元祖、サバイバル鬼ごっこ!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月12日〜05月17日

リプレイ公開日:2006年05月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さーてみなさんお待ちかねー! 久しぶりにあの競技が帰ってきました‥‥その名も、『サバイバル鬼ごっこ』! 何やら、以外にも根強い人気がある競技らしいですね♪」
「‥‥もはや『依頼』じゃなくて『競技』なのね。どうでもいいけど」
 とある午後、京都冒険者ギルド。
 ギルド職員の西山一海は、背後からツッコミが入るのをきっぱりと無視しながら、依頼の宣伝を続けていた。
「さる貴族の方のお遊びで開催されるこの競技。今まで様々なバリエーションがありましたが、今回はなんといたって普通の鬼ごっこだそうで。開催される場所も今までと同じ山のようですね♪」
「‥‥それって、貴族にネタがなくなったってことかしらね」
「詳しく説明しますと‥‥正午に競技を開始し、24時間逃げ切れば勝利。今回は参加者の皆さんは、鬼から逃げる形ですね。しかも逃げ切った参加者さんが多ければ多いほど賞品がよくなります」
「‥‥セコイわね。急造のチームワークを見て嘲笑う気満々じゃない」
「‥‥アルトさん。なんでいちいちツッコんでくるんです? ここには藁木屋さんはいませんよ」
 先ほどからぼそぼそとツッコんでいたのは、京都の便利屋、アルトノワール・ブランシュタッド。
 いまいちつかみ所のない性格の、女情報屋である。
「‥‥暇なの。あなたくらいしか手ごろなオモチャがなくて」
「私は玩具扱いですか!?」
「‥‥文句あるの?」
「‥‥‥‥いえ‥‥」
 アルトが縄金票に手を伸ばしたので、あっさり引き下がる一海。
 彼女なら投げてくる。一般人にも容赦なく投げてくる。
 付き合いが長い分、そこのところは熟知している一海であった。
「‥‥で? 続きは?」
「あぁはいはい。ちなみに鬼は、例の如く貴族が雇った方たちです。4人が人間で、4人がシフール。これは私が勝手に調べたんですが、どうやら探知魔法を覚えている方が多いようですね」
「‥‥ふぅん。で、賞品の分配方法は?」
「それは参加者さんにお任せするそうですよ? 希望賞品は各々から聞くとして、それが貰えるかどうかは、逃げ切った人の数とか、用意できる出来ないでも変わりますし‥‥まぁ藁木屋さんに聞いてみてもらうということで。まとめると以下のようになります」

一つ:山一つを舞台とし、丸ごと全域をフィールドとする。一歩でも山から出たら失格となる。
二つ:正午から開始し、そこから24時間逃げ切れば勝ち。正午までの一時間、山に散るための準備時間もある。
三つ:疾走の術や馬等、移動スピードを上げる術や道具・ペットは禁止。また、韋駄天の草履等、体力を温存して長距離移動できるような道具類も禁止となる。飛行またはそれに属する魔法・ペットも禁止。ただし、シフールの参加者の飛行は地上2メートルの高さくらいまでは許可される。
四つ:鬼を見つけたり追いかけられたりしても、攻撃してはならない。万が一攻撃行動があった場合、審判に見つかり次第失格。鬼も怪我をするような攻撃は仕掛けてこない。
五つ:遊戯開始前に件の山に立ち入ることを禁ずる。前準備して罠などを仕掛けるのは不公平であるため。
六つ:魔法で穴を掘り、隠れるのは禁止。石化して水没するのも禁止。助けるのに時間がかかるため。
七つ:賞品は希望する賞品を任意に選べるが、逃げ切った参加者の数が多いほどよいものが貰える。スクロールでも武器でも防具でもOKだが、現金は駄目。一応、事前に藁木屋に聞いておくと確実かもしれない。額の目安は30G。

「‥‥分かりやすく、捕まえられたら失格‥‥ね。私や錬術みたいに避けるのが得意なやつは有利ね」
「どうでしょうねぇ。向こうも魔法とかで妨害してくるんじゃありません?」
 ある意味伝説のお遊び、サバイバル鬼ごっこ。
 さて‥‥今回はどんな策が飛び出すやら―――

●今回の参加者

 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3402 エドゥワルト・ヴェルネ(19歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2823 シルフィリア・カノス(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb3916 ヒューゴ・メリクリウス(35歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)

●サポート参加者

藤袴 橋姫(eb0202)/ ルーク・マクレイ(eb3527)/ 奇 面(eb4906

●リプレイ本文

●勿論向こうも調べてきましたが
「のろま鬼、あんたの相手はこっちだよ!」
「‥‥。現状の逃走者の追跡を続行ぉぉぉっ!」
「無視かいっ!? 上等じゃんか!」
「捕まえづらいとわかってる奴をわざわざ追うかぁぁぁ!」
 一瞬止まったシフールの鬼は、ちらっとクリムゾン・コスタクルス(ea3075)を見た後、即刻他の鬼に指示を出す。
 どうやらシフール鬼のリーダー格らしく、他二人のシフールも威勢よくそれに従った。
 まぁ捕まえられては元も子もないので、流石のクリムゾンも迂闊に近づこうとは―――
「待ちな! 意地でもあたいの相手をしてもらうよっ!」
「趣旨理解しとんのかお前はっ!? 逃げる役が追って来てどーする!」
「ふっ‥‥仲間のために身体張れるのが本当の強者ってやつなのさ」
「かっこよくないかっこよくない!」
「ごちゃごちゃ五月蝿いね! 男ならかかってきな!」
「いいや限界だッ! 他の奴を追うねッ! 今だッ!」
 そう叫ぶと、シフールはさっと反転してクリムゾンを置き去りにした。
 ちっ、と舌打ちして再び潜伏に回るクリムゾン‥‥その表情からは、本気で相手をさせるつもりだったという意思と、それでも逃げ切ったのにという自身が見え隠れしていた―――

●ふっ‥‥俺は実力の10%も出せてないぜ!
「ふ〜む、ルールに違反するから、かなりの魔法やスクロールが使えん‥‥」
 先ほどまでシフールの鬼3人に追われていた黒畑緑太郎(eb1822)だったが、クリムゾンの横槍によって一先ずの危機は脱していた。
 荷物の重たい黒畑では、不意に遭遇したシフールを振り切れるわけもなく‥‥彼女が鬼を引き付けてくれなければ、今頃はあっさり捕まっていたかもしれない。
「ブレスセンサーも過信はできないなぁ‥‥効果時間が過ぎたら感知できないし、スクロールだから連発もできない」
「くっくっく‥‥長時間版を使える我々とでは差がありすぎるというわけだな」
 夕焼けが目に眩しい。
 森の木々を抜けてくる夕焼けの光を背にし、先ほどのシフール3人組が黒畑に追いついてきていた。
「‥‥このままでは逃げられない‥‥か。ならば最終手段! これだけはやりたくなかったが‥‥むんっ!(むきっ!」
 手際よく荷物を降ろし、漢の褌一丁となった黒畑が、美しくもかっこいいポーズをとる‥‥!
「うぅっ! う、美しい‥‥!」
「よし、今のうちに‥‥」
「ってアホかぁぁぁっ! それは一瞬しか効果がない上に、立ち止まらなければいけないのが弱点だっ!」
「あぁぁ、わ、私の本領は夜になってから発揮されるのにー!」
 本気で捕まえにきている鬼役たちに容赦はない。
 厄介なムーンフィールドを張れる黒畑は、夜になる前に確保せよという指示でもあったのだろう。
 とにかく、黒畑はここで失格―――

●とにかくやることナッシング
「あー‥‥ヒマっす‥‥。寝ちゃいそうっす‥‥」
 こちらは、黒畑とはかなり離れたところにある茂み。
 オヤビンと別行動して寂しげにしているのは、太丹(eb0334)である。
 何故か彼も褌一丁となり、毛布にくるまって保存食などかじっているが、言葉のとおり暇を持て余している模様。
「賞品‥‥武闘着以外にも、ご飯とか食べさせて欲しいっす‥‥。あのマントとかあればそりゃあもうくっくっく! ‥‥っす」
 夕焼けに染まる森の中で、フトシたんは夢心地である。
 鬼が迫っている様子もないので、フトシたんはしばし夢の世界に身を委ねていた―――

●えっ! それってありなの!?
『近江牛を和洋折衷風に食べさせるお店が気になるんだけども、3人で一緒に行かないか? もし賞品に僕がスクロールを貰えたら、食事代は奢りでご馳走するよ』
 鬼ごっこ開始前に、八幡伊佐治(ea2614)は、鬼役のシフール4人のうち、女性二人にこう声をかけていた。
 流石は噂のナンパマスター、彼女たちのハートをガッチリ鷲づかみ。種族の壁こそあれ、さらっと味方を二人も調達したのである。
 現在、木の上に陣取っている八幡の側には例のシフールの女の子が一人いて、楽しくおしゃべりしていた。
「しかし残念。もう一人の娘も山の中で会えればおしゃべりできたんじゃがなぁ(笑)」
「ですよねぇ。わざわざ追いかけっこして疲れるなんて馬鹿馬鹿しいですよ。伊佐治さんとお話してるほうがずっと楽しい♪」
「お、嬉しいなぁ。僕ぁ、実際にこんなにモテたのは初めてかも知れん」
「えー、嘘ぉ。こんなに面白い人なのに?」
「いろいろあるんじゃよー。何やら誤解されやすいタチらしくて(何)」
 シフールの娘は、この一帯は自分が探すことになっているから、他の鬼が来る心配はないという。
「そうだ、協力してくれたお礼に、近江牛のお店とは別に何か買ってあげよう。万が一僕が捕まっても、君にあげるよ。あ、でもあんまり高いのは駄目じゃよ?(苦笑)」
「はーい、わかってまーす♪」
 嬉しさのためか、シフールの娘が伊佐治にぽすんと抱きつく。
 その時だ。
「はい、八幡選手失格。スタート地点に戻ってください」
『は!?』
 ふと上を見れば、鬼役ではないはずのシフールの姿。八幡とシフールの娘の声が綺麗にハモった。
「私たちは鬼とは別に、完全中立の立場で審判をしています。鬼と逃げる役の癒着なんざ知ったことじゃありませんが、八幡さんが鬼に触れられたことは事実。よって失格を宣告します」
 反則スレスレの手を使った八幡は、そういうことは先に言っとけと叫ぶこともできず‥‥ただただ呆然としたという―――

●ジプシーは見た!
「うーん‥‥用意周到というかなんというか。主催者側もやってくれますね」
 木の陰から顔だけ出して唸るのは、ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)。
 インビジブルを駆使し、探知魔法を使う志士の鬼役たちから逃げてきた彼は、たまたま八幡たちのやり取りを聞いていた。
 どうやら審判の完全中立というのは嘘ではないらしく、八幡からすいっと離れていったのだ。
 すでに日もとっぷりと暮れているので、彼の目のよさが役に立つ。
 とにかく、別に彼らが鬼に逃走者の居場所を教えているわけではないらしい。
「さて‥‥どうしましょうか。話を聞いていた限りでは、あのシフールの娘がここら一帯を任されていて、八幡さんを庇っていた。しかし八幡さんが失格となってしまった今では、あの娘は普通の鬼と変わらないと思ったほうが妥当でしょうし‥‥」
 ヒューゴがあれこれ思案していると、シフールの娘は八幡を見送った後、しょんぼりした顔でどこかへ飛んでいってしまった。
 それを見て、ヒューゴはここら辺はしばらく安全になったなと直感し、身体を休めることにした―――

●壁は味方とは限りません
「今回、私が使える魔法で有効そうなのはホーリーフィールドだけですが、これを如何に使うか‥‥ですね」
「あだっ!? こ、このっ‥‥馬鹿にしてるのか!?」
 志士の鬼役の一人に追われるシルフィリア・カノス(eb2823)は、普段のおしとやかな服装を動きやすいものに代え、他二名を伴って木々の間を逃げ回っていた。
 鬼がだいぶ接近してきたら高速詠唱でホーリーフィールドを発動、不意の衝撃で怯ませてまた距離を離す‥‥という具合だ。
「あちらもなかなかしぶといですね。あれだけぶつかってもまだ追ってきてますよ」
「困りましたね‥‥寝る場所を確保する前に、これ以上魔法を使いたくないのですが‥‥。魔力は有限ですから、節約出来るに越した事はないですからね」
 クリムゾンに被り物を作ってもらっていたミラ・ダイモス(eb2064)もまた、シルフィリアと一緒に逃走している。
 最初はクリムゾンと行動を共にしていたのだが、鬼に逆に突っかかっていったり、あえて目立つ行動をとったりする彼女の近くにいるのは危険と判断、山を移動中にシルフィリアに会ったのだ。
 こんな夜中だというのに、鬼役の志士はほぼ日中と同じようなスピードで二人を追い立てる。どうやらインフラビジョンでも使っているようだ。
「こっちへ。この先に行くと別の鬼がいる」
 聞き覚えのある声が闇から聞こえた。近づいてみれば、それはエドゥワルト・ヴェルネ(ea3402)。
 彼が大木の根元をプラントコントロールで操作、人が4人は入れそうな空間を作り出したらしく、二人にその中へと誘っているのだ。
 ミラの身長を考慮しても、なんとか3人入れないこともない。
「よし‥‥入り口を塞ぐよ」
 空気の入れ替えのための隙間はあるが、シフールでも腕は通らない‥‥ある意味完璧なバリケードに見えなくもない。
 橋で移動するだけでは限界を感じていたエドゥワルトの、苦肉の策であった。
「あの‥‥ちょっとよろしいでしょうか。もしかして、この場所って逃げ場がないのでは?」
「‥‥し、しかし、攻撃が禁止されている以上、例え見つけられても鬼も手出しができないのでは‥‥」
 ミラが希望的観測を述べた時だ。
「お話は済ませたか? 神皇様にお祈りは? 籠の中でがたがた震えて許しを請う心の準備は完了?」
 エドゥワルトが言っていた別の志士が、にやっと笑って外から声をかけてきた。手には鉈‥‥どうやら根を切断して意地でも3人を捕まえるつもりらしい。
 要は本人を攻撃するのでなければいい。ただ、邪魔な根を排除するだけ―――

●総括
 参加者8名。うち、逃走成功者はヒューゴとフトシたんの2名。
 ヒューゴは実力と根気で、フトシたんはなんと鬼に一度も遭遇すらすることなく、運だけで。
 クリムゾンも健闘したが、参加者が少なくなって鬼が集中しやすくなったこと、眠気で動きが鈍ったこと等で、シフールの追撃を逃げ切れずに、とうとう失格。
 半分行方不明だったフトシたん発見時、『まだまだその気になれば、ヤング弁当食い放題っすよ』という寝言に八幡が全力でツッコミを入れ‥‥今回は珍しく、参加者の負けっぽい幕切れとなったのである―――