古の武器--コム二オン

■ショートシナリオ&プロモート


担当:西尾厚哉

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月25日〜12月30日

リプレイ公開日:2008年12月30日

●オープニング

「何をして‥おいでです‥?」
 ブルメル伯爵夫人は足の踏み場もないほど床一面に置かれた本の山を見て目を丸くした。
 夫はどうも昔から変わったところのある人だったが、とうとう‥。
 彼女は不安に陥ったが、近くにロジオンがいるのを見て安心する。ロジオンは古くからブルメルに仕えている男だ。今はもう引退しているが、かつては緑林兵団の優秀な指揮官でもあった。
「ああ、そこ、踏むでないぞ、大事なものだ」
 夫のニコライ・ブルメルの言葉に彼女が口を開きかけた時、ロジオンが叫んだ。
「あった‥!」
「なにっ、本当かっ!」
 踏むでないぞと言ったブルメル伯爵が、山を踏み倒してロジオンに駆け寄る。
「神‥神聖歴920年‥フェリックス・ブルメルが‥記す‥古代遺跡調査結果‥」
 何枚もの羊皮紙を閉じた本は大きく重い。床に置いたまま震える声で呟くロジオンの肩をニコライが嬉しそうに叩く。
「おお! フェリックス・ブルメル‥! 勇敢なる騎士、そして探検家、我がブルメルの誇りぞ! それだ、それだ! よくこれのことを知っておったな、ロジオン!」
「私の父が‥閣下のお父上に教えていただいたのですよ‥」
 ロジオンの言葉にニコライが「あれ?」と顔を強張らせる。要するに大切な資料の在りかをきれいさっぱり忘れていたのは当主であるニコライ・ブルメル伯爵だったわけだ。
「父も実際にこれを見たわけではございません。ブルメル閣下も中を把握できなかったようです」
「なぜだ?」
 ニコライはきょとんとしてロジオンと床の分厚い本を見比べる。
「‥これの半分以上が古代魔法語で書かれているからです」
「ほう‥?」
 ニコライはまだ事態が飲み込めていない。
「で、何と書かれておるのだ?」
「だから、読めないのです。古代魔法語を解読できる者でないと」
 ロジオンの口調が微かに苛立ちを含む。それでもニコライは楽天的だ。
「ならば読める者を連れて来れば良いではないか。簡単なことだ」
「閣下はお心当たりがございますか」
「うーん?」
 ニコライは視線を泳がせる。
「おまえはどうなのだ、ロジオン。知り合いで、その、古代なんとかに通じている者はおらんのか」
 ロジオンは口を引き結んだあと答えた。
「おります」
「では、その者を呼んで来い」
「‥レオンス・ボウネルですよ」
 あ‥という口のままニコライの表情がまたもや止まる。
「あのう‥」
 ブルメル伯爵夫人が口を挟んだ。
「お茶でもいかが?」


――古代遺跡に、賢者が作ったという稀有な武器が眠っている。
  その武器は悪しきものに対抗するためのものであったという‥。

 ブルメルの屋敷から離れること半日と少し、森の奥に遺跡があることは多くの者が知っていたが、その構造は迷路のように入り組んでいて危険とされていた。
 ロジオンも長く緑林兵団にいたのだから遺跡のことは知っていた。若い頃に興味半分に少し足を踏み入れたことがある。
 石造りの遺跡は朽ちてはいたが崩れることもなく、入ってすぐに暗い半地下のようになった。そしてその後が異様だった。方向感覚が狂う。どこまで行っても曲がりくねった似たような壁、いきなり天井が高くなるかと思えば低くなる。高いところと思えば低い。視覚的に妙な造り方をしてあるらしい。記憶が途切れないうちに早々に出口に向かったのは言うまでもない。
 それよりも、古の武器があると知りながら先代のブルメル伯爵が手出しできなかった理由が調査をまとめた本を見てやっと分かった。ほとんどが古代魔法語で書かれていたそれは、ブルメル伯爵はもちろん読むことはできず、彼の周囲にも翻訳を任せられるほど信頼のおける者がいなかったのだ。
 レオンス・ボウネルが古代魔法語に通じているからといってニコライ・ブルメル伯爵が彼にと即決できなかったのは同じ理由からだ。
 レオンスは地と水とオーラの魔法に通じる優秀な戦士だったが、村の子供を殺したという嫌疑で投獄されていた。その腕を惜しむあまり密かに釈放されはしたが、実のところ公にはなっていない。言うなれば罪人に機密事項ともいえるものを見せていいものかどうか。
「私は子供の頃からの彼を知っています。愛想は良くないが、人を欺くような男ではない。今の罪状もレオンス自身は否定をしている嫌疑です。万が一彼が裏切るようなことがあれば、私が命を賭けて責任を取ります」
 ロジオンの言葉にニコライは決心をした。
 レオンスは立派な戦士だ。頭も良い。無愛想だったり、狂化すると見境なく人を殺すんじゃないかという噂があったり、でも‥うーん、ロジオンが言うんだから、ま、いいか。
 ニコライ・ブルメルの性格は先代ほど用心深くはない。


 呼ばれたレオンスは不機嫌そうな表情でフェリックス・ブルメルの手記を読む。
「9月15日‥調査、開始、16日、石造り、壁‥」
「ああ、全部は読まずとも良い、武器に関する記述はないか?」
 ニコライは手を振る。
「順を追わねば判らないこともあります」
 ロジオンが言ったがニコライは面倒臭そうにかぶりを振った。
「必要があれば前に戻れば良いではないか」
 視線を向けるレオンスに、ロジオンは仕方なく頷いてみせた。
「19日、左右‥石像、大室。陽の光無く、澱み。石棺、中央大、左右小、奥、人型、くぼみ‥ザウル‥」
 レオンスが言葉を切った。
「どうした?」
 ニコライが怪訝な顔をする。レオンスは何かを訴えかけるようにロジオンを見た。しかしロジオンも理由が判らない。レオンスは仕方なく再び視線を落とす。
「くぼみ、ザウル・ベリコワ、乗り‥潰され、石棺、開く」
 ロジオンが呆然として口を開いた。何、どうした、というようにニコライがふたりをきょときょとと見る。
「‥剣‥‥3。コム‥二オン。コム二オン。ブラン、白く‥輝く」
 感情をあまり出さないレオンスの声が震えた。
「コム二オン‥ブランを使った剣‥か‥」
 ロジオンが息を吐いて力尽きたように椅子に座り込んだ。
「剣? 剣があったのか! そうか!」
 嬉しそうなのはニコライだけだ。レオンスも口を引き結んでいる。
「どうした、2人とも。これで確実に剣があることが判ったではないか。でもどうしてフェリックスは持ち帰らなかったのであろうな」
「一緒に行った者を重しにして石棺を開けたからですよ」
 レオンスが不機嫌そうに言った。
「重し?」
「そうです。」
 ロジオンが答える。
「おそらく石棺は人と同等の重さの重しを所定の場所に置くことで開く仕組みなのでしょう。そして重しになった者は死んだ。フェリックス殿が剣を持って帰ることができなかったのは、最後まで行き着いたのが彼とその死んだザウルという者だけだったからか、犠牲を出したことを憂えてのことか‥。長い年月で死体は朽ちて石棺は再び閉まっているでしょう。開くには同じことをしなければならない」
「誰かを犠牲にしろと? 代わりの何かを持って行けばいいのではないか? レオンス、おまえならできよう? 行って剣を持ち帰ってくれ」
 ロジオンとレオンスが視線を合わせる。
「レオンス、どうする」
 ロジオンが尋ねる。レオンスはしばらく考えたのち頷いた。
「何か方法があるはず。コム二オンという剣、見てみたい‥。」
 そして彼は付け加えた。
「本当ならば処刑される身。協力者現れぬならひとりででも」
「ひとりだと持っては帰れまい」
 ロジオンは息を吐いた。

●今回の参加者

 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

 ブルメルでは馬の用意と、冒険者たちの考えを聞いて既に購入してきた10袋の他にレオンスが更に5袋の麻袋を用意してくれていた。
 ロジオンは向こうのレオンスをちらりと見やり、
「あれは無愛想で頑固だが多少のことで動揺したりはしない。信頼してやってくれ」
 と皆に小声で言った。彼の嫌疑の詳細を聞いてみたい気がしたが、時間のこともあり諦めることとなる。
「あの‥」
 アルフレッド・アーツ(ea2100)がためらいがちにレオンスに声をかける。
「遺跡の中は‥どんな道のり‥ですか‥」
「フェリックスは目的の部屋に辿り着くまでに3日」
 レオンスはアルフレッドに目を向けず答えた。
「剣が必要なら相応の試練を乗り越えろ、ということか‥」
 双海一刃(ea3947)の声に続き、彼の肩に乗っていたエレメンタラーフェアリーの沙羅も「か〜」と小さく言う。
「レオンスさんは遺跡にお入りになったことは?」
 セラフィマ・レオーノフ(eb2554)が尋ねたが、それについての彼の返事は「ある」の一言だけだった。本当に無愛想だ。セラフィマと目が合った双海が彼女に、気にするな、という表情を見せた。

 一時間ほど馬で移動したのち、手前の村で馬は預けることになる。遺跡まではここからほぼ半日、夜明かしはおそらく遺跡の中。
 しかし、何のアクシデントもなく数時間後に遺跡の場所まで辿り着き、雪の中に石積みの入り口がぽっかりと開いているのを見た時はさすがに拍子抜けであった。
「ずいぶんと‥穏やかな森なのですね」
 妙道院孔宣(ec5511)が言うとレオンスは彼女に目を向ける。
「魔物が出る場所を通らなかっただけだ。ここから先は分からぬ」
「そう、ことは単純じゃないってことか。やれやれ」
 呟いたサイクザエラ・マイ(ec4873)はレオンスの視線を受けて手をあげる。
「ああ、こっちの話だ。気にしないでくれ」
「手記に魔物の情報は?」
 双海が尋ねたが、レオンスの返事は簡潔に
「ない」
 とりつくしまもないとはこのことだ。双海は微かに溜息をつく。
 重し用の麻袋には事前に石か土を詰める予定だったが、それはレオンスが別の提案をした。
「詰めるものは中でどうとでもなる。部屋の前にあるらしい石像を壊してもよい」
「ガーゴイルだったらどうしますの?」
 セラフィマが尋ねたが、レオンスの返事はやはり素っ気無かった。
「大丈夫だ」
 いや、しかし‥と誰もが思うが彼の有無も言わさぬ態度に言葉を飲み込んだ。結局、空のままの麻袋は妙道院が持つことになる。
 レオンスが用意した羊皮紙は地図作成を担当するアルフレッドが持つには大き過ぎた。アルフレッドはしばらく考えたのち木切れをロープで繋ぎ合わせ、即席の画板のような物を考案し、それを妙道院の手を借りて造り上げるとサイクザエラに首から吊ってもらい支えてもらうことにした。その上に羊皮紙を広げると、多少デコボコになるが書けないこともない。レオンスは壁の印付け用に小さな消し炭をアルフレッドに投げて寄越した。

 遺跡内は入ってすぐに足元が下りになり、外の光も入らなくなった。サイクザエラの連れた埴輪が「ごとん‥ごとん‥」と音をたてる。前を歩く双海は沙羅に自分から離れないよう指示を出した。その横には妙道院。レオンスは最後尾で「次は右」「その先は左に折れる」と伝えていく。セラフィマはその隣で地図を書くアルフレッドに提灯を射しかけた。妙道院は時々デティクトアンデットで周囲を確かめ、合間にサイクザエラもインフラビジョンで確認する。
 4時間ほど歩き、そこでようやく休息をとることになった。サイクザエラは首から画板を外してふうと息を吐く。その画板から地図を取り、アルフレッドがレオンスの傍に来る。
「‥見てください」
 彼の声に他の者も地図を覗き込んだ。
「曲がった角度と距離は‥できるだけ正確に書いたつもりです‥。でもこれ‥どう思います‥?」
 アルフレッドは言った。奥に進んでいると思いきや、道は左に向かったのちゆっくりと右に弧を描き、対称的な形を描いて再び入り口方向に戻りつつあった。歩いた時間から考えると夜が明けて数時間もすればまた入り口近くに辿り着くことになる。
「杯のような形ですわね」
 セラフィマが呟く。確かにそう見えなくもない。
「コム二オン‥ラテン語で『聖餐』‥。それに対し、杯の形の道筋とは」
 双海の言葉に全員が沈黙する。しばらくしてレオンスが不機嫌そうに口を開く。
「フェリックが図として場所を残さなかった理由はこれか」
 入り口の近くに部屋があると分かれば、誰もが中に入らない方法を考えるだろう。
「何にしても‥入り口と直接繋がるような道はないでしょうから‥帰りは同じ道を戻るしかありませんが」
 アルフレッドが息を吐いた。

 しばしの睡眠をとり一行は再び歩き始める。ふと、双海は足が何かを跳ね飛ばした感触に立ち止まり、身を屈めて床を提灯で照らし声をあげる。
「レオンス!」
 全員が床に目を凝らす。提灯に照らされる無数の白骨。どれも死んだ時そのままの状態のようだ。先に進もうとする妙道院を双海が止める。
「迂闊に動かないほうが。死体の倒れた方向を見ろ」
 彼の言葉に妙道院は再び床に目を向ける。ほとんどがこちらに頭を向けている。
「逃げようと‥?」
 アルフレッドが奥の闇に顔を向けた。
「インフラビジョンは何も察知しない。手記に情報は?」
 サイクザエラがレオンスを振り向く。レオンスはかぶりを振り、妙道院に目を向ける。
「私が前を守る。敵は魔法で」
 妙道院は頷いた。注意を払いつつ一行は再び進み始める。しばらくして再び歩を止めた。壁に並ぶ石像が提灯の光に浮かぶ。悪魔を模った形はガーゴイルだ。左右に3つずつ合計6体。
「片側一列はグラビティーキャノンで壊す。魔法を使ったらそれで反対側が動き出すかもしれない。その時は頼む」
 レオンスの言葉に双海とセラフィマは刀を抜く。アルフレッドはペンをダガーに持ち替える。レオンスから黒い帯が伸び、石像は台座から落ちて粉々に崩れる。その大きな音と同時に対面のガーゴイルが動きだした。
 双海がレオンスに向かう1体に刀と足でダブルアタック攻撃。レオンスが更に一撃を。サイクザエラは地図ごと画板を抱えて体で守る。地図がなくなると今までの努力が無駄になる。
「鏡月!」
 妙道院の薙刀が勢い良くガーゴイルを突く。向かってくる別の奴にはくるりと身をかわし薙刀で払う。引き続きセラフィマが刀で突き、双海がしとめた。
「行くぞ」
 ガーゴイルの残骸を踏み越え、レオンスは言った。

 先に進むと、天井が急に高くなったのが空気の気配で分かった。光が届かないため、サイクザエラも提灯に灯を点す。中央には大きな石棺、その左右に一回り小さい石棺が縦に並んでいる。更に奥に進むレオンスに全員が続く。
 大きな箱がある。上がこんもりと丸くなり細長く巨大な器を伏せたような形で、両端に丸い穴が空いている。
「人型のくぼみが‥ありませんわね」
 セラフィマが不思議そうに目を凝らす。
「天井を照らしてください‥」
 アルフレッドの声に、彼女は提灯をかざす。アルフレッドが飛んで行くのが見えた。彼はしばらくして降りてくると言った。
「この穴に対応するような感じで‥上にも突起が。重しが乗ったあと‥これで蓋をされる仕組みでは‥」
「そもそも蓋を吊っていたものが朽ちて落ちたということか‥」
 レオンスが呟く。
「では、この蓋の上から重しを乗せてみては?」
 妙道院がそう言って持ってきた錆びた錨二つを乗せる。しかしそれでは足らない。
「石を集めよう」
 双海が麻袋を持ち上げた。ガーゴイルの残骸も含め2つの麻袋を詰めると、レオンスと双海が落ちないよう注意深く蓋の上に乗せる。石棺は開かない。
「この蓋は鋳型のような構造なのではないか? ならばやはりこの下の『くぼみ』に重しが必要だ」
 双海が言う。どうする、というように全員がレオンスを見た。レオンスはしばらく考えたのち蓋に近づき手を当て、デュアラブルセンサーを発動する。
「材質は砂岩で耐久度は50」
 彼はそう言い、上に乗っていた錨を逆さにして穴に差し込みサイクザエラに目を向ける。
「火で錨を熱する。石を熱して割る方法だ。どのくらいの時間がかかるか分からないが魔力が足りなくなれば私のソルフの実を渡す。これでだめなら‥」
 口を噤むレオンスにアルフレッドが声をかける。
「レオンスさんは地の魔法が使えますね‥? しばらく石を熱し、頃合を見計らって‥レビテーションで上から錨を落とすのは‥どうでしょう。落下物には威力がつきます」
「やってみる」
 レオンスは答えた。

 サイクザエラは一度錨を外すとそれに提灯の油をかけた。火を大きくするためだ。そして再び穴に差し込み提灯の火をファイヤーコントロールで錨の傍に持って来る。二時間ほど熱し続けたあと、さらに一時間放置し、刺していた錨を麻袋で包んで妙道院が取り去る。レオンスはもう一つの錨を持ってレビテーションで3mほど上から狙いを定めて熱した部分に錨を落とした。

 ガッ‥‥!

 鈍い音が響く。床に落ちた錨を双海がレオンスに渡し、更にもう一度。

 グシャッ‥‥! ゴトッ‥

「割れたわ‥!」
 セラフィマが嬉しそうに声をあげた。双海と妙道院が破片を取り去ると腕が入りそうなくらいの穴が開いた。提灯をかざして中を見ると白い骨が見えた。セラフィマがそれを麻袋に詰める。それを見た妙道院も手を合わせたあと手伝う。届く限りの骨を拾いあげたあと、全員で麻袋5つに合計一人分重量目安の石を中に押し込み、最後に割れた蓋を元に戻す。重量が足りたかどうかは賭けだ。
 足元で「ゴゥン‥」という音がした。その後次第にその音が大きくなり、微かに地響きが足に伝わる。危険を感じて全員が身構えた時、

 バァァァァン‥!

 すさまじい音とともに3つの石棺の蓋が開き、その衝撃で空中に無数の何かが弾き飛ばされた。思わず身を伏せる。石粒のようなものがぱらぱらと降り注ぐ。
 静かになったので顔をあげたサイクザエラは自分の体に降り注いだ小さな石を持ち上げて目を丸くした。それは大粒の宝石だった。
 レオンスは立ち上がると石棺に近づき、中央の石棺の中からゆっくりとそれを取り出す。長く眠っていたにも関わらず、鞘を抜いたあとの刃は眩しいばかりに白銀の色を放っていた。



――柄に『勝利の石』ガーネットありし剣、聖なる力の魔法と防御の魔法を有す。
 『司教の石』アメジストありし剣2本、聖なる力の魔法を有す。
 悪しきものに立ち向かいし者へ、神への誓いと試練に立ち向かう勇気を。

 石棺の中にはそう記されていた。古代魔法語で書いてあったそれをレオンスが解読し、アルフレッドが地図脇に記す。大きな剣はレオンスが、2つの剣は錨の分だけ重量が軽くなった妙道院が持った。
 剣とともに収められていた無数の宝石類はレオンスが持って帰ると言うので麻袋4つに抱えられるだけの量を詰めた。さらに4つに通路で倒れていた骨を詰め、セラフィマが広げた毛布に乗せて彼女と双海、サイクザエラで引っ張った。
 フェリックスが剣を持ち帰らなかった理由が何となく全員に分かりかけていた。
 古代人は興味半分で剣を作ったのではない。命がけだったのだ。フェリックス・ブルメルは、多くの犠牲を伴った自らの好奇心と剣の存在の重みは吊りあわないと感じたのかもしれない。


 ようやくブルメル邸に到着した一行をニコライ・ブルメルが顔を輝かせて出迎える。
「よくやった! すばらしい!」
 ニコライが顔を輝かせたのは剣よりもむしろ宝石のほうだった。
「閣下、剣はレオンスに託してよろしいか」
 ロジオンの言葉にニコライは頷く。
「もちろんだ。わしには戦争に備えて剣より財力補充のほうが良い。レオンス、残りの2本もおまえが託したい者を決めてよい」
「では、申し上げます」
 レオンスは言った。
「セラフィマ・レオーノフと双海一刃に。2人は刀を持つ戦士です。しかし‥」
「ん? なんだ?」
 ニコライは宝石のひとつを持ち上げて眺めながら問う。
「誰が持ってもおかしくないほど皆が尽力してくださった。財宝分与をお願いします。それと、ブルメルとして遺跡の中で果てた名も分からぬ者たちを弔っていただきたい」
「了解した!」
 ニコライはぐっと背を伸ばし頷いた。
「ご苦労であった!」



 その後、ささやかながら祝宴が開かれる。
 皆が仰天したのは、ニコライが執拗に勧めるワインを固辞し続けていたレオンスが、ロジオンに促されて渋々口にした数分後だった。
「有難う!」
 レオンスに突然抱きつかれて妙道院が悲鳴をあげる。
 セラフィマは抱きすくめられて顔を真っ赤にし、サイクザエラは持っていた杯を床に落とし、アルフレッドは飛んで逃げ、双海は思わず刀を引き抜きそうになる。
「誰かひとりでもいなかったらだめだった‥! 感謝しているっ!」
 レオンスはぐっと拳を握り締め叫んだ。
「レオンスさんの狂化を‥ご存知なかったのですか‥」
 難を逃れたアルフレッドがロジオンに尋ねたが、彼は呆然としているだけだ。
「こいつには‥二度と酒は飲ませるなっ‥!」
 自分が勧めておきながら、レオンスに飛び掛られて床に転がりながらニコライが叫ぶ。
「彼の名誉のために‥これは内緒にしたほうが良さそうだな」
 双海が呟く。全員が苦笑しながら頷いた。