●リプレイ本文
●自己紹介
「オス! 自分は『フトシたん』こと太丹(eb0334)っす。よろしくっす」
「トシちゃんこと久方歳三(ea6381)でござる。『おのおの』方、準備は宜しいでござるか?」
「おひけぇなすって! こちとら京都のチンピラ‥‥伊東登志樹(ea4301)たぁオイラのことよ!」
「‥‥あぁすまん、一瞬意識が遠のいた。風斬乱(ea7394)‥‥こちらの班になったことを少しばかり後悔している」
京都郊外、だだっ広い広場。
アルトノワールの性格を矯正すべく集まった8人は半々に分かれた2チームを作ることを義務付けられていた。
そして最初の1チーム目は、どう好意的に解釈してもオモシロ路線に走る気満々であった。
それは噂を聞きつけて見物にやってきた京都の町衆にも丸わかりで、ギャラリーのテンションを無駄に上げている。
食欲魔人。
斧を二つ持ち、まるごとてぶくろを着込んだ駄洒落男。
チンピラ。
‥‥と、一人だけ他の3人のテンションに乗り切れていない浪人(彼だけはまともそうに見える)。
対する藁木屋錬術とアルトノワールにとっては、大半がよく見知った面々である。
「ね、ねぇ錬術。フトシたんが持ってるの‥‥何に見える?」
「藁納豆以外の何物でもあるまいよ。とてもとても嫌な予感がする‥‥(汗)」
さりとて始めなければ後が続かない。ネタであろうがマジであろうが、要はアルトの性格が戻ればいいのだ。
やがて、双方の準備が完了し‥‥始めとの叫びが辺りに響いた―――
●ネタ
「タイタン納豆拳!」
まず最初に仕掛けたのはフトシたん。
手に持った納豆を器用に使い、流星のごとく無数の納豆の粒が糸を引きながら飛んでいく!
「わわっ!?」
当然アルトは全力で避ける。栄養はあっても、納豆は服についても髪についても肌についても気持ち悪いものだ。
「なんで避けるっすか!?」
「避けるに決まってるでしょ!? ある意味魔法喰らうより嫌よっ!」
「聞いたことがあるっす‥‥『豆腐の角で性格が変わってしまったものは納豆に漬け込むと良い』と」
「何ー!? 知っているでござるかフトシたん殿ー!」
「どこのエセ書物から得た知識よ!? どうせ『納豆と華国拳法の因果関係』とかいう本でしょ!?」
「ばれてーらーっす。しかし! 折角転移護符まで使って買ってきた納豆っす! 心の底から味わってもらうっすよ〜!」
「いーやー!?」
フトシたんが投げつける納豆に戦々恐々としたアルトは、避けながらも器用に縄金票でフトシたんを攻撃する。
盾で防御しようとしたフトシたんだったが、アルトがダブルシューティング+シューティングポイントアタックEXで2本同時攻撃をしたため、片方を防げず中傷。
「わーん! 錬術、助けてくれたっていいじゃない!?」
「いやまぁ、万が一にも治るかな、と」
「億が一にも治らないわよ、納豆なんかで!」
口には出さなかったが、藁木屋を含め何人もが『豆腐で変わったくせに』と思ったという。
「オラ! ガキの遊びじゃねぇっぞっ、もっと根性入れて納豆かき混ぜっぞ!! 俺のひきわり納豆を越えて逝け!」
かっこよさ気な台詞ではあるが、伊東の手にあるのは納豆の入ったお椀である。
箸で納豆を掬い、投げる投げる投げる!
伊東は射撃が得意な人間ではないので、藁木屋とアルトなら避けるのに何の問題もないのだが‥‥何故かこう、『決して当たってはならない』というような焦燥感に襲われていた。
「拙者の右手が真っ赤に燃える、記憶を戻せと轟き叫ぶ! 義侠塾奥義が一つ! 御怒斌雅亜(ごっどふぃんがあ)!!!!」
不意‥‥というか混乱の隙を突いて、久方がまるごとみぎてぶくろ着用のままだいびんぐぼでぃぷれす
を敢行する。
「全身右手の癖にぃぃぃ!?」
危なく回避するアルト。
本来余裕があるはずなのに、全然余裕が感じられないのは何故だろう?
「うーむ‥‥やはり冗談も修練すれば妙な時空を作り出せるようだな。一海君のように」
「認めなぁぁぁいっ!」
伊東と久方に容赦なく縄金票を見舞い、アルトは肩を怒らせる。いや、実際怒っているのだが。
「よし、とりあえず全力で納豆は投げた。義理は果たしたな」
そう言って、すっと一歩歩み出たのは風斬。
真面目そうに見えて、彼も彼でやりたいネタがあるらしい。
鋭く、真剣な目‥‥一般人のギャラリーには、彼だけは真面目に戦うかのように見えているようだが。
「‥‥行くぞ」
「‥‥やってやろうじゃないのっ!」
なんとなーく気配で風斬の真意を推し量ったアルトは、真っ向から突っ込んでくる彼に対し、身構える。
しかし遠くから縄金票で狙い撃ちするような真似はせず、あえて接近戦を受けて立つ!
風斬が見たいもの‥‥それは、『太刀筋を見切り、相手の振った刀の峰の上に立つ兵』。
アルトの回避力では風斬の攻撃を避けるのはかなり厳しいが、そこはそれ、気合とネタ力でフォローだ!
「避けられた!?」
「あとは刀の峰に乗れば完璧‥‥!」
スローモーションのようになる世界。
跳躍したアルトが、華麗に風斬の刀に舞い降り―――
ずるっ、ぐにゃっ、べちゃっ!
‥‥順序だてて説明しよう。
華麗に舞い降りたと思われたアルトが滑った。彼女自身の重さで斜めになった刀の峰なのだから当たり前だ。
同時に、捻るように人の体重を受けた風斬の刀が曲がった。折れてはいないので鍛冶にでも持っていけばすぐ直るだろう。
そして、バランスを崩したアルトが地面に転がった。あろうことか、フトシたんや伊東が散々ばら撒いた納豆の上に。
「‥‥あー‥‥アルト、大丈‥‥ぶっ!?」
流石に声をかけた藁木屋であったが、アルトの形相を見て思わず後ずさった。
さながらどこぞの国の神様の面でも付けたかのような、それはそれは恐ろしい形相であったという。
「や、やっぱり食べ物は無駄にしちゃだめっすよね!」
「だ、だなー! 暖っけぇ飯にかけてバーッとかき込もうぜ!」
「こほん。いや、残念だ。やはり常識的に考えて無理があったか‥‥」
「と、とりあえず拙者たちはこの辺で‥‥」
ごんごんごんごん、と、意味不明の擬音が聞こるような気がして、ネタチーム4人は回れ右する。
しかし、当然のことながらアルトは許可しなかった。
「縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! 縄金票! シューティングポイントアタック縄金票ーーーーーッ!」
威力を落とし、ダブルシューティングで問答無用の連続攻撃。
光る本もないのにこの惨状‥‥そういえば、アルトは五条大橋の鬼と呼ばれていたこともあったなぁ、等と現実逃避をするネタチーム及び藁木屋、ギャラリーの皆様方であった―――
●自己紹介その2
「あ、アルト、落ち着いたかね?」
「ぜーはー、ぜーはー。‥‥まぁね。まったく、酷い目にあったわよ」
「やはりネタでは戦いの緊張感は得られないようだな」
「私はある意味必死だったけどね!?」
死屍累々とばかりに転がるネタチームを尻目に、気持ちを切り替える藁木屋とアルト。
ここからはシリアスにならなければ、さくっと不様な姿を晒すことになるだろう。
「以前から機会があれば、とずっと言ってきたことですし、その機会がきたのであればわずかなりとも助力を。御神楽澄華(ea6526)、参ります」
「うーん、味方としては心強い方々でも、いざ戦うとなると手強いんでしょーね〜。戦う前から嫌になっちゃいますよー(苦笑)。あ、井伊貴政(ea8384)です」
「南雲紫(eb2483)よ。さてと、本当にすることになったわね。私としては1対1でやりたかったけど、こういう方法も面白そうね。性格を元に戻すことが目的だけど、こういうのは愉しまなくちゃ損よね」
「備前響耶(eb3824)だ。性格矯正な。今の彼女が問題のある性格には見えんが、相手方となれば常と違うことに寂しさを覚える事もあり‥‥か。難儀なことだがやれるだけやってみよう」
こちらの真面目班も、藁木屋たちがよく知る面々である。
直接対峙した事はなくとも、その実力は先刻御承知。だが、御神楽たちは藁木屋たちの真髄を知らない。
しん‥‥と静まるギャラリー。お互いが配置に付いたことで、すでに戦いは始まっているのだ。
大きな槍を手にした灼火剛煉刀。
盾と脇差で武装した修羅包丁。
鋭い目になり、刀を構える紫電光。
木刀を手にする蟲斬り響耶。
京都でも指折りの実力者同士の戦いが、今始まる―――
●シリアス(?)
それは、まるで次元の違う戦い。
およそ一般人が見る『戦い』というのはせいぜい喧嘩止まりであり、それは『戦闘』ではない。
今、一般ギャラリーの人々が垣間見ているもの‥‥それは『戦闘』の更に上を行く、『死闘』である。
まず、御神楽たちと藁木屋の間には少し距離があり、射撃をするのではなければ近づかねばならない。
本気で戦う以上、アルトノワールはむざむざ相手を近づかせはしないのだ。
「やる以上は手加減なしだからね、南雲さん!」
懐から棒状の手裏剣を取り出し、シューティングポイントアタックEX+ダブルシューティングで投擲するアルト。
回避が得意と分かっている南雲と、盾を持っている井伊は狙わず、備前と御神楽へ攻撃!
「くっ、足狙いか!」
「し、しかし、この程度ではまだ!」
二人が中傷を受ければ、当然進軍タイミングが崩れる。
こと戦闘において、1〜2秒の機動力低下は大きなズレなのだ。
「あれ〜? 困りましたね〜」
「気にするな。作戦通りアルトを狙う!」
井伊と南雲は足を止めず突っ込んでくる。
当初、備前が藁木屋の相手をし、御神楽、井伊、南雲の三人で一気にアルトを潰してしまおうとした真面目班。
しかし、数が減ってしまえばその作戦は通用しない。
「させませんよ。井伊殿の相手は私がします」
外套を翻らせ、藁木屋が井伊の前に立ちはだかる。
井伊は凄まじい格闘能力の持ち主‥‥生半可な腕では、避けるのはおろか受けるのも不可能。
ここで藁木屋を無視して押し通ろうとすると、背後から藁木屋にバッサリやられる。
余計な負傷は得策ではないと判断した井伊は、仕方なく脇差で藁木屋に攻撃を仕掛ける!
「残念。それでは無理だ」
「おや〜!?」
藁木屋は、ほんの少し後ろに動いただけ。つまりは、井伊の斬撃の軌道を瞬時に見極め、最低限の動きで避けたのだ。
COを何も混ぜていない、超越とまで呼ばれる井伊の攻撃を‥‥だ!
「アルト、跳べ!」
「任せて!」
藁木屋がそう叫んで少しかがむと、アルトが彼の肩を台代わりにし、井伊を飛び越すようにジャンプした!
そして空中で縄金票を投擲、無防備な頭にDS+SPAを叩き込む!
「うぐっ‥‥!? こ、これは〜、流石に〜‥‥!」
「馬鹿な!? 最初から錬術が跳べと言う指示をするとわかっていないと出来ないタイミングだったぞ‥‥!」
「一緒に戦ってる年季が違うのよ。‥‥残念だったわね、紫」
「しかし、アルト様は着地後の無防備な背中を晒しておりますよ!」
そう、井伊を飛び越したと言うことは、出遅れた御神楽と備前の正面に出ることになるのだ。
バックアタックを習得していないアルトでは、二人の攻撃は避けられないだろう。
しかし。
「カット」
「藁木屋殿だと? 援護に回る速度が尋常ではない‥‥!」
「生憎と、避けることと体捌きには自信がありましてな」
まるでそうあるのが当然とでも言うように、藁木屋はアルトと背中合わせに立っていた。
危ない、と思ってからでは遅いのだ。最低限の動きを以って、相棒のサポートに回る‥‥それは一朝一夕では決して出来ないし、息が合えば誰にでもできるというものでもない。
「ち‥‥まさかここまでとはな。だが、挟み撃ちの状況をどう切り抜ける?」
「‥‥あら、随分と強気ね。距離を開けた状態で私に近づけると思ってるの?」
「藁木屋様も同様です。私と備前様の同時攻撃から、アルト様を守りきれますか?」
「成程、噂に違わぬ素晴らしい体捌きだ。しかしそれも、無視を決め込まれれば相方を守れまい」
「ふ‥‥試してみますか?」
ざざざ、と風が吹いた。
南雲と御神楽、備前は目で合図しあい、同時に駆け出す。
勿論アルトと藁木屋も迎撃体制を取っている‥‥!
「アルト‥‥この技はどうだ!」
「‥‥!」
アルトが知らない、南雲のソニックブーム。
真正面から撃たれた以上、このままアルトが避ければ背中合わせになっている藁木屋に当たるのは自明の理だ。
かと言って、先に放たれてしまったからには今から射撃で撃ち落すのも困難。
しかし、アルトは何の迷いもなくポツリと呟く。
「‥‥錬術」
「ああ」
アルトと藁木屋は、同時に右に跳ぶ。
少しも後ろを見ていない藁木屋もまた、アルトの一言で全てを理解し、迫り来るソニックブームを回避する。
実力と、チームワーク。これらを兼ね備えた二人だからできる芸当‥‥!
「このままいいようにさせるものか。御神楽、行け。藁木屋殿は自分が抑える!」
「承知いたしました!」
「アルト‥‥このままでは終らんよ!」
二人の距離が離れたところを見計らって、備前が藁木屋に接近。
御神楽と南雲がアルトに追撃をかける!
備前も達人と呼ばれて久しい腕前なのだが‥‥藁木屋はその攻撃を余裕で回避してしまう。
回避するだけならまだしも、円を描くような軌跡で横に移動、振り向きざまに備前の後頭部へ峰打ちを叩き込む!
「いかん、アルト!」
ここまですれば流石の藁木屋でもアルトの援護に回れない。
南雲と御神楽‥‥二人の挟撃に、アルトは‥‥!
「‥‥ちっ。よりきついのは‥‥紫ね」
狙いを南雲にしぼり、SPAを仕掛けるアルト。御神楽の攻撃は運任せ‥‥と思ったのだが。
「お、おっと〜!」
重傷で転がっていた井伊が突然立ち上がり、脇差によるミサイルパーリングでアルトの縄金票をガード!
寝ているだけでは格好が付かないと、気力を振り絞ったのだ!
たてをて予想外の事態に、アルトの反応が少し遅れる!
「たぁぁぁぁぁっ!」
その隙を突いて、背後から迫った御神楽が、渾身の力をこめた槍でアルトの後頭部を直撃させる‥‥!
「ふむ‥‥流石にこの面々を4人も相手にするのは厳しかったようですな」
「よ、よく言う‥‥。こちらは手玉に取られた気分だぞ‥‥」
「まったくよ。連携の大事さが身に染みたわ」
「しかし、勝てて幸いでした。アルト様、大丈夫ですか?」
『渾身の(スマッシュ?)』一撃を後頭部に貰ったアルトノワールは。
「はうぅ、痛いですぅ‥‥。くすん、御神楽さん、手加減無しなんですもん‥‥」
「あ‥‥あれ‥‥?」
「お、おや〜?」
「‥‥あらら‥‥」
「‥‥むぅ‥‥」
「‥‥戻ったと思ったのだが‥‥」
微妙に悪化したようであった―――