標的は七番隊!?

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月25日〜03月02日

リプレイ公開日:2007年03月05日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「‥‥声を上げれば殺す。妙な仕草をしても殺す。勿論断っても殺す。お前に許された行為は、話を理解することと首を縦に振ることだけだ。わかったな」
「‥‥‥‥!」
 昼下がりの京都冒険者ギルド。
 多くの人で賑わうこの場所の一角で血なまぐさい問答が起きているなど、誰も思わない。
 職員の西山一海は、体中から嫌な汗をかきながら、ゆっくり頷いた。
 他の人々からは死角になっているが、一海の腹には鋭い短剣が突きつけられている‥‥!
「某月某日、京都郊外で新撰組の七番隊が新入隊員の訓練を行う。そこを冒険者に襲撃させるのが俺の目的ってわけよ。いいか、依頼書には日時と場所だけ書いて、目的はチンピラ退治とでも書いておけ。いいな‥‥絶対に悟られないようにしろ。もし妙なことを書きやがったらぶっ殺すぜ‥‥!」
 ガラの悪そうな浪人崩れ‥‥と言ったところか。
 一海の担当していたスペースが一番こういう脅しをしやすいと考えたのであろう。
 ギルド職員というのは、たまにこういう危険に遭遇したりするものではあるが‥‥。
「くくく‥‥新入隊員を冒険者にやらせ、あわよくば谷三十郎を疲弊させてくれりゃあ御の字。あとは頃合を見て俺が出て行き、谷を殺す。これで俺の名が京都に轟くってわけだ。仮に失敗しても、咎められるのは冒険者たち‥‥完璧だな」
「そ、そう上手くいきますかね? 谷さんも冒険者の人たちも、そんなに馬鹿じゃありませんよ」
「命が惜しかったらそれ以上余計なことを言わないほうがいいぜ。さぁ‥‥さっさと依頼書を書きな!」
 短剣で脅され、仕方なく依頼書の製作を始める一海。
 チンピラ退治と言う名の新撰組潰し‥‥果たして、謎の男の目論見どおり、谷は殺されてしまうのだろうか―――?

●今回の参加者

 ea6437 エリス・スコットランド(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb7816 神島屋 七之助(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb9683 イーシャ・ゾーロトワ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ec0668 横山 恵(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0701 雪 奈(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec1506 趙 三平(47歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 ec1527 テルティウス・コッタ(31歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec1543 ため ごろう(48歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●不審
「‥‥結局集まったのは6人ですか‥‥。まぁ仕方ないと言えば仕方ありませんね‥‥」
「集まったほうですよ。今回の依頼は少々不審な点がありますから」
「どうにも嫌な予感が頭から離れませんが、これも仕事ですのでしっかりと遂行したいですね」
 周りを見回して呟いたのは、雪奈(ec0701)。本名は雪らしい。
 杖で地面をついて、溜息をつくのは神島屋七之助(eb7816)。
 エリス・スコットランド(ea6437)は、辺りを警戒しながら、今回の依頼について考えている。
 それは他の面々も同じで、この依頼にはどうにも不審な点が多い。
「むしろ殺してしまえ‥‥ね。どうにも穏やかじゃないわねぇ」
「とにかく、今いる人数で頑張りましょう! 幸い、まだチンピラよりこっちの方が数が多いですし!」
『‥‥言っている意味はわかりませんが、精一杯やろうという感じでしょうか‥‥?』
 人差し指を唇に当て、軽く空を見上げているのはイーシャ・ゾーロトワ(eb9683)。
 一番建設的と言うか、前向きな発言をするのは横山恵(ec0668)。
 ジャパン語が使えないので、雰囲気だけで会話を聞いているのはテルティウス・コッタ(ec1527)。
 一応、あと二人依頼を受けてくれたのだが、依頼の不審点を嫌ってか欠席。
 件の林でチンピラ(?)と戦うのは、実質この6人だけと言うことになる。
「で、神島屋様と雪様はチンピラについて聞き込みをしたのよね? 連中はどんなことしてるのかしら」
「そうですね‥‥聞く限りでは基本的なことばかりでしたよ? 喧嘩、恐喝、無銭飲食等等」
「流石の私も、ちょっと同情できない方々のようで‥‥。戦う前から身内の方々が不憫です‥‥」
 確かに迷惑なやつらであるということに間違いはないようだが、殺してしまえとまで言われるほどかと言われれば、それはNOであるという。
 この界隈に出没するチンピラ程度を殺してしまえなどと言われては、京都中に存在する殆どのチンピラも同様になってしまう。
「そろそろ行きましょう。結局のところ、戦うしかないんですから」
「そうですね。数人の気配があります‥‥連中も集まったようですよ!」
『‥‥‥‥(こくん、と頷く)』
 エリス、横山、テルティウス。
 そして、一行は進む。
 胸に潜む、一抹の不安を押し殺して―――

●敵は‥‥?
『はぁぁぁっ! いける‥‥私の方が上だ!』
「うっ‥‥避けるので、手一杯です‥‥! イーシャ様、援護を‥‥!」
「わかったわ、任せて! グラビティーキャノン!」
 一行が戦っているのは、およそチンピラとは言い難い小奇麗な武士たち。
 いずれも若く、錬度は決して高くない。
 こちらの姿を見て、二言三言囁きあった後、急に攻撃を仕掛けてきたので、迎撃せざるを得なかったのだ。
「いきなり攻撃を仕掛けてくるとは‥‥あなた方、お行儀がなっていませんね!」
「神島屋さん、もう少し下がってください! 犬たちに直衛させます!」
「ホーリーを魔法抵抗する‥‥!? 邪悪なものとは言い切れないということですか‥‥!」
 一行はテルティウスを攻撃の基点とし、イーシャ、神島屋、エリスが各々得意魔法で援護。
 横山とそのペットの犬二匹と雪が、魔法使い組みの護衛に当たると言う図式で戦闘を行っている。
 如何せん相手は前衛系の武士ばかり。
 もしテルティウス一人だけなら、例え基本能力が上回っていても数で押されていただろう。
 しかし、援護の魔法組み、そしてその魔法組みを守る遊撃組みと、わりとバランスの取れた編成であったのが幸いした。
 戦況は五分五分‥‥いや、こちらが若干有利か!
「おのれ‥‥不逞の輩の分際で!」
「我らの演習を襲撃してくるとは不届き千万!」
 相手も焦り始めたのか、妙なことを口にし始める。
 まるでこちらが悪者というか‥‥自分たちが襲われることを予期していたような‥‥?
「そういえば、あなた方の頭と思わしき人物はどこへ行ったのですか!? 人数が一人足りませんね!」
「答える義務はないっ! 貴様らなど、我らだけで充分!」
「新人と言えど、我らとてやれるはずだ! いや、やるのだ!」
 エリスの問いに、チンピラ(?)たちが返した言葉。
 やはり、おかしい。
 言い逃れにしては熱が篭りすぎている。演技には見えない。
『‥‥おかしいですね。言葉は分かりませんが、彼らからは邪気が感じられない‥‥!』
「テルティウスさん‥‥? 神島屋さん、テルティウスさんの様子がおかしいです‥‥!」
「大丈夫ですよ、雪さん。おおよその見当は付いてます。私もおかしいと感じ始めましたから」
 ギィン、と激しい音がして、テルティウスが武士の一人を大きく弾き飛ばす。
 にらみ合い状態となり、危なげながらも話し合いが出来そうな状況になった、その時である。
「あれ〜? 神島屋さんやないの。何やっとんの〜?」
 およそ雰囲気に似つかわしくない、穏やかな声。
 名を呼ばれた神島屋は、声のしたほうを見てぎょっとする。
「た‥‥谷さん!? 谷三十郎さん‥‥!」
「え‥‥そ、それって確か、新撰組の六番だか七番だかの隊長じゃないの!?」
「正確には組長や〜。新撰組七番隊組長、谷三十郎。どうぞよろしゅう〜」
 イーシャの言葉に律儀に答える谷。
 見れば、今まで戦っていた武士たちが、谷に向って礼をしている。
 神島屋が以前に谷と面識があったのは幸いであったと言えよう。
「で、ではこの方たちは‥‥新撰組なのですか‥‥!?」
「ち、チンピラさんじゃないんですか!?」
「何だと!? 貴様ら、言うに事欠いて‥‥!」
「あー、黙っとき。せや、七番隊の新入隊員さんたちや。今日はな、この地区の哨戒がてら隊内演習しよ思て来たっちゅーわけ。なんかな、事前に襲撃予告みたいのがあったみたいで、こいつらも気ぃ立っとったんやろ。ごめんなぁ」
 雪や横山の言葉を聞いて叫んだ隊員を制し、谷は柔らかく続ける。
「私たちは、今日ここでチンピラたちが集会を開くので、その退治‥‥むしろ殺してしまえという触れ込みの依頼を冒険者ギルドで受けたのです。殺してしまえと言う部分に少なからず不審なものを覚えはしましたが‥‥」
「おんやぁ? おっかしいなぁ、今日のことはあんまり他言せんかったのになぁ。ま、これではっきりしたわ‥‥誰かが故意に俺らを戦わして、漁夫の利を狙おうとしたんやろ。ちなみに、担当のギルド職員は?」
『西山一海さん‥‥でしたか』
「あー、一海君かぁ‥‥後で慰めに行っとこ。にゃはは、人の名前は外国語でも変わらんのやね♪」
 エリス、テルティウスのおかげで全てを悟る谷。
 もちろん冒険者一行も、自分たちが体よく利用されたということに気付いたが。
「んー‥‥このまんま乗せられっぱなしってのも癪やなぁ。神島屋さんたち、ちょいと協力頼めます?」
 にかっと小気味良く笑う谷の表情を見て、一行は顔を見合わせた―――

●不実の末路
「がっ‥‥!?」
「きゃあっ!?」
 ややあって‥‥冒険者たちは全員地面に転がっていた。
 やったのは、浅葱色にだんだら模様の羽織に、十文字槍を構えた男‥‥即ち、谷三十郎。
「あかんなぁ‥‥この程度で新撰組に喧嘩売ったら、殺してくれ言うようなもんやで?」
 表情は先ほどと変わらないが、一行はその実力に戦慄する。
 冗談ではない‥‥先ほど戦っていた五人組の戦闘能力を、一人だけで軽く超えている。
 これで本気でないのだから、実力はどれほどなのか恐ろしい‥‥!
「さて‥‥次やったら容赦せぇへんよ? 腹も減ったし、撤収やー」
 そう言って、谷たちが立ち去ろうとした時だ。
「待ちな!」
 少し離れたところの木陰から、浪人風体の男が顔を出す。
 そしてすたすた近寄ってきて、刀を抜く!
「ちっ、役立たずどもめ。谷はともかく、こんなぺーぺーたちも倒せないのかよ!」
「なんやあんた。この人たちの黒幕?」
「はっ、そいつらは利用してやったまでよ。もっとも、役にゃ立たなかったみたいだがな! お疲れのところ悪いんだがよぉ‥‥谷三十郎、お命頂戴ってなもんよ!」
「‥‥ふーん‥‥ま、相手したってもえぇけど。みんな、手ぇ出したらあかんよ?」
「話がわかるぜぇ! いくぞっ!」
「あー、待ち待ち。俺も手ぇ出さへんって」
 谷はそう言うと、もうえぇよーと呟く。
 すると、谷に倒されたはずの冒険者たちが元気に起き出した‥‥!
「なっ‥‥何!? 貴様ら、騙したのか!?」
「最初に騙してくれたのはどっちよっ! 私達、頭に来てるのよ!?」
「全ての不義に鉄槌を‥‥!」
「生憎、私と谷さんが知り合いでして。声のやり取りを聞いていなかったのが致命傷です」
「身内の方々のことを差し引いても‥‥あなたは、許して置けません‥‥!」
「あなたには、負けない‥‥! 人を騙して使うような人には‥‥!」
『どうやら言葉を交わす必要がないようですね。全力で‥‥叩きのめさせていただきましょう』
 そう、谷は戦うふりをして、不自然でない形で冒険者を倒したように見せかけたのだ。
 そして、せめて谷が疲れているときに襲撃しようと目論んだ依頼人が出てくるのを待った‥‥全ては咄嗟の打ち合わせどおり。
「ま‥‥待て‥‥話せば分かる‥‥!」
『問答無用っ!』
「本日の格言‥‥『策士策に溺れる』。勉強になったかなー?」
 かくして、冒険者一行に叩きのめされた依頼人は、新撰組の屯所に突き出された。
 情報収集の大切さ‥‥そして、人と人の縁の大切さを学んだ冒険者一行であった―――