●リプレイ本文
●死闘へのプレリュード
空は青く晴れ渡り‥‥穏やかな風が冒険者たちの間をすり抜けていく。
小高い丘に集合しているため、幾分か日差しも強いような気もするが‥‥今は些細なことだ。
「うわ‥‥探すまでもないね、あれ。好き放題やってるよ」
眼下に広がる森を眺めながら、フィール・ヴァンスレット(ea4162)は呟いた。そこには、盛大に木々をなぎ倒しながら暴れまわる巨大なズゥンビ大みみずが一匹。
「‥‥しかし、また酷い‥‥」
皮袋のようなものをぶらぶらさせながら、秋月雨雀(ea2517)は苦い顔をする。美しかったであろう森はところどころ空き地のようなものができていた。
「こりゃ‥‥素直にお祭りに行ってたほうがよかったかも知れないなぁ」
「そうかもね‥‥あれは、ヤバイ。油断はできないよ」
永倉平九郎(ea5344)は頭をかきながら、鷹翔刀華(ea0480)は刀の具合を見ながら大みみずを確認した。
「さしものわしもあんな大物はそうそう見ない。相手にとって不足はないのである」
すでにロングソードを抜き放ったのは、マグナ・アドミラル(ea4868)。
「一度倒した大ミミズが、ズゥンビ化するなんて、もう一度眠りを取り戻してあげたい。もしかしたら裏に黒幕がいるのかもしれない」
「ふっ、駄目だぞクローディア殿。眉間にしわを寄せていては可愛い顔が台無しじゃないか。この依頼が終わったらどうだい?」
口に拳を当てて考えているような格好をするクローディア・ルシノー(ea5906)と、何を考えているのか彼女をナンパし始める大宗院謙(ea5980)。だが‥‥
ごごごごごごごごご(←空気の重みが増した音)
謙の妻、大宗院真莉(ea5979)が極めて冷めた顔で無言の圧力をかける。それに気負されたのか、流石の謙も冷や汗混じりに手を引っ込めていた。
「まったく‥‥わたくしたちは遊びに来ているわけではないのですよ? ひょっとしたら数分後には死人が出るかもしれないというのに‥‥」
「だからだろうが。せめて悔いのないように生きたいんだ、私は♪」
どどどどどどどどど(←空気の張りが増した音)
あっけらかんと言って刀華に向かう謙と、またしても無言になる真莉。そんな二人のやり取りを、他のメンバーはため息という見事なリアクションで流すことにしたらしい。
激闘の前のプレリュードにしては‥‥なんだか、緊張感が足りないような気がした―――
●破滅へのロンド
「よし、事前の作戦通りに行くよ! ほ〜ら、こっちだよ〜ん♪」
森へと足を踏み入れた一行は、ついにズゥンビ大みみずと交戦状態になった。前衛を担当するのは永倉、マグナ、鷹翔、、謙、秋月の五人。とはいったものの、秋月がバキュームフィールドを仕掛けるための陽動をかけるため、実質四人に等しいのだが。
「手早く頼むぞ。わしらだけであんなデカブツの相手はしきれん」
「今は避けることに専念すればいい‥‥」
「わかってます‥‥バキュームフィールド!」
永倉たちがヤツの攻撃をやり過ごしている間、秋月は次々とバキュームフィールドを展開する。その数が5つほどになった時‥‥異変が起こった。
ひゅんっ、という風きり音を立てて何かが秋月の目の前を通り過ぎていったのである。後ろを振り返ってみると、そこには‥‥
「がっ‥‥ぐぅっ、ごほっ‥‥!」
鷹翔が血を吐きながらも何とか身を起こしているのが見て取れた。どうやらヤツの体当たりか何かを食らったらしいが‥‥一発で中傷になってしまっている!
「だ、大丈夫ですか!? みなさん、もういいです! 下がってください!」
秋月がすかさずリカバーポーションを与えたために傷自体は回復したが、事態はあまり好転していない。
残りの前衛3人もその合図に従い、バキュームフィールドを避けながらヤツがそれに引っかかるように陽動を開始する。
「冗談ではないぞ! あんな馬鹿力を喰らったら、後衛組みや平九郎殿ではひとたまりもない!」
「僕は避けて見せるつもりだけど‥‥マグナさんはどうするのさ!?」
「わしは一撃で中傷ということはないだろうが‥‥流石に何度も喰らうと危険であろう」
走りながらもしっかりと後ろを確認して、三人は叫んでいた。元々鈍い大みみずがズゥンビ化したため、走るだけで充分に逃げることは可能だ。だが先ほどの破壊力を見る限り‥‥正直接近戦はきついかもしれない。
「来た! 全員無事みたいだよ!」
バキュームフィールドが張られた地帯の更に後方に待機していたフィール、真莉、クローディアの三人からも走ってくる前衛五人とズゥンビ大みみずが確認できた。後方組みの準備は万端‥‥あとはやつが罠にかかるのを待つだけだ。
合流した八人は息を飲んでヤツを見やる。罠が仕掛けられた場所に悠々と近づき‥‥そして、踏み入った。
バシュゥゥッ! ジャジャジャジャジャジャッ!
「決まりましたわね‥‥あれではさしものズゥンビ大みみずといえど‥‥」
真空の刃が炸裂し、ヤツの身体を切り刻む。だが、これで終了かと思われたのも束の間‥‥!
「‥‥あ、あの‥‥近づいて、来てるんですけど‥‥!?」
「き、効いてないのか!? 平然としてるぞ!?」
そう‥‥クローディアや謙の言うとおり、ズゥンビ大みみずにとってはバキュームフィールドなどかすり傷にしかならないのである。切り傷など気にすることもなく、どんどんこちらへ近づいてくる!
「直接戦闘しかないわけか‥‥もう、先ほどのような無様な真似は曝さん!」
「なるったけ僕が引きつけるよ!」
「すまん、バーニングソードを頼む」
「あ、はい!」
一斉に思考を切り替えた一行は、再び先ほどのような陣形でヤツとの戦闘を再開した。
だが真莉の放った矢も、鷹翔の日本刀も大して効果がないようだ。永倉の忍者刀はもちろん、謙のオーラソードでさえヤツには有効打にならない!
「化物め‥‥でかいだけで勝てると思うなよ」
バーニングソードで炎の剣と化したマグナのロングソード。渾身の力を込めたその一撃は‥‥
「駄目です、効いてません! 後衛、絶対に近づかないで‥‥」
ズガンッ!
派手な音を立てて秋月が吹っ飛ぶ。注意を逸らしてしまったのがまずく、台詞を最後まで言うこともできずに尻尾攻撃によって木へと叩きつけられてしまった。
「秋月サン!?」
「ぐぅっ‥‥マグナさんの、あの攻撃でも‥‥駄目、なんて‥‥!」
さっと近づき、クローディアが慌ててリカバーポーションを飲ませて傷を回復させる。
「くそっ、お前の相手はこっちだってば!」
石を投げつけて永倉がズゥンビ大みみずを呼び込もうとするも、完全に無視だ。マグナが謙から受け取った家畜の血が入った袋もまたしかり‥‥虚しく鈴が鳴るだけだった。
この大みみずに限らず、アンデッドは『命あるもの』に襲い掛かる習性があり、なおかつそれは本能に準じる為に気まぐれそのもの。完全にランダムなのだ。
近くにいようが遠くに居ようが、一度狙ったら攻撃するまで目標を変更することは少ない。
「き、来た‥‥今度の標的はわたくしですか‥‥!?」
頭をたれて振りぬくような攻撃。真莉は避けられない‥‥!
「ちぃっ!」
「あなた!?」
間一髪、謙が真莉を突き飛ばして身代わりになる。吹っ飛びはしたものの、軽傷で済んでいるようだ。
「‥‥だ、大丈夫か? やれやれ‥‥格好悪いな。体が勝手に動いたぞ」
本当は他の女性を庇うつもりだったのだろうか‥‥しかし真莉が今の攻撃を喰らえば中傷は必死。なんだかんだで、妻を大切に思ってるのかもしれない。
「このままではまずい‥‥硬くはないが頑丈すぎる‥‥!」
どれだけ攻撃してもかすり傷にしかならない‥‥このままではジリ貧もいいところだ。
現に前衛組みは永倉以外中傷クラスの傷を負っている。
「一か八か‥‥やってみますか、フィール」
秋月の言葉に黙って頷くフィール。そして、何を思ったか二人同時にヤツへと駆け出した!
「む、無茶ですよ! お二人とも一撃喰らったら即中傷ですよ!?」
「いかん! わしらですら危ないのだ、せめてクレリックは下がれぃ!」
クローディアとマグナの言葉にも二人は止まらない。今は、少しでも確率が高い戦法にかけるしかないのだ。
「制御できない力はただの暴力!」
ビシッ!
掠めるような‥‥しかし大きいシュライクの切り傷。初めてヤツが怯み‥‥大きな口を開けて咆哮する!
「もう一度あの世へ逝かせる!」
「無茶をするな、喰われるぞ‥‥!」
「キミが狙うのはこっちだ!」
鷹翔がヤツに追撃し、永倉がフィールを抱えてシュライクの傷口の前に運ぶ。すぐに意図を理解したのか、魔法の詠唱が完了する!
「助かるよ! ‥‥故にっ!」
「だからっ!」
今、全員の気持ちが一つになる‥‥!
『お前を倒す!!』
同時に叫ぶ八人‥‥ディストロイはヤツをしとめられるだろうか。この死闘の果てに、見えるものは―――
●眠れ、全ての者よ
「ありゃま‥‥これはまた、ギリギリだったんですねぇ‥‥」
一日の仕事の終わりに報告用の手紙を読みながら、ギルドの若い衆は冷や汗交じりだった。
結局ディストロイすら致命傷にならず、全員が重傷近い傷を受けながらも死力を尽くし、何とか倒すことに成功したらしい。リカバーポーションは使い切るはメタボリズムでMPは空になるはでおおわらわ。死体を完全に焼却するのも一苦労だったそうだ。秋月がいなければどうなっていたか‥‥。
なんにせよ、死人が出ずに済んでなによりといったところだろうか。
「しかし‥‥言えませんね。前の依頼で人間が原因なのに大みみずのつがいを殺したなんて。もしかしたら今回の大みみずは‥‥つがいを守りたいという一心で、ズゥンビ化したのかもしれませんね‥‥」
真実は闇の中‥‥蝋燭の火を吹き消された部屋もまた、夜の帳を落としていた。
今はただ、生者にも死者にも安らかな眠りを―――