないが、あまりに実力差があればそれも儚いものである。
「ほんじゃ、あとは俺らに任せといてや〜。いや、ホンマ楽でえぇわぁ(笑)」
谷は健気に反抗を続けるやつには十文字槍の腹で打撃をいれ、気力を奪っていく。
その谷に指揮された七番隊の隊士たちも、やはりかなりの腕を持っているように見えた―――
●戦い終わって
「谷さん、あっちにも一人倒れてるよ。起きる前に縄かけてね」
「おー、テリーくんあんがとなぁ」
十六人からなる連中となると、縄をかけるだけで手間が掛かる。
一同は谷指揮するお縄部隊と、九十九を中心としたお方付け部隊とに分かれて事後処理に当たっていた。
「よっと。こっちの灯篭はこんなもんでいいか?」
「いいんじゃないか? おーい緋神、矢もちゃんと回収しとけよ〜」
「ちゃんとやってるわよ、もう」
竜造寺、朱鳳、緋神はお方付け部隊らしく、倒れた灯篭やらの再配置に奔走していた。
「ん〜、ホンマ助かるわ。思ったよりずっと早くケリついたもんなぁ。せや、さっき連絡あってな、賭場の方もきっちり押さえたそうやさかい、完全試合やね」
「ふむ‥‥では谷殿、将棋の方は指せそうでござるか?」
「せやね、この人たち送り届けてもまだ日はあるやろ。今日はとことん付き合うたるわ(笑)」
将棋を指せるのも平和の証。
とりあえず今日のところの平穏は、冒険者たちと新撰組七番隊によって守られた―――