谷さん日記 〜不逞の輩と新撰組〜

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:7〜13lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:10月04日〜10月09日

リプレイ公開日:2006年10月12日

●オープニング

「あれ? 谷さんじゃないですか。お役目ご苦労様です」
「おー、一海君やないか。今日のお仕事はもう終わりや。今から帰るとこ〜♪」
 冒険者ギルド職員、西山一海は、夕暮れの京都を夕飯の支度のために歩いていた。
 そこで、前からやってくる十文字槍を持った人間の顔に見覚えがあったというわけだ。
 新撰組七番隊組長、谷三十郎は、いつものように無駄ににこやかに応対する。
「なんや、買い物籠持っとるゆうことは、これからご飯作るん? 大変やねぇ」
「一人暮らしの辛いところですよ。確か、谷さんも独身でしたよね?」
「せやけど、俺は雑食やもん。店でも喰うても自分で作ってもえぇ。気ままに喰うのがまたえぇんや〜♪」
「‥‥ホント、谷さんが強いってところを想像できません‥‥」
「あっはっは。せや、折角会うたのもなんかの縁や‥‥どっか食べにいかへん? 美味い店知っとるんよ」
 けらけらと非常にノリ良く笑う谷。
 が、そこに。
 薄汚れて髭を伸ばした浪人風体の男が、突如刀を抜いて吼えた。
「谷三十郎殿とお見受けいたす! お命頂戴っ!」
「た、谷さん! か、刀! あの人本気ですよ!?」
「んー?」
 ガギィッ!
 耳障りな音を立てて、浪人の刀と谷の十文字槍が激突する。
 谷は振り返りもせず、一海にどこの店は何が美味い等の講釈を続けていた。
「お、おのれぇ! 愚弄する気か!」
「なんやのもー、さびしんぼさんやなぁ。そない物騒なもん収めて、さっさと飯でも食うたら?」
「貴様を倒し、名を上げさせてもらう! 我が名は‥‥!」
「あー、別に聞きとうないからえぇよ。あかんなぁ、腹減ってるからイライラするんやで?」
「問答無用!」
 浪人は谷のにこやかな応対に耐え切れず、滅多やたらに斬りつける。
 が、谷は笑顔を崩さず、明らかに遊びながらそれらを全て弾いていく。
 素人の一海でも思う。浪人の腕は決して悪くないと。
「腹減るからあんま動きとうないんやけどなぁ」
「新撰組何するものぞぉぉぉっ!」
 必死なのは浪人だけ‥‥。
 往来でいきなり始まった事だけに、見物客も多く‥‥滑稽な話である。
「‥‥せや、一海君。新撰組がなんで強いか知っとる?」
「は? い、いえ‥‥」
 突然話を振られて面食らう一海。
 勿論この間、浪人の攻撃は止まってはいない。
「噂だと、数の有利を生かした集団戦法が新撰組の真骨頂だとは聞いた事ありますけど‥‥」
「んー、残念。それも間違いやないんやけど、実はちゃうねん。新撰組の本当の強さはなぁ」
 ギィンッ、と激しい音を立て、浪人が大きく後退させられる。
「自分の得意技を絶対の必殺技に昇華する。これを各員が徹底することで、集団戦でも無類の強さを発揮する‥‥っちゅうのが根本や。個々の強さ‥‥それが無いならいくら集まったかて烏合の衆やもんね」
「では見せてみよ! その必殺技とやら―――」
 ぞぶっ‥‥!
 最後まで台詞を言い終わることすらなく、浪人は一撃で沈黙した。
 問答無用で喉に十文字槍を叩き込まれ、挙句捻って空気を送り込まれる。
「‥‥殺したくないからわざわざ説明までしたったのに。アホやなぁ」
 谷が真面目な顔をしていたのは、その台詞を呟いた一瞬だけ。
 すっと槍を引き抜いた谷は、いつものにこやかな顔に戻り、往来の誰かに新撰組屯所への連絡を頼んでいた。
「ま、後始末は七番隊の誰かに任せよ。ほんで一海君、どこに喰いに行くー?」
「い、いえ‥‥今日はご遠慮します‥‥」
「そうか? 残念やなー」
 その時、野次馬から悲鳴が上がる。
 見ると、浪人が血を吐きながらも果敢に立ち上がろうとしている‥‥!
「ありゃあ? 手加減しすぎたかなぁ」
「お‥‥の‥‥れ‥‥。し‥‥しか‥‥し、な、か、ま‥‥が‥‥!」
「はいはい。そっちも面倒見たるさかい‥‥安心したってや」
 そう言って、今度こそ確実に止めを刺す谷。
 その顔は、決して晴れやかとは言い難かったが‥‥。
「‥‥一海君」
「はい!? な、なんでしょう‥‥」
「近々依頼出すと思うから、そん時はよろしゅう。ほな、今日はさいなら」
 去っていく谷。
 野次馬たちがささっと道を明ける様が、谷へ恐怖を抱いていることを物語っている。
 新撰組‥‥因果な商売であった―――

●今回の参加者

 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9384 テリー・アーミティッジ(15歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1067 哉生 孤丈(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1647 狭霧 氷冥(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3393 将門 司(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

セリア・アストライア(ea0364)/ 葉隠 紫辰(ea2438)/ 月風 影一(ea8628)/ 央 露蝶(ea9451)/ サクラ・アギト(eb0453)/ プリュイ・ネージュ・ヤン(eb1420)/ 拍手 阿邪流(eb1798)/ レジー・エスペランサ(eb3556

●リプレイ本文

●月下の出撃
 すっかり夜の帳の下りた京都。
 すでに件の宿の付近の店もとっくに暖簾を下げ‥‥付近には静寂が訪れていた。
 その中で、十人以上の男女が物陰に隠れながら機をうかがっていた。
 新撰組七番隊組長、谷三十郎を初めとした、七番隊隊士が7名ほど。
 そして、京都に名だたる実力を備えた冒険者が8人。
「新撰組と関わるのは約一年半ぶり、そして今回も七番隊‥‥黄泉人騒動から、もうそんなに経ってるんだな。それはそれとして、今回もしっかりやらせてもらおう」
 宵狐の名のとおり、夜の闇で実力を発揮するか‥‥霧島小夜(ea8703)。
「谷さん、お久しぶり〜、ときおり依頼頼んでるのは知ってたけど腕不足で参加できなかったんだよね。
相変わらず攻撃能力はさっぱりだけどまたよろしくね」
 高速詠唱を備えた補助役、テリー・アーミティッジ(ea9384)。
「今回はお手伝いと言う事だけど、新撰組隊士になってからの初仕事なので頑張るんだねぃ」
 新撰組十番隊より出張、哉生孤丈(eb1067)。
「さって、いっちょやりますか〜♪」
 新撰組三番隊仮隊士で、正式採用はいつ? 狭霧氷冥(eb1647)。
「蟹退治の時以来やなぁ〜。追放者やけどよろしく頼むな」
 元新撰組十一番隊士で、谷とは何度か面識のある将門司(eb3393)。
「新撰組七番隊の手伝い、精一杯やらせてもらおう‥‥谷さんの腕もこの目で見たいしな」
 新撰組十番隊から二人目、氷雨鳳(ea1057)。可愛い顔して男っぽいのが残念(?)。
「敵は複数‥‥地の利は互角。あとは僕たちの腕次第かな」
 蒼き水龍こと、蛟静吾(ea6269)。1.2mの亀を引き連れた志士。
「人によって掲げる想いは様々、己の功名の為に振るう刃もありましょう。しかしそれのみに終始する刃は、いつか更なる哀しみを生む凶剣となります。そうならぬ前に、挫かせていただきます‥‥」
 炎のクールティーチャー(何だそれは)、緋神一閥(ea9850)。
 以上、谷を含めた9人が突入するメンバーである。
 他の7番隊隊士たちは、哉生たちの要請で、表口&裏口を固めることになっていた。
 突入班も、各々扱い慣れた刀や短い刀身の武器を用い、少しでも屋内戦闘での優位を得ようと準備万端だ。
 だが。
「いやー、心強いわぁ。これなら俺も楽できそうや♪」
 依頼主であり、場を纏めなくてはいけないはずの谷三十郎は、いつものように笑っていて緊張感がない。
 扱いなれているとは言っても、明らかに屋内戦闘に向かない十文字槍を持っているのもいまいち不可解だ。
「谷組長、本当にその槍で戦うのかねぃ? 今からでも代えた方がいいと思うんだねぃ」
「あー、えぇのえぇの。ドジは踏まんから、これで戦わせたってー」
 その自信が修羅場を潜ってきた故のものであるのならばいいのだが‥‥谷の場合、その片鱗が見えないから困る。
 そんなことはきっぱり無視し‥‥谷は静かに、突入に向けての合図を出した―――

●お宿、騒乱
「新撰組だ! ここに良からぬことを考えている輩がいることは分かっている!」
 七番隊隊士たちが裏口にも回ったことを確認すると、一行は一気に宿へと突入する。
 一階の調査を担当する者、二階の調査を担当する者‥‥事前の打ち合わせどおりに行動を開始する!
 各部屋を検めて回り、普通の泊り客や従業員の悲鳴が響き、宿内は騒然となっていた。
「およ? ここも違うかぁ。ごめんなぁ」
「谷殿、急ぎましょう。万が一にも逃げられるわけにはいきません」
「このような荒事、本来は望むものではありません‥‥。素早く済ませましょう」
「バイブレーションセンサーを使ってみたけど、大人数が一箇所に集まってる部屋は無いみたいだよ。変だね?」
 とりあえず一階を担当しているのは、氷雨、谷、蛟、緋神、テリー。
 手当たり次第に部屋の襖を開けて回るが、今のところ普通の泊り客だけである。
 何やら不審なものを感じる4人。
 と、その時だ!
「チェストぉぉぉっ!」
「っ!」
 ギィンッ、と耳障りな金属音が響き、蛟が浪人風体の男の刀を受け止める!
 ある襖を開けた途端、男が飛び出してきたのだ!
 見ればその部屋に泊まっていたのは普通の旅人らしく、この男は無理矢理この部屋に隠れていたということになる。
「我々の行動読まれていた!? 谷さん、これは‥‥!」
「うーん、やっぱ冒険者ギルドへの依頼は秘匿性に問題ありかなぁ(笑)」
 事前に新撰組七番隊と冒険者が突入してくることを知っていてなお逃げ出さなかったことは、賞賛に値しない。
 なぜならば‥‥!
「私に出会った不幸を呪え‥‥すまぬな、手加減はしてやれない」
 氷雨が大脇差で男に攻撃を仕掛け、あっという間に制圧する。
 そう‥‥男の腕も悪くはないが、この依頼に参加した冒険者の実力には及ぶべくもないのだ。
 ちょっと不意打ちをしたくらいではその差は埋まらない。
「おのれ! 作戦変更だ、分散している今のうちに叩くのだ!」
 隠れていた他の不逞の輩たちも次々と顔を出し、獲物を抜いて間髪入れずに襲ってくる。
「愚かな‥‥何故そのようなことのためにしか力を振るえないのですか」
「龍宮、君に決めた!」
 緋神の刀を受け止める浪人風の男だったが、何故かペットの亀を投げつける蛟の攻撃で大きく後退する。
「浪人さんって好きだよ、だってすぐに魔法にかかってくれるから(笑)」
 テリーも絶妙なタイミングでの後方援護を展開し、アグラベイションで敵の動きを鈍らせる。
 ふと見ると、旗色が悪いと感じた一人の浪人が、恐怖にかられたのか裏口方面へ逃げ出していく。
 しかし、そこにはそれを予見していたのか、霧島小夜の姿が‥‥!
「獣さえ牙を剥く相手は選ぶ。それもできないお前達は‥‥さしずめ虫、か」
「ど、退けい、女ぁ!」
「私の名は‥‥いや、言っても意味がないな。その足りない頭では覚えられまい?」
 ヒュンッ、と空気を斬る音。
 夜を切り裂く霧島の狐閃(ブラインドEX+ポイント+シュライク)。
 この期に及んで逃げ出そうとする浪人は、あっという間に戦闘力を削がれて膝をついた―――

●二階の首尾は
「新撰組である、御宿検め参り候! 各人部屋から出る事罷りならん! ‥‥だねぃ」
「どうやら待ち伏せされてるようやな。一階の方が騒がしいわ」
「宿の被害が拡大しないといいねぃ。今回はお手伝いと言う事だけど、新撰組隊士になってからの初仕事なので頑張るんだねぃ」
 二階に上がったのは哉生と将門。
 次々と襖を開けていくこと自体は一階の面々と変わらない。
 将門は本当は屋根裏に潜入する予定だったのだが、建物の構造上の関係、突入のタイミングの関係等で断念。
「下の旗色は悪いようだな‥‥あれだけ配置してこのザマか!」
「だが、連中も上に上がってきたのは二人だけのようだ。ここで一人なりと血祭りに上げてくれようぞ!」
 二階の一室で息を潜め、哉生と将門を狙う不逞の輩二人組み。
 しかし、そこに、全く予想していなかった乱入者が!
「お邪魔するよ〜♪ 新撰組である!! 斬られたくなくば武器を捨て壁に手を着いていてもらおうか」
「「!?」」
 背後‥‥つまり窓側からかけられた新撰組という言葉に、二人はぎょっとして振り返る。
 そこには、不適な笑みを浮かべた狭霧氷冥の姿が‥‥!
「馬鹿な!? 屋根から!?」
「悪いけど、手加減できるほど強くないからね!!」
 狭霧はブラインドアタックを仕掛けたが、敵はそれを見切って受け止める。
 しかし、襖の近くにいたのが災いして、反動で襖をなぎ倒し、廊下に出てしまう。
 そうなれば当然、哉生と将門に発見される形となる。
「おやおや、元気がいいねぃ。敵も味方も」
「狭霧さんか‥‥ホンマに屋根から突入したんかい」
「当然。目的の為なら手段を選ばない、ただし卑怯な事は無しが信条だからね」
 二対二で、しかも不意打ちで決めようと目論んでいた不逞の輩たちは、完全に出鼻を挫かれていた。
 しかし、彼らも武士の端くれ‥‥こうなればあとは斬り結ぶのみだ。
「新撰組隊士とお見受けいたす! その名に傷を付けさせていただくっ!」
「こらこら!? 私は新撰組に見えないわけ!?」
『見えん!』
 狭霧に対し絶妙なタイミングでハモる浪人×2。
 まぁ誠の鉢金をしている哉生と将門の方が、新撰組としても分かりやすいのは確かだ。
「出来るか? あんたらに」
「俺っちたちも伊達に新撰組やってないんだねぃ!」
 哉生の、スマッシュとダブルアタックの合成技‥‥十手と仏剣『不動明王』での同時攻撃。
 その鋭い攻撃は、腕で圧倒的に劣っている浪人に防ぐことは出来ない。
 一方は砕き、一方は斬る‥‥命名するなら『牙弾剛破』などいかがだろう。
「双蛇(スタン+ダブルアタック)‥‥あんま宿に傷をつけとうないからな」
 一方、将門も両手での同時攻撃でもう一人の浪人を黙らせる。
「私は結局追い立て役か。残念‥‥」
「ええやん、おかげで不意打ち喰らわずにすんだんや。感謝しとるで?」
 敵も味方も人数が少なかった二階は、あっさりとケリがついたのであった―――

●谷は?
「廊下は狭いから、睨みあいになると長引くな‥‥谷殿、どうします?」
「‥‥谷殿、後始末もあります故、手早く決めたいところです」
 すでに一階メンバーも6人の浪人たちを撃破しており、辺りに血が飛び散ったりはしているが宿自体にはさほど大きな被害は出ておらず、首尾は上々と言うところ。
「あー、せやねぇ。ほんなら‥‥ほいっ」
 蛟、緋神に問われ、一歩下がって見ていただけの谷は、氷雨の右腕すぐ傍に向けて、気の抜けた声と共に十文字槍を突き出す。
『は?』
 それは、本当に何の気なし。手を刺された浪人すら、何があったのか理解していなかった。
 邪気無く、闘気無く、味方の間のほんのわずかの隙間を縫っての攻撃であった。
「にゃは。もう刀持てんやろ? 後はあんさんしかおらんねやから、もうやめときー♪」
「あれ!? え、あれ、谷さんがやったの!?」
 テリーの声がした後にようやく、がちゃん、と刀が落ちる音。
「あ‥‥あ、そうか、確保! 確保だ!」
 氷雨が慌てて最後の一人を取り押さえ、これで宿の不逞の輩は全滅ということになる。
 まぁ、一人も死者は出していないのだが。
「‥‥運が良いんだな、こいつらは。そうそう当たらないんだぞ、大凶ってのはさ」
「にゃは。それでも当たることがあるのが大凶っちゅーもんやー♪」
 裏口の方にいる七番隊の面々にも後始末を頼もうと、谷が霧島とすれ違った時のやりとり。
 新撰組七番隊組長、谷三十郎は、その笑顔の下にどんな鬼を潜ませているのか‥‥空恐ろしいものを感じた、一階を担当したメンバーたちであった―――