【闇の子供たち】雪山の咆哮

■ショートシナリオ


担当:西尾厚哉

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 1 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月23日〜03月01日

リプレイ公開日:2009年02月28日

●オープニング

――ヴオォォォォ‥ン!

 リーナ・バーリンは飛び起きる。
 また、あの声。

 彼女は最近、子供の頃の夢を見る。
 幼い頃、兄と一緒に森に入り迷子になった。助けてくれたのがワーウルフだというのを知ったのはつい最近だ。
 でも、当時の記憶はあまりない。覚えているのは狼たちのなめらかな毛並みと優しいワーウルフのバフィトの声。暗闇の中で、彼の声は安心できるものだった。
 でも、ここのところ、夢の中で思い出していくバフィトの言葉は不穏な色を含んできた。
『ここは昔‥‥‥がいた場所。気配は‥‥‥たわけじゃない』
『‥‥の王‥‥‥が‥‥は‥‥狙って‥‥‥‥危険が‥‥しれない』
 気配、王、狙う、危険‥。続く単語は恐ろしいものばかり。
 不安な気持ちに拍車をかけるように、聞こえてくるあの声。
 声? 狼とも違う。獣でもない。ずっとずっと遠くから聞こえるあの声はいったい何だろう。

――ヴオォォォォ‥ン!

 また。
 リーナは耳を塞ぐ。
 怖いというよりも、苦しくて不安でたまらなくなるような声。
 昼夜を問わずふいに響き渡る声に体中の血が沸騰しそうなくらい苦しくなる。
 兄のガブリルは今日、ギルドに依頼をしに行くはずだ。
 夢の中のバフィトの言葉を、ワーウルフに会って確かめてくれと頼んだのだ。
 リーナは兄の部屋に向かう。
「お兄様、いい?」
 ノックをすると、兄の「いいよ」という返事がかえってきた。ドアを開けると、ガブリルは窓の外を眺めていた。まだ外は暗い。でも、兄もあの声が気になったのだろう。
「ずいぶん遠くのようだから、こちらに直接影響があるとは思えないけれど」
 ガブリルは言った。
「どこから聞こえてくるか分かる?」
 リーナは尋ねる。
「遠すぎてはっきりとは分からないけれど‥たぶんあっちの山のほうじゃないかな」
 ガブリルは遠くに見える山を指す。
「あそこは行ったことがないわね」
「そうだな‥。明確な道もないし。この雪がなくなれば何とかなるかもしれないけれど‥」
 ガブリルは妹を振り返り、椅子を勧める。
「温かいものでも運ばせようか?」
 ガブリルが言ったが、リーナはかぶりを振った。まだ使用人たちは眠っている時間だ。
「あの山はブラン鉱脈の形跡があるらしいと聞いたことがある。人づてだから本当かどうかは分からないけれど。開拓が進めばそのうち山も調べることになるだろうな」
 ガブリルは冷えたのか、上着を着て言った。
「今、調べるのはだめ?」
「え?」
 リーナの言葉にガブリルは目を細める。
「お兄様、今日、ギルドに行くのでしょう? 一緒にあの山を調べてもらって。あの声の正体が何か調べてもらって」
 妹の言葉にガブリルは視線を泳がせる。
「不安を感じることがあれば早いうちに手を打ったほうが、と言ったのはお兄様よ。私、あの声が怖いというよりも何だか聞いているととても苦しくなるの。どうしてかしら」
「うん‥」
 ガブリルは口を引き結ぶ。それはガブリルも同じ気持ちだという証拠だ。
「ワーウルフたちと会うだけでも大変なのに、あの山まで行ってくれる人がいるかな‥」
「頼んでみて。もしかしたら私の夢に関係があるかもしれない。お父様には私から話をするわ」
「分かった。やってみるよ」
 ガブリルは頷いた。

●今回の参加者

 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7465 シャルロット・スパイラル(34歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8226 レア・クラウス(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

リースフィア・エルスリード(eb2745)/ ジルベール・ダリエ(ec5609

●リプレイ本文

 ガブリル・バーリンは冒険者たちへ自筆の地図をギルドに残していた。キエフ、声が聞こえる山地、そしてバーリン邸の位置。片隅にサインと「また会おう」という言葉を添えてくれていたが、余りにもざくりとした絵で距離感も掴めない。それについてはヴィタリー・チャイカの友人、ジルベール・ダリエ(ec5609)がサンワードを使ってくれたが、やはり「遠い」という以外には詳しいことは分からなかった。地図はシャルロット・スパイラル(ea7465)が小さく畳んで持つことになった。

 見渡す限り雪また雪。なだらかな丘陵を幾つか超えた頃、裾飾りのように森を広げた山の頂が見えた。今日はここで日が暮れる。高い山ではないが、連なる山嶺に困惑を覚える。この広い範囲のいったいどこに? 未だに声も聞こえてこない。
「フォーノリッヂを使うわ」
 レア・クラウス(eb8226)が言った。
『雪山の声』
 それについて彼女が見たものは‥‥‥闇だ。何もない。何も見ることができない。彼女は再びフォーノリッジを使う。
『子供たち』
 群れを成す灰色の狼、そしてあれは‥。
「ワーウルフ‥?」
 彼はこちらに飛び掛るように手を振り上げ、そしてぷつりと光景は消えた。
「闇、そしてワーウルフ。あれほどの闇は魔法だと思うけれど、月魔法を使うものの関与となるとエレメント、クリーチャー、ドラゴン‥」
「そしてデビル?」
 レアの言葉を引き継いでゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が言う。
「ワーウルフはこちらに攻撃を仕掛けたように見えたわ」
 レアは言った。それを聞いてヴィタリーは首をかしげる。
「彼らは敵対していないはずでは?」
「別の集落なのかもしれない。何にしても先に進むしか‥」
 ゼファーがそう言った時。

 ――ヴォオオオオ‥ン!

 全員がはっとする。あの声か‥!
「‥‥怒りか痛みか、慟哭のそれか‥」
 思わずシャルロットが呟く。バーリン子爵家で皆が不安に陥るのも無理はない。
 ゼファーはテレスコープのスクロールを広げた。声が聞こえたのは確か南東の方向。いったい何がいる? 暗くなる前に確かめたい。しばらくして彼女は言った。
「デビルは当たりだ。インプがいる」
 他の3人も彼女の視線を追うが、さすがに見ることはできない。ゼファーは山の一角を指す。
「一部が切り立った崖になっている。声の正体がインプとも思えないが、ここからでは他を見極めるのは無理だな。ともかく夜が明けたら近くまで行こう」
 全員が頷いた。


 一夜明け、4人は麓の森に入る。ゼファーとシャルロットが先を進み、レアとヴィタリーがその後に続く。ゼファーは筆記用具を取り出し、地図を作成しながら小枝を組んで作った目印を他の木の枝に止めていく。彼女は時折石の中の蝶にも目を配るので、ヴィタリーが目印をつけるのを手伝った。
 足元は非常に厳しかった。折れた木や落ちた枝の上に雪が降り積もり、硬い感触が足に伝わったかと思えば、いきなりずぶりと深く入り込む。勾配が感じられるようになった時には斜面に沿って表面の雪が崩れ、足をとられた。
「方角は間違っていないか?」
 ゼファーは森と山の移動に長けるシャルロットに尋ねる。
「大丈夫だと思うが、できればもう一度くらいは声を聞かせてもらいたいところだな」
 シャルロットは微かに息をきらせて答えた。ゼファーはレアに目を移す。彼女も表情が固い。休息をとったほうがいいのかもしれない。
「何もいないとは思えないが、動物の痕跡もないな‥」
 ヴィタリーは周囲を見回し、落ち着いたままのミールに目をやる。
 その時。

 ――ヴォオオオオ‥ン!

 思わず全員が身構える。昨日よりかなり近いがゼファーの石の中の蝶もレアの龍晶球も反応はない。つまり声の主とデビルが同じ場所にいるのであれば目的地はまだ遠い、ということだ。ヴィタリーは皆に言う。
「ミミクリーで空から様子を見て来よう」
「無理をするなよ。この少し先で拠点を張る」
 ゼファーの言葉にヴィタリーは頷き、大鷹に姿を変えると飛び立った。

 ヴィタリーはデビルの姿がないことを確かめ空に舞い上がる。山の頂を眼下に捉え、目視できる程度の高さを維持して旋回する。
 切り立った崖の中腹に大きな横穴が空いているのが見える。地上からは50mというところか。周囲をうかがい、更に接近しようとした時、

 ――ヴォオオオオ‥ン!

 と、同時にばらばらと穴から飛び出してきたインプの群れ。声が響くはずだ。あの洞窟から聞こえている。穴の中に何かいる? 見極めようと近づくと、森の一角から飛び出してきたものがあった。大きな禿鷹だ。こちらに向かって来たのを見て、ヴィタリーは慌ててその場から逃れた。恐らくあれもデビルだろう。こちらがただの鷹だと思ってか、しつこく追って来なかったのが幸いだった。


 拠点に戻り、ヴィタリーは見てきたことを報告した。
「洞窟の中に何がいるのかは向こうが出てきてくれるか、こちらが中に入るかしないと分からないだろうな」
「だが、洞窟は地上から50m、なおかつ下はデビルの陣営。迂闊には近づけんな」
 ゼファーは考え込む。レアは思案したのち、フォーノリッヂを使った。
『洞窟にいるもの』
 黒いものが見えた。闇‥? いいや、違う。あれは鱗だ。淡い光の中に微かに血のような赤い色も見える。あの光は何だろう。
「‥月の光‥!」
 レアは小さく叫ぶ。
「黒い鱗が見えた。ドラゴンかも。月が昇れば洞窟の中に月明かりが差すのかもしれない。エックスレイビジョンを」
「月魔法を使うものを見極めることも可能になるな。月が昇ってから近づくか」
 ゼファーの声に全員が頷いた。

 日が暮れ、空に月が昇ってくる。
 シャルロットはアッシュエージェンシーで自らの身代わりを作ると拠点に置いた。ヴィタリーは夜目の利く狼に身を変え、ゼファーと共に先に歩く。崖には敵に察知されないぎりぎりの距離で近づくしかない。ゼファーは石の中の蝶を確かめ、レアも龍晶球を使う。
 しばらくして月の光に剥き出しの岩肌を照らされた崖が見えてくる。木々の間に身を潜め、ゼファーはテレスコープのスクロールを使った。洞窟は思ったより大きい。インプはやはりいた。しかし入り口付近で弾かれている。淡く微かに光が見える。
「ムーンフィールドか」
 ゼファーは呟く。入り口を覆うように結界を張っているのかもしれない。
 レアはエックスレイビジョンを発動する。月は洞窟の入り口付近に光を落としていた。もっと奥まで光が届いていて欲しかった。彼女は目を細める。僅かに何かが動く。月明かりの中に黒い宝石のような光が一瞬見える。そして突如それは光の下に顔を出した。結界の様子を確かめるように光に向けたその顔は‥
「ドラゴン‥!」
 レアは小さく叫んだ。全員が彼女の顔を見た。
「黒い鱗の竜よ。ムーンドラゴンやララディじゃない。もっと大きい」
「それと話ができればいいんだが‥」
 とヴィタリー。
「崖下のデビルは数が多い。いるのはインプだけでもなさそうだな」
 ゼファーが小声で言う。今ここで戦闘に突入するわけにはいかない。悔しさを噛み締めながらひとまず拠点に戻ることになる。
「月魔法が使えるなら、相手からでもテレパシーが届く距離だったかもしれないのに」
 レアは崖を振り向き呟いた。

 拠点に戻った時、シャルロットは自分の分身が灰に戻っているのを見た。何かがここに来た。ゼファーが素早く雪の上を見る。
「狼」
 足跡を見つけ、彼女とヴィタリーが同時に言った。ミールが唸る。その時には周囲を光る目が取り囲んでいた。一頭の狼が近づいてくる。吠えるミールをヴィタリーが押し留めた。狼の存在はすなわちワーウフルの存在。しかし攻撃してきたら‥。シャルロットとゼファーは身構え、ヴィタリーとレアはテレパシーリングに念を込める。
『俺たちは敵じゃない』
『私たちは声の正体を確かめに来ただけ』
 唸りをあげる狼にふたりは必死になって言葉を送る。狼が背後の闇を振り向いた。それに呼ばれるように闇の中から一人の男が姿を現す。さらに一人。そしてもう一人。最初の男が口を開く。
「人とエルフが不死者の地に何用か」
 男は言った。不死者? 4人は顔を見合わせた。
「俺たちはバーリン子爵のご子息、ガブリル・バーリン氏の依頼で山から聞こえる声の正体を確かめるためにここに来た」
 ヴィタリーは言った。
「ガブリル‥バーリン?」
 月明かりに照らされる男の眉が微かにひそめられる。
「証拠はあるか」
「そんなものはないわ。でも、私たちのように子爵の依頼でグロムっていう人に会いに行ってる者たちがいるはずよ」
 グロムの名が出て、男は明らかに動揺する。
「私たちに置いていってくれたガブリルの地図ならあるぞ」
 シャルロットが懐から地図を取り出し男に渡す。男はそれを広げて眺めたあと、小さく笑みを浮かべた。
「確かにバーリンであるな」
 男は地図の片隅を指す。
「『また会おう』と。兄者が好きであった言葉だ」
 ガブリルは意外と先見の明があったということか? 実際のところは分からないが疑いは晴れたようだ。
「そちらはなぜここにいる?」
 地図を返してもらいながらシャルロットは尋ねる。
「それと、不死者というのは?」
「頼みがある。それを飲んでくれるのであれば分かることを話しても良い」
「いいだろう。私たちにできることなら」
 ゼファーが言ったので、男は頷いた。
「竜を助けてもらいたい。生憎、私たちの薬草は切れた。早く助けなければ危ないかもしれない」
「竜?」
 レアが目を細める。
「シャドウドラゴンだ。今洞窟にいるドラゴンとつがいであるらしい」
 彼の言葉に全員が呆然と口を開いた。


 ワーウルフの男はドウムと名乗った。
「ここは昔、不死者の王が棲んでいたと伝えられている。そのため獣も寄り付かず、荒んだ場所であった。獣人の我々も近づかぬ」
「それがなぜ、今ここに?」
 シャルロットが尋ねると、ドウムは頷いた。
「貴方がたと同じ理由だ。長より声の正体を見極めよと命を受けた。どうやらデビルたちはあの洞窟から竜を追い出してしまおうと躍起のようだ。ぬ体は手負いにして追い出したが、もう1体は中にいる。シャドウドラゴンは月魔法を操る。命懸けならば更に手強い。しかしそれも限界がある」
「だから、傷ついた竜を助けて戻してあげようということね」
 レアが言った。
「夫婦、であるしな」
 ドウムは答えた。
 しばらくして彼らは、木々の間を縫うようにして巨大な黒い塊が横たわっているのを見た。ドウムは4人を振り向いた。
「我らは魔法が使えぬ。どんどん弱っていくようだ。昨日まではテレパシーで会話をしてくれていたが、もう何も話さぬ。今でこそこんな状態だが最初はいきり立ち、我々も迂闊に近づけぬ状態だった。貴方がたがあの崖の竜に近づこうとしなかったのは賢明であったよ」
 ヴィタリーはテレパシーリングに念を込めると竜の傍に歩み寄った。目を閉じぐったりしている。
『竜よ、聞こえるか? これを飲んで傷を癒すんだ』
 ヴィタリーはそう伝え、ヒーリングポーションの封を切り龍の口に流し込もうとした。しかし見知らぬ気配を警戒し、竜は最後の力を振り絞って身をよじる。弾みで容器が弾け飛ぶ。
『だめよ! おとなしくして! 傷を治すのよ!』
 レアはテレパシーで必死に語りかける。ワーウルフたちと冒険者たちで必死になって押さえ、何とかヒーリングポーションとリカバーポーションの幾つかを竜の口に流し込んだ。こんな大きな体に効くのだろうか。息を詰め様子を見る。
 やがて竜は頭をもたげた。そしてゆっくりと身を起こす。しばらくして全員の頭に声が聞こえた。
『暴レテスマナカッタ‥礼ヲ言ウ。妻ノ声ガ聞コエテイタガ、身ウゴキナラズ、辛カッタ』
「デビルはなぜおまえたちを攻撃している?」
 シャルロットが尋ねる。
『アノ洞窟ハ、奥二細ク続イテイル。ソコ二行キタイヨウダガ、我ラモ住ミ慣レタ場所、明ケ渡ス気ハナイ。通シテハイケナイヨウナ気モスル』
「奥に何があるか知っているのか?」
 続けてヴィタリーが尋ねる。
『知ラヌ。アノ蝿ドモヲ追イ払ッテクレタナラバ、オマエタチハ喜ンデ通ス』
「今すぐは無理だ。しばらく持ちこたえてくれ」
 ゼファーが言うと竜は頷いた。
「これを持って行くといい。おまえなら容器ごと噛み砕け」
 ヴィタリーがいくつかのリカバーポーションを竜に渡した。
『アリガトウ』
 竜はそう言って空にあがっていった。
「私からも礼を言う。ありがとう」
 ドウムが言った。
「不死者の王が戻って来たのかと思っていたが、竜がいるとなるとそうでもないようだ。我らは引き続きここにいるが、長も何らかの方針を出すだろう」
「私たちは今からバーリン子爵の屋敷に報告に行く。もうひとつの冒険者たちの報告と合わせて子爵も何か方針を出されるだろう」
 ゼファーの言葉にドウムは頷いた。
「よろしくお願いする。そなたたちの名前を教えてもらえるか」
 皆の名前を聞き、ドウムは4人の顔を記憶に留めるように見つめた。
「また会えることを願っている」
 彼は背を向け、森の奥へ戻って行った。


 束の間の睡眠を取り、冒険者たちはバーリン子爵の元へ急ぎ向かう。
 子爵邸ではガブリルがリーナと父親と共に出迎えた。報告を聞いてリーナが涙を拭った。
「竜が助けを呼んでいたなんて」
 彼女は部屋を一度出て行き、腕にたくさんのポーションを抱えて戻ってきた。
「竜を助けてくださったこと、私からもお礼申し上げます。皆様にも大切なものですから使った分を補充してお戻りください」
「あの洞窟の奥は調べてみる必要があると思う」
 有り難くポーションを取り上げて言うヴィタリーにガブリルは頷く。
「私もそう思います。あの地はかつて不死者の王が神を倒したという冥王剣を作った場所だそうです。その剣はどこかに隠されている。デビルたちが躍起になっているのなら、その洞窟が関わっている可能性が高い。有用な情報、感謝します」
「神を倒した剣なんて。もし本当ならデビルの手に渡すのはまずいわ」
 レアが呟く。
「地図は作っておいた。余白に私が知る限りの現地のデビルの種類を。できるだけ早くギルドに依頼を出されるがいいだろう」
 ゼファーから地図を受け取りガブリルは頷いた。
「そのつもりです。機会が合えば、ぜひまたお力をお貸しください」
 冒険者は頷く。
 ワーウルフたちはデビルと戦う方針に転じるだろう。ポーションをいくつか携えた竜とワーウルフが全力でデビルたちを阻止してもそう長く持ちこたえられることではない。
 あの洞窟に剣が? 不安を覚えながらバーリン邸をあとにする冒険者たちの目に今日は細氷の光が危うく見えた。