●リプレイ本文
●天候不順も運の内?
空は青く晴れ渡‥‥っておらず、どんよりとした雲が灰色の世界を形成していた。今にも雨が降ってきそうな天気の下でも依頼の決行日程に変更はない。
「うーわー‥‥雨が降ると飛びにくくなるから、ちょっと嫌かなぁ」(がらがらがら)
ふわふわと空中を漂いながら、困ったように呟くレジーナ・レジール(ea6429)。シフールの彼女の囮が今回の重要事項であるため、視界も狭まる雨があまりよろしくないのは確かだ。
「で、でも‥‥暗いから豹さんが夜と勘違いして出てきてくれるかも、し、知れませんよ‥‥」(がらがらがら)
フォローでもするかのように、どもりながらではあるがレジーナを頭の上に乗せる水葉さくら(ea5480)。豹が活発に活動するとかえって危険という噂もあるのだが。
「うん‥‥雨はよくないけど、曇りのままなら。念のための痺れ薬もあるし‥‥」(がらがらがら)
事前に自分で調合した薬が入っている小瓶を取り出し、高村綺羅(ea5694)は道を歩く。彼女の疾走の術にとっても、足元が滑りやすくなる雨は歓迎できる要因ではない。
「いざとなれば作戦の変更もやむなしといった所でしょうか。後は雨が降らないことを祈るのみですね」(がらがらがら)
毅然と言い放ったのは御神楽澄華(ea6526)。責任感の強い彼女は、依頼が失敗しないよう精一杯の努力をするつもりらしい。少々肩に力が入りすぎのような気もするが。
「なんにせよ、あんまり猫さんたちを傷つけないようにしましょう。猫さんたちは被害者なんですから」(がらがらがら)
十字架のネックレスをぎゅっと握り締めながら言うイリス・ファングオール(ea4889)。慈悲の神聖騎士と呼ばれる所以がこの優しさである。
「‥‥‥‥おまえら‥‥なんで俺にだけ引かせてるんだ固羅。あー、かったりぃ‥‥」
さっきからしていた『がらがらがら』という音は、玖堂火織(ea0030)が一人で大八車を引いていた音だったのだ。その上には、丈夫な檻がでん、と積まれている。
「男が玖堂さんしかいないからよ。後ろめたかったのか知らないけど、依頼主がちゃんと用意したんだから文句はなし」
一応大八車を後ろから押して手伝いながら、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)がツッコミを入れる。彼女が要求するまでもなく依頼主が細々したものを用意していたので、なんとなく機嫌がいいようだ。
「あ、あの‥‥どなたか、忘れていませんか‥‥?」
「え、そう? これで全員だよっ♪」
「‥‥気にすんな。かったりぃだろ」
「人生色々‥‥綺羅も気にしないのがいいと思う」
どことなく寂しい感じがする中‥‥豹が潜む森は、もうすぐそこに迫っていた―――
●豪雨の戦闘! 〜奇襲と肉と疾走と〜
「結局降ってきてしまいましたね‥‥条件は最悪というわけですか」
「仕方ありませんよ。でも木の上を飛び回ったりされなくなるだけマシかも知れませんよ?」
猫科の生物は基本的に体が濡れるのを嫌う。外を出歩かなくなることもあるし、濡れた枝を飛び移ることも控えるようになるため、あながち不利なことばかりとはいえなかった。
雨脚はどんどん強くなり‥‥木々が鬱蒼と茂る森の中に居ても身体が濡れてくる程になってしまう。これならば豹が森の外に逃げる可能性もかなり低くなるだろうか。
「うん、このくらいなら飛べるよっ☆ 森の外に出たら多分無理だけど‥‥」
「矢に塗った痺れ薬が落ちないかしら‥‥気をつけないと」
かといって一行に有利と言うわけでもないから複雑だ。あとは当たって砕ける実力行使しかない。
「じゃあ‥‥囮役、行ってくる‥‥」
その言葉を残して、レジーナと高村は森の奥へと踏み入っていった。残された五人は森の入り口から数十メートルのところに大八車を止め、待機することになったのだが‥‥。
「な、何か‥‥嫌な予感が、し、しませんか‥‥?」
「‥‥別に? 気にしすぎだろう」
「そ、そうですか‥‥? な、何か、見張られているような、気が‥‥」
水葉の言葉が終わらないうちに、上空から何かが落ちてくる。いや‥‥襲い掛かってくる!
「ぐあっ!? ちっ、なんだ‥‥!?」
爪の攻撃で軽傷ダメージを受けた玖堂。一同が黒い影の方へ視線をやると、薄暗い森の中に怪しく輝く一対の瞳‥‥!
「す、すぐ近くにいたなんて‥‥玖堂さん、大丈夫ですか!?」
「ど、どうしましょう‥‥よ、予定外ですよ‥‥?」
「予定通り事が運ぶなら私たちも楽でいいんだけどね‥‥」
体が濡れている為に機嫌が悪いのか、それとも単に腹が空いているだけか‥‥何にせよこちらを襲う気満々だ。どうやら逃げると言う選択肢は取れそうにない。
「きゃあっ! に、兄様ぁ!」
「あうっ‥‥ね、猫さんっ‥‥!」
その黒い体が疾風のように近づき、水葉とイリスに連続攻撃を仕掛ける。正直言って速い‥‥とてもじゃないが二人は避けられない!
突然の奇襲のため、罠を仕掛けることは勿論イリスのグッドラックもかけられず、状況はいたって不利だ。
「アイーダ様、矢での援護を! 私が接近戦を仕掛けます!」
「了解、御神楽さん」
「ちっ、面倒臭ぇ‥‥殺してはいけないのだろう‥‥?」
アイーダの矢は豹に命中するが、かすり傷程度にしかならない。痺れ薬を塗る時間もなかったため、牽制程度にしかなっていない。だが豹が少なからず怯んだ隙に御神楽と玖堂が接近して攻撃を仕掛ける!
「速ぇ!? 御神楽!」
「わかっています、玖堂様!」
玖堂の攻撃を回避したところを、御神楽の峰打ちによる追撃が直撃する。だが豹はすぐに立ち上がり、距離をとって戦闘体制に戻った。
「ど、どうするんですか‥‥? あ、あんなに動きが速いと、イリス様のコアギュレイトの発動域まで近づけないのでは‥‥」
「そうね‥‥ちょっと手荒だけど、斬りつけたりしない程度に痛めつけないといけないみたいね。イリスさん、豹の怪我が酷そうだったらリカバーお願い」
「あ、は、はい‥‥。傷つけるのは気が進みませんけど‥‥仕方ないです」
下手に手加減しようものならこちらが危ない。素早く鋭い豹の攻撃を受け続ければ、あっという間に死人が出る。
「こうなると囮組みがやばいかもな‥‥二人しかいないんじゃ」
「そうか‥‥向こうも襲われる可能性が高いというか、襲われるための囮ですからね‥‥!」
今は目の前の豹に集中するしかない。囮組みには悪いが、こちらも死人を出すわけには行かない―――
「さぁて、豹さんはどっこっかなぁ〜。食べられるのは嫌だけど、早く帰ってお風呂に入りたい♪」
「賛成‥‥お肉、生臭いし」
囮役の二人‥‥特に高村は誘き寄せ用の生肉を携帯しているため、臭いが気になっているようだ。
待機組みが豹に襲われているとも知らず、ただ森の中を探索していく。
「‥‥ねぇ、ふと思ったんだけど‥‥」
「うん? 何?」
「綺羅たちが二匹同時に襲われたり‥‥残りの皆が二匹に襲われたりしたらどうするのかな‥‥?」
「うっ。‥‥ど、どうなんだろ‥‥全然考えてなかったよね‥‥」
とその時、付近の草むらがざわざわと揺れる。直感的に二人は悟る‥‥『危ない』と。
「この威圧感‥‥豹さん!?」
「見える‥‥!」
人類の革新じみた台詞を吐きながら豹の奇襲を回避する二人。流石、囮役を買って出たことはあった。
豹は素早く体制を戻すと、低い唸り声を上げながらレジーナたちと対峙する。雨で濡れた黒い毛皮は、薄暗い中にも美しく怪しく輝いていた。
「ど、どうしよう‥‥雨だから枝とか燃えないよ!? 荷物は皆のところに置いてきちゃったし‥‥!」
「予定通り戻ろう‥‥レジーナ、しっかり捕まって。移動指示はよろしく」
「え? わっ!?」
疾走の術を発動し、くるりと背を向けて来た道へと走り出す高村。後ろに豹がついてきてることを確認しつつ、滑る足元に気をつけながらのため、普段ほど速度が出ないのが痛い。
「もうちょっと右方向だよ! わぁ、追いつかれちゃう!?」
「これ以上速く出来ない‥‥ごめん、なんとかして‥‥」
「うん‥‥すぐ消えちゃうと思うけど、クリエイトファイヤー! それをファイヤーコントロール! いっけぇ!」
雨の中の火は非常に頼りないが‥‥それでも豹がスピードを緩めるくらいの役には立つようだ。幾度となくそれを繰り返し、二人は待機組みが残っていた場所へと戻ってくる。
「お二人とも、無事だったんですね!」
「よ、よかったです‥‥こ、こっちも大変だったんですよ‥‥」
「‥‥ごめん、一匹出くわして連れてきちゃった」
『えっ!?』
イリスと水葉の労いを受けるが、事態はそんなに生易しくない。高村たちの後ろにいる豹を確認すると、待機組みはまた構えを取った。
「ったく‥‥面倒すぎるぞ、この依頼」
「同感ね‥‥追加料金でももらいたいくらいだわ」
「それは豹を元居た場所に返してもらうことにしましょう。‥‥来ます!」
つい数秒前に戦闘が終わったんだと口を挟む間もなく、二匹目の捕獲作戦が展開される―――
●自然のままに
「なるほど‥‥何とか無事に2匹とも捕獲、依頼主に引き渡せたわけですね。いやはや、無茶な動物飼おうとしたものです」
二連続で豹との戦闘を終えた一行はまさに満身創痍‥‥イリスのリカバーで回復してもらわねば帰るのも億劫だっただろう。
一匹目は御神楽と玖堂が峰打ちでダメージを蓄積し、動きが鈍ったところを水葉が捕縛、ロープで縛って檻へ。
二匹目はレジーナがひきつけているうちにアイーダと高村が痺れ薬を準備、麻痺させた上、イリスがコアギュレイトで捕縛した。
檻を載せた大八車を依頼主の元へ届けた後、真摯な説得(依頼主は半分泣きそうだった)の甲斐あって、豹は華仙教大国南部へと戻されることになったのである。もう少しすれば、故郷の自然の中でのびのびと暮らせるのではないだろうか―――