谷さん日記 〜檀家よ立ち上がれ〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2006年08月22日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「こんにちはぁ。ちょぉ助けたってください〜」
「むぅっ!? 如何なされた、谷三十郎殿ッ!」
 ある日、冒険者ギルドの暖簾をくぐってきたのは、新撰組七番隊組長・谷三十郎であった。
 その応対をしたのは、谷の友人であり、虎覆面を愛用する謎のギルド職員、大牙城である。
「んーとなぁ、最近右京の隅っこの方にある『欄平寺(らんぺいじ)』ってお寺に、火車って妖怪が出没するようになったらしいんよ。それで、一人じゃ逃がしてまうかも知れへんから、協力してもらえんかな思て」
「ほうッ、また手強い妖怪だなッ! しかし、独りとはッ!? 七番隊の面々はどうして呼ばないのかなッ!?」
「いやー、これ、俺が個人的に頼まれたことですねん。私的に七番隊のみんな使ぅて怪我でもさせたら、近藤さんに怒られてまうからね。それで、ギルドにお願いに来たんや〜♪」
「流石は谷殿ッ! 義を見てせざるは勇無きなりというわけだなッ!」
「あー‥‥なんちゅーか、それもあるんやけど‥‥」
 歯切れ悪く頭などを掻く谷。
 それを見ていた大牙城は、頭の上に『?』を浮かばせた。
「俺ん家、欄平寺の檀家になっとるんや。これから俺が入る墓立てる寺やろ? なんとかしとかんと、安心して逝けんかなーて。他の檀家さんのためにもねー」
「縁起でもない‥‥とは言うまいッ! 漢たるもの、いつでも死と隣り合わせよッ!」
「ほんじゃ、募集よろしくお願いします〜。逃げられんよう頑張りましょ〜」
 ひょうひょうと去っていく谷三十郎。
 その笑顔が崩れることは、滅多にない―――

●今回の参加者

 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea0299 鳳 刹那(36歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0696 枡 楓(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6717 風月 陽炎(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb3991 フローライト・フィール(27歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

島津 影虎(ea3210)/ 井伊 貴政(ea8384)/ 千住院 亜朱(eb5484)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868

●リプレイ本文

●一蹴
「ちゅーわけで、お堂で火車を待ち構えてえぇですかー?」
「だが断る。この浦部路庵(うらべ ろあん)の最も好きなことの一つは! 神聖なるお堂を戦場にしようとする罰当たりに、『否!』と言って断ってやることじゃ‥‥」
 件の寺、欄平寺の住職である浦部路庵は、谷三十郎及び冒険者の要望をあっさり拒否した。
 一応、使っていないお堂を、とは言ったのだが、京都の土地も無限ではなく‥‥どこもお堂を余らせている余裕などない。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ。こっちはあなたの頼みを聞いて色々考えてきたんだからぁ、少しくらい協力してくれたって罰は当たらないと思うけどぉ?」
「‥‥いえ‥‥和尚様の仰ることも‥‥御尤もです‥‥。‥‥僧侶の端くれとして‥‥お堂が火災に遭うかも知れない状況は‥‥どうかと思っていましたから‥‥」
 鳳刹那(ea0299)は軽く講義したが、僧兵である長寿院文淳(eb0711)は住職の意見を支持する。
 まぁ確かに、お堂が焼けてしまったら弁償金はとんでもないことになる。
 それに‥‥お金には代えられない物もたくさんあるであろう。
「ちぇっ、作戦がおじゃんか‥‥ま、しゃーないさね。この国の建物は燃えやすくていけないな」
「ふむ‥‥屋外での戦いですか。まぁ想定の範囲内ですね。少々不利ではありますが‥‥」
「まぁ、俺としては逆に動きやすくなったかも知れんな。何せ、俺はデカくて重い」
 ネフィリム・フィルス(eb3503)、ベアータ・レジーネス(eb1422)、風月皇鬼(ea0023)は、さくっと思考を切り替え、墓場での戦いを念頭に置いた。
 確かに外なら激しく動いても床を踏み抜くこともないだろうし、火災になることもなかろう。
 反面、火車が自由に空を飛べたり、逃げられやすいという大きな欠点も存在するが。
「火車が何考えているかは知らないけど、仕事だしね。どこで戦うにしても、俺はやつを射抜くだけだよ」
「さて‥‥約一年ぶりの依頼です。勘を取り戻すためにも、精一杯やらせていただきましょう」
「あっはっはー、みんなその意気やー。頑張って火車を倒しましょー♪」
 フローライト・フィール(eb3991)、風月陽炎(ea6717)もやる気満々なので、谷は上機嫌である。
 不利な環境で戦わなければいけないと言うのに、いつものようにけらけらと笑った。
「むぅ、そういえば此度の相手は火の車かの? ふっ、最近おおくしょんで黒字になったうちの敵ではないわっ!」
『違う違う』
 外に出る際、思い出したかのように言った枡楓(ea0696)の言葉は、全員に否定されたが‥‥まぁ蛇足である。
 もし、火車がそんなに楽な相手であったとしたら。
 それは、どれだけよかったであろうか―――

●恐怖の猫
『くけけけけけけけけ! 邪魔するのか人間ども!? ならば容赦はせんぞぉ!!』
 雨風が激しくなってきた、夜の墓場。
 待ち構えていた冒険者たちの前に現れたのは‥‥1.5メートルほどの、二本足で立つ猫。
 少なくとも炎を纏っているという点を除けば、外見だけ見るとそんな感じだ。
 火車は上空7〜8メートルの辺りで浮遊したまま、一行を恫喝する。
「安らかに眠ってる遺体を無理矢理盗んでいくなんて、許せませんねぇ。必ず仕留めてあげましょう」
「‥‥鳳、無駄口はいい。早くオーラパワーの付与をして回るんだ」
「え? それは、どういう―――」
「いいですから、皇鬼さんの仰ったとおりにしてください。あの相手‥‥只者じゃありません」
 皇鬼、ベアータが極めて真剣な表情と声で言うので、鳳は慌てて魔法の詠唱に入る。
 彼らには感じられたのだろう。火車の、恐るべき実力が‥‥。
「レジストデビル、詠唱完了。道返しの石で結界も張ってあるんだ‥‥負けやしないさね!」
「敵は上空‥‥俺の弓で、引き摺り下ろしてやりましょうか」
 オーラパワーの付与が終る前に攻撃されてはたまらないので、フローライトは早速矢を番える。
 矢の代金を谷が負担してくれると言うので、遠慮無しに射るつもりだ!
 しかし!
『げぎゃぎゃぎゃぎゃ! 遅い遅い遅ぉぉぉいっ!』
「なっ‥‥!?」
 矢の準備を終え、今放とうとした瞬間‥‥フローライトは吹っ飛ばされた。
 爪の打撃力もさることながら、纏った炎のダメージも追加されるのが痛い!
 火車は上空から一行の隊列のド真ん中に降り立ち‥‥フローライトを殴りつけたのである。
「速い!? くっ、魔法の付与がなくとも、足止めくらいは‥‥!」
「‥‥私は‥‥叩けます‥‥!」
 オーラパワー無しの陽炎と、付与が完了している長寿院が、すぐさま行動に移す。
 しかし、火車は陽炎の金鞭をギリギリで回避! 長寿院の大錫杖だけが、火車を捉える!
『俺様に傷をつけるかぁぁぁっ! 下等生物がぁぁぁっ!』
「‥‥くぅっ‥‥! こんな‥‥もので‥‥!」 
 長寿院を殴り飛ばして中傷とした火車は、さらに一行の間を縫い‥‥ウインドレスの魔法を詠唱中のベアータに向かう!
「まずい‥‥今近づかれては‥‥!」
「任せて! 鳥爪撃!」
 ベアータの一番近くにいた鳳が、魔法を中断して援護に入る。
『やかましい! 失せろぉぉぉっ!』
「つっ!? や、やっぱり魔法がかかってないと、攻撃が効かないわねぇ!」
 思いの他の攻撃に驚いたのか、鳳の直撃を受けつつ迎撃した火車は、一旦上空へ逃れる。
 まだもう一回くらいは攻撃の余力があったのだが、念を置いて空へ上がったのだ。
「助かります。ウインドレス!」
「うちも攻撃じゃ! 第壱激、ロープで絡め獲り!」
 ベアータは鳳にウインドレスをかけ、無風状態を作り出す。これでストームでの吹き飛ばしは封じられる。
 続けて枡が水に濡らしたロープを投げつけ、火車を絡め取る!
『馬ぁ鹿ぁがぁ!』
 しかし、あっという間にロープは乾き、燃え出す。
「あー! うちのロープがー!」
「やつめ‥‥戦いなれているな。それに、自分をよく知っている。手強いぞ‥‥!」
 現在、有効打になったのは長寿院の一撃だけ。
 それに比べ、こちらは3人が中傷である。
 皇鬼の苦々しげな台詞が、戦況の全てを物語っていた。
「ありゃりゃー、ごっつぅ強いなぁ。こりゃ困ったわー」
「笑ってる場合かな、谷さん。矢の代金を負担してもらうだけじゃ割りに合わない気がしてきたよ」
 十文字槍で肩を叩きながら、全然困ったように見えない風に笑う谷。
 フローライトは、改めて上空に矢を放つが‥‥強い風と雨で狙いは反れるし、発射時の体勢も危うい。
 矢ばかりが無駄に空を切っていく。
「おいおい‥‥道返しの石の結界の中でも平気で動き回ってるぞ。ホントにアンデッドなのかい、あいつは」
「いんや、効いてる思うよー。ただ、相手が強いから効果が無い様に見えるだけやー」
「確かに強いですが‥‥谷さんは何故そんなに落ち着き払っているのですか?」
 谷はネフィリムの疑問にもにこやかに答える。
 陽炎も、その他の面々も‥‥谷に疑問と言うか、不信感を持ち始めてしまったようだ。
「ありゃ? みなさん恐い顔しちゃ嫌やー」
「な、ならしっかり戦って欲しいわねぇ。一人だけ日和見する気ぃ?」
「本当に強いのかのう? 新撰組七番隊組長さんは‥‥」
 当然と言えば当然の反応。
 忙しくて付いてこられないというならまだしも、付いてきてサボっているので話にならない。
「んー、しゃーないなぁ。ほんなら真面目にやりましょかー」
 鳳にオーラパワーをかけてもらい、上空を見上げる谷。
 火車は、遥か上空からライトニングサンダーボルトの魔法で一行を狙撃してくる!
「ち‥‥仕方ない、例の作戦で行くか。フン! 大妖と聞いていたが、コレでは魔法が使えるようなった蝿と変わらんな! 屍に集り、人の頭の上からやかましく騒ぎ立てる。所詮はその程度の輩と言うわけだ!」
 皇鬼の叫びが聞こえたのか、火車が凄い勢いで落下してくる。
 また地上戦を仕掛ける気だ!
「もうみんなに魔法行き渡っとるよねぇ? 準備はえぇですかー?」
「ばっ!? 馬っ鹿野郎、谷さん! 後ろ見ないと死んじまうさね!?」
 ネフィリムが叫んだときには、すでに火車は爪を振り上げていた。
 後は、それを谷めがけて振り下ろすだけ‥‥!
「あっはっはー。大丈夫やてー♪」
 がつんと鈍い音がして、振り向きもせずに、谷は火車の攻撃を受け止めていた。
 十文字槍の槍先でなので、槍が燃えることも無い。
『何ィ!? 下等生物風情が!?』
「余所見をしていられると思うな‥‥!」
 火車の一瞬の隙を見逃さず、皇鬼が懇親の一撃を放つ!
『ぎゃぁぁぁぁぁ!? お、おのれぇぇぇぇっ!』
 これには流石の火車もたまらず、再び上空へ。
「させませんよ。『トライアングル・レイ』‥‥この嵐でも、数を撃てば一本くらいは」
 フローライトの合成弓技で放たれた三本の矢のうち、一本が命中してだめ押しとする!
『貴様ら‥‥下等生物如きにっ! この借りは必ず返す! 必ずだ! 次は‥‥殺してやる!』
 一直線に高度だけを上げ、最速で弓の射程から逃げる火車。
 その姿が見えなくなると同時に、嵐がだんだん晴れていった。
「バックアタックでしたね。しかも、あれだけ余裕で受け止められると言うことは‥‥」
「‥‥格闘技術もかなりのもの‥‥ということですね‥‥。‥‥谷三十郎殿‥‥実力の程は‥‥いったい‥‥」
 ベアータ、長寿院は、谷を見つめて言う。
 フローライトが外した矢を回収しに走り回るその姿からは、欠片も強そうには見えないのだが‥‥。
「やれやれ‥‥あたしはほとんど活躍できなかったさね」
「頭がいい相手とはそういうものですよ。倒しにくい相手は、無視できるなら無視する。それが最上ですからね」
「むむ。陽炎、今気づいたぞ!」
 枡が不意に叫ぶので、みんな何事かと注目する。
「あいつも、おおくしょんで黒字になったのじゃ! だから強かったのじゃ!」
『絶対違う』
 枡が総ツッコミをもらい‥‥夜は更けていくのであった―――