はにしんぐ
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月22日〜12月27日
リプレイ公開日:2005年12月28日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「諸君、私は埴輪が好きだ。諸君、私は埴輪が好きだ。諸君、私は埴輪が大好きだ」
「ストップ! すいません、持込で依頼持ってきて、いきなり演説かますの止めていただけませんか?」
「‥‥つまらんやつだな君は。埴輪の何たるかを全く理解していない。最後まで言わせてくれても良さそうなものだ」
「‥‥したくもないですし、最後まで聞こうとすると長くなりそうなんで却下します。えーっと、結局あなた方は何が仰りたいので? いや、埴輪が好きだってことは嫌ってほど分かりましたけど」
京都冒険者ギルドの一角は、何故か20人近い男女がひしめき合っていた。
彼らを統率する男は、延々とした演説を終えると、拍手を送られながら向き直る。
持ち込み依頼を受け付けた職員、西山一海は、ただただ圧倒されてしまったという。
「いや、何‥‥ちょっと京都近辺で埴輪がたくさん出る遺跡が発見されたと聞いてね。埴輪を捕獲してもらおうと思って来たのさ。勿論、動く方をだが」
「飼おうとでも言うんですか? 釈迦に説法かもしれませんけど、多分あれ、懐きませんよ」
「構わないさ。我々の埴輪への愛は、そんな些事ごとき既に超越しているよ」
「超越してどうするんですか(汗)。で、依頼内容は埴輪の捕獲‥‥と」←速く終わらせたいらしい
「我が埴輪愛好会は随時会員を募集しているぞ。条件は『埴輪を愛していること』この一点だ。何なら寝巻き代わりにまるごとはにわでも進呈するが」
「‥‥‥‥‥‥勧誘なら他所でやってください」
「まぁいい、本題に戻るが‥‥最低でも4体は捕獲してもらう。さらに、捕まえる埴輪はかすり傷でも負わせてはいけない。埴輪は繊細だからね‥‥少しの傷が愛好家にとっては致命傷だ」
少し小太りで背の低い男が得意げに言うと、後ろに控える愛好家たちがうんうんと頷く。
正直、一海は『モウ、カエレ!』と叫びたい気持ちで一杯だったのだが‥‥。
「あなた、依頼を舐めてません? というか、冒険者の方々が酷い目にあっても何とも思わないタイプでしょう」
「そんなことはない。『痛ましい事故』とか『価値ある犠牲』と思うことにしている」
「しているってあーた‥‥。まぁいいです、あえてツッコミません。で、その遺跡の詳細は?」
「あぁ、京都から半日も南東へ馬を走らせれば着く。何でも多種多様な埴輪がうろついているとかで、コンバットオプションを使うものから通常の倍以上の大きさのもの、動きが俊敏なものなど、我らには垂涎の場所なのだとか。無論、そのうち全員で見学に行くつもりだが、遺跡の確証と埴輪の見本が欲しくて今回の依頼を出したというわけだ」
「へー」←心底どうでもいいと思っている
「気をつけたまえ。相当古強者の埴輪が揃っているらしいからな」
にやりと笑った埴輪愛好会会長の表情に、違った意味で嫌なものを感じる一海であった―――
●リプレイ本文
●大八車を引きながら
「おー、いることいること。動いてないところを見ると、近づくと攻撃してくるってとこかァ?」
「ホントにキリがなさそうだな‥‥誰か音撃増幅忍者刀でも作ってくれるといいんだけどね」
「うぅむ‥‥意味は分かりませぬが、危険な台詞のような気がするでござる‥‥」
がらがらと音を立てる大八車を引く馬を操る阿阪慎之介(ea3318)。
その苦労をすぱっと無視するかのように、雪守明(ea8428)と日比岐鼓太郎(eb1277)は、埴輪たちが佇んでいる辺りを見て、議論を重ねていた。
「実際、どれくらい近づいたら攻撃してくるんだろうか。それも聞いておけばよかったな」
「石でも投げつけてみましょうか? どうせ大半は壊すんですし」
乃木坂雷電(eb2704)の呟きに、笑顔でさらりと恐いことを言うルゥナー・ニエーバ(ea8846)。
間違ったことは言っていないが、可愛い外見とは裏腹に破壊活動をするのに躊躇いはないらしい。
「埴輪さん、墓荒らし対策とはいえ、命令のままずっと攻撃を続けなきゃいけないなんて何だか可哀想です‥‥。遺跡を離れたら命令からも開放される‥‥なんてことはないのかな‥‥」
「ふっ‥‥相変わらず君は優しいな。けど、このままでは彼らは色んな人に迷惑をかける。なんとかしてやらなくちゃいけないんだ‥‥君のような優しい人がね」
「はい‥‥!」
同じ馬に二人乗りしてイチャイチャしているのは、リラ・サファト(ea3900)と藤野羽月(ea0348)の夫婦。
二人にとってもこの会話は異質らしいが、なんだかそんな雰囲気らしかった。
「むむ‥‥ここは『甘ーい!』とでも言うべき也か? しかし、随分大きい木箱也な」
すでに森深く入り込んだ今になって、奇天烈斎頃助(ea7216)は大八車上の箱に疑問を示す。
普通埴輪は1メートルくらいが平均の大きさだが、埴輪愛好会が用意した箱は2メートル近い大きさ。
確かに倍近い大きさの埴輪も見えているが、暗にそれを捕まえろとでも言っているのだろうか?
「さぁな。じゃ、この辺に馬と荷物置いて、そろそろ行こうか(しゅっ)」
「埴輪か‥‥柳生の太刀筋にかかれば紙も同然でござる!」
埴輪好きが出した埴輪捕獲依頼。
それはまぁ良しとしても、壊してもいいというのはどういうことなのだろうか。
依頼主の思惑など知ったことではないが‥‥冒険者たちの激闘(?)が、今始まる―――
●埴輪、埴輪、埴輪!
「こんなにたくさん出て来てくれて有り難う! スッキリできそうだ! さぁさぁ、次にぶっ散らばりたいのはどいつだァ〜〜〜ッ?」
「準備は万端‥‥柳生の真髄、披露するでござる!」
埴輪は基本的に堅い。
堅く焼き固められた土だったり青銅だったりするので、槌などの粉砕系でない通常の武器では効果が薄いのが普通。
が、雪守と阿坂はバーストアタックを習得しているので、刃物でも充分なダメージを与えられるのだ。
「かァーッ、スカッとするーーッ!」
「見よ! 鍛え上げられしオーラパワーとオーラシールドによる守りも万全! ただ断ち切るのみでござる!」
ぞろぞろと洞窟への入り口から湧き出てくる埴輪たち。
堅いが耐久力はあまり無いだけに、次々と叩き割られていく。
「おいおい、調子に乗って4体以下にするなよ? ほら、こっちだ!」
日比岐は疾走の術で埴輪たちを撹乱、誘導する役目。
近づいては離れ、別角度からまた近づき‥‥という動作を繰り返し、なるべく雪守たちが囲まれないようにしている。
それでも全てを引き付けることは出来ず、雪守たちはちまちま殴られていたりする。
「うーん‥‥木刀では効かないみたいです。私は回復役に徹しますね」
ルゥナーは得物が得物だけに防御と回復に専念。
その横では頃助が大薙刀で埴輪を攻撃しているが、表面に傷をつけるだけで明確なダメージには至っていない。
「サーチアンドハニワデストロイ! サーチアンドハニワデストロイ! ‥‥しかし、本来我らは埴輪愛好会の依頼で埴輪の捕獲に乗り出したはず。捕獲の邪魔だからと埴輪を壊して回るのは、これ本末転倒ではない也か‥‥」
ノリノリだったのに、急にはたと我に返る頃助。
気にしちゃいけない、気にしたら負けだ。
「プラントコントロール‥‥冬にも植物はあるんだ!」
乃木坂もバーストアタック習得者なので、埴輪を攻撃するのに支障はない。
が、壊す人間ばかりでは依頼の達成にならないということで、雪守、阿坂、頃助を壁役にして魔法を使用する。
その方法とは‥‥木々の根を突然隆起させ、埴輪を転ばせるというもの。
単純ではあるが、知能が無いに等しい埴輪には効果充分。
さらに埴輪事態が堅い上、下は土なので傷物になる心配も少ない。
「丸い‥‥じたばた‥‥和む‥‥可愛い‥‥(きゅきゅきゅーん)」
倒れてじたばたする埴輪を、リラが毛布をかぶせてロープで縛り付ける。
ぽっかりと開いた目と口が、なんとも言えない愛嬌をかもし出している‥‥らしい。
「リラさん、危ない!」
思わず和んでいたリラに一際動きの速い埴輪が接近していたのを、旦那の藤野がインターセプトする。
彼もまたバーストアタック習得者であり、ごぎんと埴輪のどてっぱらに穴が開いた。
「駄目だろう、油断しては。鑑賞は現場を離れてからという約束だろ?」
「ごめんなさい‥‥。でもでも、羽月さんも見てみてください。和みますよ♪」
「‥‥‥‥」
捕獲され、毛布にくるまれた2体目の埴輪を見やる藤野。
ぽかーんという擬音が似合いそうな、邪気の無い面構え‥‥。
「‥‥すまない。少し和んだ‥‥」
何故か自分が情けなくなる藤野であった。
「やれやれ、こっちは必死に走り回ってるって言うのに。藤野、遊んでないでコアギュレイトで固めてくれ! 後2体くらいすぐだろ? 別に乃木坂のプラントコントロールに頼ってもいいけどさ」
「あぁ、すまない」
日比岐にツッコまれた藤野は、すぐに思考を切り替えて魔法詠唱に入る。
いくら忍術と言っても、疲れるものは疲れるのだ。
「あ、見てください。手乗りサイズのもいるみたいですよ、可愛いですねぇ!」
言われてみれば、しゃがみ込んだルゥナーの足元に10センチくらいの埴輪がいた。
必死にルゥナーを殴って攻撃しているが、そんなサイズの埴輪に殴られても痛くも痒くもない。
「うぉぉ、これは演劇のいいインスピレーションが湧きそう也よ! 墓荒らし対策にこんな小さい埴輪が役に立つのか等はうっちゃっておく也!」
それが精神的に有効な手であろう。
「その小っこいの含めて3体って事で良いよな!? こっちにも大物が来たぜェ!」
「でかい‥‥! これが噂の倍の大きさの埴輪でござるか!」
「でかいなッ! 斬り応えがッ! ありそうだッ!」
もう前線二人組みはハイテンションである。
バタバタと埴輪をなぎ倒していくのは相当爽快らしい。
入り口で支えていた大埴輪がやっとこ姿を現したものの‥‥。
「全力全開ッ! ぶち壊せェーーーッ!」
「一刀入魂!」
スマッシュEXだったりカウンターだったりと散々な目に会い、砕ける大埴輪。
大きくても所詮は埴輪‥‥ということか。
まぁ冒険者8人のうち4人がバーストアタックを覚えていては、埴輪に明日は無い。
最後は藤野がコアギュレイトで一匹の埴輪を凍らせ、確保。
後は事後処理(破壊活動ともいう)だけである―――
●登場
「諸君、私は埴輪が好きだ。諸君、私は埴輪が好きだ。諸君、私は埴輪が大好きだ。
戦士型が好きだ。馬型が好きだ。農民型が好きだ。神輿型が好きだ。
材質が好きだ。固さが好きだ。形が好きだ。語感が好きだ。表情が好きだ。
平原で、街道で、遺跡で、草原で、墳墓で、森林で、砂丘で、洞窟で、泥中で、湿原で。
この日本に現れるありとあらゆる埴輪が大好きだ。
戦列をならべた埴輪の一斉行進が、ガチャガチャという音と共に冒険者を飲み込むのが好きだ。
群れの中に深く埋められた冒険者が手だけを出して助けを求めた時など心がおどる。
戦士型の操る一体型の青銅剣が冒険者を撃破するのが好きだ。
悲鳴を上げて薄暗い石室から飛び出してきた冒険者を、待ち伏せしていた戦士型の別働隊がなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった」
「ちょっと待てぇぇぇ! あんたいったいどこから湧いて出た!?」
「‥‥君も最後まで言わせてくれないクチかね。つまらないな」
4体の埴輪を確保し、残りも撃破した冒険者たちが大八車まで戻ってくると、そこには何故か埴輪愛好会会長の姿が。
演説を乃木坂にぶった斬りにされ、不満気だ。
「か、会長‥‥まさか、最初からその箱に入っていた也か?」
「正解だよ頃助くん。私は埴輪を愛している。埴輪の全てをだ。故にその砕け散る様もまた美しい。感動すら覚えるね」
見れば木箱のうちの一つが開いており、そこにこの会長が入っていたようだ。
道中が短いからこそ出来る技である。
「‥‥変なヤツだな」
「変人でござるな」
「変態ってぇんだよ、ああいうのは」
「あ、埴輪愛好会がそういう方針ならばわたくしも入会できるかもしれません。‥‥だって、埴輪を破壊するほうが楽しいんですもの(ボソッと)」
「‥‥リラさん、どう思う?」
「わ、私は愛でるだけで良いです‥‥」
まぁ感想は人それぞれ。
キッチリ埴輪を捕まえたのだから、当然文句など出てこない。
まぁ演説の内容に一部酷い台詞があったような気もするが、気にしないのが優しさだろう。
ただ、一行がちょっと辛かったのは‥‥帰りの道中、小左(しょうざ。会長の本名)の埴輪講釈が延々と続いたことであったという―――