シャドウドラゴン育成合宿

■ショートシナリオ


担当:西尾厚哉

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月07日〜07月13日

リプレイ公開日:2009年07月16日

●オープニング

 リーナ・バーリンは屋敷の外にある石塔の中を覗いた。兄が留守の間、灯りを絶やさぬよう油を足していくのが日課になっていた。だから兄が戻って来た今も、つい習慣で森の小鳥達が寝倉に戻ろうとする声を聞いて外に出たのだ。
 そんな彼女に兄のガブリルが声をかける。
「リーナ、いいよ。私がやる」
 ガブリルは彼女の持っていた油壺を受け取った。注意深く油を注ぎ足す兄の横顔をリーナはじっと見つめる。
「なに?」
 ガブリルの問いにリーナはくすりと笑った。
「お兄様、何だかとてもお顔が凛々しくなられたわ」
 ガブリルはそれを聞いて顔を赤らめる。手放しで喜べない情けない記憶が数多くある。妹の前で暴露するのはさすがにプライドが許さなかったが。
「それより、リーナ」
 彼は今朝方シフール便で届いた手紙を胸のポケットから出す。
「なあに?」
 リーナが覗き込む。
「ブルメル伯爵夫人からだ。あちらの部隊にアイザック・ベルマンという人がいる。束の間の平和かもしれないけれど、戦闘に一段落ついたので彼の結婚式を城であげてやりたいそうだ。新婦は夫人の一番可愛がっていた侍女だそうだよ。骨休みも兼ねて出席して欲しいと書いてある。リーナ、お前も一緒にどう?」
「いいのかしら。いつ?」
「半月後だな‥」
 リーナは目を森のほうにやって考え込むようなしぐさをした。結婚式に出席できるようなドレスがあったかしら。お祝いには何をお持ちすればいいのかしら。そんなことが早速頭の中を駆け巡る。ちょっとうきうきする。パーティなど、何年ぶりかしら。
 その目に映ったものに、はっとして現実に戻った。
「お兄様! あれ‥」
 妹の声に、ガブリルは彼女の指差す方向に目を向けた。
「あ‥」
 思わず声が出る。森を背にこちらに向かって来るのはワーウルフの村のドウムという男だ。珍しい。まだ明るいうちに彼がわざわざここに姿を見せるなど。
 まさかまた何か起こったのか。不安が過ぎる。
 彼が近づくにつれさらに不安が加速する。ドウムは体中傷だらけだった。
「どうしたんです!」
 思わずガブリルとリーナは駆け寄った。
「ああ、いや、たいした傷ではないのだ」
 ガブリルとリーナの強張った表情とは裏腹にドウムは笑みを浮かべて手を振った。
「一度薬で治ったのだが、森を出てくる前にまたやられた」
「いったい何に?」
「シャドウドラゴンの子供たちに。一応じゃれているつもりなんだよ、あちらは」
 ガブリルとリーナはそれを聞いて思わず顔を見合わせた。
「3体ほど育っているのだがね、これが元気が良すぎて手を焼いているのだ。森は岩場とは違う。少し躾をしようとエルフの村にいる精霊達も手伝ってくれてはいるのだが、これがまた‥」
「親はどうしているんです?」
 つがいのシャドウドラゴンは戦地からひとまず森に戻ったはずだ。
「彼らは知性ある竜だが、森で暴れ回る子供たちをむしろほほえましく思うようで」
 そこでドウムは「いてて」というように腰を押さえて顔をしかめた。
「大変申し訳ないのだが、そちらからギルドに助太刀を頼んでもらえないだろうか。このまま暴れるに任せると我等の畑や森の木も無残に成り果てる。我らが報酬として出せるのは薬や木の実の類しかないのだが」
「ああ、それなら私が‥。前に入手したレミエラもまだ残っています」
 ガブリルは即座に頷いた。そんな彼の腕をリーナが突いて、手元の手紙を指差す。間に合うのか、大丈夫かと言いたげだ。
「大丈夫だよ。とりあえず彼らの生活をお守りしなくては」
「分かったわ。じゃあ、出発の準備は私がしておきますわね」
 リーナは息を吐いて頷いた。

 ブルメル城に逗留中のエルフの少年サクが助っ人に出発したとガブリルが知ったのは、ギルドから帰る途中である。
 どうやらワーウルフ達と同じ森に住むサクの村、ストウからサク宛に手紙が届いたらしい。
『サクに里心がついて、そのままストウに残ってしまうようなことにならなければいいけれど』
 そんなことになったら、サクの面倒を見てきたアルトス・フォミンは寂しくて泣き出してしまうんじゃないだろうか。
 アルトスのサクの可愛がりようを見てきたガブリルはふと、そんなことを考えたのだった。

●今回の参加者

 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7465 シャルロット・スパイラル(34歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)
 eb3988 ジル・アイトソープ(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8588 ヴィクトリア・トルスタヤ(25歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320

●リプレイ本文

 避けるか否か。一瞬躊躇したものの、体は避けるほうを選択していた。
 双海一刃(ea3947)が身を伏せたあと、後方にいた西中島導仁(ea2741)の顔面にサクの頭がジャストミートする。
「ごぁっ!」
 エルフの少年が飛んで来たと知って導仁も一瞬迷った。が、結局揃って地面に倒れこむ。
「は、鼻血にゃ〜!」
 駆け寄ったカルル・ゲラー(eb3530)が身を起こした導仁の顔を見て青ざめた。
「ごめんなさい!」
 サクが叫ぶ。
「や、いいから。それより怪我はないか?」
 微かに涙目で鼻を拭いながら導仁は笑った。
 しかしどうしてサクが飛んできた? 皆がそう考えた矢先、

「ウキャァアオゥ!」

 甲高い声。
 セラフィマ・レオーノフ(eb2554)の連れた月竜のルゥナが立ちはだかる。一気にじゃれつくつもりで現れた子影竜たちは金の姿にたじろいだ。さらに冒険者が連れたドラゴン属達に興味深げにぐるりと取り巻かれ、『なんだよぅ、見るんじゃねーよ』というようにぎゃあぎゃあと声をあげた。
 森の中から息を弾ませ、ガブリル・バーリンとワーウルフのドウムが走って来る。
「す、すみません、お迎えに出るつもりでしたが‥わああっ!」
 ガブリルは言葉の途中で子影竜に飛びつかれる。サクが慌てて引き離そうとし、力が足りないのを見て双海と導仁が手伝う。その間にもエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が尻尾ビンタを受けそうになり、シャルロット・スパイラル(ea7465)は地面に伏せる。
「にゃっす! ぼくはカルルだよ〜ぉ‥うぉぉぉぉぉ…でっ!」
 子らを落ち着かせようと天使の笑みで声をかけたカルルはひょいと尻尾であしらわれ吹き飛んだ。ふにゃちゃんとたまちゃんが急いでカルルの傍に走る。竜属ペット達はいきり立って騒ぎ出し、茜が吼え、精霊たちが怯えて主の顔にへばりつき、エルンストの連れたフロストベアのアジーンがこともあろうにシャルロットのライオンに挑みかける。

「やめんかっ!」
「静かになさい!」

 同時に一喝したのはエルンストとヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)。いつも冷静なエルンストの額にめずらしく青筋が立ち、ヴィクトリアは口を引き結んで仁王立ち状態だ。
 しかしそれでやっと静かになった。


 雄のトヴィとスード、雌のヴァス。これが子影竜の名前だと説明された。
 真っ先に行動を起こすのがトヴィで、スードはその真似をする。ヴァスはぎゃあぎゃあと喚く。
 影竜は夜行性だが、元気が有り余っている子供たちは昼間も暴れる。しかし、ひととおり遊ぶと夜まで眠ってしまう。その言葉通り、子竜は欠伸をし始めたと思ったらあっという間に眠ってしまった。3体とも体長は1.5〜2mといったところか。ヴォルケイドドラゴンパピーである導仁の黒竜皇やエルンストの連れたイーグルドラゴンパピーのフレイヤに比べて小さいが、影竜は月竜と違って気性が荒い。親が何とかテレパシーだけは覚え込ませたようだが、厄介なのはトヴィが怒られそうになると狡賢くチャームを使うことだ。滅多にないが、ヴァスが月矢を放つこともあるらしい。
「親たちは? ご挨拶を」
 セラフィマが周囲を見回し尋ねる。ドウムが森の奥を指差した。
「あちらも現在睡眠中。暗くなると狩りに出る」
 狩り。カルルが顔を輝かせた。
「子供たちはど〜ゆ〜お食事してるの? ぼく、作ってみるよ」
 それを聞いてドウムは肩をすくめた。
「彼らにとっては我らが獲物となり得る。もちろん、親たちはそんなことはしないよう、夜になってから遠くに狩りに出て子供たちに食べさせているようだが」
 熱心にメモをとっていたヴィクトリアが顔をあげた。
「でも、基本はしっかり運動させてちゃんとした食事をとらせることです。餌を与える立場と認識させることも必要でしょう。作っていただけると有り難いですね」
 カルルもこくこくと頷く。
「では、適当な材料をお渡ししよう。小動物の肉や野菜ならある」
 ドウムがカルルを村のほうに招いた。
「ん? サクは?」
 双海が顔を巡らせ、その腕をセラフィマが突ついた。彼女が指差した方向に目を向けると、茜に話しかけるサクがいた。
「おっきくなったねえ、茜ぇ。‥お手。こっちも、お手。‥うぅ、賢いねえ」
 ぱしん、ぱしん、と手にタッチする茜にサクはうっとりしていた。言うことを聞かない子影竜を相手にしていて、茜が天才に思えたのかもしれない。


 シャルロットが子竜らの遊び場所を提案すると、ガブリルは森の東を抜けたところにひらけた丘陵地がある、と答えた。本来はそこで遊ばせたかったようだが、子竜はすぐに村へ戻って来てしまう。村で卵を孵化させ育てていたから癖がついてしまったのだろう。今後のことを考え、その丘陵地を使ってもらえると有難い、ということだった。
 子竜が眠っている間にどうぞ、とサクの村、ストウの村人がスープ煮と焼き菓子を作って持ってきてくれた。傷によく効くという塗り薬もどっさり。これを全部消費することを考えるとちょっと恐ろしいが、到着するなりこしらえた擦り傷に早速塗りこむ。
 双海は焼き菓子を少しつまんで村の畑の柵を修復に向かったガブリルを手伝うためにリエスと村に向かった。竜語学者のジル・アイトソープ(eb3988)は几帳面な字でびっしりと躾計画を書き記した羊皮紙を皆に差し出す。研究熱心なヴィクトリアはそれを興味深げに読んだ。
『喋るのメンドウだから‥テレパシーにするけど‥他‥竜について‥質問あれば‥どぞ‥』
 ジルはテレパシーででも億劫そうにそう伝えてふぅと息を吐いた。ヴィクトリアは腕を組む。
「まさに飴と鞭でしょうね。シャルロットのアッシュエージェンシーも試して良いかと。私の竜達はお仕置きにアイスコフィンを使いましたけれど、彼らはどうでしょう」
「凍らせちゃうのは可哀想だよ‥」
 と、サク。
「ヴォルケイドパピーの躾は大変だった。気性の荒い種は中途半端な躾では効くまい」
 エルンストの言葉に導仁が黒竜皇に目を向け、シャルロットがライオンに目を向けて「うーむ」と唸る。ヴィクトリアはВетерをちらりと見て「確かにね」と頷いた。
「お前はぁ、他に飛び掛ってはならんぞ。でないとたてがみを燃やしてしまうからな」
 シャルロットはライオンに言い聞かせる。
「おっきな猫みたい」
 サクはライオンの鼻面を撫でた。それを見たシャルロットは呆れる。
「怖くないのか? 猛獣だぞ?」
「全然」
 戦地で多くの血を見てきたサクにとって、ライオンは怖い部類には入らないのだろう。
「ではこいつに名前をつけてやってくれ」
 シャルロットの言葉にサクは目を丸くした。
「ぼくがつけていいの?」
 嬉しそうに暗くなり始めた空を仰ぎ、しばらくしてライオンの鼻面を再び撫でる。
「マルス。赤い星、マルス。どう?」
 シャルロットはにやりと笑い、ライオンを見る。
「言いつけを守れよ、マルス」
 マルスは小さく唸り声をあげた。


 寝起きの子らはおとなしかった。ルゥナとリオート、ウェイブ、Орлы、Ветe、精霊達が注意深く皆を丘陵地に促す。ひらけた場所で月の光を受け、徐々に目が醒めてきた子竜らは本領を発揮し始めた。
 まずだっと駆け出したのはトヴィ。それを見てスードがエルンストの背に尾を掠めて追いかける。掠めただけでもびしり! と音が響き、エルンストは勢いで「うぐ‥っ」と前のめりに地面に手をついた。構わず嬉しそうに飛んでいくフレイヤと、どしどしと後を追うアジーン、対抗意識を燃やして駆け出す黒竜皇。ヴァスは駆け出すことはなかったが、ぎゃあぎゃあ声をあげている。その声に驚いて精霊達がそれぞれの主の頭にへばりついた。ヴィクトリアがОрлы、Ветерに連れ戻すよう指示を出す。立ち上がろうとしたエルンストをジルが地面に押し付けた。
「ぁ?」
「ごめん‥しばらく‥そのまま‥」
 エルンストは少し顔をしかめたが、くったりと地面に伏せた。確かに彼らには不注意で人を傷つけることもあると教えたほうがいい。
 不満そうな顔をして子影竜たちが戻ってくる。そして倒れているエルンストに気づいて騒ぎ出す。いたわるどころか鼻を近づけ匂いを嗅ぎ、つんつんと突き、そのうち噛んでみようとあーんと口を開く。
「こらっ!」
 導仁が黒竜皇に拳固をくらわせた。
『スード、テレパシーが使えるでしょう。エルンストさんにちゃんと謝りなさい』
 セラフィマが少し怒った表情で漆黒の欠片で子竜に伝える。
「お前たちは自分の主でしょう。なぜ放って行くのです」
 ヴィクトリアがフレイヤとアジーンを叱責する。
『謝ルゥ? 何ソレェ?』
 子竜はぎゃいぎゃいと騒ぎ、アジーンはうろうろと歩き回り、フレイヤは他人事のように首をかしげている。トヴィが口を開いてエルンストに噛み付いたのはあっという間だった。
「ふぬっ!」
 素早く身を起こし、エルンストはフォースシールドをつけた左腕ではっしと受ける。甘噛みではあったがシールド越しでもやはり少し痛い。
「‥おのれ」
 エルンストの額にまたもや青筋が立つ。
「噛んだら痛い! 覚えろ!」
 その剣幕にヴィクトリアにあーんと口を開きかけていたスードは口を開けたまま硬直する。
「スード。私に噛み付いたら大変なことになりますよ」
 キランと光る彼女の厳しい目を見てスードは口を開いたまま後ずさりした。
「お前は拳固だけでは済まないと思え」
 導仁の声に黒竜皇は鼻息を噴出した。


 補修を終えた双海とガブリルは、ペット達の食事を作り終えたカルルと合流して一緒に丘陵地にやってきた。その目に映ったのはシャルロットの作った灰分身を喜んで粉砕しまくっている子竜の姿だ。
「待て、こっちは本体だ! ぶるぅぁぁああ‥!」
 シャルロットに飛び掛かろうとするトヴィの前に慌てて双海が立ちはだかる。トヴィが来たということはスードも来る。黒竜皇も突進する。やばい‥! と双海は焦る。

――どがっ‥‥!

 更に前に身を踊りだした導仁にトヴィが体当たりする。オーラ魔法で防御していた導仁もさすがに勢いで吹き飛んだ。その後ろにいた双海とシャルロットも後方に跳ね飛び、残りの子竜が顔の上をぴょんと飛び越え、そのうちのひとつの尻尾がジルを掠める。ジルはどちらかといえば風圧でよろめき、「かはっ」と血を吐いて崩れ折れた。
「わ、わぁぁっ、ジルさんっ!」
 サクが泣き出す。彼女が稀に血を吐く奇病を持っていることをサクは知らない。
「シャルロット、大丈夫か!」
 双海が倒れたシャルロットに駆け寄る。
「お、俺ぁ‥明日になったら死んでるかもしれん‥」
 シャルロットは大の字になって呟いた。
「アユギが必要ですか?」
 ヴィクトリアが尋ね、シャルロットはむっつりとして「いや、大丈夫」と起き上がった。
「お前たち‥」
 導仁の背後にめらりと怒りのオーラが立つ。
「にゃぁ?」
 トヴィが可愛らしく首をかしげて彼を見上げる。
「チャームが‥‥‥効くかーっ!」
 導仁の鉄拳が飛んだ。


「と、とりあえず、ごはんだよー。みんなちゃんと並ぶのー!」
 カルルが声を張り上げる。ふにゃちゃんとたまちゃんも頭の上に皿。しかし食べ物の匂いを嗅ぎつけてどどど‥と群れをなし駆け寄ってくるペット達にカルルは思わず回れ右。
「ひぃぃぃ〜〜! 待って〜! お預けなの〜!」
 逃げ出すカルル、慌てて止めに走る双海と導仁、殺気立った彼らを見て精霊達は恐ろしくて近づけない。その時、一本の槍が空を走る。
「行儀ようせんかい、コルァ!!」
 戦姫のヴィーザだ。
「言うこと聞かんとケツの‥」
「コホン」
 空から降り立った仙女のルゥダがヴィーザを止める。
「ヴィーザ、それ以上は」
「あら、つい」
 ヴィーザは笑い、リオートに目を向ける。
「あ、それは?」
 ヴィーザが指差したのはリオートが首に巻きつけている桃のラリエットだ。リオートは身をよじる。
「シャル、ニ、モラッタ」
「ほんまぁ? 良かったやんか!」
「ウフン‥‥ウガッ?」
 顔を赤らめるリオートを、待ちきれなくなったトヴィが、どがっ! と押しのけて前に出る。皿に飛び掛ろうとするトヴィにカルルは必死になって叫んだ。

「だめーっ! お預けなのーっ!」

 不思議なことである。トヴィがぴたりと止まった。皿を頭上に掲げたままカルルも硬直する。
「い、いい子だね〜。ちゃんとお座りしてね〜」
 カルルの声にトヴィはぺたんと地面に腹をつけた。真似をしたがるスードもそれに習う。ヴァスもしかたなく同じポーズになる。導仁が黒竜皇を促し、エルンストもフレイヤとアジーンを横に並ぶよう指示する。カルルはこぶし大の大きな肉団子のようなものをひとつずつ皆の前に並べた。
「よしというまで食べてはだめです!」
 ヴィクトリアの一喝。よだれを垂らしていたトヴィが悲しそうな顔をした。
 全員に行き渡ったのを見届け、ヴィクトリアは一呼吸整えてから「よし」と言った。
 ペット達の表情が幸福に満ちた。

「お肉刻んで卵を繋ぎにしてお団子にしたんだ〜。ウェイブちゃんはお魚の身にしてみたよ」
 カルルは言った。「ども」というように、ジルがこくんと頭を下げた。
 セラフィマはにっこり笑ってオーディンとシェリーキャンリーの栓を抜く。
「精霊の皆様、お疲れ様です。皆様もどうぞ。まだまだ酔っ払うわけにはいきませんから一口ずつですけれど」
 夜も更けてきた。お腹を満たしたら、みんなまた走り出すだろう。



 空がうっすらと白みかけた頃、双海は小さく歌を口ずさみながらゆっくりと歩いていた。
 皆、ぐったりと眠っていた。ストウの村人が冷えないようにと焚き火を作り、古びた毛布をたくさん置いていった。双海は茜を抱きしめるサクをしっかりと毛布でくるんでやった。
 茜を連れて行くか? と尋ねると、サクは「ベルマンさんの結婚式に出ないといけないから」と言った。じゃあ、茜を忍犬に育ててあげようというと彼はこくんと頷いた。
「子守唄を歌う忍者は初めてです」
 小さな声に振り向くと、ヴィクトリアが導仁に毛布をかけてやっていた。双海は小さく笑う。歌は友人のリュシエンヌ・アルビレオに教わった。
「あら」
 ヴィクトリアは身を屈める。カルルは日記を書こうとして途中で眠ってしまったらしい。悪いかなと思いつつふたりは開いたままのページを覗き込む。

 ありがと。遊んでくれて。
 怪我させてごめんね。
 みんなが大好き。
 大きくなってもみんなのことを忘れないよ。
 子供たちはそう言っていたよ‥

 低い風の唸りを感じてふたりは顔をあげた。親の影竜がゆっくりと空から降りてきた。その唸り声はさっきまで双海が口ずさんでいた旋律だ。彼らなりの感謝の意。眠りを誘う夢の旋律。ルゥダが遠くで静かに伴奏を演奏し始めた。
「私たちも‥少しだけ眠りましょうか」
 ヴィクトリアが言い、双海は頷いた。


 陽が昇り、陽が沈む。
 時間が続く限り、絆は少しずつ形を成していくだろう。