あるてぃめっと・うぇぽん?

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2005年12月08日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「私の作った武器を使って、ゴブリンを退治してください」
「というわけで、こちらが依頼人のアリサ・シュヴェールトさんです。みなさん拍手ー♪」
 冒険者ギルドの職員、西山一海が紹介したのは、長く赤い髪の若い女性だった。
 聞けば鍛冶屋を営みたいらしく、現在修行中の身だとか。
「私、日本のカタナに至上の芸術を見出しまして‥‥立派な刀鍛冶になって、後世に残るような名刀を作りたくてやって来ました。幸い、良いお師匠様に恵まれたのですが‥‥その、どうも私に問題があるみたいで‥‥」
「はぁ。具体的に言うとどのような?」
 アリサはふっと暗い表情をすると、バックパックを降ろし、一本の日本刀を机の上に置いた。
 パッと見は何の変哲もない日本刀のようだが‥‥?
「抜いてみてください」
「はいはい。‥‥へぇ、綺麗な刀身じゃないですか。私は戦う人じゃないですけど、素人目にも良い刀だと思いますよ。この刀のどの辺に問題が?」
「えっと‥‥実践した方が早いかと」
 そう言うと、アリサは刀を持っている一海の手を取り、あろうことか自分の腹に切っ先を突き刺した!
「どぉぉぉっ!? な、何やってるんですか! 私を犯罪者にしないでくださいっ!」
「それが、大丈夫なんですよ。ほら」
 するっと服をまくって見せると、へその右辺りにかすり傷ができていた。
 一海からすれば、慌てるほどの手応えがあったような気がしたのだが。
「この刀、どんな力自慢の人が使っても、どんな達人の人が使っても、斬ったものにかすり傷しか負わせられないんです‥‥。こんなの、刀として失格でしょう?」
「いや、それは逆に凄いような‥‥(汗)。ちなみに、銘はなんと?」
「‥‥ま、マチャムネです」
「‥‥名前からしてロクな刀じゃなさそうですねー‥‥」
「ひーん。ほ、他にも、ムラマチャとかムラチャメとか、オチャフネとかありますが!」
「聞きたくないです(どきっぱり)。で、貴方の作った武器を使って茶鬼退治というのはどういうことでしょ」
「あの、最近お師匠様の鍛冶場の近くにゴブリンが出るようになっちゃいまして‥‥今のところ実被害はないんですが、あんまりモンスターにうろつかれると、私が恐いかなー‥‥なんて‥‥」
「で、そのついでに自作の武器の有効性をお師匠様にアピールしたいと?」
「うっ、図星」
「わからいでかってやつですよ。まぁこっちはお仕事なのでどうでもいいんですけどね」
 一海は溜息を一つつくと、早速依頼書の製作に取り掛かる。
 一方、アリサはもじもじとしながら、一海の周りを行ったり来たりしていた。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥あぅー‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥うーん‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥ひーん‥‥」
「あーもう分かりましたよっ! 武器の説明がしたいんでしょ!? 聞きますよっ!」
「わぁい♪」
「‥‥い、色んな意味で疲れる人ですねぇ。で、どんなのがあるんです?」
「ナイショ♪」
 ごごごごごごごごご! ←空気の重みが増した音
「かすり傷しか負わないというマチャムネで延々と斬りつけていいですか?」
「はぅぅ‥‥ご、ごめんなさい、調子に乗りました‥‥」
 だうー、と涙を流しながら、床に置いたままのバックパックから武器を出し、並べるアリサ。
 日本刀が三振り、忍者刀が一本、短槍が一本、一対らしい短刀が一組、薙刀が一本、小太刀が一本と、刀でないものもちまちま混じっているようだが。
 実は紆余曲折あったが(主に一海が酷い目にあった)、簡単に纏めると以下のようになる。

 マチャムネ(日本刀):何をしてもかすり傷しか与えられない刀。それ以外は普通の日本刀と変わらない。
 ムラマチャ(日本刀):柄によく磨かれた百日紅が使われており、すっぽ抜けやすい。100%天然素材のままなので、素手ですら滑る。本人曰く、糸すら巻けませんでした、とのこと。
 ムラチャメ(日本刀):本来峰であるところまで刃になっており、あまつさえ鍔まで刃になっていて危険。
 クチャナギ(忍者刀):何故か柄部分に鈴が三つ仕込んであり、歩くだけでもリンリンとやかましい音がする。
 クニチゲ(短槍):刃の部分と柄が丈夫な糸で結ばれており、刃を飛ばせる。が、自力投擲なので威力はあまりなく、通常状態でも刃が外れやすくなっている。
 キクニモンジ(二本の短刀):物を刺そうとすると、刀身が柄の中に引っ込んでしまう。刃は一応ある。
 コテチュ(薙刀):刃がついておらず、全て峰状態。殆ど鈍器。
 オチャフネ(小太刀):決して鞘から刀身が抜けない。木刀の小太刀版のようなものと化している。

「ぜぇぜぇ‥‥。こ、これで戦えって言うのは無理がありません? どれもこれも宴会道具って言った方が正しいですよ、絶対。断言してもいいです」
「あぅぅぅ‥‥頑張って作ったんですよ、これでも‥‥」
「とにかく、冒険者の方々にはこの武器で戦ってもらう‥‥と。じゃ、そういうことで」
 しゅた、と手を上げて奥に引っ込む一海。
 取り残されたアリサは、マチャムネを手にしてポツリと呟く。
「向いて‥‥ないのかなぁ‥‥」
 溜息一つ‥‥オモシロ武器製造少女の明日はどっちだ―――

●今回の参加者

 ea2019 山野 田吾作(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9704 狩野 天青(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1647 狭霧 氷冥(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1655 所所楽 苺(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3386 ミア・シールリッヒ(29歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3787 徐 翡聖(26歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb3787 徐 翡聖(26歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb3787 徐 翡聖(26歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

鷺宮 吹雪(eb1530)/ 所所楽 柚(eb2886

●リプレイ本文

●工房にて
「はー、随分たくさん武器があるのだ。こっちはアリサさんのお師匠様が作ったのだ?」
「はい。お師匠様の作る武器は優秀なのに、私はてんで駄目なのが悲しいですけど‥‥」
「うーむ‥‥全く以って分からん。何故普通の作り方をしていてマチャムネのような刀が出来上がるんだ?」
 とある山にある、アリサが住み込みで働いている工房。
 交通の便はそこそこ良いとは言え、流石に山の中‥‥一行は茶鬼退治に向かう前に、ここで一息ついて休憩していたのである。
 アリサの師匠こそ不在だったものの、所所楽苺(eb1655)は無造作に置かれている作品群に興味津々のようだったし、備前響耶(eb3824)はマチャムネの謎を解明しようと頭をウニにしていた。
「あぁ‥‥お茶って暖まるわねぇ。魔法で晴れにしたのはいいけど、それでも寒いから助かるわ」
「そこでゲームだよ。古今東西〜いぇ〜ぃ! 好きな朝食メニュー♪ おかゆ♪」←シャンシャンとクチャナギで効果音
「小龍包♪ わーい、ノリがいいから好きだよ、クチャナギ〜♪」
 静かに茶を飲み、心地よい息をつくミア・シールリッヒ(eb3386)とは対照的に、狩野天青(ea9704)と徐翡聖(eb3787)は元気よく言葉遊びをしている。
 一方、達観するようにそれを見ているのは、拍手阿邪流(eb1798)。
 妙に武闘派な陰陽師であり、所所楽とはいい仲という話なのだが。
「はっ、やだね〜お子様は。俺たちはもっとこう‥‥熱く妖艶に大人の雰囲気でいこうぜ。なぁ?」
「依頼とは全く関係ない話だけど‥‥思い人の気を引くのに、あかの他人にちょっかいかける男って、最低だと思わない? 私なら叩き斬ってるね」
「い、いや、拙者は‥‥は、その手の話は苦手でござるが故‥‥」
「あーりゃま、手厳しい」
 肩に回してきた阿邪流の手をギリギリ締め付けるのは狭霧氷冥(eb1647)。
 からから笑ってるが目は笑っていなく、話を振られた山野田吾作(ea2019)の方がたじたじだ。
 あくまで阿邪流は懲りていないようだが。
「あ、あのぉ‥‥まだ武器の説明が必要ならしますけど‥‥そろそろゴブリン退治に行ってくださいませんか?」
「あ、そうか、小鬼退治に来たの忘れてたのだー(汗)」
 初心者冒険者でも一対一なら簡単に倒せるゴブリン。
 一同は軽い気持ちで工房を後にしたが‥‥その認識は、さくっと覆されることになったのである―――

●日本語って難しい
「‥‥ホブゴブリンじゃないの」
「うん? 茶鬼だろう? 何か問題があるのか?」
「アリサは『ゴブリン』って言ってたわよね。あれはゴブリンの上位種の『ホブゴブリン』。戦闘能力が別物よ」
 そう、一行が発見したターゲットは、ゴブリンの一種には違いないが初心者では負けることもあるモンスターなのだ。
 紛らわしいが、ゴブリンは小鬼、ホブゴブリンは茶鬼。
 アリサはただ単に両者の区別がつかなかっただけと思われるが。
「雑魚には違いねーだろ。叩きのめしてやればいいんだよ」
「阿邪流は相変わらず無茶なのだ‥‥」
「何言ってんだ、突撃はお前の代名詞だろ。丁度数そろえてお食事中らしいからな‥‥一気に行こうぜ」
 一同は頷くと、慎重に藪を掻き分け、茶鬼に近づいていく‥‥が。
 シャンシャンシャン♪
「‥‥あ(苦笑)」
「おぬしか狩野殿! まったく、全然忍んでいない忍者刀でござるな!」
 勿論茶鬼たちも気付き、斧を手に襲い掛かってくる。
 一同はパッと散開して一対一の図式を作り、各々アリサ製オモシロ武器で戦い始める―――

●激‥‥闘?
「えっと、要するにこれで殴ればいいんだよね?」
 オチャフネでがすがす茶鬼を『叩き』まくる徐。
 柄ではなく鞘を持っていたりするが、普通に効いている模様で、手数の多さもあってか結構なダメージを与えていたりするから恐ろしい。
 抜けないようにするくらいなら中の刀身を鍛える必要はあったのだろうか?
「これ、意外と面白いかも! 単純に叩くだけなら得意だよ♪」
 自分より50センチほども身長のある茶鬼を鞘入りの小太刀で追い回す徐は、非常に楽しげであったという。

「充分離れたわね‥‥じゃあ、ダズリングアーマーといきましょうか」
 一旦引き付けた茶鬼から身を隠し、魔法を発動するミア。
 凄まじい光を発するこの魔法は、身を隠すことがほぼ出来なくなる代わり、まともに相対すれば直視するのも難しい。
 それは茶鬼にも当然当てはまり、お世辞にも正確と言えない斧の攻撃はミアに当たりそうになかった。
「さてさて‥‥上手く行くかしら」
 外れてもいいくらいの気持ちで刃の部分を飛ばしたミアだったが、意外とさっくり刺さったりする。
 そこから刃と柄の連結部分を合わせ、全体重を乗せて刃を押し込む!
 当てられない上に傷を追わされた茶鬼では、最早ミアに勝つことは出来ないだろう。

「(シャンシャン)人生も戦闘もリズムが大切だよな♪(シャンシャン)茶鬼さ〜んでておいで〜♪(シャンシャン)出て来たならば〜振りかぶり♪ ク〜・チャ〜・ナギィ〜〜♪」
 振らなくても歩くだけでやかましいクチャナギ。
 見つかる気まんまんなこの忍者刀、不快指数を増大させる以外は普通の忍者刀と変わりない。
 よって、狩野はいつものように斬るしかないわけだが、ノッているせいかいつもより動きがいい‥‥ような気がする。
「よっと! うーん、今なら九尾の狐だって倒せそうな気がするね!」
 んな無茶な。
「さぁさぁ、まだまだいくぞぉ!」
 鈴の音にいきり立つ茶鬼の声も、狩野にはまったく届いていなかった。

「あ、そうか、刺しちゃ駄目なのだ! 斬らなきゃねー♪」
 所所楽は素早い身のこなしで、二本の短刀‥‥キクニモンジを駆使し、茶鬼を翻弄していた。
 元々大振りな茶鬼の斧攻撃は、スマッシュなどを使おうとすれば冒険者でなくても避けられるから当然だろう。
「よぉ〜し、実験なのだ! かいてーん!」
 キクニモンジを両手に抜き身で持ち、刃の部分を外側に向けて斜めに持つ。
 次いで両腕を伸ばし勢いよく回る(回転の向きにあわせて、刃の向きも変える)という奇抜な戦法は、やっぱりというかすぐに目を回してへたり込んでしまう。
 傷だらけにされた茶鬼は、頭をグラグラさせている所所楽に向かってここぞとばかりに斧を振り上げる‥‥!
 が、次の瞬間。
「あらよっと」
 すこーんと小気味よくすっ転ぶ茶鬼。
 拍手阿邪流がトリッピングで茶鬼を攻撃したらしい。
「はにゃー、阿邪流ー目が回ったのだー‥‥(ふらふら)。これじゃ周りがうまく見えないのだー」
「ちったぁ後先のこと考えろ。俺はもう一匹倒してきたぞ」
 見れば数メートル先に別の茶鬼が倒れており、その身体は打ち身とあざでいっぱいである。
「はー、凄いのだー。コテチュってそんなに使いやすいのだ?」
「俺にとっちゃかなりいい感じだぜ。刃がねーからそのまんま足払いかませるし、長棍棒じゃねーから受けもしやすい。転ばしたところを突くなり、叩くなりってな」
 言った傍から刃のない刃部分で倒れた茶鬼を突き、ぐりぐり抉る。
 刺さったり血が出ない分だけタチが悪いかもしれない。
「とにかく助かったのだ。だから阿邪流好きなのだー♪」
「あーはいはい、農耕具でもなんでもいいってばよ」
 阿邪流一流の照れ隠しは、にかっと笑って所所楽の頭をぽんぽん叩くことだったという。

「やっぱり戦闘が私の真骨頂だからね‥‥。行こうか」
 そう呟く狭霧が担当しているのは、柄が恐ろしく滑りやすいムラマチャ。
 道中にいくらか試しで手にしてみたが、冗談抜きに滑る滑る。
 そのせいか、今は迂闊に抜かず、茶鬼と距離を取って間合いを測っていた。
「このままじゃラチが開かない‥‥。すっぽ抜ける前に、鞘に戻してしまえば問題ないはず!!」
 思い立った狭霧は、だんっと踏み込んでブラインドアタックを仕掛ける!
 すぽっ‥‥ダンッ、びぃぃぃぃん‥‥!
「おぉぉぉぉぉぉっ!? こ、殺す気か貴殿はっ!」
 見事にすっぽ抜けて、少し離れて戦っていた備前の鼻先を掠め、木に突き刺さるムラマチャ。
「ご、ごめん、わざとじゃないんだよ。くそう‥‥やっぱり皮手袋を使うしかないか‥‥」
 ささっと移動してムラマチャを回収、皮手袋をつけて再度茶鬼と対峙する。
 すぐ横では、備前がムラチャメで戦っているようだが。
「で、そっちの具合はどうなのさ」
「感想か? なら一つしかないな‥‥一言『恐い』。人間相手には断じて使いたくない」
 鍔迫り合いで押されようものなら、自分の峰で自分が危険になる刀など冗談ではない。
 無論すっぽ抜ける刀も論外だが。
 幸い今回は茶鬼相手‥‥手加減する必要もないため、備前は景気よく茶鬼を打ち倒していた。
「まぁいい‥‥今度こそ、ブラインドアタックだよ!」
 すぽっ‥‥ドスッ、ぶしゅぅぅぅぅっ!
 皮手袋までつけてなおすっぽ抜け、向かってきた茶鬼に深々と刺さるムラマチャ。
 いっそ茶鬼が哀れである。
「‥‥感想は?」
「‥‥黙秘する」
 生傷が増えそうなムラチャメの方がまだマシだと思う狭霧であった。

 一方‥‥マチャムネ担当の山野は、その恐ろしさを100%体験していた。
 どれだけ斬っても突いてもかすり傷しか与えられないのでは、むしろ蹴った方が速い。
「敵の好きなように動かし、然る後必殺の一撃を叩き込む‥‥。し、しかし必殺の一撃が繰り出せぬでござる‥‥!」
 スマッシュEXでさえかすり傷‥‥これはどんな呪いだ?
「決定力不足が最大の敵でござるな‥‥。申し訳ないが、普通の日本刀に切り替えるでござる!」
 念のために持ってきた日本刀に装備を代え、茶鬼を屠る山野。
 土台無理な話なのだ‥‥かすり傷だけで敵を倒そうなどということ自体が。

 結局、茶鬼は全滅できたが、アリサの武器は殆どが破棄されてしまった。
 アリサはひーんとか泣いていたが‥‥それがきっと、彼女のためである―――