輝け! 第二回又の名コンテスト!

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月15日〜07月20日

リプレイ公開日:2006年07月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――


「う〜、茶店茶店」
 今、茶店を求めて全力疾走してる俺は、新撰組に属するごく一般的な武士。
 強いて違うとこを上げるとすれば、七番隊組長ってとこかナ―――
 名前は谷三十郎。
 そんなわけで、屯所の帰り道にある茶店にやってきたんや。
 ふと見ると、茶店の店先に一人の虎覆面を被った武士が座っていた。
(「ウホッ! いい武人‥‥」)
 そう思っていると、突然その武人は俺の見ている目の前で愛刀の太刀を抜きはじめたんや‥‥!
「闘らないかッ!?」

「よかったのかな、ホイホイついてきてッ! 私は新撰組とて構わず戦いを挑む無頼なのだぞッ!」
「こんなんはじめてやけど、えぇんや‥‥。俺、大牙城さんみたいな武人好きやから‥‥」
「嬉しいことを言ってくれるではないかッ! それではとことん攻めさせていただこうッ!」
 言葉通りに彼はすばらしい技巧派やった。
 俺はというと、槍を通して伝わる剣戟の重みに身を震わせて感動していた。
「むッ!? もう降参かッ!? 意外と早いのだなッ!」
「あんまり闘気がすごくて‥‥。こんな死合したの初めてやから‥‥」
「だろうなッ! 私も初めてだッ! ところで私の太刀をみてくれッ! こいつをどう思うッ!?」
「すごく‥‥長船です‥‥」
「‥‥いいことを思いついたッ! 谷殿、今度は私の覆面を剥ぎ取るつもりで闘うのだッ!」
「えーっ!? 俺のほうから槍でですかぁ?」
「武人は度胸ッ! 何でもためしてみるのだッ! きっと緊張感が高まるぞッ! さぁ、遠慮せずにかかって来いッ!」
 彼はそういうとスマッシュを放つ体勢を取り、剛健な愛用の太刀を俺の前に突き出した。
 自分の覆面を剥ぎ取らせるつもりで闘わせるなんて、なんて武人なんだろう‥‥。
 しかし、彼の見事に誂えられた虎覆面を見ているうちに、その素顔を見てみたい欲望が‥‥。
「それじゃ‥‥いくで‥‥!」
 ガギィ! ギィン! ガンッ! ギリギリギリ‥‥!
「ご‥‥ごっついわぁ‥‥!」
「まだまだッ! 次は技も添えるッ! しっかり踏ん張らないと、槍ごと真っ二つぞッ!」
「ぐぅっ!? こ、この程度で‥‥! 伊達に新撰組七番隊組長しているものかぁぁぁっ!」
「その分だと相当猫を被っている様子だなッ! 全開になった闘志をビリビリ感じるぞッ!」
「でぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 この初めてのギリギリの死合は、新撰組内では知ることのなかった破壊力を俺にもたらした。
 あまりの激しい剣戟に全体力を使い切ると同時に、俺は満足感の中であっけなく引き分けてしまった―――


「‥‥なんか、激しく妙な想像を掻き立てられるのは私だけですか?」
「‥‥いや、なんとなくだが私も嫌な感じがする‥‥」
 いつもの京都冒険者ギルドの一角。
 しかし今日は新撰組七番隊組長の谷三十郎、京都の便利屋・藁木屋錬術に加え、ギルド職員の西山一海、大牙城の4人が珍しく鉢合わせしていたのである。
 さきほどから谷と大牙城は嘘か本当か怪しい思い出話を語り、談笑していた。
 聞くだけの一海と藁木屋は、なんだかげんなりしているが。
「ちゅーわけで、大牙城さんは『斬断の虎』てあだ名つけられたんよねー」
「なんのッ! 谷殿こそ、『絶貫の龍』という名を贈られたではないかッ!」
「あの話の流れでどーしてそんなカッコイイあだ名がつくんですか!?」
「あっはっはー。つけた人に言うたってー(笑)」
 何故彼らがあだ名の話をしているかというと、近々京都で『又の名コンテスト』なるものが開かれるらしいからである。
 元々は江戸のほうであった催し物らしいのだが、話を聞いた京都の物好きが『こっちでもやろう』と言い出したらしい。
 ただし、対決形式は時間を食うので、『参加者の持つあだ名や経歴を弄って盛り上がろう』という趣旨に変えたとか。
 その場で新たなあだ名をつけられることもあるだろうから、初心者でも安心とか何とか。
「しかし‥‥何故私と一海君がまた審査員なのだ‥‥」
 手元の審査員要請に目を落として、ため息をつく藁木屋。
 どうやら彼の又の名‥‥『貧乏くじ同心』は、同心を辞めた後にも付きまとっているようである―――

●今回の参加者

 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0202 藤袴 橋姫(24歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb4467 安里 真由(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4906 奇 面(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

所所楽 苺(eb1655)/ 明王院 浄炎(eb2373)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

●本日はお日柄もよく
 某月某日、晴れ。
 すでに多くの観客が詰め掛けている会場は、気候も相まって熱気充分。
「さーみなさんお待ちかねー! これより、第二回又の名こんてすとを開始いたします! 進行役はこの私、冒険者ギルド職員の西山一海が務めます! どうぞよろしく〜♪」
 会場から歓声と拍手が飛ぶ。
「そして! 真面目に考察するならこの人! 京都の何でも屋にして武芸の達人! 藁木屋錬術さんでーす!」
「あー‥‥任されたからには、最善を尽くそう」
 何をしたら最善かはわからないがね‥‥とは、彼の心中だが。
 品評役(?)の藁木屋錬術が紹介され、いよいよ本番開始である。
 さて‥‥今回はどんなあだ名が飛び出しますやら―――?

●拍手阿邪流(eb1798)
「口火を切るのはこの人! 陰陽師にして妙に喧嘩が強く、その美貌と裏腹な野生的雰囲気が女性方に大人気! 京都の名物双子の弟さんの方! 拍手阿邪流さんでーす!」
 一海の紹介に、会場から黄色い声が多数上がる。
 逆に、男衆からは軽いブーイングが(笑)。
「あぴいるだったな。ふ、見ての通り、俺は頭が悪りぃ! だからその分喧嘩が強ぇんだ!(拳を握り締める)俺が本職には勝てねぇことは分かってんだ‥‥だからそれを補うためにも目とか忍足とか鍛えてんだ! 居合いも避けてやる! 負けねぇぞ!!」
 威勢のいい立ち振る舞いに、黄色い声はますますヒートアップする。
 無論、ブーイングもヒートアップする(邪笑)。
「‥‥うん? もしかして阿邪流君は、あだ名を持ち合わせていないわけか」
「おう。ここまで陰陽師らしくない行動をとってがんばって(暴れて)んのに、誰もあだ名くれねーんだよ。せくしー陰陽師でもチンピラ陰陽師でもはぐれ陰陽師でもいいから、何かあだ名をくれ」
 藁木屋の問いに即答する拍手。
 確かに、彼が今まで何のあだ名も付けられずに来たのはけっこう不思議である。
「ところで、せくしーとはなんだね一海君」
「そうですね‥‥『性欲を持て余す』ってところですかね」
「微妙に違ぇーっつーの」
「本人が望んでいるのだから、それでいいのでは‥‥」
「駄目です。あだ名なんてのは、必ずしも本人が望むものとは限りません!」
 そういうと一海は、じろじろと拍手の格好を見回し‥‥。
「『桃色ヒヨッ子陰陽師』でいきましょう」
「あぁ!? おいこらっ、よりによって意味わかんねぇし! これか!? このヒヨコが悪ぃのか!?」
「はーい、時間もないので次の方ー!」
「おーーーーいっ! 納得! 納得いかねぇぇぇぇぇっ!」
 謎の黒子たちに連れられ、拍手は無理矢理引っ込まされたのであった―――

●奇面(eb4906)
「二番手は! その鉄仮面の下の素顔やいかに!? 謎が謎を呼ぶ妖怪研究者! 区切って呼ぶと怒る、奇面さんー!」
 一海の紹介で、ゆっくりと壇上に上がる奇面。
 拍手の後のせいか、鉄仮面の迫力に押されてか‥‥とにかく会場はしーんと静まり返る。
「奇面と申す‥‥。昔の名前はあったが忘れた」
 そう呟くと、何を思ったか始めたのは土蜘蛛の生態内容やら豚鬼の急所やらの解説。
 土蜘蛛の目玉や足などを取り出してまで続けるので、観客はかなり引いている。
「ご、ごほん。もしや、奇面殿もあだ名がないのですかな?」
「うむ‥‥。わしは常に研究となるモノを探している。今日は暇つぶしと研究発表のために来た」
「いや、だからって土蜘蛛解説はやめましょうよ。泣き出しちゃった子供さんもいますよ」
「‥‥‥‥」
 ちらりとその子供をみやり、『どうしたらいい?』という雰囲気で藁木屋を見る奇面。
「えー‥‥では、奇面殿には『探研の鉄(たんけんのくろがね)』という名をお送りするということでどうだろう」
「い、異議なしです。奇面さん、ありがとうございましたー!」
「終わりか‥‥わかった」
 一刻も早く会場の空気を何とかしようとする藁木屋たちであった―――

●アンドリュー・カールセン(ea5936)
「そ、それでは気を取り直しまして! 元々はキャメロットで活躍なさっていた凄腕レンジャーさんで、特に気配を殺すことと戦場での工作は天下一品だとか! ご登場願いましょう‥‥相楽さんでーす!」
 と、一海の紹介で出てきたのは一人の青年。
 壇上に進み、手を後ろに組んで足は肩幅に開く、いわゆる『休め』の姿勢で立つ。
「‥‥一海君、彼の名前はアンドリュー・カールセンとなっているのだが‥‥頼むから危ない洒落はやめような?」
「問題ありません」
「あぁ、問題ない」
「ないのかっ!?」
 とりあえず、これ以上引っ張るのもなんなのでアピールタイム。
「自分の又の名は『プロフェッショナル』。由来は任務遂行を第一に考える姿勢からだろう。『レイ・ヴォルクスに仕えし者』という又の名もあるが、それについては言及を拒否する」
「へー、なんのプロなんですか?」
「戦争のプロフェッショナルだ。その証拠に、この会場に様々な仕掛けを施した」
「君かっ! 会場前に妙に怪我人が多いと思えば‥‥頼むから穏便に頼む」
「了解した。次回からの参考にしよう」
「レイなんちゃらっていうのは何なんです?」
「大天使だ」
「は、はぁ‥‥まさに触れるな、と?」
「肯定だ」
 顔はいいが、いまいちつかめない‥‥というか、一般人とは明らかにズレた感覚。
 だが、それだからこそ、彼が超優秀な工作員であるとは誰も思わないのであろう―――

●明王院未楡(eb2404)
「お次は! なんとこの美貌にして四児の母! 大和撫子という言葉と巫女服の似合うお姉さま‥‥おや、お母様!? たおやかな雰囲気にクラクラです! 明王院未楡さん〜!」
 一海のコールで明王院が登場すると、今度は男衆から歓声が上がる。
 そして、はたと紹介を思い返し、旦那さんにいくばくかの殺意が集中する。
 とはいえ、当の妻のほうはのんきなものである。
「色々な方の二つ名の由来を聞ける機会なんて‥‥そうありませんものね。この後も楽しみ‥‥ですね」
 彼女が所持するあだ名は3つ。
 強く暖かな母、見返り美マダム、水仙の君‥‥聞けばどれも彼女にふさわしい、美貌を称えるような名だ。
「なんていうか‥‥ツッコミどころが無さ過ぎてつまりません‥‥」
「居るのだな、こんなに完璧な女性も」
「あら‥‥私は完璧などではありません。もし、そう見えるのであれば‥‥夫のおかげです」
「えっと、夫さんのためにもそれ以上の惚気はやめたほうがいいかと(汗)」
「あら?」
 この後、夫さんのほうが知らない人間から恨まれたかどうかは定かではない―――

●安里真由(eb4467)
「続きまして、霊刀ホムラを操るお嬢様! 京都見廻組所属、間桐‥‥」
「あ・ぶ・な・い・しゃ・れ・は・や・め・よ・う・な?」
「えー‥‥、安里真由さんでーす!(泣)」
「えっと‥‥妙な御紹介、ありがとうございます。私のあだ名は‥‥見廻組並は役職ですから‥‥。け、欠食冒険者‥‥です」
 会場から、『あー』とか『あるある』とかいう声が聞こえる。
「あぁ‥‥そういうあだ名を付けられてしまったのか」
「はい‥‥いい加減払拭したいんですけどね」
「無理です」
「即答ですかっ!?」
「それ系のあだ名は、一度背負ったら二度と拭えない十字架なのです! どうしてもと言うなら、それを付けた神様に懇願をっ! ‥‥少なくとも、私たちにはどうにもできません(男泣)」
「代わりに、この名を贈ろう。少しでも慰めになるといいのだが‥‥(男泣)」
「えっ、えぇぇぇっ!? あの、嬉しいですけど、できれば、欠食の方を‥‥!」
「無理です、ごめんなさい! 黒子のみなさんっ!」
「うわーん!? 新しいあだ名って何なんですかぁぁぁぁぁっ!?」
 黒子に連れられ、退場させられる安里。
 その新たなあだ名は‥‥『黒髪黒眼、灼焔の真由(くろかみこくがん、しゃくえんのまゆ)』―――

●藤袴橋姫(eb0202)と‥‥?
「で、では次はー! 無理、無茶、無策、無謀! その細腕に斬馬刀を握り締め、今日も強さを求めます! 実は甘味が好きだったりするところがポイント高し!  藤袴橋姫さん〜!」
 と、藤袴が出てきたのはいいが、何故か縄でぐるぐる巻きにされた、巫女服姿の雨宮零(ea9527)も一緒だったりする。
「雨宮君? 君の出番は最後‥‥と言うのも野暮か」
「助けてください〜!(うるうる)」
「‥‥ああ、うん‥‥あぴーる、だから‥‥」
「それでなんで僕ですかっ!?」
「‥‥私のあだ名‥‥『修羅』、だから‥‥。‥‥何か、か‥‥誰か、斬ろうか‥‥と‥‥。‥‥こんな、感じで‥‥」
 と、雨宮に斬馬刀を向ける藤袴。
「うわわっ!? 藁木屋さん、西山さん、助けてくださいっ!?」
「大丈夫です。ここで『お姉ちゃん、助けてぇ!』って言えば、観客席から頼もしい味方が‥‥」
「要りませんっ!?」
「‥‥終わったら‥‥甘味、供える‥‥」
「嬉しくありません〜!」
 と、収集がつかなくなり始めたときだ。
「七番の予定だった、俗世ひた走るモテモテ坊主、八幡伊佐治26歳。何やら滅茶苦茶になる前に登場しておこう」
 順番どころかコンテストそのものが滅茶苦茶になりそうだったので、八幡伊佐治(ea2614)は勝手に登場した。
 まぁ、雨宮を助けてやろうと思って出てきたのだが。
「橋姫ちゃん、あぴーるで人を斬っちゃいかんよ。特に彼や僕のようないい男は、無碍にしたらもったいないんじゃよ? さぁ、刀を収めて。何なら僕が相手しちゃおうかのー(笑)」
 人智を超越したナンパ氏である、八幡のアプローチは‥‥!
「‥‥‥‥じゃあ」
 さくっ。
「どぉあぁぁぁっ!?」
 見事に曲解された(笑)
 結局、この流血騒ぎで、コンテストは有耶無耶になってしまったが‥‥新たなあだ名を得た人も多いだろう。
 まぁ、一番の失敗は‥‥大会時間を長く設定しなかった運営側のミス―――(滝汗)