【冥王の光】ブルメル城死闘
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■ショートシナリオ
担当:西尾厚哉
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月30日〜04月04日
リプレイ公開日:2009年04月07日
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●オープニング
「冥王剣とは‥よくぞデビルの手に渡さず回収したものだな」
レオニード・ガルシン伯爵はブルメル伯爵からの手紙を読み、ふうと息を吐く。
神をも滅ぼしたと伝わる『冥王剣』。冒険者たちの手によってデビルから守られた。
不死者の王が呪いをかけて封印した可能性もあるため木の箱に収め、それを持ってガブリルが処遇の相談に来た、と手紙にはあった。
「ガブリル殿は疲労激しく、無理に城で引き止められたそうだ」
「それが正解でありましょうな」
クレリックのフョードルは苦笑する。
「呪いが仮にかけられていたとしたら、子爵のご子息が持ち運ぶのは危険でしょう」
「して、どうしたものか。ブラン鉱脈跡の山地はどうやらデビルの手中に落ちたようだが‥」
レオニードは椅子の背に体重を預ける。
「こちらから出向く以外にありますまい。‥私が参ります」
フョードルは答える。
「あちらはロジオン殿がおられるので、多少なりともブルメル閣下に忠告はなさるだろうが、剣も使える物ならばできるだけ早く抵抗武器になさるが良い。こちらに運んでしまっては手間がかかる」
「確かに。我が領地に持ち込まれるのも正直困る話だ」
レオニードは渋面で言う。恐らくあの時は山を手に入れることを先にしたのだろうが、執拗に狙っていた剣を奴らがそう簡単に諦める筈がない。剣をこちらに持ち込まれて再び領土内を戦地にすることはさすがにレオニードも望まない。
「あのような剣は一箇所に留めて置くことは賢明ではありません。それを考えると‥冒険者に使っていただくしか道はないでしょう」
フョードルは言った。
「うふ」
サクは嬉しそうに馬の首に頬を押し付けた。戦闘馬に乗るのは初めてだ。乗馬の練習をしていて本当に良かったと思う。
レオニードはアルトスと4人の騎士、そしてサクをフョードルの護衛につけた。まだ幼い少年サクに関しては、懐いているアルトスと一緒にいさせてやろうというフョードルの配慮だ。地魔法はほぼ網羅し、水と火の魔法も覚えつつある。護衛としての力が皆無というわけでもない。
レオニードがアルトスを向かわせたのには、もちろん護衛以外に思惑がある。
ガルシンは先の戦いでブルメル伯爵に借りがある。ブルメル領土が危険にさらされているならばあちらの体勢を鑑みてガルシン側も援軍の意思があることと、合わせて作戦を練って来い、ということだ。
そうした緊迫の道行きではあったが、陽は優しく温かい。ロシアの春も少しずつ近づいているようだ。
「そなたたちにも話しておこうな」
フョードルはレオニードと会話した冥王剣のことを同行の者に話して聞かせた。
「神を滅ぼす剣など‥恐ろしいものですね‥」
アルトスの声にフョードルは息を吐いた。
「剣よりも山だ。ブルメル閣下は戦争のことになると今ひとつ注意が‥」
ふとアルトスは何かの気配を感じフョードルを制す。騎士たちも剣を抜く。かつては森の住人であったサクも気配には敏感だ。視線を巡らせ空を見上げ、そこに巨大な双頭竜の姿を見る。
「伏せてっ!」
サクの声。火と氷の息。馬が嘶く。しかしアルトスは更に別の気配を感じ取る。
次の瞬間‥
――ガッ‥‥!
気づいた時にはアルトスの横をすり抜け、相手はフョードルに巨大な剣を振り下ろしていた。肩から血しぶきがあげ馬から転げ落ちるフョードル。馬で走り去る獣頭の騎士。サクが小さな悲鳴をあげながらストーンを放つ。しかし効かない。
サクは馬を飛び降りてフョードルに駆け寄った。ばらばらとインプが襲いかかる。さっきの獣頭の騎士が戻って来る。アルトスは剣を構え、騎士たちもフョードルとサクを中心に円陣を組む。サクは必死になって周囲を見回した。森が遠い。プラントコントロールが届かない。
「サク!」
フョードルは血に濡れた手でサクの腕を掴んだ。
「先にブルメル閣下の城に行け! お前は軽い! 馬も速く走る!」
「でも!」
――ガッ‥‥!
こちらの騎士がひとり倒れた。
「冥王剣の呪いの有無を確かめる方法がひとつある。それは誰かが剣を使うことだ。荒業だが、それが一番早い!」
ごぼりとフョードルの口から血が零れ出る。
「ポーション‥ポーション使って!」
サクは小さな瓶を取り出す。フョードルはそれには応じなかった。それよりも先に伝えねば。
「然るべき準備をせよと伝えろ。デビルは必ずブルメルをキエフ侵攻の踏み台にする。良いか、現存するカースは長くて1ヶ月、それ以上の強いカースがかかっていたとしても、心を強く持て、ば‥」
「フョードルさん!」
「サク! 行け!」
アルトスの怒声。サクはフョードルの血まみれの手にポーションの瓶を押し付け、歯を食いしばると馬に飛び乗った。
「――!」
走り出したサクの前に巨大な双頭竜が降り立った。馬が慌てて足を止め、サクはしがみつく。
「あれ? なーんだ‥」
サクは白い翼を持つ少年の姿を竜の背に見た。ヴォラックだ。
「やられたね。あのクレリックの念に惑わされたみたいだ」
くくっと嗤う。
「どけ‥!」
ファイヤーボムを放つサク。だがびくともしない。
「ばーか。ガキんちょの魔法なんか効かないって」
サクは呻き声をあげると、馬の脇腹を蹴った。
「おとと‥」
ヴォラックは大袈裟に双頭竜と共にサクを避けると、走る馬の横に並んで声をかける。
「かぁっこいぃ〜。ねえ、ぼくと友達にならない? 悪いようにはしないよ。ぼくねぇ、あの剣欲しいんだぁ。冥王剣」
ヴォラックの口ぶりは余裕が在りすぎて腹立たしい。
「前はさー、アガレス様が山のほうを先にしろって言うしぃ、しかたないから諦めたけどぉ」
「アガレスって誰?!」
サクは叫び返す。
「ひーみーつぅ。剣をくれたら教えてあげるー」
「あの剣には呪いがかかってるよ!」
「呪いぃ? んー、まあそうかもねー。でもさー、剣の威力に比べりゃあそれくらい」
「へえ! そんなすごい威力があるんだ!」
「当たり前じゃん。だって神を退けたんだから。ふふっ‥」
森がある! サクはプラントコントロールを放った。剣先のように突き出された枝からヴォラックは慌てて身を逸らす。その隙にサクは走り抜けた。
「ま、いっか。たぶん、負けっこないし」
枝の届かない上空まであがり、ヴォラックはサクを見送ってにっと嗤う。そして横に近づくインプに顔を向けた。
「あのクレリックはウザいから殺しちゃえ。あとは‥どうでもいいや」
インプはきぃぃと答えて飛び去った。
城に駆け込んだサクの訴えで、ブルメル側のアイザック・ベルマン率いる騎士十数名がアルトスとフョードル達を救いに向かうが、クレリックのフョードルは既に亡くなり、騎士ふたりも死亡。アルトスと残り2名の騎士は重傷だった。
城に戻る途中、アイザック・ベルマンは南の空に不穏な黒い影を見た。
数時間後、ヴォラックが配下の一軍を率いてブルメル城へ襲撃開始する。
【情勢補足】
・城内兵力は500。普段は温厚な地であるため急襲については甘い装備。
・一般的な直接攻撃系の兵士が大多数。3割が精霊魔法と神聖魔法黒を取得。
・敵戦力は下級デビル他、中級デビルはサブナク、アザゼル、ヴォラックを確認。
・ロジオンは老体のため戦闘不可。サク、アルトス他2名の騎士はガルシン配下なので原則戦力外。
・ブルメル伯爵は陽気な性格だが戦いにはかなり疎い。注意していないと常識外れの行動を取る可能性も有。
●リプレイ本文
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)の声がレオンスに届く。
『お嬢様よりレオンスへ。空と地上より入城希望』
『北東側が敵数少なし。地上は正面、敵背後から奇襲してもらえると助かる。お嬢様』
レティシアはそれを後方のシャルロット・スパイラル(ea7465)に伝える。
「行くわよ、ベガ。魔法援護お願いね」
アーシャ・イクティノス(eb6702)の声に嘶き翼を広げるペガサス。3頭のペガサスとオラース・カノーヴァ(ea3486)のグリフォン、フライングブルームに乗ったシャルロットが城北東へ。確かに北東部はデビルが少ないが、それでもたいした量だ。
まずはシャルロットがファイヤーボム。更にアーシャのソードボンバーで蹴散らす。隙間を縫って城内に着地した途端、オラースは城正門側へ。続きアレーナ・オレアリス(eb3532)も。残る4人も遅れまいと走る。
双海一刃(ea3947)とミュール・マードリック(ea9285)、レイア・アローネ(eb8106)、鳳美夕(ec0583)はアン・シュヴァリエ(ec0205)の作った灰の分身と共に城前に群がるデビルを見た。下級デビル、アザゼル、そしてサブナク。今なら奇襲可能。士気を上げ剣に炎をまとわせた美夕がサブナクに最初の一撃。猶予を与えず双海のダブルアタック、藤丸と萩丸のクナイ。周囲デビルにレイアとミュールがソードボンバー。なおも剣を振り上げようとしたサブナクに美夕が再び一撃。どう! とサブナクは地面に落ちた。
城の正門が開き全員が中に滑り込む。急ぎ、騎士の一人が結界を張る。覚えのあるその顔に双海が声をかける。
「ベルマンか? レオンスと話がしたい」
「間もなく参ります」
姿を見せたレオンスに兵が早速駆け寄る。
「大隊長殿! 閣下が書物庫を守れと仰せ!」
ギロリと怒りの目を向けられ、兵は怯えた顔で敬礼をして駆け去った。どうやらブルメル伯爵は事態を把握しきれておらず、我侭放題のようだ。
「礼を言う。正門は何としても結界を張りたかった」
怒りを抑え言うレオンス。後を継いでベルマンが説明するに、一度城内にグレムリンが入り込んだらしい。気づいた時には武器やポーションの類を持ち去られ、それは少なからず痛手であった。
「武器ならあるぞ」
オラースはグレコに積んでいた刀を降ろす。ミュールとアーシャも剣を取り出し、アレーナはポーション、レティシアは名水を。思いもよらぬことにベルマンが呆然とし、感謝の声も出せない。
「私、ロシア人じゃないけど、世界を守ろうという気持ちは同じ」
アーシャは笑みを浮かべ言った。
合わせてレティシアは聖なる守りをレオンスの首に。細い指が頬を掠めた時、一瞬見せたレオンスの表情は初めて見るものだった。
「感謝する」
その口調はいつも通りであったが。
双海が口を開く。
「レオンス、剣を囮にしようと思う。俺たちの誰かが担い手になることも決意の上だ」
レオンスの顔に緊張が浮かんだが、「こちらへ」と一同を促した。
ずぅん‥。壁伝いに振動が伝わる。アクババが空から岩を落とす。
伯爵夫妻とガブリルは騎士2名とロジオン、アルトスの傍に寄り添うサクと共にいた。長い箱を抱き締めていたガブリルが立ち上がる。レオンスが口を開く。
「剣を囮にと。彼らは担い手となる覚悟も」
ガブリルはびくりと体を震わせた。その彼にロジオンがゆっくりと言う。
「閣下がご判断を」
ガブリルは箱を抱き締めたまま床を凝視する。
ずぅん‥。
再び振動。時間はあまりない。
「フョードル殿が冒険者に任せろと仰ったのであろう? 渡してしまうが良いぞ」
さっさと厄介払いしてしまえと言わんばかりのブルメル伯爵。思わず夫を睨む夫人。
「私が負うには重い剣‥」
ガブリルは床を見つめたまま言った。
「でも、それを人に押し付けていいのだろうか‥」
「貴方が担うべくは『決断』です」
再びロジオン。ガブリルは顔をあげた。震える足で歩み出し、箱を床に置いて蓋を開く。
「お任せします。でも、お願いが。威力ある剣なれば、手にした力をこの地の守りに」
一気にそう言うと箱を残し退いた。残ったのは赤い光を放つ白い剣。すぐさま手に取ることはさすがにためらわれた。
「ブラン製の剣、初めて見ました‥」
アーシャが呟く。アンはインタプリティリングに念じる。
(おまえの意思は?)
答えはない。続いてリードシンキング。やはり無言。
ずぅん‥‥
双海が聖なる釘と聖水、刀を床に置きレオンスに目を向ける。
「ベルマン殿にこちらの警護を願えるか」
「それは応じられない。彼は兵の指揮に必要だ」
即座に答えるレオンス。サクが声を張り上げた。
「いざとなったら僕が魔法使う」
「わ、私も応戦を‥」
と、ガブリル。
「いけません! 皆様はブルメルでお預かりする大切な御身。レオンス、こちらの兵を動かしなさい」
伯爵夫人が叱咤した。でも、と言いかけるサクを遮るレオンス。
「騎士を2名。これが限界」
決めるしかないだろう。
「行くぞ!」
素早く踵を返すオラース。
「サク!」
箱ごと剣を持ち上げながら双海はサクに何かを投げて寄越した。サクが両手で受け止めるとそれは水晶のダイス。
「俺の戦友に。ペンダントのお礼だ」
サクは目を見開き勢い良く双海に向かって走り出す。それがだらしなく投げ出されたブルメル伯爵の足に引っかかり‥。
――‥あ!
全員が凍りつく。サクに激突され、箱から零れ落ちる剣。咄嗟に腕を伸ばす双海。手の中の冥王剣。
双海の異変を見逃すまいと全員が彼を見つめる。‥何もない。双海は言った。
「行こう。剣如きを理由に戦友達を悪魔に害されたくない」
ミュールが踵を返した。皆がそれに続く。囮作戦の始まりだ。
「サブナクは数体いる。気をつけろ」
レオンスは言った。
レティシアはシャルロットと美夕に魔力の杖を渡す。美夕に士気向上魔法を受けた彼女は先に空へ。双海はアンよりレジストマジック。ペガサスの力を借りて全員がレジストデビル付与。美夕はアンのペガサス、オラースそして自らも士気向上。
「天候の操作は可能かしら」
アンの問いにレオンスは頷く。
「スクロールなら」
「では、雨雲を」
門が開く。デビルの波がざわわと動く。双頭竜はまだ見えない。レティシアは城と囮班の中間に降り立つ。アンの鷹、ユリアンと共にミューゼルは空の守りを。
『冥王剣に最も近いデビル』
『サブナク』
念じ月矢を放つ。
「近づけさせない!」
美夕はアンの張った結界からインプ集団にファイヤーボム。双海の後方に聖なる釘を打つアン。オーラを纏い、双海の少し前を行くミュール。彼は前に回りこんだインプをソードボンバーで弾き返し、ふと背後を振り返る。双海が後方で立ち止まっている。何故? 目を細め、再び来るインプを薙ぎ払う。
―ドクン‥!
鼓動が冥王剣から手に伝わる。ぼたりと赤い塊が落ちた。さらにぼたりと。肉片。双海は自らの肉片が削げ落ち雪を赤く染めていくのを見る。犬たちが主の傍で吠えるが双海には聞こえない。
――我、凌グ者ナリ
幻覚。理解しつつも体が動かない。生きて打ち勝とうという意思が、死と滅亡にとって代わる。激しい執念、黒い憎悪。
――ゴゥゥゥゥ!
巨大な影が空に舞う。双頭竜だ。アンとアーシャが攻撃態勢に出る。レティシアの月矢。威力が低い。結界か。背にヴォラック。あれは本物? アンが解呪発動。
「双頭竜、任されました!」
アンとすれ違いながらアーシャのソニックブーム。叫ぶ竜。更なる攻撃は3体のアクババに阻まれる。アンがブラックホーリー。アレーナが剣を振り上げる。天馬の上からポイントアタック。1体が地面に落ちる。残る2体もアーシャと共に打破。
双海に近づく双頭竜。月矢を放つレティシア。ミュールはオーラマックス発動、剣を納め双海の手から魔剣を叩き落とす。そして振り向きざまに再び剣を抜き、双頭竜に一撃。巨大な首が1つどさりと落ちた。旋回して戻る前に何とかしなければ。しかし双海の目はまだ虚空。レティシアがふいに現れたサブナクを見る。一直線にミュールと双海に向かって行く。月矢! ‥効かない。魔法防御されたか。アンがホーリーフィールドで行く手を阻み、アレーナとアーシャ、美夕が立ちはだかる。双頭竜が戻って来た。レティシアが竜に月矢。このままでは剣が。
渡さぬ! ミュールは意を決し自らの剣を収め、魔剣の柄を握った。竜とすれ違いざまにカウンターアタック。
――パァン‥!
残った首が落ち、双頭竜が雲散する。背に乗ったヴォラックに一撃。それは消える寸前インプと化した。やはり偽者。次の瞬間、ミュールはドクリと響く鼓動を感じる。
手が融ける。顔が、足が、血と共に崩れていく。全ての音が消え失せ、死と破壊への甘美な誘いが身を包む。
(魔王に勝る恐怖。死の苦痛‥)
だからなんだというのだ。‥ミュールは思う。
魔力が消えれば自分は瀕死の身。死は目前。‥いや‥目の前にいるのは‥天使?
「ヴォラック!」
レティシアが月矢を放つ。アンがブラックホーリー。ヴォラックはぺろりと舌を出すと、これ見よがしに城から奪ったポーションを飲み干して見せた。
「剣頂戴。それとも死にたい?」
嗤うヴォラック。僅かに覗くミュールの口元が微かに歪み、束の間体が黒い霞に包まれる。
「死ぬのはお前だ。天使よ」
ヴォラックが目を見開き、至近距離でブラックフレイム。しかしミュールは倒れない。
――神カラノ防御
頭の中で声が聞こえる。ミュールは魔剣を振り下ろす。
ザグッ!
ヴォラックは悲鳴をあげ、姿を消した。同時にミュールはどう! と倒れる。
「ミュール!」
アンの声に双海がはっと顔をあげた。ミュールに慌てて駆け寄る。
「レジスト‥ゴッド‥」
ミュールは震える手で剣を双海に差し出す。
「使え‥こいつ‥はもう‥思いのたけを‥伝え‥た‥」
「喋らないで」
アンが言った。
「今、天馬にリカバーを」
双海は冷え切ったミュールの手を握った。
「聞いたのは‥おまえだ。ミュール」
彼の手もまた震えていた。
シャルロットはリオートを呼び出した。
「力の使い方を間違えるな。燃やすのは‥」
言い終わる前にリオートはデビルの群れのど真ん中にファイヤーボムを打ち込む。ひやり‥。頼むぞ、リオート。しかし、巨大なリオートの姿はデビルを撹乱させるには充分だった。うろたえる小物にオラースとレイアが次々とソードボンバーと直接攻撃を与える。
「止めは任せる!」
弓兵に叫ぶレイア。走ったかと思えば足を止め、背後にも剣を振るう。流れる光のごとく。双頭竜を見たのはその最中だった。オラースが犬血を被り雄叫びをあげる。竜と共にサブナクを向かわせる訳にはいかない。ヘキサグラム・タリスマンへの祈りも捧げた。負けぬ。獅子頭の騎士を見据えグレコで近づきインビジブル発動。目前でグレコから飛び降り一撃。サブナクはオラースの姿を見つけられない。不敵に笑みを浮かべ、再び攻撃。サブナクの姿は雲散した。そのまま周囲に斬ってかかる。
門前にいたシャルロットは血相を変えた騎士がレオンスに訴えるのを聞いた。
「ブルメル閣下の姿が見えません!」
それを耳にしてレイアも振り向く。
「閣下が地下の貯蔵庫のほうが安全だと仰り‥移動の間に‥!」
やはり我々の内の誰かがついておくべきだったのだろうか。唇を噛み締めるレイアにレオンスの呼ぶ声。顔を向けると手元に保存食が放り込まれた。
「腹が減ったという顔。何してる」
うっ、と思わず赤面するレイア。食料が足りなかったとバレた。その時シャルロットの頭にレティシアの声が届く。
『剣はミュールが。ヴォラックはたぶん重傷』
『伯爵が行方不明だ』
シャルロットは答える。刹那。
「ポーションって、まずいよね。そっちは美味しい?」
声と共に投げ出された小さな容器。全員が空を見上げ、あ、と口を開く。アクババが掴んでいるのはブルメル伯爵。その横に小さな袋を持つヴォラック。顔に妙な面を被っている。ヴォラックは持っていた袋の中身をぶちまけた。無数の宝石が光を放って落ちてくる。
「攻撃するとおやじを落とすよー。でも、おやじは命より石が大事か」
甲高い声で嗤うヴォラック。シャルロットは慌ててリオートをランプに戻す。双海達が戻って来る。
「おーい、大舞台の始まりぃ!」
デビル達が攻撃を止めた。ミュールがフライで空にあがり、アレーナとアーシャも後に続く。双海はアンに囁いた。
「アン。雨雲が出た」
彼の手の雷公鞭を見てアンは頷く。オラースもそっと鞭を取り出し、レティシアは「月矢」と小さく呟く。おそらくチャンスは一度きり。
目の前のミュールを見て、ヴォラックは面を取り下に落とす。禍々しい少年の顔。
「剣を頂戴」
手を差し出すヴォラック。今だ! アンが解呪。同時に双海とオラースがヘブンリィライトニング発動。レティシアの月矢。すさまじい光と甲高い声。アクババがブルメル伯爵を放した。アレーナとアーシャが天馬を走らせ、地上数メートルでやっと伯爵の手を掴む。ぐきり。伯爵の呻き声。脱臼したかもしれないが構っていられない。
その時、ミュールは下方から火の手が上がるのを見た。城が燃える! 一体なぜ。
「ブルメル、仕留メタ」
一同はくぐもった声を聞いた。
「奥方を!」
双海とレティシア、オラース、レイア、美夕がベルマンと共に煙の中に入る。シャルロットはファイヤーコントロールを。レオンスはウォーターボム。アンとミュール、アーシャ、アレーナは混乱する兵を誘導。火の手が速い。燃えているのは書物庫か。
『奥様、ご無事ですか!』
レティシアがテレパシーを送る。
『大丈夫。でも、煙がすごくて‥』
しばらくして一同は床を流れる大量の水に気づいた。
「双海さん!」
双海は懐に飛び込むサクを慌てて受け止める。夫人、ガブリル、ロジオン達も煙の中から現れた。
「水、作ったけど魔力がもうないの‥」
答える間もなくオラースが叫ぶ。
「こっちへ! 早く!」
夫人に手を貸すレイアと美夕。ロジオンを半ば担ぎあげるオラース。全員が脱出した。
焦げた匂い。城は爛れた傷口を残し鎮火した。
「進軍を止めに行きます」
アレーナが一礼をして天馬で飛び立つ。そう、進軍。山から奴らはやって来る。この城をそれまでに復興できるのだろうか。
「至らぬ領主で迷惑をかけました‥でも、守ります。まだ大丈夫」
伯爵夫人が涙声ながらも気丈に言った。ガブリルがミュールに近づく。
「貴殿に敬意を。冥王剣、お任せします。何卒ロシアの地の守りに力を」
そして彼は皆を見回す。
「領地に戻ります。森の住人たちに会わねば」
「私達はフョードル殿の葬儀と援軍の準備を」
アルトスが初めて口を開き、サクも頷いた。
ブルメル城、兵500、死者ゼロ、しかし城は半焼。
冥王剣はミュール・マードリックに委ねられる。
僅かに悔恨を残しつつ、任務終了。