爆走! 隠れサバイバル鬼ごっこ!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:9人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2005年11月27日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「はーいみなさん! お待ちかねの方はお待たせいたしました! 知らない方は是非聞いていってください! とある貴族さんの気まぐれとくだらないプライドで開催されるお遊び企画、サバイバル鬼ごっこが帰ってきましたよ〜!」
 わざわざ用意したのか、小型の太鼓を叩いて騒ぐ西山一海。
 京都冒険者ギルドの職員である彼は、こういう馬鹿騒ぎが大好きであった。
「何気に非道いことを言っているとわかっているかね?」
「事実です。知ったこっちゃありません!」
 京都の便利屋であり、一海の友人でもある藁木屋錬術がツッコミを入れても、そのテンションは落ちない。
 最近暗いニュースが多かったため、鬱憤が溜まっていたのだろう。
「さてさて、実はちょっとルールが変わりまして‥‥今までは貴族のお抱え傭兵集団と追いかけっこしてたわけですが、今回はなんと参加者の皆さんだけで追いかけっこをしていただくことになるようです。まず遊戯開始前に、全員に1〜8までの数字が書かれた札を選んでもらい、自分の取った札の裏に『逃』と書いてあったらその人がターゲットとなります」
「‥‥読めたぞ。残りの7人はその一人を追いかけ、札を奪わなければならない。つまり、制限時間である24時間の終了時に『逃』と書かれた札を持っていた者の勝ちというわけか」
「ご名答♪ これは大変効率的かつえげつないルールでして、最初に『逃』の札を取った人は、その瞬間から『バレないこと』を意識しないといけません。いくらバラバラの地点からのスタートとはいえ、目指す人が分かっているのと分かっていないのとでは雲泥の差がありますからね」
「他の7人は、自分以外の全員に『逃』の札を持つ可能性があるということ。片っ端から捕まえるのも良いが、時間と体力が掛かりすぎる。かと言って『逃』の札を引いた者は、他の7人全員から付け狙われる可能性があるから、消耗が激しい‥‥か」
 今回、貴族が雇ったシフール8人が審判役として上空から監視に当たる。
 無論、審判の位置で参加者の位置がバレないよう、隠れながらの追尾だ。
 が、それ以外はノータッチであり、誰が勝とうが負けようが貴族の名に傷はつかないし、ただ単に貴族が必死になる冒険者たちを見て悦に入るだけの依頼である。
「けどまぁ、参加することに意義があるんですよ。主催者の捻くれた思惑なんて無視して、競技を楽しめばいいんです♪」
「まぁそうなのだが‥‥このルール、致命的な欠陥がある」
「と言いますと?」
「最後に『逃』の札を持つ者が優勝なら、一旦札を奪っても再奪回される恐れがあるだろう? エスカレートすれば軽い戦闘状態に入るのではないかと思うが」
「その辺は大丈夫です。札を渡す条件が『発見した参加者の名前を呼ぶ』ですから。呼ばれた人は無条件で札を渡し、その場に居合わせた人もろとも5分待機。時間が過ぎたら再出発というシステムだとか」
「‥‥それは鬼ごっこというより、かくれんぼではないか?」
「隠れサバイバル鬼ごっこですから」
「わかったようなわからんような‥‥。とりあえず、いままでの流れを纏めるぞ」

一つ:山一つを舞台とし、丸ごと全域をフィールドとする。一歩でも山から出たら失格となる。
二つ:開始時に各々札を引き、裏に『逃』と書いてある札を制限時間である24時間後まで持っていた者が優勝。再奪回や横取り、お邪魔上等。
三つ:疾走の術や馬等、移動スピードを上げる術や道具は禁止。また、今回から韋駄天の草履等、体力を温存して長距離移動できるような道具類も禁止となる。飛行またはそれに属する魔法も禁止。ただし、シフールの参加者の飛行は地上2メートルの高さくらいまでは許可される。
四つ:他の参加者を見つけても、攻撃してはならない。発見し名前を呼べば札を受け取れ、5分間の逃走猶予が得られる。万一攻撃行動があった場合、審判に見つかり次第失格。
五つ:遊戯開始前に件の山に立ち入ることを禁ずる。前準備して罠などを仕掛けるのは不公平であるため。
六つ:魔法で穴を掘り、隠れるのは禁止。
七つ:優勝者には、30G以内なら希望する賞品を任意に選べる。スクロールでも武器でも防具でも、30G以内であればOK。ただし、現金は駄目。

「‥‥改めて思うが、あざといルールだ」
「どんなドラマが生まれるか楽しみですねぇ」
「参加者が集まれば‥‥な」
「足りなきゃ私や藁木屋さん、アルトさん、城さんででも参加しましょう♪」
 なんだかんだで名勝負が生まれているサバイバル鬼ごっこシリーズ。
 さて‥‥今回のルールの下では、どんな頭脳戦が展開されるやら―――

●今回の参加者

 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea3610 ベェリー・ルルー(16歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9860 能登 経平(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1655 所所楽 苺(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

物部 義護(ea1966)/ 佐上 瑞紀(ea2001)/ クライドル・アシュレーン(ea8209)/ フィン・リル(ea9164)/ 綿津 零湖(ea9276)/ セレン・ウィン(ea9476)/ 笹林 銀(eb0378)/ フィーナ・グリーン(eb2535)/ 牙道 だけど(eb3831

●リプレイ本文

●本日は晴天なり
 某月某日、晴れ。
 数々の名勝負(?)が繰り広げられた京都の山で、再び激戦が繰り広げられようとしていた。
 ルールを少しずつ改定しながら続けられている鬼ごっこシリーズも三回目とあり、過去に参加したことのある顔ぶれも混じっていたりする。
 そして、今回の参加者は以下の通り。

ゼルス・ウィンディ(ea1661)
ベェリー・ルルー(ea3610)
マグナ・アドミラル(ea4868)
水葉さくら(ea5480)
楠木麻(ea8087)
風月明日菜(ea8212)
能登経平(ea9860)
所所楽苺(eb1655)

 今回からは体力や接近しての触る触らないの得て不得手がほぼ関係なくなったためか、女性の参加者が多いく、華やかでよいことである(何)。
 兎に角、8人は前述の順番で札を取り、各々誰を狙うべきか考えながらスタートを切る‥‥はずだったのだが。
「あ、『逃』、引きましたです‥‥」
 水葉が自分の札を確認した途端そう呟いたので、誰をまず狙うべきかあっさり割れてしまったのである。
 一応スタートはバラバラの地点からだが、水葉の天然ぶりは清々しささえ感じてしまう。
 やがて一同はスタート地点に散り、24時間の耐久鬼ごっこが三度始まる―――

●備え
「なんだかすごい人たちばかりなのだー‥‥で、でも頑張るのだ!」
 周囲を確認しながら散策する所所楽は『少しでも何か見えたら隠身の勾玉を使い気配を消し、障害物に隠れながら移動し近づき、声をかける』という作戦を取っている。
 自分は追う立場なので、一箇所に留まっても意味は無いと思ったか、積極的に移動している。
 11月末の京都は昼でも肌寒く、夜に行動するのは得策でないから正解だろう。
 そして枯葉を踏みしめて歩いていたその時だ。
 ガサガサと音を立て、目の端に黒い影が映る。
 向うも所所楽に気付いたのか、さっと木の陰に隠れてしまったので、男か女かさえ定かではないが‥‥。
「だ、誰なのだ! どっちみちおいらは『逃』の札を持ってないのだー!」
「‥‥そうだな。だが、俺の考える合理的な策では充分意味はある」
 そう言って木の陰から姿を現したのは‥‥!
「‥‥誰なのだ?(汗)」
 ゴースト変装道具を纏っているらしく、パッと見誰かさっぱりわからない。
 かろうじて声から男だろうと推測できるのみ。
「その口調は所所楽苺か。まぁいい、札を渡して貰おう。なに、意図的にふらついてもそうそう目的の人物には会えないだろうからな‥‥出くわした参加者の札を虱潰しで奪う。これが合理的だ」
「うぐ‥‥し、仕方ないのだ。でも、その口調‥‥能登さんなのだ?」
「まぁな。では俺はもう行く。お前もせいぜい頑張れ」
 所所楽のハズレ札を受け取り、能登はさっとその場を後にする。
 5分経った後、『よぉ〜〜〜し、逆転目指して頑張るのだー!』という木霊が響いたのは言うまでもない―――

●知将、立つ
「必要なのは最後に『逃』の札を持っている事ですし、まずは‥‥っと」
 類稀な知力を誇るゼルスは、まず風を避けられそうな大きな木や草むらのあるところにテントを張り、バックパックの荷物もそこに置いて、キャンプを設立。
 水場の確認もしっかりしたあと、キャンプを拠点にふらふらと目的なく捜索していた。
 たまにブレスセンサーなどを使って索敵しているが、ここ数時間、他の参加者とは遭遇していない。
「うーん‥‥思ったより退屈ですね。そろそろ日没とはいえ‥‥あら?」
 ふとゼルスが足を止める。
 枯葉などが多く地面が露出している部分は少ないが、何やら多数の動物の足跡が。
「‥‥なるほど。これは使えそうですね」
 そう言って、ゼルスは注意深く足跡の続く方へと向かった。

「みんな集まってくれてありがとう♪ これを食べて僕のお願い聞いてくれないかな?」
 メロディーで動物たちを集め、さらに保存食での餌付けを試みているのは、ベェリー。
 主に寝る場所や隠れる場所の確保、及び偵察要員を頼みたいらしい。
 動物たちは快く応じてくれるようで、後は札を奪取してくるだけだろうか。
 と、そんな時である。
「ベェリーさん‥‥でしたね。申し訳ないのですが、札を頂戴に参りました」
「えっ‥‥ぜ、ゼルス君‥‥だっけ。どうしてここが‥‥!?」
「動物の皆さんに協力を仰ぐという作戦は素晴らしかったのですが、動物さんたちは足跡を気にしていなかったようですよ。あれでは追ってくれと言うようなものです」
 不自然な大量の足跡があれば、他の参加者が何かしたと考えるのが妥当。
 動物を集められるような可能性があるのはベェリーだけだとすぐに思い当たったゼルスであった。
 なお、ベェリーは5分経ってすぐにゼルスを追ったが、その姿は一行に見あたらなかったという―――

●身軽で行こう
「‥‥いいのか? こんなにあっさり札を渡してしまって」
「いいのいいのー♪ どうせハズレ札だしー、最後に『逃』の札があればいいんだよー♪」
 夕暮れ時、マグナが誘き寄せとして発していた木を切る音や焚き火の煙などに引かれ、風月はあっけなく札を取られた。
 パタパタと手を振って笑う風月に、どうも調子の狂うマグナであったが‥‥一先ずこの場は退散することにする。
「さて‥‥本命のお嬢ちゃんを探さないといかんか。できれば夜になる前に見つけたいがな」
 体力には自信のあるマグナだが、流石に一日中動きっぱなしというわけには行かないし、何より寒い。
 睡眠場所の当たりをつけ、重戦士はなお進む。
 ちなみに。
「これで次に名前呼ばれても、渡す札ないねー♪ あとは頑張ってさくらちゃん見つけよー♪」
 考えてるんだか考えてないんだかよく分からない風月であった―――

●天然の力
 さて、時は進み、夜が明ける。
 結局夜中は誰も動こうとせず、休息と睡眠の時間としていた。
 いくら標高が低くわりと狭い山とはいえ、真っ暗闇での山中歩行は危険だから正解だろう。
 で、夜が明けて初めてばったり出くわした参加者は、楠木と水葉。
 水葉は眠っていたところを偶然発見された形だった。
 監視役の女性シフールと仲良くなり、おしゃべりして疲れていたのがまずかったのだろうか。
「あ‥‥あの、その、く‥‥」
「水葉さくらさん見つけました!」
「はうぅ‥‥」
 先に相手を発見したのは水葉の方だったのだが、人見知りな性格のせいか楠木の名前を上手く言えず、『逃』の札を奪われてしまったのである。
「ふっふっふ‥‥申し訳ないのですが、これも勝負です。これを守り通して優勝し、変なあだ名を挽回して、真の武士道へとまた一歩近づくのですよ!」
「そ、そうですか‥‥。が、頑張って‥‥くださいね‥‥(にっこり)」
「‥‥。天然さんにツッコんで欲しいと期待したのがいけなかったんでしょうか‥‥」
 挽回ではなく返上でしょ、と言って欲しかったらしい。
 それにしても、今の今まで十数時間、見つかりすらしなかった水葉の運は相当なものだ。
 水浴びなどをして、かなり動きもしたそうなのだが。
「とりあえず、ボクは逃げます。それじゃ!」
 そう言って走り出す楠木。
 きっかり5分待って動き出した水葉は、今度は追う立場である―――

●奇策?
「ぜぇ‥‥ぜぇ‥‥ぜぇ‥‥。こ、ここまでくればもう大丈夫! しかし、どうしようかな‥‥ここも絶対安全とは言いがたいような‥‥」
 水葉から逃げ出して自分のスタート地点に戻った楠木だったが、途中ゼルスやマグナに発見され、ベェリーに協力する猿に告げ口に走られと散々であった。
 ゼルスはブレスセンサーを使えるし、インフラビジョンのスクロールも所持し、尚且つ目がいいので、付近を虱潰しにされればそれまでだろう。
「よし! エセ水遁の術で行こう!」
 丁度近くに少し深い川(滝はなかった)があったので、楠木は川に入り、自分にストーンをかけて石化して沈んだ。
 ただ、楠木にとって不運だったのは、ストーンが徐々に石化していく魔法だったこと。
 そして、石化していく現場を目撃されていたこと―――

●最後の勝利者は?
「‥‥何故俺がこんなことを‥‥不合理だ」
「いいから手を動かせ。わしよりよっぽど若いのだろうが」
「審判さんで解呪出来る人、連れてきたのだー!」
「ありがとー♪ ねぇねぇ、ところで、残り時間ってどのくらいかなー?」
「鹿さんたち、頑張ってー!」
「やれやれ‥‥恐らく助ける必要はないと思うのですけれど。きっと自業自得ですよ」
「え‥‥? ど、どういうことでしょう‥‥?」
 楠木が沈んでいる川に全員が集まり、楠木の『救助』に当たっていた。
 石化していく楠木を偶然水葉が見ており、一大事と主催者側に全員を招集させたのだ。
 一致団結して引き上げ、審判の一人がストーンを解除する。
「あれ? 皆さんおそろいで‥‥もう時間終了ですか?」
「‥‥ほらやっぱり。心配するだけ損でしたね」
「え、えっと‥‥く、楠木さんが、石になっていくのを見て‥‥だ、誰かに攻撃されたのかと‥‥」
「げ。じ、じゃあまだ終わってないんですか!?」
「そういうことになる。まったく、せこいことを考えるな、おまえさんは」
「合理的だが‥‥卑怯だ」
「ルールの範疇とはいえ、それはないよね!」
「ずるいのだー! 身体張って突撃するのが正しいと思うのだ!」
「まぁまぁ、無事ならよかったよー♪ ねぇ、さくらちゃんー♪」
 と、その場にいた審判の一人が制限時間終了を宣言する。
 結果的に勝利者は‥‥。
「なんでボクじゃないんです!?」
「だってー、楠木さん、さっきさくらちゃんに名前呼ばれたでしょー? で、最後にさくらちゃんの名前呼んだのが僕だからー♪」
 全員、開いた口が塞がらない。
 風月明日菜‥‥計算ずくなのだとしたら、意外と底知れない少女なのかも知れなかった―――