ロールロールロール!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:10月16日〜10月21日

リプレイ公開日:2005年10月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さて‥‥今日はなんと、珍しく普通の依頼です。堕天狗党も八卦衆も全く関係ない、どこにでもありふれたお仕事ですよ♪」
「待て。それは堕天狗党や八卦衆の依頼が普通ではないとでも言うのかね?」
「普・通・と・で・も・思・っ・て・た・ん・で・す・か?」
「‥‥‥‥すまん」
 ギルドに立ち寄っていた冒険者を軽く無視してまで、二人の青年がコントを繰り広げる。
 方や京都冒険者ギルド職員、西山一海。
 方や京都の便利屋、藁木屋錬術。
 仕事の場以外でも友人として親しい二人は、職業柄も相まって依頼を頼み頼まれすることが多かった。
「えっとですね、先日とある陰陽師の方の屋敷からスクロールが数本盗まれたらしいんですよ。夜中、屋敷の人間が物音に気付いて蔵を調べに行ったら、黒装束の賊が慌てて逃げていくのを目撃したそうです。蔵の中を確認すると、スクロールだけが盗み出されていたとか」
「ほぅ。他の金目のものは手付かずか」
「はい。屋敷の事情をさっぱり知らなかったのか、知っていてスクロールだけを盗んだかは定かじゃありませんけどね」
 そこそこ名の通った陰陽師らしいが、そこはそれ、武家屋敷ではないため、さしたる警備が無かったのが災いしたのだろう。
 スクロールは陰陽師にとって重要な戦力になるため、取り返すのになりふりは構っていられまい。
「で、盗まれたスクロールの種類は?」
「アイスブリザード、ライトニングサンダーボルト、ライトニングトラップ、コンフュージョン、ファイヤーボム、ファイヤーバード、トルネード。全部初級です」
「見事なくらい攻撃系ばかりだな。盗人の性格が窺えるというものだ」
「逆に言えばそれだけバリエーション豊かな攻撃が飛んでくるということですから、気をつけていただきませんと。それに、盗人が持っているのがこれだけとは限りませんし」
 わざわざ攻撃系のスクロールばかり盗むということは、本人がそれを使える確率が高い。
 さらに他から盗んでいたり、自分で手に入れていたりする場合もあるだろう。
 盗人が潜伏しているという場所は判明済みだが、それだけに逃亡されないよう細心の注意を払っていただきたい。
「‥‥で、私は相変わらず補助役かね?」
「別に断っていただいてもいいですよ。でも、それをしないのが藁木屋さんのいいところ♪」
「‥‥‥‥」
 なんともいえない複雑な表情をする藁木屋。
 京都冒険者ギルドの一角は、今日も今日とて賑やかであった―――

●今回の参加者

 ea6877 天道 狛(40歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0098 ジョゼ・ギャランティ(39歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0958 アゴニー・ソレンス(32歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb2033 緒環 瑞巴(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2602 十文字 優夜(31歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2613 ルゥナ・アギト(27歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)
 eb3297 鷺宮 夕妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

グリューネ・リーネスフィール(ea4138)/ カノン・クラウド(ea4330)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ 鷺宮 吹雪(eb1530

●リプレイ本文

●まずは偵察
「ふむふむ、藁木屋君に聞いたとおり、周りは木ばっかり。でも密度はそんなにないわね」
 青空を翔ける一羽の白鷹。
 一見普通のことのようにも思えるが、実はこの鷹、冒険者の一人、天道狛(ea6877)がミミクリーの魔法で変身し、盗人が潜んでいるという小屋を上空から偵察しているのである。
 医療局を開き広く医療に携わっている彼女だが、一旦依頼で変身すると、人間の姿に戻ることは稀だとか。
『天道はん、とりあえず小屋から人が出入りする気配はありませんえ。そちらでは何かお分かりになりますやろか?』
 天道の頭に直接届く声。
 月の陰陽師である鷺宮夕妃(eb3297)は、テレパシーを使い、身を隠しながら偵察班と待ち伏せ班との中継役。
 また、そのすぐ横には、ルゥナ・アギト(eb2613)という野生児といった感じの女性もいたりするが。
「おぉ。女、今度は鷹から狼になった。不思議だ」
「すんまへん、ルゥナちゃん。ちこっと静かにしといておくれやす」
 天道が言うには、中から人の気配がするのは間違いないと言う。
 しかし、こちらに気付いているかいないかは分かりかねる、とのこと。
 それを聞いた鷺宮は、自分たちのさらに後方に居る待ち伏せ班にテレパシーの魔法で状況を伝えた。
「だそうだよ。どうする? 追い立ててもらっちゃう?」
「難しいところですね‥‥もし突入してライトニングトラップでも張られていたら、怪我じゃすまないかもしれませんし」
「かと言って手を拱いていても事態は好転しない。むしろ、こちらを発見される可能性が高くなるだけだ」
 待ち伏せ班は合計5人。
 通信を受けた緒環瑞巴(eb2033)を筆頭に、朱雀の法被を着た武道家、十文字優夜(eb2602)、冷静に状況を鑑みるレンジャー、ジョゼ・ギャランティ(eb0098)に加え‥‥。
「自分もジョゼさんに賛成ですね。むしろ、現段階でさえ気付かれている可能性はあるわけですから」
「そうね。盗まれた物以外にもスクロールを持っている可能性があるなら、目の良し悪し次第でエックスレイビジョンを使っているかもしれない」
 刀鍛冶を学ぶためにジャパンへやってきたアレンジャー、アゴニー・ソレンス(eb0958)と、カモフラージュを施す役を任された雨多川緋針(eb3629)というくノ一も参加している。
「うえぇ、エックスレイビジョン? 私、あの魔法嫌いだよ〜」
「じ、女性で好きな人は居ないと思いますよ? ノゾキ魔法って有名ですから‥‥」
「確かに。では、そのエックスレイビジョンのスクロールを欲しがったあなたは‥‥」
 つつつ、と女性3人の視線がジョゼに注がれる。
 当のジョゼはいたって平静で、隣で見ていたアゴニーの方が居心地が悪い様子。
「‥‥なんだその目は。悪いが俺は、そんなものまで使って女性の肌を見たいとは思わん。それは女性を見下すことにも繋がる卑怯な行為だ」
 ニヒルかつクールに答えるジョゼに、なんだかちょっと安心する女性組であった―――

●脅威の戦術?
「よし、ルゥナ、突っ込む。そのために来た」
「あんまり気は進まないけどね‥‥仕方ないわ」
『気ぃつけてくださいね。罠に注意どすえ』
 ルゥナが隠れながら移動し、天道と合流。
 天道は虎に変身し、小屋へ突入するタイミングを図っていた‥‥その時だ。
「ふっふっふ‥‥そない手荒なことせぇへんでも、こっちから出ていったるわい」
 小屋の簾をめくり、一人の青年が顔を出した。
 彼がスクロールを盗んだ犯人であるのは間違いないだろう。
「気付かれてたみたいね。けど、どうするつもり? 自首でもしてくれるのかしら」
「はっ、アホ言わんといてや。あんたらぶちのめして逃げるに決まっとるやろ」
『見つかったんどすか!?』
『ええ。悪いけど他の人たちも大至急呼んで頂戴』
『了解どす!』
 実際声にしなくても伝わるのがテレパシーのいいところ。
 鷺宮は慌てて待ち伏せ班に連絡し、増援を手配した。
 一方、盗人は小屋から少し離れると、外套を脱いで、自作したのであろうポケットが大量に備えられた服を露にする!
「む? まきもの、いっぱい」
「あらあら、随分取り出しやすい服作ったじゃない!」
「おっと、慌てんといてや。お仲間が来てからの方がえぇんとちゃうの?」
 盗人は不適に笑うと、今にも飛び掛りそうな天道(虎の姿)を制する。
 何を考えているのかは知らないが、自ら敵を増やそうとはどういう意図か?
 やがて鷺宮も含め、待ち伏せ組みが合流して8対1の図式が出来上がった。
「人を見下すのも大概にしてもらおうか。あんたがどれだけ強いか知らないが、この人数差で勝てるとでも?」
「勝てるわい。師匠の考えた戦術ならなぁ!」
 ジョゼの台詞を軽く受け流し、盗人は取り囲まれたと言うのに慌てず騒がず、何かの魔法を詠唱し始めた。
「っ! あの魔法はまさか‥‥! みなさん、あの術を完成させてはいけません!」
「えっ? なになに!? 何の魔法!?」
「攻撃系‥‥というわけではなさそうだけどね」
「アゴニーさんの言う通りよ! なんでもいいからあの魔法を張らせないで!」
「いいや限界やッ! 張るねッ! 今やッ!」
 盗人が黒い光に包まれ、目に見えない障壁が展開される!
「はっはっはー! どや! 高硬度版のホーリーフィールドで身を守り、続けてぇ‥‥ライトニングサンダーボルトのスクロールを喰らいやぁ!」
「危ないです!」
 十文字が雨多川を突き飛ばし、盾をかざして魔法を防ぐ。
 無論ダメージはあるが、盾も無い雨多川に直撃するよりはマシだろう。
「おまえ、おくびょうもの。ルゥナ、叩くだけ」
「無粋なやつだ! 矢なら突破できるか!?」
 ルゥナとジョゼが攻撃するも、青年の2〜3メートル前で障壁に弾かれてしまう。
 障壁を突破できるだけのパワーと武器を持った前衛方が居ないのは、かなり厳しい!
「ムーンアロー! ‥‥じゃやっぱ駄目ぇ!?」
「ちっ、私も駄目だ。鷺宮は?」
「ライトニングサンダーボルトのスクロールじゃ突破できまへん〜! 同じスクロール使い(符術使い?)として負けてられへんのに‥‥屈辱どす!」
 緒環、雨多川、鷺宮の攻撃も障壁破壊はならず、天道(虎)の腕も、十文字のナックルも駄目。
 あと、突破が出来そうなのは‥‥!
「自分が突破できなければ打つ手なし‥‥ですか。しかし!」
 渾身の力を込めて槍を障壁に突き刺そうとするアゴニー。
 しかし境界面に槍がぶつかろうかという時、盗人がスクロールを開いていたのを見て、慌てて離れた。
「完璧や‥‥完璧な戦術や! あとは俺様自信の魔法技術を高めれば恐いもんなしやで! どーれ、あんたらには無力感に苛まれたまま消えてもらおか!」
「馬鹿言わないでよ! そんなにスクロール使ってたら、すぐに魔法力がなくなっちゃうよ!」
「‥‥‥‥(ごにょごにょ)」
「何よ!? 言いたいことがあるならはっきり言ったらどう!?」
「緒環ちゃん、駄目よ! 魔法を詠唱してる!」
 障壁ギリギリまで出てきていた盗人に、つかつか詰め寄る緒環。
 言われて気付いた時にはもう遅く、盗人の術は完成していた。
「ロブメンタルで魔法力をいただきや! 続きましては‥‥!」
 魔法力を奪って少し時間を置き、右腕のポケットからスクロールを取り出して使う!
 どうやらこういう戦闘スタイルをかなり突き詰めてきたらしく、動きに淀みが無い。
「アイスブリザード! っはは、師匠、見たってや! 俺様はここまでやれるようになったんやー!」
 スクロールから発生した吹雪が、ジョゼ、アゴニー、鷺宮、雨多川を巻き込む。
 初級の威力なので一撃で大怪我という者は少ないが、これを何度もやられてはたまったものではない。
「く‥‥こうなれば仕方ありませんね。十文字さん、この槍を使ってください!」
「アゴニーさん!?」
「この中で一番腕力がありそうなのはあなたです! さぁ、早く!」
「え、でも、ルゥナさんは‥‥」
「上手い使い方を説明しなければならなそうなので駄目です!」
「納得‥‥(汗)。では、お借りしますね!」
 言って、槍を受け取る十文字。
 聞いていたルゥナは、なんとなく腹が立ったとかなんとか。
「げげっ、させるかい! トルネードのスクロールやで!」
 突っ込んできた十文字に対し、スクロールで応戦する盗人。
 しかし、この時ばかりは判断がまずかった。
 何も無い平原ならともかく、密度が薄めとはいえ、森には不確定要素‥‥『木』がある。
「ぐっ、枝!? これは‥‥!」
 木の枝に叩きつけられた十文字は、なんとか方向転換をして障壁に槍が当たるように落ちようとする!
 落下速度と十文字の体重も加えた槍の一撃は、見事盗人の障壁を打ち砕く!
 もっとも、上で叩きつけられ、無理な体勢で落ちたりもした十文字はダメージがでかかったが。
「その隙、逃さん!」
「高速ムーンアローもおまけだよ!」
 ジョゼの手裏剣、緒環の魔法で攻撃され、倒れる盗人。
 取り出しやすい服ということは、裏を返せば落っことしやすくもあるわけで、身体のあちこちからスクロールが転げ落ちる。
「あぁっ!? くっ、せやけど逃げな! 残っとるスクロールは‥‥!」
 突如闇が広がり、盗人が居た辺りの視界がゼロになる。
 シャドウフィールドのスクロールの効果が切れた後、そこには誰もおらず、落っこちたスクロールたちだけが転がっていた。
 アースダイブのスクロールで逃げたというのが有力な説だが、依頼人が盗まれた物は全て取り返したので、逃げられても問題は無いだろう。
 かくして、十文字、ジョゼ、アゴニーがスクロールを貰い、事件は幕を閉じた。
 しかし‥‥スクロール泥棒は、未だ捕まっていない―――