丹波山名の八輝将『黒曜の巻』

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 21 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月14日〜01月22日

リプレイ公開日:2007年01月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 かつて、丹波藩で半年にも渡ろうかと言う長い戦いがあった。
 丹波藩城主、山名豪斬と‥‥その家臣にして、希有な魔法戦士部隊、八卦衆に弓を引くものたちが現れたのである。
 その名は、『裏八卦』。丹波の内乱時のごたごた時に結成された、これまた凄腕の魔法戦士たち。
 冒険者を巻き込んでの戦いは、序盤こそ裏八卦が奇襲やらなにやらで有利だったが‥‥それも長くは続かなかった。
 徐々に裏八卦は捕まり始め、その数を減らし‥‥つい最近、全員捕まって処刑されたという。
 が、それはあくまで表向きの話。
 山名豪斬は、思った以上に甘い理想論者だったらしく‥‥なんと、裏八卦を家臣として雇い入れたのである。
 裏八卦は『八輝将』と名を改められ、現在は丹波藩に慣れるための研修中。
 さて、今回の八輝将は―――?

「こ、こんばんは‥‥西山さん、いらっしゃいますか?」
「うっ。あ、あけましておめでとうございます、砂羅鎖さん」
 店仕舞い間際の京都冒険者ギルドに、二人男女がやってきた。
 女性の方は、ポニーテールを揺らし、おどおどとした仕草‥‥一見強そうには見えない。
 が、これでも丹波藩が誇る八卦衆の一人であり、オーラ魔法の使い手でもあるのだ。
 ちなみに、ギルド職員、西山一海とは以前にちょっとした軋轢(?)があり、ちょっとギクシャクしている。
「あ、あの‥‥八輝将絡みの、依頼をお願いしたいんですけど‥‥」
「は、はいです。承ります」
「なんだお前ら。ずいぶん余所余所しいな」
 砂羅鎖と一緒にやってきた男は、訝しげに二人を見比べる。
「い、いえ、なんでもないんです! ねぇ一海さん!?」
「も、勿論ですとも! 今は寝ても覚めても、某ナンパなお坊さんとコスプレ志士さんの絡みを書いてる次第でして!」
「はうっ!?」
 思い出したのか、砂羅鎖がボッと赤くなる。
「しまった(汗)。と、とにかく、そちらの方は?」
 と、話を振ったが男は答えない。
 何やらブツブツ言っているので、一海が近づいてみると‥‥。
「寝ても覚めてもって言葉のよォ〜〜〜、『覚めても』ってのは分かる。スゲーよく分かる。起きてる間は普通に考え事ができるからな‥‥。だが『寝ても』って部分はどういうことだぁ〜〜〜ッ!? 寝てて考え事ができるかっつーのよーーーッ! ナメやがってこの言葉ァ、超イラつくぜぇ〜〜〜ッ!! 寝てたら夢見るかどうかさえ定かじゃあねェじゃねーかッ! 考えられるもんなら考えてみやがれってんだ! チクショーーーッ、どういう事だ! どういう事だよッ! クソッ! 寝てもってどういう事だッ! ナメやがって クソッ! クソッ!」
「あー、この奇妙な感じと長台詞‥‥『八輝将・黒曜の屠黒』さんですか。‥‥あれ? でも、なんで砂羅鎖さんと一緒に? 砂羅鎖さんは確か地の人なんですから、組み合わせがおかしいんじゃ‥‥」
「え、えっとですね‥‥その‥‥井茶冶さん‥‥恐くて‥‥」
「岩鉄さんに代わって貰った‥‥と(汗)」
「で、でも、屠黒さんも恐いってわかりましたぁ! ふぇぇぇん、一海さん、助けてください〜〜〜!」
「どーしろって言うんですかぁぁぁっ!?」
 話が進まないので、一旦話を切ろう。

「お、表向きは、丹波のとある地方に住み着いた大ふくろうと大熊の退治なんですけど‥‥」
「風の旋風の情報で、そいつらが生息してる山にどこかの国の斥候部隊が潜んでいるらしい。一人でもかまわないからとっ捕まえて、誰の差し金か吐かせるんだそうだ」
「も、勿論、大ふくろうと大熊も退治してもらわないといけないんですけど、そっちもよろしくお願いします」
「どこかの国‥‥って、心当たりはあるんですか?」
「ふん、丹後か河内辺りだろう。八卦衆や八輝将の存在をやたら敵視してやがるからな」
「なるほど‥‥。しかし、屠黒さんは随分素直に八輝将してますね」
「俺はッ! 命を救ってもらったのなんざ初めてだったッ! そのッ! 恩義にはッ! 応えなくっちゃなァーーーッ!」
「ふぇぇぇん‥‥これさえなければわりといい人なのにぃ〜‥‥!」
「何を以ってスイッチが入るのか謎過ぎます‥‥」
 再び動き出した丹波の情勢‥‥その果てには、一体何が待っているのであろうか―――

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2585 静守 宗風(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3991 フローライト・フィール(27歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

リリル・シージェニ(ea7119)/ アルディナル・カーレス(eb2658)/ 鳴滝 風流斎(eb7152

●リプレイ本文

●雪山紀行
「かー、寒い寒い。ジャパンの冬の山ってのは骨身に染みるってね」
「しかし、こんな季節に大熊とは妙だな。普通は冬眠しているものではないのだろうか」
「逆にこんな時期だからなのかも知れないね。冬眠前に餌が足りなくて、目を覚ましちゃったとか」
 流石にいつもの格好では寒いのか、クリムゾン・コスタクルス(ea3075)をはじめとする面々は、しっかり防寒対策を施して雪山に挑んでいた。
 とはいえ、寒いものは寒いわけで‥‥テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)が言ったように、熊が平然と歩き回っているとは考えにくい。
 フローライト・フィール(eb3991)の仮説が正しいかどうかはさておいて、とにかく退治するしかないわけだ。
「しかし参った。八卦招の権利も、頼む八卦衆が忙しければ断られることがあるのを忘れていたよ」
「聞く限りでは、丹波の情勢はそれなりに緊迫しているというからな‥‥仕方なかろう。‥‥それよりだ」
「おおっ!?」
「ふにゃぁぁっ!?」
 黒畑緑太郎(eb1822)は、世界でただ一人、丹波藩主から八卦衆に応援要請を出せる権利をもらった人間である。
 とはいえ、流石に藩の公務が忙しい場合は後回しとされてしまうのは我慢してもらうしかない。
 静守宗風(eb2585)の言うように、丹波は今、ただでさえごたごたしているのだから。
 まぁ静守が気になるのは、それよりも何よりも、妙な声を上げた二人である。
「装備は軽くしたんだがなぁ。このかんじきって履物、脆すぎるんじゃねぇのか?」
「うぅっ‥‥つ、冷たい‥‥。お、お前たち、わかっているだろうな!? 誰にも言うなよっ!?」
 体重のせいか、歩いているうちにかんじきを破壊してしまったバーク・ダンロック(ea7871)や、しっかりかんじきを履いているにも関わらずコケた鷹村裕美(eb3936)辺りがとても心配なのだ。
 今はまだ雪も深くないし、斜面が急ではないからいいものの‥‥このまま山を進んで、バークが埋まったり鷹村が転げ落ちていったりしたら洒落にもならない。
「お前ら大丈夫なのか? 慣れないとはいえ、山に入ってまだ幾分も経ってないんだぞ」
「そういう屠黒さんは平気なのかい? 随分慣れてるみたいだけど」
「質問に質問で返すなァーーーッ! 疑問文には疑問文で答えろと教わったのかッ!?」
「期待通りのリアクションありがとう。うん、君とは仲良くなれそうだね」
「‥‥何をやってるんだ。伏兵のつもりで離れて歩いてたのに、追いついてしまったじゃないか」
 屠黒とフローライトが何やら会話しているうちに、後ろを歩いていた天城烈閃(ea0629)が合流してしまった。
 天城はすぐに進むよう一行に指示する。
 世界的に認められた実力者である天城だけに、一行にも反対意見はない。
 まだ山道は序盤‥‥ターゲットが出没する地帯までは間がある。
 再び一人後ろを歩く天城は、山の頂上付近を見据えて呟いた。
「丹波か‥‥。腕の良い魔法戦士を多数抱え込んだために、周辺の国から随分と警戒されていると聞く。ま、自分達に争いを起こす気がなくとも、周りが手を出してくることもあるし、下手な争いの芽は早目に摘んでおくに越したことはない」
 そう‥‥真の目的は、大熊やら大ふくろうの撃破ではない。それはあくまでついでなのだ。
 丹波に潜入しているどこかの国の斥候‥‥彼らを捕まえて、情勢の進展を試みるのが命題。
 果たして、この9人の行動が、どれだけ丹波の情勢に影響を与えるのだろうか―――

●雪山戦闘
「あぐっ‥‥! くっ、か、かんじきが‥‥動き、を、鈍く‥‥!」
「鷹村! ちっ、思った以上に動きづらい‥‥!」
 最初に出くわしたのは、やはり大熊。
 考えてみれば大ふくろうは夜行性なので、昼間はあまり出歩くまい。
 となれば、斥候部隊も当然うろうろしているわけもなく‥‥このエンカウントはある意味必然。
 が、予想だにしなかったのは大熊の戦闘能力だったのである。
 そも、気付いたた時には山の上のほうから
 鷹村は回避の達人ではあるが、それは雪の積もった山岳地帯でも同様と言うわけにはいかず、鋭い大熊の牙で噛み付かれ、そのまま動きを束縛されてしまったのだ。
 静守は攻撃を捌くことはできるものの、回避は到底無理なので無謀な行動が取れない。
「やっろう! 矢がちっとも効いてないじゃんか!?」
「困ったねぇ。大きいだけに耐久力も高いのかな。俺のシューティングPAでもかすり傷みたいだ。さて君は‥‥何本射れば死ぬんだい?」
 クリムゾンやフローライトの射掛けた矢も、大熊には殆ど通じていない。
 熊と一言で括ってはいるが、その戦闘力はそんじょそこらの熊とはわけが違うようだ。
「で、どうする。あの状態では迂闊な攻撃は仕掛けられない‥‥屠黒さん、どうにかできないか?」
「俺の使う魔法は知ってるだろうが。鷹村が噛み付かれている以上、ローリンググラビティは勿論、アグラベイションも下手をすると巻き込むことになるぞ。それでもいいならやるが?」
「ってこたぁ当然オーラアルファーも駄目か。つか、このままじゃ鷹村のヤツ死ぬんじゃねぇか?」
 テスタメントの言葉を一蹴した屠黒。
 続くバークの言葉で、一同ぎょっとする。
「がっ‥‥はっ、あ‥‥うあぁぁぁっ!」
 噛み付きというのは、想像以上に恐ろしい攻撃である。
 しかもそれが、体長5m程もある巨大熊の牙となれば、その威力は推して知るべし。
 鷹村の華奢な身体に容赦なく食い込む牙‥‥すでに重傷の域だ。
「そういう時は私の出番だ。スリープで眠らせれば、例え鷹村さんに効果が及んでも助けられる!」
 ざざ、と黒畑が印を結ぶが、天城がそれを止める。
「やめておけ。この急斜面だ‥‥眠らせたら体勢を崩して、鷹村もろとも谷底へ真っ逆さまだぞ」
「一人くらいの犠牲で済むなら安いものだろう。どんな手を使おうとも、勝てばよかろうなのだァーーーッ!」
「‥‥それが命を懸けて手伝っている人間に言う台詞なのか?」
「やめとけテスタメント。改心したつったってこいつはこういうやつなんだろ。それより時間がねぇ! 俺が体当たりして隙を作るからよ、静守と一緒に攻撃仕掛けろや!」
「‥‥承知」
「いいだろう。フローライト、クリムゾン、やつの足元に向けて援護を頼むぞ‥‥!」
「あいよっ! 任せときな!」
「仕方ないね。黒畑さん、屠黒さん、そちらも援護をお願いするよ」
 そして、弓矢での援護を受け、バークが突撃。
 静守とテスタメントの攻撃の直後、鷹村も噛み持ち上げられたまま斬撃を加え、脱出に成功する。
「さぁ、これで憂いはない。噂に名高い丹波の魔法戦士のお手並み拝見といこうか」
「任せろ。あの熊がッ! 落ちるまでッ! ローリンググラビティを止めないッ!」
 性格に難有りでも、実力は確かな八輝将。
 哀れ大熊は、屠黒の連続RGで谷底へ真っ逆さまであったという。
「‥‥しかしだ屠黒さん。あれでは退治したという確証が取れなくないか?」
 黒畑のツッコミに、屠黒は。
「おまえは今まで撃った魔法の回数を覚えているのか?」
 奇妙な言い訳で逃げたという―――

●ふくろうはまたの機会に
「‥‥待った、バークさん。この者たちは普通の狩人じゃない」
 鷹村を手持ちの薬で回復させた一行は、更に山を進んだ。
 そこで、3人ばかりの狩人らしき格好の男たちと出くわしたのである。
 バークが2・3声をかけ、通り過ぎようとした時、黒畑がそれを止めた。
「いかにも狩人を演出してはいるが、実際の狩人はそんな大きな弓は使わない。一番の理由は手に持っている酒だが」
「確かに狩りに使うにゃでっかすぎるわな。弓を使うあたいらにはよく分かる。しかしなんで酒?」
「ふん、なるほどな。この山には小屋があるという話はないし、建てられる立地条件もない。焚き火の周りで酒盛り? ありえん。山小屋があるならともかく、冬真っ只中の山中では命取りになる行為だ。素人の証拠だな」
 屠黒の解説に、3人の表情が険しくなる。
 見たところ、所持している武器は弓矢と鉈のような物だけのようだが‥‥?
「逃げようとするだけ無駄だよ? 俺の射撃は君たちより速い」
 フローライトの台詞が脅しでないことも、偽狩人はすでに察している。
 だからといって大人しく捕まるというわけにも行かないのが斥候の立場。健気にも逃走を計る‥‥!
「させるものか! こんままでは転んで噛まれてと迷惑のかけどおし! 殺しはしないが逃がしもしない!」
「まぁまずは俺の出番だろうがな」
 屠黒のアグラベイションで一気に3人とも動きを鈍らされ、とてもではないがこの面々からは逃げられない。
 現に、テスタメント、静守、鷹村のような前衛がすぐに追いつけてしまうし、クリムゾン、フローライト、黒畑の射撃組の狙いも良好‥‥正直赤子の手を捻るようなものである。
「バーク、別行動をしていた一人をそちらへ追い込んだ! 押さえてくれ!」
 根気よく別行動をしていた天城の声が響き、右肩に矢を受けた4人目の狩人もどきがバークの方面へ走ってくる。
 天城を相手にするよりは逃げやすいと踏んだのか、止まる気配のない狩人もどき。
 が、それが命取りだった。
「よう、こっちに逃げてきたのは不運だったなぁ」
 ゴゥン、とバークがオーラアルファー(専門)を発動、弾き飛ばす。
 バークは雪に埋もれないよう、そろりそろりと歩いていたので、仲間とは距離があり‥‥だからこそ狩人もどきも組し易しと突っ込んだわけである。
「つーわけで、観念しろや。あんまり駄々こねるなら、今度はオーラアルファー達人喰らわすぜ」
 それは半分脅しではあるが、やろうと思えば充分可能な攻撃。
 見れば他の3人も取り押さえられてしまい、逃げるにしても分が悪そうである。
 自害しようにも天城とフローライトが狙っているせいで不可能。
 結局手詰まりとなった斥候たちは、揃って捕縛と相成ったわけである。
「本命より大熊のほうがよほど手を焼いたか。『熊は人よりも強し』。ンッン〜、名言だなこれは」
 後日、屠黒は責任を問われて再びここを訪れ、大熊や大ふくろうと戦うことになるのだが‥‥それはまた、別の話―――