丹波山名の八卦衆『風の巻』

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 13 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月01日〜10月06日

リプレイ公開日:2005年10月10日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「おや、藁木屋さん。何の御用で?」
「今日は先手を打ちに来た。アルトから丹波で動きがあったと聞いてね‥‥毎度毎度依頼が成立してから補助を頼まれても、私としては大いに困るのだよ」
「結局受けてくれることには変わりないんじゃありませんか」
「仕方ないだろう。何やら君の背中から『忙しいから助けてくれ』オーラが出ているからな」
 京都冒険者ギルドの職員、西山一海。
 そしてその友人、京都の便利屋藁木屋錬術は、ギルド内の一角で茶を飲みつつ会話を進める。
「そうなんですよ。背中もあれですが、私も困ってます。最近、城さんがサボり気味でして」
「大牙城殿が? 珍しいな‥‥真面目な上、健康優良児であり、病気の方から逃げていきそうなお方なのに」
「でしょう? そのとばっちりが私に来てるんで、もう散々ですよ(泣)」
 大牙城とは、一海の同僚で一海よりも前から京都ギルドに勤めている変人である。
 常に虎の覆面を被っており、すぐにマントを翻したがるのが特徴だ。
「まぁそれには同情するがね‥‥それより、今日辺り八卦衆の誰かが来ているのだろう? 紹介してくれないか」
「それがですね、もうとっくについていてもおかしくないんですが、まだいらっしゃらないんですよ。岩鉄さんみたいに迷ってるんでしょうか?」
 丹波藩の忠臣、八卦衆の面々は、魔法に特化した戦闘スタイルで、高速詠唱と二つの達人レベル魔法を駆使する8人組。
 各々『水』や『火』等、八卦の名の一部を冠しているのだが、揃いも揃って文字のイメージにそぐわない性格をしている。
 さて、一海がそう答え、困ったように唸った直後のことだ。
『んふふ‥‥見せてもらったわよ、あなたの表情。ゾクゾクしちゃう』
 自分たちの直情から声が響き、一海と藁木屋は即刻天井を見た。
 そこには、一人の女性が天井に張り付いている姿が‥‥。
「‥‥誰です?」
「誰、ですって? んふふ、いいわよ‥‥教えてア・ゲ・ル。とぅっ!」
 ばるばるばるばる ←降って来た音
 女性はパッと天井から離れると、軽やかに地面へ着地した。
 肩付近まである長い髪をふぁさっとかき上げ、一海たちをビシッと指差す。
「アタシの名は旋風。八卦衆、風の『旋風(つむじ)』よん。主君である豪斬様の命により、依頼の説明に来たってわけ」
「‥‥何やら今までにパターンだが、いまいちパンチが足りないな」
「風と言う文字から考えれば、意外なことには違いないですけど‥‥拍子抜けですね」
 他の八卦衆全員と関わってきた二人からしてみれば、旋風の性格程度では変わってるとは言い難いのである。
「あぁん‥‥いいわいいわぁ、その表情。まさに脱力美ね」
「‥‥は?」
「んふふ‥‥私は美を追求するくの一なの。情報に精通することで、美に接する機会を増やしたいからよん。これぞ探求美」
 甘ったるい口調と、誘うような動作。
 風のイメージから程遠い、ぬめっというかぬるっとした、艶やかな雰囲気の女性だ。
 その珍妙な趣味さえなければ‥‥と思うのは、八卦衆には無駄な期待である。
「それでこそ八卦衆! なんかちょっと安心しました!」
「いや、それもどうだろう(汗)。まぁいい、旋風殿、いい加減今回の依頼内容を話していただきたい」
「そうね‥‥じゃあ解説美に輝いちゃおうかしらん。前回、明美ちゃんと一緒に敵軍の兵糧を焼いてもらったおかげで、敵の士気は大きく削がれたの。つまり落胆美。で、小規模な小競り合いが起こることもない現状、にらみ合いを続ければ向こうだけが疲弊していくのは当然よね。これぞ困憊美。それをよしとしない反乱軍と源徳軍は、焼け残った兵糧が尽きる前に決戦を挑んでくるらしいわ。まさに決死美」
 豪斬・平織軍と烈斬・源徳軍の戦力は、共に約500。
 数が互角であるなら、後は兵の練度、士気、戦略がものを言うのは自明の理である。
 その戦略の一部を担うのが、今回の依頼。
「いちいち美、美と言わないと気が済まないのですか、あなたは」
「そうよん。美は見方によってどこにでも転がってるものだから。これぞ発見美」
「依頼書には、別働部隊として行動って書いてありますけど、これはなんです?」
「豪斬様の陣から、総勢50名の別働隊を率いて敵軍の背後に回り、攻撃を仕掛けて欲しいのよ。これぞ挟撃美。丹波の家臣だけで構成するらしいし、アタシも行くから統率に問題は無いはずよん。つまり忠誠美」
「ふむ‥‥地の利、士気を鑑みても悪い作戦ではないな。敵軍も混乱するだろうし、安々と撤退できないだろう」
「そゆこと。この両軍激突で勝敗が決するから、絶対に勝たなくちゃ。これぞ背水美‥‥危険だけど、頑張りましょうね。奮闘美に輝きましょう!」
 ついに、丹波の未来を決める両軍の直接対決の日が迫ってきていた。
 それは同時に、山名家の家督争いから端を発した一連の事件が終結を迎える予兆でもある。
 結果がどうなるかは神のみぞ知る‥‥あとは、全力でぶつかるだけであろう―――

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

南雲 紫(eb2483

●リプレイ本文

●沢を渡って森を抜けて
 某月某日、晴れ。
 一行は山名豪斬の陣に到着とほぼ同時に、50名からなる別働武者部隊を率いて出撃する。
 物々しい雰囲気の陣内は鎧で武装した男たちで溢れ、まさに戦争が始まる寸前といった様相を呈していた。
 さて、一行は沢を渡って森を抜けて、八卦衆・風の旋風(つむじ)たちと共に山道を急行中。
 60人近くで行軍しているため、素早くとはいかないが、作戦時間に間に合うよう各々必死である。
「ふぅ‥‥しかし、以前通った経路とは雲泥の差だな。同じ人間が調べたのに」
「まったくだ。いや、以前のあれと同じような経路なら死人が出かねない」
「‥‥『山道』とは言わないのね。まぁ気持ちは分かるけど(汗)」
 八卦衆の依頼にかなりの高確率で参加している二人、日比岐鼓太郎(eb1277)と黒畑緑太郎(eb1822)は、その分様々な苦労もしてきた(黒畑は現在皆勤賞)。
 特に八卦衆・天の明美の時に通らされた道は恐怖の対象ともなっているようだが。
  百目鬼女華姫(ea8616)もまた同じ道を通った仲だけに、心中はよく分かるらしい。
「調べた人に罪は無いですよ。旋風お姉ちゃんはお仕事しただけなのです♪」
「はっはっは、この程度の道ならどうってことねぇな。噂の山道も通ってみたいもんだ」
「「「やめといたほうがいい」」」
 とりあえず、経験者三人からの助言だった。
 月詠葵(ea0020)もバーク・ダンロック(ea7871)も意気揚々と行軍しているタイプだが、知らないと言うのは恐ろしい限りである‥‥としか言えない。
 それはさておき、喋っている間にも歩は進む。
 日がとっぷりと暮れた頃、一同は休憩も兼ねてキャンプを張った。
 まだ敵軍との距離があるため、焚き火を炊いても問題ないく、食料は丹波藩士が持ってきているため、全員腹を空かせることも無かったのである。
「ふむ。しかし戦に対する姿勢の違いが見て取れるのぅ。ほれ、わらわたちの辺りだけ空気が違う」
「それは致し方あるまい。冒険者という立場の我々と違い、彼らは真の意味で兵士。戦を前に緊張もするだろう」
 三月天音(ea2144)は、黙々と保存食を頬張る丹波藩士を見てそう呟く。
 一方、阿阪慎之介(ea3318)は精神的に一番彼らに近いらしく、その心中を察していた。
「‥‥‥‥」
 ちなみに、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)という神聖騎士もいるのだが、彼は無口なのでそっとしておこう。
「はて。しかし旋風殿は無口じゃのう。藁木屋殿に聞いた話ではもっと姦しい方かと思っていたのじゃが」
「そう言えば変ですね。旋風お姉ちゃん、どうかしたですか?」
 八卦衆、風の旋風。
 美を探究するくの一である彼女は、行軍が始まってから殆ど喋っていない。
 普段は五月蝿いくらい美、美と言っているのだが‥‥まさか戦に緊張しているわけでもあるまいに。
 三月と月詠の質問に、旋風はゆらりと立ち上がって呟いた。
「‥‥‥‥‥‥美」
「あん? なんだって、旋風のねえちゃん」
「美よ! あぁ‥‥素晴らしい時、素晴らしければ、素晴らしけりよ! これぞ活用美!」
「いや、無茶苦茶だろその三段活用」
「進軍美、忠誠美、無邪気美(月詠)、考察美(三月)、寡黙美(テスタメント)、堅牢美(バーク)、肉体美(百目鬼)、音響美(日比岐)、豪胆美(阿坂)、精進美(黒畑)! んふふ‥‥美よ。正に美の競演よ! 冒険者がここまで美しいとは思わなかったわっ! まさに衝撃美!」
 両手を大きく広げて絶叫する旋風。
 バークや日比岐もキッパリと無視し、自分の世界に浸っていた。
「‥‥物凄く不安になってきたぞ。丹波家家臣の先輩とはいえ‥‥」
「欠片も強そうに見えないものねぇ‥‥」
 黒畑と百目鬼が溜息をついたのにも当然気付かず、一回スイッチの入ってしまった旋風は終始美、美と叫んでいた―――

●戦場の命
 法螺貝が鳴り響く。
 兵士たちの怒号が響き渡る。
 そう‥‥ついに戦の火蓋が切って落とされたのだ。
 山名豪斬・平織虎長軍VS山名烈斬・源徳家康軍の激突は、丹波の平和への第一歩となりえるのだろうか。
 兵力は共に約500。
 だが旋風と冒険者率いる50人の別働隊があるため、豪斬側は少々数で劣っている。
「始まったようだな。先ほど通ったのが最後尾ならば、充分間に合ったと言うところか」
「そうね。そろそろ襲撃美に輝こうかしら」
「つ、旋風お姉ちゃん元気ですね‥‥あれだけ騒いでたのに」
「んふふ‥‥美を追求するためには体力も要るのよん。鍛錬美は欠かさないわ」
「そういう問題じゃろうか‥‥」
 この一戦はまさに総力戦。
 八卦衆を総動員して戦っている本隊は、互角以上の戦いを展開しているようである。
 広範囲魔法を使えることの多い八卦衆は、集団戦で真価を発揮するようだ。
「んじゃいこうぜ。今日で丹波の内乱にカタをつけるつもりでさ(しゅっ)」
「‥‥承知」
「よっしゃ、いくぜ!」
「そうね。八卦衆、風の旋風が命ずる! 総員、突撃美に輝くわよ!」
 兵士たちが応え、一同は潜んでいた山を飛び出し、烈斬・源徳軍の背後に出る。
 弓兵の援護を受け、日比岐が、テスタメントが、バークが敵軍に突っ込んでいく。
 不意を突かれた敵軍の兵士たちには、混乱と共に動揺が凄まじい勢いで伝わっていった。
 烈斬と源徳が派遣した武将は軍の真ん中に位置しているらしく、ここからではそうそう手は届かないようだが。
「別働隊だと!? 馬鹿な、どこに居たと言うんだ!?」
「気をつけろ! 話に聞いた八卦衆が居る可能性が高い!」
「どうやら源徳公の配下らしいわね。旋風さんのことを知らないところを見ると」
「気をつけろ、妖怪も混じっているぞ!」
「誰がよ!?」
 良くも悪くも目立つ百目鬼であった(合掌)。
「集団戦は俺の得意分野だ。みんな吹き飛べぇーーーーーっ!」
 オーラボディを纏い、わざと囲まれたところでオーラアルファーをぶちかますバーク。
 その強固な防御能力の前に、殆ど傷を与えられない敵軍は、結構な数の人間がオーラアルファーでダメージを受けた。
「んふふ‥‥流石、あだ名は伊達じゃないわね。私も参加させてもらうわ」
 旋風もまた敵兵に囲まれるように動き、斬られるか否か寸前のところで高速微塵隠れを発動。
 本人は瞬時に攻撃範囲から離脱し、強力な爆風だけが敵兵を襲う。
「弓兵部隊、あちらの薄い部分に射るのじゃ! わらわも合わせる!」
「陰に生きし邪なるものよ‥‥その身をもって裁きを受けよ」
「もう少し火力がある魔法が使いたいが‥‥無いものねだりしても仕方ないか。魔法が使えることに変わりは無いんだ、こっちもムーンアローで援護する! 前衛、頼むぞ!」
 三月のファイヤーボム、テスタメントのブラックホーリー、黒畑のムーンアローと、弓兵以外の後方援護も充実している。
 本来冒険者と旋風だけで戦うにはあまりに戦力差があるが、40名の丹波藩士も加わっている現状、遅れは取っていない。
「任せてください! 旋風お姉ちゃんのためにも頑張るですよ!」
「人を妖怪呼ばわりして、ただで済むと思わないことね!」
「むぅ‥‥平織派に協力する事は本位ではないが、手を抜くつもりは無い。抜いたら命を落としかねんしな」
 月詠、百目鬼、阿坂は前衛として敵と交戦中。
 日比岐もまた、前衛として忍術を織り交ぜながら奮戦していた‥‥その時。
「ぐわぁぁぁっ!」
『!?』
 どさりと倒れた兵士。
 見れば、それは一緒に行軍した丹波藩士の一人だった。
 そして瞬時に理解する‥‥あぁ、彼は死んだのだ、と。
「え‥‥そんな‥‥」
 親しくなったわけではない。
 軽く2、3語交わしたかも曖昧な、50分の1の命‥‥。
「ぼさっとするな月詠殿! 貴殿が死ぬぞ!」
「阿坂さん‥‥で、でも‥‥」
「鬼みたいなこと言うようだけどさ、ここは戦場だ! 死人が出て当たり前なんだよ!」
「日比岐さんまでそんなこと言うんですか!?」
「それが真理ってもんなんだよ、坊主! 誰も殺さずに戦が終わるなんて思ったら大間違いだ!」
「バークさん‥‥」
「‥‥‥‥来るぞ。迎撃しろ」
「くっ‥‥!」
 珍しいテスタメントの台詞にも納得がいかない。
 月詠も冒険者だ、命のやり取りをする覚悟はある。
 しかし‥‥命というのはこんなに軽いものなのか?
 誰かが死んで‥‥それを当たり前だと言い切り、さらに死を重ねるのが正当化される場所。
 普通の依頼とは違い、戦場では命の取捨選択などできないのだ。
「旋風お姉ちゃん! こんなの‥‥こんなのが美ですか!? この場のどこに美があるって言うんですかぁ!?」
「‥‥君ももう少し大人になったら分かるわよ。散華美や信念美がね」
「そんなの、わかりたくな‥‥ぐぅっ!?」
 注意を逸らした瞬間、月詠は流れ矢の当たってしまった。
 左腕なので致命傷ではないが、好機と見たのか、敵兵が一人月詠に斬りかかってくる!
「こ‥‥殺される‥‥!?」
「大丈夫よ。『風牙登竜(ふうがとりゅう)』」
 高速詠唱での高威力版竜巻の術で、敵兵が吹き飛ぶ。
 落下ダメージがかなりきついらしく、鎧で武装した武者も血を吐いて苦しんでいた。
「あ‥‥ぁ、旋風、お姉ちゃん‥‥」
「‥‥止めを刺す役‥‥する?」
 ぶんぶんと首を振る月詠。
 旋風はただ『そう』とだけ呟き‥‥その辺に落ちていた日本刀を拾い上げ、敵兵を躊躇無く殺した―――

 そして、時はしばし流れ‥‥戦局は決した。
 挟撃され、陣形を乱した烈斬・源徳軍は敗北‥‥生き残りは殆どが降伏し、源徳が送った武将は落ち延びたという。
 烈斬も死亡は確認されておらず、もう少しだけ騒動は長引きそうである。
 冒険者に被害は無く、怪我もすぐに治してもらった。
 ただ‥‥月詠の心が癒えるのがいつになるのかは、不明である―――