天の青(ブルメル城結婚式)

■ショートシナリオ


担当:西尾厚哉

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月17日〜07月22日

リプレイ公開日:2009年07月24日

●オープニング

 アイザック・ベルマンとアーニャ・ファディエフの馴れ初めは、ブルメル伯爵夫人付の侍女だったアーニャにブルメル城直下の兵団騎士であるベルマンが一目惚れした、という、至極単純なものだった。
 アーニャは何事にも控えめで、それでいて芯の通った健気な少女。
 ベルマンは一本気で思いやりのある誠実な好青年。
 どちらも主君に遠慮して人目をはばかるように逢瀬を重ねていたが、恋愛ごとに敏感なブルメル伯爵夫人が気づかないはずがない。ましてやアーニャは我が娘のように可愛がってきた侍女だ。できればこのふたりの祝言は自分の手で盛大に執り行ってやりたい、と密かに考えていた。
 しかし折りしも悪魔との戦争真っ只中。さらに城の半分は焼け落ちた。とてもそれどころではない。
 それに‥。物事には順序というものがある。
 アイザック・ベルマンは代々ブルメルに仕える家系で、彼は兵団長のレオンス・ボウネルの絶大な信頼を得てはいてもまだ大隊ひとつも任せてもらった経験のない身だった。
 そう‥彼の上官はレオンス・ボウネルであって、こっちが先に結婚しないで肩書きのないベルマンの結婚式を挙げてよいものかどうか。
「いいではないか。レオンスはあの性格だから当分嫁は来んぞ。それに兵全部の式を挙げておってはブルメルも破産するわい」
 手をひらひら振りながらそう言ったのはブルメル伯爵だ。
「ガルシン兵達もまだ滞在いただいております。あまり長く足止めするのも先方に失礼でしょう」
 ロジオンも口を添える。それでブルメル伯爵夫人も決心したのだった。長い戦いに堪え抜いてくれたガルシン城の兵達の労をねぎらう機会も、もうそんなに多くはない。


 ウェディングドレスはアーニャ本人がまだ避難先から戻って来ていなかったので仮縫いのままだ。
 女性の手も足りないので夫人自ら針を持った。生地を発注する暇などなかったので、自分のドレスを手入れすることにした。本縫いはアーニャが来る今日の午後から大急ぎになるだろう。夫人はドレスの胸元に青い糸の刺繍が良いか、薄紅の刺繍が良いか迷っていた。アーニャの顔をもうだいぶん見ていない。きっと本人を前にしなければ決心がつかないかもしれない。
 エルフの少年サクはそんな夫人の後姿を見つめたあと、そっと部屋をあとにした。
 伯爵夫人の表情と似た顔をふと思い出していた。
 故郷の村であった結婚式。サクが結婚式を経験したのはそれが一度きりだったけれど、花嫁の母親が夫人と同じ顔をしていた。ドレスはずっと粗末なものだったが、針を持つ横顔は、嬉しいけれどちょっと寂しい。そんな表情だった。
 そしてそのあと、自分の母の顔を思い出す。
 遠い未来、自分が結婚するときの母親の顔を見ることはできない。母はもうこの世にいないからだ。


 城のあちこちの壁が傷んだままだった。
 戦闘から戻った兵達が再び復旧作業に精を出していたからかなり少なくなったものの、その分、式の準備には手が回らないし、当日の朝になったところで修復完了してはいないだろう。
 伯爵夫人はギルドへ依頼を出した。傷ついたままの城での祝宴には彼らの力が必要だ。
「サク」
 庭に出たサクをアルトスが呼び止めた。
「閣下がガルシン城をお出になった。もう少ししたら途中までお迎えに行くぞ。それと、祝宴後は閣下と共に発つ。お前も出発の準備をしておきなさい」
 アルトスはガルシン城の兵団長だ。主君が来たとなればもちろんそうせざるを得ない。サクはアルトスの顔をじっと見つめる。
「どうした?」
 アルトスが不思議そうに問う。そんな彼にサクは言った。
「アルトスさんはどうして結婚しないの?」
「なんだ、やぶからぼうに」
 アルトスは笑って纏めかけていた荷物に再び目を向ける。
「アルトスさんは、まだぼくのお母さんのことが好きなの? お母さんはもういないんだよ?」
 その言葉にアルトスの手が止まった。アルトスは生前のサクの母親に命を助けられている。
「アルトスさん、もしアルトスさんを助けたのがぼくのお母さんじゃなかったら、アルトスさんはぼくと一緒にいてくれた?」
「‥おまえ、なんだか変だぞ?」
 伸ばしかけたアルトスの手を、サクはぱしんと撥ね退けた。びっくりするアルトスの顔をはっとして見上げ、サクは身を翻して走っていった。
 呆然としてその後姿を見送るアルトスに声をかけた人物がいた。レオンス・ボウネルだ。
「反抗期」
 アルトスは振り向く。
「‥じゃないのか? 年齢的に。気にするな」
 レオンスはそう言い捨てると背を向けた。
 サクが反抗期? アルトスは撥ね退けられた手を見つめる。
『アルトスさんを助けたのがぼくのお母さんじゃなかったら‥』
 考えたこともなかったが、痛烈に胸を突いた言葉だった。


【結婚式概要】
 ・新郎、アイザック・ベルマン(ブルメル城兵団騎士)/新婦、アーニャ・ファディエフ(ブルメル伯爵夫人付侍女)

 ・結婚式出席となったのは
 ガルシン伯爵(アルトス・フォミンの主君)
 ブルメル城に在留中のガルシン兵団、及びその兵団長アルトス・フォミン
 ガブリル・バーリン子爵子息、リーナ・バーリン伯爵子女(バーリン子爵は奥方が病弱のため外出不可)
 新郎新婦両家の家族、および村の人々
 ブルメル伯爵直下騎士団、及び指揮官レオンス・ボウネル、ブルメル伯爵の知己であるロジオン

 ワーウルフの村、サクの村ストウはさすがに森からは出ない。
 後ほど精霊に祝いの品を持たせるとのこと。

 ・教会より司祭が城に赴き、式、祝宴とも、ブルメル城内で行う。但し、ブルメル城は先の戦闘で城が半焼し、現在はまだ2割ほどが工事中である。祝宴を行う広間には問題なし。その他の部屋、庭等、伯爵夫妻の寝室以外は自由に使って良い。

●今回の参加者

 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7465 シャルロット・スパイラル(34歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

「セラフィマ〜っ!」
 城に到着したセラフィマ・レオーノフ(eb2554)は、ブルメル伯爵夫人の甲高い声にぎょっとした。夫人はセラフィマの傍にいた双海一刃(ea3947)とシャルロット・スパイラル(ea7465)をドカンと弾き飛ばし、彼女の腕をがしりと掴む。
「お願い、助けてちょうだい、私に力を貸して」
「ど、どうなさったのです?」
 問いかけるセラフィマに夫人は天井を仰いで世も末とばかりに叫ぶ。
「刺繍よ! 刺繍! 青にしたのよ! 青に! アーニャが来れば決心がつくと思っていましたわ! それが‥それがっ! ああっ!」
 「うう」と呻き声をあげてシャルロットが身を起こす。双海に助けられながら立ち上がった時には夫人はセラフィマの手を引き奥の部屋に入ろうとしていた。
「あ、奥方殿‥」
 慌てて駆け寄るシャルロットに
「男子禁制っ!」
 夫人は一喝すると鼻先でばたりと部屋のドアを閉めた。しかたなくシャルロットはドア越しに声を張り上げる。
「すまんがぁー! 中に新婦殿がお見えかね! 良ければ、お好みの花を知りたいのだがね!」
 しばらくして再びドアが開く。
「ラマーシカ!」
 殺気立った伯爵夫人はそう言い捨てると再びばたんとドアを閉めた。
「‥ラマーシカって‥何だ」
 シャルロットはぽつりと呟き、横にいた双海の顔を覗き込む。
「俺の出身はジャパン」
 双海は答える。仕方がない。誰かに聞くしかないだろう。踵を返し、広間にさしかかる二人の背に声をかけた者がいた。
「ラマーシカはカミツレに似た花だよ」
 振り向くとアナイン・シーのルゥダが隅の長椅子に優雅に横たわっていた。ひらひらと手を振っている。
「月精霊達が咲いている場所を教えてくれる」
 彼女は双海の連れた沙羅とリセロットに目を向ける。
「俺達はこれから式の準備を手伝わなければならない。良ければ貴方が一緒に行って山ほど摘んで来ていただけると有難い」
 双海が言うと、ルゥダは大袈裟に肩をすくめてみせた。
「ひどいわねぇ、陽光の下は苦手だというのに。双海一刃は女性に優しい男じゃなかったのか」
 もちろんルゥダは本気で憤慨したのではない。ヒマでしようがなかったから花摘み仕事は渡りに船。双海はそれを見越していたわけだ。彼女はくすりと笑い身を起こす。
「花を摘んで来るから、私の頼みも聞いて」
 ルゥダが頼み? 何だろうと訝しく思うふたりにルゥダは周囲を見回し少し声を潜める。
「森をこっそり抜けてここに来た。ストウの長老はロランにだけは知られるなと。でも、私はあいつのことだから必ずどこかで紛れ込むと思っている。迷惑をかけては大変。あいつを捕まえて」
 ルームのロランか。双海が笑みを浮かべた。
「心配するな。俺もそのあたりは予感していた」
 ルゥダはそれを聞いてほっとした表情になった。
「良かった。私は歌を歌いたいと思っていたから。ねえ、シャルロット、お前は火を遊ばせるか?」
「ああ。城を燃やした火だが、此度は希望を感じる灯火になれば良いがと考えている」
 シャルロットが答えると、ルゥダは笑みを浮かべて立ち上がった。
「私も加勢するからね。リオートもいるのだろう? あとで打合せを。素敵な夜にしよう」
 彼女は沙羅とリセロットに合図すると、共に窓から外に飛び立った。


「どうかしら? ねえ」
 すがりつくように伯爵夫人がセラフィマに問う。
「奥様、大丈夫。青がとても美しく胸元に映えていますわ。ね? セドリック、アステル。きれいでしょ?」
 答えるセラフィマの前には顔を赤らめたアーニャがドレスを着て立っていた。セドリックとアステルは自分たちが結婚するかのように手と手を繋ぎ、うっとりとアーニャを見つめている。アーニャは赤く上気した頬に両手をあてて大きく息を吐いた。
「なんだか恐れ多いです‥奥様。私、倒れてしまいそう‥」
「ああ、大変。貧血かしら。そこに座りなさい。そうそう、そっとね。ちょっと! 冷たいお水を!」
 使用人に声を張り上げる伯爵夫人。水の入ったグラスを載せた盆が慌しく運ばれてきた。アーニャはそれを飲んで少し落ち着いたようだ。
「アーニャさん、幸せになってくださいね。これ、お式の時につけてくださいね」
 セラフィマはアーニャの頭にそっと「善なる者のティアラ」を乗せた。銀に光るティアラは彼女の髪にもドレスにもとてもよく似合った。
「セラフィマさん‥ありがとう‥」
 アーニャ、うるうる。それを見て伯爵夫人もうるうる。その伯爵夫人がふと目をきらりと光らせた。
「セラフィマ、ねえ、ちょっと‥」
 伯爵夫人がまたもやセラフィマの腕を掴み何やら囁く。聞いたセラフィマは思わず「えええ〜!」と声をあげた。
「そ、そりゃあ‥セドリックとアステルにフラワーガールをさせるつもりでしたけれど‥でも‥そんな‥」
 うろたえる彼女の腕をさらに力をこめて夫人は掴み、ずずっと彼女に自分の顔を寄せる。
「絶対イケるわ。お待ちになってて」
 すたすたと部屋を出て行く伯爵夫人。呆然と見送るセラフィマ。
「奥様は‥言い出したらもうお聞きになりませんわ」
 振り向くと、アーニャが「観念なさいませ」というように笑っていた。


 慌しい足音が聞こえてきたのは、正面の庭でシャルロット、リオート、双海が櫓を組んでいる時だった。レオンスとロジオンが急いで歩いて来る。
「薬は持ったか。2人ほど兵を連れて行け」
 ロジオンの声にレオンスは頷き駆け去る。何かあったのか? 緊張を漲らせる双海とシャルロットの表情に気づき、ロジオンが手を振った。
「あ、いや、バーリン子爵のご子息の到着が数時間遅れておるのでな。慣れた道なので大丈夫と思うが、今日はお嬢様もご一緒なので、念のため迎えに行かせただけだ」
 ガブリル、またやったか? と、双海とシャルロットの頭に同じ言葉が浮かぶ。そしてまたもや慌しい足音。続いて兵の声。
「ロジオン殿! ベルマン曹長が倒れました」
「あぁ?」
 ロジオン、口をあんぐりと開ける。
「緊張で‥あの‥目を回されたようです‥」
 双海は思わず噴出し、慌てて口を拳で押さえた。そこへ‥
「ロジオン殿! サクを見ませんでしたか‥あ、双海殿、シャルロット殿、お見えでしたか! 気づかず失礼しました!」
 アルトスだ。
「何だか、大騒ぎだのぅ‥」
 シャルロットが呟く。
「サクは花嫁のヴェールを持つ役についているので、そろそろ用意を‥あっ」
 言いかけて、途中でアルトスはサクを見つけたらしく声をあげる。
「サク! 早く準備をしないか!」
 双海とシャルロットがアルトスの視線を追って顔を巡らせると、アルトスの言葉に「いーっ!」としかめ面をして駆けていくサクの姿が見えた。
「‥ったく‥。ああいうのは反抗期でしょうか。最近ちょっと変なのです。‥とりあえず私はガルシン閣下をお迎えに出ます」
 アルトスは溜息をついて踵を返し、双海とシャルロットは顔を見合わせた。


 人が集まり始めていた。村人達は野菜や鍋を運んできている。どうやら伯爵家に負担をかけまいと、自分たちで祝宴の料理を作るつもりらしい。場所を使わせてもらっていいですかと尋ねる村人に兵が頷き、準備を手伝う。兵ばかりの城で本来ならベルマンかレオンスがこうした指揮を担うのだろうが、ベルマンは主役だし、レオンスはいない。それでも滞りなく皆が動いているところを見ると、普段からブルメルの兵達の統率はとれているのだろう。
 櫓を組み終わった双海とシャルロットの傍にセラフィマがやってきた。
「奥様が3人でこれをひとつずつ持って行きなさいって‥」
 彼女は手に持っていた箱を開いた。中に入っていたのは「地魔の指輪」だ。
「アガレスは地魔法を使うから、何かの役に立つかもしれないって。他にも焼け残って出てきたものがいろいろあるから見に来て欲しいそうですわ」
 促されるまま夫人の待つ部屋に行くと、大きな箱を中央にいろんなものが床に散らばっていた。武具や防具、服飾品とごちゃまぜだ。こんなものがあったのか、とブルメル伯爵が羊皮紙を覗き込んでいる。
「懐かしいのぅ、こりゃ、わしの子供の頃の落書きだ」
 伯爵は笑みを浮かべる。
「焼け残ったということは使いなさいということですわ。レオンスとアルトスにも必要なものを渡してやりましょう。貴方がたもどうぞ。シャルロットさん、これはいかが?」
 伯爵夫人が指したイフリーテヘッドを見て、シャルロットは仰天する。
「わ、私はぁ、それを身につけることはできん‥」
「あら、お友達はイフリーテでいらっしゃるでしょ?」
「あ、なるほど」
 双海がふと近くにあった理美容品に手を伸ばすと、夫人は不思議そうに彼を見た。
「お化粧に興味がおあり?」
「あ、いや‥」
 言い澱む双海は全員からじぃっと見つめられてしかたなく計画を白状する。それを聞いて盛り上がったのは夫人とセラフィマだ。
「じゃあ、これなんかどうかしら」
 踵の高いヒールを持ち上げる伯爵夫人。
「あ、これも」
 髪飾りを持ち上げるセラフィマ。
「いや、あの、術を使うので‥」
 しどろもどろになる双海の声は無視され、夫人とセラフィマは両側から彼を引きずって奥に引っ込んで行った。ぽつんと残ったのはシャルロットとブルメル伯爵だ。2人の耳に双海の声が微かに聞こえた。
「いや、あの、別に脱がなくても、ああっ、や、やめ‥ふんど‥‥!」
 とてつもない想像が2人の頭に浮かぶ。ぶんぶんと頭を振り、シャルロットは立ち上がった。
「‥‥‥え、ええと、どうやってこれを持って行くかな」
「あ、わ、わし、一緒に運んでやろう」
「き、恐縮です‥」
 何となく赤面しながらイフリーテヘッドを持ち上げたシャルロットと伯爵であった。


 レオンスがガブリル・バーリンとリーナ・バーリンを連れて来た。アルトスもあるじと共に城に戻る。ルゥダもどっさりと花を摘んできた。城の中は一気に活気に溢れた。
 リーナはどうやら興奮しすぎて食事もまともにとれず、途中で貧血を起こしてしまったらしい。馬上で気分が悪くなり、降りてうずくまっていたところをレオンスに助けられた。彼女はレオンスに抱きかかえられたまま奥の部屋に通される。ガブリルがレオニード・ガルシン伯爵の姿を見て膝をついた。
「お見苦しいところを申し訳ありません」
「ガブリル殿、今日は皆同じ立場だ。そういうことはなさらずに」
 レオニードは笑みを浮かべ、ガブリルの腕を持ち立ち上がらせる。
「大きくなられた。私の記憶にあるのは赤ん坊の頃の君だ。お母上の具合はいかがかな」
「恐れ入ります。おかげさまで落ち着いております。それでも旅行はできません。今日は私と妹だけで」
 ガブリル、しっかり話ができるじゃないか。シャルロットは2人の会話を耳にして笑みを浮かべる。
「シャルロット、打合せをしよう」
 ルゥダが声をかけてきた。
「炎と歌の共演といこうじゃないか」
 シャルロットは頷いた。式が始まるまであと一時間。式が終わればちょうど日も暮れて火も映えるだろう。

「素敵、双海さん、私、女なのに惚れてしまいそうですわ」
 セラフィマが双海を見てうっとりと言った。
「いや、俺、男なんだけど」
 と、双海。
「これが足を美しく見せますからね」
 ダンスヒールを履かせる伯爵夫人。
 ルームのロランを捕まえるため、双海は人遁の術で女性に姿を変えた。黒く長い髪に白い肌、濡れたように光る唇に薄青のドレスを身につけた姿はまるで白磁の人形のよう。その顔に化粧をする夫人とセラフィマが燃えまくったことは言うまでもない。伯爵夫人は双海の手に「麗しき薔薇」を持たせた。
「いいですか、ここぞというときに使うのですよ」
 うーん、それはちょっと気恥ずかしい。困ったような顔をする双海をよそに、夫人はセラフィマに目を向ける。
「さあ、次は貴方の番ですわよ」
「え、あ、ああ、そ、そうでしたわね‥」
 きょとんとする双海。
「なんだ?」
「え、ええ、まあ、おほほほ‥」
 恥らうセラフィマを夫人は更に奥の部屋へ引きずっていく。
 ちぇ、こういうところは別かよ、と双海は思う。ふたりして俺の褌までひんむいた癖に、俺はセラフィマの‥‥‥考えかけて、はっとして双海はふるふると頭を振った。いかん。イケナイことを考えてしまった。
「さあ、行くかな」
 立ち上がって、双海はがばっと開いた足を慌てて閉じた。
「あー、おー、ごほん、さ、行こうかしら」
 声色を確かめ、高いヒールにゆらゆらしながら部屋をあとにする。声ばかりは術ではどうしようもない。できる限り声を出さないようにするしかないだろう。


 集まった村人、兵達、合わせて2000名ほどになった。貴族でもこんなに大勢が出席する結婚式はないだろう。広間に入りきらない者は庭に出ていたが、庭はどちらかといえば料理の匂いがたちこめる祭りの様相だ。
 シャルロットが控え室に待機するベルマンに「聖戦の紋章」を渡すと、彼は礼儀正しく一礼をしようとしたが、動きがまるでからくり人形のようで、身を屈めたままゴンと前のめりになりそうになった。アーニャは心ここにあらずといった様子でぼうっとしている。美しい娘の花嫁姿を見て彼女の両親は式が始まる前から号泣状態。その横で「礼服の腹が苦しい」と訴えるブルメル伯爵に「太り過ぎっ!」と叱りつける伯爵夫人。レオンスとアルトスが兵達に祭典指示を出しているため、細かい雑用相談がロジオンの元に押し寄せ、シャルロットはしばらく彼の手伝いをしていた。
 新郎新婦が出てくるまで庭で待つことにしたシャルロットは、双海とセラフィマはどこに行ったのだろうと顔を巡らせる。が、ふたりの姿を見つけることができない。

―リンゴン‥ゴン‥

 遠くで教会の鐘が鳴る音が聞こえる。時間を合わせて鳴らす手筈にしていたのだろう。式が始まったのだ。
僧侶達の歌声が庭まで響く。城のエントランスから庭にずらりとレオンスとアルトスの部隊が向かい合って並び、花道を作った。
「こちらも準備をするか」
 シャルロットはわくわくしているリオートを促し、櫓に向かう。

「構え!」

 レオンスの声が響く。兵達が一斉にジャキリと剣を抜き、天に掲げたあと胸の前で剣を立てる。一糸乱れぬ動きに少しぞくぞくする。わっと歓声があがり、花嫁が好きだというラマーシカの白い花びらがぱっと舞い上がった。まるで夏の雪のようだ。そして新郎と新婦が出てくる。シャルロットは櫓に火を点した。頭上でルゥダがこくんと頷いてみせる。
「おめでとう! おめでとう!」
 村人達の声と拍手が一斉に沸き起こる。シャルロットは櫓の炎を操りながら、沙羅、リセロット、セドリック、アステルが蒔くための花を入れた大きな籠を持った女性を見て「ええっ?」と思わず声を漏らした。
 セラフィマだ。
 彼女が着ているのはレースとフリルたっぷりのドレス。蝶のような大きなリボンがきゅっと腰に結ばれている。シャルロットの視線に気づき、セラフィマは『あんまり見ないでよ』というように口を尖らせ一瞬しかめ面をしてみせた。
「いくよ、シャルロット、リオート」
 ルゥダの声にシャルロットは慌てて櫓に目を戻す。
 リオートが櫓の火を大きく立ち上げ、シャルロットは空に向けてボムを放つ。ボムの炸裂した先にルゥダはファンタズムで幾つもの光の輪を作った。歓声があがる。
 新郎新婦が庭にしつらえた主賓席につき、祝宴が始まった。ルゥダが竪琴を弾き、澄んだ声で歌い始める。
 アーニャの友人たちが彼女を抱き締めに殺到し、ベルマンの友人はささやかな贈り物を持って行く。
「素敵ですわね」
 役目を終えたセラフィマがシャルロットに言った。
「ああ、本当に素敵だぞ」
 まだ蝶のドレスを着たままの彼女にシャルロットが言うと、セラフィマは顔を赤くした。
「ところで双海はどこに行ったのか知らないか?」
 尋ねるとセラフィマはくすりと笑って新郎新婦に近づく美女を指差した。目を丸くするシャルロット。
「ロラン捕獲作戦ですわ」
 セラフィマは悪戯っぽく言った。
 ベルマンは見覚えのない女性が自分に恭しく剣を差し出したので、不思議そうに彼女を見る。
「あの‥」
 差し出された「名刀・袖師野丸」を見つめて戸惑うベルマンに双海は笑みを浮かべる。
「和羽と申します」
「双海殿!」
 ベルマンは笑い出した。声を覚えていたのか、と双海は少しびっくりする。
「ありがとうございます。こんな素晴らしい剣を。‥でも、どうしたのです、そんな格好で」
「いろいろと事情があり」
 双海もとい和羽はアーニャにも家内安全のお札を渡し、「たくさんのご家族に恵まれますように」と言って顔を真っ赤にする彼女に微笑み二人から離れた。
 ロラン、さあ来い。

 セラフィマは着替えるからと城に向かい、入れ替わりにガブリルがシャルロットにワインの入ったグラスを持ってきた。
「子竜の件ではお世話になりました」
「あれからどうかね」
 シャルロットが尋ねると、ガブリルは頷いた。
「相変わらず元気はいいけれど、だめだという言い聞かせは通るようになったようです。畑も荒らすことはなくなりました」
「それは良かった」
 笑みを交わす二人の傍にガブリルの妹、リーナがやってきた。
「お兄様、あの‥」
「どうした」
 リーナはシャルロットに小さく会釈して、ある方向を指差す。
「あの‥あの方のお名前をご存知?」
 ふたり同時にリーナの指す方向に目を向ける。立っているのはブルメル伯爵とレオンス、ロジオンだ。
「伯爵‥ってことはないな。ロジオン殿か?」
 ガブリルが言うと、リーナはかぶりを振った。
「お年を召した方ではありません。お若いほう‥」
「レオンス? レオンス・ボウネル指揮官だよ」
 ん? とシャルロットとガブリルはリーナの顔を見る。
「レオンス‥レオンス様と仰るのね‥」
 リーナはうっとりとレオンスを見つめた。
「えーーーーーっ!!!」
 ふたり同時に叫んだのは言うまでもない。


 セラフィマは広間を抜け、着ていた服を脱いだ部屋に向った。
 ふと、小さな泣き声が聞こえてきた。立ち止まって耳を澄ませたあと、声のするほうにそっと近づく。
「サク?」
 暗がりの中にサクがうずくまっていた。
「どうしたの? お腹でも痛い?」
「セラフィマさん‥」
 サクは慌てて涙を拭う。セラフィマが近づくと、サクは再びじわりと涙を滲ませた。
「どうしちゃったの?」
「ねえ、セラフィマさん、セラフィマさんはぼくを吹雪から庇ってくれたよね。そしてぼくにはできることがあるんだって言ってくれた」
「そうだったですわね」
 あの時のサクはまだヴァブラの手先として戦っていた。彼を救い出すのはアルトスの願いだったはずだ。
「セラフィマさんの言葉、ぼくはずっと自分に言い聞かせてきたと思うの。ぼくにはできることがある。だから頑張って来れたと思うの。‥でも、今は分からないの」
「サク‥」
 サクの肩に手を回したセラフィマはふと人の気配に気づいて目をそちらに向ける。双海扮した和羽だ。忍者の彼は人の気配を察したのだろう。
「双海さん‥」
 サクが呟く。
「分かるの?」
 セラフィマがびっくりすると、サクはこくんと頷いた。
「双海さんの歩き方、少し癖があるの。ロランを捕まえるの? ロランは女の人の集まる場所に絶対いるよ」
「サクにはかなわないな」
 双海は苦笑して膝をついた。
「どうした、こんなところで」
「うん‥」
 少し笑顔の浮かんだサクの顔が再び曇る。
「双海さん、ぼく、どうしたらいいかわかんないの」
 双海とセラフィマは顔を見合わせた。
「ストウのみんながね、帰っておいでって」
 サクの大きな目から涙がぽろりと落ちた。
「もう‥ひとりで頑張らなくてもいいよって。みんなで乗り越えればいいからって‥」
 サクはとうとう声をあげて泣き出した。
「ヴィーザが来るの。ぼくを迎えに。結婚式が終わったら来るの。レオニードさんのところは遠いから、ここでお別れをしなさいって言われてるの。ぼく、どうしたらいいかわかんないの」
 言葉が見つからなかった。セラフィマがアルトスさんを探してと双海に目で訴える。双海は頷いて立ち上がった。


 双海はアルトスの姿を探して顔を巡らせる。アルトスはレオニード・ガルシンの傍にいた。近づこうとする双海の視界に一人の男の姿が映りこむ。双海の記憶にあるロランはブラン鉱脈跡の血戦前にちらりと見た姿だけだったが、あれがロランだという確信があった。早く追わなければ見失ってしまう。双海は声を張り上げる。
「アルトス!」
 呼ばれたアルトスは声が双海と知ってきょときょとと周囲を見回す。そうか、和羽の姿では彼は分からない。
 ええい、構うものか。双海はそのまま叫ぶ。美しい女性の口から出る男の声に周囲の数人がびっくりした顔を向けた。
「アルトス! サクのところに行け! 泣いてるぞ! 広間の奥の部屋だ!」
「サクが泣いている?」
 彼が城に足を向けたのを見届け、双海は急いでロランの後を追った。‥が、見失った。どこに行った、と目を走らせていると背後から声が聞こえた。
「美しい方、どなたかをお探しですか?」
 出た! 双海は振り向き、にっこりと笑みを浮かべる。唇だけを動かし「あ・な・た・を」と言ってみせる。「おお」とロランの目が輝いた。そのままその手をとり、双海は人気のない場所に彼を連れ込んだ。連れ込むなり腕をひねって背後に回りこむ。
「痛っ‥あっ、わ、わたしは、そういう趣味はっ‥」
 呻くロラン。双海は顔をしかめる。
「ガブリルに内緒で祝宴に潜り込む趣味はあるのか」
「ああっ」
 彼はようやく捕獲されたことに気づいたようだ。
「そこに座れ!」
 腕を放して厳しく言うと、ロランはぺたんと腰を下ろした。
「そうじゃないっ! 正座だっ!」
 ロシアで生活するロランは正座を知らない。双海は彼の足を蹴り飛ばして無理やり正座させ、腕を組んでロランを見下ろした。
「美しいなぁ‥いい香りがする」
 上目づかいに双海を見上げて呟くロラン。
「お前はこの期に及んで‥」
 そして双海の説教が始まった。そのうちロランがもじもじし始めても構わず説いた。足が痛くなってロランはうっすら涙を浮かべ始めた。それでも叱りつけた。
「‥わかったな」
 最後にそう言うと、ロランはこくんと頷き鼻をすすった。
「じゃあ、すぐに森に戻れ」
「サクを送っていくよ」
 サク‥。双海は目を細めた。
「サクが村に帰るのは、もう決まったことなのか?」
 尋ねるとロランは首を振った。
「さあ、どうだろう。私はあのアルトスとかいう人と一緒にいるほうがいいと思うが」
「どうして」
「そのほうが一緒にいられる時間が少ないだろう? ストウの村はずっとずっとあるからね」
 ロランにしてはまともな返事だった。双海は口を引き結ぶ。
「もう、立っていいだろうか」
 ロランは言った。
「いいだろう。ただし、帰るまではおとなしくしてろ。でないと‥」
 双海はちょいとロランの足をつついた。

「ぎゃぁあわぇいうおおおお!」

 ロランの叫び声が城中に響き渡った。


 しゃくりあげながら切れ切れに話すサクの声に、アルトスはじっと耳を傾けた。セラフィマは自分のドレスをぎゅっと掴むサクの手が小刻みに震えているのを感じていた。
「サクのお母さんはきれいな人だったよ」
 話を聞き終えてアルトスは言った。
「自分の危険よりも、人の身を案じる人だった。だから私は今ここで生きている」
 ひっく、ひっくとサクはしゃくりあげながらアルトスを見つめる。
「お前はお母さんに良く似てる。自分のことより私のことばかり気にかけて。私はそれが心地良かったのだと思う。でも、サク、ここに留まり、私の心配ばかりをしなくてもいいんだよ」
「アルトスさんは、ぼくがいなくなってもいいの?」
 大きな目に見据えられ、アルトスの顔が微かに歪む。セラフィマは辛くなって目を伏せた。
「いいはずがない‥。寂しくてたまらないだろう。だけどね、私は大人だ。ガルシンの指揮官としての仕事もある。それに会えなくなるわけじゃない。空と地が続く同じ世界だ。ヴィーザに背負ってもらってまた遊びにおいで。家族は大切にしなくては」
 わあああん、とサクは声をあげてアルトスに抱きついた。
「ひとりで苦しませてすまなかったな‥」
 アルトスはサクをぎゅっと抱きしめた。


 ベルマンとアーニャは皆の前で長い長いキスをした。
 シャルロットが最後のボムを打ち上げ、ルゥダは精一杯のイリュージョンを放つ。花嫁と花婿が部屋に入り、酒豪の者は明け方近くまで飲み続けるだろうが、大半は兵達が張ってくれたテントや城のゲストルームに入っていった。ラマーシカの白い花びらが月明かりの下で輝いている。祝宴は終わった。
 シャルロットはさっきやっとサクが村に戻る話をルゥダから聞いた。その直後に双海とセラフィマからもアルトスとサクの会話を聞く。その頃にはレオニードやロジオン、ブルメル伯爵夫妻、レオンス、ガブリル、リーナもサクが帰ることを知る。皆、サクを見送ろうと集まっていた。
「空と地が続く同じ世界‥か」
 シャルロットはぽつりと呟いた。アルトスとサクで出した結論なら、誰が何をどう言うこともできまい。
 風が吹く。花びらを巻き上げ、見覚えのある姿が現れた。ヴィーザだ。
「レオニードさん、急なことでごめんなさい‥お師匠様にご挨拶できなかった」
 詫びるサクをレオニードは身を屈めて抱きしめた。
「気にしなくても良い。君にはずいぶんと助けてもらったね。感謝しているよ。元気で暮らしなさい」
 サクは目を潤ませ頷いた。ブルメル伯爵夫妻とリーナが鼻をすする。
「ルゥダ、これをヴィーザと2人で。サクを時々アルトスに会わせてやってくれ」
 双海が2つのローズリングをルゥダに渡す。
「ありがとう。分かったよ」
 ルゥダは答えた。
 最後にサクはアルトスとしっかり抱き合い、ヴィーザに背負われた。ロランは既に空で待機している。
「さよなら。‥みなさん、今までありがとう」
 サクはそれだけを言うのがやっとだった。そしてヴィーザは飛び立った。あっけないほど素早く飛び立ったのはヴィーザとルゥダなりの優しさだったのかもしれない。
「‥いいのか」
 あっという間に小さくなっていく精霊達を見送り、レオンスがそっとアルトスに言う。
「良い」
 アルトスは掠れた声で答えた。

 数時間が過ぎた。酒豪達もそろそろ酔いつぶれてきた。城の中はしんと静まりかえっている。ぱちぱちと燃える篝火だけが白い花びらを浮き立たせていた。
「アルトスさん、大丈夫かしら‥」
 セラフィマが座り込んでじっと地面を見つめるアルトスの姿を見て心配そうに呟いた。
「今はそっとしておくしかないだろう」
 シャルロットが答え、双海も頷く。とはいえ、3人ともアルトスが心配で眠ることができなかった。
 遠巻きにアルトスを見つめる3人は、しばらくしてレオンスがアルトスに近づくのを見る。レオンスは馬の手綱を引いていた。
「空と地が続くなら、こちらにいても同じこと」
 呆然と見上げるアルトスにレオンスは言った。
「行くぞ、連れ戻しに」
「‥しかし‥」
 レオンスは双海達に顔を向ける。
「私からの依頼だ。一緒に来い」
 3人は待ってましたとばかりに立ち上がった。

 あれからもうだいぶん時間がたつ。サク達はかなり村のほうに行ってしまっているだろう。追いつくか、そうでなければ村に行って奪還するか。そのときはストウの村を説得することになる。
 さらに一時間後、空が白み始めた。
「あ!」
 セラフィマが声をあげる。その時にはシャルロットも気づいていた。あれはヴィーザとルゥダ、ロランだ。追いついたかと思ったのだがそうではない。彼らもこちらに近づいている。戻ってきたのか?
「サク!」
 アルトスが叫ぶ。姿を充分に目視できる距離になったとき、サクの声が響いた。
「ヴィーザ、下ろして! 下ろしてっ!」
 ヴィーザが地に降りたつ。サクはもどかしそうに彼女の背から滑り降りると一目散に駆け出した。アルトスはサクの腕を掴み、ひょいと馬上に引き上げる。
「サクが泣き過ぎて死んでしもたら困るし」
 ヴィーザが笑って言った。
「ごめんね、ヴィーザ」
 サクはしゃくりあげて言った。
「アルトス・フォミン、サクを不幸にしたら私達とストウの村はお前を許さない」
 ルゥダの言葉にアルトスはサクをしっかり抱きしめながら頷いた。
「承知」
 その時、小さな声が聞こえて双海は振り向いた。
「おおーい!」
「ガブリル?」
 シャルロットが呟く。ガブリルの乗った馬が見えたと思ったら、あっという間にその後ろに多くの馬が並んでいたので全員が仰天した。一個中隊ほどもある兵達だ。
「先を越されちゃったようで‥」
 ガブリルは息をきらして言った。
「ばかだなお前は! そんなに兵を連れてきて、攻め入られると勘違いされたらどうするんだ!」
 シャルロットが思わず叱りつけるとガブリルは手を振った。
「違います、みんな、自分で一緒に行くと」
「私の‥部隊だ‥」
 アルトスが泣き出した。
「じゃあ、私達はこれで」
 ルゥダが言った。
「ちゃんと報告するよ。良い人たちに囲まれて、サクは生活していますと」
 空に飛び上がる精霊達を皆が見上げる。その背後に陽の光を包み始めた青い空が広がりつつあった。
「空と地が続く同じ世界、機会があればまた会おう。双海一刃、シャルロット・スパイラル、セラフィマ・レオーノフ、レオンス・ボウネル、アルトス・フォミン、ガブリル・バーリン、そして幾多の兵の方々、領主殿、私は森に戻ったら毎日皆の無事を願い、歌を歌うからね」
 精霊達は飛び去った。
「さあ、戻りましょう」
 セラフィマが促す。
「戻ったら主君のお叱りがあるかもしれんが」
 レオンス。
「誰も叱りはぁ、せん。むしろ団結のお褒めを頂くだろうよ」
 と、シャルロット。
 ゆっくりと向きを変える一同に、天の青が優しく光を注いでいた。