人気飯屋の妖怪料理
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:4
参加人数:5人
サポート参加人数:5人
冒険期間:01月14日〜01月19日
リプレイ公開日:2006年01月22日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「こんにちわぁ。あけましておめでとうございます〜」
「あ。えーっと‥‥うーんと‥‥城さんのお友達の面白い人!」
「わぉ、間違うてへんけどおもろい表現(笑)」
「冗談ですよ、谷さん♪ でも、今日も大牙城さんはいませんよ?」
新撰組七番隊組長、谷三十郎。
いつもにこにこ笑っている三十路過ぎの男性で、強いんだか弱いんだかよくわからない人物。
それに応えるは、京都冒険者ギルド職員、西山一海。
最近は谷とも結構仲良くなってきたとかなんとか。
「あぁ、別にえぇよ。せやな‥‥んなら一海くん、一緒に行くか?」
「はい?」
「最近評判になっとる、『気流』って飯屋知っとるやろ? そこの店主から招待状もろたんや」
「えぇ!? だ、だってあの店、行列は出来るわ予約はいっぱいだわで、入ることすら難しいのにですか!?」
「らしいなぁ。ほら、俺って物喰うの好きやん? 今までいろんなもん喰ってきたから、美食家とでも勘違いされとるのかも知れへんね。ホンマはただ雑食なだけやのに」
『気流』というのは、つい三ヶ月ほど前に出来た飲食店。
そこそこいい値段はするが、味は代金に見合った極上のものらしく、熱心なファンが多い。
しかも、同じ料理‥‥例えば蕎麦一つとっても、松・竹・梅の三段階のランクで注文でき、梅ならば値段もお手ごろ、しかも美味いとの評判である。
ただし‥‥『気流』には他の飲食店とは決定的に異なる点が存在する。
それは即ち―――
「一度食べてみたかったんですよねぇ‥‥『妖怪料理』。虫系妖怪はまっぴらですけど、大蟹とかは美味しそうな気がします。あと、妖怪じゃないですけど、鮫とか」
そう、『気流』は妖怪を材料にした料理をいくつも出している。
無論年がら年中食材となる妖怪がいるとは限らないので、妖怪料理は存在が不定期ではあるが。
何せ妖怪というのは、倒したら灰になったり消滅したり宝石になったりするものではなく、死体が残るものが殆ど。
その処理が美味い料理となるのであれば、誰も文句は言わない。付け加えれば材料費もかからない。
「まぁ影で色々噂はあるけどねぇ。ま、折角の機会やから行ってみよか思て」
「‥‥でも谷さん、この招待状、『最低6名様で。以後上限なし』ってなってますよ。しかも『食材持参』って‥‥」
「‥‥あー‥‥」
「‥‥全部読んでませんでしたね?」
「にゃは。ダメカナ♪」
「ダメデスヨ♪」
「わーん。ほんなら依頼っちゅーことで希望者招待しましょ。頭数がいればそんだけ材料も増えるからえぇやろ」
「またテキトーですねぇ。じゃ、報酬はなし、食材調達の義務はあれど人気料理店にご招待‥‥という形で」
「あ、『とってきた食材は自分で喰う』っちゅー規約も書いといて。おらんやろけど、蛇とか蜘蛛とか喰わされたら嫌な人もおるやろからねー」
「谷さんは平気なので?」
「‥‥にゃは(謎)」
笑顔なのに質問に答えない谷三十郎。
空恐ろしいものを感じる一海であったが、それよりもっと恐ろしい事実に行き当たる。
こんな人に、京都の平和を守る一角を任せていていいのだろうかと―――
●リプレイ本文
●貸切?
一月某日、晴れ。
正月気分も大分薄れてきたこの時期、飯屋もそろそろ客足がいつもどおりに戻ってくる。
だが『気流』のような人気店は、正月や何かしらの行事があったときほど忙しい。
美味いとはいえ割高な値段設定なので、金持ち以外はそうそう通わないのだ。
つまり、正月気分が薄れてくれば逆に余裕が出来てくるのだから不思議なものである。
「ほぅ‥‥これはすごい。座敷を一つ貸切ですか。招待でなければいくら取られるのやら‥‥」
「普通の席の方にはちゃんとお客さんがいますね。ちぇ、これでは店内の把握が出来ない‥‥(後半小声)」
拍手阿義流(eb1795)が、感嘆の息を吐きながら座敷を見回す。
風流な山水画が描かれた襖、床の間に飾られた皿等、庶民には縁遠い雰囲気がひしひしと伝わってくる。
ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)はまた別の意味で店内把握をしたいらしいが、単純に好奇心で他の部屋の仕様も見てみたいかもしれない。
「はー、ごっついなぁ。俺は店先にあったふつーの席の方がえぇわ。なんやここやと堅っ苦しい(汗)」
「おや、谷さんは庶民派なんですね。質より量‥‥ですか?」
「んなことないよ〜。俺は美味けりゃなんでもえぇんです♪」
「それにしても、女給さんがいらっしゃいませんね。大紅天狗茸がどんな味なのか速く食べてみたいんですが‥‥」
「‥‥大丈夫なのですか? 確かにここは妖怪料理を出しているらしいですが、あなたが捕まえた大紅天狗茸はまだ生きていたはずでは‥‥」
主催者‥‥というか招待状を貰い、それを依頼として出したのは、何故か新撰組七番隊組長、谷三十郎である。
雑食性で様々な料理を食べて来たのが、ここの店主に美食家であると勘違いされたのでは、とは本人談。
花東沖竜良(eb0971)もこういう高級店にはあまり来たことがないとのことだったが、性格なのか気後れしていない。
そして気後れよりも先に好奇心と食欲が先走っているのが、アゴニー・ソレンス(eb0958)。
彼が取ってきた(数が多かったので店側が喜んで買い取った)大紅天狗茸の心配をしているのが、白鳥氷華(ea0257)。
なお、西山一海は諸々の都合で欠席だという。
「大丈夫でしょう。アレは悲鳴が五月蝿いだけで、毒もなければ攻撃もしてこない無害な妖怪です」
「阿義流さん、詳しいのですね。それでもなんというか‥‥私はあの極彩色の傘をしたキノコが美味しそうにはとても見えません。結局、自分の目的のものも手に入らず、蜂の子と友人に作ってもらった特性保存食くらいしか‥‥」
白鳥は座敷に通される前に食材を渡した場面を回想する。
全員様々な材料を持ってきてはいたが、それは普通に売っているものが殆どであった。
雀(ヒューゴ)や蝮(花東沖)にはちょっと引いたが、谷が大八車に乗せた大月輪熊を平然と差し出したときは、最早ドン引きである。
と、不意に襖の外から声がかけられた。
どうやら店主自らが挨拶に来た様で、全員姿勢を正す。
襖が滑り終わり、頭を上げた店主。
眼光鋭き板前‥‥そんな印象。
「私がこの店‥‥ストリームのオーナー、黒田正輝です。この度はご招待を受けていただき光栄ですよ、谷様」
「はい? この店は『気流』というのでは‥‥」
「花東沖さん、イギリス語で気流のことをストリームって言うらしいですよ。一応看板もイギリス語みたいだったし」
「そうなのですか。全然気がつきませんでした‥‥」
ヒューゴの説明で納得がいったのか、花東沖は一人頷く。
なんでも黒田は海外で料理の修行をしていたらしく、日本でもイギリス語の店を開いたが、ストリームという単語を客が全然覚えない。
日本語でストリームが意味するところの『気流』の方が定着してしまったというのだからなんとも侘しい。
「お招きいただき、ありがとさんです。で、申し訳ないんやけど早速なんか喰わしてくれへん? 腹減ってもうて」
「お任せください。皆さんに持ち寄っていただいた食材を使って、至高にて究極の料理をお出しいたします。では、まずどなたの料理から‥‥」
そう、黒田が言い終わる前に。
『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!』
『ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇッ!』
『ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁッ!』
耳を劈く絶叫。
座敷はおろか普通席を通り越え、向かいにある民家の隣の隣くらいまでは達したか?
「‥‥私が持ってきた‥‥大紅天狗茸‥‥?」
「‥‥あぁ、そういえば鮮度を保つために土に植え替えておいたんでしたっけ。そうだ‥‥折角ですから全員の料理を同時に出してしまいましょうか。申し訳ありません、すぐに戻りますので」
アゴニーが引きつった表情で呟いたのを聞いて、慣れているのか黒田は眉一つ動かさずに厨房へ戻っていった。
「‥‥不安です‥‥やはりとても不安です‥‥」
頭を抱えた白鳥の言葉に、一同頷くしかなかったとかなんとか―――
●食
「なるほど、これは確かに凄い。値段を聞くのが怖いので敢えて聞きませんが、繁盛するわけですね。これは是が非でも鎌鼬を捕まえてきたかった‥‥」
「これは暖まりますね‥‥! なんと言う料理ですか?」
「拍手様の料理は『鶏のささ身の万々爺』。万歳の翁まで生きられるようにと考案した健康食でございます。お持ちいただいた野菜とささ身を合わせ、タレと絡めて仕上げました。多少辛いかとは思いますが、脂っぽい肉‥‥特に牛肉がお嫌いかと思いましたので」
「顔を見ただけでわかるんですか?」
「一流の料理人ともなれば造作もありません。そして花東沖様の料理は『蝮の即席酒煮込み』ですね。毒を抜いた蝮を焼酎に浸し、蒸発を可能な限り抑えて加熱。充分に栄養が出たところで蝮を豚肉と入れ替え、再度煮込んだものです」
さっきの大紅天狗茸の悲鳴でかなりの不安感が募ったが、いざ出てきた料理を食べてみると、全員そんなものは軽く吹き飛んでしまった。
なるほど、人気店になるだけあってそんじょそこらの料理とはわけが違う美味さ。
不意に持ってこられたはずの食材を生かし、その旨味を引き出している。
これなら妖怪も美味い料理になるという噂も、あながち嘘ではないかもしれなかった。
今回、妖怪らしい妖怪が捕まえられなかったのが悔やまれる(?)。
「あ、じゃあ僕の料理は? 雀を食材にしている割に、全然それっぽくないんですけど」
「ヒューゴ様にお出ししたのは『鳥の義理親子焼き』です。その鶏の腹を割ってみてください」
言われたとおり、ヒューゴが箸で丸焼き状態の鶏を割ると、中から野菜と共に雀の丸焼きが覗く。
途端にいい香りが漂い、食欲をそそった。
「内臓を取った鶏の中に野菜を入れ、先に軽く焼いておいた雀も一緒に封入。その後鶏を丸焼きにすれば、お互いの肉汁とタレが満遍なく染み渡るのです」
「ヒューゴさんの料理と違って、私のは直に蜂の子が見えるのですが‥‥」
「そうですね‥‥白鳥様にお持ちいただいた蜂の子は、実は生で食べるのが一番美味しいのです。ですが、慣れないと見た目の悪さや先入観で、本当は美味しいのに頭が不味いと認識してしまうこともあるとか。ですので今回は、塩で炒った蜂の子を、少量の醤油で味をつけた白米に混ぜ、再度炒めました。題して、『蜂の子炒飯』です。さぁさぁ、味は保障いたしますので、どうぞ」
「は、はい‥‥」
生返事はしたが、やはりいまいち気が乗らない。
茶色い飯に虫の幼虫が混ざっているかと思うだけで、自分が持ってきたものを少し後悔した。
だが他のヒトの手前、やはり食べないわけにも行くまい。
意を決して、一掬い‥‥。
「‥‥お、美味しい‥‥!? 口の中に醤油の味がふんわり広がって、その中に淡白な蜂の子が決して出過ぎない程度に存在を主張しています‥‥!」
「こ、この大紅天狗茸料理も凄いですよ! 刺身も塩焼きも大した物ですが、なんと言ってもこの鮭と一緒に焼いたのが最高でしょう!」
「あぁ、それは焼いたというより蒸したと言った方がいいでしょう。鮭と大紅天狗茸を軽く特製汁に浸し、サイコロ型の特殊な器具に入れ、釜戸へ。器具の床部分には大根を敷いてあるので、焦げる心配もございません。その横に添えてある大根が、いい具合に汁や旨味を吸い、また美味しいのです」
「あー、えぇなぁ。なんやかんやでみんな美味そうや〜。なぁなぁ、俺の熊はー?」
「勿論料理済みでございます。量が多いので、皆様にもお分けしますが‥‥よろしいですか?」
「えぇよ〜。どんな料理やろ」
「というか谷さん、よくこの時期に熊なんて見つけてきましたね。冬眠しているのでは‥‥」
「冬眠し始めのころの熊って、丸々太ってて美味いんよ?」
「‥‥わ、わざわざ巣穴を掘り起こしたので?」
「当・然。食べることに関して‥‥この谷三十郎、容赦せん!」
「なんか徐々に奇妙な感じになってるんですけど谷さんー!?」
「数え切れない薬味・調味料などを精密なバランスで配合し、特殊な味付けを施して絶妙な時間煮込むことで出来上がるこの料理! まさに至高にして究極への第一歩! これこそが!『ドーピングベアースープ』だ‥‥。さぁ諸君、この美味しさに耐えられるかな‥‥?」
「店主さんー! あなたもこの料理の説明のときだけ何かが間違ってますよー!?」
「フゥ〜、フゥ〜‥‥クワッ」
紆余曲折あったが、結局ドーピングベアースープはみんなで美味しくいただいた。
材料を聞く限り危ないものは入っていなさそうだったからである。
かくして、高級店でのオモシロな一時は終わりを告げた。
唯一気になるのは‥‥本日の妖怪料理メニュー、『大磯巾着の酢の物』の味くらいだろうか―――?