丹波山名の八輝将『紅珠の巻』

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:08月27日〜09月01日

リプレイ公開日:2006年09月03日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 かつて、丹波藩で半年にも渡ろうかと言う長い戦いがあった。
 丹波藩城主、山名豪斬と‥‥その家臣にして、希有な魔法戦士部隊、八卦衆に弓を引くものたちが現れたのである。
 その名は、『裏八卦』。丹波の内乱時のごたごた時に結成された、これまた凄腕の魔法戦士たち。
 冒険者を巻き込んでの戦いは、序盤こそ裏八卦が奇襲やらなにやらで有利だったが‥‥それも長くは続かなかった。
 徐々に裏八卦は捕まり始め、その数を減らし‥‥つい最近、全員捕まって処刑されたという。
 が、それはあくまで表向きの話。
 山名豪斬は、思った以上に甘い理想論者だったらしく‥‥なんと、裏八卦を家臣として雇い入れたのである。
 殺したくなかったと。
 彼らも、反乱の被害者だったのだと。
 甘い戯言の、行き着いた先‥‥。
 裏八卦は『八輝将』と名を改められ、現在は丹波藩に慣れるための研修中だとかなんとか。
 そんな、ある日のこと。

「あは〜、こんばんは〜。ちょっといいですか〜?」
 もうそろそろギルドもお終いという夜分になって、一組の男女が冒険者ギルドにやってきた。
 一人は、山名家家臣、八卦衆・火の炎夜。
 もう一人は‥‥笠を被っているので、とりあえず顔は分からない。
 が、妙にフリフリがついた見慣れない着物が目を引く。
「おや、炎夜さん! お久しぶりですね‥‥逢引ですか?」
「あは〜、だったら嬉しいんですけどね〜。残念ですけど違います〜」
 糸目で、いいひとっぽい青年、炎夜。
 しかし、こう見えて超凄腕の魔法戦士なのである。
 ギルド職員の西山一海とは、何度か面識があった。
「では、そちらのお嬢さんはどなたです? 逢引じゃ無いと言うことは‥‥ご同僚?」
「はい〜、そうです〜。最近お仲間になったお嬢さんですよ〜」
 そう言って、つい、と女性の背中を押す。
 女性は何やら気が進まなそうにもじもじしていたが、やがて観念して笠をとった。
 ふわりと‥‥長く赤い髪が舞った。
「う、うるさいわねぇ。お節介な男は嫌われるわよぉ?」
「あは〜。性分ですから〜」
 その、甘ったるい口調。
 直接会ったことはないが、今までの裏の経緯をよく知る一海には、すぐにピンと来た。
「もしかして‥‥真紅、さん?」
「‥‥そうよぉ。悪いかしらぁ?」
「い、いえ、別にそんなことは。ただ、どんな人なんだろうと思ってただけです」
 裏八卦、火の真紅。
 実は裏八卦個人個人の名前は公表されておらず、知っている人しか知らない。
 当然、パッと見て『あぁ、こいつは裏八卦の一人だ』などと分かる人間など殆ど居ない。
「今は、丹波藩士『八輝将・紅珠の真紅(はっきしょう・こうじゅのしんく)』らしいわよぉ? ‥‥ホント、迷惑な話だわぁ‥‥今更組織に属せだなんて‥‥」
「‥‥なるほど、大体話は読めました。確か八輝将の方々は、他の丹波藩士との折り合いをよくするためにも、丹波の各地で妖怪退治をやってるって聞きました。それ関係でしょう?」
「あは〜、お話が早くて助かります〜。とりあえず、裏八卦騒動や五条の宮様関連で藩内の妖怪退治の申し出を先延ばしにしてたので〜、ちょこっと数が多くなってるんです〜。それで、冒険者の方々にも手伝ってもらって〜、さくさくっと片付けてしまおうかと〜」
「なるほど。で、相手や数などは?」
「大百足が3匹と〜、大蟷螂が3匹と〜、大蟻が4〜5匹だって聞いてます〜」
「‥‥‥‥は?」
 依頼書を書こうと、筆を手に取った一海がぴたりと止まる。
「ですから〜、大百足と〜‥‥」
「数を聞いてるんじゃありません! それなんて昆虫王国!?」
「あは〜、知りませんよ〜。やっぱり、妖怪退治は定期的にやらないといけませんね〜」
 少しも悪びれることも無く、さらっと笑う炎夜。
 邪気が無いのが逆に性質が悪い。
「あ、ちなみにですね〜、僕は一応付いていきますが〜、一切手を出しません〜。冒険者の皆さんには〜、真紅さんと頑張っていただくことになりますので〜、悪しからず〜」
「‥‥要は監視でしょぉ? 逃げ出したり、妙な真似しないようにするためのねぇ」
「あは〜。ご想像にお任せします〜」
 かくして、丹波の新たな力‥‥真の八輝将となるため、真紅は試されることとなった。
 本人はまだ複雑な想いを抱えたままのようだが‥‥時はすでに動き出したのである。
 しかし、まだ誰も知らない。
 八輝将を丹波藩士に迎え入れた直後、近隣諸国から丹波を危険視する意見が出始めたことを―――

●今回の参加者

 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ヒースクリフ・ムーア(ea0286)/ 風月 陽炎(ea6717)/ ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)/ 六条 素華(eb4756)/ シャルウィード・ハミルトン(eb5413

●リプレイ本文

●突入前
「”肉体美”の百目鬼女華姫(ea8616)よ。断っておくケド、クノイチだからね!」
「デビルハンターのナノック・リバーシブル(eb3979)だ。デビルに関する依頼は鍛冶屋町66番まで連絡するといい。今なら半額セール開催中だぞ」
「私は陰陽を極め、陰陽博士を目指す黒畑緑太郎(eb1822)。まぁ、同じ丹波藩士だ‥‥知っているだろう?」
「風月皇鬼(ea0023)。元鬼道衆の一人だ」
「巫女の神木秋緒(ea9150)よ。都合の合わなかった彼の代理人ってところかしら」
「拙者、阿阪慎之介(ea3318)にござる。柳生の剣の冴え‥‥御覧に入れる」
「ベアータ・レジーネス(eb1422)です。私は丹波の事情には疎いので、虫退治に専念いたします」
「虫‥‥か。ならば、今回使用する得物は膝丸に決まりだな。対虫でこれ以上の物を自分は知らん。おっと、自己紹介が遅れた。自分は備前響耶(eb3824)。真紅殿、よろしくお願いする」
 件の森に入る前‥‥休憩の意味も兼ねた食事の席で、冒険者たちは次々と真紅に自己紹介する。
 彼女が裏八卦と知っている者、知らぬ者‥‥それぞれいるが、いたって普通の接し方。
 が、真紅にとってはそれこそ慣れない対応。
 フレンドリーに自己紹介をしたりされたりするような人生を、今まで送ってきていないのだ。
 あっけにとられて、箸を咥えたまましばし固まる。
「ん? キョーヤ、真紅はお前の顔が恐いらしいぞ。覆面でもつけておけ」
「誰がだ。貴殿こそ抜きっぱなしの刀をしまえ」
「あらあら? 真紅さんたら、緊張してるのかしら?」
 ナノック、備前、百目鬼がさらに話しかけ、ようやく硬直を解く真紅。
 が、非常に居心地が悪そうである。
「‥‥うら‥‥じゃない、八輝将・紅珠の真紅よぉ。‥‥別に私が協力を頼んだわけじゃないんだから、挨拶なんていらないわぁ。好き勝手にやればいいじゃなぁい」
「そうもいかないだろう? これはおたくの試験でもあるのだから。ところで、烈斬殿が健在なら、その配下になったはずのおたくが、なぜ宮仕えを嫌がるのだ?」
「‥‥嫌なわけじゃないわぁ。ただ、あれだけのことをしたのに迎え入れられて、戸惑ってるだけよぉ」
「あれだけのこと‥‥? 真紅殿は何か揉め事でも起こしたのでござるか?」
「興味が無くもないですね。よければお聞かせ願いませんか?」
「やめておけ。言えるなら本人から言うだろう。無理に詮索することもあるまいよ」
 阿坂、ベアータが興味本位で聞くのを、風月が制する。
 二人も無理矢理聞きだしたいわけでなし、あっさりと退いた。
「‥‥わからない。こいつら‥‥私なんかと仲良くしたって、いいことなんてないはずなのに‥‥」
 誰にも聞こえないように、一人ごちた真紅。
 それが聞こえていたのかいなかったのか、神木がそっと真紅に耳打ちした。
「『貴方達は自分達の生き様を貫いた結果、敗れて処刑される所だった。本来なら其処で終わった筈の命、今はこの生き方をしてみるのも良いでしょう? 今は道が分からなくても、何時か、自分のなりたい自分を見つける事が出来る。生き方を変える機会は何度有ったって良い。そして新しい生き方が見つかった時は、その道を歩めるように自分からも口添えする』」
「‥‥何かしらぁ、その歯の浮くような台詞ぅ」
「‥‥以上、八輝招の彼からの伝言、確かに伝えたわよ」
「‥‥あいつ‥‥」
 一瞬ぽかんとしたものの、目を閉じてその言葉を反芻しているかのような仕草を見せる真紅。
 その口元は、ほんの少しだけ緩んでいたと言う―――

●森中行軍
「北の方角に4個の呼吸がこちらに向かってきます。大きさと数から推測して大蟻と思われます。接触までおよそ30秒」
「ちぃっ! この状況下で増援は厳しい!」
「フッフッフッ‥‥魔法が使える‥‥。泣き言を言うな、さっき占いで教えただろう?」
「う、占いなんて当てにならないわっ!」
「何を言う! サンワード、暦道暦を読んでの占い・星読み(占星術万能に内包)や風水、フォーノリッヂ初級のスクロールなどなど、私が持てる術の粋を尽くしたんだ‥‥的中率は折り紙つきだぞ!」
「無駄口叩いてる暇があったら攻撃しなさぁい! 死にたくなかったらねぇ!」
 黒畑と百目鬼のやり取りの最中も、一行は敵の相手をしている。
 ベアータがブレスセンサーで察知した新手がやってくる前に、今戦っている大蟷螂1匹と大百足2匹を倒してしまわないと厄介なことになるのは自明の理。
 実際問題、これ以上数が集まられるのは厳しい。
「フン、ぞろぞろとよく集まる。まぁ、デビルを相手にすると思えば楽なものだ」
「まったく! でかい図体して飛ぶなんてね!」
 ナノック、神木が相手をしている大蟷螂は、時折羽を広げて飛翔する。
 どちらかと言うと跳躍に近いのだが、頭上から攻撃されることもあるので油断ならない。
 何故、こんな切迫した状況になっているかと言うと‥‥一行が森に入ってしばらくして、大百足が一匹で移動しているのを発見。
 魔法の付与などの準備を追え、黒畑の注意などもあった後、素早く奇襲してしまおうとしたのはよかったのだが‥‥大百足との距離を縮めた瞬間、地面からもう一匹大百足が這い出してきたのである。
 地中にいたのでブレスセンサーの範囲に引っかからず、足音でこちらの動きを探知したらしい。
 毒の牙を警戒し、少し時間をかけたらさぁ大変。
 どうやってかぎつけてきたのか、大蟷螂が一匹襲い掛かってきて、今度は大蟻まで来ると言う。
 つまり、残りの虫たちもいつやってくるかわかったものではないということ。
「集団行動は虫のお家芸でござる。連中は連携しているわけではなく、独自で餌を求めているのでござる!」
 阿坂の言うとおり、連中は協力しているわけではない。
 ただ、一匹一匹が面倒だから、同じ場にいられるだけでとても迷惑なのだ。
「この皇鬼、戦場に措いては自らの命など無いも同然‥‥。元、鬼道が五ツ牙の戦、見せてくれよう!」
「キョーヤ、俺と代われ。お前の黒影葬は毒を持つセンチビートには危険だ」
「承知。やれやれ‥‥これでは最初に蟻の一団を見つけても同じだったかも知れんな」
 風月が手数の多さとストライクで大百足に殴りかかり、備前と代わったナノックもスマッシュで別の大百足を斬りつける。
 大蟷螂相手の神木は長槍で牽制し、大蟷螂が攻撃してきたところで備前とチェンジ。
 デッドオアライブ+カウンターアタック+ポイントアタックEXで、蟷螂のかまを切断。
 怯んだところで、阿坂が追撃‥‥!
「お馬鹿さぁん、気をつけなさぁい! 狙われてたわよぉ!」
 野太刀でナノックの援護をしていた百目鬼だったが、尻尾で攻撃されかけていた。
 真紅はそれに気づき、高速マグナブロー(専門)で迎撃する。
「いけませんね。大蟻を目視で確認。真紅さん、どうします?」
「ストームで吹き飛ばして! 今から詠唱すれば、たどり着かれる前に撃てるわぁ!」
「了解しました。詠唱を開始します」
 見れば、巨大な蟻が4匹、ぞろぞろとまっすぐこちらに近づいてくる。
 そしてベアータの術が発動する少し前に、大蟻たちへ向かって高速ファイヤーボム(専門)を放つ真紅。
 炎で焼かれながら吹き飛ばされ、大蟻たちの行軍はかなり遅れそうだ。
「なんだ、いざとなったら結構頑張るじゃないか。私も続かせてもらおう!」
「あんな虫ごときに殺されたくないだけだわぁ! あなたたちがどうなろうと知ったことじゃないしねぇ!」
「今はかまわないさ、それでも! スリープ!」
 高速スリープ(初級)で、風月が相手をしていた大百足を眠らせる黒畑。
 蟷螂、大百足をほぼ行動不能にし、残りの大百足を集中攻撃。
 この間、勿論一行も細々ダメージを受けているが、毒を抵抗して無効化したりで大した傷にはなっていない。
 とはいえ、倒しきる前に蟻に合流されても困る。
「こちらは終ったでござる! そちらは!?」
「終っている。まぁ、手応えとしてはそこそこだな」
「伝言が主な役回りだと思ったけど、結構しんどかったわね。美人に甘いってのは嫌だわ、本当」
 とりあえず、近場の虫たちは撃破した。
 次は重傷(唯一抵抗した1匹は中傷)の大蟻たちの始末と‥‥まだ姿を見せない3匹の虫。
「やれやれ‥‥まだいたのだったか。気を抜くつもりは無いが、面倒なことだ」
 風月の言葉に、誰もが心の中で頷き‥‥一行は、大蟻たちへと歩を進めた―――

●戦い終わって
「あは〜、ご苦労様です〜。どうでしたか〜、今回の戦いは〜」
「ふん。気持ち悪いだけよ、虫の相手なんてねぇ」
「それでも、しっかり力を合わせて任務を全うしたじゃないですか〜。連携も取れてましたし〜」
「う、五月蝿いわねぇ! 高見の見物してたくせに、いい気なもんだわぁ!」
「でも〜、悪い気はしなかったでしょう〜? 皆さん良い人でよかったですね〜」
「‥‥‥‥‥‥」
(「‥‥おや〜?」)
 その沈黙は、炎夜にとって意外なものだった。
 要は、無言の肯定。
 何かを守る。何かを助ける。仲間と一緒に戦う。
 それが、そんなに悪い気はしなかったということ。
「‥‥所詮今の私は歯牙ない宮仕えよ。面倒ごとでもなんでも押し付ければいいじゃなぁい!」
「あは〜。素直じゃありませんね〜」
「ふんっ!」
 そっぽを向かれてしまったので、炎夜には今の真紅がどんな表情をしているのかは見えない。
 だがその雰囲気は、任務が始まる前より幾分か柔らかくなったような気がしたのだった―――