丹波山名の八輝将『金剛の巻』
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 88 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月10日〜11月24日
リプレイ公開日:2006年11月18日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
かつて、丹波藩で半年にも渡ろうかと言う長い戦いがあった。
丹波藩城主、山名豪斬と‥‥その家臣にして、希有な魔法戦士部隊、八卦衆に弓を引くものたちが現れたのである。
その名は、『裏八卦』。丹波の内乱時のごたごた時に結成された、これまた凄腕の魔法戦士たち。
冒険者を巻き込んでの戦いは、序盤こそ裏八卦が奇襲やらなにやらで有利だったが‥‥それも長くは続かなかった。
徐々に裏八卦は捕まり始め、その数を減らし‥‥つい最近、全員捕まって処刑されたという。
が、それはあくまで表向きの話。
山名豪斬は、思った以上に甘い理想論者だったらしく‥‥なんと、裏八卦を家臣として雇い入れたのである。
裏八卦は『八輝将』と名を改められ、現在は丹波藩に慣れるための研修中。
さて、今回の八輝将は―――?
「一海さん、お久しぶりだべ。明美だぁよ」
「おや、明美さん。お元気でしたか?」
店仕舞い間際の京都冒険者ギルドに、一人の女性がやってきた。
一見どこぞの村娘にしか見えない地味な格好の娘。
しかし彼女は、丹波山名の『八卦衆』の一人なのである。
「いつ京都に? こちらへはご旅行で?」
「やんだー、一海さんたら。もう3回も依頼頼んでるべ?」
「‥‥はい?」
ふと見れば、明美の手から縄がつつつ‥‥と伸びており、輪状になった先っぽが宙にぷかぷか浮いていた。
「えーっと‥‥まぁ、なんです。記憶を辿ってみたところ、現状で呼ぶ名は一つしかないです。金兵衛さんですね?」
「私の名を呼ぶときは頭に『美しき』とつけるのを忘れるな! 私の名は―――」
「『八輝将・金剛の美しき金兵衛』だべ? もう耳にタコができただぁよ‥‥」
そう、金兵衛は陽系精霊魔法の使い手であり、何故かいつもインビジブルで姿を消しているのだ。
詳しい説明は省くが、彼曰く『伝説を作る上で素顔は要らない』とかなんとか。
「なるほど、姿が見えないといつはぐれるかわからないから、首に縄なんてかけてる訳ですね?」
「そういうことだべ。それはとにかく、依頼頼んでいいべか?」
「あ、はいはい。どうぞ。今度はどんな虫です?」
「そんな、丹波を虫王国みたいに言わねぇでくんろ‥‥」
話によると、今回の依頼は妖怪の撃滅ではなく、『逃げ出した動物の捕獲』らしい。
西国から商品を輸送していたとある隊商がおり、彼らが連れていた象が丹波に入った直後に突如暴れて逃げ出したのだという。
象は荷物運搬能力に優れていたので、珍しさも手伝ってか外国から輸入したものらしい。
人懐こく、今まで暴れだすようなことはなかったようなのだが‥‥?
「ふっ‥‥商人たちはなるべく傷つけずに捕まえてくれと言っているそうだ。馬鹿馬鹿しい」
「象は大人すいけんど、やっぱり知らねぇ人間さ近づくと恐がるんだ。力もあっから、暴れられると並の人間じゃ手も足も出ねぇのが現実だべよ。そこで、八輝将の研修にもいいべっちゅうことになっただ」
「迷惑だ。この美しい陰陽師金兵衛が家畜ごときを追い回さねばならんとは‥‥」
「と、とにかく、その象っていう動物をなるべく傷つけずに捕まえて、隊商に引き渡せばいいんですよね?」
「んだ。象は二匹が逃げて、逃げ出した場所の近くにある草原に住み着いたっちゅう話だべ」
「間違っても踏まれるなよ。死ぬぞ」
パッと見、一人で帰っていくかに見える明美‥‥だが、一応金兵衛も一緒にいる。
一海は思う。
いつか絶対、金兵衛の顔を見てやろうと―――
●リプレイ本文
●悪意の影
「美しき金兵衛さんの言ってたとおり、象が二匹、川辺で水飲んでたよ。空から見てきたから、気づかれてないと思う」
「当然だ。テレスコープは遠くの真実を見通すのだからな」
「おーい、金兵衛よぉ」
丹波藩西部の最果て、国境付近。
一行は現地に到着すると、まずは象の捜索を始めた。
思いの他付近の視界は良好で、金兵衛がテレスコープで辺りを見回し、すぐに象を発見。
それをテリー・アーミティッジ(ea9384)が確認して、帰ってきたところというわけである。
「しかし、迂闊に近づくのはよろしくないかな。確か、象ってのは鼻が効く上、臆病ですぐ逃げるらしい」
「そして追い詰められると凄まじいパワーで暴れる‥‥ですか。できれば穏便に行きたいものですね‥‥お互いのためにも」
「おい固羅。聞いてんのか金兵衛!」
早々に象を見つけてしまったので、国境方面の異常を確かめに行った乃木坂雷電(eb2704)と、カンタータ・ドレッドノート(ea9455)も戻ってくる。
国境に設けてある関所付近にも特に強力な妖怪が潜んでいるような気配もなく‥‥辺りは平穏そのものに見えた。
しかし、乃木坂だけは薄々だが感じるものがあったという。
それは‥‥『人の手の介入』である。
「フッフッフッ‥‥魔法が使える‥‥。と、それはさておき、長距離版のテレパシーの有効範囲ギリギリからなら逃げられないだろうか。会話での説得が通じればいいが‥‥」
「ふん、相手は畜生だということを忘れるな。下手に話し合いなど試みて余計いきり立たせては目も当てられんぞ」
「んにゃろう、さてはボコボコにしたこと根に持ってやがんな!? 聞けよ!!」
依頼人から『なるべく傷付けずに頼む』と言われてしまっている一行は、無難に対話路線を取ろうとする。
丹波家家臣として金兵衛の先輩に当たる黒畑緑太郎(eb1822)がテレパシーの魔法を使えるからこそ取れる作戦だ。
「どうもキナ臭い感じがする。関所付近でこんなものを見つけたんだ」
「‥‥何これ? 釘‥‥にしてはずんぐりしてて丸っこいね?」
「どんぐりみたいですけど‥‥なんですか?」
「どれどれ‥‥なんだ、この妙な楔みたいなのは」
「ってお前らもかよ!? 俺、総スカン喰ってんのか!?」
乃木坂が手にしているのは、カンタータが言ったようにどんぐりのような形の金属に、螺旋状の溝が掘られた代物。
一見しただけでは、これがどんな用途に使われるのかは想像しにくい。
「ほう‥‥螺旋鋲か。珍しいものが転がっているな」
そんな中、金兵衛は一目でそれが何か察したようだ。
相変わらずインビジブルで消えているので、表情は読めないが。
「そう、こいつは螺旋鋲といって、遠くから投擲する武器だ。この螺旋状の溝が掘られていることによって、回転をかけて投げつけた時に手裏剣とかにはない『貫通力』を得られるようになってる。金兵衛の言うとおり―――」
「私の名を呼ぶときは―――」
「分かった分かった。美しき金兵衛の言うとおり、一般に出回ってる物じゃない。手に入れるのはわりと難しいんだ」
「そんなものが落ちていたということは‥‥今回の一件、何らかの悪意が働いているというのですか?」
「確か象ってすごく高いんだよね? もしかして、隊商の荷物じゃなくて、象そのものを盗っちゃおうって人たちが‥‥」
「なるほど‥‥その可能性は考えられる。これは対人戦も想定しておいた方がよさそうか。フッフッフッ‥‥そうなれば必然的に魔法が使える‥‥」
「あーそうかよ! なんだよこの扱い! 俺が何かしたか!? 俺が悪ぃのか!? てめぇら、あんまりちんぴら虚仮にしてっとこのドスで往生させっぞこらべしばっ!?」
流石に五月蝿くなったのか、透明なままの金兵衛が彼の背後に回り、蹴りをかました。
同時にインビジブルが切れたのか、面をつけた陰陽師装束の金兵衛の姿が現れる。
伊東登志樹(ea4301)‥‥弄りやすい楽しい性格のちんぴらさんであった(笑)
「わかった。話を聞くから言ってみろ。いい加減鬱陶しい」
「おう。そこの“うつくしき”金兵衛よぅ」
「復活速いね!?」
うつくしきだけ白々しく強調する伊東に、思わずテリーがツッコむ。
「なんだ“ちんぴら”登志樹」
「無駄に精神力を消費すんじゃねぇ。透明で伝説になはなれん。漢が伝説築くにゃ、貫目と凄みが必要不可欠やけぇ!」
「ほう。では聞くが、貫目と凄みを身につけたあとはどうすると?」
「ふっ‥‥あとは、ドスでカチコミする度胸があれば伝説にぃぃぃ!」
「金兵衛さんに何の伝説を作らせるつもりですかぁぁぁ!?」
「あ、待て、イリュージョンには嫌な思い出が! おわぁぁぁぁっ!?」
話が進まないので、カンタータのイリュージョンで強制終了―――(合掌)
●そろそろ本題
『アナタタチハコワイヒト? モウイジメナイデ』
『安心していい。私たちは君たちの味方だ。恐いことなどしないぞ』
遠くからテレパシーで会話を試みた黒畑は、象たちから詳しい当時の状況を聞いた。
関所を越えて丹波藩に入ってすぐ、どこからか硬いものが飛んできて自分たちの身体に食い込んだという。
話をつけて近づいた6人は、傷口から螺旋鋲を発見する。
「すごいもんだな‥‥普通、全力で螺旋鋲を投げつけられたら、こんなに浅くめり込むだけじゃ済まないんだが」
「身体も大きいし、皮膚も頑丈なんだね♪」
「つーかよ、犯人はこれで象を暴れさせて、隊商を遠ざけてからかっぱらうつもりだったんだろ? そいつらはどこに行ったんだよ、こいつら放置したまんまでさ」
「いや、何度か捕まえに来たと言っているが、その度に彼らが暴れて撃退しているらしい。数は6人」
「や、やっぱりこの大きさは伊達ではないのですね。是非とも敵対したくないものです‥‥」
と、一行が象の治療と隊商の元に戻ろうという説得を行っていた時だ。
「‥‥む? おい貴様ら、馬に乗った連中が近づいてくるぞ。数は6だ」
「つか、なんでひょっとこの面なんだよ。他にいくらでも面の種類はあんだろーが」
テレスコープで辺りを警戒していた金兵衛が一行に声をかける。
数を聞いた時点で、一行はさっと戦闘態勢を取った。
国境付近に騎馬が6騎‥‥怪しいにも程がある。
やがてその騎馬の集団は、予想通りに一行と象の前に立ちはだかった。
「いやぁ、すまねぇなぁ。その象は俺たちのもんなんだ。ちょっと目を離したら逃げちまって。さ、引き渡してくれ」
リーダー格と思われる男がさらりと言うが、一行にはそんな嘘が通じるわけもない。
見たところ、野盗‥‥いや、それにしては装備が刀に統一されているのは不自然か。
「率直に聞く。どこの手の者だ? 本当の目的はこの象じゃないことは大体察しが付くが」
乃木坂が問うと、騎馬集団は一瞬ぎょっとした顔をした後、しまったという表情を浮かべる。
「語るに落ちるとはこのことだな。お前たち、さては他所の藩の間者か」
「間者って‥‥スパイ!? なんでスパイがこんな目立つことしてるのさ!?」
「スパイだからこそでしょう。こんなふうに野盗に身を窶せば、大っぴらに振舞ってもスパイとは思われにくいですからね。多分丹波の人たちに、『他所の国から野盗が紛れ込んできた』と思わせたかったんだと思います。スパイより小物の野盗のほうが、警戒レベルがよっぽど低いですからね」
「なーるほど、合点がいったぜ。しかしよぉ‥‥ならなおさら許せねぇな! 嘘でちんぴら道を極められると思うなよ!?」
ざざざ、と隊列を整える騎馬集団。
馬の扱いと隊列形成に長けている!
「かかれ! この場で5人とも斬り捨てろ!」
リーダー格の指示で、騎馬集団が一行に襲い掛かる。
テリーが高速詠唱でアグラベイションを使うが、対象が一人だけなので手が足りない!
「5人‥‥って、あんにゃろう! また姿消しやがったな!?」
「仲間に見捨てられたか! そいつの方が賢明だったな!」
「(‥‥なるほど、そう受け取ったか。)なんの、こちらもただではやられん。私の魔法の冴えを見るがいい」
「乃木坂、馬にはねられないようにしろよ! もやしのお前じゃ大怪我すんぞ!」
「誰がもやしだ! おまえこそ、ちんぴら道がどうとかで油断するなよ‥‥!」
「テリーさん、お手伝いします! イリュージョン!」
各員奮戦するが、騎馬集団は思ったより手強かった。
伊東の攻撃は捌けないようだが、馬の機動力を生かしてカンタータや黒畑、テリーなど術者に狙いをしぼり始める!
「ちくしょぉぉぉッ! おい金兵衛! 何かやるならさっさとやりやがれぇぇぇ!」
「往生際が悪いぞ! 恨み言はその金兵衛とやらに―――」
『私の名を呼ぶときは、頭に『美しき』と付けろ!』
何も無いはずの空間から声がし、一騎の騎馬が影を縛られる。
そう、姿を消していた金兵衛が、カンタータリクエストのシャドウバインディングのスクロールを使ったのだ。
すぐにその場を離れたので、他の騎馬が刀を振るっても虚しく空を切るだけである。
「でたね、お得意の戦法! 僕も全力でお手伝いするよ!」
「とりあえず殺さないように注意して、できるだけ全員捕まえてくれ。逃がすと丹波にとって厄介なことになる!」
しかし、敵もさるもの。何とか囲みを突破し、三騎が逃げ去ってしまったのである。
馬の機動力と、それを操る彼らの技術には目を見張るものがあったという。
もう少し人数がいればとも思うが、これも天運か。
「さて、黒畑さん、この方たちをどうするおつもりですか?」
「一先ず豪斬様にご報告して、身元や目的を吐いてもらう。かと言って下手に手荒な真似ができないのは辛いところだ」
「どんな理由があれ、他国の家臣を勝手に斬れば外交問題だからなぁ。特に、三騎逃がした後じゃなおさら」
と、乃木坂が口にしたのを受け、思い出したように金兵衛が黒畑に言う。
「外交問題で思い出したが、風の旋風から伝言だ。『状況はよくないわ。どの国でも丹波へのいい噂は聞かないもの。ひょっとしたら軽い小競り合いは避けられないかもねん』‥‥だ、そうだ」
「もうすでに小競り合いは経験したと伝えてくれ。‥‥まずいな。次はこの程度では済まないかも知れん‥‥」
表面化していないだけで、丹波の情勢は思った以上に悪い。
今回のことが引き金になり、更に悪化しなければいい‥‥黒畑は、切にそう願ったという。
兎にも角にも、象たちを無事に隊商に返し、捕虜を二人ほど連れ、一行は帰途に着いた―――