丹波山名の八卦衆『雷の巻』
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:8人
冒険期間:10月31日〜11月05日
リプレイ公開日:2005年11月07日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「さて、ここで問題です。みなさんは『雷使い』って聞くとどんなイメージがあります?」
「獅子座」
「勇者ッ!」
「‥‥すぐたれたりトランスしたりする」
「うーわー。どれもこれも参考にならない回答ばっかりですね」
京都冒険者ギルドの一角は、本日いつにも増して姦しかった。
ギルド職員である西山一海の質問に対しての、彼の友人たちの答えは実にユニークである。
「それはともかく、反乱の首謀者である山名烈斬こそ取り逃がしたものの、現城主側が反乱軍を見事鎮圧し、争いに決着は付いたわけです。反乱に加担した家臣たちも、降格などのお咎めはあったようですが、命までは取られなかったそうで何よりですね」
「うむッ、まったくだッ! そして今日、全てに幕を下ろすため、山名烈斬捕縛の依頼が持ち込まれるというッ! 無論、八卦衆最後の一人、『雷』の名を持つ方が来訪されるとのことッ!」
最近ギルドの業務をサボりがちと噂の職員、大牙城。
虎の覆面とマントもいつもどおりで、特に体調が悪いと言うわけでもないようだが?
「‥‥で、なんで私たちまでいなきゃいけないのよ。凄く面倒」
「そう言うな。どうせ依頼補助を頼まれるのだ、依頼人に会っておくのも悪くはないさ」
こちらは京都の便利屋、藁木屋錬術と、その相棒であるアルトノワール・ブランシュタッド。
一海に頼まれて(押し付けられて、と言った方が正しいか)、依頼の情報収集をすることが多い。
大牙城が姿をあまり見せなくなってからというもの、この4人が一堂に会するのは久々のことであった。
「で、話を戻しまして‥‥雷の人はどんな性格でしょうね。雷魔法の派手さから鑑みるに、暗い人かなーと思うんですが」
「案外ノリのいい芸人気質かもしれないな」
「‥‥守銭奴じゃない?」
「あいや暫くッ! ここはやはり正義に燃える漢と見たッ!」
まぁそんなこんなで、彼らが推論や憶測を並べていた時だ。
「そなたが大牙城だな。そして、そちらは西山一海。何でも屋と名高い藁木屋たちもご同席とは、手間が省ける」
爽やかな青年という言葉がしっくりくる、妙に姿勢のいい男。
初対面の人間を呼び捨てにしたり、口調が偉そうだったりするが、なんとなく許せてしまうような人物である。
「お、噂をすればなんとやら。あなたが丹波から来た人ですね♪」
「うむ。なんとか余裕も出てきたからな‥‥お忍びで参った。すまんがそこの女人、茶を一杯貰えるか?」
どかっと椅子に座って、アルトに茶を無心する青年。
当然と言うか、アルトは完全に無視。自分に言われているとはこれっぽっちも思っていないのだろう。
「どうした、聞こえておらんのか? そちに言っておるのだが」
「‥‥なんか言った?」
「だから、茶を頼みたいと言って―――」
ひゅんっ、どすっ!
青年の言葉を遮り、アルトの投げた縄金票が彼の足元ギリギリに突き刺さる。
これには流石の青年も肝を冷やしたのか、椅子ごと後退していた。
「‥‥‥‥なんか言った?」
「‥‥い、いや、何も‥‥」
「なるほど、また違った意味で面白い人ですね、雷の人は。ちなみにお伺いしてませんでしたけど、お名前は―――」
「しっ。一海君‥‥何か聞こえないか?」
「へ? ‥‥‥‥いえ、何も」
「いや‥‥聞こえるッ! 漢の熱き魂の叫びがッ!」
一海にはギルドの喧騒しか聞こえないが、藁木屋と大牙城には別な何かが感じ取れたらしい。
しばらく音を探っていると、『ドドドドドド』という馬が走るような音が。
「‥‥‥‥‥‥‥‥〜!」
「あ、聞こえました聞こえました。なんだか焦ったような声が‥‥」
「‥‥来るわね」
「は?」
そう、一海が呟いた瞬間だ。
「若様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! お一人で京都まで赴かれるなど言語道断んんんん! ご時世とご身分をお考えくださりませぇぇぇぇぇぇっ!」
ばきぃっ! がしゃがしゃーん!
冒険者ギルドの壁をぶち抜いて、一頭の戦闘馬と、それに乗った髭の老人が一人現れる。
老人は戦闘馬を止まらせると、さっと降りて、椅子に座ったままの青年に泣きついた。
「本日ここへ来るのはこのワシだったはずですじゃ! それを‥‥あぁもう、何故そういうことばかりなされるか! そんなにこのじいを困らせて楽しいですか!? この雷の『電蔵(でんぞう)』、若様が幼少の砌よりお世話を仕っておりますが‥‥元服なさって数年、どうか少しは安心させてくだされぇぇぇ!」
「で、電蔵‥‥もう追いついたのか。砂羅鎖め、黙っていろと言ったのに」
「ようやく反乱も収まり、藩内の復興に力を注がねばと言う時になんたることを! よいですか、このような雑務は、我々八卦衆が‥‥!」
「あ、あのー‥‥お取り込みのところ、ちょっとよろしいですか?」
「なんじゃ小童! 今大事なところなのじゃ、黙っておれいっ!」
「ひーん、城さーん!」
凄まじい迫力の電蔵の一喝で、一海はあっさり大牙城の後ろへ逃げ出す。
「‥‥五月蝿いわね。話が進まないじゃない」
見かねたのか、アルトノワールがつかつか二人に近寄り、少しばかりの強攻策を取った―――
「改めて自己紹介しよう。余は丹波藩当主、山名豪斬だ」
「八卦衆の一人、雷の電蔵じゃ。‥‥まったく、これだから外国の女子は暴力的でいかん。やはり女子は、慎ましやかな大和撫子に限るわい」
「やめんか電蔵、また余まで殴られる(汗)」
見れば豪斬、電蔵共にたんこぶが出来ていたりするが‥‥それはまぁ置いておいて。
「ごほん。よいか、今回の依頼は‥‥山名烈斬の捕縛だ。潜伏場所はすでに旋風が調べた。‥‥とある廃寺に潜んでおるそうだから、生かして余の前に連れてきて欲しい」
「よいか、反乱の首謀者とはいえ烈斬様は丹波家の血統であり、豪斬様は御兄弟を下々の者に討ち取られてしまうのは忍びないと思われておるのじゃ!」
「馬鹿を申すな。多くの家臣や民を死なせ、危険に晒した張本人だぞ。ただ武家の作法にのっとり、切腹させて責任を取らせる‥‥それだけだ。なんなら余自らが介錯してやってもよいぞ。不貞の弟に引導を渡してくれる」
「おぉ、若様‥‥そのような心にもないことを!」
「うむッ! 実に麗しき兄弟愛! しかしそれを表に出すことを、当主たる立場がそれを許さぬッ! なんと哀しく、熱き話ッ! この大牙城、感動仕ったッ!」
「‥‥無視してよいか?」
「どうぞ。というか伏してお願いする」
自分の世界に入る電蔵と大牙城は無視し、藁木屋が話を促した。
「烈斬は極少数の配下を連れている。最後まで烈斬に付き従おうとするもの達だ‥‥腕も心根も相当なものであろう。魔法を使う者は居ないが、団結力も個々の強さも折り紙つきと言っていい。その渦中にあって烈斬を生かせと言うのは酷かも知れんが‥‥すまん、頼むとしか言いようが無いのだ。‥‥丹波の争いに、今度こそ終止符を打ってくれ」
暫くして、山名豪斬は電蔵と共に帰っていった。
その背中にどこと無く哀愁が漂っていたような気がするのは、一海だけではあるまい。
「‥‥っていうか‥‥壁、どうしてくれるんですか‥‥」
その答えを返してくれるものは、一人もいなかったが―――
●リプレイ本文
●本日は‥‥
丹波藩内、某所の森。
人喰樹が出たり、堕天狗党の騎士が潜伏していた寺があったりと、色々曰くのある地域である。
濃霧が発生しやすい場所でもあり、付近の住民でさえ霧が濃い日は森に入るのをためらうとかなんとか。
そして、本日の天候はといえば。
「見事なくらい雨ですねぇ。というか、豪雨です‥‥(泣)」
「この時期の雨は流石に厳しいなぁ。熱い風呂に入りてぇ」
フィーナ・グリーン(eb2535)とバーク・ダンロック(ea7871)の二人‥‥即ち、鎧や兜やらで重武装した面々でさえ、出発の時点から降り続いて止まない雨に辟易としていた。
生憎足の遅い台風が近づいているらしく、雨風は共に強い。
森の中で傘を差して歩くのは億劫だし、傘が警報装置に触れては目も当てられないので、一行は雨に打たれながらの行軍となっているのである。
「これは参ったでござるな‥‥風邪を引きそうでござる」
「いやはやまったく。雨天延期と行かないのは厳しいな」
「仕方ないだろう、これも仕事だ。私は丹波家の家臣だから、尚更雨だから云々は言っていられない」
香山宗光(eb1599)の台詞に、能登経平(ea9860)が軽口を挟むが、それは全員が少なからず思っていることだ。
黒畑緑太郎(eb1822)のように丹波家の家臣ともなれば、上からの指示にあまり文句も言えないのが悲しいが。
「けど真面目な話、この雨はまずいね。身体が冷えて全力が出し切れないかもしれない」
「‥‥火を起こす訳にも行かないしね。遠目からでも一発で発見される」
「‥‥というより‥‥雨で、消火‥‥されちゃうと思う‥‥」
来須玄之丞(eb1241)、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)、幽桜哀音(ea2246)の三人も、寒さがかなり身に染みてしまっているようで、吐く息が白い。
悪いことは続くもので、天候が悪い上に森の中とあり、昼間だというのにかなり暗い。
真っ暗闇というわけではないが、はぐれると視認は難しいだろう。
「まったく、最近の若いもんはだらしがないわい。わしを見ぃ! この程度の寒さなど、なんでもないわっ!」
「‥‥後で『神経痛だ』なんて言わないようにね。足手まといはごめんよ」
「口の減らん女子じゃな、相変わらず‥‥」
丹波家家臣、八卦衆・雷の電蔵の言葉に、半分嫌々付いて来たアルトノワール・ブランシュタッドが減らず口を叩く。
いくらアルトが強くても、正直電蔵相手では、勝ち目はないと思われるが。
兎に角、一行は目標の寺へと歩を進める。
様々な想いを胸に‥‥冷たい雨を、その身に受けながら―――
●遭遇戦
「誰だ!? 合言葉を言え!」
薄暗い森を進み、もう少しで件の寺へ着くかという頃。
その声は、前方から響いてきたものだった。
どうやら烈斬配下の武者二人連れらしく、すでに刀に手をやった気配がした。
「‥‥誰か‥‥合言葉、知ってる‥‥?」←小声
「知るわけないでござろう」←小声
当然、冒険者たちはそんなものは知らない。
こちらの人数が10人ほどまでとは気付いていないのか、武者たちはまだまだ警戒したままだ。
と、そんな時。
「合言葉」
「‥‥は? 何言ってんだ、能登」
「だから、正解は合言葉だろう? 合言葉っていうのは、両方が連続で言う場合が多い。山・川とかな。なのに向うは『合言葉を言え』としか言わなかった。それはつまり、連続で言う必要が無いことを意味する。よってこの場合、一番可能性の高い回答は『合言葉』だ」
バークの質問に、合理的な考え方を常とする能登が答える。
理に適った解説に、冒険者たちはおろか武者たちまで納得する。
「‥‥やるね。よくこんな短時間で思いついたもんだよ、まったく」
「本当ですねぇ。で、正解はどうなんですか?」
フィーナが目を輝かせて言うと、武者たちが笑顔で頷いた‥‥ような気がした(暗いからよく見えない)。
が、次の瞬間。
「冒険者だぁぁぁっ! 敵襲ですぞ烈斬様ぁっ!」
「‥‥あ、バレた」
「バレいでかっ! こちらの仲間がそんなにぞろぞろ仲間を連れて歩いているわけがあるかぁぁぁっ!」
「そりゃそうだ。雨に濡らしたくなくて、折角借りたブレスセンサーのスクロール使い渋ったのがまずかったか!」
双方戦闘状態に入るが、臨戦態勢にあった武者たちの方が斬り込みが速い!
「甘いわい。『崩雷鳥』」
ずがぁぁぁんっ!
電蔵の、高速詠唱による高威力版ヘブンリィライトニング。
武者の一人を即刻重傷にして、雷は終息する。
「‥‥恐ろしい威力だ。あたしたちでも重傷確定か‥‥」
「ほっほっほ、これがわしの実力よ」
もう一人の武者は、流石に突っ込むことをためらったのか、じりじり後退していく。
その背後から、数人の人間の気配がする‥‥!
「あれは!?」
「電蔵殿、まさかあれが‥‥」
「‥‥そうじゃ。山名烈斬‥‥その人じゃよ」
鎧武者を率いた男。その顔は、山名豪斬とあまりに似ている‥‥!
山名豪斬・烈斬が双子の兄弟だということは、世間にはあまり知られていない。
「‥‥何故出てくる。部下の声を聞いていなかったわけではないだろう。理解に苦しむ」
「あぁ。だからこそ出てきた。お前たちを説き伏せるためにな」
「‥‥無駄よ。何を言われようと考えは変えない。少なくとも私はね」
「まぁ聞け。よいか、豪斬の保守的な政治では丹波に未来は無い。平織に組し、野心も持たずでは、我が藩の繁栄など底が見えるというもの。まずは平織を良しとせぬ者たちに檄を飛ばし、平織を討ち、京都近辺の地位を固める。そしてゆくゆくは、源徳さえも討ち砕き、日本に山名家が覇を唱えるのだ。そうすることで、丹波は真に栄え‥‥民草も豊かに、安心して暮らせることであろう。そのためには、この山名烈斬こそが丹波家を背負うに相応しい。豪斬のような腰抜けでは、丹波はいずれ強者に踏み潰されるわ!」
雨の中、烈斬の檄が響き渡る。
それを聞き終えた冒険者たちは、しばし考えて‥‥だがすぐに結論を出した。
「だとよ。丹波家家臣の黒畑、おまえさんの意見はどうだ?」
「決まっている。‥‥山名烈斬殿、ご同道願う」
「何故だ‥‥何故余に傅かぬ! 貴様ら全員同じ意見か!?」
「‥‥当然だね。あんたは本当に民のことを思っちゃいない。民を理由に、自分の野心を満足させたいだけさ」
「ふ‥‥残念だ。山名烈斬‥‥もう少し徳のある人物かと思っていたけど、あたしの見込み違いか」
「おのれ‥‥所詮下賎の者に余の考えなど理解できぬわ! かかれぃ!」
「覚えておくがいいでござるよ。その台詞は、典型的な独裁者の台詞であるということを!」
薄暗い中での決戦。
待ち伏せ班・本隊といった当初の作戦は完全にご破算だが、世の中いつも打ち合わせどおりに行くとは限らない。
要は、その時その時全力で挑む姿勢が大事なのだ。
「‥‥愉しい戦いにしよう」
「よっしゃ、見つかってんなら話は早ぇ。オーラボディで防御力アップだぜ!」
烈斬の部下たちは、正直強かった。
各人スタンダードな武装に、スマッシュやシュライク、ポイントアタックといった技を駆使し、生半可な腕の冒険者ならば圧倒されていただろう。
だが生憎と、この依頼を受けた面々は生半可な腕ではなかったのだ。
「フッフッフッ‥‥魔法が使える‥‥。ムーンアローは避けられまい!」
「私の攻撃は、ちょっと痛いですよ!」
黒畑、アルトノワールの遠距離攻撃を援護とし、前衛部隊が切り込むスタンダードな陣容。
暗くて視界が悪い上、乱戦模様となっているため、バークのオーラアルファーは封印中。
冒険者側もかなり手痛い傷を受けている者もいるが、そこはそれ、後で丹波藩お抱えの僧侶が回復してくれるはず。
「こうなれば仕方ないのぅ。やぁやぁ遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは八卦衆、雷の電ぞ‥‥おぉぉぉぉっ!?」
ごきり、と嫌な音がしたような気がした。
見れば電蔵が蹲って、『ぎ、ぎっくり腰じゃ』などと呟いている。
「‥‥この緊迫した場面に、このじいさんは‥‥」
「‥‥年寄りの‥‥冷や水‥‥」
「やれやれ‥‥まぁいい、その穴はこの来須玄之丞が埋めてみせる」
電蔵が役に立たなくなってしまったので、仕方なくバークに任せて放置。
他の面々は、協力して一人ずつ確実に烈斬の配下を倒していく!
「何故じゃ‥‥何故天は余に味方せぬ! この烈斬のどこが悪いと申すのだ!? 余は‥‥!」
「眠らせる前にお教えしよう。あなたの思想は‥‥誰にも優しくない。民にも‥‥そして我ら家臣にも」
黒畑の高速詠唱スリープで、烈斬はあっけなく意識を失う。
後は、倒れている部下ともども縄で縛り、護送して任務は終了だ。
終わってみれば、烈斬側死者2名、冒険者側負傷者多数なるも死者はゼロであった―――
●新進気鋭
「黒畑緑太郎。そちは我が藩の家臣に志願し、此度の反乱を収めるべく尽力してくれた。この山名豪斬、礼を言うぞ。すべての八卦衆と関わり、すべての依頼をこなしたそちに、褒美を用意した。スクロールをいくつかと‥‥『八卦召』の称号だ。これは冒険者ギルドで依頼を受ける時、八卦衆の誰かを応援として呼べる権利を持つ者のこと。だが、それも少し制約がある。まず、京都冒険者ギルドの依頼でなければならないこと。そして、西山一海が担当する依頼でなければならないこと。そして、希望した八卦衆が必ずしも暇だとは限らないことだ。それらを熟知し、そちの力と共に、丹波の力で人々の平和を守ってやってくれ」
細かいことは藁木屋錬術にでも聞けと言い、山名豪斬は謁見の間から席を外した。
そして‥‥山名烈斬処刑の報が京都にまで知れ渡ったのは、それから3日後であったという―――