【アガレス・黒の復讐】地魔を叩く―竜作戦

■ショートシナリオ


担当:西尾厚哉

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月19日〜11月24日

リプレイ公開日:2009年11月26日

●オープニング

『ホルムの石』
 石を手に10の魔力をもって6分間だけ任意の竜の姿に身を変えることができる。この魔法は竜族が使う「竜の姿」と同等。
 使用できるのは1度きりである。

 石を手に取り興味深げに眺めているのは、ブルメル領地内の教会から来た神聖騎士、シモン・ナフカだ。まだ顔にあどけなさの残る21歳の若者だが、神聖黒魔法の習得率が高いこと、若さもあって身のこなしが軽いこと、また、何事にも物怖じしない性格である、という理由で異例の作戦長に抜擢された。
「竜の姿の魔法のことは分かるかね?」
 ロジオンが言うと、ナフカはにこりと笑みを浮かべた。
「はい、大丈夫です。グラビティードラゴンについても調べて参りました。竜の姿は発動すればこの竜に?」
 無愛想なレオンス・ボウネルや、いかついアイザック・ベルマンとは全く違う愛嬌のある人懐こい顔だ。面立ちだけを見ていると子供のような彼に任せていいのかと一瞬心配しそうになるが、その目は思慮深さと野性味の両面を持ち合わせている。
 亡くなった息子も‥これくらいの年齢だったな‥。
 ロジオンは頭の隅でふと考えた。
「竜の姿の魔法は任意の竜種を指定するが、この石はどうかは分からんな。重力竜は確実で、その魔法は地魔法の達人級を持つと思われるアガレスと同等ではあるが、奴が持っているのは地魔法だけではない。必ずしもそれが完全なる抵抗となるかどうかも不明だ」
 ナフカは石を見つめて微かに小首をかしげる。
「ふむ。しかし、ロジオン殿、重力竜になれるというのは最高に有利です」
 ロジオンが小さく目を細めると、ナフカは再びにこりと笑った。
「竜魔法が使えます。ミドルサイズの竜を時間内に量産できますよ」
「それは状況いかんであろう」
 ロジオンは思わず苦笑した。
「そうですね。特に女性は大変だ。元の姿に戻ったら全裸かも。まあ、私は嬉しいけれど」
 ナフカはそう言ってくすくすと笑った。物怖じしない性格であるとはいえ、この冗談は若さゆえかなとロジオンは半ば呆れた顔でかぶりを振る。笑っていたナフカはふいに真顔になり、ロジオンを見た。
「ベルマン殿は西側侵攻、及び、尾根侵攻。我等は東側ビリジアンモールド帯を冒険者と私の隊2名、最大で合計11名で。神聖騎士は全員黒魔法を全て持ち合わせています。コカトリスの瞳はそれぞれがひとつずつ。必要に応じた薬の類も準備。できれば目立たず敵に圧力をかけたいと思いますので、装備はどちらかといえば軽装です。他に心しておくことはございませんか」
 この男は出世するかもしれんなあ、とロジオンはふと思う。こういう若い世代の成長を自分はいつまで見ることができるものだろうか。
「あとは冒険者の方と適宜作戦を。ベルマン隊からの合図は後ほど伝える」
「御意」
 ナフカは敬礼をした。
 

●今回の参加者

 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7465 シャルロット・スパイラル(34歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8802 パウル・ウォグリウス(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 上空へ重力波。影竜がそれを確認したのち、メロディで合図を送る。その後竜化。
「もし影竜が来なかったら?」
 ナフカが腕を組んで言う。
「なぜ来ないと思うの?」
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)が尋ねるとナフカは笑った。
「来ないと言っているわけではなく、来なかったらどうするか、を考えておきたいのです」
「使徒は出た。俺達が着いた頃に竜も着くはず」
 双海一刃(ea3947)の言葉に、ナフカはそうですねと頷く。
「心配ならフレイヤを飛ばしてもいい。ギュードルンもいる」
 と、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)。
「俺が迎えに行ってもいいぜ。あのご夫婦の出産立会いした身だ」
 パウル・ウォグリウス(ea8802)がくすりと笑う。
「私も目を凝らすわ。重力波を見逃さないように」
 これはレティシア。
「ふむ。手段はいろいろ。では参りましょうか」
 ナフカは頷く。
「バーリン領はアルトス・フォミン隊に任せ、我らは直接山に。任務完了後にレオンス殿の体調を鑑み、バーリンに行きます。ご意見は」
 ナフカは全員を見回す。別隊が戦闘開始していることを考えると、それがベストと言えるだろう。
「これをガブリル・バーリンに届けて欲しい。それとソルフの実を30ほど西の軍へ」
 レティシアはウルの弓と石の中の蝶を取り出す。ナフカは頷いた。
「分かりました。兵を出します」
「そちらには戦闘時を考え、これを貸与する」
 エルンストが祈りの聖矢と満ちたる星の欠片を手渡す。
「有難く」
 ナフカは受け取り礼をする。
「ここから先、私は皆様のご指示に従います。時に進言することもありますがご容赦を」
 馬を持たない者は3名の騎士と騎乗。エルンストはフライングブルームに。レティシアは陽小明(ec3096)をブルームに乗せる。
「一足先に行くわ」
 彼女はそう言って飛び立っていった。
 双海は手に握り締めたホルムの石を眺める。重力竜には自分が。その後、シャルロット・スパイラル(ea7465)をバーニングドラゴン、エルンストはサンドラゴン、小明をウイングドラゴンへ。彼らに魔法付与後、ミュール・マードリック(ea9285)とレティシアを背に乗せ、アガレスに近づく。直接攻撃に長けたパウルは最も早く敵に近づくことができる小明に乗るだろう。何にしても時間は6分しかない。
「緊張しますか?」
 ナフカの声に双海は顔をあげた。
「竜の姿は変身前のダメージや魔力減をそのまま移行します。元の姿に戻る時も同じです。竜になったからといって傷を負いすぎると裸体のまま瀕死です。お気をつけて」
 双海は何も答えず彼から目を逸らせた。つい、とミュールの騎乗した馬が皆の前に出る。彼は馬の向きを変えると皆の前で剣を抜いた。
「気負いや心配は無用。長く続いた戦いだが、そろそろ終わりにしよう。我らの手で」
 ミュールにしてはめずらしくその顔に笑みが浮かんでいた。
「あ!」
 ナフカが声をあげる。
「それ、冥王剣ですよね? 見せてください!」
 ミュールは馬の腹を蹴ると一気に駆け出した。それを追うナフカ。
「ねえっ! あのっ! 見せてくださいよーっ!」
「‥無邪気なんだか狡猾なんだか分からん男だな」
 シャルロットが呟く。そして自分の前に神聖騎士がいることに気づき、
「失礼。貴兄の上官であった」
「もう慣れました」
 神聖騎士が笑って答えた。

 レティシア、小明と合流した時、微かな空気の振動を身に感じた。戦闘が始まったのだ。
「急ごう。こっち! 小明は子竜の欠片を探していたからよく覚えていてくれたの」
 レティシアの声に馬を近くの木に繋ぎ、全員が士気向上付与。エルンストはミラージュコートとインビジビリティリングを騎士に渡した。冒険者4人は自らの気配をコントロールできる。自分とシャルロット、レティシアも全く知らない場所ではない。いざとなれば攻撃も防御もできる。
「ビリジアンモールドが増えているな」
 双海が呟く。確かに前に来たときよりも増えている。それはずっと麓まで続き、バーリン領に向かって広がっていた。
「機を見てこちらからも焼き払おう」
 シャルロットが答える。再び空気の振動を感じる。戦場は見上げた斜面の向こうだ。エルンストがフレイヤとギュードルンを空に放った。
「皆にもソルフを渡すわ。どれほど持っていても少ないということはない」
 レティシアが言った。
「来る!」
 ウジャトで危険を察知した双海が小さく叫び、全員に緊張がはしる。エルンストの石の中の蝶も羽ばたきを見せる。3体のインプの姿が見えた。
 息を詰め、やり過ごす。無用な戦闘は更なる敵を呼びかねない。インプを見送ったあと、ナフカが口を開いた。
「エルンスト殿。影竜の姿がまだ見えない。貴方のイーグルドラゴンを願えるか」
 確かに。今、まだ領地を出ていなければ間に合わない。エルンストはフレイヤを呼ぶ。
「影竜を呼んで来い。おまえは子らを覚えているはずだ。行けるな?」
 フレイヤは小さく啼くとバーリンに向かって行った。
「私も空に注意を払う。味方は命がけよ。私達が見落とすわけにはいかないわ」
 レティシアが口を引き結んだ。


 レオンスの姿を見つけたのは小明だった。
 彼女は素早くコカトリスの瞳を取り出す。石化解除された途端、肩に負った傷と切り落とされた手首から血が溢れる。レティシアが急いで戦乙女の涙を彼の口に入れた。しかし意識のないレオンスは飲み込むことができない。
「レオンス、お願い、飲み込んでよ」
 悲痛な声をあげるレティシアの肩をミュールが掴む。
「自分で飲めないなら口移ししかない」
 そう言って取り出した薬を自分の口元に持っていきかけ、ふと手を止めてレティシアを見る。
「やりたいか?」
「なっ‥!」
 レティシアは顔を真っ赤にした。
「いや、野郎よりは女性がいいかと思い」
「そんなこと考えてる場合じゃないでしょ!」
「おい! 来るぞ! さっきの比じゃない」
 双海が危険を察知した。レティシアははっとして聖なる釘を地面に刺す。剣を抜きかけたミュールの手から薬を奪い取ったのはシャルロットだ。彼はそれを躊躇なく一気にレオンスの口に薬を流し込む。
「すまんの」
 と、シャルロット。
「なんで謝るのよっ」
 レティシア。

―ザァァァァッ‥!

 あたりが暗くなる。インプの大群。地の上はアガチオンとグレムリン。レオンスの血はまだ止まらない。シャルロットは懐からさらにもう一つ薬を取り出し、再び流し込む。結界があるとはいえ、効果は10分。レオンスは目を開かないばかりか、その体は氷のように冷え切っていた。レティシアは自らの体で彼を庇うよう身を伏せ、千切れていない方の手をしっかりと握る。その彼女をさらに庇うようにシャルロットが。そして周囲には他の冒険者と神聖騎士。しかし、彼らはしばらくして異変に気づく。確かにこちらを見とめて向かってくるデビルもいるが、大半は素通りしていたのだ。

「ギェイ!」

 一番最後のアガチオンの首を叩き切ったあと、パウルは遠ざかっていく黒い波を呆然として見送った。
「どうなっている?」
「標的が私達じゃなかったのよ。バーリンに向かったんだわ」
 レティシアが答える。フレイヤは無事に影竜の元に着くだろうかとエルンストが厳しい表情になる。何よりも、あの大群で影竜自体が動けるだろうか。その時、自分の手をレオンスの手が弱々しく握り返すのをレティシアは感じた。
「レオンス!」
 顔を覗き込む。顔色が悪い。血を失い過ぎたのだ。薬で傷は癒えても大量の血を失った衝撃から回復していない。これでは歩くこともままならないだろう。
「双海殿」
 ナフカが口を開く。
「竜化時に神聖騎士ふたりを風竜に変えてもらえないだろうか。レオンス殿を連れて先に退却させる」
 双海は頷いた。レオンスには自身に竜化してもらうつもりだった。しかしこれでは竜になっても動けない。どちらにしても影竜の姿がない今、できるだけ仲間が打つ重力波を感じ取れる場所まで移動するしかない。ナフカがレオンスの腕を自分の肩に回す。片方の腕の下にレティシアが身を滑り込ませ、再び彼の手をぎゅっと握った。双海と小明が先に立つ。その後ろにミュール、左右にシャルロットとエルンスト、後衛は神聖騎士とパウルが担った。しばらくして、レティシアはレオンスの手が温かみを帯びてきたことを感じた。
「レティ‥ま‥ほう‥じん‥」
「なに?」
 頭上の声にレティシアは顔を向ける。
「魂‥魔法‥陣に‥集める‥奴は‥言っていた‥阻止‥」
「魔法陣?」
 レティシアは声をあげ、横にいたシャルロットの顔を見る。反対側ではエルンストが目を細める。
「バーリン領占拠は詭弁?」
「広大なバーリン領を手に入れれば有利になるわ。一挙両得を狙っていたのかもね」
 と、レティシア。
「あの野郎‥踏み潰してやる」
 一番前で双海が怒りに顔を歪めた。

 高みに出た。起伏を挟み、西の戦地が見える。全員が声を無くした。黒い波また波。そして迫り来る霧。
「ヴィヌか‥!」
 小明が声を漏らす。尾根を月竜が飛んでいる。背に乗っているのは冒険者だ。その顔は赤く血に染まっている。届くかどうか分からなかったが、レティシアがムーンアローを放つ。それは月竜に襲いかかろうとしていたインプを貫いた。しかしこの程度では援護しきれない。エルンストが背後の空に顔を向ける。影竜の姿はまだない。
「アガレスは出て来ないのか!」
 シャルロットがじりじりとした様子で呻いた。双海が幸運のクッキーを口に放り込む。そして‥

――ドウゥウゥゥ‥ッ!

 空に伸びる黒い帯。
「双海!」
 シャルロットの声よりも早く、双海はホルムの石に念じていた。味方に届くよう、思い切り声をあげ、竜の姿発動。
「アルテイラ、頼みます!」
 風竜になった小明がパウルを背に乗せ、いち早く飛び立つ。続き、エルンストが陽竜に。
「リオート! 敵陣に火球を撃ち込め!」
 イフリーテに指示し、シャルロットが火竜に。双海は最後に神聖騎士2名を風竜に変えた。
「レオンス殿を頼むぞ!」
 ナフカの声に背に彼を乗せ反対側に飛び立つ2体。ナフカはその場所で皆の装備をかき集めた。
「双海! 行くよ!」
 レティシアの声に双海は竜の鱗を発動し、彼女とミュールを背に乗せ動き出す。
「黒い翼がよく見える」
 オーラを纏い、ミュールが剣を構える。味方軍が竜の射程から離れようと動いている。パウルと小明は背を向けた兵があっという間にアガレスの手元に引き込まれ、強烈な一撃を受けるのを見た。アガレスの周囲は指揮官を守ろうと下級デビル達が陣を組む。
「退却は背を向けるな!」
 叫ぶパウル。そして
「小明、接近してくれ!」
 その言葉に降下する小明。振り向いた白い顔にパウルは大聖水を思い切り投げつける。すれ違いざまにこの世のものとは思えぬ声と匂いがした。その後から近づいたエルンストがサンレーザーを放つ。無数の悲鳴。その後彼はシャルロットとリオートが一掃しているデビル群の加勢に向かう。双海が行動抑制魔法。そしてさらに近づく。ミュールは狙い定めて投網をアガレスの頭上に広げた。それが氷の籠となり、アガレスの周囲に突き立つ。西の隊にいた冒険者がアイスコフィンを放ったのだ。オーラ魔法を付与したミュールはウィングシールドで双海の背から飛び立つ。途端に双海の竜化魔法が切れた。
「‥!」
 ストンと双海と共に地面に落ちたレティシアは突っ伏した双海に跨った状態になる。
「うぐっ‥」
 呻く双海に「ごめんなさいっ!」と慌てて飛びのいたが、身を起こした双海に再び「ごめんなさいっ!」と顔を覆う。気づいたエルンストが2人を退却させるため迎えに来た。
「双海、ごめん、見ちゃった」
 エルンストの背で詫びるレティシア。双海の返事は大きなくしゃみだった。

−ドゥ!

 背後で重力波の振動が伝わる。雄叫びをあげて近づくミュールにアガレスが放ったのだ。
「効くか!」
 パウルの放った聖水で目を潰されたアガレスは方向を誤った。重力波はミュールの肩に微かな鮮血を飛び散らしたのみ。
『小明! トルネード! アースダイブ阻止!』
 レティシアがテレパシーで送る。ばりりと嫌な音と共に凍った網を突き抜け、アガレスの体が宙にあがる。ミュールは落下するアガレスを追い、剣を振り上げる。
「決着をつけようか」

−ドクッ‥!

 やいばがアガレスの首を捉えた。焼け爛れた目がかっと開いて真正面からミュールを捉える。その形相はすさまじかった。首を切り落とされようとしながらもなお、アガレスはミュールの腕を掴む。もう声は出ない。魔法は使えない。そう思っていても、その力は流石のミュールにも一瞬恐怖を生んだ。このままだと共に地面に激突だ。パウルが小明に合図し、加勢に向かう。
 そして

−パアァァン!

 裁きのハリセン。首が飛び、地上数メートルで空中に溶けた。
「執念に決着!」
 パウルはハリセンを振ってにっと笑う。皮一枚の執念か。ミュールはふぅと息を吐いた。
「裸になってしまう前に戻るぞ」
 下級デビルを蹴散らしたシャルロットの背にミュールは乗った。


 西の隊に合図を送り、一行はバーリンに向かう。途中、シャルロットとリオートは緑黴を全て焼き払った。しばらくして一行は丘の上で待つレオンスと2人の神聖騎士、ガブリル、アルトス、サクの姿を見る。彼らがいるということは、領地も無事だったということだ。サクは馬から飛び降りると、最初に双海の首に抱きつき、その後次々に皆に抱きついていった。ナフカが顔を真っ赤にしたのは意外だ。
「レオンス殿がバーリンまで行くことを拒否なさって。見届けられたかったのだと思います」
 神聖騎士が言った。レオンスは何も言わない。声を発する気力もないのだろう。レティシアはガブリルの肩にあるウルの弓を見てほっとする。
「良かった。届いたのね。影竜が来なかったから、後の使徒もだめかと」
「この弓のおかげでかなり助かりました。先の使徒の遺体を見つけたのは弓を届けてくれた兵です」
 ガブリルは答えて空を舞うフレイヤに目を向ける。
「あのイーグルはこちらで一緒に戦ってくれました。ここはもうデビルの大軍に飲まれてしまい、竜も精霊も森を守ることに精一杯でお助けできず‥申し訳ありません」
「魂を取られた者はいないか」
 エルンストが尋ねる。ガブリルの顔が曇った。
「残念ですが‥20名ほど」
 後方でアルトスが口の前で指を立てた。その姿はガブリルには見えない。それを見て皆は彼の真意を感じ取る。勘のいいアルトスは皆の顔を見た時から、完全なる平和を取り戻せたわけではないと察していたのだろう。
「バーリンに戻りましょう。しばし休息を。皆さんの馬も既にあちらに移動しています」
 アルトスが馬の手綱を引き、皆を促した。
 最後に山を振り返り、双海が呟く。
「アガレス、もう出てくるな」
 させはしない、と呼応するように影竜の声が聞こえた。