カドにご注意!?
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■ショートシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:7人
サポート参加人数:4人
冒険期間:12月24日〜12月29日
リプレイ公開日:2006年12月31日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「うーむ‥‥尻尾の運命に時間を割くか、神々の黄昏線上に時間を割くか‥‥悩みどころですね」
「仕事をしたまえ」
「べぶっ!?」
ある日の午後、京都冒険者ギルド。
職員の西山一海が遊びの算段をしていたので、丁度やってきた彼の友人、藁木屋錬術が背後から蹴りを入れたのである。
冒険者ギルドではすっかりおなじみの光景だ。
「まったく、こちらは、大変だと‥‥言うのに」
「‥‥? なんか随分息が上がってますね?」
「全力、疾走で、逃げてきた、からな。‥‥‥‥ふぅ‥‥少し落ち着いた」
「逃げてきたぁ? なんかヤバイことでもやったんですか? っていうか、藁木屋さんが全力疾走で逃げなきゃいけないような相手なんですか、それって」
「ある意味誰よりもヤバイ相手だな。すまんが一海君、ここが見つかるのも時間の問題だ。今のうちに依頼を頼みたい」
「それは構いませんが‥‥内容は?」
「それはだな―――」
そう、藁木屋が言いかけたときだ。
不意に彼の背後から、誰かが突進してきて‥‥!
「れ〜んじゅつ♪ きゃはっ、つっかま〜えた。もぉ〜、全力で逃げることないじゃない(はぁと)」
その人物は、一海も見慣れた相手。
ただし、残念ながら一海の中にある彼女のイメージとは120%かけ離れていたが。
「あ、アルト‥‥。すまん、ちょっと一海君に用があってね。‥‥一海君、気持ちは分かるが固まらんでくれ」
「馬鹿なッ! あのッ! あのアルトノワールさんがッ! 『♪』ッ!? 『きゃはっ』ッ!? 『もぉ〜』だとッ!? 混乱ッ! 頭が混乱しているッ!」
「何故そこで奇妙な感じになる」
「‥‥すいません、取り乱しました。‥‥で、そちらはどなたで?」
「何よ、私よ。友達でしょ? ア・ル・ト・ノ・ワ・ー・ル。一海君たら冗談ばっかり♪」
「『友達』ッ!? 『一海君』ッ!?」
「それはもういい。冗談抜きで正真正銘、本物のアルトノワールだ」
「だだだだだだって、アルトさんですよ!? 本物だったら私を君付けでなんて呼びません! 西山一海って何故かフルネームで呼びますよ! 第一、台詞回しが速すぎます! 一番最初の『‥‥』みたいなタメがなきゃウソです! っていうか、アルトさんの笑顔っていうのがまず想像できなかったですし!」
「だから依頼を出そうと思っているのだよ。彼女を元に戻して欲しいとね」
「はぁ!? とりあえず聞きますが、原因は!? 滑って転んで石に頭をぶつけたとかはナシですよ!?」
「‥‥滑って転んで豆腐の角に頭をぶつけた」
「そんなスチャラカな理由がありますか!?」
「事実なのだから仕方ないだろう! 私とて何がどうなっているのかさっぱりなのだ!」
「えー、錬術ぅ。私、どこも悪くないってば〜」
もう何が何やら。
とりあえず、3人には落ち着いてもらうことにする。
「‥‥理解はしかねますが分かりました。つまり、本当に豆腐の角に頭をぶつけてこうなったと」
「らしいのよね〜。あはは、自分じゃ何にも覚えてないけど」
「記憶喪失ではないらしいのだ。ただ単に性格が変わったという‥‥」
話せば話すほど、一海からしてみれば異質。
アルトノワールといえば、いつも仏頂面で面倒くさがり屋で、藁木屋以外に興味のない破壊兵器と認識していた。
が、今のアルトノワールは、まるっきりどこにでもいる女の子。
笑顔もよく見せるし、物腰も柔らかく‥‥文句のつけようがない。
「はっ、いいじゃないですか。以前の性格の時も藁木屋さんにゾッコンラブで尽くしてくれてた恋人が、性格も可愛くなったんですよ? 何の不満があるって言うんですか。このままだっていいでしょ、別に!」
「えへ。私は別にこのままでもいいんだけどなぁ。仕事に差支えがあるわけでもないし、なんだか錬術の反応が新鮮で嬉しいの。うふふ‥‥一海君はどう思う?」
「あ‥‥。‥‥‥‥‥‥‥‥うぁぁぁぁ、違う! 違うんだぁぁぁ! 私がアルトさんの笑顔にドキッとするなんて、そんなことあるはずがないんだぁぁぁっ!」
がんがんがん、と柱に頭を打ち付ける一海。
何がそんなにショックなのであろうか(邪笑)。
「出血多量で死ぬ前にやめておきたまえ。まぁ、私も悪いとは言わないが‥‥やはりアルトはアルトであって欲しい。ちなみに、再び豆腐の角に頭をぶつけるという手段はもう試した」
「わ、わかりました‥‥このままでは私の身も保ちません。なんとしても元に戻ってもらいます」
だらだらと額から流れる血を拭いもせず、一海は依頼書の製作に移った。
概要は、『豆腐の角に頭をぶつけて性格が豹変した女性の、性格の矯正』。
正直意味が分からない。
「‥‥なんとかなるといいが‥‥。というか、なんとかなってくれ(汗)」
未だかつてこんな依頼は聞いたことがないが‥‥今、ここにあることに違いはない。
どうか、全力で矯正にご協力をお願いします―――
●リプレイ本文
●早速治療(?)開始
「つっても、『豆腐の角に頭をぶつけた』ゆうことくらいしかわかってないから難しいけどなぁ‥‥」
応急処置の応用でアルトノワールの頭部を調べているのは、飛火野裕馬(eb4891)。
いくら転んだとはいえ、ぶつけたものが豆腐だけに、傷などは一切見当たらない。
「ねぇ、もういいでしょ? あんまり女の子の髪を触らないんで欲しいんだけど‥‥」
苦笑いしながら、アルトノワールはさりげなく離れた。
「うーん‥‥後可能性があるとすれば‥‥。その豆腐って普通の豆腐じゃないんやないかな〜。豆腐自体がマジックアイテムなんてことはないやろか?」
「マジックアイテムな豆腐ってどんな豆腐よ‥‥(汗)。いつも買ってるお店の絹ごし豆腐だってば」
「いきなり手詰まりやん!? そないゆわれても、あんま女の子に過激な手段は取りとぅないしなぁ‥‥」
「ちなみに聞いていい? 過激な手段ってどんなの?」
「ホンマに教えて欲しいか? 子猫ちゃん」
「だ れ が こ ね こ ち ゃ ん よ」
「あーもうなんや分からんわ、面倒くさいわ。性格がかわいいなっとんのやったらええんちゃうの〜?」
「わーん、それじゃ困るらしいから頼んだのにー!」
「結局はキミの意思次第やろ。そのまんまでえぇか、よぅないか‥‥自分で決め」
「う‥‥何よ、最後は真面目に締めたわね‥‥」
彼女なりに思うところはあったようだが‥‥兎にも角にも、飛火野、失敗―――
●乙女(?)VS
次のドクターは昏倒勇花(ea9275)。
アルトノワールとは何度も面識ある顔なじみである。
「やっほー。お久しぶり昏倒さん♪」
「お、おほほ‥‥お久しぶりね、アルトさん(汗)」
やはり面識があればあるほど違和感を感じるのか、昏倒もわりと嫌な嫌な汗をかいていた。
一応質疑応答やアルトの観察をしたが、どうにも演技とは思えず、実力行使とあいなるわけである。
「というわけで、私の治療はこれよ!」
と、昏倒が取り出したのは紐で吊るした豆腐。
曰く、越中五箇山の辺で作られるという固めの豆腐らしい。
「え。えっと‥‥その‥‥。そ、それをどぉするのかしら(汗)」
「勿論‥‥思いっきりぶつけるのよ」
「無理! 絶対無理! そんなので治らないわよ! っていうか髪がべちゃべちゃになるから嫌ー!?」
「我侭言わないの! なら私の愛がこもった『愛暗苦労(あいあんくろう)』とか『反吐炉津苦(へっどろっく)』、『邪萬棲腐烈苦棲(じゃあまんすうぷれっくす)』がご所望かしら!?」
わきわきと手を動かし、アルトノワールに迫る昏倒。
なんとなーく絵面的によくはない。
「いーやー! 顔知らないけどおかーさーん!?」
「誤解を招くような発言しないの! おほほ、お待ちなさーい!」
勿論結果は失敗。力技では治らないということなのであろうか―――
●VSくノ一
「錬術ちゃ〜ん♪ 久しぶりなのね〜」
「は、はぁ。私はみなさんにお任せしている身ですので、アルトの矯正に専念していただけると‥‥」
「だって〜。アルトちゃんの仕草はカワイイし、錬術ちゃんの慌てる様子もある意味面白いんですもの」
3人目は百目鬼女華姫(ea8616)。
彼‥‥あぁいや、彼女は何故か治療対象のアルトではなく、藁木屋錬術のほうに趣を置いていた。
これも百目鬼なりの治療とのことだが‥‥?
「あの‥‥ごめん。絵面がすっごくよくないんだけど」
「んまっ、失礼しちゃう。ねぇ錬術ちゃん、一緒に彼女を可愛がってみない? なんならアタシが指導しても良いわよ?」
「だが断る! 言っとくけどね、あなたの指導なんて錬術にはいらないんだから!」
「いや、アルト。落ち着こう、頼むから(汗)」
「どうかしら。さあ、それなら試しにアタシが愛してアゲルわよ〜」
「いーやーよー! 錬術以外の男‥‥あぁ、あなた女だっけ? どっちにしたって嫌ー! 錬術には愛があるの! テクニックも愛もあるからいいの! 私だって錬術だから気持ちいはべしっ!?」
見れば、テンションの上がったアルトを藁木屋が後ろから殴り倒したところであった。
「‥‥それで戻ればいいのにねぇ」
「まったくで。お見苦しいところをお見せしました(滝汗)」
「うふふ‥‥ある意味ご馳走様でした」
なんだか恥をさらしただけの気もする。
百目鬼、失敗―――
●愛・やってみましょうか
「古来より愛する人の力によって奇跡が起きた‥‥などの物語もありますし、案外藁木屋さんの愛の力によって戻るかもしれませんよ? という事なので‥‥キスなどしてみてはいかがでしょうか?(それはもう凄く良い笑顔)」
4人目のドクター、セイロム・デイバック(ea5564)。
満面かつ爽やかな笑顔で、開口一番そう言った。
「き、キス‥‥というのは口付けのことだったか。いや、公衆の面前でそれは‥‥(汗)」
「やーんもぉ、セイロム君のえっち♪」
「げふっ。あぁいえ、なんでも(汗)」
セイロムもなんだかんだでアルトノワールとは縁があり、彼女の変貌振りが心臓に悪いらしかった。
「で、どう? 錬術‥‥シて、みる?」
「せん」
「ちょっとぉ!? 0.2秒で即答!?」
「人前で堂々とそんな真似ができるかっ!」
「くすん。どうしても駄目‥‥?」
「う‥‥そんな泣きそうな声を出さないでくれたまえ‥‥」
「ストロベリるのはそれくらいにして、次の手段いきましょうか」
「ちぇっ、一番いい手だと思ったのにー。で、次の手って?」
「とりあえず、『滑って転んだ』の部分を再現していない可能性もあるので、それを再現してみれば良いかと。トゥーフにも当たり所があるのかもしれませんし」
「結局豆腐じゃない! あなたたちね、女の子の髪をなんだと思ってるのよっ!」
一つ分かったこと。アルトは、基本的に我侭であるという点は変わっていない。
‥‥訂正。女性なら誰でもこういうリアクションであるとのお達しである―――(何)
●レッツ女の子トーク?
「うーん、私自身はアルトノワールさんがとっても可愛いから、今のままでも良いと思うんですけどねぇ‥‥やっぱり駄目ですかぁ?」
「駄目らしいのよ。私自身は以前の私のこと覚えてないから、どんなのだったかよく知らないけど」
「いや、うん。聞かないほうが身のためかも知れませんねぇ」
「そんなに酷かったの!? わーん、この際教えて! 錬術もはぐらかしてばっかりなんだもん〜!」
5人目の鳳刹那(ea0299)は、明確な治療法を持ってきてはいない。
が、それはそれで、話すだけでも昔の自分を知るいい機会になるかもしれない。
「えっと‥‥なんて言うんですかぁ? 傍若無人? 唯我独尊? 自由奔放? 喧嘩上等―――」
「も、もういいわよ。って言うかほとんど聞こえの悪い四字熟語ばっかりじゃない‥‥」
「焼肉定食、単純一途ってところですかねぇ」
「焼肉定食って何よ!?」
「でも、記憶喪失じゃないんですよねぇ? 私のことは覚えてくれてますかぁ?」
「勿論よ。だから焼肉定食の説明を―――」
「衝撃も駄目、状況再現も駄目。頼みの愛の力も藁木屋さんが尻込みじゃ、手がありませんよぉ」
「焼肉―――」
「わかりました。じゃあアルトさんのリクエストにお応えして、焼肉でも食べて考えましょう」
「誰もそんなこと言ってなぁぁぁいっ!」
「おほほ、悔しかったら捕まえてごらんなさい♪」
最早何が何やら。
普段は怒らせる側のアルトノワール‥‥今日はひたすら乗せられて、追い回す立ち位置であった―――
●本気!
7人目は南雲紫(eb2483)。
アルトとも面識があり、お互い『嫌いじゃない』と評する仲である。
が。
「くっ!? ちょっと紫さん、今本気だったでしょ!?」
「最初に全力でと言った! 怪我をしたくなくば撃ってくるのだな!」
「わーん、すっかりバトルモードだし!(泣)」
普段、南雲は優しいお姉さんという感じの女性であるが、戦闘となると油断なき戦士となる。
その実力は、アルトノワールもオフシフト無しでは避けるのに不安があるほど。
はっきり言って、接近戦ではアルトに分が悪い。
「OK! なら私も全力で行くわよ!」
「距離など取らせん!」
「‥‥距離なんて必要ないわ」
「っ!?」
ふっとアルトの目が細まり、右手を振りぬく。
この近距離でなお、その縄金票は正確に相手に吸い込まれる‥‥!
「‥‥腕が振れれば問題ないもの。物によるけど、手首が動かせれば大概なんとかなるわね」
「あ、アルト‥‥あなた、元に‥‥?」
右肩に縄金票を受けて血を流す南雲。口調も元に戻ったようだ。
「‥‥えっ? あれっ? 私、今何か言った? それより、ごめんね紫さん。紫さん強いから手加減できなかったのよ。手を抜いたら殺されちゃいそうな気がして‥‥(汗)」
「ま、仕掛けたのは私だし‥‥少しくらいの怪我は覚悟の上よ。でも、惜しいわね‥‥もう少しであなたが元に戻るかと思ったのに」
「そ、そうなの? うーん‥‥そういえば、神経が研ぎ澄まされてくような感覚はあったけど‥‥」
鍵は、強者との戦闘なのだろうか?
南雲紫、惜しいところで失敗―――
●オチは
「ひぁっ!? やっ‥‥あ、うわっ! やぁん、取ってぇぇぇっ!」
「わっ、可愛い声♪ でも性格は戻りそうにありませんねぇ」
「あ、あったりまえでしょ! コンニャクを背中に入れて性格変わるなら苦労しないわよぉっ!」
豆腐に頭をぶつけて性格変わるのも同レベルだ、と思っているのは、緋宇美桜(eb3064)。
豆腐ネタはセイロムが提言して拒否されているので、違うものをとやってみたはよかったが‥‥やはり失敗。
「衝撃的だと思ったんですけどねぇ。じゃあ‥‥奥の手いっちゃいますよ♪」
アルトがコンニャクを排除したのを確認した後、緋宇美は疾走の術を発動。
つつつ、と藁木屋に近づき、抱きついて‥‥。
「ちゅっ♪」
これは演技である。
アルトには微妙に死角になるように、キスの真似事をしただけである。
いつものアルトなら気にしない。恐らく微動だにしない。
が、今のアルトは違った。
「○×△□☆〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
声にならない声を上げて、両手の縄金票を振り回す。
錯乱しているのか、彼女にしては悲しいくらい当たらない。
「演技、演技ですってば!? 本当にする訳ないじゃないですか!」
「☆□△×○〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
よく分からない怒声を上げ、うっすら涙まで浮かべて追い掛け回すアルト。
緋宇美も緋宇美で、全力で逃げるのでどんどん二人は遠ざかってしまう。
「おい、二人とも! どこへ行く気だ!?」
「アルトさんに聞いてくださぁぁぁいっ!?」
数時間後、京都のまるっきり反対側で、全体力を使い切った二人が発見されたという。
うわ言のように、緋宇美が呟いたと言われる言葉は‥‥。
『く‥‥くの一でも‥‥ですね‥‥。は‥‥初めて、の‥‥唇は‥‥好きな‥‥人に、取って‥‥おきたい‥‥ん、です‥‥から‥‥』
遠距離走をして倒れた後では、色気もへったくれもなかったいう。
結局、今回はアルトが元に戻ることはなかった。
きっかけや兆しが見えたような気もするが‥‥まぁ、今回は残念ということで―――