【闇の子供たち】狼の言葉
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■ショートシナリオ
担当:西尾厚哉
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月23日〜02月28日
リプレイ公開日:2009年02月28日
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●オープニング
真っ暗な森の中で冷たくなった頬を傾けると、なめらかな毛並みを感じた。
「あったかい‥」
手を伸ばして顔を押し付ける。小刻みに聞こえる息遣い、心臓の音。
「わんわん」
そう言うと、確かめるように鼻面がこちらを向く。
『大丈夫。今、焚き火を‥‥らね』
誰かが言った。温かい手が額を撫でる。
――お兄ちゃん、いるかな‥
そう思いながらも眠気が襲う。
『もう、こんな森の‥‥‥来ては‥‥‥よ。ここは昔‥‥‥がいた場所。気配は‥‥‥たわけじゃない』
声が聞こえる。
――うん。分かった。
リーナは心の中でそう答えて、すうっと眠りに落ち込んだ。
リーナ・バーリンは窓の外を眺めた。どこに目を向けても真っ白な雪ばかり。ところどころに見える常緑樹の森も、凍える雪の冠を被っている。
最近いつも同じ夢ばかり見る。
夢の中にいつも出てくるのは暗く寒い森の中。狼たちの(あの時は犬だと思っていた)なめらかな毛並みと優しい声。闇の中でそれはとても安心できるものだった。
あの声がワーウルフの長の息子、バフィトだと知ったのはつい最近だ。でも、彼の顔は思い出せない。バフィトはいったいどんな顔だったのだろう。
数ヶ月前、バーリン子爵の屋敷は狼の吠え声に取り囲まれた。
朝起きると雪の上に不穏な文字が残されていた。
そのうち狼たちは屋敷にどんどん近づき、身の危険を感じるようになった。
兄のガブリルは狩りで、子供の頃助けてくれたワーウルフの息子、バフィトを誤って射抜いてしまった。彼らはその警告をしていたのだ。
でも、今はもうそんなことはない。遥か遠くで時折遠吠えが聞こえるばかり。
冒険者たちが守ってくれたからだ。彼らがいたから怒っていたワーウルフたちとも話をすることができた。ずっと忘れていた幼い頃の体験もその時に思い出した。
ワーウルフたちはもう怒ってはいない。終わったこと。そのはずなのに、夢を見てどうしてこんなに不安な気持ちになるのだろう。
リーナはあの時の記憶を全部思い出せているわけではない。一緒に森で迷った兄も同じだ。
『ここは昔‥‥‥がいた場所。気配は‥‥‥たわけじゃない』
何がいたの?
リーナには何かがひっかかる。でも、何かは分からない。
「お兄様」
リーナは門の近くで石の塔に入れた灯を確かめる兄に声をかけた。
バフィトの父グロムと会ってから、ガブリルは好きだった遊びの狩りをぴたりとやめ、何日もかかってこの石塔を作った。
グロムは兄の髪を持ち、兄はバフィトの遺髪を持つ。兄はバフィトの遺髪を小さな袋に入れ、銀の鎖をつけて肌身離さず首から提げている。それはバフィトの魂と願いだ。獣人と自分たちが同じ地に住むことの協定。同じ地に住むもの同士、互いの安息を乱すことなく共に生きていこうという誓いだ。ワーウルフたちはいつも遠くからこの灯を見ていることだろう。
「お兄様、小さかった時のこと、覚えてる? あの、森で迷子になった時のこと」
「また、その話? 何度も言ったけれど、私はバフィトが言った、『また会おう』という言葉以外、他は何も思い出せないんだ」
ガブリルは妹に目を向け答える。
「バフィトはたぶんいろんな言葉をかけてくれていたと思うし、それを忘れてしまっている自分を私も後悔することがあるけれど‥でも、どうして、今、そんなに気になるんだ?」
兄の言葉にリーナは曖昧に笑みを浮かべる。考え過ぎかしら。でも、気になるの。
ここは昔、何がいた場所?
『ここは昔‥‥‥がいた場所。気配は‥‥‥たわけじゃない』
また、あの夢。
リーナは眠りながら思う。
『‥‥にある、‥‥‥は、』
どうしていつも切れ切れなの?
『‥‥の王‥‥‥が‥‥は‥‥狙って‥‥‥‥危険が‥‥しれない』
はっとして飛び起きる。
心臓がどきどきした。
私はもしかしたら子供の頃にとても重要なことを聞いていたのではないかしら。
ベッドを抜け出し、うっすらと明るくなった窓の外を見る。
――ヴオォォォォ‥ン!
リーナは飛び上がる。あの声は何? 狼じゃないわ。
慌てて部屋を飛び出すと、兄のガブリルとバーリン子爵、子爵の妻のマリエも寝室を出てきていた。
「お母様! お父様!」
「大丈夫よ、きっと狼の遠吠えよ」
マリエが娘を抱く。
「いいえ、違うわ、みんなそう思ったから部屋を出たのでしょう?」
リーナは兄の顔を見た。
「お兄様、ワーウルフのグロムに会いに行きましょう!」
「えっ」
突拍子もない言葉にガブリルは目を丸くする。
「お父様、私たち、子供の頃、バフィトにとても大切なことを伝えられたような気がするの! 私たちはそれを知っておかなければいけなかったのではないかしら。お願い、誰かに頼んで一緒にワーウルフに会いに行かせて!」
「リーナ、落ち着きなさい。獣人達とこちらは接点が深いものではない。おいそれと会えるわけではないのだよ。彼らがこちらと接触を取るときは、この領土内で私たちが道義をわきまえぬことをした時だけだろう」
バーリン子爵の声にリーナは首を振る。
「何かの王が狙ってる! 私は夢の中でバフィトがそう言ったのを思い出したの!」
――ヴオォォォォ‥ン!
再び声が聞こえる。あれはいったい何だろう。
「父上、冒険者ギルドに‥依頼を出してみよう。領土内の村の見回りは数日で終わりますから、そうしたら私が行きます。キエフは今、悪魔たちとの戦闘真っ只中。この辺境の地だけなにもないとは思えない。不安を感じることがあれば早いうちに手を打ったほうが」
バーリン子爵は暫く思案したのち頷いた。
●リプレイ本文
屋敷ではリーナとガブリルが緊張した面持ちで待っていた。レティシア・シャンテヒルト(ea6215)がふたりに近づく。
「お願いしたいことがあるの。私の歌を聞いて何か思い出したことがあれば教えてくれない?」
兄妹は不思議そうな表情で顔を見合わせ頷いた。レティシアは静かに歌い始める。
「まどろみの中 語る優しい声 狼たちの息遣い
彼は語る 温かい手と共に
闇の中 言葉 静かに蘇る‥」
リーナの目から涙が零れ落ちる。
「バフィトは目と声がとても優しい人。年は‥16、7歳だったのかしら‥」
彼女はそう言い、はっとして顔をあげる。
「王‥‥何の王‥? そうだわ‥フシ‥‥フシシャ‥?」
フシシャ。不死者? 見守っていた冒険者たちは視線を交わす。
「他には?」
レティシアは尋ねたがリーナは首を振った。ガブリルの顔を見上げたが、彼も首を振る。ガブリルの記憶はかなり奥深くに入ってしまっているのかもしれない。
「皆さんと一緒に詳しく聞いてくるよ」
ガブリルは愛用の弓矢を取り上げリーナに言った。バーリン子爵は葉隠紫辰(ea2438)の連れていた驢馬、壱葵に気づき、預かることを申し出てくれた。
「お気をつけて‥」
不安そうなリーナとバーリン子爵、その妻マリエに見送られ、一行は出発した。
「接近戦の危険がないわけではない。武器をお貸しする。俺はダガーを持っているが、レティシアのブラッディ・トレイも威力があってお薦めだ」
双海一刃(ea3947)はガブリルに言った。レティシアはバックからトレイを取り出し差す。
「どうぞ?」
ガブリルはトレイを見て目を丸くする。
「角で殴ると相当効きます」
「なるほど。ではお借りしよう」
ガブリルはトレイの角をまじまじと見つめて頷いた。
なだらかな丘陵が幾重にも連なり森が点在する。天候は悪くない。遠くに見える山嶺が声の聞こえるという山か。
「声は‥あれからどうですの?」
ガブリルの傍を歩いていたセフィナ・プランティエ(ea8539)が尋ねる。
「昨日の夕方近くに一度。それからはありません」
ガブリルは答え、視線を空に向ける。
「あの精霊は?」
「私たちが連れている精霊たちですわ、バリウスさん」
「ええと‥ガブリルです‥」
「きゃ‥!」
訂正され、セフィナは顔を真っ赤にして両手を頬に当てる。
「ごめんなさい、わたくしったら‥!」
ガブリルは笑みを浮かべた。
「いいえ、貴方のような美しい方ならなんでも許せます」
前を歩いていたレティシアと双海が思わず顔を見合わせる。子爵のご子息は甘い言葉を実にさらりと言ってのけるものだ。双海は小さく咳払いをする。
「森は獣の類は多いのか?」
尋ねると、ガブリルは頷いた。
「今の時期は狐やウサギといった小動物が。オーガやゴブリンに出くわすこともあるが‥。春になれば熊や虫たちも多くなるだろうし、森の住人との軋轢はこれから多くなるだろう」
ガブリルは遠くを見つめた。
「開拓領土を増やすことは私たちの任務だが、森を潰さない方法はないだろうか。ワーウルフたちの棲み処も守りたい‥」
「その、ワーウルフたちの集落がある場所の察しはつくのかしら?」
レティシアが聞いた。
「確信ではないが、ここらで一番大きな森といえばあそこだ」
ガブリルは先を指差す。たしかに大きな森だ。
「狼たちの遠吠えが聞こえたのもあのあたりだった」
「では、そちらに向かうとするか」
紫辰が言った。
足の下で雪が音をたてる。狐やウサギが視界をよぎったが、他に魔物の気配はない。石の中の蝶も反応がない。セフィナの連れたリアンが放つブレスセンサーが時折大きなものを感知したが進路を変えて回避した。途中で一度休息を入れ再び歩き出したが、いつまでたっても同じような風景、同じような木々の並び。ふと同じところをぐるぐると回っているのではという気持ちになる。しかしそれについては双海が異を唱えた。皆が通った足跡を再び雪の上に見ていないからだ。
「不思議だな‥。狩りで何度も森の中に入ったことはあるけれど、こんなに静かだった経験がない」
ガブリルも首をかしげた。
しかし、日が傾き森の中が薄暗くなってきた頃、それはいきなり響いた。
――ヴォオオオオ‥ン‥!
全員がぎょっとする。あれがあの声か!
レティシアがサウンドワードを使った。セフィナもインタプリティリングで会話を試みるが、さすがに見えない、何ものかも分からない相手では繋がらない。
『ドラゴンがデビルの攻撃に威嚇をした声。北15キロの山の中だよ』
レティシアがそれを皆に伝えた。ガブリルが呆然とする。
「あの山に竜がいるなど聞いたことがなかった」
「次に聞こえたらまた試してみるわね」
レティシアは言った。
暗くなり、月が昇った。足元が危ないと判断した4人は野営の準備を始めた。双海が器用に石を積み上げ周囲に影響を及ぼさぬようカマドのようなものを作り、そこで火を焚く。
「先に俺とレティシアが見張りをする。ガブリル殿は休まれるが良い」
双海が言うと、ガブリルが首を振った。
「ご婦人を見張りに立たせるなどそんなことは。私も見張りを」
結局しばらく全員が火を囲んで座ることになった。レティシアはカマドを中心にムーンフィールドを発動する。
「みんな寄って。結界の中は暖かいかも」
幸せそうな表情をしたのはガブリルだった。
「こんなのは初めてだ。友人ができるというのはこういう感じだろうか」
「子爵様ならいろんな方と交流がありますでしょう?」
セフィナが尋ねる。
「そりゃ、まあ‥。でも目上の方ばかりだし、ここは辺境の地なので訪れる人もあまりない」
「おまえはいくつなんだ?」
紫辰が尋ねると、ガブリルは19と答えた。
「狼たちに助けられた時は6歳だった。もう13年もたつんだな‥」
ガブリルはバフィトの遺髪の入ったペンダントを取り出す。
「私はなぜ思い出せないのだろう。彼らにとって私達はよそ者だ。それでも彼は大切なことを教えてくれようとしていた。私は彼らにどう応えて行けばいいだろう」
「私たちは冒険者。グロムさんに会う手助けをするだけよ」
レティシアは言った。
「貴方が考えて決めていくしかないわね」
彼女の言葉にガブリルは頷く。
それにしても静かだ。狼も精霊もいないのか。双海が顔を巡らせると、リエスが傍に寄ってきた。
「るーん‥」
双海の髪をひっぱるリエス。蓮も反対側から髪を引っ張る。
「どうしたんだ‥」
神貴艶は紫辰の耳を引っ張り、リアンはセフィナの指を持つ。何かが来たのだろうか。しかし誰も殺気を感じていなかった。レティシアがふと竪琴を取り上げ、ピィンと爪弾く。
「精霊‥?」
紫辰が呟く。
「月の光 月あかり おいで 森の精霊たちよ おいで 小さな友人たちよ‥」
レティシアの声を聞きながら、セフィナは思い切ってムーンフィールドを解除した。リエス、蓮、リアン、神貴艶が嬉しそうに飛び上がる。気がつくとあちらこちらに精霊たちが集まっていた。エレメンタラーフェアリー、メイフェやブリッグルもいる。レティシアの歌に合わせてきらきらと光り飛び回る精霊たちの姿は夢の世界のようだった。
「リーナにも見せてやりたかった‥」
ガブリルが目を輝かせて呟いた。セフィナが指輪のオーラテレパスを使う。
『森の精霊さん、お願いがあります。ワーウルフのグロムさんにお会いしたいと伝えて』
『うん、わかった』
近くにいたエレメンタラーフェアリーが踊りの輪から離れていった。
しばらくしてレティシアは竪琴を弾く手を止めた。全員が彼女の視線を追ってその先を見る。月明りに男の姿が見えた。ガブリルがはっとして立ち上がる。男はまっすぐにガブリルに近づくと、彼の首に下がるバフィトの遺髪を手にとった。
「確かに兄者の遺髪である」
男は言った。
「テントは仲間がお持ちするので、このままついて来られるが良い」
男はそう言って、先にたって歩き出した。
ワーウルフの集落はさらに森の奥だった。小さな泉を中心に切り開いたその場所に、外の世界を拒むように小さな家が集まっている。
焚火の近くにガブリルには覚えのある男が待っていた。ガブリルが彼の前で膝をつく。きっと彼がグロムだ。冒険者たちもその背後で膝をついた。
「そなたが精霊たちと仲が良いとは思わなかった」
「いえ、私では‥」
ガブリルは緊張した面持ちで目をしばたたせる。その時、小さな男の子が近づいてきた。
「アフト。子供はもう眠る時間だ」
グロムが見咎める。
「まだ眠くない」
そう答えながらも長の鋭い目に口を尖らせ去ろうとする子供にレティシアが声をかけた。
「待って。これを明日、みんなでね」
彼女はそっとケーキと甘酒を渡してやった。子供は嬉しそうに頷き走っていった。
「すまぬ。アフトは我侭で手を焼いておる」
「いいえ、もともと皆さまに召し上がっていただくつもりでしたから」
レティシアは笑みを浮かべて答えた。グロムは彼女に小さく頭を下げ、再びガブリルに目を向ける。
「ところで、あの声のことなら我らは何も分からぬぞ。数日前に調べを出したがまだ戻って来ておらぬ」
「私もギルドで調査依頼を‥」
ガブリルが次の言葉を見出せずにいるので、双海が助け船を出す。
「最近、森の中に異常は?」
「ここは悪魔も姿を見せぬ辺境の地。変わりはないが、今だけなのかもしれぬ」
「悪魔は既に姿を見せています。夕刻に聞こえたあの声に私は魔法を使いました。竜が悪魔に攻撃を受けている声のようです」
レティシアが言った。グロムはそれを聞いて表情を堅くする。
「妹のリーナは昔のことを断片で思い出し不安に陥っています。バフィト殿はとても大切なことを私たちに伝えてくれていたはず。それはあの声と関係があるのでは」
ガブリルの声にグロムはじっと彼を見つめたあと口を開く。
「我らは長くこの地にいるが、そなたたちはある日突然やってきた。多くを知らせる必要などないと当時の私はバフィトを叱った。だが、風に聞く悪魔との戦いを知ると、敵対ではなく結束であると今は思う。そなたはどうだ」
「私もです」
ガブリルは答えた。グロムは頷き話し始めた。
「これは‥ここの長が代々引き継いでいる話だ」
声が聞こえるというあの山は、遥か昔、不死者の王が棲んでいたという。
元は強力な魔法と剣の腕を持つ戦士であった。彼は大きな自負を持ち、やがて神を凌ぐ存在になりたいという欲望に囚われた。そして無謀にも神に挑戦した。当然のごとく敗北した彼は悔しさのあまり再び神に挑み勝ちたいという執念で不死者としてこの世に留まったのだという。
彼はこの地にブラン鉱脈があるのを知り、その力を基に魔力を持った武器を作ることを考えた。そして作り上げた剣を使い、再び挑んだ神への戦いに勝利した。
「神に勝つなんて‥」
セフィナが思わず呟いた。
「彼がそう主張しているだけで実際はどうか分からぬが。その後、剣は誰の手にも渡らぬよう、どこかに隠したと言われている」
「不死者の王は?」
紫辰が尋ねると、グロムは首を振った。
「王の行く末は分からぬな‥。神に抵抗し無事とは思えぬ。どこかに封印されているのかもしれん」
「『ここは昔‥不死者の王‥がいた場所。でも、気配は‥消えた‥たわけじゃない』」
ガブリルが妹の言葉を思い出し、推測できる言葉を当てはめる。
「『‥どこかに‥ある、‥‥‥は』?」
レティシアが続きを呟く。
「冥王剣だ」
グロムは言った。
「そういう名であったと伝えられている。神に勝利した剣は悪魔が狙う可能性もある。そうなるとこの地にも危険が及ぶかもしれない。‥恐らくバフィトはそのようなことをそなたたちに伝えたかったのだろう」
「それで共に協力しこの地を守ろうと‥」
ガブリルが掠れた声で言った。
「そんな大事なことを‥私は‥」
「そなたの責任ではない」
グロムはガブリルの顔を覗きこむ。
「そなたは妹をオーガから庇って頭に大きな傷を負った。バフィトが薬を飲ませたが、混沌とした状態であったそうだ。あの時は‥バフィトを失った悲しみに私も怒りを感じていた。‥今はそうではないよ。そなたはあれからずっと火をたやさずにいてくれているではないか」
ガブリルの肩が小刻みに震えた。
「不死者の王はあの山に冥王剣を隠したのだろうか」
双海が言うと、グロムは口を引き結んだ。
「‥なんとも言えんな。私は不死者の王が復活をしたのかと思っていたが、悪魔がいるのなら剣の可能性が近いのかもしれん。調査に行った者が何かを掴んでくるだろう。‥今はそれだけしか分からぬ」
グロムは立ち上がった。
「今日はここで休まれるが良い。夜が明けたら森の外まで送らせよう」
「バフィト様のお墓はどこですか?」
レティシアが彼を見上げて言った。
「私はバードです。鎮魂歌を捧げます」
「ありがとう」
グロムは頷いた。
「夢に出でし 優しき声
闇の中 子らに伝えし 繋がりの誓い
どこかでまた 会うことを願い
夢と記憶の中で 続く命の 幸せを
永遠に‥」
レティシアの歌に合わせ、精霊たちが舞う。
ガブリルと冒険者はグロムがそっと自分の目を拭うのを見た。
夜が明け、テントまで迎えに来た男が冒険者たちを森の外まで送ってくれた。礼を言おうとガブリルが彼を振り向いた時、
――ヴォオオオオ‥ン‥!
声が響く。レティシアがサウンドワードを放った。
『竜が夫を呼ぶ声。北15キロの山の中だよ』
「竜はつがいであるようね‥何が起こっているのかしら」
遠くの山の中はかなり緊迫しているのではと全員が感じ取る。
「冒険者なら、何らかの情報を必ず持ち帰って来る。そちらも情報を掴んだらガブリル殿と進んで接触を持ち次の手を考えていただきたい」
双海が言うと男は頷いた。
「長もその気持ちと思います」
バーリンの屋敷の前でガブリルは冒険者たちを振り向いた。
「調査隊が戻ったらあまり猶予のない状態かもしれません。またすぐにギルドに行くことになるような気がします。その時には機会があればお力をお貸しください」
ガブリルはそう言って硬い表情になった。
「神をも滅ぼしたという剣、悪魔の手に渡すわけにはいきません」
全員が頷いた。
――ヴォオオオオ‥ン‥!
声が響く。
ちらちらと光る細氷が、今はこの地に生ける者たちへの警鐘に見えた。