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■ショートシナリオ


担当:西尾厚哉

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月15日〜04月20日

リプレイ公開日:2009年04月22日

●オープニング

 カン‥‥ゴン‥‥

 教会の鐘が鳴る。
 クレリック、フョードル・バシキロワの葬儀はガルシン領の教会でしめやかに執り行われた。
 フョードルが頭に置いてくれた優しい手と落ち着いた物腰を思い出し、アルトスの横でずっと泣きじゃくっていたサクを、レオニード・ガルシン伯爵は何も言わず一度だけぎゅっと抱き締めた。
 小刻みに震えるサクの細く小さな肩を抱いてやりながらアルトスは辛さを噛み締める。
 この子はまた親しい人の死を目にすることになってしまった。
 サクをこれ以上不安に陥れてはならない。
 しかし、自分はまた戦地に赴く。
 ブルメルは早急に援軍と再建を必要としている。ブラン鉱脈跡の山地にまだデビル達が居座っているからだ。奴らがいつ動き出すか分からない。
 しかし当然のごとく、サクは再び同行すると言い張った。
「連れて行きなされ」
 今のサクの魔法修行の師匠、レムはこともなげに言ってのけた。
「しかし‥」
 アルトスは躊躇する。
「勘違いをしてはいかん。サクが大人と同じほどの戦力になるとはわしも考えてはおらんよ。あの子を連れて行くのはおまえのためだ」
 私の? とアルトスは怪訝な顔になる。
「連れて行けばおまえも無茶はしない」
 はあ、と息を吐くアルトス。
「ガルシンにとって大切な人材をブルメルに送り込むのだ。そなたには命は大切にしてもらわねば。サクを自立させたいなら嫁御獲得にでも精を出すことだな」
「冗談でしょう」
 冗談めかすレムをアルトスは睨んだ。いつ死ぬやもしれぬのに、妻など。
 かくして、アルトスは兵500とサクを連れ、救援物資を伴って再びブルメルに向かうこととなる。
 あちらにはちょっと苦手なレオンス・ボウネルがいるのだな、ということもアルトスは頭の隅で考えた。


 こちらはブルメル城。
 焼け落ちた城はどこからどう手をつければよいのか分からないほどだった。それでも重い気持ちを奮い立たせて兵は黒くなった瓦礫を取り除いていく。
 教会からの神聖騎士300名は一週間後に揃うと連絡を受けた。
 それまでに城がある程度建て直せると良いのだが。レオンスは息をついて城を眺めた。
 息を吐いて俯いた目に青い石のついたペンダントと、冒険者が首にかけてくれた聖なる守りが映る。
 誰かに身を案じてもらうことなど初めてだった。サクには礼すらも言っていない。
 ふと顔をあげると、アイザック・ベルマンが同じようにぼんやりと立ち尽くしている姿が見えた。
「ベルマン?」
 声をかけると彼ははっとして手にしていたものを慌てて懐に戻し、敬礼をした。
「申し訳ありません。すぐ作業に戻ります」
「いや、いい。しばらく休もう」
 レオンスにしてはめずらしい言葉だった。2人は並んで瓦礫の隅に腰を降ろす。
「近くの村は冒険者達の力で無事避難したようです」
 ベルマンは言った。そういえば、とレオンスは思い出す。彼にはアーニャという恋人がいたはずだ。
「城の従者たちも全員避難したし、これで心置きなく戦えますね」
 嘘をつけ、とレオンスは思う。おまえはアーニャのことが心配でたまらない、という顔ではないか。
「ベルマン、数日休みをとっても構わないぞ。場合によっては数ヶ月でも」
 え? とベルマンはレオンスの顔を見る。
「間もなく教会から神聖騎士団が来る。ガルシンからも援軍が。彼らが着けば山へ行くことになるだろう。俺とおまえ、どちらが行くことになるかはブルメル閣下がお決めになるだろうが、山への指揮を担うことになれば命の保証はない」
「なんて上官だ」
 ベルマンは呆れたように言った。
「だから今のうちに逃げておけと? 見くびってもらっては困ります」
「そういう訳ではないが‥」
「そういう訳じゃないなら、何なんです」
 しかしレオンスは黙り込んでしまう。ベルマンは溜息をついた。レオンスのことを敬愛するベルマンだが、レオンスがいつも自分の気持ちの奥深くを隠してしまうことに不満を感じている。どうして正直に話をしてくれないのだろう。そんなに自分は信頼されていないのだろうか。
「レオンス殿、私も彼女も、城を放棄し上官である貴方を放っておいて自分だけが安全な場所に逃げ込むことなど望みませんよ」
 ベルマンはそう言って立ち上がると去って行った。
 レオンスはベルマンを見送り、ほうと息を吐くと後ろにもたれかかって目を閉じた。


 ブルメル伯爵夫人は、燃え落ちていない部屋の窓から兵たちの姿を眺める。
 レオンスが重苦しく立ち上がる姿を見て考え込む。
 皆の喪失感は途方もない。もとはといえば領主である夫が招いた結果。そのために兵が疲弊している。あのレオンスでさえも。
 次なる戦いが待ち受けているのに、これは良くない。体力は回復しても気力が回復しなければ勝利はない。
 その夜、伯爵夫人はたった一人で城を出た。
 外に出向くなど何ヶ月ぶりだろう。それも従者も伴わず。
 それでも彼女はキエフに馬を走らせた。
『わたくしにもこれくらいできますのよ』
 ブルメルの再建のために馬を走らせるくらいなんのその。

 依頼――半分を失った城の再建、および疲弊した兵たちを元気づけることに力を貸してください。

●今回の参加者

 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7465 シャルロット・スパイラル(34歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

フレイハルト・ウィンダム(ea4668

●リプレイ本文

 冒険者たちを出迎えたのはブルメル伯爵夫人だった。長い髪をきりりと一つにまとめ、軽装で颯爽と歩く彼女のおかげで無残に爛れたブルメル城もかろうじて威厳を保っているように思える。しかしその後ろを、よたよたしながらついてくるのはブルメル伯爵だ。
「ソフィアよ、のう、いた〜いのだが、そろそろポーションとか使わせてもらえんかの、とってもいた〜いのだが」
 腕を首から布で吊った伯爵は涙目で訴えるが、夫人はそれを無視し、冒険者達に礼をする。
「此度もお世話になります。どうぞブルメルに勇気を」
「奥方さま、このたびは大変なことに。非力な身ではありますが、尽力いたしますわ」
 セラフィマ・レオーノフ(eb2554)が礼を返す。伯爵は相変わらず「いた〜いのだが」を連発している。さすがに夫人もきっとして夫を振り返った。
「あなた、失礼ですわよ。少し静かになさいませ。ご自分で招いた結果でございましょ」
「そんなこと言わずに、頼むのだ。とってもいた〜いのだ。涙が出るほどいた〜いのだ」
 伯爵は本当に目と鼻から水を垂れ流している。はっきり言ってみっともない。
「失礼ながら‥」
 小さく咳払いをしたのちシャルロット・スパイラル(ea7465)が口を開く。
「そのご様子は‥領主として周囲にもちと影響が。良ければ私が治してさしあげよう。なぁに、コツを知っていればぁ容易い事。まあ‥多少の痛みはあるかもしれんが‥」
 最後の言葉に含みを感じ取り、夫人はシャルロットをひたと見る。
「そうですわね。お願いいたしましょうか。多少の、痛み、くらいは、堪えていただいて」
 夫に見えぬよう、ふふ、と笑みを浮かべる伯爵夫人。
「では、俺たちは作業の方に」
 双海一刃(ea3947)が心の中で伯爵に合掌しつつ言う。オリガ・アルトゥール(eb5706)がそれに続く。
「監理をしている方とお話ししたいのですが」
「レオンスとベルマンはあちらのほうに」
 夫人は崩れた瓦礫の先を指差す。
「さきほど、ガルシン様からの部隊も到着しましたの。説明をしていると思いますわ」
 その言葉に頷き、踵を返す4人。
「では」
 腕まくりをして伯爵に近づくシャルロット。しばらくして

「ぎ‥ぎいえゃあああああああ‥っ!」

 伯爵の声が城中に響き渡った。


「ひぃああ?」
 声にびっくりしたサクはまるで蝉のようにアルトスに飛びつく。しかしすぐに冒険者達の姿を見つけ、今度はそちらに突進。
「うわーい!」
 双海、セラフィマ、ミュール・マードリック(ea9285)と次々に飛び掛り、最後はオリガに飛びつく。
「サク、お久しぶり。ペンダント大切にしていますよ。そうそう、今日はヴィークとリオートもきていますよ」
「ほんと!?」
 手を伸ばしてサクの頭を撫でるオリガに、サクはさらに顔をほころばせる。
「リエスもいるぞ、サク」
 双海がアースソウルのリエスを呼び寄せる。リエスと手をとりあって喜ぶサク。双海はついてくるはずの子犬の忍犬、茜の姿がないので顔を巡らせた。
「茜!」
 声をあげるとしばらくして転がるようにして子犬が走ってきた。思わず伸ばしたサクの腕に、茜は「あん!」という声と共に勢い良く飛び込む。
「きゃー! きゃー! すごーい! 子犬だー!」
 サクは喜びの余り狂乱状態。
「こら、サク、暴れ回ったら危ない」
 アルトスがたしなめる。その傍にレオンスとベルマン。3人の前にあるのは細かく文字を書き入れた設計図だ。しかし、どうも様子がおかしい。ベルマンが冒険者達にそっと囁く。
「ボウネル隊長が‥ガルシン部隊の復旧参加を拒んでおられるのです。城外での警護を担っていただきたいと」
 それはそれで理があるのだが‥‥
「半分でも作業に入ればそれだけ早く進むのでは?」
 アルトスはもちろんそう言う。しかしレオンスはかぶりを振った。畳みかけることができずアルトスは口を噤む。どことなく気まずい空気。オリガが思い切って口を開く。
「あとで詳しく状態を見て参りますけれど、必要な材料の計算や補修設計のほかに作業の足場も設計しておきましょう。そうすれば疲労や効率も違ってきます」
 そこへ伯爵の脱臼を治したシャルロットが戻ってきた。
「なかなか興味深い経験だった。ショックが冷めたのちは、もしかしたら領主殿からの頼もしい演説が拝聴できるかもしれん」
 彼はにやりと笑みを浮かべつつそう言って図面を覗き込む。
「ふむ。あちらには、地震を起こす悪魔が居るようだ。可能な限り頑丈にしておきたいな。まあ‥私も自身の専門域を出ないのだがなぁ」
 場の空気が少し変わった。少しほっとしてセラフィマがベルマンに言う。
「非戦闘員のための避難場所を造るのはいかがでしょう。伯爵様や奥様がそちらにいらっしゃるというだけでも戦う者の安心感は違うと思いますわ」
 ベルマンは頷き、図面にセラフィマの言葉をメモする。
「書物庫は全て燃えてしまったのか? 焼け残りは?」
 双海が尋ねる。
「今、ロジオン殿があちらで焼け残りを調べていますが‥一番よく燃えた場所なのでたぶん絶望的でしょう」
 と、いうことはもしかしたら書物庫がなければブルメルの延焼は少なかったかもしれない。皮肉なことだ。
「私は図面を書くことはできない。頼めるか」
 レオンスの言葉にオリガは頷く。
「もちろんです。シャルロットも設計ができます」
 セラフィマがぽん! と手を叩く。
「さ、まずは瓦礫の撤去ですわね。セドリックは奥様のお傍についてさしあげて。悪戯をしてはだめですわよ? おやつを抜きにしますわよ」
「抜きー、いやー」
 セドリックは小さな声を出して早速飛んでいった。それを見送り、セラフィマは空に顔を向ける。
「ルゥナー! お城の片づけをしますわよー!」
 彼女の声に誘われるようにムーンドラゴンのルゥナーが姿を現し、ゆっくりと頭上で弧を描いた。アルトスとベルマンが感嘆の表情でそれを見上げる。
「サク、茜たちと遊んでいいぞ。だがはしゃぎ過ぎて迷惑をかけるなよ」
 双海はサクに声をかけた。
「うん」
 サクは顔を真っ赤に上気させて頷く。
「おまえたちは俺と一緒に作業だ」
 ミュールは火霊のホムロと水神亀甲竜の水影に声をかけ、瓦礫の山に向かっていった。シャルロットはイフリーテのリオートを呼び出す。
「今は敵はいないのだ。冷静さを保つ修行と思え」
 リオートに言い聞かせるシャルロット。オリガも風神のヴィークを呼び出す。
「リオート、暴レルト、ゴ主人様ガ、ウォーターボムヲ浴ビセルゾ」
 ヴィークはリオートを見てくくくと笑う。リオートは少しむくれてヴィークを睨んだ。
「2人とも、仲良くするのですよ」
 オリガは息を吐いた。


 ガブリル・バーリンが到着したのは、それから数時間後だった。彼は伯爵と夫人に挨拶を済ませると早速瓦礫撤去に取り掛かる。
「ガブリル殿、少しお休みになられては」
 ベルマンが声をかけたが、ガブリルは首を振った。
「じっとしていられませんから」
「気持ちは分からんでもないが‥お前も落ち着きたまえよ。聞いたぞ。戦闘中なのだから、回復道具の一つ位用意しておけ」
 シャルロットの苦言にガブリルは「あ」と口を開け、それからみるみる真っ赤になった。
「そう言えば‥今回も‥」
 シャルロットは思わず溜息をつき、ベルマンが苦笑する。
「やはり壁の外側に少し工作しておきましょうか。ミュールはどこかしら。彼は確か工作の知識を持っていたはず」
 オリガが図面を見て呟いたので、ガブリルはそちらに目を向けた。
「ミュール殿もお見えですか? では、私が探してきましょう」
「お願いします」
 オリガは頷いた。
「むぅ‥。誤魔化すことは知っているのかね?」
 ガブリルの背を見送り呟くシャルロットの声に、再びベルマンが苦笑した。


 ミュールは黙々と作業をこなしていたが、ふと気配を感じて顔をあげた。途端に茶色い小さな塊が横をすり抜け瓦礫の山に登っていく。
「茜! こらぁ!」
 続いてサクの声。ミュールが登ってはだめだと言う前にサクは山の途中で足元を崩した。慌てて腕を伸ばしサクを受け止める。
「ご‥ごめんなさい」
 サクはミュールに助けてもらいながらそろそろと瓦礫の山を降りた。茜が傍にやってくる。
「茜、めっ!」
 サクはそう言い、茜が首に結わえ付けていた小さな布包みをほどいてミュールに差し出した。ミュールが怪訝な顔をするとサクはにっこり笑った。
「奥様がね、精霊たちとお菓子を作ってるの。甘いものは元気が出るから食べてくださいって。みんなに作るから、できあがった順番に」
 みんなに? 兵は1000人いるのではないだろうか。そういえば、とミュールは顔を巡らせる。手を止めて既に配られた菓子をほおばる兵たちの中に‥ホムロがいない。
「あいつ‥」
 思わず苦笑した。菓子作りのほうに行ったらしい。火霊であるため相応の役には立っているのかもしれぬ。そう思いながら顔を戻したミュールは、下からサクが大きな目で自分をまじまじと見つめているのを知って思わずたじろいだ。
「ミュールさんは‥‥何を探しているの?」
 サクはそう尋ねたが、返事を求めていたわけではないらしい。服のポケットに手を突っ込しばらくして青い石のペンダントを取り出した。
「あのね、青い石は大好きだから、たくさん集めてたの。でも、これでもう最後。ミュールさんとセラフィマさんにはまだ渡してなかったから。お守り」
 かけてあげるからというように両手でペンダントの紐を広げるサクをミュールは困惑して見つめた。しかし零れ落ちそうな大きな目にじっと見つめられ、ぎごちなく彼はサクの目の高さに腰を落とす。
「ミュールさんが元気で無事でいられますように」
 小さく呟くサクの声。ふと、ミュールの脳裏に記憶が蘇る。
 何時だっただろう。
『半端なのが悲しいのではない‥。半端者と呼ばれるのが哀しいのだ』
 自分はそう呟いていた。誰かが答える。
『世の中は皆の勝手な都合で動いている激流だ。その中で人はいつも中途半端を強いられる。生きている限り、半端者じゃない奴なんているのかね』
 探している? そうかもしれない。俺は探している。自分の居場所、生きるべき場所。
 思いはふいに途切れた。サクがミュールの首に腕を回し、きゅっと抱きついてきたからだ。はっとした時には、サクは再び茜と共に走り去ろうとしていた。
「サク!」
 ミュールは慌てて呼ぶ。
「有難う」
 振り向いたサクはにっこり笑みを返すと駆け去った。それを見送り再び作業に戻ろうとするミュールに声をかけてきた者がいた。ガブリルだ。
「ミュール殿、こちらにおられたのですか」
 サクよりも更におぼつかない足取りで瓦礫を踏み分けながらガブリルは言った。
「またお会いできて光栄です。知恵をお借りしたいと皆さんが」
 頷いたミュールはガブリルの顔をしばらく見つめ、近くに置いていた自分の荷物に近づき剣を取り出した。そしてそれをガブリルに差し出す。
「俺が一番長く使っていた剣だ。受け取ってくれ」
 その言葉に呆然とするガブリル。
「え? でも‥こんな、立派な‥うわぁ」
 あっという間に声が嬉しさに変わる。ミュールは剣を見つめるガブリルを残し、自分を呼んでいる『仲間』の元へ向かう。
 そう、探している。俺は俺の居場所を。ハーフである俺を受け入れてくれる仲間はいた。多くの人と出会えた。その地はキエフが初めてだったかもしれない‥。それはあまりにも新鮮な想いで。
 彼がその想いを感謝の意と共に皆に伝える「ある計画」は、まだ誰も知らなかった。


 アルトスは城壁の外で夕日をぼんやりと眺めていた。ガルシンの兵たちはいくつかの焚き火を作り、交互に見張りを続けている。アルトスが小さな息をついた時、聞きなれた声を耳にしてアルトスは振り返った。双海だ。
「奥方から焼き菓子の差し入れだ」
 双海が差し出した包みをアルトスは少し驚きながら受け取る。
「奥様が?」
「サクと精霊たちも手伝っている」
 アルトスは双海の肩ごしに城の中に目を向ける。
「中は‥いかがです」
「たぶん今日中にはほとんど片付くだろう」
「そうですか‥」
 アルトスは小さく溜息をつく。双海は苦笑した。
「指揮官がそんな様子では兵の士気に関わるぞ」
「手持ち無沙汰で落ち着きません。‥双海殿、私は心が狭量なのかもしれぬ。これから同じ戦地で戦うというのに、私はレオンス殿と意思を同じくできないのではないかと‥つい考えてしまうのです」
「俺からすると、二人とも似た者同士に思えるが?」
 アルトスは思いがけない双海の言葉に目を丸くし、それから少し憤慨したような顔になった。
「双海殿も冗談がきつい」
 双海は笑みを消すとアルトスの顔を見据えた。
「アルトス、ブルメルの兵は皆疲れている。今ここで敵が襲撃すると、全力を出せるのはガルシン兵しかいない」
 アルトスは双海の厳しい言葉に目を伏せた。
「お互いに遠慮なのか言葉が足りないのか分からぬが、指揮官同士は腹を割って話をしておいたほうがいいぞ」
 そう言って双海が背を向けようとすると、オリガとセラフィマが門から顔を覗かせた。
「日も暮れかかってきましたので、そろそろ炊き出しをと」
 オリガはにっこり笑った。
「お鍋をお持ちではありませんか」
 アルトスは不思議そうに目をしばたたせる。
「ありますよ。100の兵の腹を満たす程度の量ならば。食料は着いた時に伯爵にお渡ししました。と、いうか‥皆さんが炊き出しを?」
「ジャパンの精霊から頂いた兎餅がありましてよ。たくさんございますから餅パーティを。精霊の加護をいただけるかもしれませんわ」
 セラフィマの言葉にアルトスはなおも不思議そうな顔をした。ロシア育ちの彼にとっては「餅」というものは未知なる食べ物だ。
「俺も餅を持って来ている」
 双海が言うとセラフィマは嬉しそうに頷いた。
「お願いしますわ。ミュールさんには鏡餅をいただきましたの」
 鍋を準備するよう兵に伝えに行くアルトスの後ろ姿を見ながら双海は考える。もしかしたら良い機会が得られるかもと。


「ああ、もうだめですわ‥」
 伯爵夫人は顔をしかめ、腰に手を当てて椅子に寄りかかる。ずっと焼き菓子づくりに精を出していたのだから無理もない。
「奥様、お休みになってください。あとは私たちがいたします」
 オリガが野菜を刻みながら言う。ブルメルの厨房が焼け残っていたというのは有り難かった。準備を手際よく行えるからだ。作るのはボルシチ風餅鍋。しかし1000人規模となると刻む野菜も相当だ。ガブリルとロジオンがオリガを手伝う。
「餅入りボルシチっていけるかもしれませんわね」
 セラフィマは大釜でたっぷりつくったスープをかき混ぜながら言った。そして外に向かって声を張り上げる。
「そちら、炒めあがったら言ってくださいね! スープを入れに行きますわ!」
 外で無数の鍋を順に炒めているのは双海とミュールだ。そこにベルマンに指示された手伝いの兵がスープを運ぶ。既にスープが入った鍋は精霊たちが「にょー、にょー」と言いながらかきまわしている。シャルロットはホムロと共にあちこちの焚き火の火加減を見て回った。リオートとヴィークは鍋を吹き飛ばしそうに思えたので香炉に戻された。
「セラフィマ! 野菜はこれくらいでいいのか!」
「はい! お野菜取りに来てください!」
 鍋をかき回す双海の声とオリガの声が被さる。
「双海さん、パセリの根、入れました?」
 鍋を覗き込んだセラフィマが言う。
「え? あれ、入れるのか?」
 慌てる双海。
「ハーブを使ってくださいませねー! 奥にございますからー!」
 奥方の声。
「餅は小さく切ったほうがいいのではないか? 皆に回らんぞ」
 これはシャルロット。
「ナイフは今使っていますー! あいてませんー!」
 オリガ。
「冥王剣で餅を切ってしまえ」
 かかか、と笑うシャルロット。
「本当に切るぞ」
 ミュールが剣を抜きかける。
「火加減見てくださいませ! 煮込み過ぎると味が落ちますわ!」
 セラフィマ。
「ピロシキ作りましょうか」
 奥方。
「奥様はお休みになってください!」
 オリガ。
「茜が鍋こぼしたー!」
 サク。
 大騒ぎだ。
 やがて空には大きな月が昇り、城中に旨そうな匂いがたちこめる。ロシア餅鍋第一弾完成。
「うん、良い味。皆さま、召し上がれー!」
 味身をしたセラフィマが叫ぶ。双海は外に出ているアルトス達にも声をかけた。温かい食べ物を口に運び、兵たちの顔に幸せそうな笑みが浮かぶ。その顔を見ながらミュールがそっと離れて行ったことに誰も気づかなかった。城の片隅で荷物を解いたミュールはふと人の気配に気づいて顔をあげた。
「お手伝いしましょうか?」
 伯爵夫人が笑みを浮かべて立っていた。ミュールはしばらくためらったのち、頷いたのだった。


「餅って伸びるぅーおいしいー」
 口とフォークで餅をびよんと伸ばしながらサクが嬉しそうに言った。皆が円座になり舌鼓を打つ。レオンスはまだ図面を手にして考え込んでいる。
「サク」
 双海がサクに小さな包みを渡してやった。包みを開けたサクは目を丸くする。
「これ、なあに?」
「雛あられだ。たくさん食べ過ぎると夕食が入らなくなるぞ。少しずつ食べろ」
「ヒナアラレ?」
 サクは一粒とってコリリと噛み砕く。途端に幸せそうな表情になった。
「うわー、うまーい、おいしーい! ね、ね、アルトスさんも」
 つまんでアルトスの口元に持っていく。
「ほんとの親子みたいですわね」
 スープを足しに来たセラフィマが微笑み、アルトスは少し顔を赤くした。
「あ、そうだ、セラフィマさんにもこれ」
 サクはペンダントを取り出した。
「セラフィマさんに早く渡したかったよ。お守り」
「有難う、サク」
 腕を伸ばし、きゅっと抱きつくサクを抱き締め返すセラフィマ。それを眺めていたガブリルがふいに表情を変えた。
「あっ‥あーっ!」
 大声を上げる彼の顔を全員が見る。
「やっと思い出した! この子にそっくりなんだ! どこかで見た気がすると思った!」
「何を言っている? 落ち着いて話せ」
 鍋の火加減を見ながらシャルロットが言った。立ち上がっていたガブリルは慌てて腰を降ろす。
「す、すみません。ワーウルフの集落の傍に、エルフの村があるんです」
 彼は山からのデビルの進軍を止めるべく、シャドウドラゴンの力を借りようとワーウルフに会って来たのだという。その時シャドウドラゴンは卵を産んでいる最中で、傍にひとりのエルフの老婆がいた。ガブリルは彼女からエルフの村の者も共に協力するつもりであると聞いたという。
「ヴァルキューレやアナイン・シーといった精霊たちとも話ができるから、と。以前、ジニールとイフリーテを寄越したこともあるそうです」
「え?」
 サクがはっとして、アルトスの顔を見た。アルトスはガブリルに尋ねる。
「もしかして‥そのエルフの村の名は『ストウ』ですか?」
「ええ、そうです。そういう名でした」
「おばあちゃん!」
 サクが立ち上がり、ガブリルに駆け寄る。
「おばあちゃんがいるの? ここに?」
 ガブリルは首を振った。
「村はずっと南のほうだよ。きみはやっぱりあのお婆さんの所縁の子だったんだね」
 サクはアルトスを振り返る。懇願するようなサクの目に、アルトスは苦しそうに首を振った。
「‥そうだよね。ここ、守らなきゃ」
 うな垂れて再び自分の横に座るサクの肩をアルトスは抱いてやった。レオンスがちらりとサクに目を向けたが何も言わない。ガブリルは話を続けた。
「シャドウドラゴンの卵はあと数週間すれば孵化します。戦力になるかどうかは分からないけれど、何とか躾をしてみるとワーウルフ達が。それと、雪が融けるとデビル達がドニエプル河沿いの進軍を開始するかもしれないから気をつけたほうがいいと」
「ドニエプルを北上など‥。そちらの防衛に回るべきかしら」
 伯爵夫人が不安そうに呟く。
「全軍を迂回させるとは思えませんな。こちらが手薄になると一気に突破にかかりますぞ」
 ロジオンが言った。
「何より城の復旧が先です。多方向の防衛はガルシン兵と精霊たちの援護、教会の援軍を待つしかないでしょう」
「教会といえば、こちらの教会はかなり大きな力をお持ちなのですか」
 ガブリルが尋ねると伯爵夫人は頷いた。
「ええ。神聖騎士たちの数も多いですわ。でも、なぜ?」
「この間は城の東側はデビル達が若干手薄でした。東方には教会が。バーリン領は兵が少なく援軍の兵は出せませんが、祈りの力が有効なればギルドに願いいつでも加勢をと父が」
「それは有難いこと。しかし、バーリン様のご子息は何と立派になられたこと。お父様もお喜びでしょう」
 夫人の言葉にガブリルは顔を真っ赤にした。
「そうだな。あとは回復道具に気をつければ良い。手ぶらは危ないぞ」
 すかさずシャルロットが突っ込み、どっと笑いが起こる。夫人が立ち上がって手を叩いた。
「さあ、とにかくたくさん食べて皆で元気になりましょう! せっかく作っていただいたのですから。貯蔵庫の酒も今日は自由に飲んで構いませんわよ」
「え? 酒、出すのか?」
 伯爵が思わず妻を見上げる。もちろん夫人は無視。オリガはヌミトレムに合図した。ヌミトレムはライトで光の球を作ると空に飛び上がる。そこへルゥナーがやってくる。セドリックはヌミトレムの後に続き、リエスも宙を舞う。精霊と竜の美しい輪舞。空高く浮かぶ月をうっとりと眺めている兵は、もしかしたら鍋の中の兎餅を食べたせいかもしれない。
「おや? ミュールはどうした?」
 シャルロットが顔を巡らせた。そういえば、と全員が周囲を見回す。その時。
 澄んだ弦の音が響き渡った。続いて月夜に響き渡る美しい歌声。
「あ、あそこ!」
 サクが城壁の上を指差す。月灯りの下に竪琴を抱えた美しい女性が座っている。
「ミュール殿‥?」
 狩りで鍛えた視力を持つガブリルがびっくりしたように言った。セラフィマがスープを入れるための杓子を思わず取り落とす。
「きれい‥」
 流れる金髪、月の光の下の整った横顔。彼の姿は本当に美しかった。姿を変えたのは禁断の指輪、化粧の手ほどきは伯爵夫人である。彼に竪琴と歌のレッスンをしたのはフレイハルト・ウィンダム(ea4668)だ。その旋律には感動のあまり泣き出す兵もいた。
 小一時間ほどたった頃、双海は小さく自分を呼ぶ声に気づいた。アルトスだ。
「双海殿、これはどうしたら‥」
 顔を向けた双海は、思わずうっと呻く。アルトスの頭の上で茜がくったりと眠っている。なんで頭の上で。
「降ろしたら暴れはしないか? サクが面白がって頭の上に乗せたもので‥」
 そのサクを見て双海は更に呻く。サクはレオンスの膝の上でぐっすり寝入っていた。レオンスは無表情に黙々と食べている。
「おっ‥こ、これは失礼」
 茜を降ろしてもらったアルトスが慌ててサクを抱き上げようとしたが、レオンスがそれを手で制す。
「私のテントが近い。寝かせてくる」
「え、でも」
 アルトスは仰天したが、レオンスは皿を横に置くとひょいとサクを抱き上げ立ち上がった。サクは全く起きる気配がない。茜と走り回って疲れたのだろう。しばらくしてアルトスはそわそわとし始める。サクのことが気になるのだ。
「様子を‥見て来ます」
 立ち上がるアルトス。
「そうか? では俺も一緒に行こう」
 しれっと言う双海。2人が立ち上がるのを見てロジオンがぴんと来たが何も言わず見送った。


 レオンスは寝袋の中にサクを寝かせ、更に毛布をかけた。テント外からは声をかけようかどうしようかとうろうろしていたアルトスがそっと覗き込んでいる。レオンスはサクの寝顔をしばらく見つめたあと、そっとその頭を撫でた。
「ペンダントをもらったまま‥礼を言わずに申し訳なかったな‥」
 初めて見るレオンスの姿にアルトスは目を丸くする。その途端、背後から声をかけられて「わ!」と声をあげた。
「レオンス、サクが寝たのならアルトスと今後の作戦について話してはどうか。俺も同席しよう」
「双海殿」
 アルトスがしぃっというように指をたてるがもう遅い。レオンスはテントから出てくると、じろりとアルトスを見てから、双海に目を移す。
「良かろう」
 そして先に歩き出した。アルトスは恨めしそうに双海を見た。

 皆から離れ、城内の片隅に座った3人。アルトスが重い口を開く。
「サクを申し訳ない」
 レオンスはそれには答えず仏頂面で言う。
「城の復旧は短く見積もっても二週間。教会からの騎士団はあと数日で来る。私はベルマンを城に残し、ガルシンにもそのまま城を守っていただきたいと思っている」
「ご自身と神聖騎士団で? ガルシンはブルメルの有能な指揮官を守る意思も持っているぞ?」
 アルトスは眉を潜めて言う。
「おまえに厳しい戦地は合わぬ」
 こちらに目を向けず言い放つレオンス。アルトスはむっとした。
「私はあの長き戦いを生き延びた。見くびっていただいては困る」
「前線に赴くだけが最善とは限らん」
「それは貴方のことだ」
「まあ、落ち着け」
 双海が割って入る。
「レオンス、少し肩の力を抜いたほうがいいぞ。アルトスもだ。戦いは皆で乗り越えねば。必要なら俺も他の冒険者もいつでも戦友のために働く」
 黙り込む2人。双海はとうとう隠し持っていたものを取り出した。それをどん! と置く。ワインのボトルだ。
「腹を割って話をしよう」
「双海」
 レオンスが険しい目を向ける。
「喧嘩を売ってるのか」
「ほう? 何の喧嘩を?」
 笑みを浮かべる双海。この野郎というように睨むレオンスの前をアルトスの腕が伸びる。
「いいでしょう。酒でも飲まなければ私もレオンス殿と冷静に話せそうにない」
 アルトスは近くにあった木のカップをとりあげると、ワインを勢い良くついでそのままぐいと飲み干した。ふうと息をつき、そしてそのカップをレオンスに突き出す。
「いらぬ」
 レオンスは突っぱねる。
「勇猛な戦士殿がワインの一杯も飲めぬと? これは笑止」
 アルトスの言葉にむっときたのかレオンスはカップをひったくった。
「アルトス、覚悟を決めろ。酒を飲んだらレオンスは変わるぞ」
 双海は囁いたが、アルトスはにやりと笑う。
「面白い」
 うっ? こいつも変わっている? 双海はたじろぐ。これはちょっと予想外。豹変するのはてっきりレオンスだけかと。しかしもう手遅れだ。15分後、双海は2人を前に考え込む。
「だからだなあー、おまえが死ぬとぅー、サクが泣くだろ?」
「うっ‥サク‥」
「‥俺はねえ、もう誰も死んで欲しくないのだ」
「私もですぅ‥レオンス殿ぅ‥貴方にだって生きてて欲しい‥」
「そういうおまえの優しいところが‥うっ‥ひくっ‥」
 ‥‥放っておけばいいか? 双海はひしと抱き会う2人を見て思う。
「あ、双海が飲んでない」
「あ、本当だ。いけない奴だ」
 矛先がこちらに向いた。
「あ、いや、俺は‥」
「アルトス! 行くぞ!」
「いいぞ、レオンス!」
「あっ‥! あぎゃっ‥ごぼっ‥」
 抗う暇もなく、双海はアルトスにはがいじめにされ、ぐびりと瓶ごとワインを含んだレオンスの口から何とそのままワインを流し込まれていた。
「うっ‥うっわあああっ!」

 ロジオンがのっそりと立ち上がり、横のベルマンに手を振る。
「おまえも来い」
 不思議そうな顔のベルマン。
「そろそろ助けに行ったほうが良さそうね‥」
 ほほほ、と伯爵夫人が笑った。


 翌朝、目を覚ましたサクはテントの外にたくさんの毛布の塊があるのを見て目を丸くした。戦士たちの賑やかな宴があったことなどもちろん知る由もない。皆に毛布をかけたのはセラフィマとオリガ、ミュール。シャルロットとホムロは夜通し近くで火を焚き、皆を凍死から守ったのだった。
 あの後、助けに入ったロジオンはあっという間にアルトスとレオンスの餌食となり、人並みに酔っ払った(酔わされた)双海が何とか保護しようとしたが無駄だった。意外と酒に強かったのがベルマンで、加勢に入ろうとしたオリガとセラフィマに抱きつこうとするレオンスを一発殴り、ノックアウトした。
「酔いが覚めたら忘れていてくれることを願うばかりです‥」
 しょげるベルマンの頭を精霊たちがよしよしと撫でる。シャルロットが大の字になったレオンスに毛布をかけてやっていると、ブルメル伯爵の声が聞こえてきた。
「み‥皆の者‥! 今日はご苦労であった! ブル‥ブルメルはこの有様だが、皆がいたから‥」
 ブルメル伯爵は泣いていた。
「わしは戦は得意ではない。しかし、城におる者は皆家族と思うておる。レオンス、ベルマン、ロジオン、アーノルド、ボリス、キルサン‥」
 もしかして伯爵は全部の兵の名を? シャルロットの危惧通り伯爵は20分かかって500名全員の兵の名を連ね、
「ガ、ガルシン殿の兵はこれから覚えるでの。皆が家族だ‥。覚えた兵は一人たりとも失いとうない。‥すまんの、皆の者‥」
 と、締めくくった。オリガが笑みを浮かべてシャルロットを見る。そうだな、とシャルロットは思う。名を覚えていてくれる主なれば、この領主のために戦おうと思うだろう。双海も壁に寄りかかり笑みを浮かべる。結局はレオンスもアルトスもブルメル伯爵も思いは同じ。彼らはきっとお互いに分かっていたのかも。そう考えながら意識が遠退いた。


「皆さま、大変お世話になりました。お分かりになります? 兵たちのあの顔。昨日とはうってかわって」
 朝日の中で作業は既に始まっていた。どことなく二日酔いっぽい顔をしているのはレオンスとアルトス、ロジオンと双海だ。
「山はまだ落ち着いてはおりませぬ。また皆さまのお力を借りることになるでしょう。その時再びお会いできますことを願っております」
 冒険者たちは夫人の深い感謝を受け、報奨金のほかにそれぞれの今後の活動に役立てるよう僅かながらの宝石や保存食の類等を手渡され帰途についた。
『明日』が来るための大切な事も噛み締めながら。