霧の魔法陣

■ショートシナリオ


担当:西尾厚哉

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月11日〜12月16日

リプレイ公開日:2009年12月19日

●オープニング

 濃い霧が頻発するようになった。
 そこはウラル山脈近くの村でたびたび目撃され、時折村近くまで迫るので村人は恐怖に怯える。
 かの地は既にブルメル伯爵領地にも聞き及ぶ「魔法陣」なるもののすぐ近くであった。


「ヴィヌ‥ですね」
 窓の外に目を向けていたアイザック・ベルマン指揮官はレオンス・ボウネルを振り向く。レオンスは何も言わず、椅子に座って自分の左手首を右手で掴んで撫でさすっていた。
「気持ち悪いですか?」
 尋ねると、レオンスは低い声で短く「いいや」と答えた。
 バーリン子爵領地内のブラン鉱脈跡山地に陣取っていたアガレスに左手首を切り落とされ、石化されていたレオンスは冒険者達の手によって救出された。
 大量の出血により衰弱していた彼はバーリン子爵邸で休養し、子爵の息子ガブリルが大切に保管してくれていた自らの凍った手首と共にブルメル城に戻った。その後、ブルメル伯爵の厚情によりキエフの教会で術を受ける。
 なくなった手、取り戻した手、初めての経験に彼も戸惑っているのだろう。
「戦闘中、霧が発生した時に2名の兵が敵陣に特攻で阻止しに行きました。2人とも戻らなかった。ヴィヌを討伐したのかどうかは分かりません。ただ、結果的に霧は撃退した。あの時は」
 ベルマンは言ったが、レオンスはやはり無言で立ち上がる。そんな彼にベルマンは言う。
「まだお顔の色が良くありません。‥と、申し上げてもお聞きにならないのでしょうね」
 ベルマンは苦笑した。レオンスはベルマンに目を向けず尋ねる。
「デスハートンの対象となった者は120名ほどか」
「20名ほどは村にいたアルトス・フォミンの部隊です。あちらも近々動くでしょう」
 レオンスは頷き、背を向けた。その背にベルマンは声をかける。
「レオンス殿、貴方はもうブルメルの指揮官ではない。兵を動かす権限はないのですよ」
 レオンスは立ち止まり、ベルマンを振り向く。「そんなことは最初から考えていない」と答えるつもりだった。しかし、目に映ったベルマンは笑みを浮かべていた。
「ですから、私が命令を出しました。レオンス・ボウネル新指揮官の指揮下で、冒険者と共に霧の地へ向かうようにと。先鋭を3名、それと、魔法陣の力は未だ解明されておりません。ブルメル伯爵が教会に願い、聖水、聖なる釘を多く用意しました。‥どこまで威力を発揮するか分かりませんが‥」
 レオンスの視線が戸惑ったように泳いだ。思ってもみなかった言葉だったのだろう。ベルマンはそんな彼に言葉を続ける。
「これは、主君と奥方の願いです。私の至らぬことの後始末をしていただくようで申し訳ありません。よろしくお願いします。‥それと」
 ベルマンは背に隠し持っていた剣を差し出す。
「お忘れになってはいけません。コムニオン。貴方の剣です」
 レオンスは頷いた。

●今回の参加者

 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

 リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は皆で集めた魂を入れる布袋を軍馬ウツギの鞍に結わえ付けると、ふわりとその背に飛び乗った。
「さ、アガレスは黙ったし、次はヴィヌを。これから先、ずっとね」
 同じく軍馬の背に乗ったレオンス・ボウネルはそれを聞いてもむっつりと無言のままだ。顔色のかんばしくない彼を気遣い、ヴィタリー・チャイカ(ec5023)が声をかける。
「左手は大丈夫か」
 レオンスは素っ気無く「問題ない」と答えるが、とても体力完璧とはいえない様子だ。
「真面目なのはいいが、無茶をしてあまりリーナを悲しませるなよ」
 ヴィタリーが言うと、レオンスは
「どう考える?」
 と逆にヴィタリーに問いかける。ヴィタリーが怪訝な顔をすると、レオンスはひとりずつ皆の顔を見回した。
「霧。如何にも自然発生とは思えぬ濃い霧。我らはヴィヌというデビルを知らないわけでもなく、奴がミストフィールドを使うことも知らないわけでもない」
「魔法陣の存在を知らぬわけでもなし?」
 エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)がレオンスの言葉を継ぐ。
「ふむ‥こちらを煽っていると?」
 と、ラザフォード・サークレット(eb0655)。
 アガレスは魂を魔法陣に送ったとわざわざ言い残している。ヴィヌはバーリン領での戦いでも目立つ動きをしていて、今回も自らを彷彿とさせるような動きをしている。魂を取れば、取り返そうと魔法陣に近づく。その魂をまた魔法陣に取り込んでしまえばまた次の奪還者が来る‥。ここにいるぞとちらつかせながら、奴らは魂の貯蔵を増やそうと考えているのだろうか。
 レオンスは厳しい表情で前方を睨みつける。
「別方向からガルシンのアルトス部隊が魂奪還に動く。時間差は約2日。奴らがそこまでを読んでいるかどうかは分からないが、私は霧を発生させている場所に奴らは奪取した魂全てを保管してはいないと考えるのだが」
「囮の保管場所か、あるいは目くらましのために一部くらいは置いているか。俺がヴィヌならそうするかな」
 ヴィタリーが想像を巡らし言った。
「らしき場所は現地に近づいたらドワーに千里眼で確認させる。上空からの索敵はかなり有効だろう」
 横を歩くキムンカイムの頭に手を置き、エルンストが言う。
「絶対にヴィヌを仕留めないと後発部隊が魂を奪還できないわね」
 リュシエンヌはそう言いながらジニールのスズナが入った懐の香炉を確かめる。
「そしてできる限りの魔法陣弱体化だな」
 と、ラザフォード。
「ヴィヌの使う水魔法は3種。我々はミストフィールドしか見ていない。警戒を忘れぬよう」
 レオンスの声に全員が頷いた。

 雪は足をとられるほどの深さもなく、一行は霧を目撃する村に到着する。村人の話によれば、霧は村の北側の森から発生するという。
「森の向こうは何があるの」
 リュシエンヌが尋ねると、村人は渓谷を持つ、さほど高くない山があると答えた。谷にはいくつかの自然洞があって、中で遥か遠くの地まで繋がっているらしい。
 村人に礼を言い、教えられた北の森に向かう。聞いた通りのまるで湯気に包まれているような森と、その向こうに山の頂が見えた。
「テレスコープを使え」
 エルンストがイーグルドラゴンのフレイヤを飛ばす。ヴィタリーもミミクリーで大鷲に姿を変え飛び立つ。 ヴィヌの射程はどんな攻撃魔法でも長くて30m。それより上からだと森の木々と霧が邪魔をして中の詳細までは確認できないだろうが、フレイヤのテレスコープとドワーの千里眼が情報を入手するだろう。
 霧は森の全てと渓谷の一部を覆い、扇状に広がっている。均一に広がっているところから見ると、クルードはあちらこちらに散らばっているのだろうが、その中のどこにヴィヌがいるのかは特定できない。何より、ここに魔法陣なるものが存在するのであれば、それはどのように判別すればよいだろう。
 ヴィタリーは目を凝らし、旋回を続ける。その時、ふと目についたものに引き寄せられるように彼はそれに近づく。一部がゆっくりと気流を描くような動きをしている。風が何かに突き当たり跳ね返る‥そんな小さな渦が僅かに見て取れる。上空だからこそ見てとれる動きなのだろう。渦を辿るとそれは霧の扇型のさらに10mほど内部で沸き起こっているように思えた。
 ふいにフレイヤが甲高い声で啼いた。知らないうちに近づき過ぎたようだ。慌ててヴィタリーは上空にあがる。すんでのところで水球が空中に散った。

「ヴィヌのもう1つの魔法はウォーターボム、ね。ヴィヌがいると分かったなら月矢が使える。頭は早いうちに潰すわ」
 ヴィタリーの報告を聞いてリュシエンヌが言った。フレイヤとドワーには、騎士のひとりがオーラテレパスを使い、話を聞いた。
「渓谷近くに2本の氷柱が見えるそうです。柱の中には人が。私達の格好と良く似ているとか。霧のせいで一部しか見えなかったようですが」
「もう一つの魔法はアイスコフィン。目印のように立てておくということは、そこが魂の保管場所かね。仮に、ではあっても」
 ラザフォードが肩のローブをばさりと払って言った。
「イーグルはヴィタリー殿と同じものを見ています。魔法陣の境界は、何らかの障壁があるようですね」
「ベルマン隊の兵2名が前の戦闘で戻っていない。氷柱の兵はその可能性があるが、渓谷近くとなると霧の一番奥だ。作戦を練ろう」
 エルンストの言葉に全員が頷く。
 まずはヴィヌ。リュシエンヌの月矢は射程が長い。霧の外からヴィヌ指定で月矢を数発放つ。魔法陣内にいるがゆえに月矢が阻まれた可能性を考え、他の者は聖なる釘、聖水を持ち、地に放ちながら魔法陣の威力低減を図りつつ奥に迫る。合わせて上空ではフレイヤとミカヤが聖水と聖なる釘、ヴィタリーから渡されたホーリーガーリックを森の中に投下して魔法陣の分断化を図る。地上班のサポートはスズナとドワー、アースソウルのリトスだ。冒険者達は騎士から士気向上魔法を付与される。レオンスはコムニオンでレジストマジックを発動し、他の騎士にも剣を渡して同魔法を付与させた。
「スズナ、ストームでクルードやヴィヌを思う存分転がしておやんなさい。行くわよ!」
 リュシエンヌの声を皮切りに攻撃開始。まずは月矢。弧を描き、輝く矢は森の中央あたりに飛んでいく。その軌跡を睨みながら全員が走り出した。続き、二本目。空のフレイヤが鋭い声をあげる。その後、ミカヤの声がヴィタリーに届く。
『月矢の光は落ちる前に消えましたぞ』
『そこに聖水と釘を投下しろ』
 ヴィタリーは答え、リュシエンヌを振り向く。
「残念ながら月矢無効!」
「了解」
 リュシエンヌはオルフェウスの竪琴を取り出し、皆と同様に霧の境界まで走る。確かに感じる。先に何かの気配が。恐らく皆も感じていることだろう。ヴィタリーはニュートラルマジックを発動した。しかし霧は晴れない。
「効かない」
 彼の声にレオンスが答える。
「クルードの霧は奴の特殊能力でミストフィールドではない。だから解呪できないのかもしれん」
 と、すれば地道に奥に進むしかないのか。
 10m先は遠いが、リトスがプラントコントロールで皆の前にバリケードを作った。聖水を投げ、騎士が釘を地面に打ちつけ、その釘に素早くヴィタリーが持って来た祈紐をかける。そして一歩奥へ進む。奥でひしゃげたような悲鳴が聞こえる。空から撃ち込むフレイヤとミカヤの聖水や釘に触れたクルードの声だろう。魔法陣の境界に近くなった時、リトスのプラントコントロールが威力を発揮しなくなった。木々が動かなくなったので、全員が自分の周囲に細心の注意を払って釘を打ち付けることになる。
 急に手にびりりとした衝撃を感じてヴィタリーは思わず手を引っ込めた。何も見えないが、再び手を伸ばすとまたもや指先にぴりっと何か衝撃が走る。これが境界か。衝撃を感じたからといって怪我をするわけでもないが、本能的に越えたくないという意識が働く。
「ヴィヌ」
 リュシエンヌの声が聞こえ、光の筋が僅かに見えた。しかしそれは霧の向こうでシュンッ! と消えた。
「どうやら魔法陣の中は魔法の威力が軽減されてしまうようね」
 彼女は言った。その直後、竪琴を持つ彼女の腕に細い紐のようなものが絡みつく。クルードの尾だ。傍にいたラザフォードが咄嗟に短剣で切りかかった。リュシエンヌからは尾は離れたが、途端にあちらこちらから尾が伸びる。
「スズナ!」
 リュシエンヌの声と共にスズナはストームを発動する。尾は引っ込んでいったが、思うような効果が得られたのかどうかは分からない。
「みんな、こっちへ!」
 ヴィタリーはホーリーフィールドを張った。
「このままでは分が悪い。作戦を。どんなに威力が低くなっているとはいえ、釘も聖水も効果を発揮しないわけじゃない。魔法も然り。扇状に広がった魔法陣の奥の先端部分に氷柱がある。その距離は約300m。まっすぐにそこへ向かって聖なる釘と祈紐の通路を作ってしまうというのはどうだろう」
 ヴィタリーの提案にラザフォードも同意する。
「そこさえ押さえてしまえば魔法の発動も遠慮なしだ」
「上空からの投下であちこち穴あきになっているだろうから、魔法陣の威力も相当弱まるだろう」
 と、エルンスト。
「全員あまり離れないほうがいい。先頭は私が行く。釘を刺していくから祈紐や聖水を願いたい。レジストマジックは付与しない。騎士は術者殿の補佐を」
 レオンスの声にエルンストはミラージュコートを彼に手渡した。レオンスは「感謝する」と答えてそれを受け取る。レオンスの姿が消えたと同時に再び行動開始。
「ヴィタリー、ヴィヌは焦って必ず姿を現す。聖歌を歌うから祈紐をつけながらキミもお願い」
 リュシエンヌが竪琴を鳴らした。ヴィタリーは頷く。リュシエンヌの声は音をこだまさせない霧の中にあっても大きく届いた。彼女の声が発せられた途端、クルードのぎぃぎぃという苦悩の声が聞こえ、伸びかけた尾が慌てて再び霧の中に戻される。ヴィタリーも声を張り上げた。
「騎士殿、頼む」
 ラザフォードは直径50cmほどの岩を見つけ、騎士にオーラパワーを付与してもらう。それをサイコキネキスで霧の中に投げ込んだ。ズゥンという地響き。
「魔法の効果が薄くとも、実際に落ちる岩の重さまでは軽減できまいよ」
 ラザフォードはそう言い、
「騎士殿、岩でも巨木でも何でも良い、見つけ次第パワーを。左右に次々投げ込んでやる」
「御意」
 騎士は答えた。
 釘を打つ、祈紐をつける、前に進む、歌を歌う、聖水を振り撒く、岩を、木を投げ込む、遠くで上から投げ込まれた聖水と釘に怯えて叫ぶクルードの声が聞こえる‥‥そうして約2時間かけ、先頭のレオンスは指先に触れた冷たいものに気づき顔をあげた。氷の柱だ。手で辿り、立ち上がる。透明なその柱の中に閉じ込められた兵の顔を見た時、心底ぞっとした。奴らは兵をアイスコフィンで凍結したあと、その周囲に更に氷を作り、ご丁寧に磨き上げている。手で更に辿ろうとしたとき、霧の中からぬっと現れた黒いものにレオンスは自分がアイスコフィンをかけられたかのように凍りつく。ヴィヌだ。黒いものは奴の乗る馬。氷柱に気をとられ、釘を打ち付けることを忘れていた。まずい、後方から仲間が近づく。レオンス自身は姿を隠しているが、仲間はそうではない。このままでは待ち伏せだ。
 意を決し、レオンスは持っていた釘を思い切り馬の足に突き刺した。つんざくような嘶き、崩れ折れる馬から身を翻し、レオンスは叫んだ。
「リュシエンヌ‥!」
 水球が飛び、それと交差するようにリュシエンヌの月矢が宙を走る。咆哮と共に背に水の威力を痛みとして背に感じた。
「任せろ」
 ミラージュコートの威力がきれ、姿の見えるようになったレオンスの手からエルンストが聖なる釘を掴み走り出す。させまいと伸びるクルードの尾には主を守ろうとドワーが爪を振るう。ヴィタリーのブラックホーリーも援護する。そのエルンストを越え、リュシエンヌの月矢が再び飛んだ。再度の咆哮と共に黒い塵と化して空中に雲散するヴィヌを視界の端に捉えながら、エルンストは氷柱下に聖なる矢を挿す。ドクンドクンという脈動のような空気の動きが皆に伝わり、聖なる矢を中心にして僅かに霧が晴れた。

―ザアァァァッ‥!

 黒い群れが一斉に飛び立つ。背後にインプが待ち受けていたか。飛び立つ彼らの手にいくつかの玉が握られているのを見て、ヴィタリーは上空のミカヤに叫ぶ。
「逃がすな!」
 そして目の前を過ぎるインプをビカムワースで落とす。落ちたインプの手から魂の玉をひとつ。
 霧が晴れていく。
「見えるなら砕く!」
 ラザフォードが聖なる釘で作った道から足を踏み出すと、グラビティーキャノンを発動した。続き、騎士2名も外へ。
「ヴィタリー! 解呪を!」
 リュシエンヌが呼んだ。氷柱は左右に一本ずつ。中には兵がひとりずつ凍っている。その柱の間に同じく氷で作られたような巨大な器があった。
「中に魂は2つだけ」
 エルンストが言った。
「ミカヤが飛び立った奴を阻止したと思うが‥」
 ヴィタリーは空を見上げるが、ここからでは分からない。何にしても中の兵を助けるべきだろう。ニュートラルマジックを発動する。氷が融け、どさりと地面に崩れ折れる兵をエルンストとリュシエンヌが助け起こす。
 ラザフォードとレオンス、騎士2名が来た。
「ここに魔法陣があったというなら、もう威力はほとんどなかろう」
 ラザフォードは見てみろというように森の中を指差す。霧はもうなかった。沈みかかった夕日の赤い色の中に、あちこちに突き刺さった聖なる釘が光っている。
 空にいたミカヤが十数個の魂を持って降りてきた。複雑な表情で恐る恐るヴィタリーに差し出す。
「数は足らない、な? 空のものは全部取り戻したけれど」
「いや、お前はよくやったよ」
 主の言葉を聞いて、ミカヤはやっとほっとしたような表情になった。
 取り返した魂はちょうど20個。残り100個は既にインプが持ち去ったか、もともとここにはなかったか。ヴィヌは自分達がもっと優位であると考えていたのだろう。しかし、山ほど持ち込んだ聖なる釘や聖水、祈紐で道を作られるなど想像もしていなかったに違いない。
 助けた兵はやはり前の戦闘で特攻に走った2名だった。デスハートンを使われてはいなかったが、かなりの傷を負っていたため、騎士が手持ちの薬で癒す。
 最後にラザフォードが渓谷と森の境に岩を積み上げ塞ぎ、それに皆で残りの祈紐をびっしりとつけた。
完全な形ではないが、奴らがまたこちらに広げるにはこの岩をどかさなければならない。ヴィヌの力で広げた魔法陣ならば、ここが分断されたことで威力は半減以下、後発のアルトス部隊も魂を奪還しやすくなるだろう。
「アルトス、頼んだぞ」
 レオンスの呟きを聞きながら一行は助けた兵2名と共に任務を終了したのだった。