サバイバル鬼ごっこ、バーサス!
|
■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:西川一純
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月08日〜09月13日
リプレイ公開日:2006年09月17日
|
●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「藁木屋さん、『気流』覚えてます?」
「確か、ドーピングなんたらとかいう料理を出す人気料理屋だったかね?」
京都冒険者ギルド、いつもの場所。
職員の西山一海は、友人でもある京都の便利屋・藁木屋錬術に唐突に聞いた。
まぁ彼が唐突なのはいつものことだが。
「それだけ覚えてれば充分です。冗談界、発動っ!」
「なっ!? おい、問答無用か!?」
自称、一海の『特殊能力』。
ノリのいい友人にだけ効くと言う妙な空間が、突然広がる―――
昨日の、気流であった。
小腹が空いたので、何か食べようかと思い、折角だからと、人気の料理屋へ行ったのだ。
そこに、すさまじい光景があった。
人。
人。
人。
人がいるのである。
先客であった。
それも、おそろしいほどの数で、席を埋め尽くしているのであった。
このままでは、どこかの席が空くまで、座れそうにもない。
なぜ──―
と思う。
奇妙であった。
いつも混んでいる店ではあったがこれは異常だ。
なぜ、今日はこんなに人がいるのか。
その答えはすぐに解かった。
垂れ幕が下がっているのである。そしてその垂れ幕には、
『鬼ごっこ大会開催』
などと、書かれているのであった。
その文字を読んだ途端、体の中にある、何かこわいものが、ざわりと騒いだ。
何を──―
何を言っているのか。
それでは、この大勢の客は、妙な催し物があるというだけで、気流へやって来ていると言うのか。
阿呆か。
と思った。
馬鹿か。
とも思った。
なぜ、料理屋が開催する鬼ごっこなどで、普段は来ていない気流へ来ることができるのか。
木瓜が。
とも思う。
鬼ごっこである。
料理屋が、鬼ごっこ―――
しかも、よく見ると、客の中には親子連れも交じっているようであった。
一家4人で、気流へ来ているのである。
おめでたい話であった。
「ようし、おとっつぁんはよ、見事逃げ切って見せるぜ―――」
そのような声まで、聞こえてくる。
もはや、見ていられなかった。
お前ら、他の鬼ごっこを紹介してやるから、その席を空けな‥‥。
そう、言ってやりたかった。
鬼ごっこというのは、もっと殺伐としているべきなのだ、と思う。
捕まえに来た鬼と、いつ不正談合が始まってもおかしくない。
出し抜くか出し抜かれるか。
そのような雰囲気が、いいのである。
猪突猛進野郎はすっこんでろと、そう思う。
そのうち、席が空いた。やっと座れたのである。
その時であった。
隣りの客が、
「俺は審判でいいや」
などと、言っているのであった。
そこでまた、体の中の熱が高まるのを、感じた。
あのな──―
心の中で、声をかけた。
審判なんてものは、今日び、流行らねえんだよ。
木瓜が。
また、そう思った。
何を──―
何を言うのか。
得意げな顔をして、何を、審判でいいや、などと言うのか。
お前は本当に、審判を務めたいのか―――
そう、問い詰めたかった。
問い詰めたかった。
小一時間、問い詰めたかった。
お前は、審判をやると言いたいだけではないのか。
そんなものよりも、鬼ごっこ通の間での、最新流行があるのである。
鬼ごっこ通である身から言わせて貰うのであれば、それはやはり──―
サバイバル、
であった。
参加者四対四サバイバル鬼ごっこ―──
それこそが、通の楽しみ方であった。
サバイバルというのは、一つの山を使って、一日ぶっ通しでやることである。
その代わりに、達成感は一入。
これが、いい。
さらに、その上に、参加者四対四。
これこそが、最強なのであった。
しかしこれを行うと、次に出合った時から、参加者同士に遺恨が残るという危険があった。
諸刃の剣であると言えた。
素人には、お薦めできなかった。
鬼ごっこのド素人は、せいぜい、子供の遊びにでも付き合ってやればいいのだ──―
そう、思った。
「‥‥毎度思うが、キャラが変わっていないか?」
「いいんです、どうせ冗談なんですから。憤りは本物ですけどね」
「というか、冗談の中に大事な競技のルールを盛り込まんでくれ。つまり、纏めるとこうだな?」
一つ:山一つを舞台とし、丸ごと全域をフィールドとする。一歩でも山から出たら失格となる。
二つ:正午から開始し、そこから24時間逃げ切れば勝ち。正午までの一時間、山に散るための準備時間もある。
三つ:疾走の術や馬等、移動スピードを上げる術や道具・ペットは禁止。また、韋駄天の草履等、体力を温存して長距離移動できるような道具類も禁止となる。飛行またはそれに属する魔法・ペットも禁止。ただし、シフールの参加者の飛行は地上2メートルの高さくらいまでは許可される。
四つ:鬼を見つけたり追いかけられたりしても、攻撃してはならない。万が一攻撃行動があった場合、審判に見つかり次第失格。鬼も怪我をするような攻撃は仕掛けてはいけない。
五つ:遊戯開始前に件の山に立ち入ることを禁ずる。前準備して罠などを仕掛けるのは不公平であるため。
六つ:魔法で穴を掘り、隠れるのは禁止。石化して水没するのも禁止。助けるのに時間がかかるため。
七つ:今回は、参加者が鬼と逃げる側に4:4等の半々に分かれてもらう。比率の変更はない。
「そうそう、いつもの貴族が主催者ですが、何故か賞品は無いそうです」
「まぁ、今回はな。賞品を狙うのが主目的ではないからね」
「さて、どんな参加者さんが集まって、どんな駆け引きを繰り広げるのか。今から楽しみですね♪」
夏の暑い中でのサバイバル。
気候がどのような影響を及ぼすか‥‥それも考慮に入れねばなるまい。
当日は晴れか曇りか、はたまた雨か。
移り行く季節の名残に、鬼ごっこで思い出作りは如何ですか―――?
●リプレイ本文
●開始直後
「さぁ〜て、そろそろ探しに行くっすよ!」
「そうだな。こちらの数も少ないが、向こうの数も少ない。探すのに骨が折れそうだ」
鬼ごっこ当日、快晴。
絵に描いたような残暑で、じりじりと肌を焼く太陽光線が、京都近辺を照らしていた。
湿度も高め‥‥ぬるっとした空気は、身体にまとわりつくかのようで、非常に不快だ。
逃げる側の二人が山の中に消えて一時間。
鬼役の、フトシたんこと太丹(eb0334)と、ヴィグ・カノス(ea0294)は、いよいよスタート地点から動き、耐久鬼ごっこの追う側の任を遂行にかかる。
「この兵糧丸さえあれば、一日は保つっす! もぐもぐもぐ‥‥‥‥食いでがないっす‥‥」
一個で一日分の腹を満たせると言う兵糧丸。『食いでがない』というのが、『一日分食べてまだ足りない』と言う意味なのか、『腹が満たされるとはいえこんな丸薬一個ではつまらない』と言う意味なのか‥‥。多分両方なのであろうが。
「そんなものに頼らなくても、ここに戻ってくれば食事を振舞ってもらえるらしいが?」
「だめっす! 戻ってる時間が惜しいっすよ! それに‥‥自分には秘策があるっす!」
「秘策‥‥? ふむ、興味はあるな」
「ふっふっふ‥‥秘密っすよ。後でのお楽しみっす」
意気揚々と歩を進めるフトシたんの背中を見て、一抹の不安を覚えるヴィグであった。
「さーて、久しぶりのサバイバル鬼ごっこだ。よぉし、絶対に最後まで逃げ切ってやらぁ!」
「やれやれ‥‥アルトが不貞腐れそうだが、乗りかかった船だ。やるからにはしっかりやろう」
さて、こちらは逃げる二人。
もろもろの事情で、クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)と藁木屋錬術の二人が担当することになっていた。
本当ならばもう一人、女性が参加者になるはずだったのだが、病欠。
それによって、参加するはずだったアルトノワール・ブランシュタッドも人数の兼ね合いで参加しないと言うことになってしまったらしい。
兎に角、開始直後と言うこともあり、二人はまだ一緒に行動していた。
「で? おまえさんはこれからどうするんだ。勝算はあるのか?」
「そうだな‥‥相対するのがフトシたん君であれば、多分何とかなる。が、ヴィグ殿を相手にした場合は予断を許さないだろう。何せ、世界的に著名な射撃の名手だ」
「あたしの場合はフトシの方が厄介だね。あいつが暴走状態に入ったら、死ぬまで追ってくるだろうから」「暴走状態?」
「まぁ多分そのうち分かる。なるべくなら、保存食は速めに食っておくといいよ。少しは誤魔化しが効くだろう」
頭上に『?』を浮かべ続ける藁木屋と別れ、クリスティーナは山を進む。
日はまだ高く‥‥鬼ごっこも始まったばかり。
これから、どのような駆け引きが繰り広げられるのやら―――
●夜の山
「ちぃぃぃっ! よりによってこっちに来たのか、あのイートマン!」
「悪いごはいねが〜っす、食料を持ってるごはいねが〜っす。食べ物は栄養があるかどうかじゃないっす!
腹を満たすか満たさないかっすよ! 食い物よこせ〜!」
「食欲旺盛なやつってのは鼻もいいのか、まったく!」
草木も眠る丑三つ時。
なるべく安全そうな場所で、眠らないまでも休息を取っていたクリスティーナは、突如鬼の襲撃を受けた。 それは、腹ペコ状態で‥‥彼女の言うところの『暴走』をした、鬼の褌一丁のフトシたんである。
兵糧丸だけで足りないというのも恐ろしいが、それよりも何を以ってクリスティーナの居場所を察知したのか。
「ふふふふふふ〜〜〜! めし喰わせろ〜〜〜っす〜〜〜!」
「うわわっ、来るな来るな来るなぁぁぁっ! くそっ、飯の臭いなんてとっくに消したはずだぞ!?」
あくまで推測だが、フトシたんはクリスティーナが食べた保存食の臭いというか気配を追ってきたのだろう。無論人間業ではない。
人智を超えた胃袋を持つ彼だからこその芸当である。
二人は夜中だと言うのに、森の中を駆け抜けていく。
クリスティーナは必死で木の根を飛び越え、枝をかいくぐり、草を分ける。
闇の中でのわりに、思いのほか正確に進み行くクリスティーナだったが、フトシたんはそれを上回るスピードで追従してくるのだ。
「こっ!? こらこらこら、痛くないのかお前は!?」
が、フトシたんはクリスティーナのように、避けながら進んでいるわけではない。
枝にぶち当たろうが根に引っかかろうが、とにかく前進。
身体のあちこちに裂傷やら打撲やらを作りながらも、食欲だけで突っ込んでくる。
クリスティーナは、ふと思う。
もしここで捕まって、自分が食べ物を持っていないことをフトシたんが知ったら?
(「まさかとは思うが‥‥。いや、しかし。あいつだぞ? 飢餓魔人のフトシだぞ? どうして絶対ないと言い切れる!?」)
ちらりと後ろを振り返ってみれば‥‥。
「ご〜〜〜は〜〜ん〜〜〜! くけけけけけけけけっす!」
「く、喰われる! 捕まったら喰われるっ! そんな気がするっ!」
悪鬼のごとき形相で追いかけてくるフトシたんを見て、そう直感した(邪笑)。
夜の追走劇は、まだまだ終りそうになかった―――
さて、こちらは藁木屋。
夜になっても蒸し暑く寝苦しいので、彼が羽織っている外套は邪魔以外の何物でもないのだが、あえて脱ごうとはしない。
彼はオーソドックスに、高い木に登り、その豊富な葉で姿を隠した。
「‥‥ん? かすかに悲鳴が聞こえるな‥‥。クリスティーナ嬢、逃げられるといいが」
助けに行こうという気はさらさらないらしく、月を見上げる。
無闇に動いて自分も捕まりましたでは話にならないわけで‥‥とりあえず、夜の間はこれで凌ぐつもりらしい。
「さて‥‥少し寝ておくか。捕まったときは自分の不運を呪おう」
藁木屋は無事に朝日を拝むことが出来たわけだが‥‥彼を追っていたヴィグは何をしているのだろうか?
「夜の山は結構得意だから、暗い内に決めたいものだな」
ヴィグも遠くに悲鳴を聞きながら、雲ひとつない星空を見上げる。
インフラビジョンのスクロールで捜索を続ける彼は、すでに夕方から夜にかけて休憩を取っていた。
しかし、深夜にもかかわらず熱を持ったままの葉や、藁木屋の羽織っている外套は、ヴィグから巧みに藁木屋を隠したのである。
まさかヴィグも、藁木屋が木に登るなどという基本的かつ危険度の高い潜伏方法を取るとは思っていなかったのだ。
ふと過ぎった、世界的英雄の感。
きっと‥‥いや、必ず。自分と藁木屋は出会うであろうと―――
●終了間際
「どういうつもりだ‥‥とは聞くまい。始めようか」
「運を天に任せたのですが‥‥。ふっ、そうそう上手くはいかないようですな」
翌朝、午前十一時ごろ。 ヴィグが捜索を再開して5時間‥‥藁木屋は、滝のある岩場というか、河原に居た。
発見されるときはどこにいても発見されるとは彼の言だが、この場所を選んだ理由の一つに、フトシたんの嗅覚(?)を誤魔化すというものがあるのだが、それはまた別の話。
とにかく、ヴィグの予感どおり、二人は出会った。
が、逃走劇は始まらない。
ヴィグに後ろを見せる勇気は藁木屋にはないし、ヴィグにしても相手がどう出るか分からないのだ
じりじりとにらみ合いながら間合いを計り‥‥先に動いたのは!
「そう簡単に逃げられると思うな‥‥」
ひゅん、と空を切ったのは、ロープを二本直列に繋ぎ、先端に重りを括り付けた物(以下縄分銅)。
足を狙ってからめとるように投げつける!
「っ!」
藁木屋はあえて外套を広げてしゃがみ、巻きつかれることを防ぐ。
だが!
「避けなかったのは失敗だったな!」
ざざざ、とヴィグが急接近! あっという間に間合いに入る!
「さて‥‥それはどうでしょうな」
「!?」
確かに、射撃に比べればヴィグの格闘技術は遥かに劣る。
しかし、自分の間合いに入り‥‥藁木屋の身体に触れたと思った瞬間、対象物が消失したのだ。
正確には‥‥外套の一部だけをその空間に残しておき、藁木屋自身はすでに回避行動をとっていたのである。
ヴィグを飛び越えるような軌道を取って着地、外套を引き戻し‥‥藁木屋は窮地を脱する。
「くっ!」
まだ手を伸ばせば触れるところに藁木屋はいる! ならば手を休める道理はない!
ヴィグは必死に藁木屋を捉えようとするが、彼の回避能力は尋常ではなかった。
余裕でヴィグの手を掻い潜り、外套を閃かせる。
「パーフェクトだ、藁木屋。‥‥やはり俺が勝負を決めるには、これしかないようだな」
「感謝の極み。なに、私は基礎しか修めてきませんでしたから、獲物を破壊することもできません。安心してくだされ」
「‥‥どこから聞きつけられたやら。ではその自信‥‥試させてもらおう」
反則になってしまうので、殺傷能力のあるは使えない。
そのためにヴィグが用意した縄分銅‥‥上空で見張っていた審判シフールが止めに入らないということは、それの使用が認められたということだろう。
ここからが本当の勝負。ヴィグも、次の一投からは一部の手加減もしない!
だが、それを。凶弾とも言える縄分銅を、藁木屋はギリギリで回避する‥‥!
「ちぃっ! 本当に人間か、おまえは‥‥!」
「そちらこそ! 足場が悪くなければ、あっさり捕まっていたことでしょう!」
ヴィグほどの使い手ならば、多少足場が悪かろうと問題なく当てられたはず。それは本人もそう思っていたのだ。
が、藁木屋はギリギリとはいえそれを回避した。つまり‥‥人と言う枠を超えた回避能力の持ち主ということ‥‥!
「だが、この勝負‥‥やはり俺の勝ちだ。俺の獲物に弾数制限がない時点でな」
藁木屋もすでにそれは理解している。
無尽蔵に投げつけられる縄分銅‥‥それに引き換え、自分はギリギリで回避する身。
どちらが有利かなど、火を見るより明らかなのだから。
「しかし! 残りの時間もわずか‥‥限界まで避け続けるのみ!」
「ふ‥‥そう来なくてはな。藁木屋錬術‥‥その名、覚えておこう」
結局、逃げる側の負け‥‥藁木屋は捕まり、クリスティーナはフトシたんへの恐怖でつい攻撃してしまい、失格。
しかし、競技を終えた後に、遺恨など残りはしなかったと言う。
夏の熱いバトルは、人数に関係なく燃え上がったと言う証明であった―――