丹波山名の八卦衆『天の巻』
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月08日〜09月13日
リプレイ公開日:2005年09月16日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「むぅッ‥‥聞いたかね、一海君ッ!」
「えぇ。なんというか、厄介なことになっちゃったみたいですねぇ」
京都冒険者ギルド職員の二人組み、大牙城と西山一海。
常に虎の覆面を被っている大牙城の表情は窺い知れないが、その声色は明らかに緊迫した何かを感じさせている。
以前の八卦衆関連の依頼で源徳家康への救援を求めた忍者を一人逃がした事から、丹波で起きた内乱は他国の介入する所となった。
一口に反乱軍と言っても藩主とその弟の戦いであり、他国から見れば一族の内乱に過ぎない。
また一国の藩主一族ともなれば京や江戸に縁者も多く、源徳家康が烈斬陣営に援軍を送るのに不思議は無い。そして、状況はそれだけには留まらない。
「なんでも、丹波城主山名豪斬様は、平織虎長公に救援を要請し、源徳公の出した援軍とにらみ合いを続けているとか。つまり、いつの間にか豪斬・虎長軍と、烈斬・源徳軍の戦いになっちゃったわけですね」
丹波山名家は元々平織派だった。山名家を失う事を良しとしない平織虎長も大和追討に忙しい時期でありながら豪斬救援に一軍を送ったのだ。
「藩全体を舞台とした兄弟喧嘩から、三強の二人をも巻き込んでの抗争か‥‥嘆かわしいものよッ! 一番被害を受けるのは民草だと言うにッ!」
平織も源徳も、ジャパンの政治の中心に居る者として、複雑な政争の中にある。
表向き丹波藩の戦いでありながら、今回も心中は決して穏やかではあるまい。
「で、今回も八卦衆の方がいらっしゃるんでしょ? どんな方なんです?」
「知らぬッ! だが、どうも『天』の名を持つ方らしいからな‥‥かなり暗い人物と見たッ!」
「あー、ありそうですね。こう、そばに居てもまるで存在感がない、みたいな」
八卦衆の面々は魔法に特化した戦闘スタイルで、高速詠唱と二つの達人レベル魔法を駆使する8人組。
各々『天』や『地』等、八卦の名の一部を冠しているのだが、イメージにそぐわない性格をしている(断言)
「明美ちゃーん、お茶のお代わりもらえるー?」
「あ、はーい、只今〜」
と、他の職員が聞きなれない名前の女性の名を呼び、茶を無心した。
それに応えた村娘風の少女は、訛った口調で笑顔で軽快に返事していたが。
「‥‥城さん、あの娘誰です?」
「一海君が知らんのに私が知っているはずがなかろうッ! この大牙城、女子の顔を覚えるのは不得手だッ!」
「新入りの職員か‥‥それともお手伝いさんなんですかね。まぁいいや、すいません明美さーん、私と城さんにもお茶いただけますか〜?」
「任すてくんろ〜。今、美味ぇ茶さ入れてやるべよー」
前掛けをつけ、お盆に茶と急須を乗せ、とてとてと歩いてく様は、まさに田舎娘。
着物も地味かつ当たり障りのない色だが、顔はかなりいい線行っている。
「ありがとうございます。‥‥うん、中々いい腕前ですね。明美さんは新入りの職員なんですか?」
「やんだー、違うっぺよー」
「へ? じゃあお手伝いさん?」
「おらは依頼の補足に来ただよ。だども皆さんよーけ忙すそうにすてるべ? 折角だからお茶くらい淹れてやんべと思ったんだなすー。豪斬様にも美味ぇって褒められるんだべさ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」
左右二つに結った自分のおさげを弄りながら、満面の笑顔(極度の訛りあり)で言う明美。
丹波の現城主に茶を淹れるような人物で、今日ギルドに来るのは‥‥。
「‥‥‥‥も、もしかして明美さん‥‥八卦衆の‥‥」
「ん? そだよ〜。八卦衆・天の『明美』はおらのことだけんど‥‥変け?」
どぉぉーーーーーーーんっ! ←やばい場面に遭遇した音
「い、いえ‥‥変と言うか‥‥」
嫌な汗をかく一海を尻目に、見た目まるっきり田舎娘の明美は、さらりと説明を開始する。
「そか、虎の覆面さすてるってごとはあんだが大牙城さん。んで、あんだが西山一海さん。担当の人さ見づげたんならお茶汲みも切り上げんとねー。‥‥こほん、今回の依頼は潜入工作だべ。おらと一緒に烈斬・源徳軍の兵糧さ焼き捨てに行ぐんだぁ。場所は『風』の忍者さんが調べてくれたがら、場所はバッチリだぁよ」
「ふむッ! 戦術的に見ても兵糧攻めは悪くない手ではあるが‥‥その任務は当然衛兵との戦闘が起こるなッ! まさか兵糧にあっさり火を付けさせてくれるほど甘い相手ではあるまいッ! 下手を打てば、そこに待つのは死ッ!」
「んだねー。どんだけ見つかんねぇように行動すて、突破すて火ぃ付けるかってのが重要だべ。お百姓さんには悪いけんども、これも戦を早ぐ終わらせるためよーって思ってもらうしかないっぺよ」
「‥‥ちょっとちょっと。何普通に会話してるんですか、城さん」
「文句を言っても始まるまいッ! 事実を事実として受け入れることこそ、八卦衆との付き合い方と見つけたりッ!」
「悟ってどうするんですか!?」
「うん、他に伝えられることはねぇべな。んならおらはもうつっとばかすお茶汲みすてるから、疑問があったらゆってくんろー」
そう言って、魔法の達人にはまるで見えない素朴な笑顔を浮かべて盆を持っていく明美。
残された大牙城と西山一海は、今までにないくらいげっそりとした感覚に襲われていたのだった―――
●リプレイ本文
●集団で歩いても見つからないほど人気のない道筋というものは(長)
「んー、着いたべよ。あれが烈斬様と源徳家康の陣だなすー。みんな、気合さ入れてくべ!」
いの一番に森を抜けたのは、八卦衆の一人、天の明美。
彼女がくるりと振り向いた先には、戦ってもいないのにボロボロで薄汚れた冒険者が8人。
「あんりゃ? おめらなぁーにそっだらかっこしてるだ」
「好きでこんな格好になったわけじゃないよ〜。う〜、お風呂入りたい‥‥」
「兵糧に火をつける前に言っておく! 俺たちはここに至るまでの道筋を体験した。い、いや、体験したと言うよりまるっきり理解を超えていたんだが‥‥起こったことをありのままに話すぜ! 『風の忍者が調べた道は地獄だった』。な、何を言ってるのかわからないと思うが俺も何があったのかわからなかった‥‥頭がどうにかなりそうだった‥‥。悪路とか獣道とかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ‥‥」
ここに来るまでに敵と出会ったわけではない。
だが道とすら呼べないルートを山に不慣れな人間が集団で歩けば、疲弊は必死だった。
アマラ・ロスト(eb2815)を筆頭に、ほぼ全員がグロッキー状態。かろうじて日比岐鼓太郎(eb1277)が軽口を叩ける余裕があるようだが‥‥。
「確かに敵と遭遇せずに敵陣の真後ろに出られたのは評価する。だが到着までに体力がここまで削られるとは聞いていない」
「げふげふ。こ、この前があの様だったから、今度こそは‥‥と気合を入れたのに、のっけからめげそうだ‥‥」
「これだから都会もんは情けねぇだ。おらぁ子供ん頃から山にはなれっこだから、こんなんなんでもねぇべ」
「し、知りませんよ。だったら依頼を出す時に言ってくれればいいじゃないですか、『辛い道です』って」
紅闇幻朧(ea6415)、黒畑緑太郎(eb1822)、字冬狐(eb2127)も不満を隠しきれない様子。
無理もない、これから命がけの任務をこなそうと言うのに、明美以外へろへろでは話にならないのだ。
「しかも予定より到着が遅れて、すっかり日が暮れちゃったわね。本当は昼に決行するはずだったでしょ?」
「んー‥‥わたくし、もう眠ぅおすえ‥‥」
「疲労回復も含めて何とかしないとね。前回はあたしのせいで失敗しちゃったからね〜。今度こそ成功させるわよ!」
南雲紫(eb2483)が言うように、予定は大幅に遅れている。
おかげで鷺宮吹雪(eb1530)のように不調を訴える者も居るが、百目鬼女華姫(ea8616)はあくまで前向きに作戦成功への道を模索している模様だ。
「すかたねぇべなぁ。んならここで休んでくけ?」
「こ、こんな敵陣の真っ只中で? いくらなんでも無茶よ」
「いや‥‥案外いい手かも知れん。ここまでの道筋で敵に出くわさないなら、ここでも出くわす確率は低いだろう。それに、結局のところ日が昇っていなくては明美殿の真価が発揮できん」
南雲の制止を紅闇が流し、皆はあっさり休息に賛同する。
それほど疲れているし、寝ればスクロールの使用等で消費した魔法力も回復するというものだ。
「さ、鷺宮さんよく寝られるね。僕なんか結構緊張しちゃうよ」
「休める時に休むのも冒険者の務めよ。火とか使わなければそうそう見つかりはしないだろうから、アマラさんも寝たら?」
「百目鬼さんもな。見張りは俺がやっとくからさ(しゅっ)」
日比岐の申し出により、一行は敵陣の間近で夜を明かすと言う、前代未聞の行動に出たのだった―――
●ここからはシリアスに(何)
「いるいる。やっぱり夜より警戒が薄いみたいだな‥‥警備が10人から5人になってるぞ」
「ブレスセンサーのスクロールでも確かめてみましたけど、他の見張りは居ませんね。陽動班はあの五人の撃破と時間稼ぎですか‥‥意外と楽そうですね」
すっかり体力・魔法力を回復した一同は、ギリギリまで陣に接近し、作戦決行のタイミングを計っている。
日比岐と冬狐の情報により、敵のおおよその戦力が知れた。
見ればさして腕のなさそうな足軽ばかりで、真昼間というこの時間に、こんな自陣深くの兵糧集積所に襲撃をかけてくる馬鹿はいないだろうという考えが伺えた。
「甘いことですね。戦場で『襲われることなんてないだろう』なんて顔で立っているなんて‥‥」
「気持ちはわからんでもないがな。そういう任務を行うために俺たち忍者が居る」
「油断大敵か‥‥まさに言葉どおりだな。まぁいい、こっちにとっては好都合。私たちのするべきことをしよう」
鷺宮、紅闇、黒畑の言葉に続き、皆が小さく頷いた。
陽動班はここから飛び出し、仲間を呼ばれる前に足軽の撃破。
火付け班は少し移動し、見張りに見つからない位置から敵軍の兵糧に火を放つと言うわけだ。
「陽動班は南雲さん、私、鷺宮さん、百目鬼さん」
「火付けは火の扱いに長けた方たちどすえ。日比岐さん、紅闇さん、アマラさん、冬狐さん、明美さん」
「よし、では行動開始だ。ちゃんと撤退時間のことも考えて行動しろ」
南雲の音頭で、作戦は開始された。
陽動の4人は茂みから飛び出し、5人の足軽へと向かう!
「なんだ? お前ら、どこの‥‥ぐえっ!?」
「やはりスクロールは便利だな。マグナブローで吹き飛べ」
「敵か!? そ、そんな馬鹿な!」
「うふふ‥‥あたしの熱〜い抱擁が欲しかったら捕まえてみなさい」
「くそ、増援を呼べ! 敵はたった4人だぞ!」
「させません。南雲さん、鳴弦の弓で援護します」
「了解。仕掛ける‥‥!」
不意を突かれたという事もあり、足軽たちの足並みはバラバラ。
予め手順を決めていた冒険者たちへの対応が遅れ、増援を呼ぶ暇もなく撃破されてしまった。
「あらあら、あっけないわねぇ。時間稼ぎにもなりやしないわ」
「楽でいいじゃないか。まぁ、私はもっともっと魔法を使いたかったが」
「‥‥なら用意するんだな。まだまだ来るぞ」
「あら、何故ですか? 助けを呼ばれたようには見えませんでしたけど‥‥」
鷺宮がきょとんとした表情で呟いた、その時だ。
「今の火柱は何だ!?」
「おい、確認に行ったほうがいいんじゃないか!?」
そんな声が聞こえ出し、幾人かがこちらに近づいているのを肌で感じる。
音はともかく、地面から空に向けて登るマグナブローの炎は、少数の人間に目撃される可能性があったのだ。
「‥‥‥‥私か!?」
「お前だ。さぁ、好きなだけ魔法を使うがいいさ」
想定外ではあるが、陽動組みはその役割を最大限に発揮していたのである―――
●点火のち撤退
「あーあ‥‥もったいねぇべな。こんだけの米さ作んのに、お百姓さんがどんだけ苦労すたんだか‥‥」
「仕方ありませんよ。というか、依頼を出したの明美さんじゃないですか」
「依頼出したのは豪斬様だぁよ。おらは行ってこいって命令されただけだべ」
「ほらほら、明美さんも冬狐ちゃんも無駄話してないの。油撒いて撒いて」
膨大な量の烈斬&源徳軍の兵糧を前に、普通に火を付けたのでは燃え広がるまでに時間が掛かると判断した本命組みは、油を撒いて少しでも延焼させようとしているのだ。
火をつけたはいいが、すぐに発見されて消火されたではお話にならないのだから。
「よし、こんなものでいいだろう。全員同時に、別の角度から火をつけるぞ。煙を出すのもなるべく控えたい」
「わかってるって。みんな、準備はいいか?」
「はい。フレイムエリベイションもかけましたから、あとは皆さんが火をつけてくれるのを待つだけです」
「こっちも準備できてるよー。火打石の出番!」
「んだばいくべ! 天道光波!」
明美が高速詠唱サンレーザーで紅闇のたいまつに火をつけ、連続高速詠唱サンレーザーで兵糧に火を放つ。
他の面々もそれぞれの手法で火を放ち、炎が少し大きくなったところで冬狐がファイヤーコントロールのスクロールを使用、広く延焼させていく。
ふと気付けば、時折叫び声が響き、陽動班が交戦していることを教えてくれる。
「これだけ広げれば安々と消火できないはずです。作戦としては充分でしょう」
「よっしゃ、なら陽動班と合流して逃げよう。命あっての物種っていうからさ」
「同感だ。帰りもあの道を通るのかと思うと少々ぞっとしないがな」
「天掛雲(インビジブルのことらしい)は使う必要もなかったべなぁ。楽すぎて申し訳ないくらいだなす」
火付け組みはすぐにその場を離れ、未だ戦闘している陽動組みの下へと急いだ。
見れば敵は7人ほどに増えており、地面に転がっている人間も含めれば15人近い。
陽動組みの面々はそれぞれ大なり小なり怪我をしており、助けに入らなければまずい状況になっている。
「天道光波! みんな、目的は達すただよ! あとは逃げるだけだべ!」
「お待ちしてましたえ! みなさん、撤退を!」
「はぁっ、はぁっ、よし、丁度限界を感じていたところだ!」
「ちょ、ちょうど人遁も切れちゃったところだしね。お暇しましょ!」
「殿は私と明美殿でやる! 高速詠唱からの魔法で時間を稼げるはずだ!」
かくして、一同は一人の犠牲も出すことなく任務を全うさせたのだった。
南雲と百目鬼はかなりの深手だったが、丹波藩お抱えの僧侶に治癒してもらい、全快。
冒険者曰く、『仕事自体より行き帰りの道のほうがよっぽどきつかった』とのこと。
「黒畑さんだっけ? あんだいい陰陽師になりそうだなや。丹波藩にとって嬉しいことだぁよ♪」
と、明美にお褒めの言葉を貰った黒畑であったが、正直微妙な心境になったと言う。
「欠片も陰陽師に見えない明美殿に『いい陰陽師になる』と言われてもなぁ‥‥」
無論本人が居ないところで言ったのではあるが‥‥彼の台詞が、八卦衆の特徴を如実に現しているのは言うまでもない―――