新撰組七番隊録 〜謎の金色の岩〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月19日〜10月24日

リプレイ公開日:2005年10月26日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「お久しぶりや〜。大牙城さん、いらっしゃいます〜?」
 京都冒険者ギルドの暖簾を書き分けて現れたのは、浅葱色にだんだら模様が特徴の羽織を纏った男。
 細い目が特徴的な、にこやかな男だ。
「あれ? ひょっとして‥‥谷三十郎さんですか?」
「せや。新撰組七番隊組長、谷三十郎ですわ。君とは初めましてやね。以後よろしゅう」
「あ、はい、よろしくお願いします。ところで申し訳ないんですが、今日は城さん居ないんですよ。というか、最近居ないことの方が多いくらいです」
「ありゃま珍しい。まぁええわ、依頼は大牙城さん抜きでも出来るさかい」
 谷はけらけらと笑って椅子に腰を下ろす。
 なんだか調子の狂う思いがしたのは、冒険者ギルドの職員、西山一海の方だった。
「で、どのようなご依頼で?」
「んー、それがやね。黄泉人騒ぎやら神剣争奪やらで新撰組も何かとばたばたしとってね、ちょいと京都周辺の事件処理が後回しになりがちだったんよ。せやけどご存知の通り、もろもろの厄介事もようやく終わったもんでな、元々のお仕事に専念できそうってわけですねん」
「はぁ。しかし、それなら何故ギルドに依頼を? 新撰組内部で何とかすべきでは‥‥」
「そうしたいのは山々なんやけどなー、人手が足らへんねや。どこの隊も他の隊に人員を貸し出す余裕はないし、七番隊は今、ちょいと怪我人が多くてなぁ。元気なのは組長だけっちゅう体たらくやし‥‥って、別に俺がさぼっとるわけちゃうよ?」
 あくまでにこやかに言うので、困っているように見えないのが難だ。
 八卦衆の炎夜に通じるものがあるこのユルさは、高名な新撰組の組長らしからぬものがある。
「さてさて、具体的に言うとやね、京都の北側ってゆるやかな山岳地帯になっとるやろ? どうもその山の一つで、妙なものが目撃される事件が多発してるんや」
「あ、知ってます。なんでも金色の大きな岩が発見されたとかされないとか」
「そうそう、それや。たびたび目撃される2メートル近い金色の岩‥‥せやけどそれは、全部違う場所で目撃されとる。動かすのはどだい無理な話やから、岩が動いたと見るのが妥当やろ? 動く岩なんちゅうたら、妖怪と疑うのが当然や」
「確かに。じゃあその金色の岩を倒すのが依頼ですね?」
「そうなんやけど、いい妖怪だったり無害な妖怪なら別に退治までせんでえぇねん。無駄な殺生はあかんしね。ま、その岩目当てで山に入ったアホさんが数名行方不明になっとる以上、戦う確率はかなり高いんやけど」
「了解。では谷さんと同行して、妖怪と思われる岩の調査、場合によっては撃破。これで募集かけます」
「よろしゅう。あ、せや、旅先でお土産貰たんやけど‥‥要る?」
「お土産?」
「巫女服らしいで? なんでも、大日本―――」
「あー、その話は長くなりそうなのでまたの機会に(汗)」
「そうか? まぁええわ、あんじょう頼んます〜」
 そう言って、谷三十郎は去っていった。
 ひょうひょうとした新撰組の組長‥‥彼のお仕事に、どうか助力を―――

●今回の参加者

 ea9384 テリー・アーミティッジ(15歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb1530 鷺宮 吹雪(44歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3393 将門 司(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3572 李 玉葉(27歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●探検?
「京都の北部、木々の生い茂る山に、伝説の金色の岩が実在すると言う! そこで我々探検隊は、決死の覚悟でその岩の捜索に当たることにした! そこで隊員たちの見たものはべしがらっ!?」
 新撰組七番隊の組長、谷三十郎は、背中から蹴りつけられて盛大にコケた。
 件の山に入って暫くしたところで、突然妙な台詞を吐いた彼も彼だが‥‥。
「くぉらおっさん、誰が隊員だ誰が。つか、いつ探検隊になったんだ俺らは」
「だからと言って‥‥」
 ごんっ、と鈍い音が響き、今度は拍手阿邪流(eb1798)が地面に突っ伏す。
 阿邪流は陰陽師らしからぬ露出の多い着こなしで、今回のためにわざわざ槌まで用意したと言う武闘派だ。
「他人を蹴り倒していいという事にはならないぞ、阿邪流」
 叩いたのは拍手阿義流(eb1795)で、阿邪流の実の兄である。
 こちらは折り目正しく規則正しく、陰陽師の見本と言ってもいいような佇まい。
 服装からして対照的な二人だが、やはり性格も正反対のようだ。
「どうでもいいけど、谷さんって本当に気さくって言うか‥‥ユルいよね。新撰組の組長さんって、もっと恐くて厳しい人たちばっかりだと思ってたよ」
「あっはっは、新撰組も意外と楽しい人が多いで? まぁ、俺は一等変わっとるやろけど」
 ちょん、と谷の頭の上に乗っかって呟くのは、テリー・アーミティッジ(ea9384)というシフール。
 その飛行能力を生かして偵察役を受け持つことが多いが、戦闘中も魔法で支援してくれるウィザードだ。
 それはともかく、笑ってすぐに立ち上がるあたり、谷の復活の速さが窺える。
「いや、谷さんはオモロイ人や。巫女服も気前よくくれたりするあたりも太っ腹やし」
「うふふ‥‥そうですわね。私など自分の分と娘の分の二着いただいてしまいましたから、申し訳ないくらいです」
「あー、所詮貰いもんやし、あない仰山あっても使い道ないし。欲しい人に使うてもろたほうが巫女服も喜ぶやろ」
 実は体のいい厄介払いもかねていたのだが、意外と巫女服を欲しがる人間が居なかったのが誤算だったのだろう。
 希望した将門司(eb3393)と鷺宮吹雪(eb1530)に喜んで進呈し、余った分はまだ谷の家に置いてあるとか。
 将門は華国出身で武闘着ばかり着ているという妻に着せるため、鷺宮は自分と娘で着る為に希望したと言うから微笑ましい限りである。
「あの‥‥ところで、この辺ですよね? 今朝、金色の岩が目撃されたと言うのは」
「おー、せやな、そろそろやろ。皆さん方はなんか見えます?」
 李玉葉(eb3572)は華国出身の僧侶。
 たおやかで物腰が柔らかく、料理を作って食べさせるのが好きで、おっとりしていて常にマイペース。
 そのわりに三度の飯より酒が好きという、なんとも愛すべきキャラクターである。
 谷の言葉に全員が周辺を見回すが、とりあえず金色の物体は目に付かない。
「三十郎よー、本当に金色の岩なんて実在するのか? 正直かなり疑わしいぞ」
「うーん‥‥いちおー間違いは無いはずなんやけどなぁ。鷺宮さん、ブレスセンサー頼めます?」
「はい、了解です」
「僕もバイブレーションセンサー使ってみるね!」
 鷺宮とテリーが魔法を発動し、周囲100メートルを索敵する。
 すると‥‥。
「んーとね、こっちには反応無いよ」
「こちらにはありましたえ。50〜60メートル離れたところに、人間大の反応が一つ」
「ふむ、場所的にも人数的にも、ただの人間ではないでしょう。行ってみましょうか」
「賛成や。巫女服の分、えぇ仕事せんとな」
「では皆さん、急ぎましょう」
 李の促しに従い、全員一旦散って岩を探しに掛かった―――

●岩の正体
「そして探検隊はついに金色の岩を発見した! そのしょうたいべらぼっ!?」
「やめろっつー‥‥にぃっ!?」
「お前もだ、阿邪流。二人揃って進歩の無い‥‥」
 岩を発見した一行は、慎重にその距離を縮めていた。
 その緊張感に耐えられなくなったのか、三十郎がボケ、阿邪流が蹴ってツッコみ、阿義流が殴ってツッコむという、先ほどもやった流れをまた繰り返す。
「くすんくすん。戦う前から怪我してもうた」
「‥‥俺もだ」
「き、緊張感ありませんわね‥‥本当に」
「良いか悪いかの論議は後回しにして、問題の岩があるんや。気ぃ引き締めよか」
 将門の台詞に、全員が頷く。
 李にグッドラックの魔法をかけてもらった一同は、戦闘準備万端の姿勢で臨む。
 本当にキラキラと金色に輝く物体に近づいてみると、それは妙に湿っていて硬い。
「確かに岩みたいにも見えるけど‥‥生物だよね?」
「わかってんなら無闇に触るなよ。こういうのは、後腐れないように一気に砕いた方がいいぜ」
 テリーが岩に降り立ったのをひょいと掴み取り、阿邪流が谷にパスする。
 そして手に持っていた槌を振り上げ‥‥岩に叩きつける!
 ごずっ! と鈍い音がしたと同時に、なんと岩が立ち上がった!
「こ、これは‥‥蟹ですか!?」
「金色の大蟹やと!? いや‥‥一回り小さくて山にいるから、大沢蟹とでも言うんかいな!?」
「あ、あっはっはー、円盤動物みたいやね。擬態っちゅーっかなんちゅーか」
 寝ていたのかは知らないが、いきなり槌で軽傷ダメージを受けた金色蟹は、いきり立って激しく鋏を振り回す。
 すかさず谷と将門が前面に出て、大沢蟹(金)の攻撃を受け流しに回った!
「や、やっぱり戦わないと駄目だよね!? なら‥‥アグラベイション!」
「俺はシャドウバインディングの巻物への準備をしましょう」
 テリーの魔法で動きを鈍らせた大沢蟹(金)だったが、意外と動きは俊敏で、谷や将門の攻撃を避けたりもする。
 攻撃の方はあまり精度が高くないが、鷺宮が鉄扇で受けるには難しいと判断、後方に下がってもらっている。
 無論、李は最後方で応援だ。
「兄貴、影縛りはまだかよ?」
「‥‥すまない、フレイムエリベイションの巻物の発動に失敗したから、もう少し掛かる」
「ちぇっ、肝心な時に。まぁいいや、せっかく買った槌だ。やらせてもらうぜ!」
 阿邪流も前衛に参加し、槌で攻撃を試みる。
 が、大沢蟹(金)はやはり素早く、阿邪流の腕では当てることすら難しいだろう。
「むー、鷺宮さん、ストーム撃てます? ちょいと時間稼ぎしてみてくださいな」
「谷さん‥‥それは構いませんが、谷さんや将門さんも吹き飛んでしまう可能性が‥‥」
「こっちは自力で耐えるさかい、撃ってくれ! 阿義流はんの巻物が発動すれば勝ちなんや!」
「あ、俺はパス。予め逃げておくからさ」
「将門さんに阿邪流さんまで‥‥。わかりました、任せておくれやす!」
 三人が大沢蟹(金)を食い止めているうちに、鷺宮がストームの魔法を詠唱し、発動する!
「ストーム‥‥吹き飛ばしますえ!」
 猛烈な風が巻き起こり、射角から外れていた阿邪流以外の、谷、将門、大沢蟹(金)を吹き飛ばそうとする!
 将門は地面に伏せてギリギリ堪え凌ぎ、大沢蟹(金)は鋏をクロスさせるようにして耐えてしまう!
 ちなみに、谷はと言うと‥‥。
「あ〜れ〜」
 ごろごろごろ〜、と派手に15メートルほど転がり、近くにあった川に落ちていた。
「谷さんだけ吹き飛んでどないするんどすかぁぁぁぁ!」
「あっはっはー、えろぅすんまへん〜」
 すっくと立った谷だったが、ずぶ濡れであちこち汚れてしまっている。
「‥‥俺思うんだけどよ。三十郎って本当は弱いんじゃねぇの?」
「気が散るから黙っていてくれ。‥‥よし、いける!」
 阿義流がフレイムエリベイション、シャドウバインディングの両スクロールの発動に成功し、大沢蟹(金)を捕えた!
 大沢蟹(金)は完全に動きを封じられ、もがくことも出来ずにその場に固まる。
「これで勝負ありですね。あとは効果が切れる前に倒してしまわないと‥‥」
「李さんの言う通りや。ざっつびきんざきりんぐたーいむってやつやね♪」
 戻ってきた谷が左手に持っていたものは‥‥。
「うわわわわわわっ! が、骸骨!? ボーン!? スケルトン!?」
「川底に沈んどったんよ。きっと行方不明者のなれの果てやろなぁ。お気の毒に」
 後ずさるテリーを尻目に、頭蓋骨を地面に置き、すっと大沢蟹(金)に向き直る谷。
「悪いんやけどちょっと任せてな。とどめは阿邪流さんに任せるさかい」
「あ? あぁ‥‥まぁ好きにしろよ」
「おーきに。んでは‥‥新当流槍術、牙の段。『一刺・瓦礫崩し(いっし・がれきくずし)』」
 十文字槍による、ポイントアタック+スマッシュEX。
 相手が動けないことをいいことに、普段やらないような大技を蟹のどてっ腹にぶちかます谷であった。
 大沢蟹(金)は一撃で重傷になり、あとはちまちま叩いていていくだけでも充分倒せるだろう。
「‥‥恐ぇー。あんだけニコニコしてやることかよ」
「それだけ腹に据えかねたのだろう。人を何人も犠牲にしたあの蟹を、谷さんは許せなかったと」
「はー、しかしごっついわ。谷はんを怒らすんはやめとこう(汗)」
 結局、谷の言葉どおり、とどめは阿邪流が槌で行った。
 行方不明者もいずれ近隣の村が弔うということで、一同は手を合わせただけでその場を後にする。
 帰り道、鷺宮や将門、テリーと巫女服談義をする谷の表情はいつもと変わらない。
 だがなんとなく、李と阿義流の二人は、谷の笑顔の裏を感じ取ったような気がしたのだった―――