丹波山名の八輝将『琥珀の巻』

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月27日〜10月04日

リプレイ公開日:2006年10月05日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 かつて、丹波藩で半年にも渡ろうかと言う長い戦いがあった。
 丹波藩城主、山名豪斬と‥‥その家臣にして、希有な魔法戦士部隊、八卦衆に弓を引くものたちが現れたのである。
 その名は、『裏八卦』。丹波の内乱時のごたごた時に結成された、これまた凄腕の魔法戦士たち。
 冒険者を巻き込んでの戦いは、序盤こそ裏八卦が奇襲やらなにやらで有利だったが‥‥それも長くは続かなかった。
 徐々に裏八卦は捕まり始め、その数を減らし‥‥つい最近、全員捕まって処刑されたという。
 が、それはあくまで表向きの話。
 山名豪斬は、思った以上に甘い理想論者だったらしく‥‥なんと、裏八卦を家臣として雇い入れたのである。
 裏八卦は『八輝将』と名を改められ、現在は丹波藩に慣れるための研修中。
 さて、今回の八輝将は―――?

「ハァーイ、ミスターカズーミ! 元気デスカー!?」
 夜分‥‥冒険者ギルドがそろそろ店じまいと言う時刻になって、彼らはやってきた。
 そろそろ閉め支度を始めていた職員たちは、その声に何事かと振り返った。
「ちょ、ちょっとちょっと岩鉄さん! もうちょっと静かに登場してください!」
「オゥ、ソーリー。そうだったネ‥‥目立っちゃいけないんデシタ!」
 丹波藩が誇る凄腕魔法戦士部隊、『八卦衆』の一員、山の岩鉄。
 はたから見れば日本人青年の彼だが、何故か怪しい外国語喋りをするのが特徴である。
 ギルド職員で、彼と顔見知りである西山一海は、ため息混じりに頭を抱えた。
「ギャーギャーうっせーんだよ。わざわざ京都くんだりまで連れてきやがって、さっさと用事を済ませやがれ!」
 もう一人、僧侶の格好(とはいえ、なにやら動きやすそうにアレンジしてある)の青年が一人。
 前回の真紅の例を考えると、彼は‥‥。
「その格好と口調‥‥もしかして、井茶冶さんですか?」
「けっ、だからどうした」
 元・山の裏八卦で‥‥現・八輝将の井茶冶。
 その気性の荒さは変わっていない様だが‥‥?
「HAHAHA! 今は『八輝将・琥珀の井茶冶(はっきしょう・こはくのいさじ)』だよネ!」
「その呼び方は止めろっつってんだろーが! 俺はまだ認めてねぇ!」
 命を助けてもらっておいて、この言い草である。
 どうやら、『死んだ方がマシだった』的な思考の持ち主らしい。
「あ、あのー‥‥もうすぐ店じまいなので、できれば御用件はお早めにお願いします」
「ソーリー。今回も丹波藩内の妖怪退治デース。相手は砂男が4匹と、大砂虫が一匹だヨ!」
「‥‥‥‥は?」
「リピートアフタミー。フォーサンドマン&ワンサンドウォーム」
「イギリス語使ったって一緒です! 丹波って広い砂地ありましたっけ!?」
「あっからそんなのがいんだよ、馬鹿が。つったって見渡せばすぐ端っこが見える程度だけどな」
 それでも、砂男や、体長10メートルを超える大砂虫が活動するには充分な広さだという。
 どこから湧いて出たのかは知らないが、とにかく大砂虫だけでもなんとかしないと危なくて仕方が無いらしい。
「ミーは付いていくだけだから、井茶冶と一緒に頑張ってネ! それじゃ、グンナイ!」
「あっ、てめっ! 勝手に帰んじゃねぇよ馬鹿野郎!」
 八輝将であることに疑問を抱いている以前に、嫌がっている様子の井茶冶。
 しかし、本人がどれだけ嫌がろうと、もう彼は八輝将の一員なのだ。
 それが受け入れられないようなら‥‥彼の未来には、再び死が姿を現すことになるだろう。
 果たして‥‥今回のことで助けられるのは、丹波の民か‥‥それとも―――

●今回の参加者

 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2488 理 瞳(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3991 フローライト・フィール(27歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●井茶冶云々
「先日も丹後には虫退治で来ましたが、今回も虫ですか。よほど縁があるんですかね」
「決戦の場は砂地でござるか。条件は悪いでござるな」
 丹波藩某所。
 すっかり秋めいてきた空気の中、一行は件の砂地へと到着した。
 そこは、文字通り見渡せば端が見えそうな、ただ広くて何も無い砂地。
 どうやってここができたのか‥‥また、どうしてこんなところに妖怪が住み着いたのかはまったくの謎である。
 ベアータ・レジーネス(eb1422)や香山宗光(eb1599)は、平地と砂地の境に立ち、さらさらと砂を弄んでいた。
「ったく、なんで俺様がこんな面倒くせぇことを‥‥。使いッパやらされるくらいなら死んだ方がマシだぜ!」
「死んだ方がマシだって言うなら勝手にすれば? 負けたまま、弱いままで死んでいけば良いんだわ」
「んだとてめぇ!? 知ったような口聞くじゃねぇか!」
「生きていれば、更に強い相手と戦い、更に強くなる機会も有ると言うのにね」
「俺様はな、別に強くなりたいわけじゃねぇんだよ! 戦って! 殺すのが好きなんだ!」
 一行の一番の問題点は、もっと根本的なところにあった。
 八輝将、琥珀の井茶冶‥‥他の八輝将の面々がどうかは知らないが、とりあえず彼には問題ありありである。
 神木秋緒(ea9150)が、発破をかける意味できつい言葉を言ったのに、それを真に受けるのがなんとも。
「‥‥まぁ‥‥命あっての物種、だと思う‥‥。ちょっと前まで、死にたがってた私が言うのも‥‥何だけど‥‥」
「いいんじゃないかな? 俺も戦いは好きだし、戦いに関する考え方は人それぞれだよ」
「しかし、今回は我侭は止めておいた方がいいですよ。いくら強くても、井茶冶一人では大砂虫たちに殺されます」
 幽桜哀音(ea2246)、フローライト・フィール(eb3991)、理瞳(eb2488)も声をかけるが、井茶冶は変な所だけ真っ正直と言うか、物事を言葉通り捉えるというか。
 幽桜の言葉には少し考えたし、フローライトに好感を覚え、理の言葉にもバツが悪そうにそっぽを向く。
 言うなれば、よく言えば純粋、悪く言えばガキなのだろう。
「お前さんは戦が好きなのだろう? 向こうは戦の場を提供してくれると言ってるんだ。不満はあるかも知れんが、今はそれで良いんじゃないか?」
「そうそう、まずは考え方を変えてみたら? 丹波藩がどうしても、って言うから、仕方なく力を貸してやってるんだって」
「‥‥なるほど。そういう考え方もあるか‥‥悪くねぇかもな」
 風月皇鬼(ea0023)と神木のこの言葉で、ようやく納得する井茶冶。
 彼を馬鹿と言うのは簡単だが‥‥彼にもいろいろあったらしいことは知っていて欲しいところである。
「話が纏まったところで‥‥一つ、いいか? 歳はいくつだろうか。曖昧なら大体でいい」
「あ? 24だと思ったが、それがどーしたよ」
 備前響耶(eb3824)の質問の意図は、一体なんだったのか‥‥井茶冶にはわからない。
 まさか、生き別れの兄でもいると言うのだろうか―――(笑)

●500?の死闘
「ヴェントリラキュイで、誰もいない場所から声を発生させて砂を震わせたら、そこに大砂虫や砂男が現れるのではないでしょうか?」
「どうかしら。私の石を使ったおびき寄せも効果が無いみたいだし‥‥」
「かったりぃなぁ。岩鉄の野郎、巻物使うなとか言って取り上げやがったしよ」
「足が取られて歩きにくいですね‥‥。しかし、足ガ砂ニ沈ム前ニ進メバ沈ミマセン」
「何故そこだけ片言だ。まぁいい、こっちは囮のようなものなんだ。大砂虫だけでも発見するため、歩き回ろう」
 備前、神木、理、井茶冶、ベアータの5人は、様々な手段を講じて妖怪をおびき寄せようとしていた。
 棒で突っついてみたりもしたが、砂男は見つからない。
 残りの風月、幽桜、フローライト、香山の四人は、比較的陸地に近い砂地に立ち止まり、目や耳を使って違和感を見つけようとするが、やはり上手くいかず。
 やがて、囮の五人が砂地の対岸へたどり着こうかと言う時。
「‥‥静かに‥‥。‥‥何か‥‥さっきまでしてなかった音が‥‥聞こえるような‥‥」
 幽桜の耳がもう少しよければ。あるいは、もう少し囮組みと近ければ、また違っていたかも知れない。
「っ! 今、あそこの砂が盛り上がらなかったかい?」
「特に見えなかったでござるよ。しかし一応、備前殿たちに伝えた方が―――」
 フローライトの言葉を受けて香山が呟いた瞬間、砂地に連続する隆起が姿を現した!
「でかい!? 備前、右だ! 固まっていると全員やられるぞ!」
『っ!?』
 風月の言葉が辺りに響き、囮組みは迫り来る砂の隆起を確認する。
 だがそれは、砂の中では馬ほどの速さを出せるようで‥‥恐ろしいスピードで迫ってくる!
「足音か振動か知りませんが、とにかく動かなければ察知されないのでしょう?」
「無茶言わないで! このまま直進されたら、跳ね飛ばされるだけじゃ済まないかも知れないわよ!?」
「はっ、出てきたところで魔法の連打だ! 一気にバラバラにしてやんぜ!」
「ソノ前ニ喰ワレナイトイイデスネ」
「ちぃぃっ! 自分に任せろ! 動いて注意を逸らす!」
 備前が隆起と直角に走り出し、その足音で大砂虫を呼び寄せる。
 その作戦は大よそ上手くいったが‥‥惜しむらくは、砂に足を取られて逃げる速度が思うように出ないこと‥‥!
「くっ‥‥蟲斬り響耶が蟲に喰われては、笑い話にもならん‥‥!」
 大砂虫が嘴のような大きな口を開け、備前を飲み込もうとした、その時!
「殆ど効いていない‥‥。なんてやつだ」
 フローライトの矢が大砂虫にヒットするも、多少足を止める程度にしかならない。
 が、その間に風月、幽桜、香山が合流し、追撃をかける。
 風月のオーラパワーでのストライク、幽桜のシュライクまでは叩き込めたが、香山のオーラパワーでの斬撃が入る前に大砂虫は砂地にもぐってしまう!
「なかなかしぶといでござるな。しかし、しぶとさでは我らも負けないでござるよ」
「‥‥違う‥‥逃げて‥‥」
 ぐん、と足元が一瞬沈んだかと思った次の瞬間、風月が大砂虫の牙を受けてしまう!
 噛みつかれ、その鋭い牙が身体に食い込む‥‥!
「がっ‥‥! く、砂の中に‥‥引きずり込まれるわけには‥‥!」
 巨体である大砂虫は、風月を飲み込んでしまおうと、暴れながら砂地を移動する。
「すさまじい‥‥‥‥なんてあきれた生物だ‥‥ヤバイ相手だね‥‥‥‥」
「急いで助けましょう。この薙刀が通用するといいのですが」
「今だけは、倒すことよりも風月さんの救出が優先よ!」
 理と神木がそれぞれ獲物を手に、大砂虫へと疾駆しだしたその刹那。
 不意に理の足元から砂の塊がうにょーんと伸び、彼女を殴り飛ばした!
 そして、そのまま理に密着し、溶かして養分にしようとしてくる‥‥!
「クッ‥‥コイツッ!」
「こんな時にサンドマンを踏んでしまうとは‥‥運が悪いと言うか」
「不意打ち上等かよ。面白ぇ!」
 被害者を増やしてもあれなので、ベアータは待機させ、井茶冶がさっと理に近づく。
 そして、砂男のみを狙ってビカムワースを連発する!
「やたら抵抗しやがって! 大人しくぶっ飛べよ砂野郎!」
 3回目でようやくビカムワースを成功させ、続くディストロイで理から砂男を引き剥がす。
 さらに、神木と理が連続で攻撃を加え、砂男は文字通りただの砂に変わってしまう。
「時間を取られた! 風月さんは!?」
「こっちでなんとか救助したでござるが‥‥長い時間噛まれていたせいで、重傷でござる」
「くそっ、大包平で斬り付けても殆ど動じないというのは一体どういう了見だ!?」
「‥‥ポイントアタックも‥‥隙間が無いから‥‥効果なし‥‥。シュライクじゃ‥‥腕力が‥‥足りない‥‥」
 向こうも中傷〜重傷とはいえ、相変わらず砂の中を動き回っている。
 出たり消えたりする巨大生物‥‥始末に悪い!
「おう、あの虫ケラもそれなりに疲弊してんだろ?」
「そ、そうだと‥‥思うがな‥‥。姿が‥‥見えない、から、保障は‥‥できん‥‥!」
「随分頑丈みたいですからね。フローライトさんの矢も全然効いてないみたいですし」
「カンケーねぇ。俺が潰してやらぁ!」
「無茶よ、戻りなさい! 死にたいの!?」
「はっ、てめぇらとは潜ってきた修羅場の数が違うんだよ! 怪我人の保護でもしてやがれ!」
 神木の制止も聞かず、井茶冶は単身動き回り、大砂虫をおびき寄せる。
 下手をすれば、重さで獲物を感知する砂男を踏みかねないというのに!
「俺だって、水銀鏡たちに助けられて悪ぃ気がしたわけじゃねぇ! 要は丹波藩に囲われるのが気に喰わなかっただけだ! やってみようじゃねぇか‥‥『人助け』ってのをよぉ!」
 やがて、井茶冶の右後方から大砂虫が現れ‥‥決着の時を迎える―――!

●そんなこともあるさ
「HAHAHA! カッコ悪いネ井茶冶!」
「五月蝿ぇ! まさかそのまま突っ込まれるたぁ思ってなかったんだよ!」
 射程に入った時点でビカムワースを発動、大砂虫を瀕死にしたのはよかったのだが‥‥勢いの付いていた大砂虫はそのまま井茶冶を押しつぶすような形で突撃してきたのである。
 結局他の面々に助けられ、砂男が3匹残っているものの、最低限の目標は達成したと判断、撤退したのである。
「で? 初めての人助けは気持ちよかったデースカ?」
「‥‥勝手に想像しろ。俺様にもよくわかんねぇよ!」
「ホントに?」
「ったりめぇだ! この俺がそんないい子ちゃんに見えっか!?」
「でも、ためにはなったはずデース。違いマースカ?」
「‥‥まーな。気に入るやつ、入らねぇやつ‥‥気に入るやつの中にも気に入らねぇ部分もある。他人ってのは‥‥まぁ、思ったより面白ぇもんなのかも知れねぇな」
「オウ、グッジョブ! その意気その意気! それがフレンドシップネ!」
「だー、騒ぐな鬱陶しい! 傷に響くだろーが!?」
 砂男も全滅とまではいかなかったものの、強敵である大砂虫を撃破した一行。
 一人では駄目でも、力を合わせれば。
 そんなことを学んだ、井茶冶であった―――