【聖夜祭?】貴方の言葉とその愛を
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■ショートシナリオ
担当:西尾厚哉
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月29日〜01月03日
リプレイ公開日:2010年01月05日
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●オープニング
リーナ・バーリンはほぅと息を吐く。雪景色の窓の外を見ているようで、実は視線は遥か彼方。頭の中は別のことでいっぱいだ。
バーリン子爵領地はずっとデビルの脅威に怯えていた。しかし、その戦いも終わった。レオンス・ボウネルとアルトス・フォミンが冒険者の力を借りて全ての魂を取り戻したと報告を受けたのはつい昨日のことだ。
「レオンス様‥ご無事で良かった‥」
体調も万全ではなかったはずの彼がヴィヌ討伐に動き出すと兄のガブリルから聞いた時は気が気ではなかった。彼はアガレスに手首を切り落とされ、救出された直後は動くこともままならず、このバーリン邸で休養をしたばかりだ。
「うふ」
リーナは自分の手で自分の頬を押さえて笑みを浮かべる。不謹慎かもしれないが、愛しいレオンスの看病をした時間が夢のようだった。彼の顔をあんなにも近くで、あんなにも長い時間見つめ続けられたなんて。
たいした会話をしたわけではない。もともとレオンスは言葉数が少ない。去る時も「感謝いたします」と当たり前の礼を口にしたのみ。
リーナが
「シフール便が止まってしまっていたので、こんなに溜まってしまって」
と、彼に出す予定だった手紙の束を見せ、
「また、少しずつ出してもよろしい?」
そう尋ねるとレオンスはいつもの通り、
「返事は書きません」
と答えた。
「でも、差し戻っては参りませんもの。それは貴方のお手元に届き、読んでくださっているという証でしょう? 私、それで充分です」
そう言うとレオンスは戸惑ったような表情を浮かべて目を伏せた。
「ご迷惑なのでしょうね‥困らせてごめんなさい‥。でも‥私‥」
頬に微かな気配を感じた。顔をあげると彼の指がそっと伸びてきたところだった。レオンスの口が何かを言おうと微かに開く。
‥あの時、兄がノックをして入って来なければ、今まで聞いたことがない彼の言葉が聞けたのだろうか。
それとも前に精霊の背に乗ってしてくれたようなキスがもらえたのだろうか。
リーナは想像を巡らせてひとりで「きゃ〜〜〜」と小さな悲鳴をあげた。
その時彼女は自分の知らぬところで着々と計画が進められているなど思ってもいなかった。
そしてもちろん、リーナの想い人であるレオンス・ボウネルも。
「ソフィア様、誠に申し訳ないのですが、あの2人については少し早急過ぎると存じます」
ロジオンが困惑した表情でブルメル伯爵夫人に言う。
「何を言うの。いいこと? リーナもお年頃、あっという間にあちらこちらから縁談が舞い込みますわ。位の高いところからの縁談となればバーリン子爵もお断りすることが一苦労。そうなる前にブルメルのほうで子爵に申しあげようと言うのですよ。何の不都合があるというのです」
ブルメル伯爵夫人は譲らない。
「不都合があるわけではないのですが‥」
「ああ、もう。じれったいわね。じゃあ、レオンスはリーナを好きではないというの?」
ブルメル伯爵夫人はロジオンに畳み掛ける。
「いや‥そんなことはないでしょうが‥」
リーナに他の縁談が来てしまう前に、ブルメル伯爵夫人はブルメル家としてレオンスの結婚を促す先手を決めようという魂胆だ。それは一見、正しいことのように思えるのだが、こと、レオンスとリーナ・バーリンの関係については何かと難しい。何が難しいかといって、レオンスだから難しいのだ。リーナがレオンスに熱をあげているのは誰もが周知するところだし、彼女が一週間も置かずにレオンスに手紙を書いていることも知っているが、言うなればそれだけのことなのだ。当のレオンスは恐らくリーナに一度も返事を書いたことはないだろうし、彼女自身に明確な心の内を伝えたこともないだろう。
‥‥もちろん、憶測でしかないけれど。
でも嫌っているならあのレオンスならまず手紙を受け取らない。受け取るということは好意があるということだ。しかし。
レオンスは複雑な生い立ちや経歴を持つ。常に他人とは距離を置きたがる。今まででレオンスがその時の自分に正直に動いてきたことといえば戦闘時と‥‥‥ん? 戦闘時?
ロジオンはふと思いつく。
そうだ。レオンスの本心を一番うまく引き出せるのは自分達より、冒険者や精霊達かもしれない。
その証拠にレオンスは冒険者達と関わりを持つことで少しずつ表情を取り戻しているではないか。そうだ、そうしよう。
ロジオンは伯爵夫人に向き直る。
「バーリン子爵のところにレオンスを行かせましょう」
「え?」
伯爵夫人は目をぱちぱちさせる。
「今は聖夜祭の時期ですが、バーリン様地は先の戦闘でまだ復興が不十分ではないでしょう。とても聖夜祭どころではありません」
「おお!」
伯爵夫人は顔を輝かせる。
「それで、レオンスに助けに行かせるのですね! そしてリーナに求婚しろと!」
「いや、ま、そんなそこまでうまくはいかんでしょうが、レオンスは冒険者の方には心を許すことが多い。彼らがうまく促してくれればあるいは」
「そうなれば結婚式ね!」
伯爵夫人は子供のように顔を上気させてはしゃいだのだった。
かくして、ギルドには珍しいオモテとウラのある依頼が出ることになった。
(オモテ)
●バーリン子爵領地での聖夜祭開催の手助け。かの地は戦地となったため、村の復旧は不十分。復旧助力後開催のこと。
(ウラ)
●レオンス・ボウネルとリーナ・バーリンの仲が進展するよう取り持っていただきたい。現在はリーナ嬢が手紙をレオンスに送るだけに留まっている。2人をできるだけ早く結婚させたいというのが依頼主の願いである。
もちろんこのことは本人には秘密裡である。
●リプレイ本文
予想外の大雪。
前の晩に降り積もった雪が応急処置だけだった家々の屋根を押しつぶさんばかり。
レオンスがシャルロット・スパイラル(ea7465)に駆け寄る。
「火魔法を頼む。下の雪が固い」
「了解した」
シャルロットはリオートを召還し、急いで作業に。再びレオンスが口を開く前に別の甲高い声が響く。
「リエスー!」
エルフの少年サクだ。抱き合う木霊リエスとサクに双海一刃(ea3947)は思わず問う。
「おまえ、なぜここにいる」
「うん、ヴィーザが迎えに来てくれたの。僕もお手伝い。だってね、年を越したらけっこん‥‥」
「うぉっほん!」
エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が大きく咳払いをし、双海は慌てて声を張り上げる。
「サク! ちゃんと茜の躾をしているか! 俺がちょっと見てやろうっ!」
急いでサクの腕を掴み引き摺って行く。レオンスが妙な表情でエルンストを振り向いたが、エルンストはそしらぬ顔で「さあ始めようか」と言った。
シャルロットが火を操り、緩めた雪をリオートが屋根からそっと下ろす。下に降ろした雪は双海と蒙古馬の椛児、キムンカムイのドワー、兵達が運ぶ。倒れた柱や崩れた屋根はシャルロットの設計技術を仰ぎ、リエスとサクがプラントコントロールで立て直した。
しばらくしてリーナの声が聞こえた。ロランの背で大きな布袋を抱えている。
「皆様、焼きたてですーー!」
どうやら山ほど焼き菓子を作ってきたらしい。
「屋敷のほうも大変ではないのか?」
双海の問いにリーナは頷いた。
「ええ、でももっぱら雪かきです。使用人達で大丈夫」
そして温かい焼き菓子を双海の手に乗せた。それをシャルロットにも渡す。
「あちらでエルンストとレオンスが作業しているのだが」
シャルロットが言うとリーナは途端に顔を赤くし、
「そうですわね! 食べていただかなくては!」
よいしょ、と袋を持つが持ち上がらない。
「姫よ、私が」
いいところを見せようとロランが持ち上げたが、人型の状態ではとてつもなく重かったようで、よたよたしながらリーナの後を追って行った。
「便利だな‥」
エルンストが使うドモヴォーイの箒は、崩れて散らばった家の木片をあっという間に片付けてしまった。レオンスは感心したようにそれを眺める。
「整理整頓は物事の基本だ」
淡々と答えるエルンストにレオンスは頬をぴくりとさせる。どうやら整理整頓が苦手らしい。エルンストは腕を組んでレオンスを見る。
「それは自らに関わること全てにおいてだ。おまえはリーナ嬢のことをどうするつもりなのだ? 聞けば手紙の返事も一度も書かず、どうも彼女に甘え過ぎのように思えるのだが。石化の際に彼女がどれほど心配をしたと思っている」
レオンスも何か言おうと口を開きかけたが、間の悪いことにそこでリーナの声が響いた。
「焼き菓子をお召しあがりになってー!」
レオンスが振り向くのとロランが「よっ!」と袋を背から前に投げ降ろすのが同時だった。勢い余った袋はレオンスに激突。空中を舞う焼き菓子の山、昏倒レオンス、そして、
「あ‥あああ‥」
リーナの力ない悲鳴、そこへ。
「お任せを!」
颯爽と現れた見知らぬ騎士が身につけたマントをさっと広げ、落ちてくる焼き菓子を素早く次々と受け止めた。(もちろん全部ではないが)
「うーん、良い香りだ」
彼はマントごとリーナにそれを渡し、そのまま彼女の手をぎゅっと握り締める。ロランが「うむ?」と目を剥いた。
「有難うございます‥あの‥」
困惑するリーナに青年騎士は笑みを浮かべた。
「ミハイル・ブラトフですリーナ様。父がかつてバーリン様に恩恵賜り、今日は私もお助けにと参上しました。なるほど、聞きしに勝る美しいお嬢様だ」
リーナの頬に軽くキスをする。このミハイルという騎士がミミクリーで姿を変えたヴィタリー・チャイカ(ec5023)であることを知るのは冒険者とリーナ以外の子爵一家のみだ。
「冷たい手だ。あとは私に任せ、貴方はお屋敷に」
「あ、いえ、あの私‥」
リーナは慌ててレオンスに目を向ける。ヴィタリーはそっと顔を寄せた。小声で自分の正体を彼女に伝えるためだ。それがリーナの誤解を生んだ。またキスされるのかと彼女が声をあげたのだ。知らん顔していたレオンスがヴィタリーの肩を背後からむんずと掴む。やばい、と同時に身を強張らせるヴィタリーとエルンスト。
「騎士に職業変えしたのか、ヴィタリー・チャイカ」
「ええ?」
耳元で囁かれ、ヴィタリーは声をあげた。レオンスは空を指差す。その指の先を見てロランが「お、同族」と漏らす。
「ルームを連れている方は私の記憶では貴方だけだ。先日は世話になった」
レオンスはそう言い、リーナの腕から焼き菓子をひとつ取ると「頂きます」と言って立ち去った。
「うわ〜?」
がっくりとうずくまってしまったヴィタリーの肩をエルンストとロランが慰めるようにぽんぽんと叩いた。
村は予定よりも早く復旧していた。村人達が急いで新年のための料理作りを始める。屋敷で下ごしらえしたものをガブリルが持って来たのと、森の村の準備が済んだからとヴィーザとルゥダもこちらの手伝いに来たため、更に作業が速くなる。
「リーナさん、薪が少し足らへんみたい。レオンスさんに頼んでよ」
ヴィーザが忙しそうな「フリ」をしてリーナに言う。「はい」とリーナが駆け出したのを見て、ヴィーザは双海に片目をつぶってみせる。双海は親指を立てて応えた。
シャルロットが村の中央に大きな焚き火を作ろうと提案した。リーナは嬉々として「焚き火を作るのを手伝って」とレオンスに言いに行くだろう。
「結婚式にあたしも行っていいのかな」
ヴィーザが小声でシャルロットに囁く。
「構わんだろう。私もあやつらの結婚式を見たらやっと肩の荷が降りる。その後は旅にでも出ようかね」
「‥旅に? 遠くに行くの?」
ヴィーザが目を丸くした。
「行く先はまだ決めてないが‥。一緒に行くか?」
無言でじっとこちらを見つめたままのヴィーザの頬をシャルロットは笑って軽く叩く。
「そんなに真剣に考えるな。まあ、その気になったら護衛をしてくれ」
「‥うん」
そう答えながらもヴィーザは視線を地面に落として何やら考え込んだ。
レオンスにあっけなく変装を見破られたヴィタリーは立ち直ってエルンストと料理の手伝いをする。
「ちょっと聞いていいか?」
薪を足しに来た兵をヴィタリーは呼び止めた。
「レオンスは昔何かあったのか?」
兵は「ああ」というように頷く。
「ボウネル指揮官は隊の一人を見殺しにした、という噂がありまして‥。それが指揮官の養父であるロジオン様のご子息だったのです。直後に村人が殺害され、それも目撃者の証言でボウネル指揮官だと嫌疑がかかり、一年前まで牢に入っていたのです。その後、遺跡探査の命で釈放されました。でももう今では誰もそのことは」
「じゃあ、別にリーナを遠ざける意味はないよな‥。ロジオン殿も別に恨みに思っていないんだろう?」
「ええ、もちろん。ただ、指揮官は助けられなかったという自責の念をずっとお持ちのようです」
「それが返事を書かない理由か‥?」
エルンストが呟く。兵は首を振った。
「そうではないでしょう。元々指揮官は文字を一切書きません。私達も指揮官の文字を一度も見たことがないのです」
一礼して兵が去ったあと、エルンストは呟いた。
「実はものすごく字が汚いからだったり」
「あり得るかも‥」
思わず納得したヴィタリーなのだった。
美味しそうな匂いがたちこめた。シャルロットが大きな薪の山に火を入れる。一斉に歓声があがった。
「一刃は?」
ヴィタリーが顔を巡らせる。少し前から双海の姿が見えない。しばらくして戻ってきた双海は冒険者と精霊達を呼んで何やら耳打ちする。村の外を探索し、作戦を練ってきたらしい。
「ヴィタリー、頼むぞ」
双海の言葉にヴィタリーは頷いた。ロランがさりげなくリーナに近づく。
「リーナ姫、赤い木の実を取りに行こう」
リーナが怪訝な顔をしてロランを見る。
「精霊の間では有名であるぞ。恋が叶う実なのだ」
リーナは顔を赤くしたが、でも、と言い澱む。すかさずヴィタリーが口を挟む。
「じゃあ、俺が護衛に」
それを聞いたのか、レオンスがちらりとこちらを見たが何も言わなかった。2人は急いでリーナを連れ出す。
しばらくして、真っ青な顔をしたヴィタリーが駆け戻って来る。レオンスに緊張が走る。
「デビルが出た。今、ロランが応戦している。俺達も行くから加勢を頼む! ここで大騒ぎしては村人を動揺させる。先に貴方が!」
言葉が終わる前にレオンスは駆け出していた。ヴィタリーは仲間を呼びに走るようなフリをしてその後ろ姿を見送る。
「さすがヴィタリー、名演技」
双海が笑みを浮かべる。
「5分くらいしてから行くかね」
シャルロットがのんびりした口調で言う。そして懐に酒瓶を一本入れてにやりと笑う。
「冷えるしな」
森の木々を背後に景色をひとり眺めているリーナを見た時、レオンスはやられた、と思った。近づいてリーナの腕を掴む。
「帰りましょう」
「待って」
リーナの手が拒むようにレオンスの手にかかる。冷たい手だ。
「凍えるぞ」
「大丈夫、レオンス様の手、温かいもの」
それを聞いてレオンスは慌てて手を離した。その頃には少し離れた茂みに全員が揃っている。リーナは遠くの景色に微かに潤んだ目を移す。昨晩の荒れた天候が嘘のようだ。真っ白な世界に満天の星空。レオンスは諦めたように黙って彼女の視線の先を追う。
「皆さん、お優しいです‥」
ぽつりと呟く彼女の声に、確かに、とレオンスも小さく頷く。
「エルンスト殿に叱られました。貴方に甘え過ぎだと。私もそう思う」
そんなこと、とリーナが目を向ける。
「私のほうこそ手紙を‥」
「それは違う」
「‥文字‥お書きにならないのでしょう?」
リーナは控えめに尋ねる。レオンスが少し驚いた表情になるとリーナはにっこり笑った。
「何となく‥そう感じていました。でも、書けないわけではないですよね?」
「解読するのに3日はかかるでしょうね」
うわ、エルンストの読みが当たった、とヴィタリーがエルンストの背をばんばん叩く。
『しぃぃっ!』
シャルロットに怒られた。
しばらく沈黙が続く。冷えてヴィタリーがくしゃみをしかけ、「えぐっ!」と慌てて押さえ込む。シャルロットが酒瓶を取り出し、こっそり酒盛りが始まった。
『静かにしろよ』
双海が釘を刺す。そういえばガブリルがいないな、と思うが、呼んで来る時間がない。
「リーナ殿」
レオンスがふいに口を開く。
「貴方には病に伏せる母君がおありだ。‥私は主君に数え切れない恩がある‥」
次の言葉が見つけられず黙り込むレオンスの代わりにリーナが口を開く。
「そのことが障害なら、私は手紙を書いてはおりません」
しかし、と口を開きかけるとリーナの人差し指が何も言うなと彼の口を押さえる。
「‥レオンス様、私は子爵の娘です。父が何も調べないとお思いですか」
凍えた指先だった。レオンスは思わずその手を握り締めていた。
「いろいろ知って更に貴方が好きになりました。それでも貴方の言葉が欲しいと我侭を考えてしまうの」
お互いの吐息が頬にかかる。ついに来た‥! 皆が食い入るように2人を見守る。
『シャルロット、鼻息が荒い!』
と、双海。
『私ではない! エルンストだ』
『バカを言うな! ロランとミカヤだっ!』
『息止めてろっ』
これはヴィタリー。
カッポ カッポ カッポ‥
ふいにギャラリーの前に馬が現れる。ケルピーのニヴィーだ。その背にルゥダ。
『どけ! どっから沸いて出たっ!』
全員がいきり立つ。
『子供が見てはいけません』
ルゥダのテレパシーが届く。子供なんかどこにいる! 振り向くとサクが食い入るようにレオンスとリーナを見つめていた。
『おまえかっ! いつの間にっ!』
双海がサクを掴む。
『やだ、僕も』
『雛あられやるから帰れ!』
『雛あられー!』
わさわさしていてレオンスが気づかないはずがない。ああっ、と思った時には青筋をたてたレオンスがコムニオンを引き抜いて振り向いていた。
「やかましいっ!」
「わーっ! ブラックホーリーなんか出すな‥いてーっ!」
なんですこーし痛かったのだろう?
その時、遠くで教会の鐘の音が聞こえた。新年だ。
「リーナ」
レオンスが言う。はい? と返事をしようとして、リーナは今まで彼が自分を呼び捨てにしたことなどなかったことに気づく。びっくりした表情のまま力強い腕の中へ。
「ブルメルに、貴方を連れて行きます」
返事をする前に素早く頬を滑る彼の吐息に口を塞がれてしまう。ヴィーザが慌ててサクを村へ連れ帰った。
「ミカヤ、行け」
ヴィタリーが言う。ミカヤが空に飛び、ロランもそれに続いた。空一杯のファンタズム。そして教会の鐘の音。
ルゥダが歌を歌いだす。
昼間のように明るくなった中でふたりの熱いキスはまだ続いていた。
「酒、まだあるか」
双海が瓶を覗き込む。
「ないよ。全部飲んでしまった。すごい急ピッチ」
ヴィタリーが答える。双海が持ってきた菓子と鏡餅もあっという間になくなった。周囲は今にでも結婚式になりそうな勢いである。年が明けたと同時に領主の娘と自分の指揮官が結ばれることが決定したのだから、こりゃめでたい状態。
「で、ふたりはどこへ」
シャルロットが顔を巡らせる。
「子爵邸だ。挨拶だろう。お父さん、娘さんをください、とか」
と、エルンスト。
「酒、探そう」
双海がふらふらと立ち上がった。
「ううむ、男ばかりでつまらんのう」
シャルロットの声にヴィーザがついとやってきた。
「お酌しますわ」
「酒がない」
シャルロットは苦笑する。じゃあ、とヴィーザがふいにシャルロットにキスをした。そこにいた全員が「あ!」と叫ぶ。豆鉄砲を食らったような顔をしているシャルロットにヴィーザは真顔で言った。
「シャルロット、旅に誘ってくれて有難う。でもね、私はここにいる。サクとエルフの村を守りたい。ごめんね」
「そんなことかね、なあに、構わんさ」
シャルロットは笑った。めずらしくリオートが暴れないな、と思いつつ。ヴィーザは3人にも軽くキスをして、恥ずかしそうに「有難う」と言った。
「ヴィーザ、私にも!」
ロランがめざとく見つけてやってくる。そしてあっけなく殴り飛ばされた。
日が昇る。
神々しいほど美しく。
「皆様の未来に光が溢れていますように」
リーナが膝を折り、レオンスが最敬礼で冒険者達を見送る。
冒険者達はバーリン子爵に幸せのお裾分けとしてお祝儀を手渡された。
大ハッスルするブルメル伯爵夫人が想像できる。結婚式は盛大なものになるだろう。
「仲良くやれよ」
そう言うと、レオンスが初めて顔一杯の笑顔をみせた。
A Happy New Year!