丹波山名の八卦衆『水の巻』
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月14日〜08月19日
リプレイ公開日:2005年08月19日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「お‥‥叔父貴!?」
「むぅッ‥‥まさか、凍真かッ!?」
その日、冒険者ギルドは少しだけ賑やかだった。
と言えば聞こえはいいが、要はまた西山一海&大牙城の担当してる辺りが騒がしいだけなのだが。
しかし、今日の騒がしさはいつもとは趣が違うようだ。
「へ? じ、城さん、お知り合いで‥‥?」
依頼の説明のためにやってきた丹波家家臣、八卦衆の一人を見て‥‥お互い叫んで固まったと言うわけだ。
八卦衆というのは、丹波藩が誇る魔法戦に特化した8人の男女からなる部隊のことだ。
各々達人級の魔法と高速詠唱を収めた、日本では稀有な戦闘スタイルの勇士たちである。
ちょっぴり意外性ある性格をしているのも特徴の一つだとか。
「あのー‥‥」
二人がいつまで経っても動かないので、一海が恐る恐る声をかけた瞬間だ。
「ぬぉぉぉぉぉぉッ、答えよ凍真ッ! 血筋、大牙家はッ!」←大牙城
「天裂く牙よッ!」←凍真
「勇猛ッ!」←大牙城
「果敢ッ!」←凍真
『天衣無縫ッ! 見よッ! 我が牙は、熱く冴え渡るぅぅぅッ!』←二人同時
シンメトリーになるようにポーズをとり、挨拶(?)を終了する。
「まさしく凍真ッ! 久しぶりだな‥‥大きくなったものよッ!」
「あぁ、叔父貴も変わりないようで何よりだぜ! しかし、まさか叔父貴がこんなところで働いてるとは思わなかった!」
「ふッ、私にも色々あるのだッ! 刀をとり、妖怪を成敗して歩くのだけが世のためではあるまいッ!」
「へへ‥‥相変わらずいいこと言うぜ、叔父貴はよ‥‥!」
何故か知らないが涙ぐむ凍真。
ちなみに、さっきから一海は完全に置いてけぼり。
大牙城とその甥、凍真(多分苗字は大牙)は、二人だけで話を進めている。
「しかし、あの凍真が八卦衆の一員とはな‥‥確か家を出たのは8年前だったかッ!?」
「ま、俺にも色々あってさ‥‥豪斬様には返しきれない恩義があるんだよ。今の俺は昔の俺じゃない‥‥八卦衆・水の『凍真(とうま)』ってわけさ!」
「凍真よ‥‥男の顔になったなッ‥‥!」
「叔父貴にそう言ってもらえるなんて、夢みたいだぜ‥‥!」
がし、と固い握手をする凍真。
水の八卦衆という言葉から察するに水の精霊魔法(しかも氷系魔法)の使い手なのだろうが、この暑苦しさは何だ。
大牙城の家系に生まれる人間が全員こういう人間ばかりだとしたら、さぞジ・アース環境に悪かろう。
「あの‥‥いい加減に話を進めていただけません‥‥?」
情けない声を上げて存在主張する一海に、凍真は豪快に笑って応える。
「おう、悪い悪い。つい懐かしくてさ。あんたのことも忘れてたわけじゃないんだ」
「んじゃあえて無視してたんですね?」
「その通り! ‥‥っておいおい、落ち込まないでくれよ。えっとな、今回の依頼はかなり重要なんだ、心して聞いてくれ」
現在、丹波では内乱が起こっている。
だが冒険者たちが現城主側の出す依頼を次々とこなしていっているため、反乱軍は劣勢になる一方。
起死回生を狙った砦攻略作戦もあっという間に再奪取され、最早鎮圧も時間の問題かと思われた折だ。
「反乱軍の総大将‥‥現城主の豪斬様の実弟、烈斬様は、こともあろうに源徳家康公に援軍を求めようとしているらしい。丹波は元々平織派に属する国だけど、烈斬様はかねてから平織虎長公を嫌ってたからなぁ‥‥丁度いい機会だと思ったんだろ」
「むぅッ‥‥万が一源徳公が援軍などを出してきた日には、一気に形勢が逆転するなッ!」
「そういうことっす。んで、烈斬様が差し向けるっていう8人の忍者部隊を、丹波藩内で撃破するのが依頼の主旨。一人でも逃がしたら元の木阿弥だから、8人全員撃破は必須条件。過信してるわけじゃないけど、今回も冒険者の活躍に期待するぜ」
「了解。8人の忍者部隊の全滅が必須事項‥‥と。これは情勢にかなり影響を与えそうですね」
「応ともさ。一丁気合入れて頼む!」
涼しげな名前に暑苦しい魂を宿した志士、凍真。
彼が伝えた丹波藩の危機は、今までの比ではないだろう。
風雲急を告げる反乱の行方‥‥果たして冒険者たちは、源徳側への応援要請を食い止めることができるのだろうか―――
●リプレイ本文
●情報の出所は
某月某日、丹波藩内の森。
すでに八卦衆・水の凍真に指定された場所に到着し、一同は凍真との顔合わせを行っていた。
当然、一同はそのキャラクターを一目見て凄まじい違和感を感じたわけだが。
「よっ、音撃戦士の日比岐鼓太郎(eb1277)だ。ひとつ間はあいたが、またよろしくな!(すちゃっ)」
「俺はオーラ一筋のナイト、バーク・ダンロック(ea7871)だ。よろしく頼むぜ」
今回の依頼の鍵を握る疾走の術習得者の日比岐と、使いようによっては有効打になり得るオーラアルファー習得者、バーク。
難しい依頼と悟って足踏みする者が多かったのか、本来想定されていた人数よりも人員が少ないこの状況‥‥完遂できるかどうかは、個々の能力以上に連携に掛かってくるだろう。
「凍真殿には説明の必要はないだろうが‥‥私は黒畑緑太郎(eb1822)。陰陽を極め、陰陽博士を目指している」
「俺は紅闇幻朧(ea6415)。俺のことも聞いているのか?」
「応、もちろんさ! 正式採用の黒畑さんはもちろん、紅闇さんもちゃんと名簿に載ってるしな。宵姫が言ってなかったか?」
丹波家家臣に一度でも志願した者は、名簿にその名前が書き込まれ、管理されている。
特に今まで全ての八卦衆関連の依頼を受けている黒畑は飛び級で正式採用され、かなり信頼されている様子。
「‥‥‥‥」
「んもう、あなたってば本当にお堅いわねぇ。あぁ、あたしは百目鬼女華姫(ea8616)よ。で、こっちで黙ってるのは白峰虎太郎(ea9771)さんっていうらしいわよ」
「そ、そりゃどうも。‥‥ちなみに聞くんだが‥‥あんた、本当はおと――――」
「お・ん・な・よ。おほほ、何言ってるのかしらね」
凍真にしっかりとアイアンクローをかましながら言うくの一(多分)と、その横でただひたすら寡黙に、かつ諦めたように佇んでいるのが白峰である。
「最後は俺か。俺は地の志士、乃木坂雷電(eb2704)。足を引っ張らないように気をつけるさ」
乃木坂が挨拶を終え、一同は早速作戦の最終調整に入った。
人数的には互角とはいえ、相手は機動力に長けた忍者。
さらに向うはこちらに出会っても逃げるだけでいいというのが厳しい。
8人全員がバラバラに森に散ったら、最早手はないと言ってもいいだろう。
「しかし、本当にここを忍者が通るのか? いまいち信憑性がないような気がする。それに相手は忍‥‥それも八人揃って出て来るか。こいつは正攻法よりも絡め手を用いるより仕方が無さそうだな」
「1人も逃がしちゃダメなの? 連携が大事ね。あたしも知りたいんだけど、その情報はどこから出てきたのかしら」
「あぁ、それなら大丈夫。八卦衆にも忍者がいるんだけどな、その人が仕入れてきた情報だから間違いないぜ。あの人のこだわりの一つだからな」
凍真が言うには、その忍者の八卦衆は隠密行動・諜報活動に長けており、たった一人で敵陣深く潜入したことも一度や二度ではないらしい。
乃木坂も百目鬼も完全に合点がいったわけではないが、この場はその忍者とやらを信じるしかあるまい。
「ほー。ま、俺たちはここで待てって言われればそうするだけだ」
「同感だな。この森は広い‥‥下手に動き回れば迷いかねん」
「なぁ黒畑、陰陽師なら式神とかで偵察できないのか? 鷹とか猿とか蟹とかの形したやつ」
「‥‥蟹が陸地で役に立つのか?(汗)。とにかく、すまないが私にはそんな真似は出来ない。スクロールで様々な属性の魔法を使うのが精一杯だな」
バーク、紅闇、日比岐、黒畑。
各々少しでも現状をどうにかしようと思案中らしいが、そうそう名案は思いつかないらしい。ちなみに余談だが、陰陽の奥義を極めれば精霊を己の式神として使役する術もあるらしい‥‥。
そんな中、黙ったまま目を閉じていた白峰がゆっくりと立ち上がる。
「‥‥‥‥」
「うん? どうかしたのかしら、白峰さん」
「へへ‥‥どうやらそろそろ時間みたいだな。みんな、準備してくれ。団体さんのご到着だぜ!」
凍真の台詞で、敵忍者の接近を悟る一同。
白峰が凍真よりも先に気付いたのは、野生のカンのようなものだろうか。
とにかく各々が得物の準備なり、術の発動なり、スクロールの使用なりをして戦闘準備を完了する。
さて‥‥丹波の未来を担う待ち伏せ作戦の成否や如何に―――
●辛酸
忍者8人は冒険者たちが身を潜めているのに気付いたらしく、ふっと足を止めた。
感覚で察するしかないわけだが、忍者たちは今にも散開して行きそうな気配だ。
「よぅ! 悪いがあんたらを行かすわけにはいかないんだ‥‥これ以上丹波に戦乱を撒き散らされてたまるか!」
「こらこら、だからって姿を見せるなよ!?」
「って、あんたもそこでツッコミ入れたら同罪だろうが」
凍真があっさりと木陰から出て、忍者8人を指差して叫ぶ。
それに対し日比岐がツッコミを入れたが、バークが言うようにすでに隠密行動の意義はなくなってしまっている。
「凍真様か! 一番厄介な八卦衆が差し向けられたものよ!」
「散れ! 一人でもいい、この場を突破するのだ!」
忍者の一人が号令すると、他の7人は各々バラバラの方向へと逃げ出していく。
言葉どおり、一人でも突破することだけを念頭に。
「させるか! この日のためにプラントコントロールを修めた俺の覚悟を見ろ!」
乃木坂が予め詠唱していた魔法で、森の木々を操り始める。
草や蔦が忍者の一人の足に絡みつき、引きずり倒して行動不能に追い込む。
「‥‥見誤ったな!」
手にした日本刀でその忍者を殺さない程度に刺し、追い討ちをかける。
とりあえずこの忍者はもう無力化したと言っていい。
「デカブツが‥‥鈍い!」
「わりぃが俺にゃ狙いを付ける必要はねぇのさ。喰らえ!」
「っ!?」
忍者の一人がバークに突っ込み、そのまま横を通り過ぎる。
素早さの違いは歴然だが、バークが発動したオーラアルファーは全方位に15メートルの射程を持つ。
背後から衝撃波を受け、忍者はもんどりうって木に身体を打ち付けていた。
「鉄鞭制裁!」
がん、と小気味のいい音がして二人目の忍者が沈黙する。
残りは6。
「気持ちのいい仕事とは言えないけどな。見逃しちゃうともっと気持ちの良くない仕事が増えちまうから‥‥な」
疾走の術を発動している日比岐は、その機動力を以って敵忍者を翻弄する。
反撃する暇があるなら逃走を試みようとしているため、敵忍者は追い詰められていく一方だ。
「そら! 『激烈強打の型』!」
手にしたGパニッシャーと十手で、太鼓を叩くかのように敵の頭部を殴打、気絶させる。
残りは5。
「フレイムエリベイションのスクロールは伊達じゃない。高威力版のムーンアローは射程も長いぞ!」
何とか詠唱に成功した黒畑が放ったムーンアローが、一番近い忍者に直撃する。
流石に術の選別までしている余裕がないので、手近な者を潰そうと考えたのだろう。
機動力を確保しようと最低限の装備で身を固めていた忍者は、ムーンアローでもかなりのダメージを受けたようだ。
「旅装束はいいことばかりじゃないからな。もう一度受けてみろ」
中傷を負い、走りにくい森の中でスピードが出ない忍者は、高威力版ムーンアローの射程から逃げられなかった。
4人目を捕え、あと半分。
「‥‥‥‥」
白峰が相対した忍者は無謀に突っ込もうとせず、機をうかがうようにその距離を保っていた。
後ろを見せて背後からソニックブームでも飛ばされては適わないし、かと言って忍術を使用する暇もない。
白峰の技が明確でない限り、行動を起こすべきではなかったのだ。
「‥‥‥‥!」
忍者が一か八かで白峰の横を駆け抜けようとする直前、白峰がソードボンバーを放った。
射程は3メートルとはいえ、広い角度の衝撃波がすり抜けようと突っ込んでくる相手に有効でないわけがない。
5人目の忍者が白峰の次の攻撃によって沈黙し、残りは3!
「よっしゃ、なら俺も行くぜ! 『白鳥結葬』!」
白峰に護衛される形で動いていた凍真も、アイスコフィンの魔法で忍者の一人を固めていた。
流石に誰がどの忍術を使うかまでは判断できなかったようだが、これで後2!
「ちっ、まずい‥‥俺だけでも抜けなければ!」
どさくさ紛れに疾走の術を発動した敵忍者は、後ろを振り返りもせずに場を離れようとしていた。
大分遠くまで走ったと思うが、その後ろには紅闇がぴたりと追いすがっている。
「同じ疾走の術を発動しているのだ、長距離を走るのが得意な俺はしつこいぞ。そして覚えておけ‥‥こういう場合は逃走者より追跡者の方が有利だということをな」
前に見える敵忍者の背中に小柄を投げつける紅闇。
流石に背後からの射撃を避けられるほど森という戦場は甘くなく、敵忍者は小柄が刺さった衝撃で足を滑らせる。
「これまでだ。あとは斬りつけるのみ‥‥」
主戦場から離れたところでもまた一人、忍者が討たれる。
後は最後の一人のみだが‥‥。
「おのれ面妖な!?」
「人を妖怪みたいに言わないでよ!」
百目鬼の構想したとおり、戦闘中に人遁の術が切れたことは切れた。
美人くの一が一転、本来の百目鬼の姿に戻れば、誰だって少なからずショックは受けるだろう。
だがまずいことに相手もプロであり、動揺はほんの一瞬。
日比岐、紅闇、百目鬼の三人が仕掛けて回った罠も相手が忍者だけにさほど有効ではなく、敵がバラバラに逃げ出していたため、冒険者同士も即時の援軍を期待できない。
そしてこの場合、何よりもまずかったのは‥‥。
「退けい! 貴様の腕では俺たちの信念を止めることなどできん!」
「ぐぅっ‥‥!?」
交差時のシュライクで重傷を負った百目鬼に、遠ざかる忍者を負う事は出来なかった。
どこか一点が突破されればそれで終わり‥‥せめてもう一人、遊撃担当の者がいればまた違ったであろう。
他の7人が依頼の失敗を悟ったのは、森の中で重傷を負った百目鬼の姿だけを発見した時であった―――