いざ、試し斬り!
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月01日〜09月06日
リプレイ公開日:2004年09月02日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「いやー、どうもどうも、『冒険者ギルドの謎の若い衆』です。一人しかいなくても若い衆です。最近私のあだ名が妙に知られるようになってしまいまして‥‥いやはや、なんででしょうねぇ?」
しっかりと依頼内容が書かれた紙を机の上に置きながらではあるが、若い衆は頭の上に『?』を浮かべていた。
紹介する依頼がいいにしろ悪いにしろ妙なものが多いからいけないのだが。
無論今回も、王道を一歩ずれた依頼であろうことは想像に難くない。
「この依頼はですね、ジャパンではおなじみの日本刀の試し斬りです。とある刀工さんが、自分が作った試作の日本刀を試して欲しいそうなんですよ。斬るものは丸太、鉄、岩等色々だそうで、折れても構わないそうです。耐久性を測るのも試し斬りの一環ですからね」
刀工の工場へと出向き、その近辺にあるものや刀工が用意したものをただ斬っていく。
依頼を受けるのは力のないものでも構わず、戦いでは絶対に日本刀を振らないような魔法使いにも是非試してもらい、日本刀のよさを知ってもらいたいとか何とか‥‥。
「どうですか? 折れても試作品はたくさんあるそうですから、持ち替えて何度でも試せますよ。お持ち帰りは流石に禁止されてますけど‥‥自分の刀じゃ折れたり刃こぼれが恐くて全力で振れないという方も、何も気にせず振り回せるこの快感! むしろ私もやってみたいくらいですよ♪」
禁止されていることといえば人間は勿論、生物や建物を傷つけてはいけないということくらい。コンバットオプションを使おうが口でくわえて三刀流をしようが、とにかく試し斬りをしてもらえればいいらしい。
老若男女問わず、日本刀を振り回したい人間の参加を求む―――
●リプレイ本文
●再会、強敵(とも)よ
空は青く澄み渡り、雲一つない晴天の昼下がり。
依頼主である刀工の元へと集まった冒険者たちは、工房外の広場へと案内されていた。そこにはすでに試作品の日本刀が16本用意され、事前に要望のあった石灯籠やら丸太やら濡れ藁もしっかり準備万端といった感じである。
「さて‥‥私に持ち上げられるかしら?」
ふわふわと空中を漂いながら、シフールのシュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)が呟く。
「大丈夫だ。あんたが振れなくても俺たちがその分試してやる」
「そうですよ、あなたは自分でできる範囲のことをしてください‥‥」
今日練習試合をする予定のミハイル・ベルベイン(ea6216)と紫城狭霧(ea0731)がシュテファーニに声をかけた。なんだかんだで、この二人は人を気遣うタイプのようだ。
「そうさ、無理して怪我をしたりしたら大変だ」
包み込むようにシュテファーニに触れるのは、ヴァイス・マルクトー(ea2887)。何故だか知らないがシュテファーニは今回のメンバーにウケがいいらしい。
「うふふ‥‥普段じゃ日本刀に触れる機会はあまりありませんものね。好奇心が刺激されます」
「あー‥‥私は最近、太刀筋が雑になって来てる気がしてね。一度初心に帰ろうと思ったのさ‥‥」
くすくすとどこか怪しげに笑うエステラ・ナルセス(ea2387)と、日光が苦手なために今日の天気が恨めしい浦部椿(ea2011)。対称的な‥‥しかしどこか危なっかしい(色々な意味で)二人である。
「面白くなりそうだな。‥‥っておいあんた、さっきから何をじっと見てんだ?」
「‥‥いえ‥‥ちょっと見覚えのある強敵(とも)の姿が‥‥」
青島遼平(ea1393)が声をかけるも、陣内晶(ea0648)はある一点を見つめたまま動かない。いぶかしげに思った遼平がその視線の先を見てみると‥‥。
「‥‥狸の置物?」
よく店先等に置いてある大きな狸の置物が、試験場にでん、と置いてあった。晶はキッとそれを睨みつけると、拳を握って言葉を紡ぐ。
「あの色合い。あの造形。あの焼き上がり‥‥。そしてあの貫禄と威圧感。僕には一目で分かりましたよ‥‥貴方があの『陶器割り大会』の生き残りだって事がね!?」
とりあえず分かる人にしかわからない叫びが木霊しつつ、そろそろ試し斬りが開始されそうであった。
トンビが奏でる呑気な音に、晶の叫びが取って代わられる―――
●じゃぱにーずぶれーど
「はっ!」
気合一閃で振りぬいた日本刀が、濡れ藁をいとも簡単に両断する。断面を見てみると、そこは非常に滑らかで『引きちぎった』跡が殆どない。試作段階のこの刀は、割といい出来のようだ。
「‥‥日が照っていなければもっと楽しいんだがな‥‥」
少々げんなりした様子の椿。試し斬り自体は楽しいのだが、天気がそれを邪魔している。
‥‥いや、他の面々には晴れていた方が嬉しいのだが。
「うふ。うふふふふふふふふふふふふふ」
妙な笑い声を上げながら巻藁をザクザクと死ぬほど斬りつけているエステラ。ウィザードである彼女にはやはり日本刀は重く、一刀両断と行かなかったのだが‥‥何故か食い込んだ刀を抜いた後、ご覧の通りの滅多切りに切り替わってしまっていた。
ある意味何よりも恐くて誰も止めようとせず‥‥『旦那様の薄情者ー!(母国語)』という叫びもさらっと聞かなかったことにされてしまったのだった。
「うーんっ‥‥くっ、ふんっ‥‥はぁっ、はぁっ、駄目だわ‥‥全然持ち上がらない‥‥」
シュテファーニはシュテファーニで、軽めの刀を見繕ったまではよかったが、飛んだまま構えることはおろか地面に足をつけてさえ構えることは難しかった。自分の体重より重く、自分の身長よりでかい日本刀は流石にシフールの彼女には無理があるようだ。
「‥‥で、柄をしっかり握って‥‥あぁ違います、手が逆です」
「こう‥‥か? 難しいものだな‥‥やはりダガーとは勝手が違う」
狭霧に指導を受けているヴァイスも、ぎこちなくではあるが大分使い方を覚えてきたようだ。基本的な力が足りないので実戦で振り回すわけにはいかないだろうが、それでも巻藁を切り倒すくらいの芸当はやってのけている。
「こいつは中々いい刀だぜ‥‥いよいよ石灯籠と行くか」
巻藁やら木材やらで試し斬りをしていた遼平は、ざっと石灯籠の前に立った。全神経を集中し、目標めがけて刀を振り下ろす!
ごしゃ、と鈍い音を立てて崩れる石灯籠。日本刀の方にも微妙な刃こぼれができてしまったのを遼平は見逃さなかったが。
「あ、ありゃ? 砕いちまったか‥‥まぁいいけどよ、刀も折れはしてないし。‥‥で、おまえさんはまだそれと睨めっこか」
晶はまたしても狸の置物と対峙していた。その足元には、綺麗に真っ二つになった陶器の皿や壺の数々。刀の切れ味が悪くても持つものの技量が足りなくても陶器は割れてしまうものだが‥‥何がそうさせるのか、今の晶は陶器に対して無敵になった‥‥ような気がした。
「会いたかったですよタヌキの諸君。陶器が斬れると分かった以上、あなたはもう‥‥死んでいる!」
いや、最初から生きてはいないのだが。
それはともかく、袈裟懸けに振り下ろされる試作日本刀。上手く切り伏せられるか、それとも砕けてしまうか‥‥勝負!
カシンッ‥‥ギリリッ
「なっ‥‥!?」
肩口から綺麗に入った剣閃‥‥しかし、それはなんと足元の大福帳で止まってしまう!
「負けた‥‥僕の技が大福帳に‥‥!? ふふ‥‥燃え尽きましたよ‥‥真っ白にね‥‥」
「‥‥気は済んだか? 紫城、そろそろ練習試合を始めよう。できればスペースを空けてほしいんだが」
「そうですね‥‥そろそろ行きましょうか」
斬鉄に挑んでいたヴァイスに一声かけて、狭霧はミハイルと対峙する。それを見て、他の面々は自分のやっていたことを切り上げて観戦に回った。
より実践的な試し斬り‥‥即ち、試作日本刀同士の対決が今始まる―――
●練習? 本気? プライド!
「いくぞ! はぁぁっ!」
「ッ!」
普段ロングソードを愛用しているミハイルは、ヴァイスよりも更に日本刀への慣れが早かった。防御姿勢で戦うと決めていた狭霧だが、まさかここまでの順応性があるとは‥‥!
「流石に日本刀ではそちらに分があるな!」
「いえ‥‥あなたも充分恐いですよ‥‥!」
受け流しや受け止めが主行動である狭霧にはカウンターアタックが使えない。ミハイルも慣れない刀でよくやっているが‥‥。
「そこですッ!」
「くっ!?」
ガギギ、と刀同士が嫌な音を上げる。狭霧は一瞬のバランスの妙をつき、ミハイルの刀に自分の刀を滑らせ一気に懐に潜り込んだ!
ピタリと喉元に当てられた白刃。さしものミハイルも生きた心地がしないだろう。
「っ‥‥ま、まいった。こ、こんな使い方があるんだな‥‥」
「反りは飾りではないんです‥‥っと、やはり細かい刃こぼれができてしまいますね‥‥」
お互いの刀を見比べてみると、打ち合った箇所と思わしき場所にごく小さな欠けが見て取れる。
「同じ人間が作ったものだからな‥‥精度が拮抗しているというわけか。では、次は‥‥」
「はい。僕の自前の日本刀と、ミハイルさんの試作日本刀‥‥どちらが上か」
「今度はそう安々とは負けん。俺も、本気で行こう‥‥!」
「‥‥楽しみです」
狭霧は愛用の日本刀を抜き放ち、ミハイルは新しい試作品に持ち替えて再び対峙する。
周りに張り詰める緊張感‥‥観戦している6人も言葉を発しようとしない。いや、発せられない。
果たして‥‥狭霧の日本刀は無事で済むのか―――(ぉぃ
●温故知新
「ふむふむ‥‥試作品の試験は概ね上手くいったみたいですね。これも冒険者の皆さんの協力があってこそですねぇ」
冒険者ギルドで報告書を読んでいた若い衆は、ニコニコしながら呟く。
試し斬りの結果から、刀工が導き出した試作品のデータはこうだった。
耐久性:現在出回っているものより若干勝る
切れ味:現在出回っているものよりやや勝る
製造コスト:現在出回っているものより少々割高
「あぁ‥‥だから狭霧さん帰ってきてすぐに研ぎに出してたんですね‥‥災難な(汗)」
刃物同士がぶつかった場合、ほんの少しの差であろうと耐久性が高い方に軍配が上がる。これは材質云々の問題ではなく、折れたり砕けたり等派手な壊れ方をしなくても必ず耐久力の低い方に傷ができてしまうのだ。それを覆せるのは常識はずれの切れ味だけ。それこそ刀の耐久力そのものを叩き切ってしまえるような‥‥。
閑話休題、刀工からの手紙には『今回は一応満足できる結果が出て嬉しい。これからさらによいものを目指す』といった内容の文面も添えられていた。
既に完成といってもいい日本刀も、作っている側から見ればまだまだ改良の余地があるらしい。この刀工の刀が越後屋で売られるのは、もう少し後なのかもしれなかった。
古きを乗り越え、新しき技術を求めてやまない刀工たちに‥‥未来があらんことを―――