魂の奪還

■ショートシナリオ


担当:西尾厚哉

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月14日〜12月19日

リプレイ公開日:2009年12月21日

●オープニング

 魂を取られる、というのはこういうことなのか‥。
 ガルシン伯爵の元で指揮官を担うアルトス・フォミンは小さく息を吐く。
 デスハートンの対象になった兵は、少し動くと痛そうに腰を押さえたり、足をひきずったりする。しかし傷めているわけでもないし、もちろん薬を飲ませても治らない。「生気が減ってしまった」という言葉がふさわしい感じだった。
 アルトスの部下は20名ほどだが、ブルメル伯爵側の隊は100名ほどにも及んでいるから、かなり不健康な雰囲気だろう。早急に取られた魂を奪還せねばならない。
 自分に近づいてくる兵に気づき、アルトスは振り向いて声をかけられる前に問う。
「来たか」
「はい、ガルシン伯爵がお呼びです」
 返事と同時にアルトスは踵を返していた。


「レオンス・ボウネルが3名の騎士を連れて魔法陣に向かうそうだ。ギルドの依頼で集まる人数はこの手紙では明らかではないが、多く見ても10名程度であろう。ヴィヌを討伐し、教会から託された物で魔法陣とやらの弱体化を図る」
 レオニード・ガルシンは文に時々目を走らせながらアルトスに言った。
「さて、魔法陣とやら」
 考え込むように眉根を寄せる。
「こちらも何らかの浄化物や魔法を用意するかね。レオンス部隊がヴィヌを倒せば、別方向からの侵入もたやすくなるだろう」
「そうですね‥」
 アルトスも考え込む。
「聖なる釘、教会で使用した布、聖水‥‥、しかし、隊の中ではオーラか精霊魔法を使える者は僅かしかおりません」
「黒魔法を使う神聖騎士を若干名願ってみようと考えているが‥‥レムからの話を聞いたか?」
「は? レム様の? 何のことですか?」
 アルトスは怪訝な顔をする。アルトスはエルフの少年サクの面倒を見ているが、レムはそのサクの魔法の師匠だ。
「アルトスが聞いたら怒るから言わないほうが良いだろうかと迷っていたが、やはり言わなかったか」
 レオニードは苦笑する。
「サクは郷里であるエルフの村の冬支度もある程度整ったから、ヴィーザ(白金戦姫)と一緒にこちらに戻るということだ。それで魂を奪還しに行くから師匠もよろしくと手紙を寄越したらしい」
「はあっ??」
 アルトスは目を剥いた。‥何を考えているんだ、あいつは! レムは高齢だぞ! その師匠を弟子の分際で引き連れて‥‥引き連れて‥‥‥魂奪還だと?!!!
「‥何とも‥躾が行き届きませず、申し訳ありません。レム様には後ほどお詫びを‥」
「詫びなどいらぬ。これはレムとサクで合意したことのようだ」
 恐縮するアルトスにレオニードは言った。
「レムは四大精霊魔法の修得者だ。邪悪な力で閉ざされた場所ならば、レムの知識は何らかの突破口を見出すだろう。レオンス・ボウネル隊が弱体化攻撃についているならなおのこと。今なら奪還できる。ギルドにも依頼を出す。‥‥行けるな?」
「‥御意」
 アルトスは納得できない様子だったが頷いた。彼の心配はもちろん高齢のレムと、まだ僅か8歳のサクのことだ。雪はもう深い。老人と子供を連れて魔法陣になど‥‥。ギルドに依頼をするからというレオニード・ガルシンの言葉がなければ彼は意地でも反対したかもしれなかった。
「アルトス」
 レオニードの声にアルトスは顔をあげる。彼は笑みを浮かべていた。
「サクは‥ずいぶんしっかりしたものだな」
 アルトスは目を伏せた。怯えた顔をしたサクの手を引いてやっていた頃のことをふと思い出したのだった。知らないうちに自分で考えて行動するようになって、と、少し寂しい気もした。

●今回の参加者

 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7465 シャルロット・スパイラル(34歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

「毛皮の褌を二枚重ねたが、もう一枚重ねたほうが良かったかの」
 双海一刃(ea3947)の蒙古馬、椛児の背に乗ったレムがいきなり傍にいた陽小明(ec3096)にそう言ったので、小明は思わず目をしばたたせた。
「お? いや、すまぬ、すまぬ、若い娘さんに尋ねることではなかったわい」
 レムはほっほっほと口をすぼめて笑う。
 雪はさほど深いものではなかったし、天候も悪くなかったが、老体にはこたえるのかもしれない。
「シャルロット、アドバイスすれば」
 双海がシャルロット・スパイラル(ea7465)に言う。
「うーむ、年寄りは冷えがくるとなかなか‥‥ええい、何を言わせる! 私はそんな年ではないわっ!」
 確かに。レムはシャルロットなどかる〜く倍は超えていそうな年齢だ。
 ガルシン伯爵が馬を出してくれたので全員が騎乗。空からは白金戦姫のヴィーザとルームのロランがついてくる。やっぱりついてきたか、ロラン、といった感じだが、当のロランは意気揚々だ。サクの連れた忍犬茜と双海の忍犬藤丸は互いを知っているので、時折雪の上でじゃれあう。
「藤丸」
 さすがに先輩忍犬藤丸は、双海のそのたった一言でぴたりと遊ぶのをやめた。茜が物足りなさそうにサクを見上げる。サクはといえば、少し表情が強張っている。指揮官であり、サクの保護者的立場のアルトスに、内緒で師匠を戦地に誘うなど、とひとしきり絞られたようだ。アルトスは何度もレムのほうを振り向く。老体であることはもちろん、ガルシンにとっても大切な人材である人に何かあっては面目が立たないと気が気ではないのだろう。
 別隊でヴィヌ討伐に向かったレオンス隊が立ち寄った村と同じ村に到着した一行は、先の隊と同じく村の北側の森から霧が沸き起こっていること、森の向こうには渓谷を持つ山があるということを知る。そして谷にはいくつかの自然洞。
「こりゃまたいかにもな場所を選んだことだわい」
 小枝で地面に村人の話を元に簡単な地形図を書いたレムはそれを見ながらなぜか嬉しそうだ。
「レオンス隊は霧発生の森に向かったであろうな。さて、我らはいずこから近づくかね」
 シャルロットが地面を見つめて言う。
「森を通らず渓谷に入る近道があるかね?」
 レムは村人に尋ねる。村人は気遣わしげにレムとサクを見た。
「ありますが少し険しい道です。雪も積もっているし、ご老人と子供では‥」
「ふむ、雪上と山岳知識に長けているお方はお見えかな?」
 レムが振り向いたので小明が口を開く。
「私が」
「私もある程度の知識を持っているぞ」
 と、シャルロット。レムはにこりと笑う。
「では、大丈夫じゃ。歩くのに疲れたらおんぶしてもらおう。体の大きな騎士もおられることじゃし」
 悪戯っぽくそう言い、横にいた神聖騎士の横腹をどんと叩く。老人とは思えぬ力に騎士が「ごほっ」とむせた。

 馬を預け、教えてもらった道に向かった一行だったが、村人が言った通り渓谷に入る道は険しく、人や馬が通らないせいか雪の深さもこれまでの比ではなかった。
「そこはだめです」
「ぎゃぷっ!」
 小明の声と同時にサクの姿がいきなり消える。深みにはまり込んだのだ。咆える茜をアルトスが「しっ!」とたしためる。
「ちゃんと指示を聞きなさい」
 アルトスが引き上げてやりながらサクを叱る。
「私が手を引きましょう」
 小明の差し出した手を雪まみれのサクは顔を赤くして握った。
「‥静かだな‥」
 双海が白い息を吐いて周囲を見渡す。レオンス部隊はヴィヌと遭遇した頃か、それとも森の中で霧と格闘している頃か。
「音は届かずとも、忍者のそなたなら感じておるであろう?」
 レムが答える。双海はその言葉に小さく頷く。ウジャトを使ったこともあるが、時間が過ぎるごとに嫌な重苦しい空気を感じる。本能的に近づきたくない、という気分が沸き起こる。レムは足を止めてふうと腰を伸ばす。
「谷には自然洞があると聞いたじゃろう? 恐らくそこからあちこちに続く魔法陣の力が谷に噴出しておる。まずは森に流して範囲を増やすつもりじゃ。しかし、森への道は遮断されるじゃろう」
「遮断?」
 双海は目を細める。レムは笑った。
「賢なる冒険者が共に戦っているのなら、誰に言われずともそうする。それが冒険者の積み重ねた経験じゃ」
「師は魔法陣をよくご存知なのですか?」
 アルトスが尋ねる。
「ぜーんぜん知らん」
 あっけない答えに一同は思わず口を開く。レムはよっこらしょと再び歩き出した。
「知らんがの、なんとかなる」
「あ、そこは‥」
 シャルロットが声をあげたが
「ぎゃぷっ!」
 レムの姿が雪に消えた。
「そ、そろそろ‥雨雲を呼んでおくかの‥」
 双海に助け出されながらレムは言った。


 数時間かけて、谷を見下ろす場所に来た。うっすらともやに包まれ、地が黒々としている。デビルの群れだ。
「なんと気持ちの悪いこと」
 空から降りてきたヴィーザが黒くうごめくさまを見て呟く。嫌な気配は単にデビルが群れを成しているからだけではないということを今は皆が感じていた。
「インプ‥アガチオン‥グレムリン‥グザファン‥ネルガルもいますね」
 目のいい小明が見渡して言う。
「クルードはさすがに出払っておるのかね。しかし、魂の置き場所が分からんな‥」
 と、シャルロット。
「大事なものは一番近づきにくいところにあるもんじゃ。自然洞から力が噴出しておるのなら、その近くであろうな」
 レムは空を見上げた。
「雨雲はもうしばらくかかりそうじゃな‥。さて、どうするかな」
 そして皆を振り向く。
「双海殿と小明殿が雷公鞭をお持ちなのでな、天候を変化させておいた。しかし、魔法陣となれば魔法が最大に力を発揮するとは思えんのだ。わしとお二方で一気にヘブンリィライトニングを投下したところで恐らく威力は半分以下。兵法にはわしは疎い。知恵をお借りできぬかな?」
「ふむ‥」
 シャルロットが皆の顔をぐるりと見回す。
「神聖騎士の黒魔法、私とリオートの火、ヴィーザの風、アルテイラとロランの月、サクの地と水‥」
「直接攻撃はアルトスと神聖騎士5、俺と小明、忍犬2‥」
 双海がシャルロットの言葉を継ぎ、
「手持ちは聖なる釘、聖水、教会から託された布がいくつか」
 と、アルトス。おや? と全員が思う。デビルの群れを見た時、一瞬こちらは劣勢ではないかと考えたのだが、そんなに分が悪いわけではない。つまり、動き方次第だ。
「威力は低くとも、奇襲となれば混乱はするだろう。見たところ統率をするような上位デビルもいないようだし、初回で一気にどれだけ混乱させ、態勢建て直しまでにダメージを与えられるか、かね」
 シャルロットが黒い群れを見つめて言った。
「雷を初回に一気に3方向に落とそう。俺と小明は聖なる釘を持って直後に谷に降りる。あちこちに釘を打ちつけながら戦闘だ」
 と、双海。それを聞いて小明も頷く。
「私達も散って同じく釘と聖水を」
 アルトスが続く。
「ふむ、ではわしは重力波で道を作ってしんぜようかね。ああ、ヴィーザ、そなたもストームで弾き飛ばして援護するが良いぞ。最初は効きが悪いであろうが、入り込む隙間くらいは作れるじゃろう。サクは谷の上に枝で屋根を作りなさい。飛ぶ奴が魂を持って逃げんようにな」
 自分の出番はないのではないかと思っていたサクは師匠の言葉に嬉しそうに頷く。
「おもろなってきたやん」
 ヴィーザが思わず素を出した。
 敵中に入るとあとはひたすら攻撃あるのみだ。双海、小明、騎士達とアルトスはそれぞれ士気向上魔法とレジストファイヤー、バーニングソードの付与を受ける。デスハートンに対する防御は士気向上による抵抗しかないが、これで火魔法も気兼ねなく打てる。
「月精殿は師とサクの傍に願えるか」
 アルトスが言うと、ロランは頷いたがアルテイラがロランを見て微かに不安そうな顔をした。ぴんときたヴィーザがアルテイラに笑みを見せる。
「心配ない。このどあほうが手を出したら私が槍で貫いてやるから」
「どあほうとはなんだ、どあほうとは」
 ロランが鼻息を噴いた。双海はくすりと笑い、藤丸にも残るよう指示する。
「茜も一緒にいるから大丈夫だよ」
 と、サク。小明はそのサクにそっと話しかける。
「さて、サク、そろそろ手を離してもいいですか」
「わあああああっ! ごめんなさい!」
 自分を引いてくれていた小明の手が心地良くて、ずーっと握り締めていたサクだった。


 皆で息を合わせることが勝利への近道。
「ここはまだ魔法陣の外じゃ。入り込む時に何らかの衝撃があるじゃろうが、臆することなく進まれよ。それと魂の置き場所を見つけたら教会の布を被せてくだされ」
 レムの申し出に双海、小明、騎士とアルトスはそれぞれ布を懐に入れる。双海がロランを振り向く。
「ロラン、俺達とテレパシーを繋いでおいてくれ」
「心得た」
 任せろというようにロランは胸を反る。
 いざ。シャルロットがリオートを召還した。
 双海、小明、レムのヘブンリィライトニング。同時にヴィーザのストーム、魔法の効果を見定めることなく、既に双海と小明は魔法陣に足を踏み入れている。少し遅れてアルトスと騎士。魔力が低くともシャルロットとレム達が援護をしてくれるという信頼がある。肌に感じるびりりとした感触。重くのしかかるような嫌な気配。双海は最初の釘を地面に打ちつけ、飛び掛るインプの首を切り落とす。釘を刺すことを邪魔しようとしたアガチオンの足をさらりと払い、目的を達したあとにガキリと一発見舞う小明。更に道を作る重力波。あちらこちらで火花が散る。シャルロットとリオートの火魔法攻撃も開始されたのだ。
「焼あぁぁぁき尽くせぇぇぇ!」
 さすがにシャルロットのその声までは届かなかったが、
「ハイナァァァァァ!」
 というリオートの声は聞こえた。
「サク、こりゃ! 早く屋根を作らんか!」
 師匠に叱られ、サクは慌ててプラントコントロールを発動する。皆の攻撃に目を奪われていたのだ。しかし一部のデビルが外に飛び出してしまう。
「任された!」
 ヴィーザが後を追う。
 レムはしばし戦闘状況を観察する。火魔法に対する防御を付与したのは結果的にグザファンやネルガルからの攻撃からも彼らを守ることになったようだが、逆に言えばこちらからの火攻撃も効果が薄い。しかし、他の広範囲魔法を使うと味方にもダメージを与えかねない。防御効果が切れるまで敵が残ってしまうと余計厄介だ。
 それについてはヴィーザが動いた。彼女は逃げ出したインプ数体を片付けたのち、上から槍を投げた。どうやらしらみつぶしにグザファンとネルガルを射止める気だ。透明化したネルガルは残るかもしれないが、最後にブリザードで雪まみれにしてしまえば一掃できるだろう。
 再び攻撃に戻ろうとしたレムは
「お、これはいかん」
 と慌てる。点々と地面に打ち付けられた聖なる釘と聖水で黒い波に偏りができ、魔法陣外にいたレム達にも気づいて近づきつつあったのだ。ええと、何を発動するかな、と考えているとサクがプラントコントロールを発動する。しかし多くを取りこぼしてしまう。
「わーんっ、お師匠様あああっ!」
 サクの悲鳴と共にレムはアイスブリザード、それでも取りこぼした奴はロランが直接攻撃で爪をふるい、藤丸と茜も動いて撃退した。
「やれ、年をとると咄嗟の判断が遅くなっていかんわい」
 少し離れた場所にいたシャルロットは大丈夫かとレムは顔を巡らせるが、そちらは案ずることはなかった。
「シャルニ、手ヲ出スト承知シナイネ!」
 リオートが片っ端から鉄拳を飛ばしていたのだ。
 一時間後、双海はきらりと光るものを視界の隅に感じ取り、目の前のインプを叩き切ったあとそちらに向かう。見るなり彼は持っていた最後の釘を地面に打ち付けた。そこは自然洞のすぐ脇で、目の前にあるのは2mほどの高さの巨大は氷柱。その中には2体のアザゼルが抱えた巨大な器。器の中に無数の玉。
「悪趣味なことをしやがって‥」
 双海は呟き、背後から来たアガチオンの気配に振り向きざまに剣を躍らせる。自然洞を見上げた。入り口の高さは3mほど。奥は分からないがそこにいるだけで何かの重さに押しつぶされそうになる。洞から他の魔法陣の力が噴出しているというレムの話の通りだ。ロランにテレパシーを送る。
『魂の置き場所を見つけた。森と反対側の一番奥、東側の斜面、自然洞の脇だ。聖なる釘がもうない。布を被せるが大きさから見て防御しきれない』
 ロランはそれをレムに伝える。
「ほう、やはり洞の傍にあったか。ではそれを皆に伝えて加勢に向かうよう願いなさい」
 レムはそう答えてシャルロットに声を張り上げる。
「シャルロット殿! 5分後に最大力で一掃しますぞ! 右手側に味方が集まりますでな!」
「了解」
 シャルロットは頷いた。
 味方が分かる場所にしかいないとなればもう遠慮なしだ。シャルロットもリオートもヴィーザもレムも広範囲魔法を一気に放つ。残ったデビルは数分もたたないうちに消滅した。


 サクの作った枝の屋根が外れた。途端に白いものが落ちてくる。雪だ。
「森での方々はヴィヌを倒したのであろうな。そうでなければここまでうまくはいかん。ここに来たときより相当嫌な気配が薄まっておるわい」
 白い息を吐いてレムが言った。デビルがいなくなって初めて分かったが、自然洞は5つあった。レオンス隊が誰に言われるまでもなく谷の入り口を塞いだはず、と言ったレムの言葉がようやく分かった。自分達も今はこの5つの洞の入り口を最後には埋めていくべき、と思うからだ。しかし、まずは魂の奪還だ。恐らくアイスコフィンで固められているのだろうが、解呪するとアザゼルが動き出す。
「幸い雪雲もまだある。最初の手で、もう一度いきますかの」
 レムの提案に全員が頷く。左のアザゼルはレムと双海が、右のアザゼルは小明とヴィーザが。騎士がアイスコフィンを解呪した。閃光にサクが目を閉じる。鋭い咆哮。目を開いた時、真っ先に見えたのは足元に転がってきた白い玉だった。慌ててそれを拾う。
「サク、魂を教会の布に包むぞ。手伝え」
 アルトスの声にサクは頷いた。

 自然洞はレムが重力波で崖を崩していくつかの岩を作ったのちサイコキネキスで運んで入り口を封じた。
「これで全て終わったのでしょうか」
 小明が周囲を見渡して呟く。
「終わりなぞありゃせんよ」
 くたびれたように腰を降ろしていたレムが笑みを浮かべる。
「世界の営みは永遠に続く。悪しきものもまた然り。だが、営みを続けるものは何より強い味方を得るもの。それはな、経験、じゃよ。積み重ねた時間と経験だけは、何にも負けぬ力を生み出すじゃろう。大切なのは諦めぬことじゃ」
 レムはよっこらしょと立ち上がる。
「さあ、帰ろうか」
「帰りは私とロランで空から運んであげる」
 ヴィーザがにっこり笑って言った。

 100個の魂全て奪還。任務終了。