【黙示録】小さな魔法使い/契約

■ショートシナリオ&プロモート


担当:西尾厚哉

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2008年12月20日

●オープニング

 レオニード・ガルシン伯爵の屋敷。
 広い庭園には無数のテントが張られ、疲れきった兵が焚き火に当たっている。
 屋敷の広間は怪我の程度がひどい兵がずらりと横たわっている。動ける兵は仲間の血の滲む布を取り替え、凍傷にかかりかけた手を温めてやっていた。
 数日で300人いた兵は半数以下になったが、冒険者たちの活躍によって敵側の魔法使いは全滅した。しかし、あくまでも敵陣営にいた者という前提だ。可能性は低いだろうが、残派がいるとなると厄介かもしれない。
 ギルドから届けられた報告書では、魔法使いはエルフでもデビルでもなく、人間であったという。
 敵陣営にいたエルフの老人を捕虜として連れ帰り、状況を聞きだす予定だったが、彼は途中で内通者の手により殺された。
 ただ、老人はヴィッサリオンという者がこの戦いを長引かせ、そしてそれがヴァブラというデビルである、ということを言い残した。

 ―ヴァブラ。

 レオニード・ガルシンは父の時代からの助言者であり、クレリックであるフョードル・ガリツィンにその名を尋ねる。
 彼は答えた。
「口達者なデビルだよ。奴は一日だけ魔法を使う者の能力をあげる能力を持つ。人に英知を授けるようなふりをして陥れ、クレリックになりすますこともある。まつろわぬ民でもあっという間に言いなりになってしまっただろう」
 魔法の力を一日だけあげる‥。
 死んだ老人も、サクも同じようなことを言っていた。首謀者は奴で間違いないかもしれない。

 サクは冒険者が保護した蛮族エルフの村の少年だ。
 彼の存在はまだ多く謎に包まれている。幼い身でなぜ別のエルフの村から戦闘地であるエルフの村に魔法使いの弟子として行くことになったのか。なぜその道程で母と兄が死ぬことになったのか‥。
 レオニードは考える。
 サクの語る言葉は断片的でなかなか全体像が掴めないが、この年齢で激しい戦闘地に盾として立たされていたことを思うと、何らかの思惑があってこの少年は利用されていたのだろう。
 勘でしかないが、母と兄の死は最初から決まったことであったような気もする。と、すれば、エルフとヴァブラとの間に何らかの契約があったのかもしれない。
 しかし、契約は双方が利益を明確にすることで成り立つものだ。
 エルフにとって悪魔と契約することの利益は何か。領地として侵略されないよう守ってもらうことか。では、悪魔の利益は何か。
 ‥悪魔の利益は魂を集めることだ。だとすれば、戦争は終わってもらっては困るのだ。これで異様に長い期間続いた戦闘の理由が見えてくる。50年もの月日、交互に優勢と劣勢を繰り返し。
「我が隊に内通者まで置き‥」
 レオニードは唇を噛み締める。
 最初は確かに開拓に抵抗する蛮族との戦いであった。
 しかし、諦めれば敵に逆に侵略されるかもしれないという危惧を抱くようになり、戦闘は続いた。
 その時点で気づくべきだったのだ。この戦いは何かがおかしいと。
 しかし、今になってなぜそれまでの形ではなく、全部に牙を向ける方向に転換したのだろうか‥。


「アルトスさん」
 サクはぼんやりと焚き火を見つめているアルトスに声をかけた。アルトスははっとして彼に目を向ける。
「ねえ、見て?」
 サクは言った。アルトスがサクの示す方向に目を向けると、庭に植えてあった低木が小さくふるふると動き、急にぱっと伸び上がった。積もった雪が一斉に空に舞い上がり、そして落ちてくる。
 周囲にいた兵がびっくりして「わあ!」と声をあげた。
「悪戯しちゃだめだ。みんな疲れているんだから」
 くすくす笑うサクをアルトスは苦笑してたしなめる。そして理解する。サクはサクなりの方法で自分を元気づけようとしてくれているのだ。長く共に戦った大隊の半分を失い、自分の上官の裏切りに合い、アルトスの心は傷まみれだった。
 でも、サク、君だって辛いだろう?
 捕虜として連れ帰る途中で死んだエルフの老人はサクの魔法の師匠だったはずだ。
 母を、兄を、師匠を亡くしたサクだって、きっと悲しいはずなのに。
「魔法が使えるのか」
 2人の背後で声がした。振り返るとクレリックのフョードル・ガリツィンが笑みを浮かべて立っていた。アルトスが敬礼をする。堅苦しいことはするな、というようにフョードルは手を振った。
 彼はサクの頭に手を置いた。サクは少し怯えたような目を向ける。
「何の魔法が使えるのだ?」
「プラントコントロールと、クーリング‥悪戯してごめんなさい‥」
 フョードルは更に笑う。
「そうだな。魔法は使い方を間違えてはいかん。しかし、幼い身でよく高速詠唱まで使えるようになったものだ」
「おじさん、魔法を使う人?」
 サクの言葉にアルトスが慌てる。
「サク、この方は‥」
 フョードルは再びアルトスを手で制した。
「私はクレリックなのだよ」
「くれりっく、って何? 魔法を教える人?」
「魔法を教えるわけではない。私は聖職者なのだ。‥魔法を学びたいのかね?」
 サクはこくりと頷く。
「ストウの村が無事だって分かったから‥。僕の村はストウなの。僕はもっと魔法が使えるようになって村の人を助けたい」
「村に‥帰りたいかね」
 フョードルが尋ねると、サクはためらいがちに頷いた。
「おばあちゃんや‥長老様が元気かなって‥よく考える。でも、ここにいたほうがいいならそれでもいい。アルトスさんもいるし」
 自分を見上げるサクに、アルトスは目をしばたたせた。
「そうか‥帰りたいか」
 フョードルはガルシンの屋敷に目を向けた。


 更なる情報を集めたいというレオニード・ガルシン伯爵の思いと、村に戻りたいというサクの願いが一致した。
 サクの村、ストウはまだ悪魔の進撃を受けていないようだが、分かっていて見過ごすつもりもない。
 レオニードはアルトスにギルドで必要人員を要請のうえ、サクと共にストウに行って状況把握と長き戦いの根源であるエルフ側の情報を入手するようにと任を与えた。
 サクが同行すれば、まつろわぬ民もアルトスと冒険者を受け入れてくれるかもしれない。
 危険は伴うが、今は少しでも多くの情報が欲しかった。
 フョードルはサクに言った。
「魔法を覚えたいと思ったらいつでも私のところにおいで。もう老齢だが知り合いにウィザードがいる。彼ならきっと快く弟子を引き受けてくれるだろう。もちろん、また帰って来る、という前提だがね」
 サクは無言で頷いた。
 ストウは我々を受け入れるだろうか‥。
 フョードルは不安そうにアルトスの手を握り締めるサクを見て思った。

●今回の参加者

 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb8226 レア・クラウス(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 レオニード・ガルシンは出発前に、
「こちらには侵略の意思なし、必要あらば全員の保護を引き受けると話して良い」
 と皆に伝えた。
「つまり‥和平使節のようなもの、だな」
 双海一刃(ea3947)が言うと、レオニードは一瞬目を伏せた。
「協力あればこそ、であるが」
 財力のあるガルシンとて、協力なきことに手出しはできぬというのは隠せない事実だ。
「サク、戻りたくなればいつでもここに来て良い。フョードル殿も待っているそうだ」
 レオニードはサクの頭を撫でた。

 厳しい季節でもあり、早く目的地に着くため全員が馬に乗った。
 アルトスの前に座っているサクにサラサ・フローライト(ea3026)が目を向ける。
「あの年齢で2系統の魔法と高速詠唱が使えるとは‥将来有望そうだな」
「あっ!」
 急に横のレイア・アローネ(eb8106)が叫んだので、サラサはぎょっとする。
「危ない、忘れていた‥」
 彼女はそう言って暴食の指輪を指から外す。
「うっかりも気をつけないと」
 悪戯っぽく笑うレイアにサラサは微かに顔を赤らめる。
「じ‥実は私も途中で保存食を慌てて補充した。1つだけだったので」
「あら、持ち合わせはありましたのに。キエフ案内でもお願いできましたれば良しですわ」
 後方でサクラ・フリューゲル(eb8317)が言う。
「私も一緒ね!」
 レア・クラウス(eb8226)が叫ぶ。
「良いねぇ、キエフ観光。じゃあ、終わったら全員で」
 レイアは笑った。

 森の手前の村では、ガルシンの名を出すと数人の村人が馬で行けるところまで案内すると申し出てくれた。 馬たちは途中から連れ戻り預かるという。ガルシンはかなり人望があるようだ。
 馬と村人を見送り、双海は藤丸に声をかける。それに従い傍に来た藤丸にサクは目を向けた。
 自分を見上げる藤丸を見て、サクは顔をほころばせる。
 森の中は穏やかだった。
 サラサとレイア、レアの嵌めた石の中の蝶も動く気配がなく、犬たちも空の鷲たちも静かだ。
 案外と楽に辿り着けるのではないか、と思いつつ平穏な一夜を森の中で明かす。
 しかし、翌日はそうはいかなかった。

 サクは不安そうに周囲を見回した。危惧した通り、ストウは移動をしたらしい。
「おばあさんやみんなは移動先にどんなところを選ぶと思う?」
 双海が促すが、サクは首を振る。
「わかんない‥」
「サク」
 サラサがサクの顔を覗き込む。
「記憶を貰う魔法を使ってもいいか?」
「ぼくの?」
 目を丸くするサクにサラサは頷く。
「村に戻る時の場所を知らせる約束事などが思い出せるのならいいが?」
「覚えてない‥。いいよ、使って」
 サクの返事を聞いてサラサはリシーブメモリーを付与する。
『ストウの移動目印』
――大きな枝に小枝をつける
『小枝の意味』
――大きな枝の先にいる
 サラサはその後、心の中で『すまない、サク』と詫びる。
『母と兄の死因』
――血が飛ぶ。ぐったり
『殺したのは誰』
――森にすんでいないもの
「どうだ?」
 レイアが声をかける。
「大きい枝に小枝がつけられているらしい。大枝の向いている方向が移動先だ」
「了解」
 「枝に枝?」とレイアに尋ねるサクラの声を聞きながら、サラサはサクに目を戻す。
 森の中に住んでいないもの‥。やはりデビルだろうか。

 最初に見つけたのはサクラだった。2mほどの高さの枝に何かの蔓で小枝が結わえ付けられ、その枝は南の方向に伸びていた。次に双海が西を指す枝を見つける。3本目をレアが見つけた時、犬たちが唸り声をあげた。レイアとレアが石の中の蝶に目を走らせるが反応はない。サクラがデティクトアンデッドを発動したようとした時、遠くで妙な音が響いた。風の音とも雄叫びともつかない異様な音だ。
「アースソウルだわ」
 レアが言った。しばらくして一行は空から目の前に降り立つ少年を見る。
「リエス!」
 サクが駆け寄る。
「クク?」
 サクの顔を見て言うアースソウルにサクはかぶりを振る。
「違うよ、リエス‥ぼくはサク」
「サー‥ク、サーク‥」
 リエスは手を伸ばすとサクの頭を撫でた。サクの目から涙が溢れる。
「リエス‥村に帰りたいんだ。どこにあるか分かる?」
 リエスは頷き、ついて来いというように手招きして飛び上がった。

 リエスとは兄と一緒によく遊んでいたのだとサクは言った。
 一時間程してリエスは地に降り、先を指差した。独特の紋様をつけたテントが見える。サクがいきなり走り出した。
「サク!」
 アルトスが慌てて叫ぶ。
「待ってて! ぼくが話してくるから!」
 サクはそう叫び返した。
 しかし、サクはなかなか戻らなかった。このままではまずいと皆が考え始めた頃、人影が見えた。穏やかな顔をした男だ。彼は手前で足を止め、全員の顔を見回す。
「私は長老のドウルです。サクが婆様を見るなり泣き出しましてな。話を聞くのに手間取りました。どうぞおいでください。そのままのお姿で結構です」
 彼はそう言って笑みを浮かべた。

 レアが念のため龍晶球を使う。今はまだ反応しない。テントに入った一行は、温かい飲み物を振舞われ敷物の上に腰をおろす。
「結論から申し上げます」
 ドウルは言った。
「我らは誰ともくみしませぬ。助けも無用」
 沈黙が広がる。
「誤解なきよう申し上げるが、我らは自ら戦いを望みませぬ。そして貴方がたを敵と思っていない」
 再び沈黙。口を開いたのは双海だった。
「この長き戦いには悪魔が関与していた。奴らは密偵を置き、わざと戦争を長引かせていた可能性がある。ドウル殿は‥そのことをご存知か」
 ドウルは頷き、そして話し始めた。

 それは何代も前のことだ。双子の魔法使いがいた。以後、相応の2人の子供が弟子となる。
 いつの頃からか2人の弟子のうち1人は必ず死ぬことになる。サクの時もそうだ。兄のククは死んだ。村は2つに分かれたが、魔法使いを残していくためには必ず1人を犠牲にしなければならないのだと誰もが悟る。サクの母親はそれを阻止するべく同行し、そして死んだ。
 おそらく悪魔との契約。同胞の過ちが後世に苦しみを残した。やはり、とサラサが唇を噛む。
「弟子を出さなければいいのではないか? あるいは1人だけ」
 レイアが問うと、ドウルは首を振った。
「その引き換えに村人の半数以上が死んでも良いのであれば」
「ひどい」
 サクラが身を強張らせる。
「ヴィッサリオンという男が現れたのは50年ほど前だ。彼が戦を動かしていたのは確かであろう。人間ではあるまい。50年たっても姿が変わらぬそうだ」
「ストウが参戦しなかったのはなぜだ?」
 サラサが尋ねる。
「先に言った通り、我らは進んで戦いを望まぬ。ヴィッサリオンが真に森のエルフの味方なれば、強引にでも参戦を要求したであろう。それがなかったということは、単に戦を長引かせる目的であったと思える」
「しかし、エルフの村を排除した」
 双海の言葉にドウルは答える。
「奴らはもはやエルフと開拓者の衝突など興味はない。長い期間よりは一気であることを選んだのだ。望むのは全てを奪い取ること」
 皆が凍りつく。ドウルは更に続けた。
「サクの師はヴィッサリオンをよく思っていなかった。だから自らが盾になる覚悟で村の者を逃がした。彼はサクが死んだと思っていたから、自分が死ねば魔法使いの契約も終わると思ったのかもしれぬ」
「じゃあ、サクが生きているとどうなるのです? 今のサクの師匠は?」
 サクラが尋ねる。まさか、と全員が顔を見合わせる。
「龍晶球を使う!」
 レアが立ち上がって叫んだ。ドウルは彼女を見上げる。
「我らはすぐに発ちます。ここから離れる」
「どういうことだ」
 双海が目を細めた。
「枝の指示‥。サクは忘れていたのでしょう。見たあとは外さなければならないのですよ」
 全員が呆然とした。

 外では大急ぎの移動準備が始まっていた。
 祖母の手に引かれていたサクがアルトスの姿を見て駆け寄る。
「ご老人や子供も‥。無理ですわ、ガルシンの保護を受けるべきです」
 サクラがドウルを振り返る。
「悪魔を引き連れて?」
 その返事で、彼が「助けも無用」と言った理由が分かる。ドウルは自分たちが行けば悪魔も共にと考えたのだ。
「ならばサクを閣下にお任せしろ」
 アルトスが言った。
「閣下の元で魔法の修行をさせるが良い。修行を続ければ契約は続行されるのでは。時間は稼げる」
「来たわ」
 レアが言った。龍晶球が光っている。サラサは村人に目を向けた。60人ほどいるだろうか。そしてアースソウルの姿を見つける。
「サク、彼の使える魔法は何だ?」
 サラサの問いにサクは答えた。
「プラントコントロールとフォレストラビリンスと‥」
「それだわ!」
 レアが叫ぶ。
「彼にフォレストラビリンスを使わせて。使ったら飛び上がり、空から私たちを安全な場所に誘導する。空には鷲たちもいるわ」
「リエス!」
 サクはアースソウルを呼んだ。彼に作戦が理解できるか心配だったが、何とか分かったようだ。リエスは頷くと飛び立っていった。
「奴らを撒いたら返事をください」
 アルトスはドウルに言った。

 しばらくはうまくいっているように思えた。しかし、次第に空に上がっていくインプが増える。ラリクマが果敢に立ち向かう。サラサがムーンアローを放つ。降下してくる奴らにはレイアがソニックブームで攻撃し、双海が飛び掛る。サクラがレイアと双海、サラサにレジストデビルを付与し、サクにはホーリーフィールドを張ろうとしたが、彼は叫んだ。
「ぼくも戦う!」
 サクはプラントコントロールを発動した。枝がインプをはたく。サクラは頷き、村人を守りに入る。レアがテレスコープで進路を確保する。サラサはサクの傍に移動した。
「いったい何匹いるんだ‥!」
 レイアが呻く。双海も同じ気持ちだった。まるで沸いて出てくるように襲ってくる。
 ふと空に目を移した時、リエスがインプの爪をくらって急降下するのが見えた。その下で長い腕が彼を掴もうと待ち構えている。ミミクリーだ。双海は身を翻した。雄叫びをあげながらソニックブームを放つ。揺らいだ手の隙間をぬって落ちるリエスを双海は無我夢中で受け止めた。途端に体中に痛みが走る。視界の隅に角のある悪魔の姿が見えた。ディストロイか‥!
「萩丸!」
 必死になって呼び、萩丸の首元からリカバーポーションを取り出し歯で封を切る。
 インプの群れが来る‥! サクが叫び声をあげてプラントコントロールを放つ。リエスを抱えてうずくまる双海を覆い隠すように木と草がバリケードを作った。それを引き剥がそうとインプが爪を立て、レイアが声をあげて飛び掛る。
「危ない!」
 アルトスが叫んだ。サクに飛び掛ってきたインプにアゾットをくわえた藤丸が攻撃する。次のインプはアルトスが応戦したが、同時に伸びてきた腕からはサラサが身を挺して庇うしかなく、彼女は地面に叩きつけられた。
 サクは喧騒の中で顔を巡らせた。黒い波と血、飛び交う悲鳴‥。
 彼は近くのインプに飛び掛るなりクーリングを放つ。そしてあらん限りの声で叫ぶ。
「おまえたちの主に伝えろ! ぼくは魔法使いになる‥! 契約はまだ続いてる! ストウに手出しをするなああっ!!」


 そして‥‥静かになった。



 祖母がサクを抱き締め泣いた。サクは長老を見上げる。
「ぼく、レオニードさんのところに戻って魔法の修行をします。一人前になったら、ぼくの手で悪魔を退治します。みんなの役に立つように頑張るから‥」
 ドウルは何も言えず、震える手でサクの頭を撫でた。

 ストウは最後までガルシンの受け入れは拒否した。辺境地まで移動し、新たな棲家を探すつもりだとドウルは言った。
「全ては我らの運命。他にそれを背負わせるには忍びぬ。ただ、サクにはどこかで居場所を教えよう。戦以外ならサクを通じ協力を惜しまぬ」
 そして彼は地に片膝をつく。
「サクをお頼み申します」
 移動を開始した村人の後をリエスも着いて行きかけたが、彼は途中で戻って来ると双海の前に立った。不思議そうな顔をする双海の手を彼はそっと握る。
「あり‥がと。アース、ソウル、あなたの、味方‥呼んで‥きっと、そばに」
 リエスは誓いをするように手をあげ、そして身を翻した。

 サクはそれから何も喋らず、ガルシンの屋敷の前でやっと皆を振り向いた。
「みなさん、どうも、ありがとう‥」
 サクはぺこりとお辞儀をした。記憶に刻みつけるように全員の顔を見つめ、ひとりひとりの手をぎゅっと握り締め、最後にもう一度ぺこりとお辞儀をした。
 そして初めてアルトスとは手を繋がず、ひとりでガルシンの門をくぐって行ったのだった。